●ただ、前へと 彼らは“英雄”になるはずだった。 祖国の勝利のために自らの命を捧げた、不退転の戦士たちとして。 彼らに“恐怖”は無い。“痛み”すら無い。 剣も、銃も。彼らの進軍を阻むことなど、出来はしない。 命尽きる時まで彼らは歩み――眼前の“敵”もろとも、その身を散らせる。 そのために彼らは選ばれ、そして、全てを捧げさせられた。 自らの命も、魂も。 彼らはただ、真っ直ぐに進む。“敵”を求めて進む。 その進路に、次元の裂け目がぽっかりと口を開けていたとしても。 後戻りはもう――許されないのだ。 ●四十九体の“爆弾” 「今回の任務はアザーバイドの撃破だ。ディメンションホールの位置は確認済みだが、状況的に元の世界に帰ってもらうことは不可能に近い」 よって、最初から全滅させる気であたってほしい――と、『どうしようもない男』奥地 数史(nBNE000224)は緊張した面持ちでリベリスタ達へと告げた。 「アザーバイドはしめて四十九人。外見はこっちの人間とあまり変わりはない。全員揃いの服を着てて、雰囲気としては兵隊に近いかな」 そこまで言うと、数史は一度言葉を区切り、「元の世界への送還が不可能と思われる、その理由だが」と声を低めた。 「彼らは全員、体の中に爆弾を埋めこまれている。ひたすら突撃して、敵もろとも自爆するのが、このアザーバイド達の任務ってわけだ。そして――そのために、恐怖や痛みを感じることがないよう、強力な暗示をかけられてる」 その最中にディメンションホールを通ってボトム・チャンネルに辿り着いたが、彼らは別の世界に来てしまったことすら気付かず、行軍を続けている。このままでは、いずれ被害が出るだろう。 「今から向かえば、ギリギリ山の中で迎え撃つことができる。といっても、100メートルほどしか猶予はない。対応が遅れたり、突破を許したりすれば、彼らは道路に出てしまう」 ただし、アザーバイド達は『敵が立っている』限り、それを無視して先に進むことはない。リベリスタ達が全滅しない限りは、突破される危険はないということだ。 「――とはいえ、とにかく頭数が多い。前衛だけでブロックできる数でもないから、後衛にいても決して安全とは言えないだろう。囲まれて一斉に自爆されたら、かなり厳しいことになる」 そのあたりも考えて作戦を立ててほしい、と数史は言う。 「現場は霧が深くて見通しがかなり悪くなってる。厄介な任務になるが、どうか気をつけて行ってきてくれ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:宮橋輝 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2012年03月04日(日)23:13 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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●覚悟の熱 急いで辿り着いた現場は、白い霧に包まれていた。 こちらに向けて侵攻する四十九人のアザーバイドの姿は、深い霧に遮られて、はっきりとは見えない。 しかし、次第に近付いてくる整然とした足音が、リベリスタ達の緊張を煽った。 接敵までに使える時間は、ほんの僅か。 符術により式神“影人”を生み出した『陰陽狂』宵咲 瑠琵(BNE000129)が、赤い目を細めて霧の向こうに見える敵を眺める。逢乃 雫(BNE002602)、『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)が身体能力のギアを上げて反応速度を高め、浅倉 貴志(BNE002656)が、流れる水の如き構えを取って戦いに備えた。 『子煩悩パパ』高木・京一(BNE003179)が仲間達に翼の加護を与えていく中、『ミックス』ユウ・バスタード(BNE003137)が自前の翼で上空へと舞う。射手としての感覚を研ぎ澄ませながら、彼女は眼下に迫り来る敵の姿を見た。 