●舞い遊ぶ花たち ――くすくす。 ――くすくすくす。 梅の花が咲き誇る林で、童女たちが笑い声を響かせる。 紅、白、桃色。とりどりの梅の花を、一輪ずつ頭に咲かせて。 ――ふふ。 ――うふふふ。 童女たちが、楽しげに笑うたびに。 梅の木の周りを、踊るように飛び回るたびに。 紅白桃の花びらが舞い、梅の香が漂う。 ――ねえ、あそぼうよ。 ――あそぼうよ。 童女たちは、ただ無邪気に遊び相手を待っている。 ●梅花咲く林 「山奥にある梅の林に、梅の花のエリューション・エレメントが現れた。皆には、それを全部倒してきてもらいたい」 『どうしようもない男』奥地 数史(nBNE000224)は、ブリーフィングルームに集まったリベリスタ達に向けてそう言った。 彼の言葉からすると、相手は複数のようだが――。 「数は全部で二十体だな。能力的にはどれも変わらないが、すばしっこくて攻撃を当て難いんで注意は必要と思う」 ぎこちない様子で端末を操作しつつ、必要な情報をモニターに表示させる。 「見た目は15センチほどの小さな女の子で、頭のてっぺんから梅の花を咲かせている。基本的に梅の木の周りをふわふわ飛んで無邪気に笑ったり遊んだりしてるだけで、悪意は無いんだが……」 往々にして、『悪意が無い』ことは『害が無い』こととイコールにならない。エリューションであれば、尚更だ。 「人が近付けば、彼女らは笑顔ではしゃぎながら攻撃を仕掛けてくる。もっとも、当人たちは『遊んでいる』といった認識なのかもしれんが――それを一般人が食らえば、まず助からんだろうな」 幸い、現場は人が滅多に立ち入ることのない山の中だ。今のうちに対処すれば、犠牲者を出すことなく終えられるだろう。 よろしく頼む、とリベリスタ達に頭を下げた後、数史は思い出したように「あ、そうそう」と口を開く。 「無事に戦いが終わったら、梅の花でも見てきたらどうだ? ちょうど満開だし、梅の木そのものはエリューション化を免れているからな」 そう言って、彼は手の中のファイルを閉じた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:宮橋輝 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2012年02月26日(日)23:16 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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●いざ梅の林に 「今年最初のお花見ー☆ 数史さんも時間空いてたらお花見行く~??」 「行きたいのは山々だが、そういう訳にもいかんだろうなあ」 リベリスタ達が出発する前、『ハッピーエンド』鴉魔・終(BNE002283)に誘われた数史は、頭を掻いて残念そうに言葉を返した。戦えない自分が楽しむためだけに同行するのは申し訳ない、ということらしい。 「ありがとな、俺の分も楽しんできてくれ。気をつけて行ってこいよ」 数史はそう言って笑い、終を見送った。 抜けるような青空の下、山の中を歩くこと数十分。 ようやく辿り着いた梅の林は、まさに今が満開だった。 紅に白、そして桃色。三色の花が一面に咲き誇り、梅の香を漂わせている。 木々の向こうにひときわ見事な梅の木と、その周囲を舞うエリューション・エレメントたちの姿を認めて、『シスター』カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)がわずかに溜め息を漏らした。 「梅の花の精……ですか。小さくて可愛らしいようですし、倒してしまうのに少し気がひけますね……」 頭に梅の花を咲かせ、無邪気に舞う童女たち。 しかし、崩界を促す以上は、ここで倒さなければならない。 周囲の魔力を己の身に取り込むカルナに続いて、リベリスタ達が自らの力を高める。 