●武闘派のフィクサード 力による制圧が何故好まれないか、と言う議論にはいくつかの答えがある。 たとえば人道的な問題。平和主義からすれば暴力行為は唾棄すべき存在だろう。 たとえば法律的な問題。法を犯すデメリットは言うまでもない。 たとえば人力的な問題。破壊をおこなうエネルギーは、破壊する対象に比例する。 たとえばコストの問題。破壊による制圧はその後の復旧の分だけお金が必要になる。修復費を払わずに利益を得ることができるのなら、それにこしたことはない。 つまり、非人道的な者が法律やエネルギーを気にせず破壊後のコストを考慮しなくていい状況であれば、力による制圧は至極当然の結論になる。 そうたとえば、武闘派のフィクサードなら。 ●剣林 「最終隔壁突破されました! 『達磨』、来ます!」 「もうきちょるわい。あくびがでるわ」 「……『達磨』……! 渡さんぞ! 私の研究と『青い水銀』は剣林には渡さん!」 「ふん。そんなモン、奪う価値もないわい。ワシ等がやってきた意味、教えちゃるわ」 「や、やめろぉ! 私の研究が! 20年かけた私の研究を壊さないでくれ! もう少しで、もう少しで光明が見えるところなんだ!」 「はっ。20年間、人体実験をやっとったわけか。大したもんじゃ」 「どれだけの実験をしてきたと思ってる! これがどんなに緻密で難しい研究だと思ってる! 公僕を口止めするのにいくら使ったと思ってる! くだらない人情や仁義とやらで全てを塵にする気か!」 「塵にすることには変わりないが、一つ間違いを訂正しちゃる」 『達磨』と呼ばれたフィクサードは巨大な槍を幻想纏いから出し、変わらぬ口調で告げる。 「ワシがこの研究所を襲うのは人情や仁義とちゃう。剣林(うえ)の事情もあるが、本音は違う。 金の為じゃ」 そして破壊が始まる。フィクサードたちによる徹底的な破壊が。 そこにいる命を巻き込んで。 ●アーク 「イチハチサンマル。ブリーフィングを開始します」 録音機にスイッチを入れて、資料を開く。『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は集まったリベリスタたちの顔を見ながらこれから起こるであろう神秘の説明を始めた。 「今回皆さんには『まだ救える命』を救ってもらいます」 は? 怪訝な顔をするリベリスタたち。和泉はその疑問に答えるべく端末を操作した。モニターに浮かび上がる地図と、研究所と思われる建物。 「順を追って説明します。遠くない未来、七派フィクサードの一つ『剣林』がある研究所を襲撃します。この研究所は人体実験により人工的に革醒者を生み出そうとする研究をしていました」 リベリスタたちの表情は様々だ。人体実験に怒りを覚えるものもいれば、おのれの境遇に重ねるものもいる。 「剣林は武闘派で知られるフィクサード集団です。その戦闘力は七派の中でも一番と言ってもいいでしょう。研究所の破壊は避けれません。 問題は、彼らの破壊対象の中に人体実験に使用された『サンプル』が含まれていることです」 人体実験に使用された『サンプル』……つまり、それは。 「はい。人間です。年齢10才を超えるか超えないかの子供が20名。それが研究所内にいて、しかも『剣林』はそれを見つけ次第殺すつもりのようです」 「何のために?」 「研究書の存在を痕跡も残さず消す為です。そのためには、実験に使用されたものすべてを破壊する。それが彼らの目的のようです。 その難易度から研究完了の目処は立っておらず、研究所を放置すればさらに犠牲者が生まれたはずです。剣林は対抗組織や何らかの事情から研究所の破壊を請け負ったのでしょう。……未来を見た景色からの推測ですが」 最後、和泉は一言追加した。彼女自身確信はもてないが、そう言い切る根拠はある。そんな口調だ。 「救出は別働隊が行ないます。皆さんは時間を稼いでください」 モニターに映し出される研究室の地図。ARKとかかれた赤い矢印。施設の一室に向かい、そこで子供を回収。そして赤い矢印は二手に別れ、片方が青い矢印とぶつかり合う。矢印は剣林の戦力だ。 「青い矢印は『達磨』と呼ばれるフィクサードを始めとした剣林のフィクサードたちです。五分間時間を稼いでください」 五分。平時ならともかく戦闘においては長い時間だ。ましてや相手は武闘派のフィクサードなのだ。