死を恐れず、痛みも感じず。ただ、敵を道連れに自爆することのみを定められた四十九人の兵士たち――。 「うー、たまにはこゆのもいいかと思ったんですけどねえ。思ってた以上にアウェイな状況だったみたいです」 己の認識の甘さを内心で恥じつつ、ユウは改造小銃“Missionary&Doggy”を両手で構える。 かくなる上は、自らの本分を全うするのみ。 『三つ目のピクシー』赤翅 明(BNE003483)と『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)が敵を惑わす闇の衣を纏う傍らで、『猛る熱風』土器 朋彦(BNE002029)が、己の前方に広がる霧の中に魔炎を召喚した。 燃え盛る炎が、一瞬、視界を紅く染め上げる。 彼は、己の腹に抱えた焙煎機を唸らせると、身体の芯に熱を灯して高らかに叫んだ。 「俺は貴様らの進軍を止める者! 通りたければ、この灯火を目指し打ち掛かれ!」 言葉は通じなくとも、気迫は通じるはず。 何よりも、朋彦が己が身に宿した熱が、彼らに“敵”の存在を教えている。 リベリスタ達に狙いを定め、距離を詰めてくる四十九人の兵士たち。 それを迎え撃つべく、『境界最終防衛機構-Borderline-』の名の下に集った三人の戦士が、それぞれの武器を構えた。 「大切な人、護るべき人の為に、ここからは一歩も通さねぇ。――俺たちが居る限り、境界線は破れない!」 『花護竜』ジース・ホワイト(BNE002417)のオーラが彼の全身を駆け巡って迸り、その熱を最高値まで引き上げる。 付け爪型の“幻想纏い”から淡く光る手甲を展開した蘭堂・かるた(BNE001675)が彼の言葉に頷き、自らを集中領域に導いた『イージスの盾』ラインハルト・フォン・クリストフ(BNE001635)が、白のケルト十字と黒の逆十字を表面にあしらった“無神論者の大盾(Faithless Aesis)”を構え、決意の声を放った。 「私は盾。この世界の最終防衛機構。ここから先は一歩たりと通しません。 ――この身に運命が宿る限り、境界線は破れない!」 ●其の身を散らせ 「ライン! かるた! 行くぜ!!」 ジースの号令で、『境界最終防衛機構』の白い制服に身を包んだ三人が前線に駆ける。 父の形見たる、満開の桜が描かれた瀟洒なマントを風に靡かせながら、ラインハルトが決然と敵を見据えた。 「英霊となるべく命を賭す身で、心を消すなど愚の骨頂。英雄とは、即ち覚悟の名でありますれば」 彼我の距離は約20メートル、近接して攻撃を行うにはまだ遠い。 敵の数が多く、自爆を仕掛けてくる以上は、迂闊に突出するのは危険すぎる。 前進したリベリスタ達は周囲の木々を利用し、多くの敵を食い止められる位置を確保しながら防衛線を築いていった。 仲間達をいつでもフォローできるよう配置につきながら、朋彦が活性化させた魔力を激しく循環させていく。 京一が印を結び、仲間達の周囲に防御結界を展開させた。 「四十九人のアザーバイドですか。一体どういう理由か分かりませんが、撃退するしかありませんね」 ディメンションホールは彼らの背後にあり、送還は難しい。 リベリスタ達がここで退けば、彼らは林を抜けて道路に出てしまうだろう。一般人の犠牲は、なんとしても防がねばならない。 「特攻兵器に仕立て上げられたアザーバイド、か――」 式を打ち、小鬼に自らの身を守らせる瑠琵が、わずかに眉を寄せて口を開く。 「どの世界にも、イカれた上層部ってのは居るものじゃが……その本懐も遂げられず、反省すべき歴史も遺せぬとは、ちと気に入らぬ」 そう言って、彼女は先に召喚した“影人”に前進を命じた。 視界は濃い霧に覆われていたが、黙々とこちらに迫る兵士たちの瞳は、まだ赤い光を帯びていないように見える。 つまり――攻撃を反射する不可視のオーラに包まれていない今が、攻撃のチャンスということだ。 雫は素早く木を駆け上がり、そこを足場にしてチャクラムを投擲する。 彼女にとって、今回の敵は非常にやりにくい相手ではあったが――。 