●闇のなか 日がすっかり沈んだ後、彼は人目を避けて動き出した。 かつて彼が暮らしていた土地からは、随分と距離が離れてしまっている。 それでも、自分が行くべき場所は何となく知ることができた。 左手にある大きな川を視界に映し、影を縫うようにして河川敷を歩く。 今夜の場所は、程なくして見つかった。 騒々しく車が行き交う大きな橋――その真下に広がる闇に、彼はそっと身を潜める。 この“橋の下”という場所こそが、彼の唯一絶対の領域だった。 自分がどうしてこの場所に拘るのかを、彼は知らない。正確には、覚えていない。 常に靄がかかった意識の中で、ただ一言、女の声が響く。 ――アンタは橋の下で拾った子なのよ。 自分は橋の下から来た。 ならば、ここにいるのが最も自然なことなのだろう。 影に潜む彼の耳に、こちらに近付いてくる足音が届く。 両手に携えた二本の鋭い刃を、彼は音もなく構えた。 領域を侵そうとする者は、例外なく排除するのみ。 少しして、切り刻まれた男の亡骸が、川を流れていった。 ●影に潜む双刃 「集まったな。それじゃあ、説明を始めるぞ」 『どうしようもない男』奥地 数史(nBNE000224)はそう言うと、リベリスタ達に任務の説明を始めた。 「撃破対象はフェーズ2のノーフェイス。中学生くらいの少年だ」 未だに慣れない様子で端末を操作し、正面のモニターに情報を表示する。 「外見的には、右腕の肘から先が剣になっている他は大きな変化はない。だが、人としての心や感情はほとんど失ってしまっている」 革醒後、ノーフェイスは家族を殺して家を出た。 それ以来、昼間のうちは身を隠し、夜に出てきては人を殺しているらしい。 「このノーフェイスは、夜になるとどこかの“橋の下”に現れる。そして、影に潜んで待ち、そこを通りがかった人間を無差別に殺しては、死体を川に流すといったことを繰り返している」 なぜ、彼が“橋の下”に拘るのかはわからない。 はっきりしているのは、放っておけば犠牲者が増える一方ということだ。 「ノーフェイスは橋の下で影の中に潜んでいる。特別な能力がない限りは、あちらが攻撃してくるまで姿を捉えることができない」 最悪の場合、不意打ちを受けるという可能性もありうる。 「戦いになれば、右腕の剣と、左手に構えたナイフで攻撃してくるだろう。一人だが、とにかく動きが速い。強力な相手だ」 そう言って、数史は手の中のファイルを閉じた。 「俺からは以上だ。――どうか、気をつけて行ってきてくれ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:宮橋輝 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年03月02日(金)23:51 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●上下の境界 闇に己の姿が溶け込む感覚は、彼を妙に落ち着かせた。 “ここ”が、自分の始まりであり、自分の在るべき場所と、彼は信じている。 本当に欲しかったものは、別にあったような気もするが……。 靄のかかった意識は、それを思い出すことを許さない。 ――アンタは橋の下で拾った子なのよ。 彼の脳裏に、また、女の声が響く。 真夜中のこの時間においても、橋の上では車が行き交い、次から次へと通り過ぎていく。 しかし、そこに辿り着いたリベリスタ達の視線は、賑やかな道路ではなく、その下へと向けられていた。 橋の下に広がる、大きな影へと。 河川敷から橋の真下を見た『食堂の看板娘』衛守 凪沙(BNE001545)が、仲間達を振り返って大きく頷いた。ノーフェイスは、間違いなくあの影の中に潜んでいる。体温を持つ生物である限り、熱源を知覚できる彼女から身を隠すことはできない。 