終とともに身体能力のギアを上げた『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)が、木々に身を隠しながら耳を澄ませた。花の精たちが囁く声を聞く限り、彼女らはまだこちらに気付いていない。『紫煙白影』四辻 迷子(BNE003063)も、鋭い観察眼で花の精の動きを警戒していた。 何より恐ろしいのは魅了の力。味方が強力であるほど、その脅威は増す。 足場に問題がないことを確かめた後、『朔ノ月』風宮 紫月(BNE003411)が印を結んで防御結界を展開した。『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)、『初めてのダークナイト』シャルロッテ・ニーチェ・アルバート(BNE003405)が、闇の衣を纏う。 「ふっ、ついに我の秘められし真の力を解放する時は来たようだな!」 そう言って胸を張ったのは『黄昏の魔女・フレイヤ』田中 良子(BNE003555)。ちなみに良子と書いてフレイヤと読む。 この世に生を授かり早十三年。世界の終焉を食い止めるべく降臨した女神を名乗る彼女も、小学校では同級生の冷めた視線に晒されたものだ。それを思い出すと、少し……いや、すごく泣きそうになったりするが。 そんな過去の記憶に心を抉られつつ、良子(と書いてフレイヤと読む。以下省略)は己を鼓舞するように声を上げた。 「――皆の者! 我の救世を見ているが良い!」 木々に身を隠しながら、リベリスタ達が梅の木に駆ける。 彼らはそのまま、花の精たちを急襲した。 ●花に舞う 「妖精さんあっそびましょ~♪ そりゃ☆金平糖シャワー☆」 真っ先に敵陣に飛び込んだ終が、カラフルな金平糖を自分の周囲に撒く。 花の精たちを出来る限り梅の木や後衛たちから引き離し、纏めて攻撃する狙いである。 可能ならコンセントレーションで命中率も上げたいところだったが、この手のスキルは常に上書きされてしまうため、ハイスピードと同時に用いることはできない。 ――それ、なあに。 興味を惹かれたらしい花の精が、終に視線を向ける。彼とは別の方向に走った浅倉 貴志(BNE002656)が、攻防一体の構えから己の拳に冷気を纏わせた。 「梅の花を愛でるにはその前にすべきことがありますね」 繰り出された拳が花の精を捉え、小さな体を凍りつかせる。倒すより、まずは動きを封じることが優先だ。 ――くすくす。 ――ねえ、あそぼうよ。 ――あそぼう。 「ええ、一緒にあそびましょう」 花の精たちが誘う声に、舞姫が答えた。薄布の長いストールを天女の羽衣の如く纏い、軽やかに駆ける。 「舞い踊りましょう。歌いましょう。――こちらにいらっしゃい」 彼女の手の中で、“戦太刀”がくるくると舞った。武骨な太刀を操ってなお、その動きは美しい。 はしゃぐ花の精たちにそれと気付かれることなく、舞姫は残像を伴う華麗な剣舞で攻撃を加えていった。 「エリューションでなければこちらも愛でたいものじゃが……まあ仕方無い、踊ってやるとしようかのう」 迷子が、ひらひらと宙を舞う花の精たちを眺めて目を細める。花を楽しむためには、梅の木を傷つけず敵を倒さねばならない。彼女は花の精に接近し、流水の構えから真上に蹴り上げるように斬風脚を放った。真空の刃が、花の精の一体を傷つける。 ――うふふ。 ――あそぼうよ。 攻撃を受けても、花の精たちは笑みを崩さない。 ある者は花弁を散らして楽しげに舞い踊り、ある者は梅の芳香を漂わせる。 回避力の高い前衛たちに引き寄せられた者も多かったが、今はどうにも数が多い。 抵抗及ばず警戒心を奪われ、花の香に惑わされた仲間達に向け、紫月が神々しい光を放った。 紫色の瞳には、わずかに陰りが見える。 「確かに、悪意がない、という事だけでは被害が出ないとは限りませんから……」 崩界を助長するエリューションを倒すのは、リベリスタとしては当然であり、仕方がないことだ。 けれど。こうやって頭の中で理由を並べ、『仕方がない』と納得する自分を思うと、憤懣を覚える。 (……まだまだ未熟です) そんな紫月の前には『猛る熱風』土器 朋彦(BNE002029)が立ち、彼女を己の背に庇っていた。 彼の役目は、魅了の解除を担う紫月を守り抜くこと。万が一を考え、攻撃のためのスキルは全て外してきている。 強い決意をもって、朋彦は紫月の“盾”に専念していた。 「恐縮ですが、よろしくお願いいたします」 自分を庇うため前に立った葬識に、カルナが声をかける。必要なタイミングで仲間達に回復を届けるため待機する彼女に、葬識が言葉を返した。 「君の王子様ほどかっこよくはないけどねぇ~」 そう言って、己の生命力を糧にした暗黒の瘴気を撃ち出す。軽い口調とは裏腹に、狙いは的確だった。仲間が攻撃した花の精たちを巻き込み、追撃を加えていく。 舞い踊る三色の花の精を眺め、シャルロッテは己より大きな強弓に矢をつがえた。 「綺麗だけど危害を加えるのは困るの悲しいの。消してあげるしかないのね……」 惜しむように言って、彼女は狙いを慎重に定めていく。 的が小さく、動きも素早い。確実に当てるには、充分な狙いが必要だ。 良子もシャルロッテと同様、自らの集中を高めていたが、その表情はどこか強張っている。 無理もない。家出同然でアークにやって来た彼女にとっては、これが初めての実戦だ。 威勢を張ったは良いものの、エリューションなどという得体の知れないものは恐いわけで。 「……しかしながら、我が下々の者に格好悪い所を長々と見せるわけにもいかぬ」 良子は真っ直ぐに花の精たちを見据え、大きく息を吸った。 カルナの清らかな詠唱が、梅の林に天使の歌を響かせる。 花の精を引き寄せた終と舞姫が、残像とともに白刃を鮮やかに煌かせた。 二人の周囲で、梅の花弁が吹雪のごとく舞う。 次々に寄って来る花の精を着物の袖でぺちぺちと払いながら、迷子が真空刃を伴う蹴りを再び放った。今回、用意してきた技はこの斬風脚のみ。業炎撃は、魅了された際に梅の木を燃やす危険があるので置いてきている。 花の精の攻撃からカルナを庇う葬識は、口と鼻を覆って梅の香に耐えていた。神秘の力を物理的な手段で抑えきることは難しいが、万が一屈したとしても仲間達の回復がある。 紫月が、ブレイクフィアーで惑わしの香りを打ち払った。 「これだけ数が多いと厄介ですね……! けれど……!」 魅了での同士討ちさえ避ければ、一撃で窮地に陥る可能性は低い。敵の数を減らすまで仲間達を支えるのが、彼女の役目。 輝く光に包まれて我に返った良子が、ふと一計を案じる。 (我は超大物新人ではあるが今回の仲間内では最も弱い。……ならばいっそ、我が積極的に魅了を惹きつけた方が良いのではないか?) そうと決まれば。良子は声も高らかに、花の精たちに向けて呼びかけた。 「童女共よ! 我が存分に遊んでやろう! さぁ、その芳しい香を嗅がせてみよ!」 ――くすくす。 ――あそぼうよ。 花の精たちが、楽しげに良子のもとへ飛ぶ。 ●梅花の宴 童女たちが、ころころと無邪気に笑う。 宙を自在に舞う、小さな花の精に攻撃を当てていくのは困難が伴うが、熟練の技で命中力を高めたリベリスタ達をもってすれば、決して不可能ではない。 直撃を避けられたとしても、掠っただけで耐久力に劣る花の精にとっては痛手であったし、彼女らに自らを癒す手段はない。着実に攻撃を重ねていけば、いずれは数を減らせる。 梅の香で惑わされるのが厄介だが、後方にはカルナと紫月が二段構えで備えており、回復漏れがないよう全体を視野に収めていた。 希薄に漂う“聖神”の意思を読み取ったカルナが、詠唱によりその力を呼び起こす。 具現化された癒しの息吹が仲間達の惑いを払い、さらに傷を癒していった。 常人の倍速で動く終が、残像を纏ってナイフを振るう。花の精たちを斬り付けながらも、梅を木を傷つけぬよう注意するのは忘れていない。 「――残り、十二!」 力尽き、花を散らしながら消えていく花の精を視界の端に映し、舞姫が声を上げる。 数の多い敵を相手にするにあたり、討ち漏らしを防ぐための確認だ。 