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<鬼道驀進>桃の木の下には。


 桜の木の下には、死体が埋まっている。

 桃の木の下には、鬼が埋まっている。


「鬼事件が岡山県で頻発しているのは知っていると思う」
 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、モニターに岡山県の地図を映し出す。
「あの事件について進展があった。識別名『禍鬼』と接触したんだけど、、気になる情報を入手。どうも鬼達はこの『禍鬼』をリーダーに共通の目的を持って動き出そうとしているらしい」
 別のモニターに、神社の縁起などの資料が提示される。
「彼らの王、識別名『温羅』の復活。鬼自体は対処出来ない相手じゃないけど、強敵。王ともなれば唯のアザーバイドのレベルを超える大変な脅威である可能性が高いね」
 ちなみに伝承では、身長大体4メートルだって。と、付け加えた。
 別のモニターに、これまで出没・討伐された鬼の画像。
「『禍鬼』をはじめとする鬼達はジャック事件で日本の崩界が進んだ事で封印が緩み、復活したものと思われる。だけど『温羅』を含む鬼の大部分は未だ封印状態にあり、活動出来ない状態に留まっている」
 岡山県――古より「吉備国」と呼ばれた地域全域を覆い尽くす勢いで、赤い光点がつけられる。
「偶然じゃない。岡山県内に数多く存在する霊場、祭具、神器等が彼等鬼を封印の中に閉じ込めるバックアップとして機能している為。現状も鬼は次々復活しているが、このままならば『大物』が出現する事は無いと思われる」
 ああ、なんだ。と、一瞬緩みかける空気。
「『禍鬼』は封印のバックアップをする県内各所の施設を蹂躙し、『温羅』を含む強力な鬼の復活を目論んでいる」
 ああ、やっぱりそういう話ね。と、リベリスタ達は、姿勢を正した。
「今回、蘇った鬼達を纏め戦力を編成した『禍鬼』が動き出す姿を万華鏡が感知した。『禍鬼』の狙いは封印の破壊だけど、彼はリベリスタを良く知っている。白昼の街中に鬼を放ち、大惨事を引き起こそうとしている」
 赤い光点の上に、岡山の人口分布。更に観光客の多い地域。
 算出された「人の多い場所」が特に危険地域として、ポイント表示される。
 その数と、分布の広さを見るや、リベリスタ達の何人かは声を荒げ、机に拳を打ちつけ、今この場にもブリーフィングルームを飛び出し、岡山に移動を始めそうな勢いだ。
「アークとしては、人間に害意を持つ危険で強力なアザーバイド達がこれ以上勢力を増す事を見過ごすことは出来ないし、陽動と分かっていても街中の鬼にすき放題なんてさせない」
 人が死ぬ。
 神秘になど生涯触れることのない、幸せな人たちが死ぬ。
 秋の、ジャックに感化された有象無象の殺人鬼達の所業を、あの事件に関わったリベリスタ達は忘れない。
「岡山県内の各霊場に戦力を派遣し、封印の破壊を目論む『禍鬼』の企みを阻止すると共に一般人の命を守らなければならない」
 イヴの無表情に揺るぎはない。
「みんなには、粉骨砕身してもらう」
 目の前のリベリスタを信じているから。


「みんなには、桃を守りに行ってもらう」
 イヴは、リベリスタの顔を見回した。
「桃太郎じゃないけど、桃が魔よけというのは、みんなも知ってることだと思う。今でも桃は岡山の特産。みんなに守ってもらうのは、農家の桃ではないけどね」
 ここ。と、イヴは示したのは山間部だ。
「ここに桃林がある。その下に、鬼が埋まっている。鬼達は、斧やまさかりで桃を切り倒し、その霊力を弱め……」
 鬼を復活させようとしているというわけだ。
「この地区では、子供が生まれると、ここに桃を植えるんだって。鬼に食われないように身代わりとして。桃の木の寿命は大体五十年。そうやって、代々封印は守られてきた」
 最近は観光化して、本数は維持されているようだ。
「鬼の数は八人。頭も悪くない。力も強いけど、みんなならうまくやってくれると思う。桃の木はできる限り傷つけないように。これから花が咲くから」
 植樹用の若木も用意しておくけどね。と、イヴは言った。
「今から行けば、先に桃林について、待ち伏せできるよ。桃への影響を考えると先制できるに越したことはないね。こっちも一緒になって暴れたら、封印を壊す手伝いしてるのと一緒になっちゃうから、慎重にね」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:田奈アガサ  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年03月02日(金)23:57
  田奈です。
 もうすぐ花が咲くよ。
 桃の木を切る鬼のスペックはこちら。