凪沙から詳しい状況を聞きながら、『何者でもない』フィネ・ファインベル(BNE003302)が相槌を打つ。 今回の敵は、夜ごと“橋の下”に現れるノーフェイス。今夜、彼がどの橋に現れるかまでは掴めていなかったのだが、フィネが事前に行った調査により、場所の特定が可能になった。 今までノーフェイスが凶行に及んだ場所を調べれば、彼が選ぶ“橋の下”の傾向がわかる。直前に起こった事件の現場から徒歩で移動可能な距離と、ノーフェイスが好む条件を考えれば、双方を満たす“橋の下”は一箇所しかなかった。 周囲を見回す『愛に生きる乙女』御厨・忌避(BNE003590)の横で、ハイディ・アレンス(BNE000603)が、念のため一般人除けの結界を張る。橋の下をじっと眺めていたユーキ・R・ブランド(BNE003416)が、溜め息まじりに呟きを漏らした。 「ああ、なんといいますか……毎度嫌な仕事ですねえ」 それを聞き、『銃火の猟犬』リーゼロット・グランシール(BNE001266)が口を開く。 「……まぁ、よくあるノーフェイスの始末ですね。人らしさが残っていない分まだやりやすいものです」 「どんな経緯でノーフェイスになったにせよ、人を仇なす存在であらば討たねばならない」 迷いのないハイディの言葉は、リベリスタとしては当然のこと。ユーキも、それは理解していたし、己の使命を違えるつもりもなかった。 「仕事は仕事、やらぬわけにはいきませんが。……世知辛いことだ」 彼女が軽く頭を振ると同時に、黒いポニーテールが揺れる。『大人な子供』リィン・インベルグ(BNE003115)が、灰色の大きな瞳で橋の下に広がる闇を眺めた。 「『橋の下で拾った子』――ね。この国では時折ジョークとして使う様だけれど」 今回のターゲットであるノーフェイスの背景に関しては詳細不明。しかし、ある程度推測はできる。 知ったところで、何が変わるわけでもないが。 車が行き交う橋の上と、一転して闇に覆われる橋の下とを見て。『枢』マリア・ナイチンゲイル(BNE000536)がおもむろに口を開いた。 「この国では古来、橋の下と言う場所には魑魅魍魎の類が巣食う、と言われていたそうですね」 普段は見ることのない『裏側』――昔の人々はそれを畏れ、慄き、魔の場所と定めたのだろうか。 「ただの壊し甲斐のある建造物にしか見えないのですがね」 マリアはそう言った後、戦いに向けて己の気を引き締めた。 アークのリベリスタとして、これが彼女の初陣になる。 ●影と光 リベリスタ達は橋の下に広がる影を避け、ノーフェイスの潜む地点を橋の両側から挟むようにして位置についていった。同時に、それぞれが持参した懐中電灯で周囲を照らし、影になる部分を減らす。 影に潜んだまま逃げられては、熱感知の能力を持つ凪沙を除くメンバーが咄嗟に対応できない。懐中電灯で照らせる範囲には限界があるが、少なくとも橋の下から逃げられることだけは防げるだろう。 一斉攻撃に向けて、リベリスタ達が集中を開始する。 他の後衛からやや離れ、川の水面近くで黒い翼を羽ばたかせるフィネは、ノーフェイスが潜んでいるはずの影をじっと眺め、動向を窺っていた。 自分とあまり年齢が変わらないノーフェイスの少年。彼が何故、“橋の下”に拘るかは分からないけれど。 (……ここは、暗くて、寒い) もし、彼が好んで留まっているのでなく、縛られているのだとしたら。ここから、自由にしてあげたい。 小柄な体には些か大きすぎる強弓を構えたリィンが、橋の下に狙いを定める。 リィンの位置は最も後方にあり、目標からは30メートル近く離れていた。通常ならば射程外となる距離だが、彼の弓から放たれる魔弾は、ここからでも的に届く。 (この研ぎ澄まされていく感覚が心地良いね。心を無くした彼は驚いてくれそうに無いけれど) 口元に薄い笑みを浮かべて、リィンはさらに集中を高めた。