●無気力と象徴のロマン 発見した。 発見した。 歓喜に揺れる心、鈍器に潰される音。 その日、自分は何もかもを超越したことを悟った。 嗚呼、これが神の領域だ。私は神になったのだ。 白濁の液体を嚥下し、今一度その御業を確信する。 完璧だ。パーフェクトだ。 大事なことを洋語で繰り返し、自分の天性に震えてのたうつ。 笑いもこみ上げよう。 これから忙しくなると言い聞かせ、それでも今この瞬間の喜びに転がり回る。 ここまでは夢幻だ。この先は無限だ。 立ち上がり、レシピをまとめる。これが誰ものためになると信じて。 それは幸せを独り占めすることなく、世界に広めようとした。広めようとしてしまった。 それが今回の始まり。喜劇が喜劇のまま終わった、誰一人悲しまないはずの物語。 ●憧れと夢のエゴイズム 「第一回。チキチキ、牛乳早飲み大会~」 感情の機微など欠片も感じられない声音で、今日も予言の幼女はリベリスタ達に投げかけた。 「じゃん」 兎を抱いていない側の手で突き出される一枚のチラシ。そこには少女の第一声と全く同じタイトルがでかでかと掲げられ、目立つ色彩でこうあった。 『男女問わず、参加者募集! 優勝者には巨乳になる牛乳一年分! 提供:冥時牛乳』 いちねんぶん。いちねんぶんときた。 あまりにも馬鹿馬鹿しい文言だが、この少女が出したとなればただごとではあるまい。この開催者がフィクサードなのか、このお祭りごとにエリューションでも現れるのか、はたまた、 「この牛乳、本物なの」 虚しくも対象がアーティファクトであるのか。 幼いフォーチュナ曰く。 その牛乳を飲んだ者が心の中で真に望むバストサイズになるのだとか。効力は24時間。一日の夢。翌日には風船のようにしぼんで元の大きさへと覚めていく。 馬鹿らしい。あまりにも馬鹿らしい。 それでも、それはアーティファクトなのである。 覚醒した能力者を8人集め、命を賭して奪取すべき魔力の宝石なのである。きっと恐ろしい副作用にまみれ、一刻の願望に身を落とす哀れなやつばらを、ぐるりぐるりと地の底へたたき落としてしまうものに違いない。いや、そうであってくれ。 固唾を飲んで見守るリベリスタ達に向かい、少女は口を開く。 重々しく、厳かに。移ろうように、伸し掛るように、握りつぶすように。 「欲しい」 その日、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は真顔でわがままを言いやがった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:yakigote | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年05月12日(木)23:28 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●アンバランスとボトムからのフラグメント 「ミラクル! 牛乳! いちねんぶんっ!」 『ミサイルガール』白石 明奈(BNE000717)のテンションは張りに張っていた。巨乳。それは夢である。女の子の憧れであり、そうなるために日夜血の滲むような努力をしているのだ、たぶん。そんな夢が、たった一夜の人に編まれるものであったとして、この手に、否、胸に掴めるのである。飲むだけでばいんばいーんになれるのである。そんなステキな牛乳を頂けるまたとないチャンスと聞いて、気分が上がらない筈がない。心が踊らない筈がない。一度は味わいたいきょぬーの境地! 「べ、別に、仕事できただけ。自分の体型なんて、気にしてないもの。ホントよ?」 やせっぽっちで、生白くて、身体が弱くて。あんまり気に入ってるわけじゃないけれど。女性らしい豊満な胸を、巨乳という世界を経験してみたくないわけではないのだけれど。理想の体型などとちらつかされたとしても、そういうのではないのだ。気にしてなんていないし、これはあくまで仕事なのだ。『敬虔なる学徒』イーゼリット・イシュター(BNE001996)は言い張っている。言い聞かせるように、強く強く言い張っている。 「牛乳ですよ牛乳。謎の白い液体ですよ!」 そこにはでけぇモルがいた。いつもの着物を改め、モルぐるみで仁王立ちする『ドラム缶型偽お嬢』中村 夢乃(BNE001189)である。思うのだ、着物で挑んだとしてどういった事故が起きるのか。