アザーバイド「鬼」×8
 *鬼のパンツはいいパンツ。外見はいかにも鬼です。身長2メートル超。
   斧、まさかり装備です。
 *デュランダル、覇界闘士のごった煮です。肉弾派ですが、脳筋ではありません。
  連携してきたり、リベリスタの弱そうなところをついてくるくらいのことはします。
 *1ターン1本の割合で、桃の木をへし折れます。

場所:桃林
 *人目は気にしなくて構いません。時間は昼間です。
 *足場、良。見通し、悪。斜線は寸断され、10メートル。桃の木で遮蔽物・多です。
 *周囲は藪です。鬼の巨体では中に入るのは難儀です。正面にある林入り口から突入してきます。
 *封印に影響している桃の木は、古い石碑を中心にした30メートル円周に48本あります。(それ以外の桃の木ももちろん一杯生えています)
  鬼を殲滅した時点で、木が40本以上残っていれば成功です。
 *攻撃の命中判定に失敗した場合は、桃に攻撃が当り、桃の木を痛めます。
 
 桃林の入り口に鬼が見えたところからスタート。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
デュランダル
桜小路・静(BNE000915)
ソードミラージュ
神薙・綾兎(BNE000964)
プロアデプト
言乃葉・遠子(BNE001069)
クロスイージス
ヘクス・ピヨン(BNE002689)
マグメイガス
宮代・紅葉(BNE002726)
クリミナルスタア
宮代・久嶺(BNE002940)
ダークナイト
柿木園 二二(BNE003444)
ダークナイト
アルトゥル・ティー・ルーヴェンドルフ(BNE003569)


 まもなくほころぶ桃の花。
 その枝のまにまに、リベリスタ達は身を隠す。
 耳をそばだてる『淋しがり屋の三月兎』神薙・綾兎(BNE000964)と『ルーンジェイド』言乃葉・遠子(BNE001069)が、身の丈三尺六寸を超える鬼の到来を仲間に伝える。
「皆さん。今のうちに自付や集中を……」
 自らも戦闘思考に切り替え、集中を開始する。
「桃の木は、昔霊力があるって言われてたんだって。だからここみたいな封印の場所に植えられているのかな?」
 知らせを受けた 『駆け出し冒険者』桜小路・静(BNE000915)の闘気が、肉体の檻から解き放たれる。
 両手には、巨大な鉄槌。
 その分速度を意識した、恋人から送られた装備が静を守る。
「そんな理由かもしれないけど、もうすぐ桃の木の晴れ舞台。花が咲く前に切り倒すなんて可愛そうだろ。ここは守りきってやるぜ!」
 飛び出していった勢いのまま、振り下ろされる鉄槌が風を起こして、鬼を斬る。
(全く、鬼退治なんて…この近代でやるなんて思わなかったよ。鬼退治のお供に兎はいなかったけれど……動物にかわりはないし、ね)
「さぁ、現代の鬼退治、始めよっか?」
 綾兎が走り出す。
 手の届く全ての鬼が綾兎の獲物だった。
 赤い刃の小ぶりのナイフが鬼の眼を切り裂いていく。
 両手で顔を押さえる鬼が棒立ちになった。
「っしゃー! 鬼ども! ここから先に入れさせねぇぜ!!」
 柿木園 二二(BNE003444)、気合一発。
(桃の木の下から鬼が出てくるとか、ホラーじゃねェか!! そんなショッキング映像、俺見たくねェよ……)
 二二の脳内で、桃の木の下の土がもこもこと盛り上がり、黄色く分厚い爪が生えた毛むくじゃらの手が突き出してくる映像がフラッシュアンドフラッシュ。
「鬼をこれ以上復活させないように、頑張っちゃうぜ!」
 二二の命と引き換えに召喚された瘴気が、鬼の一団を蝕んでいく。