上手く作戦を立てないと、ガス欠で倒れることになる。 「これはエリューションに関係なく、崩界には全く関係ない事例です。フィクサードたちも無実の一般人を攻めているわけではありません。 ただ、救える命がそこにあります」 覚悟を問うように和泉は言う。これはリベリスタとの本業とは違うが、それでもリベリスタにしかできない仕事だ。 アナタの答えは―― ●『達磨』 「本当にあの子達も殺すんですか、『達磨』さん」 「心痛むんやったら、退くか?」 「まさか。でも娘さんの治療費の為とはいえ、ここまでやらなくても――」 「それ以上言うな。ワシ等の世界はそういう世界じゃ」 「……わかりやした。いきましょう」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年03月08日(木)22:55 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「相変わらず、つまらなそうな顔をしているね」 『人間失格』紅涙・りりす(BNE001018)はやってきたフィクサードの顔を見るなり、そう告げた。会うのはこれで二度目。一度目は共闘。二度目は横槍。共にいえるのは、彼が依頼に関して本意でないことだ。 「一度だけ聞く。どけ」 その男――『達磨』と呼ばれたフィクサードは足を止める。『達磨』と一緒にいた四人のフィクサードはリベリスタを見て破界器を取り出した。 「譲れない事情があるんだろうけど、その上でここは通さない」 古びた盾を構え、四条・理央(BNE000319)が立ちふさがる。ここに立つのは自分の意思。アークのリベリスタとして、そしてそれ以上の理由が彼女自身にあった。 「……そうか」 刻んだ皺は深く、苦渋の表情は晴れない。しかしそれでもやめるという選択肢は互いになかった。 研究対象となった子供たちの命をかけて、五分の攻防が始まる。 ● 「お互い護るべきものがあり、そしてこれが仕事ならば致し方なし……」 『影なる刃』黒部 幸成(BNE002032)は静かに黒凶鳥と呼ばれる投擲用の刃を手にする。装束に身を纏い、その表情を心に仮面をつけることで隠す。余計な感情は不要。気で作った糸でフィクサードの一人に迫る。絡みついた糸がギリギリと締め付け、フィクサードの動きを封じた。 「ここは通さぬでござるよ」 「仕事と私情を割り切る。プロに徹するわけですか」 手術用手袋を手に嵌めて『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330)が『達磨』を見る。その事情は『万華鏡』からある程度察している。しかしそれでも態度を崩さない様は見事だ。体内のマナを活性化させ、飛行の加護を与える。これにより若干相手の攻撃を避けやすくなった。とにかく持久戦なのだ。なんでも手を打たないと。 「全力で止める、それだけだ」 体内の気を爆発させ、剣と思しき鉄塊を手にする『紅炎の瞳』 飛鳥 零児(BNE003014)。その心情は、他のリベリスタ同様『達磨』には同情的な部分がある。しかし情に流されて子供たちの方に向かわせるわけにはいかない。ここで止める。それだけだ。 「…………」 無言で『ソリッドガール』アンナ・クロストン(BNE001816)は体内のマナを循環させて戦いに備える。人体実験をする研究者と、それを殺すことで無にするフィクサード。口を開けば激しく罵ってしまいそうになる。まだ感情的になってはいけない。自制し、時計を見た。五分という時間は長い。 「ここは通さないんだからねっ!」 アンナと同じく体内でマナを循環させながら『おじさま好きな少女』アリステア・ショーゼット(BNE000313)が元気よく叫ぶ。ホーリーメイガスが自分も含めて四人いると言う事実に喜ぶ。滅多にない状況だが、手放しで喜んでいられる状況でもない。 「……エリスも……止めます……」 大気の中に存在する微量のマナを取り込みながらエリス・トワイニング(BNE002382)が一歩後ろに引く。『達磨』のもつアーティファクトを警戒してのことだ。この通路にいる限り、あの巨大な槍の範囲内である。足止めすることを任されたのだ。ならばできることを全力で行なうのみ。 剣林のフィクサードはソードミラージュの三人が前に。理央、幸成、零児に近づく。そして速度に劣る『達磨』はりりすに押さえこまれる。 