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Gloaming Attack

●覚醒
 目が覚めると見知らぬ部屋の中だった。
 どうやら自分は冷たい床の上に寝転がっているらしい。貴方は呻き声を上げながら起き上がると、周囲を見回した。
 十五畳ほどのやや狭い部屋だ。小さな長方形の花崗岩の石を壁・床共に敷き詰められた石造りの部屋の中、どこかで水道管でも漏れているのか、しとしとと水が滴る音が聞こえてくる。
 部屋の三方向は壁に囲まれているが、一方向にだけまっすぐ進める通路が見えた。あそこを進めばこの部屋を出られるのだろうか……。
「……う……」
 とその時、傍らから小さな呻き声が上がった。慌ててそちらを見れば、同じ依頼を受けた仲間の一人がそこに倒れている。苦しそうに呻いている様子を見て、揺り起こそうとした、その時――
 自分の右手首と仲間の左手首に手錠がかけられている事に気付いた。

 呆然と自分と仲間を繋ぐ手錠を見やる。その耳に、かすかに近付いてくる足音が聞こえてきた――

●経緯
「E・アンデッドを倒してきて欲しいの」
 始まりは『リンク・カレイド』真白イヴ(ID:nBNE000001)のそんな言葉だった。いつものように依頼を受けてブリーフィングルームに集まったリベリスタ達は頷き、無言で詳細の説明を促す。
 それに応え、イヴは口を開いた。
「エリューションのいる場所は、三高平から車で四時間くらいかかる場所にある、とある研究所。もう閉鎖されて十数年経つ廃墟なんだけど、そこで昔、人知れず人体実験が行われていたみたいで、その実験結果で亡くなった人も多くいたみたい。
 最近、そこで亡くなった人達がエリューション化してE・アンデッドに変化したの。合計で八体……まだ力は強くないから、早めに行って倒してきて」

 そうして、アークが手配した車に乗って四時間弱。廃墟となった研究所に到着したリベリスタ達は、早速仕事を開始した。
 それぞれ懐中電灯を持ち、ところどころ窓ガラスが割れ、壁のタイルが剥がれ落ちている研究所の廊下をまっすぐ歩き、八体いるというE・アンデッドを探す。『資料室』という札が飾られた部屋を歩き、その隣にある『所長室』への扉を開こうとした、その時――

 何らかの現象により、リベリスタ達全員が気を失ったのだ。

●Gloaming Attack
 貴方は傍らの仲間を揺り起こしながら、部屋の奥にある廊下からまっすぐこちらに近付いてくる存在を確認しようと目を細める。
 たん、たんとどこか不規則な音を立てつつ近付いてくるそれは、やがて部屋の天井からぶら下がる電球の明かりの下に姿を現わす。
 ぼろを纏い、青白く変色した肉体、生気を失った瞳。リベリスタ達が討伐すべき対象、E・アンデッドだ。それも二体。
 貴方はようやく起こした仲間と目配せし合い、どうにか態勢を立て直す。互いの手首は手錠でくくられており、不利は否めないが、ここに他の仲間はいない。二人だけで戦い、勝利しなければ。

 そんな事を考えつつ臨戦態勢を取った貴方の頭の中で、一つの思考が渦巻いていた。
(所長室に入る直前、こちら全員を昏倒させたあれは、恐らく睡眠ガス――)
 つまり、自分たちの他に、この研究所内に人間がいるのだ。




 リベリスタ達が奮戦する様子を、壁に埋め込んだ小型監視カメラを通して眺めながら、所長室の古びた椅子に座る青年はかすかに笑った。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:水境  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 4人 ■シナリオ終了日時
 2011年05月08日(日)22:24
水境です。
少し特殊なシナリオになりますので、下記の事項をよくお読みください。


●任務達成条件
 E・アンデッド八体の殲滅
 ※研究所内にはエリューションのほかにフィクサードが存在しておりますが、こちらの討伐は任務達成条件に入りません。

●戦場
 リベリスタ八人はそれぞれ二人ずつのペアとなり、別個の部屋に放り込まれている状態からスタートします。

 依頼にメイン参加いただいたPCの方々のリストで、左右隣同士になっている方々がそれぞれペアとなります。
 参加PCリストのうち、画面向かって左側に位置される方が右手首を、右側に位置される方が左手首をそれぞれ手錠によって拘束され、ペアの方と繋がれています。