橋を挟んだ反対側の位置で、バトルスーツ姿のリーゼロットが銃を構えて狙いを定める。 一分、二分と時間が経過する中、橋の下の影は依然として動かない。これだけの人数で囲めば、敵もリベリスタ達に気付いてはいるだろう。しかし、“橋の下”を通る者がいない限り、ノーフェイスが自分から動くことはないと聞いている。誰かが橋の下を通る時に備えて、敵もまた集中を高めている、といった可能性は大いに考えられるが――そのリスクを差し引いても、初手で強力な攻撃を叩き込めるメリットは大きいはずだ。長期戦になれば、リベリスタ達にとって不利になる。 とはいえ、知性のある相手だ。場合によっては、自ら姿を現し、攻撃を仕掛けてくる可能性は捨てきれない。ユーキは警戒を緩めることなく、鋭い視線を橋の下へと向ける。いざという時は、暗闇でも不自由のない彼女の目が役に立つだろう。 失われた愛。かすかに漂う、橋下の母の愛の気配――。 (それは……愛だよ! 愛しかないね!) ぴんと張り詰めた空気の中、集中を高める忌避の胸が高鳴る。 初めての戦闘に対する緊張からではなかった。戦いは怖くない。彼女には、それより大事なことがある。 ノーフェイスの少年に愛を伝えることが、忌避の目的であり願い。 時間にして、およそ350秒。六分近くの集中を終え、リベリスタ達は満を持して動き出した。 「術式(オペレーション)開始します」 マリアの全身が輝き、橋の下を眩い光で照らす。 ノーフェイスが潜む影を消し去る狙いだったが、仲間が持ち寄った懐中電灯と、マリア一人の光では橋の下を照らし出すには足りない。ハイディは車のヘッドライトを使おうと考えたが、生憎と今回は“幻想纏い”に車を収納していなかった。 「――仕方ない。策を変更しよう」 ハイディの声に、凪沙が頷く。影を消すことが出来ないのなら、“橋の下”を通って誘い出すしかない。 集中の時間を与えられていたのは、ノーフェイスも同じこと。凪沙は、敵の攻撃に備えて防御を固めながら、ゆっくりと前に歩き出した。 「橋の下で拾った子か。あたしと似たようなものだね」 養護施設に捨てられた自らの生い立ちを重ね、ぽつりと呟く。 まだ、ノーフェイスは動かない。 凪沙の足が、橋の下に広がる影を踏んだ。 瞬間。闇を脱ぎ捨てるようにして姿を現したノーフェイスが、凪沙に飛びかかる。 熱感知により彼の位置を正確に把握していた彼女をもってしても、反応が間に合わない速さ。 鋼の剣と化したノーフェイスの右腕が、凪沙の胸を貫いた。 過たずに急所を捉えた攻撃は、やはり集中によるものか――考える間もなく、連撃が繰り出される。 「………っ!」 上半身を流れる血に染めながらも、辛うじて踏み止まる凪沙。 しかし、ノーフェイスの攻撃はまだ終わらない。 無数のナイフの幻影が、橋の片側に位置していたハイディとマリア、忌避をも巻き込み、凪沙の背後を襲った。 可能な限り散開を心掛けていたリベリスタ達ではあったが、戦場が河川敷である以上、直径にして20メートルの効果範囲に複数人を含まない配置というのは難しい。逆に考えれば、橋を挟んで布陣したからこそ、被害を半数に抑えることが出来たとも言えるが――。 幻の刃に背中を貫かれた凪沙の体が、ぐらりと傾ぐ。 途切れかけた意識を、彼女は己の運命を燃やして繋ぎとめた。 「あたしは愛情の中で育った。でも、あんたは違ったのかもね」 胸から、背中から、とめどなく血を流しながら。凪沙は、自分より少し年下に見えるノーフェイスを眺める。 世界からも、とうとう愛されることのなかった少年を――。 そこに、忌避の声が響いた。ナイフの幻影に心を削られてなお、彼女の口調に陰りはない。 「こんっにっちはー! お話しましょー!」 ――ノーフェイスだから。人の感情を失っているから。そんなことは関係なかった。 まだ、彼には耳がある。言葉は、そこに込めた愛は、きっと、届くはずだ。 ●自ら閉ざした世界の中で 低空を舞うフィネが、神々しい光を放って仲間達の態勢を立て直す。 領域を侵す者に対して容赦なく剣を突き立てたノーフェイスを見て、彼女は「臆病な子」と口にした。 少年の心の壁は厚く、拒絶の刃は鋭い――けれど。 「貴方の世界は、余りに幼く、狭い」 橋の下という闇の中に蹲って、そこに必死にしがみついて。 「誰かが与えた形に収まって、それが、貴方の全てですか?」 他に何も無いなら、探せば良い。 何者でもなく、何も無かったフィネが、自分で手を伸ばしたように。 ――貴方も、そうして良いんです。 剣の右腕を凪沙の血に染めたノーフェイスは、虚ろな瞳をリベリスタ達に――己の領域を侵す者達に向ける。その鳩尾に、凪沙が渾身の土砕掌を叩き込んだ。 「あたしには今を終わらせることしかできないよ。……ごめんね」 叩き込まれた“気”によって少年が動きを止めた隙に、リーゼロットが銃のトリガーを絞る。 「さて、いつも通りアークの障害を排除するとしましょう」 魔力によって貫通力を高められた銃弾がノーフェイスを撃ち抜き、脇腹に風穴を開けた。 限界まで集中を高めきった攻撃の前には、防御も意味をなさない。 衝撃によろめく、その動きすらも見切って。リィンの強弓から放たれた矢が、少年を貫く。 今のところ、忌避やフィネ、凪沙の呼びかけに少年が反応した気配はない。 人間らしい心や感情が滅しているなら、戯れに言葉を交わす事も叶わないだろうか。 いずれにしても、するべき事はひとつ。 「楽しいね、狩りというものは」 そう言って、リィンは灰色の大きな瞳をわずかに細めた。 ユーキが、ノーフェイスの攻撃力を慎重に見定めながら魔閃光を放つ。この集中砲火で倒れてくれれば良いが、仮にも八人のリベリスタと一人で渡り合おうという相手、そう簡単にはいくまい。 暗黒の衝動を秘めたオーラが、少年を直撃する。続いて、距離を詰めたハイディが黒き光を帯びたガードロッドでノーフェイスを打ち据えようとしたが、彼はこの一撃をかわした。 必ず当たるはずの攻撃が避けられたことで、ハイディの瞳がわずかに見開かれる。 滅多にないことではあるが――絶対命中と絶対回避、この二つがぶつかり合った場合、勝るのは後者だ。 持ち前の冷静さを失うことなく、彼女はノーフェイスの包囲に動く。 続いて、深手を負った凪沙を庇うべく、マリアが駆けた。 敵に次の攻撃があるとしたら、既に運命を燃やした凪沙が耐え切れる可能性は低い。 展開した魔方陣から魔力の矢を放ちながら、忌避が少年に再び声をかける。 「――貴方は橋の下で拾ったのよ」 それは、靄のかかった彼の意識に、ただ一言刻まれた言葉。 輝く矢に胸を貫かれた少年は、喉の奥から低い呻き声を漏らし――忌避の方をはっきりと見た。 麻痺を打ち払った彼は、間に立ち塞がる前衛たちを薙ぎ払うが如く、二本の刃を閃かせる。 右腕の剣が、左手に構えたナイフが、嵐のように前衛たちを切り刻んだ。 続けて繰り出された剣の右腕を己の体で受け止め、傷ついた凪沙を庇いきったマリアの口元から、赤い血が溢れる。 「哀れですね」 力尽きるはずの我が身を、自らの運命で支えて。マリアは一言、そう口にした。 ――人の言葉を鵜呑みにし、呼吸を忘れ、己を殺し、他人を殺す。 そんな少年の姿は抱擁したくなる程に哀れで、ブッ壊したくなる程に愛おしい。 彼がまともに口を利けたなら、「だからなんだ」と言っただろうか。 だとしたら、その通りだ。途方も無く広いこの世界で、個人のことなどそれで済む。 「だからなんだ。捨てられていたからなんだ」 拾われたのなら、それを幸運として居れば良かったのだ。 それが出来なかったからこそ、彼はここに至ったのだろうが――。 フィネが神々しい光を輝かせて麻痺を払い、重傷の身を引きずるように後退した凪沙が斬風脚を放つ。 