身軽に地を蹴った迷子が、梅の木を傷つけぬよう角度を調整しながら、地面すれすれを飛ぶ花の精に向けて蹴撃を放つ。 真空の刃を受け、また一体が消えた。 数を減らしたとはいえ、敵はまだ十体以上が残っている。 紫月がブレイクフィアーで仲間達の隙を払う中、葬識が禍々しく歪な大鋏を構えた。 「まったく、こんなにいっぱいいるとかたぁいへん。か弱くてお仕事熱心な殺人鬼は遊ぶのとかむりだしぃ~」 しつこく寄って来る花の精に、魔具と化した大鋏を繰り出す。 可憐に笑う童女が両断されると同時に、大鋏を覆う赤き光が精を喰らった。 「命を懸けた遊びなんて遊びじゃないよー?」 集中を充分に高めたシャルロッテが、満を持して強弓を射る。 生命力を糧に生み出された暗黒の瘴気を帯びて、幾本もの矢が花の精たちへと突き刺さった。 シャルロッテの失われた体力を、カルナが奏でる天使の歌が癒す。 また一つ、梅の花が散った。 舞い散る花弁とともに、花の精が消えていく。もう半数を切っただろうか。 魅了への警戒は怠らぬようにして、リベリスタ達はさらに攻撃を加えていく。 冷気を帯びた終のナイフが、頭に咲いた梅の花ごと、童女を凍りつかせた。 「梅シャーベット……」 それを見て、思わず呟く終。 凍ったのは梅の実ではなく花だが、細かいことは置いておく。 迷子が空中から斬風脚を放ち、真空刃によってまた一体、花の精を屠った。 ――くすくす。 ――うふふ。 切り裂かれ、瘴気に蝕まれても、無邪気に笑う童女たちの表情に陰りはない。 仲間が散ったことすら、おそらく理解していないだろう。 しかし、数が減ったことは確実に戦況に変化をもたらしている。 梅の香で惑わされた仲間がいないことを確認して、紫月が自らの呪力を天に放った。 仲間に庇われ、安全な場所から行動を起こすのみではなく。より能動的に――。 「一手、一手をより確実に決めていきます……!」 にわかに空が陰り、全てを凍てつかせる魔の雨を降らせる。 氷を纏う花の精たちを見て、葬識が「梅の花は美しく~」と歌うように言った。 禍々しき大鋏を手に、彼は血の色をした赤い目を細める。 「悪意は無くても害悪は与えるのなら、それはとってもよくないよね! とってもよくないよね!」 どこか嬉しげに言って、葬識は暗黒の瘴気を花の精たちへと放った。 瘴気に蝕まれて消えていく花弁を視界の隅に留め、正義のリベリスタだからたおさないとねぇ――と呟く。 「でも、可愛らしいから心いたんじゃう」 体格に見合わぬシャルロッテの強弓が瘴気の黒矢を射ち、集中を重ねた良子が正面にいる花の精を睨む。 「我の命中率の低さは祭りの射的屋で十二分に分かっておる……!」 周囲に展開した魔法陣から魔力の弾丸が飛び出し、花の精を捉えた。 ここまで回復に徹していたカルナが、初めて攻撃に移る。 「これもお仕事です。――私達の為すべきを、正しく為すとしましょう」 害を為す可能性がある以上、エリューションの存在を看過するわけにはいかない。 厳然たる意志を秘めた聖なる光が、残る花の精たちを灼いた。 ただ一体残った花の精に向けて、舞姫がステップを踏む。 「早春に花香る宴――舞い踊り、楽しませて頂きました」 幻惑の剣舞が、軽やかに鮮やかに、最後の花を散らす。 ――梅の花、主なしとて春な忘れそ。 「また来年も素敵な花を咲かせてくださいませ」 鈴を転がすような笑い声が、舞姫の耳に届いた。 ●青空の下に花を愛で 「最近は花見といえば桜じゃが、梅もよいものじゃ」 迷子が、見事な梅の木を見上げて目を細める。リベリスタ達の配慮により、梅の木が傷つくことはなかった。 後は、満開の梅の花を愛でるのみである。 「こんな晴れた日に梅の美しさをたのしめるだなんて、アーク最高だよねぇ~」 そう言って伸びをする葬識の傍らでは、皆が持参した弁当を広げ、花見の準備を進めていた。 密かに楽しみにしていた貴志が、準備を手伝いながら並んだ弁当を眺める。 左から順に。 まずはカルナ作、特製サンドウィッチ。 