●豪一文字 強さの物差しはそれこそ山程もあるだろう。 圧倒的な膂力、鮮やかなる技の極み言うに及ばず。 火花散る鋼の如き精神力然り、他を寄せ付けぬ叡智、膨大な知識も又然り。 戦いの心得に心・技・体で表される三柱は成る程、人の身が修めるべき『武術』を語るには必要不可欠、何れも欠かす事は出来ぬ要素として特筆する事が出来るだろう。 寄る辺無き心意気だけでは勇者に至らず。 如何な力に溢れても技無き武力は余りに無様。 例え力技兼ね備えたとて心無き刃は容易に曇る――それは道理。 さりとて、それは人の身が『術』を学ぶならばの話である。 在り様が人を容易に超えるならば、時に『人の術』は何の説得力も持ち得ぬもの。多くの局面で語られよう常識もそれの前には余りに無力という事だ。 ――それは、技も心も持ち合わせぬ。力を持っているだけだ。それなのに―― それは、何時だって災厄そのものだった。 捩れた角はおどろおどろしく天を衝く。 見上げる程の青黒き巨体は格別なる威容で、かの地に『それ』在りを知らしめた。 それを見たという古き人は『本能』の恐れを知っていた。 真に恐ろしいものが理屈以外で成り立つ事を知っていた。 だから、それが眠りに引き込まれたその時ですら。 平和の訪れを誰かが保証してくれたそんな時ですら。 敗れざる者。永き眠りにつこうとも、滅ばざる者。 ――四天・豪鬼の名を忘れる事は無かったと云う―― ●鬼道驀進ス アーク本部は久方振りに蜂の巣を突いたような騒ぎとなっている。 「いやぁ、大変な事態が発生したようで……」 何時もと同じくブリーフィングルームで緊急招集に駆けつけたリベリスタを出迎えた『塔の魔女』アシュレイ・ヘーゼル・ブラックモア(nBNE001000)は言葉程は逼迫を感じさせない顔で彼等の顔を見回すとそんな風に切り出してきた。 「要するに、例の鬼達が暴れ出しました」 「細かい状況を確認させてくれ」 「はいはい、お任せ下さいな。 以前より岡山県で『鬼事件』が頻発していたのは御存知かと思います。アークの部隊が鬼のリーダー『禍鬼』と交戦したのも御存知ですね?」 「ああ」 リベリスタの言葉に応えたアシュレイが端末を操作するとブリーフィングのモニターには奇妙な刺青を全身に入れた鬼の姿が映し出される。それが件の『禍鬼』である事は言うまでも無い。 「この『禍鬼』様――他の鬼の皆さんもですけど――昔の日本のリベリスタ『吉備津彦』さんに封印されていたみたいなんですけどね。どうも、例のジャック様の事件でその封印が弱まったようなのです。まぁ、日本エリアの崩界はかなりの所まで進んでいますから、神秘的な安定が損なわれたから……とそういう訳です。はい」 無論、ここに到るまでの状況に一枚も二枚も噛んでいるアシュレイに責任が無い筈も無い。リベリスタから向けられた視線に一応は罰の悪さを感じているのか肩を小さくした彼女は言葉を続ける。 「……で、まぁ。封印が緩んだ結果、『禍鬼』様を含む鬼の皆さんは次元幽閉の隙間を潜り、現界に脱出する事が出来た訳ですけど…… 先の交戦で知れた『禍鬼』様の狙いは同胞と鬼の王『温羅』様を復活させ、権勢を復活する事。それにはこの封印が邪魔になる訳です」 「封印は生きているのか」 「はい。封印の本体は綻び始めていますが、それでも『温羅』様を始めとする大物はこのままでは現界出来ません。『禍鬼』様が復活出来たのは運命の悪戯って言うべきなんですかね。偶発的な不運によるものと思われます。『吉備津彦』様や他のリベリスタの皆さんは用意周到だったんですね。岡山県内のあちこちの霊場に封印のバックアップとも呼ぶべき『保険』をかけておいでだったようで。 何らかの事情で封印の本体が緩んだ時も、封印の地自体が楔となるように準備を万端に整えていた訳です。しかして、内からの突破には滅法強いこの『保険』も外からの物理的攻勢には些か弱い」 「……となると」 「はい。『禍鬼』様の狙いは内側よりこじ開けられない封印を外から破壊する事。未だ復活を果たせぬ王と同胞の為に岡山県内に存在する封印のバックアップを徹底的に破壊する心算……という訳ですね。 まぁ、暴れているとはそういう事です。彼はリベリスタの皆さんを良くご存知なんでしょうね。封印の破壊を目論むと共に街に配下の鬼を放つという凶行に出たみたいですねぇ」 リベリスタは想像し得る惨状に言葉を失っていた。昼間の街中を鬼が暴れ回ればどれ程の被害が出るかは……想像するに余りに容易い。 「状況は以上です。本部は緊急招集で皆さんを呼び寄せ、陽動部隊の迎撃と封印の防御、両面の作戦を進めています。 私が皆さんにお伝えしたい具体的なお話もその辺りにありまして……」 「聞かせてくれ」 頷いたリベリスタはアシュレイの先を促す。 「ある山奥の廃寺に鬼達が集まっています」 「封印の破壊か?」 「はい。長い時間の流れの中で受け継ぐ者が絶えてしまったのでしょう。 廃寺は封印の役目を負っていましたが、それを守る者はもう居ません。 鬼の部隊はこの廃寺の封印を破壊したようなのですが……どうも、この場所はそれだけで済まないみたいなんですね」 「……?」 「鬼達は廃寺の境内に捕まえてきた人間を殺しては積み上げているのです。 封印を破壊した彼等がその場に留まり、そんな事をする理由は『普通ならば』無い筈ですから、これは当然『普通ではない事』な訳ですけど…… まぁ、想像はつくと思います。これは『儀式』の類ですね。 鬼は特別な道具で人間を殺し、その生気を喰らい、無念を溜めそこに在る『何か』に注いでいます。方法が陰惨な程、犠牲者に苦痛を与える程、効率が良いなんていうのは……かなりどうかと思いますけど」 「……」 胸の悪くなるような話にリベリスタの柳眉が顰められた。 アシュレイは溜息を吐き、それから少し心配そうな顔で言葉を足した。 「この鬼達の狙いは『儀式』を必要とする程に、厳重に封じられている『大物』の復活です。目覚めてはいけない、目覚めさせてはいけない類の怪物を――寝た子を起こそうとしているんですね。 皆さん、心して掛かった方が良いですよ。現れる『何か』は出来れば出会わないで済むに越した事は無い――そういう類の『モノ』ですから」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:YAMIDEITEI | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ EXタイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年03月03日(土)01:01 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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