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もりのくまさんはーとふるものがたり

●“クマ”
「クソ! なんだあのクマは?!」
「速い……速すぎる!」
 森の中、複数の男達の声が響く。
 それらの声はいずれも焦燥に満ちていた。彼らの視線に映るのは、非常に素早く動く5つの影。
 影の正体はいずれも“クマ”である。大小の違いはあるが、いずれも間違いなく“クマ”だった。
「うわぁ!!」
「次郎――! クソ、次郎がやられたぞ!」
 男達の手には猟銃が握られている。が、そんな物は目の前を駆ける“クマ”達の圧倒的な速さを前にしては、何の意味も成していなかった。
 影がすれ違う度一人、また一人と地面に倒れていく。
「このままじゃあ全滅だ……! こうなったらせめて一矢報いてやらぁ!」
 リーダーと見られる男が猟銃を“クマ”に向け、引き金を絞り上げる。
 一発、二発、三発と銃声が轟く。しかし当たらない。木に当たり、地面を抉り、草を穿つものの、肝心の“クマ”には一切当たらないのだ。
 やがて最も大きなクマ、正確な種類を述べるならヒグマが男へと向けて突進する。
 銃弾を回避し、弾込めの瞬間を狙って地を蹴った。
 その瞬間、ヒグマは勝利を確信する。完全に己の間合いだ。銃を持った人間達の間合いが遠距離だとするならば、近距離は自分達の間合い。だからこそ確信した。
 ――自分達の勝ちだと。
 故に吠えた。勝利の雄叫び、獣の声を持って、吠えた。力の限り――吠えた。
「――パンダァ――!!」

●クマじゃねぇ
「……という訳でね。今回お前達に頼みたいのは森に出現する“クマ”達の退治で――」
「ちょっと待てコラァ――!!」
 万華鏡の予知した未来を映像化したモニターの前で、『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)の冷静な言葉に周囲のリベリスタが一斉にツッコミを行った。
 彼らが気にするのは映像に映っていた中での最後のクマの言葉。なんというか、色々おかしかったあの言葉。
「なんだ、どうしたんだ皆いきなり。質問があるならまず手を挙げるようにな」
「じゃあ、一つだけ。……最期のあの鳴き声何?」
 一人のリベリスタが指先で示した先。モニターに映るのは片手を振りあげて止まっているヒグマの映像だ。
 伸暁は視線を一瞬映像へと向け、そして直ぐにまたリベリスタ達に向き直り、
「ああ、ラストのあれ? そうだなぁ、一言で言うなら――俺が知るか」
「匙投げたぁ――!?」
「まぁエリューション化した際になんか変な事起こったんだろ。主に声帯にダイレクトで」
 投げやりな伸暁の答えだが、恐らくはその通りなのだろう。
 でなければ、クマがあんな鳴き声を発するなどあり得ない。
 ただ、エリューション化したと言ってもあんな鳴き声になるとは誰が想像できるのだろうか。いやできない! 倒置法である。
「とにかく、ヒグマの鳴き声はどうでもいい。やってほしいのはこのヒグマを含めた総勢5体の“クマ”を倒してほしいと言う事なんだ」
 5体のクマ。それを聞いた一人のリベリスタが顔をしかめながら言葉を紡ぐ。
「E・ビーストが5体って訳か……」
「ん? 違うぞ。E・ビーストは2体。E・ゴーレムが3体だ」
 えっ? という表情のリベリスタ達。
 相手は全て“クマ”だと言うのにE・ゴーレムが混じっていると言うのはどういう事なのか――そんな疑問の感情を感じ取ったのか、伸暁は即座に答えた。
「ああそれがな、クマ人形混じってんだよ。あとアライグマも」
「クマ人形とアライグマ――!?」
「おいおいさっきの映像にも出てたぞ? ちょっとだけど」
 先程の映像、ヒグマ以外の小さな影はそれらだったのか。
 映像を戻して見れば、確かにいた。30~50cmぐらいの大きさのクマ人形が映像の隅から隅を駆けまわっており、猟銃を持った男達の撹乱を行っているようだ。
 その映像を見ながら伸暁が言葉を続ける。
「大体、俺間違った事は言ってないだろ? 全部“クマ”じゃないか」
「いやでもクマ人形はともかく、アライグマは名前だけでクマじゃ……」
「細かい事は良いんだよ」
「でもアライグマは」
「細かい事は」
 伸暁はリベリスタの肩に手を置くと、お客を前に演奏をする時のスマイル顔になり、
「良いんだよ!」
 半ば――いや、完全にゴリ押しした。
 さぁ森の中へとピクニックである。ただし、クマさんエンカウント率100%であるが。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:茶零四  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年05月15日(日)22:22
 はい、今回はクマさんの出るピクニックです。
 敵の強さに関しましては下記に記します。特別な能力などは持たない敵ですが、ヒグマにはご注意ください。
 弱い奴から倒して行くと、大変な事に成る可能性があります。

