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<裏野部>Bad Dream D side

●曲芸師からの招待状(Dream side)
《 やあ聖櫃に籠る英雄の雛達、ゲームの時間だ。
  ルールは簡単。君達には、僕らと戦って貰う。制限人数は、10名。
  此方は、2人、かな。多分ね。
  僕は手を出さない。あくまで見学者だ。其方が手を出さない限りは、ね。
  但し、僕らの前で君達が“運命の加護”とやらに頼る度、
  勿論僕は何もする心算は無いが、ただの人々がただの人々を殺すかもしれない
  言っておくけれど、今回神の眼は役に立たないよ。何せ僕は何もしていない。
  ただ、全てが普通の。普通の人々による普通の人々を巻き込んだ普通の犯罪が
  この国の何処かで突然起こるかもしれない。そんな可能性の話さ。
  まあ、本来はこの国の治安維持組織。警察何かが出張るべきなんだろうね。
  だがそうはいかない。これはね、君達と僕達とのゲームだ。 》

《 岡山の方は随分と騒がしいらしいね、大変な事件だ御心痛お察しするよ。
  こんな状況下だ、残念ながら君達の中で最精鋭と呼ばれる人々は、
  皆其方へ行ってしまっているのかもしれない。
  僕らの望むとおりの。そう、フェアな戦いは中々に難しいかもしれない。
  だけどまあ、君達は英雄だ。英雄の雛だ。例えば誰かの屍の上に。
  例えば自らの命の上に、多くの人々が救われれば、それで満足だろう?
  安心して良い、約束は守るよ。僕はね、生まれてこの方嘘を吐いた事が無いのがウリなのさ。
  ああ。それと余計な道具の追加は無しで頼むよ。アレは君達の様な英雄が使う代物じゃない。
  力の無い、才能の無い、夢を叶えられない凡人の為の道具だからね。
  着のみ着のまま腹を割って話し合おうじゃないか。待ってるよ ――Bad dancer》 
 こんな手紙が、届けられ――
「一体何処でどんな事件が起こるのか、万華鏡は感知しない。
 操作系の魔術や破界器を使っていたら分かるから、多分事件が起きる原因は、それ以外。
 原因特定は、間に合わないと思う。だから――」
 ――そんな会話が行われたのが、つい数分前。
 ブリーフィングルームに集まっていたリベリスタ達は、既に本部を出ている。
 その後姿を見つめ、何処か冷たく、けれど何処か熱を帯びた眼差しで
 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が呟いた。
「――それでも私達は、運命さえも従えてみせる」
 彼らが捨てて来たもの。彼女達が失った物。アークが亡くして来た者は。
 そこまで、軽くはないのだと。
 
●神の眼が視る夢
「皆の仕事は人質の救助、出て、大至急」
 そうして15分後、ブリーフィングルーム。
 新たに集められたリベリスタ達へ、真白イヴは確かにそう告げた。
「アークの力はカレイド・システムだけじゃないって事。
 仁蝮組を筆頭に人脈最大活用。最近大量の人間が入って行ったって屋敷を特定した」
 モニターに表示されるのは見るからに禍々しい古びた洋館。
 こんな物が現代日本に実在するのか、と言わんばかりの怪しげな建物である。
「場所は山梨県、八ヶ岳。飛行機とヘリで最大限時間を短縮する。
 それでも1時間強は優にかかるから、向こうの戦いが死ぬほど長引けばともかく。
 基本夢幻の宝珠の戦いとは関係無いと思って貰って良い」
 切り替わるモニター。表示されるのは顔写真。その数総勢30名。
 約半数が子供、約半数が成人女性、そして例外的に、数名の高齢者が混じる。
「この洋館内にはこれだけの人間が囚われている。日本各地で事件を起こすのは、
 恐らくこの人達の家族や大切な人達。命の天秤を押し付けて普通の人に罪を犯させる」
 徹底的に、自分の手だけは汚さない。曲芸師はあくまで“舞台を”沸かせる者である。