 その状態のまま、十五畳ほどの広さの石造りの部屋にやって来るE・アンデッドを倒す事になります。
 動きは不自由となりますが、二人で連携を取って戦えば、それほど技を出すのに苦労しなくなる……かもしれません。
 二体のエリューションを倒し、まっすぐ進むと手錠の鍵があります。そこから更にまっすぐ行くと、別れ別れになった仲間達と合流出来ます。
 

 ※サポート参加の方は、火力の足りないペア等のために、一人一組にだけ加勢に行く事が出来ます(この場合はエリューションを挟み撃ち出来ます)。

●敵
 【E・アンデッド×8】
 フェイズ1。
 腕を振り回して攻撃してきたり、蹴り上げて攻撃してきたり、唾液に含まれる消化液(クリーンヒットで【毒】のバッドステータスが発生します)を飛ばしたりして攻撃してきます。どれも近距離専用スキルです。

 【フィクサード】
 得たフェイトを使い、人々が苦しむさまや裏切り合う様子を見て喜ぶ、冷酷な二十代の青年。
 リベリスタ達に睡眠ガスを吹きかけて昏倒させ、二人一組にして小部屋に放り込み、E・アンデッドをけしかけているのも彼の仕業です。
 今回の依頼の討伐対象とはなっていませんので、具体的な能力等は記載しませんが、『余裕があれば』話しかけに行ったり倒してみたりしてもいいかもしれません。一応、マグメイガスの能力を所持していることだけを記載しておきます。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
デュランダル
結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)
クロスイージス
英 正宗(BNE000423)
デュランダル
斜堂・影継(BNE000955)
ソードミラージュ
紅涙・りりす(BNE001018)
スターサジタリー
百舌鳥 九十九(BNE001407)
クロスイージス
ツァイン・ウォーレス(BNE001520)
覇界闘士
宮部乃宮 火車(BNE001845)
スターサジタリー
九尾・黒狐(BNE002172)
■サポート参加者 4人■
インヤンマスター
朱鷺島・雷音(BNE000003)
プロアデプト
遠野 うさ子(BNE000863)
ソードミラージュ
仁科 孝平(BNE000933)
マグメイガス
風宮 悠月(BNE001450)

●東
「ツァインさん、ツァインさん……」
 自分の名を呼ぶ声で、ツァイン・ウォーレス(BNE001520)は目覚める。うっすらと瞼を開けると、そこには仮面を被り、丸い瞳を血のような赤に染め上がらせたローブの男の姿が――
「う……おうぁっ! 仮面近っ!」
 思わず飛びのくツァイン。しかし、手首にかけられた手錠がそれ以上『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407)と離れさせるのを妨げた。
「……手錠? これなんてプレイ?」
「プレイじゃありません。私達は眠らされて、起きたらこうなっていたのです」
 九十九はツァインの言葉に淡々と応じる。そう言われ、自分の置かれた状況を確認するツァイン。
 周囲は薄暗かったが、石造りらしいその部屋の中には小さな電球が申し訳程度にぶら下がっている。次いで視線を前方へと注げば、そこには近付いてくる二体の敵の姿。ツァインは眉をひそめる。
「E・アンデッド……」
 九十九はその言葉に頷き、手錠をかけられている腕で器用にショットガンを握った。
「何だか厄介な事になったようですのう。他の方々も心配ですし、急ぎませんとな」
「そうだな……何とかして切り抜けよう!」
 二人は同時に声を掛け合うと、接近してくるエリューションを前に、九十九が仮面の下の目を閉じ己の感覚を研ぎ澄ます。ほぼ同時にツァインの身体も生命の力で淡く輝き、そのまま二人は背後にじりじりと下がっていく。
「九十九さん、敵に狙われた時は、移動する方向を指示してくれ。俺もそっちに逃げるから」
「了解です。ツァインさんも狙われた時はそうして下さいね」
 そう言葉を交わしつつ、接近してくるエリューションを見つめ――二人は動いた。
「行きますよ!」
 九十九が1$シュートを正確な狙いで右側のエリューションの頭部を打ち抜く。次いでツァインのヘビースマッシュ。しかしこれは避けられ、カウンター気味にツァインの胴に蹴りが迫った。
「九十九さん、左!」
 声を掛け合い無事に回避。その時、エリューションの背後から迫ってくる影が見えた。
「大丈夫ですか、お二人とも! 援護します!」
 駆けつけたのは『宵闇に紛れる狩人』仁科 孝平(BNE000933)。態勢を崩したまま、ツァインは叫ぶ。
「援軍か、助かった……! まずこいつから倒すぜ!」
 彼の示したエリューションに、孝平も頷き得物を構える。そうしている間に態勢を立て直した九十九は、ツァインに手を貸しながらサイド1$シュートを放つ。
 息の合った連携。エリューション撃破は時間の問題だろう。