【敵】
 クマ人形A
 外見は可愛いクマ人形。E・ゴーレムのフェーズ1。体長はおおよそ50cm。
 総じて弱い。やたら弱い……のに、隙あらば敵の目玉をくり抜こうとしてくるため、やたら怖い。クマ人形の中では二番目に素早い。

 クマ人形B
 やたらモフモフしたクマ人形。E・ゴーレムのフェーズ1。体長はおおよそ40cm。
 スピードはあるが、総合的には弱い。石や木の棒をやたらと投げつけてくる。

 クマ人形C
 紙で作られたクマ人形。100%紙製のE・ゴーレムのフェーズ1。体長はおおよそ30cm
 防御力が紙。水に凄く弱く、この中で一番弱い。
 しかし俊敏さに関しては折り紙付きの速さ。クマ人形の中で最も速い。

 アライグマ
 クマじゃない。……のはともかくとして、E・ビーストのフェーズ1。
 例の如くこいつも弱い。そして例の如く素早い。戦闘の際は撹乱役の司令塔的存在となる。

 ヒグマ
 リーダー格のクマ。E・ビーストのフェーズ2。他と違ってやたら強い。体長はおおよそ4m。
 鳴き声は「パンダ――!」
 仲間意識が強く、仲間がやられる度に怒りの力によって強くなっていく。
 最終的に、仲間がやられていない状態よりもかなり強くなります。

【戦場】
 とある森の中。木や草が生い茂っていて、真昼でも薄暗い印象を受ける場所です。
 直線に進もうとしても多くの木が邪魔します。草で良く見えませんが、急な段差があったりもします。非常に足場が悪いです。
 近くには川幅1m・水深3cm程度の小川もあります。

【一般人】
 猟銃を持った男達(計4人)。
「妙なクマが居る」
 との報告を受けて調査しに来た男集団。ただのクマならともかく、流石にエリューション化したクマには歯が立ちません。
 戦闘に入る前に説得して帰ってもらうか、あるいは殴り倒して気絶させるか、いっその事放っておくのも手です。
 放っておいた場合「人がクマに襲われている!」と勘違いし、援護してくれます。ただしほとんど役に立ちません。むしろ邪魔になる可能性はあります。
 そして、一応彼らは仕事で来ていますので、説得は結構難しい物と思ってください。
 どの選択を選ぶかは、皆さんの自由です。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
デュランダル
結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)
ナイトクリーク
斬風 糾華(BNE000390)
ソードミラージュ
天月・光(BNE000490)
ソードミラージュ
仁科 孝平(BNE000933)
スターサジタリー
マリル・フロート(BNE001309)
スターサジタリー
襲・ハル(BNE001977)
デュランダル
小崎・岬(BNE002119)
ホーリーメイガス
月杜・とら(BNE002285)