「この人達を救い出せれば、今回みたいなケースへアークが対応出来る事を示せる。
 第二第三の同一系事件を抑止する事に繋がるし、何より――今回の“本当の黒幕”の尻尾を掴める」
 そう、本当の、黒幕。おかしいのだ。この事態は余りにも。
 バッドダンサー単独でどうこうしたにしては規模が大き過ぎる。
 手足となって動く何者かが必要だ。それも、日本各地に散らばる程に、組織的な。
「目的は分からない。ただ、これだけの事をする以上何か狙いが有るんだと思う。
 それさえ分かれば、黒幕を割り出すのはそれほど難しく無い……筈」
 イヴの言葉には若干なりの不安が滲む。万華鏡の予測演算に頼らない戦い。
 敵対するフィクサードや一般リベリスタ達にとってみれば当然であるそれは、けれど。
 先行きを見通し戦術を練る事を当たり前としているアークのリベリスタ達に対しては
 必要以上の精神的プレッシャーをかける。五里夢中、暗中模索、真実は薮の中。
 けれど此処で手を引く選択肢など、最初から無い。例え薮に蛇が潜んでいるとしても。
 彼らは、アークは、史上最悪の凶夢の上に築かれた牙城。
 異界の魔王にすらも抗い、運命すらをも従えてみせると誓った人々が紡いだ一本の糸である。
 それを、此処で切る訳にはいかない。
 それを、此処で止める訳にはいかない。

「屋敷の中には人質と、複数名のフィクサードが居るみたい。
 でも、情報収集に引っ掛かったメンバーの内で極力交戦を避けた方が良いのは、一人だけ」
 そう言って、切り替えられるモニター。映ったのは線の細い。
 虫も殺せない様な儚げな風貌の、女。年頃は20歳程か。女子大生にすら混ざれそうだが――
「『ドールマスター』ティエラ・オイレンシュピーゲル。所属不明のフィクサード。
 一般人、革醒者を問わず操る力を持つとても危険な相手。
 今の皆なら全員が全力を尽くせば勝てるかもしれないけど……」
 それは、人質を完全に見捨てる事を意味する。それは、流石に許容出来ない。
「今回は人質の救助が最優先。全力で、取り掛かって」
 ふわふわと危なげな足場。それはあたかも神の眼が夢でも見ているかの様に。
 曖昧な情報、不確実な敵影。だがそれでも――
「それでも、私達はリベリスタだから」
 救える人間が居て、救えるかもしれない未来があるなら、
 救わない訳には――いかない。






■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:弓月 蒼  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年03月09日(金)22:55
 55度目まして。シリアス&ダーク系STを目指してます弓月 蒼です。
 当シナリオは拙作『ドリームワールドへようこそ!』系シナリオ群の1つです。
 過去のシナリオを読まなくても楽しめますが、読んで頂けると尚分かり易いかと。
 情報こそ多い物の詳細情報は穴だらけ。御注意下さい。

●Danger!
 このシナリオはフェイトの残量に拠らない死亡判定の可能性があります。
 参加の際はくれぐれもご注意下さい。

●作戦成功条件
 人質8割(24名)以上の救出。

●特殊ルール・Bad Dream
※『バッドダンサー』がシナリオ終了時に場に居る場合、
 「重傷」状態で出発するリベリスタには以下のペナルティが発生します。
・戦闘不能時の死亡確率の向上

●人質
 15歳以下の子供男女含め14名、25歳以上の女性11名、60歳以上の高齢者5名。
 合計30名の人質。人形の様に決まった行動を繰り返す一般人。
 屋敷内各所にばらけて掃除や消耗品の取替えなど一定の同じ行動をしています。
 自分の力で状態異常から抜け出すことは不可能。
 リベリスタが近付くと組み付いてきます。
 組み付かれた場合、移動可能距離半減。回避に-30のぺナルティを被ります。
 組み付かれる数が増えれば増えるほどペナルティは重複。
 攻撃が掠めた程度では死にませんが、クリーンヒットすれば即死します。