●北東
 攻守に連携の取れたペアはもう一組。
「手錠はともかく……五体は満足。それなら何とでもなる」
『合縁奇縁』結城 竜一(BNE000210)と手錠でくくられた『Digital Lion』英 正宗(BNE000423)は、嘆息しつつ左手の甲を摩った。
「ちっ……こんな事をする知能と悪趣味を持つのはフィクサード……か? この恥辱は必ず晴らしてくれる!」
 竜一は目の前から迫り来るエリューションを見つめ、唇をかみ締めつつそう呟く。拳を壁に叩き付けたかったが、正宗の立ち位置を考えるとそれは出来なかった。
「それは命あっての物種だ。ほら、おいでなすった……あのエリューションをまずは何とかしなければ」
「……そうだな」
 怒りを堪え、竜一は正宗が行動し易いようにと右手から力を抜く。それを知った正宗は右手でラージシールドを構えた。
「防御は引き受けた」
 正宗の言葉に竜一は頷き、左手に握った打刀の切っ先をエリューションの一体に向け――相手が肉薄してきたところで振り下ろす。
「片手を封じれば、俺の能力も半減……、するとでも思っていたのなら甘過ぎる! ハチミツに砂糖を練りこむより甘い!」
 どこか可愛らしい例えを口にしつつ繰り出したのはオーララッシュ。一撃、二撃とエリューションの胸を袈裟懸けに斬りつけていく。その様子を間近で見ながら、正宗は自身に、そして竜一に世界から借り受けた生命の力を纏わせる。
 エリューションも攻撃を受けているばかりではなく、そのまま腕を振り下ろそうとしたが――
「どう足掻こうと無意味なんだよ」
 駆けつけてきた『カチカチ山の誘毒少女』遠野 うさ子(BNE000863)のトラップネストで粉砕された。
「うさ子!」
 正宗が歓声を上げると、うさ子はウィンクを返してきた。それに頷き、再度竜一の歩調に合わせるようにして、もう一体のエリューションへと接近する。
「一気に撃破しちまおう」
 正宗の言葉に、彼のラージシールドの影に潜み機を狙っていた竜一も頷く。
「頼りにさせてもらうぜ、英。だが、無理だけはすんなよ」
「お互いにな」
 そして竜一がラージシールドの影から飛び出し、またもオーララッシュによる連撃をエリューションに見舞わせた。

●南
「火車さんっ……!」
 薄暗い部屋の中に、『アクマノキツネ』九尾・黒狐(BNE002172)の悲鳴染みた声が上がった。
 彼女は『不退転火薬庫』宮部乃宮 火車(BNE001845)と手首を繋がれていたが、火車の斬風脚と彼女自身のスターライトシュート、そして『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)の援護で、あっさりエリューションのうちの一体は倒した――ものの。
「火車っ……!」
「来るんじゃねぇ、雷音! お前まで庇わなきゃいけなくなるだろ……!」
 黒狐を庇って背中に深手を負った火車が叫ぶ。黒狐が彼を支えるも、流れる血は如何ともしがたい。雷音は傷癒符を握り締めるが、これは対象と距離が開いていると使えないのだ。
「行け、黒狐っ……」
 黒狐を庇いながら、火車が吐き捨てるようにそう言うと、火車はようやく頷いた。そして手錠のかけられていない方の手でオートマチックを握り締め、唇を引き締めて――撃つ。
「光の弾、行くよっ!」
 エリューションのわき腹が吹き飛ぶ。が、同時にその動きがほとんど狂乱染みたものに変化する。
「っ……!」
 思わず身を引く黒狐だが、彼女に振り下ろされた一撃は、やはりそれを庇った火車の背中を撃つ。黒狐も衝撃でいくらかのダメージは受けていたが、それでも火車を気遣って叫ぶ。
「火車さ……!」
 その名前を呼ぼうとした時、火車の身体がにわかに輝き始めた。薄暗い部屋の中、ぐったりと黒狐に寄りかかるようだった火車の身体に力が戻る。傷によって失われた彼の生命力が、命を燃やすことでフェイトが力を与え、その身体に再び体力を漲らせる。
 みるみるうちに傷が癒えていく中、しかし火車は黒狐を庇った状態のまま、動こうとはしなかった。
「……こういうのは、男が踏ん張らないと格好悪ぃんだよ……っ! 女怪我させるとかありえっか!」
 それだけ吐き捨てるように言うと、心配げに顔を覗き込んでくる黒狐の黒い瞳を見返した。
「やれ」
 黒狐は頷く。火車に庇われている自分に出来ることは、なるべく早くこの戦いを終わらせることだ。
 オートマチックのグリップを握り直し、こちらに怒りを燃やした瞳を向けてくるエリューションにひたと向ける。
(……狙いは冷静に、そして正確に――)
 エリューションが、再度その腕を振り下ろそうとした矢先、黒狐のオートマチックが火を噴き雷音の鴉の式神がその背を打ち抜く。
 瞬きの後、一体だけ残ったエリューションは黒狐の前で倒れ伏した。