 守らなければならない大切な人がいる。
 その人がいるから戦える。
 だからといって、同じ戦場に立ってたりすると、緊張感がいや増すとおいうもの。
『雇われ遊撃少女』宮代・久嶺(BNE002940)は、シスコンだ。
 双子の姉、『魔弾の奏者』宮代・紅葉(BNE002726)を、筆舌尽くしがたいほど想っている。
 田んぼの泥にまみれても紅葉の幻影で24時間戦える程度のポテンシャルが確認されている。
 であるがゆえに、残念である。
(お姉さまも見てるし……気合い入れていくわよ。お姉さまはアタシが絶対守る。ヘクスも頑張んなさいよ)
 ぶつぶつ口の中で唱えながら、自分の前方で遠子の護衛に入っている『絶対鉄壁』ヘクス・ピヨン(BNE002689)の後頭部を穴が開くほど見つめている。
(……毎回いる久嶺はともかく……なぜ紅葉が……鬼め紅葉が傷ついたら楽に死ねると思わないことですね。主に久嶺がすりつぶしに行きますよ。ヘクスですか? 無言で前に立ちはだかりますよ。力尽きるまで)
 逆に言えば、紅葉に傷が入る時点でヘクスはすでに鬼籍に入っているのだ。
 そういう覚悟は出来ている。
 紅葉も臨戦態勢に入ろうとしていた。
 ヘクスが、図らずも何故と問うた答えを紅葉はきちんと持っていた。
(戦うのはまだ怖いけど……何もしなかったら、辛い目に合う人たちがいるのですよね……)
 ならば、戦う。
(だから勇気を持つのよ、わたくし)
 着物から純白のステージ衣装という名の攻勢導師服にお色直し。
 いつも困ったように八の字にしている眉がきりりとヤル気眉に変化する。
 マイクをぎゅっと握り締めれば、勇気さえわいてくる気がする。
(久嶺もヘクスも居るのだもの、わたくしが怖気づいているなんて駄目よね! 妹と親友にいい所見せますわよっ。さあ、鬼達にも聞かせて差し上げましょう……)
「わたくしの歌を聴いていきなさいな。御代はあなた方の命で結構ですわよ?」
 性格豹変型の姉を見ても、親友と妹の愛が揺らぐことはない。
 表現の仕方は変わっても、その愛すべき人となりに変わりはないのだから。
「ステージの開幕ですわ!」
 詠唱は、歌声。
 空中に浮かび上がり、スタンドマイクを手に紡がれる旋律は、魔曲。
 先頭をきっていた鬼の鼻から目から耳から血が噴き出し、赤みがかった体色がどす黒く変わっていく。
(外さないように細心の注意を払う、当てるのは得意なのよ。ちょこまか動いたって無駄なのよ。桃の木は傷つけないし、傷つけさせない!)
 集中し始めてしまえば、久嶺の頭に雑念は浮かばない。
 スナイパーの頭にあるのは、標的への、これから自分がねじ込む鉛弾の軌跡のことだけだ。
 側頭部を吹き飛ばされた鬼の亡骸を追い越し、別の鬼が前に出る。
 体が麻痺してまともに動けなくなった先頭の鬼を、後から来る鬼達が地面に突き飛ばした。
(それにしてもおおきい! にめーとる! とうさまより、おおきい!)
 『ナーサリィライムズ』アルトゥル・ティー・ルーヴェンドルフ(BNE003569)は、うひゃ~と声にならない声を上げた。
 外周の桃の木の中。
 ライフルのスコープからのぞいてみても、鬼は大きい。
 ちらりと入る桃の枝の先がピンクに染まっているのに、わずか目を奪われる。
(はるです! もうすぐ! きっときっと満開に咲いて咲いて、とても美しいのでしょう。ね! 子を想う気持ちがあふれる、すてきなところです。ひとのこころは、尊いです)
 前を向き直る。
 とうさまより大きかろうと、あの鬼を討ち果たす。
(だから、アルは、アルトゥルは。桃の木をまもります、まもりぬきます。ぜったい!)
 引き金に変えた指はそのまま。
 狙った目玉を射抜くため、もうしばしの集中が必要だった。