「悪いが、借り二つ目って事にしておいてくれ」 りりすの手にある二対の業物が走る。片方は折れず曲がらずの無銘の刀。もう片方は呪われたジャックナイフ。デュランダルのように全身の筋肉で振るうのではなく、遠心力と速度で切り裂く速度の刃。それを以ってしても、 「借りともおもっちょらん。縁の悪さはいつものことじゃ」 不倒のフィクサード。そう呼ばれた男には大きなダメージを与えることができない。巨大な槍で威力を受け止められる。まるで大きな壁を叩いているような感触。りりすはさすがと心の中で驚愕するが、口に出た言葉はいつもの緩やかな口調だった。 「僕が『理由』を作ってやる。こんなつまらん殺戮しなくてイイように」 『達磨』は黙する。良しとしたか不快と思ったか。その深い皺を刻んだ顔からはわからない。巨大な槍が突き出され、りりすに深い傷と出血を与える。 「いくよ」 『道』の力を解放し、自らの周りに刀を舞わす理央。攻撃の為のものではない。耐え忍ぶ為の盾である。零児の隣に位置取り、何かあれば庇えるように盾を構える。りりすが受けた『鯨銛』からの深い傷と拘束を癒すべく、淡い光を放つ。 「いくでござるよ」 幸成が地をけり、壁を蹴る。壁を足場として刃を振るい、気の糸を用いて相手を拘束する。刃が翻ったと思えば糸が。その糸を交わしたと思えばそこに刃が。それをかわして攻撃しようと思えば幸成は既に壁から降りて床に足をつけて構えている。 速度と奇襲。しかしその動きは何かを隠す為。作戦のキモまで派手に動くように見えて、静かに耐えていた。 「貴方は……金のため……と言っているけれど……本当に……それだけなの?」 ソードミラージュや『達磨』が振るう刃に傷つくリベリスタたち。それを癒しながらエリスが問いかける。 「助けられる……命を……殺さなければ……ならない。でも……自分の……娘を……助けたい」 「…………」 『達磨』はエリスの問いに口を動かさない。ただ視線を返すのみ。 痛いところをつかれて、睨んでいるのではなく。痛いところを突かれて、なおその続きを促すように。エリスの純粋な心。理想を求める清い心。それを静かに見る。 「今回のことは……貴方の部下に……そして……助けた……自分の娘に対しても……誇れる仕事なの?」 「私も問いたい。貴男にも大切なものがあるのですよね? そのために全てを犠牲にするのですか? その子にどう説明するつもりですか?」 かぶせるように凛子も『達磨』に問いかける。動揺を誘いたいわけではない。純粋に問いかけたいのだ。大事なものの為に悪事を重ねるフィクサード。もし大切なものを守れたときそのときどうする気なのか? 「誇りや正義だけで仕事はできん。説明などせん。助けた娘もこんな世界のことなど知る必要もない。 手も足もない達磨にできるのは、ただ七転八倒するだけじゃ」 『達磨』は変わらぬ表情で二人に答える。むしろ剣林の部下の方が何かを噛み締めていた。歯と、そして言葉を。 「まちがってるよっ。好きなことができないなんて! おじさまには立派な手足があるじゃない! なんでそんなこというの!」 叫んでアリステアは魔力の矢を練って討ち放つ。それは後衛にいるプロアデプトに突き刺さった。厚い回復層ゆえに、現在は攻撃の余裕がある。おそらく攻撃できる機会は今ぐらいだ。 「この手では救えんモンがある。この足では逃れ切れん闇がある。 この手足にできるのは、命を奪うことだけじゃ」 「……眩暈がする。 何様だ。神秘の為に人を殺す研究所も。後始末の為だけに子供を殺すフィクサードも」 アンナが怒りの声をはらんで、光を放つ。人を殺さぬ神聖なる光。ただ戦闘力を奪う為に放たれた光。ソードミラージュの一人がその光に目をやいた。冷静に、と自制していたのに抑えきれなくなった怒りが口を突いて出た。 「それが人の業じゃ。怒るか? リベリスタ」 「当たり前よ! どいつもこいつもまともな神経してない。命をなんだと思ってるのよ!」 「その怒り、ワシが受け止めちゃる」 『達磨』は言う。受け止めると。言って真っ直ぐにリベリスタを見る。 非難も、怒りも、全て受け止めるとこのフィクサードは告げた。どの道子供たちを殺しにいくことには変わりない。だから攻撃の手は互いに止まらない。 (今は耐えろ。相手の動きを見るんだ) 零児は剣を盾にして防御の構えを取る――ように見せかけてゆっくりと集中していた。 (前衛の中じゃ一番無名な俺だ。必死で護りに徹して前衛を維持してる雑魚、と舐められるぐらいが都合がいい) 剣林のソードミラージュの攻撃を受けながら、零児は防御のフリをして耐えていた。武器をつかって『達磨』から表情を隠し、心臓の音をタイマーにして、神経を研ぎ澄ます。 「若ぇの。いつ仕掛けるんだ?」 零児は『達磨』の声にぎくり、とした。 「腰の位置。足の体重のかけ方。武器の構え方。顔を隠してもわかるやつにはわかるわぃ。弓ぃ引くように力こめて、なにか狙っちょるな?」 ――看破されてた。 冷静に考えてみれば当然だ。相手は武闘派のフィクサード集団。戦場に立つ相手を、無名というだけで軽視するはずがない。戦場に立つものは等しく戦士として扱い、殲滅する。ましてや歴戦というのなら表情を隠した程度で誤魔化せるはずもない。 「くっ!」 動揺からの復帰は早い。失敗することも頭に入れていた。零児は溜め込んでいた力を解放するように破界器を振り上げ、今まで自分に刃を向けていたフィクサードに振り下ろす。肉体、精神、全てを一体化させて生死を問う。その一撃は、 「……かはっ!」 「三村さん、今癒します!」 死を与えるには一歩足りなかった。体力の八割以上を奪い取るも、一撃で倒すまでにはいたらない。プロアデプトが回復を行なうが、全てを癒しきらない。 「覚えておきな、剣林。これが『紅炎の瞳』の一撃だ」 「ああ、覚えておくぜ。『達磨』さんが看破してなきゃ、やばかった」 リベリスタはの零児やり取りを見て、頭の中を切り替える。集中が看破されてなければ、回復要員のプロアデプトまで一気に切り込み、無効の回復要員を奪っていたはずだった。 しかし、それが為らなかった。動揺はあるが、だからといってやることは変わらない。 ――それぞれが武器を構えなおし、気合を入れなおした。 ● 「『達磨』さん、本気出しますよ! これ以上時間かけてられないです」 「……仕方ない」 このままではリベリスタを倒しきれない。そう判断したフィクサードたちは力を温存せずに使用し始める。 「来るでござるか」 幸成は突如分身したかのように動くフィクサードを前に刃を構える。右脇、額、そして心臓。コンマ1秒の間に飛んで来る三つの刃。影を分身にして戦ってなければ、まともに食らっていただろう。脇から流れる痛みが否応なしに相手の殺気を伝えてくる。 「ここから先は細かいことは抜きだ!」 零児が気力の続く限り、全力の一撃を放つ。後先は考えない。自分が今もてる全ての剣技をもって攻撃を仕掛ける。相手の回復を上回るだけの火力があれば、いつかは倒せる。 「……ぐあっ!」 その信念が届いたのか、フィクサードは地面に崩れ落ちる。運命を削ろうとするその男を、『達磨』は手で制した。今は寝とけ、と。 りりすは『達磨』を壁にして他フィクサードとの射線を防ぎながら戦っている。真正面から近づいたかと思えば右に流れて一閃を。跳んだかと思うと天井を蹴って床に這い横なぎに。ナイフと太刀の連続攻撃が襲い掛かる。 (『達磨』くんの娘が元気になれば、借りとかなしで遠慮なくやれるんだけどね) そんな奇跡をりりすは願う。こんな勝負では飢えが満ちない。それでも『僕』は戦いをやめない。止まるはずがない。 『達磨』の槍が回転し、凛子とアンナのいる場所に投擲する。鯨を射抜く銛はただその重量と衝撃で二人の癒し手を傷つける。衝撃が動きを封じ、引っ掛けるような形状の槍が癒しがたい傷をつけていく。 「他人を護るというただの自己満足。それを他人は正義という」 凛子は『鯨銛』の攻撃に身構えて急所をガードしていたが、そんなものを吹き飛ばすほどの衝撃だった。人の防御などどうにもならないことはある。そんなことは戦場でいくらでも経験していた。包帯を巻いてとりあえずの傷を塞ぎながら、『達磨』を見る。 「ならば、この戦いに正義があるのはこちらです!」 「当たれ!」 アンナが神光を放つ。人を殺さない慈悲深い光はプロアデプトに衝撃を与えてその動きを鈍らせる。出血がアンナの意識を奪っていくが、倒れるにはまだ早い。 「エリスは……正義とか……わからない……」 エリスは意識を自分の後ろの方にあるようなイメージで戦場全体を見た。誰かを見ているようで誰も見ていない。そんなイメージで、高位存在の力を借りる。物理を伴わない神秘の風。