●南西
 相手を思うがゆえに苦戦しているのは、黒狐と火車だけではなかった。
「曳光黒龍蹴!」
 と、数年後に思い出してジタバタしそうな名前の技――単なるギガクラッシュ――を放った『影の継承者』斜堂・影継(BNE000955)は、二体のうちの一体が倒れ伏すのを見て、すぐに手錠で繋がれている相手、『人間失格』紅涙・りりす(BNE001018)を振り返った。
「大丈夫か、りりす……」
「平気。ハンデがあるくらいが丁度いいよ、僕みたいなのには」
 口調は平然としているが、りりすの身体はその言葉を信じられるほど楽観的なものではなかった。手錠で繋がれている影継に合わせるようにして動いていたりりすは、時折エリューションに向けて射撃を行い、その注意を自身に引き付けていた。と同時に、必要に応じて影継を庇っていたため、かなり体力が削られていた。
 二体から受ける攻撃は『星の銀輪』風宮 悠月(BNE001450)の天使の息でも間に合わない。しかしりりすは肩をすくめるだけだ。
「僕のがテクはあるけど、攻撃力は低いし。そっちに合わせるから気にしなくていいよ」
 淡々としたその言葉に、影継は少し迷った後、頷いた。が、すぐに、
 ――ガアッ!
 残りの一体のエリューションが吼え、両腕をめちゃくちゃに振り回してきた。りりすは思い切り手錠をかけられた腕を引き、影継の代わりにその攻撃を受ける。
「りりす!」
 深いダメージを受けたのか、ぐったりと倒れ伏せるりりす――だったが、その身体が倒れる寸前、影継が何とか支える。
「全く……悪趣味な事だよね、手錠なんて……」
 りりすが朦朧とする意識の中でぼそりと呟く。唇をかみ締めた影継は、りりすの腕を己の肩に回させ、再び攻撃を繰り出そうとするエリューションを見据える。
「……あんたに夜明けは訪れないぜ」
 睨みつけてそう言った後、ヘビーレガースを装着した利き足を振り上げる。
「ヤクザキック!」
 という名のメガクラッシュが放たれ、もう一体のエリューションも地面に倒れ伏した。影継はりりすを抱えたまま、一歩、二歩とエリューションに近付き、満面のドヤ顔をしてみせる。
「死体相手に手を使うまでも無かったぜ」
 しかし、応じる者は誰もいない。りりすは彼の肩でぐったりと気を失っていたし、悠月が「大丈夫ですか!」とこちらに近付きりりすの治療を始めたからだ。
 ともかく、りりすの身体の傷をある程度治癒してから、りりすを抱えた影継と悠月は廊下の奥へと走り出す。

●合流
「りりす、影継」
 手錠の鍵を外してしばらく行くと、そこには仲間である火車と黒狐、ツァインと九十九、竜一と正宗、それから応援に駆けつけた面々が既に到着し、二人を待っていた。
「皆、無事だったのか」
 安堵の息をこぼす影継だが、竜一は返事をせず、すぐ傍らにある登り階段を見上げた。どうやらここは研究所の地下だったらしく、階段の先には鉄骨建築物の様子が見える。
「お前らも気付いただろ。俺たちを眠らせて閉じ込めたのが、恐らくはフィクサードだって事を」
「もちろんだ。特別ヤバい状況でもねぇし、早くブン殴りに行きたいぜ」
 火車が頷く。しかし傍らの黒狐は眉尻を下げた。火車の傷は確かに雷音の力である程度癒えているが、失った力と血までは元通りに出来た訳ではない。また、影継の肩で瞼を伏せるりりすも恐らくは同じような状況だろう。
 それを察した正宗が口を挟む。
「この手の奴は、下手に口を利くとロクな事がない。無視が一番なんだと思うが……」
「……そうだよ」
 影継の肩口で頭を上げるりりす。
「こういう奴は、相手にされないと悔しがるタイプだし。また余裕のある時に遊んであげればイイ」
「ええ。消耗している方もいるようですし、ここは大人しく退くのが無難かと」
 りりすの言葉に九十九が頷くが、
「いや、お礼参りだ。突入するぜ、俺は」
 きっぱりと言う影継。意見が纏まらぬまま、とにかく特攻するという竜一と火車、影継、それから話をしたいという黒狐の四人に押し切られるように、一行は階段を駆け上がった。