●クマの前に
 太陽が真上に上る時刻。とある森の前に猟銃で武装した4人の男達が集まっていた。
 彼らは近隣の住民から依頼を受けて調査に来た集団である。住民曰く、“夜になんか変な鳴き声聞こえて怖いんだけど”との事らしい。
 まあそんなこんなで森に来た猟師集団だったが、
「ぐああ……な、なんだお前らは……!」
 いきなり皆仲良く地面に倒れ伏していた。集団の背後には複数の人影が居て。
「悪いな――だが、徹夜で(潜入系ゲームで)練習した俺に隙は無いんだ……!」
「眠ってて下さい。クマ……いや、クマ……? ……とにかくクマは私達が何とかしますので」
『合縁奇縁』結城 竜一(BNE000210)と『宵闇に紛れる狩人』仁科 孝平(BNE000933)が武器を構えていた。
 竜一は刀の峰部分で、孝平はレイピアの柄の部分で猟師達を頭から殴りつけたのだろう。猟師達は倒れるものの、目立った外傷が無いのがその証拠だ。
「さて、これで良しと……それじゃあ安全な場所にこの人達を運びましょうか」
「そうね。幸い、森に入る前に対処できたし、近くの物陰まで運べば大丈夫でしょ」
「とらも手伝うよー」
 孝平の声に反応して木の陰から出てきたのは『箱庭のクローバー』月杜・とら(BNE002285)と『ガンナーアイドル』襲・ハル(BNE001977)だ。彼女達は協力して猟師達を森からは少し離れた木の根元まで運んでいく。
「ぬぅぅ……この人ちょっと重いですぅ……」
 しかし運んでいるのはハル達だけではない。男性である竜一や孝平はもとより『ぴゅあで可憐』マリル・フロート(BNE001309)も参加していた。ただやはり、気絶しているとはいえ成人男性を運ぶのは少々辛そうではあるが。
「マリルちゃん、ボクも手伝うよ。二人で運んだほうが速いだろうしね」
『斧槍狂』小崎・岬(BNE002119)がマリルに言葉を掛ければ、男性の脚を持つ。岬のおかげか、比較的に軽くなったその“荷物”を所定の位置にまで運べば――
「おーい皆ー!」
 丁度よく、クマが出る場所を調べていた『素兎詐欺』天月・光(BNE000490)が皆の元に駆け寄る。その片手には地図が握られており、
「クマの出現場所、分かったよーここからそう遠くない所だって!」
「あらそうなの。じゃあ早速そこに向かいましょうか」
『ナーサリィ・テイル』斬風 糾華(BNE000390)の言葉を皮切りとして、光の持っている地図を頼りに森の中へと歩を進めていく。
 この森に潜むはクマ。とても凶暴で、とても危険で、とても――妙なクマのいる森だ。

