●ある夫婦の会話 『……子供たちはどうした?』 『いま、眠ったところよ』 薄暗い洞窟の中、夫婦は息を潜めるようにして言葉を交わす。 傍らでは、彼らの“子供たち”が揃って寝息を立てていた。 『――ここも、いつまで安全かしらね』 妻が、そう言って視線を伏せる。 ここのところ、ずっと気の休まる時などなかった。 お互いの顔にも、疲労の色が濃い。 『わからん。だが、お前と子供達は何があっても守ってやる』 肩に手を置く夫に、妻が振り返る。 その瞳は一点の迷いもなく、凛とした輝きを湛えていた。 『一人で何もかも背負うようなこと、言わないで』 肩に置かれた夫の手に、妻は自分の手を重ねる。 『何かあった時には、わたしも戦うわ。 わたしはこの子たちの母親で、そしてあなたの妻だから――』 ●洞穴の一家 「皆に頼みたいのはアザーバイドの撃破か送還、そしてディメンションホールの破壊。アザーバイドの数は二人……いや、二十二人と言った方が正確かな」 アーク本部のブリーフィングルームで、『どうしようもない男』奥地 数史(nBNE000224)は集まったリベリスタ達に向けてそう言った。 それにしても、二人と二十二人ではかなりの差があると思うのだが。 「……ただ、うちの二十人はまだ赤ん坊だ。まったく戦う力なんてないから、実際に脅威になるのは残りの二人だけと考えていい」 たどたどしい手つきで端末を操作しつつ、数史は正面のモニターに情報を表示させていく。 「この二人は夫婦でな、赤ん坊は全員この二人の子供ってわけだ。……でもって、山の中にある洞窟に家族そろって住みついてる」 ディメンションホールからそう離れていない場所だが、彼らは元の世界に戻る素振りは見せていない。洞窟の中に閉じこもり、隠れようとしているようにも思える。 「たぶん、訳ありなんだろうな。……とはいえ、このまま放っておくわけにいかないのも確かだが」 フェイトを得ていないアザーバイドは崩界を加速させる。彼らの事情がどうあれ、追い返すか、もしくは倒すか。そのどちらかしか道はない。 「夫婦の戦闘力は高い。まともに戦うのは骨が折れるだろうが、説得が通じるかどうかも難しいところだ。……なにしろ、こっちの言葉は通じないからな」 たとえ言葉が通じたとしても、彼らの警戒心は高い。洞窟に近付いただけで、問答無用で襲い掛かってくる可能性すらある。 「倒すか、元の世界に戻すか――それは、現場の判断に任せる。なかなかに厄介な任務だが、どうか気をつけて行ってきてくれ」 最後にそう言って、数史は説明を終えた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:宮橋輝 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年02月22日(水)23:43 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●それぞれの事情 明かりのない洞窟の中で、子供たちの寝顔を見詰めていた妻が顔を上げる。 彼女は夫を振り返り、緊張した面持ちで口を開いた。 『……あなた、誰か来たわ』 『わかっている。子供たちが起きる前に終わらせよう』 頷いた後、夫が立ち上がる。妻は子供たちの顔をもう一度見て、夫の後に続いた。 ――何があっても、子供たちだけは。 洞窟の手前には、三方向を木々に囲まれた広い空間があった。 大柄なアザーバイドの夫婦は、洞窟を背に、その前に立ち塞がっている。 進み出た三人のリベリスタ達は、夫婦の顔に強い警戒と敵意の色を見た。 彼我の距離は30メートル以上、まだ攻撃は届かない。 しかし、このまま近付けば、彼らは攻撃を仕掛けてくるだろう。 張り詰めた雰囲気の中、『紅玉の白鷲』蘭・羽音(BNE001477)は慎重に歩を進める。 (あたし達の仕事はアザーバイドをこの世界から消すこと。でも……彼らとは、戦いたくないよ) 彼らはただ、家族を守りたいだけ。詳しい事情はわからないが、話し合えばきっと、何かいい方法が見つかるはずだ。 