●無名フィクサード
 8名の無名フィクサード。人質に混ざって屋敷内で生活しています。
 外見詳細不明、年代バラバラ。男女共に含む。
 非戦スキルを幾つか活性している可能性が高く、最低限結界が使用されています。
 クリミナルスタアが中心であると思われますが、詳細クラス不明。
 実力はそこそこ。人質の安否などは気にせず攻撃して来ます。

●有名フィクサード
 それなりに名のあるフィクサードが2名屋敷内に潜んでいます。
 どこに居るかは不明、但し特定の地点から動くのは壮年の女性だけです。

・壮年の女性。髑髏を抱く老婆。クラスはインヤンマスター。活性スキルは不明。
 EXスキル『牡丹灯篭』を所有。裏切りに関連する効果を持ちます。詳細不明。

・30代前後の男性。引き篭もり。クラスはナイトクリーク。活性スキルは不明。
 破界器『螺旋幻想鏡』を所有。足止めに関連する効果を持ちます。詳細不明。

●人形遣い
・『ドールマスター』ティエラ・オイレンシュピーゲル
 外見年齢20歳前後。灰色の髪。虫も殺せない様な儚げな風貌の女。
 趣味は愛らしい少女の剥製作り。クラスは推定プロアデプト。
 活性スキルは不明。EXスキル『マリオネットケージ』
 破界器依存のEXスキル『繰殻惨昧』を所有。所在不明。
 敵中では突出して総合力が高く、精鋭リベリスタ6名に匹敵すると目されます。

●戦闘予定地点
 山梨県、八ヶ岳の麓に存在する森の中の洋館です。
 リベリスタ達が来る事は想定していない為、警備はそれほど厳重では有りません。
 地上2階、地下1階建て、部屋数は計15室。

 1階は玄関、食堂、大広間、倉庫、トイレ、脱衣場、キッチン、大浴場
 大広間、蝋燭の小部屋、上下階への階段で構成されており、
 殆どの部屋は玄関前の廊下から入る事が出来ますが、
 キッチンへは食堂から、大浴場へは脱衣場から、
 蝋燭の小部屋へは大広間からのみ入る事が出来ます。
 
 2階は階段上がって直ぐに廊下。
 書斎、寝室、子供部屋、空き部屋、封鎖された部屋で構成されており、
 全ての部屋へ廊下を介して入る事が出来ます。
 
 地下にはボイラー室と研究室。いずれも階段を経由して入る事が出来ます。
 入口はキッチンへ出る裏口と、玄関に出る正面口の2箇所。
 殆どの窓は格子がされていますが、2階の封鎖された部屋の窓には格子が有りません。

 各部屋の広さは
 大:食堂、大広間、脱衣場、大浴場、研究室
 中:蝋燭の小部屋、寝室、子供部屋、空き部屋、封鎖された部屋、倉庫、キッチン
 小:トイレ、ボイラー室、書斎
 と分類する事が出来、大部屋では10人。中部屋では6人。小部屋では2人が
 自由に戦う事が出来る程度の空間が有ります。

●注意!
 継続15分(90ターン)以上時間が経過した場合、
 「<裏野部>Bad Dream R side」の敵フィクサードが屋敷へ帰還する可能性が有ります。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
覇界闘士
アナスタシア・カシミィル(BNE000102)
プロアデプト
ヴァルテッラ・ドニ・ヴォルテール(BNE001139)
ホーリーメイガス
ニニギア・ドオレ(BNE001291)
マグメイガス
風宮 悠月(BNE001450)
覇界闘士
設楽 悠里(BNE001610)
ナイトクリーク
御津代 鉅(BNE001657)
クリミナルスタア
烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)