●パンダ!
 10分少々森を歩いた頃だろうか。
 リベリスタ達の耳に水の流れる音が聞こえてきた。――川だ。
「と、クマが出るのはこの辺ですかねぇー?」
 マリルが周囲に注意を払う。今の所はクマが近付いて来る様な気配は無い。
 が、油断は禁物だ。いつ出てくるか分かった物ではないし、いきなり奇襲される可能性も無い訳ではない。
「そうだね。この近くだよ……頑張ろうねハル君!」
「うん、そうね一緒に頑張りましょう――」
 光がハルの手を取り笑顔を見せる。対するハルも微笑みながら返事を返した――瞬間、ハルは視線を巡らせた。
 何か意図した訳では無い。ただ、なんとなく周りの光景を眺める様になんとなく視線を横に向けた……ら、
「……あれっ?」
“何か”いた。草の中に潜むように、“何か”がいた。
 あれは何だろうか。視界が悪くソレが何なのか確認できなかったが、彼女は直感でソレの正体を感じ取った。
 まさか。という思考が考えを纏めるよりも先に、反射に近い形でハルは叫ぶ。自身のショットガンを草むらに潜むソレに向けながら――
「皆、気を付けて! もうそこにいる!」
 引き金を絞り上げた。銃声が響けば、周囲の視線は一気にそちらを向く。
「あれは――!」
 続く言葉は孝平だ。
 彼は見ていた。ハルが銃を向けるのに気付いて咄嗟に回避行動に移ったソレを。
 そして彼は見た。回避した先でソレがこちらに視線を向けるのを。間違いない、あれは――
「パンダ――!」
「いや、君はヒグマでしょうが――!」
 ヒグマの叫びが森に轟く。もう一度言おう……アレはパンダでは無くヒグマである!
 ブリーフィングで目にしていたとはいえ、あまりの現実にツッコミを入れたのは岬。当のクマは、えっ? という顔を向けている。何故疑問しているクマよ。
 そんな様子を見ながら孝一が、そうです! と前置きしてから、
「それは白黒でササが主食の奴だけに許された叫びですっ!」
「ねーよ! パンダだってあんな鳴き声するか――!」
 竜一もツッコミ入れながらヒグマを見る。
 どうもやる気満々の様だ……右前足をまるで、土を掻く様に動かしている。
「あ、ぬいぐるみも出てきたみたいですよぉ!」
 マリルが指で示した先、ヒグマの背後には4つの影が確認できた。
 情報通り3体のクマ人形とアライグマだ。いずれも威嚇するかの様にリベリスタ達を睨みつけている。
「さて、向こうも気合いは十分みたいだし……」
「作戦通り分断しようか。おぉい! そこのアライグマは論外として、人形の癖にクマを名乗るなんて生意気だぞ!」
 糾華の呟きの後に光がクマ(?)を挑発すれば、クマ達の視線が一斉にそちらへと集中する。人の言葉を理解できてはいないだろうが、馬鹿にされているのは感付いたのだろう。
 殺気が膨らむ。無論クマ達の、だ。
「にははは~悔しかったらぼくをやっつけてみるのら!」
 小川へと向けて駆ける。
 そして、間髪入れずに追うのは5体のクマ。クマと言うには怪しいのもいるが、とにかくクマ。
 だがその数が、
「おっと、貴方はここでストップです」
「ぬぁー! 行くよ、アンタレス!」
 1つ減る。ヒグマの前に立ちふさがったのは孝平と岬。各々武器を構えながらヒグマを押し返さんと、迎撃した。
「回復はとらに任せてねー! 傷は付けさせないよ!」
 後方の位置に低空飛行を続行しながらとらが居る。絶妙な位置だ。アライグマ班の方へも回復が届き、ヒグマ班の方へもフォローが可能な位置。
 さて、これで戦いの場は整った。
「さぁクマさん……」
 糾華が前に出る。ヒグマと相対できる場所へとだ。
 言葉が続く。戦闘の始まりとなる言葉へと。
「私達とダンスを踊りましょう。命懸けの、ね!」
 言葉と同時、糾華の足元から影が伸びる。
 戦いが今――始まった。