手に武器を持っていないことを示しつつ、羽音は心を鎮める。周囲を和ませる彼女の力が、彼らにも届くことを祈りながら。 夫婦とリベリスタ達の距離が、少しずつ縮まる。 あと少しで、雷や炎を操る妻の攻撃が三人に届くようになるだろう。 身構える夫婦に、『深樹の眠仔』リオ フューム(BNE003213)が彼らの言葉で呼びかけた。 『待って。争いに来たのではないわ』 彼女の口から自分達の知る言葉が飛び出したことに驚き、雷を呼ぼうと腕を振り上げた妻の動きが一瞬止まる。 異界を故郷とする者にとって馴染み深い雰囲気を纏うリオを、何者なのかと言いたげにじっと見詰めた。 にこやかな表情を狼の面に浮かべ、『似非侠客』高藤 奈々子(BNE003304)が前に進み出る。 彼女は、リオと同様に彼らの言葉で語りかけた。 『初めまして、貴方達にお話が……』 『それ以上、我々に近付くな。従わぬなら、容赦なく撃つ』 その声に従い、奈々子は歩みを止める。 アザーバイドの夫婦は彼女らを眺め、『何者だ』と声を放った。 全員が武器を持っていないのは、見ればわかる。敵意も、今のところ感じられない。 だが、見知らぬ地の住人であるはずの彼女らがなぜ、自分達の言葉を操れるのか。 この距離からでも、夫婦はいたく憔悴しているように見えた。 長期間の緊張を強いられ続け、疲れきっている――そんな顔だ。 空手を差し出しながら、奈々子は凛とした声で仁義を切る。 『この世界の住人、高藤……貴方達を救いにまいりました』 『……救いに来た、だと?』 奈々子の言葉に、夫婦が眉を寄せる。精神的に追い詰められている相手に、初対面で簡単に信じてもらえるなどとは思っていない。問答無用で襲い掛かられなかっただけ、まだ幸運だっただろう。 『私は貴方達と話しに来たの、攻撃する意思はないわ。――だから、話だけでも聞いてくれない?』 彼らに己の身を晒す奈々子の姿は、無防備そのものだ。 ややあって、夫が口を開き、低い声で答えた。 『……そこからは動くな。話があるというなら、そのまま話せ』 夫は妻を庇うように彼女の前に立ち、妻はいつでも奈々子を攻撃できるよう構えたまま。 それでも、奈々子は動じずに彼らに言葉を紡いだ。 『私達は貴方達を助けに来たの――というのも、私達の仲間には、まぁ有り体に言うと予知能力者がいてね』 『予知能力、だと?』 『ええ。貴方達が何か理由があって隠れている事も、子供が多く奥に隠れている事も知ってるわ』 子供のことを口にした瞬間、夫婦に緊張が走った。 『……我々のことを、どこまで知っている』 『予知能力といっても、限定的なものに過ぎないの。……貴方達の子供が二十人ということは知っているけれど、貴方達がそこに隠れている理由までは知らないわ』 押し黙り、奈々子の言葉の真偽を確かめるように彼女を睨む夫婦に、今度はリオが口を開く。 『子供達に手出しをするつもりはないわ。さっきも言ったけれど、私達は争いに来たのではないの』 それに、と彼女は言葉を続けた。 『……子供達の為にも、あなた達に怪我をしてほしくないもの』 リオの真摯な口調に、嘘は感じられない。 だが、見知らぬ地で出会ったばかりの彼女らが、果たしてどこまで信じられるものか。 甘言を吐いて他者を騙すような輩は、どこにだって存在するだろう。 あくまで警戒を解かぬまま、夫婦はリベリスタ達を見つめる。 回線を開いたままの“幻想纏い”から、イヤホン越しに流れる『宿曜師』九曜 計都(BNE003026)の通訳を聞き、羽音は黙って仲間達とアザーバイドの夫婦のやりとりを眺めていた。 彼らの言葉を解さない彼女の役目は、語ることではなく、リオや奈々子を守ること。 ただ、あくまで庇うだけ。たとえ攻撃されたとしても、反撃はおろか武器を出すつもりもない。 ――あたし達は貴方達を傷つけたい訳じゃない。貴方達の、力になりたいんだ。 きゅっと拳を握り、羽音は状況を見守る。 ●交渉への布石 一方、離れた場所では五人のリベリスタ達が木々に身を潜めていた。 