●Bad Dream Scene5
 ――千里眼。奇しくも、とある悪夢の地の戦いを映す様な静かな幕開け。
 物質全てを透過し見通すその目を操るは『星の銀輪』風宮 悠月(BNE001450)
「人質の位置と、数を――」
 それが無生物である限り、神秘のそれでない物品は彼女の視線を決して妨げ無い。
 千里眼は極めて強力な魔眼である。が、今回に限っては。
 神秘の専門家が座すこの洋館に限っては、ただ純粋にそれを用いるのは無警戒に過ぎた。
 彼女の視界に鏡が映る。それが破界器で有る事は一目で分かった。
 けれど、悠月がそのパートナーに自身が遭遇した破界器について、
 詳しく聞いていなかったのはこの場合、純然たる不幸だったと言えるだろう。
 幻想鏡。そう呼ばれる破界器がある。種類も効果も多種多様、危険な物も存在する。
 その一つ――螺旋幻想鏡。他人の意識を迷宮へと誘い込む鏡。
 その効果は鏡と対面しただけで発動する。そして、悠月は正にその鏡を覗いてしまった。
「あ」
 閉ざされた部屋。隣には膝を抱えて蹲る男が居る。あれが「引き篭もりの男」だろうと。
 そう考えた頃には彼女は膝を付き、崩折れていた。
 得られた情報は、けれど仲間達に伝わる事無く、彼女の意識は暫しの間幻想の迷宮を彷徨い歩く。
「――えぇっ!?」
 だが、驚いたのは隣に居た『蜥蜴の嫁』アナスタシア・カシミィル(BNE000102)である。
 まるで何が起きたのか分からない。ただ、索敵を行っていた筈の悠月が突然倒れた。
 因果関係など一切不明ながら直感する。自身も透視を使おうとしていたからには尚更に。
 恐らくは何かの罠に嵌ったのだろう。得られる筈だった情報は断たれた。

 一瞬混乱に陥ったアナスタシアを、けれど落ち着いた声音が引き戻す。
「曖昧な情報、不確実な敵影、元来戦場とはそういう物。今更狼狽えはせんよ」
 『鉄血』ヴァルテッラ・ドニ・ヴォルテール(BNE001139)が鷹揚に頷く。
 神の眼が有る現状が恵まれていたのであり、逆では無い。分からない事こそ当然である。
 万全を喫するは難しくとも、十全程は為してみせようと、その瞳には自負が宿る。
「そうね、ひとまず可能な限り沢山の明日を繋ぐことを考えて、冷静に動くよう心がけましょ」
 『大食淑女』ニニギア・ドオレ(BNE001291)が力強く拳を握る。
 けれど、本来であればそれを支持し、明るく鼓舞の声を上げるだろう
 『イケメン覇界闘士』御厨・夏栖斗(BNE000004)の瞳には僅か憂慮の色が宿る。
 彼は洋館へ訪れる中のヘリの中で彼の相棒からの連絡を受けていた。
 『バッドダンサー』が、来る。彼の仲間達に敗戦を強いて。
「裏野部ってのは、ほんとにいつも癇に障る……」
 毀れた声に、ニニギアが驚いた様な眼差しを向ける。
 其処には普段の根っから陽気な彼らしからぬ、ある種の引っ掛かりの様な物が感じられ。
「相変わらず嫌がらせ“だけ”は得意らしい。急ぐぞ」
 2度、『ドールマスター』との関わりを持つ『燻る灰』御津代 鉅(BNE001657)は
 けれど淡々と告げる。索敵が出来てない以上足で稼ぐ以外に無い。そして時間は有限なのだ。
 曲芸師と人形遣い、2人を相手にする等冗談にしても笑えない。