それが吹き去ったあとにはアンナと凛子の出血は止まっていた。 「でも……子供たちが死んでいいなんて……思わない……死人は……蘇らない……」 「そうだよっ! ころしちゃだめだよ!」 アリステアは子供の様に――事実子供なのだが――手を振り回しながら、フィクサードに抗議する。奏でられる歌は癒しの歌。歌声に魔力を乗せて、優しいメロディが傷を塞いでいく。何処まで飛んでいく鳥のように、高く響くソプラノの声。 「絶対みんな怪我なく帰るの! 痛いの治すの頑張るよっ!」 応、と気合を入れるリベリスタたち。フィクサードたちに食らった傷の殆どが後衛の四人によって癒されていった。 「負けてはられません」 理央が古びた盾を構えてフィクサードの攻撃を受け止める。盾も理央自身もフィクサードの攻撃で傷ついてはいるが、厚い回復という絆に支えられて笑みを浮かべる。丹念に術を重ねて練りこんだ符が、プロアデプトのフィクサードの動きを止めた。剣林唯一の回復役を一時的とはいえ封じれば、戦況はの流れは大きく変わるだろう。 リベリスタの構成は回復要員が多い。逆に言えば火力が不足している。ソードミラージュの動きに翻弄され、クロスイージスの厚い防御に癖癖する。それを押し返すだけの力はこのパーティにはない。しかしこのチームの役割は足止め。潤沢な回復をベースに、フィクサードの攻撃を凌ぎながら時を待つ。しかし、 「もう……疲れたよぅ」 アリステアが息を切らして壁に手をつく。回復の為に使う魔力が枯渇しているのだ。待つ五分がこれほど長いとは。大きな回復はもう行なえそうもない。小規模の回復に切り替える。 彼女だけではない。後衛の回復要員は皆、息絶え絶えであった。ダメージを受けながらも戦線を維持するために魔力を絞り、回復の歌を奏で続ける。 「こいつで!」 零児が体内の気を起爆させ、プロアデプトを吹き飛ばす。壁に背中を打ちつけ、動かなくなった。 「起きるか」 「誰も『僕』を止めることはできない」 『達磨』のたたきつけるような一撃を受けて、りりすが地に伏す。運命の加護を受けて立ち上がり、血の混じった唾を吐き出した。潤沢な回復があったとはいえ、武闘派のリーダー相手に単独で挑んで良く持ったといえよう。 「……む」 戦線維持の為に防御に徹していた幸成は、相手のソードミラージュの動きが止まったことを怪訝に思った。同時にリベリスタの幻想纏いにも連絡が入る。 「終わったようじゃのぅ」 『鯨銛』を振るって背中に担ぎ、背を向ける『達磨』。倒れている剣林の部下を起こしていく。隙だらけの背中を襲おうというリベリスタはいなかった。 「私たちの……勝ちのよう……ですね」 エリスが連絡を確認し、フィクサードに向けて勝利を宣告する。 その連絡は別働隊の成功の報。もはや剣林がここで戦う理由はない。幻想纏いに武装を仕舞い、『達磨』の背中を見た。 不倒のフィクサードからの返事はない。だがその背中は、どこか安堵しているようにも感じられた。 ● 「危ういところでしたが、凌ぎきりましたね」 凛子が包帯で怪我人の傷を癒しながら言う。タイミング的には回復が尽きる直前だった。もう少し攻められていたら、瓦解していた可能性もある。応急処置を終え、リベリスタたちは脱出の為、走り出す。 「結果よければ全て良し、でござるよ」 幸成が脱出先を先行して確認する。剣林も早々に撤退したのだろう。脱出時にフィクサードに出会うことはなかった。 「……エリューションなんて、大嫌いだ」 アンナは研究所を走りながら、怒りの篭った声を出す。走り抜ける中で見るのはこの研究所が行なった非道の実験。生命だったものを人為的に弄ったモノ。それを見て、拳を握る。他のリベリスタたちもそれを見て、暗澹な気分になる。 「でも、子供たちは助かったんでしょう? 良かったじゃない!」 アリステアはそんな空気を振り払うように、元気に叫ぶ。 その声につられるように、リベリスタの心は晴れる。そうだ。二十の命を救ったのだ。それを思うと、足取りは軽くなる。 脱出ポイントで待機していた車に乗り込んだ。 三高平まで数時間。その時間はあの五分に比べれば短い時間に感じられた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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