『Lawful Chaotic』黒乃・エンルーレ・紗理(BNE003329)が念の為に一般人除けの強い結界を張り、『NOBODY』後鳥羽 咲逢子(BNE002453)が千里眼で木々を透かし見てアザーバイドの夫婦と接触した三人の様子を窺う。 夫婦に接触した三人とは、あらかじめ“幻想纏い”の通話回線を開いてあった。“幻想纏い”を通して聞こえるやりとりを、計都と咲逢子の二人が同時に通訳し、仲間達へと伝えて情報を共有する。 まずは夫婦の警戒を解くために少人数での接触を選んだが、最終的には全員で話をしたい。それが許されたら、あるいは交渉が決裂して戦闘になったら、すぐに合流する手筈になっていた。 『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)が、傍らに置かれたリヤカーを眺めやる。二十人も子供がいれば移動するのも骨が折れるだろうと、リベリスタ達が調達したものだ。底には、柔らかい布団が敷かれている。その横には、それぞれが持ち寄ったものの、“幻想纏い”に収まりきらなかった寝袋や毛布、テントなども並べられていた。『大風呂敷』阿久津 甚内(BNE003567)が、それらを見て思わず口を開く。 「いやぁ……話に聞いてたのと随分違う組織だよね。小を切って大を救うって聞いてたもんだから、もっと殺伐としてるもんかと思ったけど」 フェイトを得ていないアザーバイドという、どうしても排除しなければならないような相手に対しても、これだけの情けをかけるというのは、彼には正直なところ意外に思えた。 「盗る物も無いしさ、お互い気持良~く納得いきゃ良いよな」 軽く聞こえる口調の中には、甚内の偽らざる本音がこめられている。 その間にも、先行した三人とアザーバイドの夫婦のやりとりは続いていた。 『是非話したいという人が近くに五人いるのだけれど、ご一緒しても良いかしら?』 『……随分と多いな。その五人も、我々を救うことを目的にしているというのか』 リオの言葉に、夫が眉を寄せる。 万一の時でも遅れを取るとは思わないが、単純に敵が増えるのは厄介だ。 助けてやると言われて、はいそうですかと素直に信じるほど、彼らは優しい世界に生まれていない。 『無償の善意を不気味に感じるかもしれないけれど、こうするのは「私達に利があるから」でもあるの。――皆の話、聞いてくれない?』 奈々子が、こちらにも明確な目的があることを示して、彼らに歩み寄りを促す。 決して悪いようにはしないわ、と言う奈々子の後に続いて、リオが彼らに提案した。 『あなた達にとって、都合の良い状態で話をするわ。それで警戒を少しでも和らげてもらえるなら何でもする』 『………』 夫婦は互いに顔を見合わせ、小声で何事かを囁きあう。こういった駆け引きは得意な方ではないのかもしれない。 少しして、夫がリベリスタ達に向けて重々しく口を開いた。 『全員が武器を持たないこと。今お前達が立っている場所に全員が並び、それより我々に近付いたり、攻撃が届かない距離に遠ざかったりしないこと。それが条件だ』 つまり、洞窟にすぐ接近されない距離を保ち、何かあればすぐに全員を撃つ、ということか。 その条件を呑んだ三人は、すぐに待機中の五人に連絡を行った。 ●譲れぬもの 夫婦の前に姿を現した五人は、彼らとの距離に気をつけながら先行していた三人へと近付いていった。 妻から全員に射線が通るようにして、リベリスタ達が一列に並ぶ。 その後、フツがまず自らの名を明かし、夫婦に自己紹介を行った。 (素直にこの世界を去ってくれるならそれでいいんだが……) 様子を窺う限りでは、夫婦はまだまだ警戒を解いてはいない。最終的に『この世界から退去せよ』というこちらの要求を突きつけた時、彼らがどう出るか。 そのためにも、まずはアザーバイドの一家の事情を知る必要があった。 『いきなりで申し訳ないッスけど、もとの世界に戻れない理由を教えてもらえないッスかね』 計都が話の口火を切り、咲逢子が後に続けて口を開く。 『何かに追われている、今までの言動からそう推察する。