 遠子の前に、リベリスタ最年少の中でもかなり低い方のヘクスがふんばっている。
 しかし、ヘクスは信頼に足る「鉄壁」だ。
 信じて託すに値する仲間だ。
(桃が魔除けになるって聞いた事があるけど、こんな風に封印に利用されてるなんて……不思議だね……。先人達が私達の為に残してくれたものを……必ず護りきってみせる……絶対……)
 決意は気糸になって、遠子の指から放たれる。
 算出された箇所をえぐる微細な痛点に加えられた一撃は、鬼の意識を遠子に集中させるには十分すぎた。
「余裕があったら、私がヘクスさんにオートキュアーかけてあげたかったんですけど……」
 すまなそうにぽそぽそと言う遠子に背中を向けたまま、独り言のようにヘクスは言う。
「あぁ、そうでした。忘れる所でしたよ……鬼は以前にも戦った記憶がありますね。あの時はそこそこの攻撃力を持っていたようですが……今回のはどうなんでしょうか?」
 ヘクスはわずかに遠子に顔を向けた。
 ビン底眼鏡の下の目は、鬼への嗜虐心に溢れている。
 手を下すのではない。
 手が届かないことを痛感させるのだ。
「……どうぞ、鬼が絶望するところをご覧ください。ヘクスは『絶対鉄壁』です」

 屈強とはいえない静と綾兎の胴回りほどもある腕をした鬼が、どすどすとなだらかな坂道を登ってくる。
 前に突出した静の鼻先ぎりぎりを、鬼のまさかりが通過していった。
 考えて動いていたら、食らっている。
 帽子とズボンの下に隠した犬因子に感謝しなくてはならない。
 一体は地面に倒れ、一体は遠子に向かって行っている。
 残り六体。うち四体は無傷だ。
 傷が入った三体目を桃林の外に吹き飛ばすべく、静は体から溢れた闘気を鉄槌に先に集中させる。
「桃林に近づかせてたまるかよ!」
 鉄槌から放たれる球状の闘気に弾かれ、鬼が道の向こうに弾き飛ばされた。
「あぁもう、……邪魔だし、どいてくれない?」
 入り口に殺到する鬼の前に、綾兎が立ちはだかった。
(……正直怖くないっていったら、嘘だけれどやれるだけやってみるよ)
 綾兎のナイフの乱舞により、鬼達の動きに隙が生まれる。
 身を削る二二の瘴気が、地面に転がり毒に当てられていた鬼の息の根を止めた。
「これ以上これ以上、ひとの心を踏みにじること、アルはぜったい許さないです!」
 入り口に殺到している鬼の一団に、アルトゥルの瘴気が急襲する。
 不吉の影が落ちていた鬼がまともに瘴気に当てられた。
 自ら発した瘴気に当てられて、吐き気を感じながら、アルトゥルは手応えにわずかに笑みを浮かべる。
 更に、鬼達の不運、いや、「不吉」は続く。
 紅葉の魔曲が鬼の急所をまともにえぐった。
 道をふさぐように倒れ伏す鬼を後ろから来た鬼が乱暴に投げ捨てた。
 奥から駆け込んできた鬼がぐるぐるとまさかりを振り回しながら突っ込んでくる。
 前に陣取っていた静、綾兎、二二に向かって、剣風が吹きすさぶ。
 静と綾兎は辛くもよけたが、二二はまともに浴びた。
 二二が身に纏っていた闇が吹き散らかされ、手足の先から感覚が薄れてくる。
「桃太郎気分で、ドキドキしてんだよ。邪魔しねえでくれるかなぁ」
 ふらりと立ち上がるが弱っている二二に集中攻撃せんと殺到する鬼の目を、久嶺の魔眼が射抜く。
 いまだ咲きえぬ桃の加護か、鬼の運が尽きているのか。
 いや、リベリスタが技を駆使して、運の天秤を傾けた結果だ。
 まともに久嶺の気迫のこもった魔力に当てられた鬼が、そのまま膝から折れて崩れ落ち、絶命する。
(やらせない、やらせないわよ。前衛が崩れたら、お姉様のとこまで一直線に突っ込んできちゃうじゃないの)
 いや、久嶺の執念の賜物かもしれない。