「指令ならば、完遂するのみです」 その声も、表情も。心の揺らぎを感じさせるものは、何もなかった。 貴志の斬風脚が、雫のチャクラムの後を追うようにして兵士の一人を斬り付ける。翼を羽ばたかせて空中を舞うユウが、“Missionary&Doggy”の銃口を地上へと向けた。 彼女の本分とは『撃つ』こと。 「――手段こそ違えど、相対する『彼ら』のそれにだって負けませんよ」 熱を感知する能力を持たない彼女の目には、兵士たちの姿は霧に遮られておぼろげにしか見えない。加えて、上空からの攻撃は命中精度が大幅に落ちる。しかし――ユウの技量は、その極めて不利な条件下での射撃を可能にした。 雨のように降り注ぐ光弾が、次々に兵士たちを撃ち抜いてゆく。 自らの生命力を糧に生み出した暗黒の瘴気を兵士たちに放ちながら、明が熱源を知覚する能力をもって彼らを注視した。彼女の視線の先で、彼らの瞳が一斉に赤い光を帯びる。どうやら、彼らを包むオーラそのものに熱は存在しないようだが、瞳を見れば、霧の中でも見間違えることはないだろう。 赤き瞳の兵士たちが、さらに前進する。 突出しないように細心の注意を払いながら、前衛達が彼らの第一陣に接敵した。 舞姫が流れるような連続攻撃で一人を麻痺に追い込み、貴志が冷気を纏った拳でもう一人の全身を凍りつかせる。 攻撃を反射するオーラがある以上、迂闊に攻撃を仕掛ければ手痛い反撃を受けてしまう。ここは手堅く動きを封じた方が、結果として味方の損害を減らせるはずだ。 「随分と危険なアザーバイドたちですね……しかも数が多い」 視界を埋め尽くす兵士たちを見て、貴志が呟く。 おそらく、彼らの目的はこの世界には無いのだろう。しかし、ここで食い止めなければ人々はおろか、自分達の身すら危なくなる。全力をもって戦い、最善を尽くすのみだった。 木の枝を足場に立つ雫がチャクラムで兵士を狙うも、霧に阻まれて思うように傷を与えられないばかりか、攻撃を反射されて逆にダメージを負ってしまう。じきに、この木の真下にも敵が来ることを考えると、地上で戦った方が効率が良いだろうか。 「どんな事情があろうと、こちらで暴発させる理由にはなりません――境界最終防衛機構の名の下に、阻みます」 敵陣に切り込んだかるたが、重ねた掌打を地に叩き付けた。 吹き上げるように巻き起こった烈風が、攻撃を反射される前に兵士たちの全身を覆うオーラを消し去る。 攻撃の起点にして反撃の抑止力という重責はむしろ誉れ。それを倒れることなく務め切るのが、かるたの役目だ。 瞳から赤い光が失われた兵士たちを目掛けて、朋彦が魔炎を召喚する。 かるたを巻き込まぬように炸裂した炎は、瞬く間に広がって兵士たちを呑み込んだ。 「敵を討つ為、肉弾となって進軍する英雄、か」 そう呟いた朋彦は、直後、自らの言葉に首を振る。……違う。生きていなければ駄目だ。 「英雄叙事詩にはふさわしくなくとも――僕らの戦い方で、勝つよ」 低く通りの良い声が、彼の決意をのせて響く。 暗黒の瘴気で兵士たちを追い撃つ明は、複雑な思いで彼らを見つめていた。 こんな残酷な暗示を、彼らがどんな思いで受け入れたのかは知らない。 それ以外に、選択肢が無かったのかもしれない。 そこまでして命を賭けたのに、本当の敵地から遠く離れた場所で散っていくのは無念だろう――それでも。 「……ごめん。明には、君達が意図しなかっただろう悲劇を回避する事しかできない」 瑠琵が、式神“影人”をもう一体作り出し、前線に向かわせる。 戦鬼烈風陣で防御のオーラを打ち消された兵士に対して、ジースが“Gazania(誇り)”の花言葉を秘めたドイツ式ハルバードを振り抜き、これを斬り伏せた。 「頑張れよ、かるた。お前が居ないと皆の傷が増えていくんだ」 危険な役目を引き受けた仲間に、気遣いの声をかける。 いざという時は自らの手で彼女を癒し、フォローを行うつもりでいた。 「――だから倒れるな! 大丈夫だ、俺が支えてやる!」 ジースの隣では、ラインハルトが一条の雷を放つ。 「不憫だとは思いますが、此処で引導を渡させて貰うのであります!」 