「あいつの手元に置かれた人間がどうなるか、なんてわかりきった事だ……くそっ」
 自分にもっと力があればと、『ガントレット』設楽 悠里(BNE001610)が拳を握る。
 何もかもは掴めない。誰も彼もは救えない。分かっているからこそ歯痒い。
「どちらにせよ、今は動く以外に出来る事はありません。悩んでも仕方ない」
 『ヴァイオレット・クラウン』烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)の淡々とした声に、
 けれどヴァルテッラもまたはっきりと頷く。
「そうだな、時間が惜しい。血と鉄を以て、全ての道を踏み進もう」
 それを皮切りとして彼らは内部を効率良く巡る為3人ずつに分散する。
 倒れた悠月を介抱するアナスタシアは留守番である。
 悔しく思う所も無いではない。だから彼女は玄関に手を掛ける夏栖斗に精一杯のエールを投げる。
「夏栖斗お兄ちゃん、頑張るんだよぅ!」
「当たり前だ、いけすかねーバッドダンサーに一泡ふかせてやんよ!」
 親指を立て、門を潜るリベリスタ達。決死の探索行がその口を開ける。

●Bad Dream Scene6
 玄関を潜り最初に相対したのは見るからにフィクサードである男だった。
 突然の奇襲、驚きの表情。
 間髪入れず距離を詰めた鉅がこれの動きを止め、夏栖斗が走り込みながら拳を握る。
「大丈夫、こっちで抑えるからそっちは探索続行して」
 頷いたエーデルワイスが左右の扉を選ぶ。片側に漂うは酷く禍々しい淀んだ様な感情の渦。
 駄目だ。こっちは駄目だ。脳裏に警鐘が鳴る。それが誰で何であるかまでは分からない。
 だが彼女は慎重を喫する。指差し告げる言葉は切迫感を伴って
「こっち、危ないわよ。気を付けて」
 その言葉と共に逆の扉を開く。内部には人。人。人。一瞥して分かる。
 此処は大広間だ。掃除でもしていたのか滞在している数は成人女性8名。思った以上に多い。
 そして同時にその中に複数、侵入して来た自分達への敵意を持つ者を感知し
 エーデルワイスの首筋が総毛立つ。何故今まで気付かなかった。否――
 対面するまで、彼らの敵意は具体化していなかったのだ。弱い感情は探知出来ない。
「スター、サジタリー!?」
 選りによってと言うべきか。大広間に配置されていたのは大型銃を持つ射撃手2名。
 ニニギアの悲鳴も当然である。彼女らが自由に動こうと思えば部屋に2人しか入れない。
 そして敵にはハニーコムガトリングと言う全体攻撃の手段がある。
 彼女らが人質を連れ出そうとすれば、その銃弾は人質をも巻き込むだろう。

「まずい……」
 相性が悪い。悠里の切り札、壱式迅雷は射線が通らなくては複数名を狙えない。
 敵フィクサード以外に人質が6人も居る部屋では単体攻撃と大差無いのだ。
 詮無き話ではあるが此処に悠月か、せめて夏栖斗が居ればと考えざるを得ない。
 全体攻撃の手段さえあれば、一気に敵を打ち倒し人質を救い出す事も可能だろう。
 覇界闘士2人が揃えば高々無名フィクサード程度、其々を凍結させ全員を無傷で救い出せた。
 けれど、彼らは乱戦を余儀なくされる場面への対処を想定していなかった。
 そして数を抑える事で咄嗟に取れる選択肢を自ら狭めてしまった以上は、この状況
 ――強行突破以外に術は無い。
「仕方ないわね」
 悠里とエーデルワイスとが部屋へ突入する。2人のフィクサードを除く周囲の6人。
 先手を取った悠里が1人のフィクサードに拳を振り下ろす。凍てつき動きが止まる射撃手。
 続くエーデルワイスが無頼の拳をもう片側へと叩き込むも、その直後。
 人形遣いに操られた人質達が2人に次々と迫っては組み付く。身動きが取れない。
 そして凍っていないフィクサードが動く。向けられる銃口。
 蜂の巣を突いた様な耳障りな音と共に、悠里とエーデルワイス。
 そして彼らの影に隠れられない4人に銃弾の雨が降り注ぐ。
 体の各所が爆ぜ、血飛沫が舞う。2人とそれに組み付く4人。
 せめて身体で隠せる2人位はと背を向けるも、普通の人々と言うのは至極脆い。
 痛んで行く。壊れて行く。自我すらも奪われたままに。
「や――、めろぉ――――っ!!」
 悠里の悲痛な叫びは、けれど届かない。放たれた銃弾は人質達の背を撫で、
 赤い花を無数に咲かせる。長い、長い、10秒間。