 扉を蹴破るように開けた竜一は、入り口から十数メートル程のところに褐色の机、それから椅子があり、そこに一人の金髪の男が腰掛けているのが目に入った。
「てめぇか……」
 吐き捨てるように言い、後から部屋に入ってきた影継がすぐにその背後に回り込もうと動き出す。――が。
「待って、話をさせて」
 黒狐の言葉に動きを止める。唇を引き締めつつ彼女の方を振り向くと、黒狐は部屋の中にゆっくりと一歩、足を踏み出した。ほとんど同時に椅子に腰掛けていた青年も立ち上がり、優雅な動作で机の前に立つ。その顔には笑みが刻まれていた。
「随分早かったですね。もう少し時間がかかるものだと思っていましたが……」
 青年が発した高めのテノールの声が所長室に響く。それには応えず、黒狐と火車が問いかける。
「どうして、こんなことをしたの」
「てめえ、一体何のつもりだ!」
 しかし、二人の問いに青年は首を振るばかりだ。
「その問いに何の意味がありますか? もしここで僕が『これは出来心だったんです、ごめんなさい』と言えば、貴方達は納得して帰るのですか?」
「ふざけるな」
 影継の身体から殺気が溢れる。その様子を見た青年は少しだけ首をかしげた後、面白そうに言い放った。
「ですが、一つだけお教えしましょう。――僕は貴方たちのような人々が、裏切り合い、傷つけ合うさまを見るのが大好きなんですよ」
「なるほど、分かった。お前と俺たちは折り合いがつかない、って事がな」
 竜一は肩をすくめてそう言い放つ。自由になった両手で打刀を握り締め、その切っ先をまっすぐフィクサードの青年へと向けた。青年はただただ笑うのみだ。
「僕と戦う気ですか?」
「そうなりますね」
 応えたのは九十九だ。仲間達の様子を気にかけつつ、それでも援護のため足を踏み出す。
「仲間が戦うのを見捨てる訳にもいきませんし。支援するためについて来ましたので」
 その言葉に青年は笑い、片腕を振りかざした。
「貴方達は、地下を出た時点で逃げるべきでした。――もしくは、方針を固めておくべきでしたね。僕に奇襲をするか、話をするだけにするかと――」
「うるせぇ、ぶっ潰す!」
 とうとう耐え切れなくなった火車が飛び出し、それに背中を押されるように影継、竜一が飛び出す。しかし、それよりも先に青年がかざした手を振るのが先だった。
 瞬間、薄暗い所長室に何千匹もの蝶が舞った。
「!?」
 思わず立ち止まる竜一達。赤、青、緑――極彩色のその蝶たちに身構えるも、それらは攻撃してくる訳でもなく、ただ彼らの周囲を舞っている。正宗が手を伸ばすが、蝶には実体が無いらしく感触が無い。一体これは……、と考えたその時、
「はっ!」
 踵を返した竜一が、突如打刀を振りかざしてきた。咄嗟に避ける正宗だが、愕然としてその姿を見つめる。
「火車さん……っ、しっかりして」
 こちらもガントレットを振りかざし、黒狐に攻撃を加えようとしている火車。その向こうでは、影継が傷ついたりりすを蹴り飛ばさんと駆け出していた。
(これは……魅了されている?)
「言ったでしょう? 私は貴方達のような人が傷つけ合うさまを見るのが好きだと」
 正宗の言葉に答えるかのように、フィクサードの声が響いた。


 正宗とツァインのブレイクフィアーで全員が何とか正気を取り戻した時、既にフィクサードの青年の姿は消えていた。
 傷ついた仲間に手を貸しつつも、所長室を出る際、ツァインは背後を振り返り、ぼそりと吐き捨てる。
「覚えてろ、変態野郎。この借りはぜってー返す」

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
ご参加ありがとうございます、Gloaming Attackをお届けします。

互いを気遣い合う皆様のプレイングに、萌えながら執筆させていただきました。ありがとうございます、楽しかったです。