こぼしてむせる→身体にかかる→顔にもかかる→身体中白い液体でべとべとになる。どこに向けたサービスだというのだ。というか何その素晴らしい発想。やろうよ、是非。 「飲むと胸が望む大きさになる牛乳……」 何か思うところがあるのか、『A・A・A』アンリエッタ・アン・アナン(BNE001934)は自身の薄い胸をさする。明らかな自己嫌悪、何か嫌な出来事でもあったのだろうか。それでも自分を奮い立たせ、心を仕事へと切り替える。近い未来、コンプレックスを跳ね返す肢体を手に入れた自分を夢想しながら。 「ぎ、牛乳に釣られたわけじゃありませんからね?」 説得力が無ぇ。 「内容はアレでソレだけど、滅多にないイヴちゃんの我侭だっていうなら叶えてあげたいものよね」 そう言う『月光花』イルゼ・ユングフラウ(BNE002261)は、ある意味で、否、当然の意味でこの場に似つかわしくない格好であると言えた。豊かな胸、くびれた腰、平均よりも高い身の丈。妬ましいほどに抜群のスタイルは、牛乳を求める者こそが目指してやまないものだ。そんな彼女がこのアーティファクトを欲しいなんて言ったとしたら…… そっと、仲間達から目を逸らす。嗚呼、周りが怖い、怖い。 「まこはどうせ頑張っても絶対大きくなんないし……」 『ビタースイート ビースト』五十嵐 真独楽(BNE000967)は大きくならない。もちろん、背丈ではなく胸が。パッと見、年端もいかない少女であるため控えめな胸は当然と思えるが、そういうことではない。『彼女』は男の子であるからだ。それでも女の子の心を持つ真独楽にとって、成長しない部分というのはちょっとした悩みではあった。 「小さくなりたいなんて願望もあるの? 胸が大きいとセクシーでカッコイイのに」 全面的に同意する。 「こんなものに頼って胸を大きくしようとするなんて情けない。私は任務としてアーティファクトを回収するだけ。本物かどうか確かめるために飲んでみよーかなとおもってるだけ。そう、これは任務。任務なのよ」 なんかさっきも聞いたなこれ。 「というかね――」 『ぐーたらダメ教師』ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)は続ける。 「謝れ!胸どころか全体的に成長しない私に超謝れ! 胸が小さいくらいなんだって言うのよ! 生徒よりも小さい教師の私に謝れ! 小等部の入学式に連れて行かれそうになった私に謝れ!」 魂の叫び。何人かはその威光にたじろぎ、幾人かは後ろめたさに目を逸らす。嗚呼、合法ロリ。嗚呼、ミニマム教師。 「イヴちゃんの可愛いおねだりを頑張って叶えてあげちゃいましょう」 各々は思いを胸に、会場前で決意表明をしたところで『ソフトM』大石・きなこ(BNE001812)が声をかける。そう、あの小さな預言者の我侭を叶えることが今回の目的で、達成条件なのだ。 町内レベルの大会にしては思いの外大きな会場を見上げ、アーチの前に掲げられた看板を再度確認する。 『第一回! チキチキ、牛乳早飲み大会!! 提供:冥時牛乳』 でかでかしく、ど派手。悪趣味な書体に彩られ、いやでも目を向けられる。 昼間に打ち上げられた色のない花火が、リベリスタ達に向けた凱旋にも聞こえた。 ●キャニバルとシステムへのスニークアタック 「一般人にアーティファクトが渡ると不味いから……」 そう言って強結界を張り巡らせたイルゼの思惑は、大きく外れることになる。 「皆様、ようこそお越しくださいました! どいつこいつも小せぇ胸しやがって! モノを投げるな私もだ! 手前らの望みを叶えてやろうじゃねえか! 第一回! チキチキ、牛乳早飲み大会! 今ここで開催だァアアアアアア!!」 会場の中央で、胸の膨らみが足りない司会者が拳を振り上げる。それに合わせ、湧き上がる怒号、怒号、怒号。 多い。この町のどこにこれだけの人間がいたというのかと思うほどに、人で溢れかえっている。 「よくもよくぞお集まりくれやがったなナイチチ共! お前らの執念は嫌というほどわかった! なんせ――」 息を吸う。無い胸を精一杯にふくらませ、マイクにぶつける。 「7342人もいやがるんだからなァ!!」 怒号、怒号、怒号。 強結界はたしかに発動していた。確かに意志薄弱で、目的意識の小さい者は取り除かれた。しかし、それこそ少数であったのだ。巨乳になりたい。嗚呼、巨乳になりたい。