違うか?』 『………』 彼らの沈黙から、咲逢子はそれを肯定と受け取った。 『それはこちら側の世界か? 向こう側の世界か?』 しばらく躊躇った後、夫婦は彼らの事情を語り始めた。 彼らの世界では今、二つの勢力による大きな争いが起こっている。 権力者同士の争いはそこに住む民をお構いなしに巻き込み、戦禍は広がる一方だ。集落ひとつ、森ひとつが一晩で焼き払われることも、決して珍しくはない。 故郷を追われた彼らは、生まれたばかりの子供たちを連れて戦火の中を走り――安全な場所を求めるうちに、次元の穴を通ってこの世界に辿り着いたという。 『……見知らぬ土地でも、我々が元いた地より危険は少ないと判断した。人の寄らぬ場所に居を構えれば、そこに近付く者にだけ気をつけていれば良い』 持ち前の観察眼をもって、甚内が夫婦の能力を分析する。見たところ、彼らの戦闘力はこちらを大きく上回ってはいるものの、嘘や偽装に長けているとは思えなかった。黒乃もまた、彼らの言葉に黙って聞き入る。 (その愛情、その信念、敬意に値します) 二十人もの子供を抱えて戦火から逃れるのは、簡単なことではあるまい。 どうか、血を流さずに終わらせたい。それが叶わぬ場合は、せめて子供だけでも。 次は、自分達の立場と要求を告げねばならない。 この世界が崩壊の危険に晒されていることをリオが簡単に説明し、その後を継いだ奈々子が『アーク』についてと、自分達がそこに所属するリベリスタであることを告げる。 『ま、そんなわけでこの世界を守るために動くのがアークというわけ。――だから、ここに来たのは自分達のためでもあるし、あなた達のためでもある』 『アザーバイドは我々の世界に悪影響を及ぼし、崩界を加速させる。こちらに駐留するのは承諾出来ない』 咲逢子の言葉に、夫が低く呻くように口を開いた。 『我々に、いや……子供たちに、再び戦火の中に戻れと言うのか』 『難しいお願いだと思う。けれど、この世界に留まってもらう訳にはいかないの』 話し合いといっても、実際は一方的なお願いに過ぎない。そう思いつつ、リオが言葉を紡ぐ。 次元の穴も、いつまで繋がっているかわからない。次に来る者が平和主義とも限らない。そうなれば、彼らにもきっと危険が及ぶだろう。 『奢りでしかないけど、私はあなた達を守りたい。……ううん、あの子達を護って欲しい』 眉を寄せる夫婦に向けて、甚内が口を開いた。 「ハッキリ言うならこう言う事よ――君等居ると、僕等の世界の家族全滅。君等居なけりゃ、僕等の世界の家族生存」 引けないのは解るが、流石に許容出来ない。通訳を介して、彼はそう続ける。 なにしろ、事は世界そのものに関わるのだ。 「たとえ僕等が今君等にやられても、一生追われ続けちゃう訳よ。子含め全員死ぬまで」 はっきりと表情を歪ませた夫婦に、フツが言葉を重ねた。 「フォーチュナの説明はもう受けたよな。フォーチュナはアーク以外にもいるし、そうでなくてもそこに子供がいるのはわかってんだ」 鋭い嗅覚を持つ彼は、洞窟の中にいる子供たちの匂いを嗅ぎ分けられる。 そういった能力を持つ者も多くいると告げ、さらに続けた。 「オレ達より、ずっと悪い連中もいるんだ。アザーバイドの子供を拉致したり、平気で子供を人質に取る連中とかな――そういう奴らに狙われる前に、この世界から出てってくれ。頼む」 フツがそう言って頭を下げた後、今度は羽音が口を開いた。 「戻った先にも危険があるなら、その両の手で守ればいい。戦えばいい」 『……簡単に言ってくれる』 通訳を介して言葉を返す夫を、羽音は真っ直ぐに見る。 「貴方達は強いし……二人で戦えば、きっと大丈夫。困った時は、支え合うのが夫婦でしょ?」 それを聞き、妻が羽音の顔をじっと見つめた。 なおも悩む夫に向けて、計都が言う。 『もし、一時的な滞在を望むのであれば……アーク本部と交渉する用意はあるッス』 リベリスタのうち何人かが、思わず彼女を見た。 善性アザーバイドの一時滞在は、これまでもあったはず。何としてもねじこむ――そう告げて、彼女はきっぱりと言い放つ。 