霧に視界を遮られる中では、彼女の雷は本来の命中精度を発揮できない。しかし――確実に、ダメージは積み重なっている。 「英雄! 誰だって目指すよね! いいね! 英雄かっこいー」 囃すような声とともに、葬識が暗黒の瘴気を放って兵士たちを包み込んだ。 痛みもなにもない怖くもない、魂が死んでるアザーバイドなんて倒してもおもしろくないけどね――。 リベリスタ達の攻撃により、兵士たちは四人が倒れ、二人が動きを封じられた。 残る四十三人の兵士が、リベリスタ達に向けて死の行軍を続ける。 「――来るぞ!」 感情の篭らない赤い瞳を、爛々と輝かせて。 兵士たちはリベリスタ達に取り付き、迷わず自爆を敢行する。 白い霧の中に、幾つもの爆発音が響き渡り―― 視界は一転して、撒き散らされる血と肉片で赤く染まった。 あちこちで、激しい炎が上がる。 ●護るべきもの 自爆に巻き込まれながらも、前衛たちは全員がそのダメージに耐えた。 比較的、回避力や防御力に優れているメンバーが多かったこともそうだが、突出を避けて布陣したのが幸いしたといえるだろう。 一人に集中していた場合、運が悪ければここで倒されていた可能性もあった。 「二体――多くて三体、かの」 深い霧と爆風の中、“影人”が何体の自爆に耐えられるかを数えていた瑠琵が呟く。 もっとも、これは彼女と能力を同じくする“影人”が、仲間の援護も受けて防御に徹した上での結果。 直撃を受けていれば、一撃で消し飛んでいただろう。 兵士たちは、先に倒された者も含めて既に十五人がその命を散らせていた。 しかし、単純な数としてはまだまだ彼らの方が多い。 彼らは同胞の死にも心動かされることなく、整然とリベリスタ達に歩を進めてくる。 次は空中に逃れているユウを除き、全員が爆発に晒されるだろう。 木から飛び降りた雫が、接近する兵士に向けて距離を詰め、チャクラムを閃かせる。 敵の側面から背後に素早く回り、彼女は踊るようなステップで次々に兵士たちを切り裂いていった。 「或る意味、私と同じですね……」 指令の完遂を第一とし、感情に動かされることのないように訓練を受けた自分。 敵を倒すため、恐怖や痛み、心すらも奪われた兵士たちの姿は、どこか自分自身と重なるものがあった。 次々に迫りくる兵士たちを視界に収めつつ、貴志が赤い瞳の兵士に魔氷拳を繰り出す。 戦いながらも、彼は仲間達の範囲攻撃に巻き込まれることがないよう、慎重に己の位置を定めていた。 (フレンドリーファイアーなんて洒落にならないですからね) その近くで、再び激しい烈風が巻き起こる。 空中に留まって狙いを定めていたユウが、すかさず改造小銃のトリガーを絞った。 同時に放たれた光の弾丸が、瞳から赤い光の消えた兵士のみを的確に撃ち抜く。 己を巻き込むことすら恐れぬ朋彦の魔炎が、彼もろとも兵士たちを呑み込み、その身を焦がしていった。 倒しても倒しても、敵の数は一向に減った気がしない。 「負けんなよ! 俺たちが食い止めねぇと、沢山の命が消えるんだからな!」 輝くオーラを纏ったドイツ式ハルバードを振るいながら、ジースが仲間達を鼓舞する。 赤い瞳の敵を巻き込まぬよう細心の注意を払いつつ、明が暗黒の瘴気で兵士たちを撃った。 瘴気に蝕まれ、無言のままに地に崩れ落ちていく兵士たちを見て、明の大きな瞳が揺れる。 (ねぇ、本当に何も届かないの?) 生きたいって言ってよ。帰りたい場所を思い浮かべて、自我を取り戻してよ。 そうしたら、せめて元の世界に帰れるんだよ――。 叫びたい思いを堪えて、明は彼らを真っ直ぐに見据える。 立て続けに召喚される瑠琵の“影人”が兵士たちを引きつけ、ラインハルトの輝かせる聖なる光が、仲間達を包む炎を払う。京一の響かせる癒しの福音が、仲間達の失われた体力を補い、彼らの背を支えた。 また、一人の兵士が爆ぜる。衝撃をその身に受けたラインハルトは、痛みを堪えて踏み止まった。 「痛――く、なんかないっ! この程度で私は止められたりはしない!」 爆風と炎が渦巻く戦場に、その声はひときわ高く響いた。 「何が……、英雄だ! 