そう思う心が薄弱なはずがなかったのだ。藁にも縋る思いが小さいはずもなかったのだ。 結果、猛者は残る。リベリスタ超若干数8名を加え、大会参加者7342名。1町内規模のレベルとしてありえない人数での戦闘が、血を血で洗う闘争が此処に始まろうとしていた。 ルールを説明しよう。 参加者は各々に配られた100本の牛乳瓶を一斉に飲み始める。先に飲み干した者が優勝。極めて単純な規則であると言える。 そのルールを聞いた参加者たちは、7342人の勇者たちは横一列に並び、配られ積み上げられた牛乳瓶を前に武者震いをしていた。 え、どうやって誰が勝ったか見分けるのかって? こまけぇこたぁいいんだよ。さあ飲ーんで飲んで飲んで飲ーんで飲んで飲んで―― 行間。 いや、すごいたたかいだった。ソラはいきなり自校の生徒を見つけては勝ちを譲らないと赤点にするとか言い出すし、明奈が突然不思議な踊りを繰り出したせいで誰それが噴きだしてMPが激減するし、真独楽が急におっぱい吸ってとか爆弾発言かましてくるし、なんやかんやを見て噴きだした夢乃はモラぐるみ着込んでたからちょっといやかなり残念だったりするし、代わりにわざと白濁まみれになったイルゼがすげぇエロくて極少数の男性諸君の目を釘付けにしたし、イーゼリットがわざとよろけて隣にぶつかったもんだから横数百名人間ドミノになったし、アンリエッタが大会中にナイフ取り出して警備員にどっか連れて行かれたし、きなこがこぼしてもいい服装=白スクとかさっきのと真逆でセクシーアピールに突っ走ったり。それはもう、すごい戦いだった。 いや、書きたかった! 本当に書きたかった! 一部のエロい構図とかエロい構図とか書き連ねて行きたかった! それはもう魂の奮うままに書いて書いて書いて――― 鈍器に潰される音。 ●ジーニアスとラジカセに続くファーストコンタクト 乾杯。 中ジョッキになみなみ注がれた白濁液を揺らし、リベリスタ達は杯を重ねた。 勝利。そう、勝利である。リベリスタ達はその悪質げふんげふん勇猛な知恵と心で見事早飲み大会を優勝してのけたのだ。 優勝=栄誉? NO。優勝=巨乳。 よって、小気味いい音を鳴らして陽の光を弾くそのグラスには例のアレが小さな海に揺られているのだ。そうだ、これがアーティファクトだ。巨乳になる魔法の薬だ。いざ、夢の24時間へ。ようこそこの世のシンデレラ。 一気飲み。 明奈はジョッキの中身を迷うことなく喉の奥へと流しこむ。牛乳瓶百本分の限界に挑戦し、たぽんたぽんになった腹の中などなんのその。夢は別腹なのだ。 ごくり、ごくり。効能はすぐに訪れた。 膨らむ、膨らんでいく。胸が大きくなっていく。すぐにブレザーがきつくなり、どこに出しても恥ずかしくない魅惑の巨乳少女へと変貌を遂げた。 制服姿から覗く、健康的な肌の色、活発な印象。唇の端から垂れた一筋の乳白色が小麦色の首筋を伝っていく。艶めかしい、とても艶めかしい。衣服に抑えつけられ苦しくなった胸に手を当てる。嗚呼、馬鹿な男共の視線が釘付けになっている。敗者に落ちた有象無象のペチャパイ共が憎しみの火花を向けている。今はそのどちらもなんと気分のいいことか。 顔がにやけていくのを止められない。この重量感、この圧迫感を忘れない。忘れてなるものか。何れは自分の力で掴みとるのだ。絶対に諦めなどしない。思わず拳を握りしめた。ガッツポーズ。 「あれ……この牛乳壊れてない!?」 どちらかというと牛乳は壊す方、主に腹を。それはいいとして、真独楽は一向に変わらない己の胸をぺちぺちと叩いていた。 確かに、小さいというか生命的な問題で皆無な胸は一切の膨らみを見せていない。見た目は女、性別は男の異色未来少年だからだろうか。否、このアーティファクトの本懐は真に望むバストサイズの体現である。男でも麗しの果実が実り、女でもターミネーターのような胸筋が迸る。つまりは『真に望むバストサイズ』であることが問題なのだ。本当に心の底から巨乳を望んでいなければ、変化は訪れない。今で満足してしまっているのなら、変化は現れてなどくれないのだ。残念、実に。 胸がこう、ぼんっと出たりしたら。 思うだけで涎が流れ落ちる。拭うことで、もうなんか色々と汚れたきぐるみがさらにべたべたになっていく。 「今のこう、すとーん、すとーん、すとーん。ってこの体型とSAYONARA☆できれば最高じゃないですかっ!!」 夢乃はがぶがぶと、じゃばじゃばと牛乳を飲んでいく。