 他方、食堂を探索するもう片方の班では夏栖斗と鉅とが苦戦を強いられていた。
 対峙する影は1つ。否、2つである。その片側は髑髏を抱いた老婆。
 そしてもう片方は――
「余所見とは余裕があるねえ坊や達」
「チィ、警戒はしていたつもりなんだがなっ!」
 過剰運動する無限機関。炸裂する爆炎の魔陣。
 不意を突かれたヴァルテッラに突き刺さったのは物質は愚か人体すら貫通し、
 射線上の物を無差別に捉える呪いの魔術「牡丹灯篭」
 怪談に曰く。魔除けの札をも迂回し望む者を射殺す裏切りの呪詛。
 此方の班には状態異常を解除する術が無い。そして2人で2人の相手は分が悪過ぎる。
 止む無く夏栖斗が幻像纏いを起動する。
「ごめんニニさん! 対面の食堂まで来て。ちょっと不味い事に――」
「えっ、あ! まってて」
「――のっ、これがお前達のやり方だって言うのか!!」
 ニニギアの向こう側、聞こえた悠里の声。痛々しい程苦悶を孕んだそれに嫌な汗が滲む。
「ヒヒ、さぁて、次はどいつだい?」
 老婆の抱く髑髏に紫焔が灯ったかその刹那、食堂の扉が勢い良く開かれる。
「かずと、大丈夫!?」
 突如跳び込んで来たニニギアに、老婆――菊が一瞬躊躇ったか。鉅はその隙を逃がさない。
「ブレイクフィアーを頼む、大至急でだ!」
「わ、わかったわ!」
 声を上げると同時に距離を詰め、菊の眼前に立ちはだかる。
 貫通攻撃は視認の必要すらないが、所在が分からなければ狙い難い事に変わりは無い。

「邪魔だよっ!」
「生憎、それが此方の仕事でな」
 放たれる牡丹灯篭を持ち前の反応速度で回避する鉅。 
 返す刃で放った短剣が髑髏を掠め、その背後でニニギアの浄化の光が瞬いた。

●Bad Dream Scene7
 螺旋の迷宮を踏破して、最後の扉を大きく開け放つ。
 その間凡そ3分間。かなり急いだ心算だったが、思いの他時間が掛かってしまったと、
 開けた視界の向こう側には複数名の人の姿。その殆どが倒れており動かない。
 恐らくは突入した仲間達が救い出して来た人質だろう。けれど、その数は意外な程少ない。
「状況は――」
 人質達の様子を見ていたアナスタシアに悠月が問い掛ける。
 振り向いた彼女の表情に、普段の明るさは見えない。
 それでも何処か無理に微笑む仕草はむしろ痛々しさをすら感じ――
「あ、悠月殿。目を醒ましたんだねぃ」
 響いた声に、確とせずとも大体を悟る。苦戦、しているらしい。救い出した人質は6人。死者4名。
 名のあるフィクサードを1人討伐する事に成功した物の、それにより時間を浪費してしまった、と。
「『ドールマスター』は?」
「それが……」
 アナスタシアが頭を振る。未だ、所在不明。それを聞いて慌てて、悠月が幻想纏いを起動する。
「『引き篭もりの男』は、閉鎖された部屋に居ます! 所有する破界器の効果は――」