巫山戯るなッ!」 舞姫もまた、兵士たちの中で声を張り上げる。 防御に徹して、多くの敵を引きつけようとする彼女の眼前で、一人の兵士がその身を散らせた。 ――運命は……、何故こんなに……、彼らに無慈悲だったんですか……。 千切れた腕が頬を叩き、血が雨のように降り注ぐ。 兵士たちに捕まらぬよう、巧みに彼らの背後に回り込んだ雫が、破滅の黒いオーラで頭部を打った。 自らが呼んだ炎の中心に立つ朋彦が、ジースに向けて叫ぶ。 「――構うな、俺ごと斬れ!」 敵を纏めて倒すには範囲攻撃の方が効率が良い。その方が、仲間達を守れる。 己が身を顧みない彼の言葉には、厳然たる覚悟が込められていた。 「最後まで持ちこたえさせる。欠けちゃいけない。もう、倒れさせるわけにはいかないんだ!」 白い制服を、血と泥で赤黒く染めて。 ジースは、小さな花を守る竜が模されたドイツ式ハルバードを振るった。 「俺たちには護らないといけない人たちが居るんだ! この境界線は越えさせねぇ!!!」 素早い踏み込みから放たれた一撃は、ギリギリで朋彦の脇を掠め、兵士たちを薙ぎ払う。 「Dragon Rush!!!!」 仲間を助ける。大切な人達を護る――それが、彼の決意。 リベリスタ達の奮闘で、兵士たちはその数を十人までに減らされていた。 「まぁ、やるだけやってみるとするかのぅ」 そろそろ頃合と判断した瑠琵が、加護によりもたらされた小さな翼を羽ばたかせて、兵士たちが元来た方向へと回り込む。自らの身を囮にディメンションホールまで誘導する狙いだったが、既に前方のリベリスタ達に狙いを定めている兵士たちの進行方向を変えることは叶わなかった。 元の世界に戻せぬなら、全員が自爆するまで耐え抜くのみだ。 「境界線に退路はなく、けれど私達には仲間が居る!」 神々しい光で戦場を照らすラインハルトが、一歩も退くことなく声を響かせる。 「それは私達の覚悟、それは私達の矜持。一人一人の力は弱いけれど、それでも私達は必ず勝利する!」 爆音と炎を掻い潜り、リベリスタ達は残る兵士たちに畳み掛けた。 貴志の鋭い蹴撃から放たれた真空の刃が傷ついた兵士を斬り伏せ、ユウの改造小銃から放たれた光弾が兵士たちの胸を貫く。最後の一人に向けて、明が暗黒の瘴気を放った。 「明は護りたいものの為に戦ってる。護り切った喜びを抱えて帰る場所がある」 ――だから、君達の姿から目を背けない。 どんなに痛々しくても、悲しくても、君達は明が倒すべき敵だから。 瘴気に蝕まれ、とうとう力尽きた兵士の体が地に崩れ落ちる。 真っ直ぐに向けられた明の瞳が、その死を看取った。 ●英霊が還る 四十九人全ての殲滅を確認。この場における“境界線”を守り抜き、ジースが大きく息を吐く。 兵士たちの亡骸は原形を留めぬものも多かったが、朋彦は出来る限りそれを集め、荼毘に付すことにした。 「……この狼煙を、忘れちゃいけないな」 彼の言葉を聞きながら、雫が天に昇る煙を眺める。ユウが、そっと口を開いた。 「ゴッドスピード、異境の兵隊さん。貴方がたは、間違い無くその務めを果たされました」 せめて苦しみの無いようにと、彼女は祈る。 もし、彼らが次元の穴から元の世界に戻っていたら、どうなっていただろうか。 瑠琵はふと、そんなことを思う。 たかだか数人が特攻したところで戦局は変わらぬだろうし、場合によっては進行方向が祖国に変わったかもしれない。 自らが生み出した業に焼かれて教訓を得る――それもまた一興だったろう。 「……穴、塞がないとね」 兵士たちの火葬を終えた後、明がぽつりと言った。 全員で彼らの来た道を辿り、ラインハルトが次元の穴を塞ぐ。 死んでいった兵士たちが、自ら志願して死地に赴いたかどうかはわからない。 もう二度と、同じ事が起こらないようにと強く願いながら。 貴志は静かに目を閉じ、彼らの冥福を祈った。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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