モルぐるみが白く染まっていくのなんて最早気にもならない。がぶがぶがぶと、じゃばじゃばじゃばと。 嗚呼、大きくなっていく、モルぐるみで見えないけど。嗚呼、大きくなっていく、モルぐるみで見えないけど! 「さようなら今日までのあたし! こんにちは新しいあたし!! びば! きょにゅー!!」 落ち着け。 「やっぱり胸は大きさだけじゃなくて形や張り具合や弾力も大切ですからねっ」 そこに贅沢者がいた。 牛乳を飲んだとしても、きなこのそれはこれ以上大きくならない。ただ、見た目だけが変わっていく。より完璧に、よりパーフェクトに。大会からこっち着っぱなしの白いスクール水着が、さらにセクシャルさを際立たせる。男は思う、何故水着でもエロいからいいか。女は思う、何故水着そういや大きさは元からなのよね嗚呼妬ましい。 そう、妬ましい。大きく実ったふたつが妬ましい。これぐらいあれば、人生変わるだろうか。これぐらいあれば、貧乳になど悩まなくてもすむのだろうか。 アンリエッタは白い液体を嚥下する。イメージはきなこのそれ。目の前にあるから、想像しやすい、分かりやすい。 みるみる、みるみると胸が大きくなっていく。乳房が膨らんでいく。ただ、ひとつ弊害があった。見る側には嬉しい誤算が。アンリエッタの服装はとてもぴったりとしている。元の身体にフィットしていたそれは、今や膨らむ胸に引き伸ばされてぴちぴちになっていた。布の伸縮性はけして大きくはない。最早張り裂けそうになっている黒服を、それでも意に介さず胸は大きくなり、大きくなり、大きくなり、割愛。 「冷静になってよく考えてみたら、こんなものに頼るのはバカらしいわね」 ソラは牛乳を飲むことを拒否した。過ぎたる胸なんて分不相応、こんな身長でバストだけ大きくなっても仕方が無いのだ。それに、24時間の夢の先、効力が切れて元の身体に戻ったときの虚しさを思えば、これに手を出さないという選択が賢いものに思えてくる。 なに、わいわいと皆で楽しめた。それだけで十分なのだ。後悔など、していないのだ。してないよ、うん。してないったら。 「そうね、それに……とてももう飲めないわ」 イーゼリットは自分の腹をなでる。なにせ、もう瓶100本近い牛乳を腹に収めているのだ。元より華奢な彼女にとって、それだけでも限界を越えている。気持ちはもう、依頼の完遂へと向いていた。 「イヴちゃんは、あれで似合いと思うのだけれど、ね」 リベリスタ達ががぶ飲みしても一向に減る気配のない量の牛乳を纏め、そろそろとイルゼは帰り支度を始める。 夢は味わえただろうか。さて、勝者の帰宅である。 ●オーソドックスとエントランスのコールドスナップ アーク本部にて。 あれから数日、機関内にて横から見たら元祖落ちゲーの困ったときにきてくれたら嬉しい万能な奴みたいなシルエットの幼女がスキップで徘徊したり、巨乳詐欺に騙されて泣き寝入りした男が何人も出たりと奇妙な出来事があったものの。ある時を境に綺麗サッパリ発生しなくなっていた。 ここは、本部内食堂巨大冷蔵庫前。そこにはオーアールゼットなポーズで泣き崩れている幼女がいた。 夢は儚く、人に溶けては消えていく。 山のような牛乳を見たとき、嬉しかった。年齢に相応しくないバストを手に入れ、天にも昇る気持ちだった。毎日毎日効果が切れては牛乳を飲み、幸せを噛み締めた。だから、忘れていたのである。 牛乳は、長持ちしない。 ぶっちゃけ、賞味期限が切れたのだ。切れたら効力も消えたのだ。 崩れ落ちた身体が持ち上がらない。こうなると分かっていればすぐにでも研究班に回したのに、こうなると分かっていればすぐに保存加工を施したのに。 嗚呼、嗚呼。 声にならない嗚咽。嗚咽。我侭少女の短い幸せは、こうして過ぎ去っていった。 余談。 今回のイベントは噂が噂を呼び、大成功を収める。販売はまだかと質問の電話が冥時牛乳本社に殺到。高額の予算が決定づけられ、低コスト化・商品化に向けてさらなる研究が始まった。 その結果、貧乳に悩むフィクサードやアザーバイドの襲撃にあい、アークも巻き込んだ一大事件に発展するのだが。 それはまた別のお話、よって以下略。それではまた次回。 了。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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