「畜生、何だこいつらは!」
「アークだよアーク! 口より早く手を動かしなっ!」
 蝋燭の小部屋に囚われた4人を救い出しては玄関へと運び、
 1階を一通り回って人質を気絶させて巡るリベリスタ達。抱えている人質は両班合わせ計6名。
 そんな彼らを襲ったのは2階から降りてきた無名フィクサード達の大攻勢である。その数5名。
「私の仁義の前に屈しなさい」
 エーデルワイスのバウンティショットが最前列のクリミナルスタアの顔面を撃ち抜く。
 これで潰れたトマトの様にならないのは見事と言えようか、
 とは言え、随分と足止めを喰らわせてくれたフィクサード5名も1人欠け、2人欠け。
「やれやれ……良い加減退いてくれるか」
 鉅の剣舞が残る前衛、ナイトクリーク2人を切り裂くと好機とばかりに悠里が駆ける。
「これ以上、お前達に一人も奪わせない!」
 目の前で4人もの命を奪われた、彼の拳が怒りと哀しみに雷光の如く閃く。
 貫かれた2人は共に吹き飛ばされたまま身動ぎ一つしない。時間を確認する。残10分。
「誰かちょっと手貸してくれる!? 流石に1人で6人運ぶのは無理!」
「ニニギア君はいざと言う時の為に残っていた方が良い。私が行こう」
 互いの声を掛ける事で必要と不要の隙間を縫う。
 敵の数が減った現状、足止めはエーデルワイスと鉅で必要十分だ。
 ヴァルテッラと夏栖斗が玄関までの往復をする間に、
 駆け抜けた悠里の魔氷拳がリーダーらしきクリミナルスタアの女を打ち据える。

「これで後は『引き篭もり』と――」
「……奴か」
 エーデルワイスの視線が階下へ向く。地下、そこに灯る感情は1つ。
 だが、この1つ。混沌として理解し難い鬱屈としたそれは、どう考えても碌な物では無い。
「まず2階を手分けして巡ろう。どうも感情探査で探知する事は出来ない様だが……」
 一方、上の階には一切感情の反応が無い。
 これまでもそうだったが、人質は思考すら止められている様だ。まるで人形である。
 だが下で大いに暴れた影響か、誘い込まれた無名フィクサード達は全滅した筈だ。
 そして悠月の言によれば『引き篭もり』の所在は封鎖された部屋。
「慎重に向かおう、幸い、時間はまだある」
 悠里の言葉に、其々が大きく首肯する。手分けして2階の各所を巡る事更に5分。
 出会い頭にスタンガンを打ち込むと言うかなり手荒な人質の回収法は、
 けれど即効性だけでみれば非常に効果的である。
 これによる時間短縮の効果は大きく、彼らは実に23人と言う人数を無事確保していた。
「後は、“封鎖された部屋”と地下の“研究室”だね」
 ヴァルテッラが俯く、残時間5分弱。十分だ。残る人質は後3人。
 その3人は引き篭もりか、ドールマスターと同じ場所に居る可能性が高い。
「……突入しよう」
「どちらからだ?」
「……ふむ」

 夏栖斗に問う鉅。黙考するヴァルテッラ。優先順位の不在。少しずつ削れる時間。
 けれどここで悠里が一つの推論を挙げる。
「ドールマスターの趣味は剥製作り、だ。多分、地下に子供が居ると思う」
 人を生きたまま剥製にする。そんな作業をするのに外に面した封鎖された部屋が適当とは思えない。
 “分かり切っている”とまで断言した彼だからこそ言える事。
 視線が集まる。どちらも同じ確率なのであれば――より、目の大きい側へ振るべきと。