●パンダ――!
「まずは挨拶代わりだ……よっ!」
「行くぞクマ(?)共! 我が二刀の刃の網を抜けれると思うか!」
 小川の近く。そこでは光と竜一が人形達の相手をしていた。
 もっとも、相手をしていると言っても足止めをしていると言った方が正確だ。その証拠に、武器を振るってはいるが当ててはいない。牽制の様な物だ。
 光は紙で出来た人形にカラーボールを投げつけて牽制している。動きが早いため、中々当たらないが、牽制目的ならば十分に効果を発揮できている。
 ――しかしクマ達もそう甘くは無い。
「竜一君! そこは危ない!」
 とらの声が向けられる。
 クマ達も弱いなりに必死だ。木の棒や石を連続的に投げて撹乱を図っている。
 まぁ石を投げられるだけなら怖くは無いが、
「おっとぉ!」
 人形の一体が竜一の目をくり抜こうと度々顔に向けてジャンプしてくるのが危険だ。
 とらの一言によって竜一は機敏に回避したが、足止めも中々にキツイ。相手を倒さないのなら尚更である。
 そんな攻撃の意思が無い様子を見てか、アライグマが一斉攻撃の合図を出そうと――したが。
「ほーら林檎だよー」
 とらが林檎を投げた。美味しそうな赤い林檎だ。
 それを見たアライグマはジャンプしてキャッチ! 凄まじい早さを伴って小川へと走って行く。
「あ、洗ってる! あのアライグマ洗ってるよ林檎ー!」
 戦いの最中に致命的な隙を見せているアライグマだが、本能には勝てないらしい。一心不乱に林檎を洗っている。
 まぁ、おかげで人形達の動きに若干の乱れが発生しているので、リベリスタ達にとっては良かったと考えるべきだろうか。
 一方でヒグマの方は、
「さて――こっちも頑張らないとね!」
 ハルが再びヒグマへと向けて引き金を絞り上げる。銃弾が真っすぐにヒグマへと向かえば、再びステップする様に回避行動を。
 だがその回避した先に飛来する物がもう一つ。銃弾では無いそれは、弓の矢で。
「パンダァ――!?」
「あうぅ……なんか気が抜けるですぅ」
 思わずクマが悲鳴を挙げる。矢の主はマリルだ。
 ヒグマのあの奇妙な鳴き声を聞いて一瞬緊張が削がれるも、次の弓矢を準備するのは忘れない。
「パンダァ……!」
「クマさん。こっちを忘れてもらっては困るわよ?」
 一瞬マリルへと逸れたクマの意識。その隙を糾華は見逃さなかった。
 ヒグマの懐へと潜り込めば、右手をしっかり体へと付ける。
 そして起こるは――爆発だった。
「パン、ダァ……!?」
 右手よりオーラを送り込んだのだ。内に潜り込んだソレを爆発させれば、効果は十分と言える程あった。
「! 糾華さん、そいつからはなれてぇ!」
 しかし、ヒグマとて攻撃を受けてばかりでは無い。マリルの注意の言葉が飛ぶが、一瞬遅かった。
「っ、しま、った!」
 瞬間、糾華の体が“浮いた”。
 クマが前足を振るったのだ。糾華の居る方向へと右足を持ちあげ、回転する形で振るう。
 それだけで彼女の体は持ち上がった。そのまま背後の木へと、叩きつけられる。
「か――はっ!」
 嫌な音が鳴る。骨の軋む音だ。幸いにして折れてはいないようだが。
 ヒグマは追撃しようと地を蹴る。弱った者から終わらせるのは狩りの常識でもある。
「そうは、行きません! 離れてもらいますよ!」
 だが孝平が間に割り込み、動いた。防御では無く攻撃へと転じる動きだ。
 レイピアを構えた彼の体が増えた……ように見える。無論、幻影だ。しかしヒグマにとってそれは驚愕に値する出来事。
 思わずヒグマがステップを踏み、孝平から離れ――
「チャ――ンス!!」
 ――た直後、ヒグマは背後から襲撃を受けた。
 いや正確に言えば、ヒグマが跳び退いた先にたまたま岬が居ただけではあるのだが、岬にとっては本当にチャンスだった。
 足場が悪く、移動しにくかった矢先に相手が飛び込んできたのだ。それも後ろ向きに。
 これをチャンスと言わず、
「なんと言うのかしらね……!」
 丁度弾倉を変え終わったハルも同時に攻撃を仕掛けた。
 ショットガンの弾がヒグマへと向かう。先程から降り注ぐ攻撃の嵐に、さしものヒグマも徐々に劣勢になりつつあった。
「糾華ちゃん! 今回復するね……!」
 とらが負傷した糾華に向けて詠唱を始める。
 直後に柔らかな風が糾華を包み、その体の傷を僅かにだが癒して行った。
「……ぅ、大丈夫。有難う。ヒグマは……そろそろかしらね?」
 糾華が視線を向けた先。そこには――体から血を多く流していたヒグマの姿が。
 これならば、事前に立てた作戦通りに行くならばそろそろ“頃合い”だろう。
「……竜一君! 向こうは整ったみたいだよ!」
 小側の近く。レイピアを持ち、アライグマ達の相手をしていた光はヒグマ側の戦況の様子を感じ取ったのか、竜一へと声を掛ける。
「そうか! よし、じゃあ誘いこんでみるか!」
 牽制目的の攻撃を続けつつ、竜一はヒグマの方向へと向かって走った。それに光も続く。
 人形の指揮を執っていたアライグマはようやく正気に戻ったのか、ヒグマの方へ走るリベリスタを見ると、追撃の指令を出した。
 追って、追いかけられ、次第に距離が詰まる。そして、竜一達は傷付いているヒグマを避けて通り越し、人形達はヒグマと合流する形となった。
 ――故にこそ、好機だこれは。
「そう、好機ですぅ……!」
「一網打尽にするための――ね!」
 丁度のタイミングだ。
 人形達が合流した、その丁度のタイミングで――マリルとハルは同時に攻撃を仕掛けた。
 一方は弓の連撃、もう一方は複数の光弾を一か所に固まったクマに向かって放つ。
 全ての敵を一度に倒すため、クマの強化を極限まで遮るために。
「パンダァ!?」
 リベリスタ達の狙いに気付いたヒグマだが、もう遅い。
 攻撃は直ぐ傍まで迫っていて。
「パンダァ――!?」
 また奇妙な絶叫と共にクマ達は全員、攻撃の波に飲み込まれた。