本人曰く「大丈夫、要らない事はせずにシンプルな物を普通に作ってきましたので……」とのこと。 普段どのような隠し味をしているかが気になるんですが。 お次は紫月のお手製、重箱入りの弁当。 鶏のから揚げやおにぎりなど、定番の家庭料理が並ぶ。 味付けは少し薄めに、健康的。 続いては、終の力作。 「料理できる子、終君でっす☆」の言葉通り、女性陣にも負けていない凝りっぷり。 花模様の太巻きに出汁巻き玉子、魔法瓶入りの吸い物には山椒が香り、温かいお茶を添えて。 デザートはバナナのオムレットケーキと苺大福で完璧。 そして舞姫。 「ぱぱぱぱっかぱー♪ ゆーでーたーまーごー!」 大量の茹で卵を、上機嫌で皆に配っていく。 「え、固茹でですよ? 半熟とか、そんな高度な調理テクニック無理だよ!?」 「舞りゅんも、うん、頑張れ……」 終の呟きは、果たして彼女に届いたのかどうか。 弁当が揃ったら、皆でそれを囲んで和やかな花見。 「アークが誇る女子力高い子たちのお弁当たべれるって幸せだよねぇ~」 とは、葬識の言。男子もひとり混ざってますよお兄さん。 「日本のお弁当ってどんな感じなのかな?」 並んだ弁当を横から眺めつつ、シャルロッテが口を開く。 彼女が自分で包丁を握ったのは、数えるほどしかない。 どれも美味しそうだけど、何も作っていない自分が食べてもいいものかと悩む彼女に、終が料理を勧める。 「ささ、食べて食べて☆ いっぱい食べて」 花模様の太巻きと出汁巻き玉子の乗った皿を受け取ったシャルロッテは、持ってきたお菓子を弁当の横に置き。 「辛いのや酸っぱいのはあんまり好きじゃないの、甘いのがすきー」 そう言って、左右で色の異なる目を細めた。 待ちに待った梅タイム、そして弁当。 梅の木の下で弁当が食べたいという要望に応えてくれた心優しい仲間達に感謝しながら、良子はもぐもぐと幸せそうに弁当を食べる。 「作ってきてくれた者には我が直々に頭を撫でてやろう。光栄に思うが良い!」 そして、弁当の作り主たちの頭を撫でに行った。 「んー、綺麗な花を観ながら、おいしいごはん!」 「ひゃっはー☆ 梅の花で絶賛風流を満喫中ー」 弁当に舌鼓を打つ舞姫に、明るい終の声が重なる。 花より団子という言葉もあるけれど、ここはやはり両方楽しみたい。 「役得というやつです、楽しんでから帰りましょう」 紅白に桃、三色の花を眺めて表情を綻ばせたカルナが、折角なので数史さんもいらっしゃれば宜しかったのですけどね、と言葉を続ける。 「綺麗、ですね……。少し、何かを思わない事もないですけれど」 ゆるりと梅の木を愛でる紫月が、そう言ってわずかに紫色の瞳を揺らがせた。 そこに、朋彦がお疲れ様の意味を込めてカフェモカを差し出す。 彼のコーヒーは、金属フィルターのドリッパーを使ってその場で抽出したものだ。 「疲れた時にはこれが一番だよ。……梅の香と合えばいいんだけどね」 笑いかける朋彦に礼を返して、紫月がカフェモカを受け取る。 「それにしてもあれじゃよなー、最近の若いものときたら花見した後の後片付けもせんで帰ると聞く」 風に舞う梅の花弁を眺めていた迷子が、ふと口を開いた。 「そもそもあんまり大騒ぎするのもどうかと思うのじゃよ! 庭に咲く一本の梅や桜眺めて一人や二人で静かに過ごす方が風流じゃし!」 喋り出したら止まらなくなったという風にまくしたてる迷子。何か嫌なことでもあったんですか。 「もう! 酒飲もう酒! 飲まんとやってられぬし!」 そう言って、とうとう酒を取り出した。 酒は酒で場が賑やかになる気もするが、まあ楽しければ良し。 満腹になった後は、皆で後片付け。梅の林とも、そろそろお別れだ。 「また、来年も来ましょうねー♪」 舞姫の声に、幾つもの笑顔が応えた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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