●Bad Dream Normal End
「駄目ですよ」
 階下へ降りて目にしたのは、気だるげに椅子に座る女と磔になった3人の少女。
 灰色の髪の女を目の当たりにした瞬間、そんな声が静かに響く。
「この子達はお気に入りなんです。逃がしてなんてあげません」
 くすくす、と微笑む。その儚げな容貌。一度見たなら忘れ得ない。
『ドールマスター』ティエラに攻める気配、動く気配は見られない。
 けれど、リベリスタ達とてはいそうですかと退く事は出来ない。
「我々は君を殺す命令を受けていない」
「それがどうしました?」
 会話は通じるが交渉の余地は無い。その好例。ヴァルテッラの言葉に、取り付く島も無い。
 超人の余裕――或いは、超人の傲慢、か。
 微笑みながら語る女は自然体で有りながら、その瞳には殺されなどしないと言う確信が宿る。
 否、「殺す事など出来ない」か。
「自分の手が届く全ては全部助けるって決めたんだ」
 言って一歩踏み出す夏栖斗、その動きを制したのはさらりと流れた女の言葉。
「そうですね、だったらゲームをしましょう」
 にこりと、清々しくも怖気の立つその笑顔。果たして彼女は何を言っているのか。
「これから私は貴方方を無視して彼女達を殺して剥製にしようと思います。
 護ってください、耐えて下さい、“助けて”みせて下さい」
 ふわりと。その両手から糸が舞う。一度に無数の気糸を手繰る。
 以前は殆ど見えなかった物が、今ははっきりと見える。だが、場所は室内。
 研究室へ入って来たばかりのリベリスタ達は密集している。
 その危険性を、多くの前衛達は皆警戒していた――だからこそ、先手を取ったのはリベリスタ。
「喰い止める、お前達は人質を――」
 鉅がブロックに動き、夏栖斗が、悠里が、エーデルワイスが、磔にされた少女達を庇う。
 ニニギアとヴァルテッラがその枷を外す。けれどその瞬間。

 舞い踊る気糸は緻密と言える精度を以って庇った3人に突き刺さる。
 自由が奪われる。動きが止まる。思考は出来、言葉も紡げるのに身体が動かない。
「くっそ、逃げろ――!」
「早く! 頼むっ!」
 それは戦いでは無い。それは戦いでは無かった。
「さあさ、楽しい楽しいお人形遊びのお時間ですよ」
 涼やかに、淡やかに女が微笑む。
 鉅がエーデルワイスを羽交い絞めにする一方で、ヴァルテッラがその子供を連れ出した。
「やめっ、――っ」
「くっ、ああああ、動けええええええ!!」
「させ、ないっ!!」
 けれど悠里の拳をニニギアが受け止めた瞬間、フリーになった夏栖斗の指が子供の細い首を絞める。
 救いたいと、誰一人失いたくないと。そう思ってやって来た。
 彼らのその手が、人質の命を、奪う。ごきりと言う音。ぶらりと、垂れ下がった両の手。
「ああああああああああああああああああああああああ!!」
 それでも、彼らは命を賭けて、力を尽くして、2人の少女を救い出す。
 館をとび出し、身動きの取れない人質25人を引き摺って。
 背に聞こえたのは、戯れるような笑い声。そして命絶たれた少女の胸に振り下ろされる刃物の音。
 玄関で待つ悠月とアナスタシアが見たのは、酷く焦燥し、傷付き、脱力した仲間達の姿。
 タイムリミット。13分、20秒。『バッドダンサー』の姿を見る事も無く、
 戦わない、と言う決断をした彼らは此処に1つの確かな勝利を得る。
 けれど、その現実すらも何かに蝕まれる様に。悪夢(バッドドリーム)に救いは無い。

 生存者、25名。死者、5名。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
参加者の皆様はお疲れ様でした。STの弓月蒼です。
ハードシナリオ『<裏野部>Bad Dream D side』をお届け致します。
この様な結末に到りましたが、如何でしたでしょうか。

戦わない、と言うのも間違い無く1つの勇気ある決断であろうと思います。
それによるリスクは有ろうとも、達成した成果と救われた人々の命は尊い物です。
ただ、余談では御座いますが。此方で『バッドダンサー』を討つ。
と言う選択肢も有った事等挙げて一先ずこのBad Dreamを締め括らせて頂きます。

この度は御参加ありがとうございます。またの機会にお会い致しましょう。