 されど、

「……まだ生きてる!?」
 孝平はレイピアを構えながらヒグマを見据える。
 立っていた。紙人形と一番早かった人形は倒れたものの、他は傷付きながらも健在。
「でもこれが最後だよ!」
「冥土の土産に教えてやる。アライグマよ、お前って、別にクマじゃないんだぜ?」
 だからこそ行動は早かった。岬はアンタレスを構え、残った人形に輝きを伴いながら突撃を仕掛け、竜一も驚愕しているアライグマを刀で一閃。
 ヒグマの怒りが頂点に昇り、膨大な殺気がリベリスタ達に向く。

 されど、されども――行動の時間を与える程、リベリスタ達は甘く無かった。

「さあこれで、ダンスもお仕舞い。さようなら」
 背後より接近した糾華が軋む体を押さえてクマにオーラを放つ。
 爆発が生じるオーラを。そしてその爆発こそが――戦いの終わりの音となった。

●パンダ……
「恐ろしい敵でした。でもこれが最後にしてもらいたいものです。第2、第3のクマたちが出てきたら……うん……」
 戦いは終わった。レイピアを仕舞いながら、孝平は呟きを。
 確かにあんなクマはこれっきりの方が良いだろう。色々な意味で。
「ふむぅ……ちょっとぬいぐるみもふもふしたかったかもですぅ……」
「うーん、というかこの人形って本当に一体どこから……」
 倒れている人形の内、やたらモフモフした人形をみつめるマリル。というかあの人形達は一体どこから現れたんだろうかと不思議がるのは岬。
 まぁ考えても仕方ないと首を振れば、
「なぁ……クマ肉って、旨いんだろうか?」
「え、まさか食べる気?」
「いやなんとなく思っただけだが」
 ――という竜一の言葉が聞こえた。
 思わずハルが聞き返すがどの道、調理器具はおろか火すら無いので仕方ない。諦めよう。
「ま、何はともあれ倒せて良かったね!」
「そうね……全く。パンダーとか言ってる暇があるなら可愛さを磨けば良かったものを」
 陽気な光の声が響く。確かに鳴き声がちょっとおかしいクマだったが、しっかりと倒せた事は純粋に喜ばしい事だ。これでこの森も安全になるだろう。
 木の幹を背にして座っている糾華は、ヒグマを横目で見ながら立ち上がる。可愛く無いのは問題外だわ、という言葉を残し、歩いてきた道のりを戻っていく動きを。
「さてじゃあ――帰ろうか! あ、そう言えば猟師さん達大丈夫かな……帰りに見てみようか」
 とらの言葉に皆が同意し、出口へと歩を進める。
 これ以降、この森で奇妙な鳴き声が聞こえる事は無くなった。森に平和が戻り、狂暴なまでに力を持ったクマは――消えたのだ。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 お疲れ様でした。これにてパンダー! は終了です。
 書いてる最中何度、ヒグマと書くべき場所をパンダと書いた事か……
 一部、重傷になるかなーという場面がありましたが、判定結果は重症ではありませんのでご安心ください。

 さて、パンダ……じゃない。クマの話はこれで終わりです。
 依頼成功クマ討伐完了おめでとうございます!