射手としての感覚を研ぎ澄ませながら、リィンは少年の動向を注意深く見守っていた。 追い詰められたノーフェイスが逃走を試みる可能性は、ゼロとはいえない。 1ドル硬貨さえも捉える精密な射撃で、リーゼロットが少年の左脚を撃ち抜いた。 「影が自分だけの味方だとは思わぬことです」 全身から漆黒の闇を生み、無数無形の武具として纏ったユーキが、少年の前に走る。 遠距離から複数を巻き込む刃の幻影は、現実的に防ぎようがない。 だが、近接攻撃である右腕の剣は、攻撃の間隙を縫ってまだ妨害のしようがあるはずだ。 少年の喉から、くぐもった呻き声が発せられる。 穴の開いた脇腹を始め、全身に負った傷から血を流す彼の姿を見て、防御結界の印を結びかけたハイディの指が止まった。 ノーフェイスの命数は残りわずか。ならば、支援より攻撃を優先するべきだ。 ガードロッドを握るハイディの両腕に、力が篭る。 禍々しき呪いを秘めたロッドが、黒き光を纏ってノーフェイスの少年を正面から貫いた。 刻まれた告死の呪いに耐え切れず、少年が絶叫とともに崩れ落ちる。 少年が地に倒れる寸前、駆け寄った忌避の両腕が、彼を支えた。 「貴方は微かな情報を頼りに此処にきた! 元々の母……愛を探して!」 失われた愛、裏切られた生い立ち。己のルーツを辿って橋の下を訪れても、そこに求める母はいない。 可哀想に。悲しいだろう、辛かっただろう――だから。 「私が貴方に愛をあげます! 母の愛には勝てないけれど、それでも少しでも癒されて欲しいの!」 その身を異形と化したノーフェイスが、運命に愛されることは無い。 今にも尽きようとする彼の命を、繋ぎ止める手段など無い。 だからこそ。忌避は、声を限りに愛を叫び、少年の体を両腕で抱き締めた。 「――貴方を愛しています!」 辛かったね、もういいんだよ、休んでも。貴方を私は忘れないよ――。 必死に叫ぶ少女を前に、少年は己の右腕を持ち上げる。 それは、既に血濡れた刃でしかなかった。 自分は、何を求めていたのだろう? 自分は何者で、どこから来たのだろう? ずっと靄のかかっていた意識が、死を前にして明瞭さを取り戻す。 ああ、そうか。思い出した。 ここに来る前に、欲しかったものは……。 心を失ったはずの少年の瞳から、一筋の涙が溢れて頬を伝う。 その直後、彼は自らの命を手放した。 ●流れゆく先に 自分の腕の中で力尽きた少年を、忌避は優しく横たえてやった。 歩み寄ったマリアが、彼の遺骸を抱擁して口付ける。 「お休みなさい、愛しい坊や」 少年は、自らの罪を思い出すことなく逝けただろうか。 思い出す必要はない。きっと戻れないから――そう、フィネは思う。 ただ、魂はここではない何処かへ行けるようにと、彼女は静かに祈った。 リィンの灰色の瞳が、流れ行く川の水面を見つめる。 まだ血が止まらない自らの傷を抑えながら、凪沙がそっと目を閉じた。 所謂、よくあるノーフェイスの終焉を見届けたリーゼロットが、顔を上げる。 橋の上では、何事もなかったかのように、車が行き交っていた。 ハイディはノーフェイスの少年の遺留品を探したが、目ぼしいものは見つけられなかった。 受け取る者がいるかどうかは別にして、可能であれば然るべき場所に返してやりたかったが、こればかりは仕方がない。 橋の下に、ユーキがそっと花を供えた。 少年にとっては不本意かもしれないが、他に手向ける場所も思いつかない。 短く祈りを捧げた後、彼女は仲間達を振り返って、こう口にした。 「……したたかに飲みたい気分ですねえ。誰か付き合って下さると有り難い」 夜明けまでは、まだ時間がある。 今夜は、浴びるほど飲むのも良いだろう――。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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