『小さな子供の命と家族の幸せを犠牲にするような世界に、守る価値なんて無い』 仲間達が口を開く前に、計都は全員に向けて声を張り上げた。 「――崩界が進む? だったら、その分あたしたちが、他のことで全力を尽くせば良いだけだ!」 その言葉に、場が水を打ったように静まり返る。 夫婦はしばらく互いに顔を見合わせていたが、ややあって夫が口を開いた。 『妻と話し合いたい。少し待ってもらえるか』 そう言って、夫婦は洞窟の中に入っていく。 果たして、彼らはどのような結論を出すだろうか。 どうしても受け入れられないというのなら、気は進まなくとも戦うしかない。 黒乃の瞳が、決意を湛えて洞窟の入口を見つめる。 (逃げるものを追い返す。心地よい仕事ではありません。――ですが、これは不可欠なこと) 彼らが、それを拒むのであれば。どんなに申し訳なく思っても、それを成し遂げるしかない。 もしもの時に殲滅を行うのが自らの仕事。彼女はそう考えていた。 一方、咲逢子は黒乃とは別の方向に決意を固めていた。 戦うのは心の底から反対だ。しかし、どうしても戦わねばならないのだとしたら――自分は、迷わずアザーバイドの夫婦の側につく。 “幻想纏い”の中にすら武器を収めず、戦うための技の一切を持ってこなかった自分が戦力になるとは思わないが、説得の時間稼ぎくらいはできるかもしれない。たとえリベリスタ達が敗北したとしても、いつか彼らには帰ってもらわねばならないのだ。 甚内も、“幻想纏い”に武器を収めずにここに来た一人だった。 今の自分に出来る事は、たとえ戦いになったとしても武器を取らないことを貫くぐらいだ。 倒れるまで説得を続けて、それで彼らの心が動くかはわからないが――。 (だってよぉ、不安すぎんでしょ? 何も知らない世界でこんなんさぁ……) 全員がそれぞれの思いを抱える中、洞窟から夫婦が再び姿を現す。 彼らはリベリスタ達の顔を見て、意を決したように告げた。 『――我々は、この世界から去ろう』 ●彼らの選択 ここでリベリスタ達を退け、この先に来る者達も打ち破ることが出来たとしても。 最終的に世界そのものが滅びるなら意味はないし、それでこの世界に住む者たちを危険に晒すわけにはいかない。 故郷を追われ、家族の命を脅かされることの辛さは、自分達が誰よりも知っている――。 それが、夫婦の返答だった。 『私達には支援物資の提供しか出来ないが、まだ欲しいものがあるのなら買ってくるくらいの事はしよう』 咲逢子が夫婦に告げる横で、計都がトラックに積んできた衣料や保存食などの物資を出していく。 『これ、食べれるかしら』 リオが、それらの食べ物を手に、彼らの子に必要なものを聞き出した。 彼女に子育ての経験はないが、きっと大変だろうと想像はできる。 「子供たちを運べないなら、このリヤカーを持ってってくれ」 フツの差し出したリヤカーに関しては、身軽な方が良いと丁重に断られた。何でも、子供達用に特別な背負い籠があり、二人で二十人は問題なく運べるらしい。 一家が必要とする物資を渡し終えた後、リベリスタ達は彼らをディメンションホールまで送り届けた。 「助けになれたかは分からないけど……家族皆で、静かに暮らせるよう祈ってるよ」 羽音の言葉に、夫婦が揃って頷く。 『異界の住人よ、恩に着る』 『あなた達のことは忘れないわ、ありがとう』 奈々子が、彼らの言葉で別れの挨拶を述べた。 『あちらで善き運命に導かれるよう祈ってるわ』 黒乃もまた、夫婦に敬意を払い、背筋を伸ばして彼らを見送る。 次元の穴を潜った一家の姿が見えなくなった後、ディメンションホールは破壊された。 それを見届けた後。甚内は目を細めて笑い、踵を返した。 「基本的に雑な人生歩んできた方だけどさぁ。嫌いじゃないぜ? こういうの!」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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