 間合いを詰めた鬼が一気に遠子に押し迫る。
 その速さと威力たるや、谷に注ぎ込む崩れ雪の如し。
 その前に、消して開かれることのない鉄の扉が立ちはだかる。
 技のかかりは万全。
 鬼の浴びせかけもヘクスにはかすり傷に等しい。
 それも、自己治癒の守護によりみるみるふさがっていく。
 しかし、瞬時に多大な負荷を受けたヘクスの小さな体は、末端まで痺れている。
 盾を握る指がどこか曖昧だ。
 だが、ヘクスにあわてた様子はない。
 もとより、避ける気などありはしないのだから。
 その覚悟を感じるから、遠子の気糸も遠慮会釈がない。
 新たな鬼の怒りをあおる。
 鉄壁のヘクスとて、かばえるのは一回だけだ。
 二匹寄せれば、一度は確実に遠子が受けることになる。
 しかし、それが現時点での最適解だ。
 桃林の中に潜む仲間は、鬼の一撃が致命傷になるだろう。
 信じて、鬼を引き寄せた。

 癒し手がいない。
 経験不足の者も少なくない。
 桃の木も守らなくてはいけない。
 その負荷は、前衛にかかっていた。
 紙一重、紙一重、紙一重。
 静の足は止まらない。
 足が止まったら最後、鬼が振り下ろす鉈で肉塊に変えられる。
 綾兎の足も止まらない。
 足を止めたら最後、鬼が振り回すまさかりで肉塊に変えられる。
 防御用短剣・柊環で、巨大な刃を受け流す。
「……たく、そんなでっかい図体に斧だなんて、くらったら痛い所じゃないし……俺は痛いの好きな変態じゃないし……遠慮させて貰う、よ!」
 すばしこい二人に足止めされた二匹。
 その脇を、最後の無傷の鬼がすり抜けていく。
 かあんっ!!
 甲高い音がして、桃の木に鉈が食い込む。
 斜めに食い込んだ巨大な鉈によって一刀両断。
 大きく枝を張り出した桃の木が地面に転がる。
 紅葉の喉がひゅッと鳴った。
「この歌を冥土の土産にするといいわ!」
 異界の歌が鬼に向けて叩きつけられる。
「もう、躊躇してる場合じゃないな!」
 静の鉄槌が、鬼に生死を問う。
 静の闘気がインパクトの瞬間、鬼の内部で爆裂する。
 粉々になったはらわたが、反対側の皮を付き捲って地面に赤い帯を書く。
 骨の支えをなくして四散するのに息つく暇なく、桃林に踏み入る鬼を追いかけ走る。
 アルトゥルの鉛弾が、ヘクスに肉薄する鬼の目を撃ち抜いた。
 それでも瀕死の鬼の執念と怒りは収まる様子を見せない。
「痛いのヤダってばァ!! 俺からの仕返し! 鬼さん力を下さいなッ!!」
 二二が全身から血をだらだら流しながら朱に染まったチェーンソーを叩き込む。
 ずぶずぶと鬼の背から腹に向けて電動のこぎりの歯が沈み込むたび、鬼の生命力を吸い取った二二の白かった顔に幾分血の気が通いだす。
 ズズ……ンと音を立てて、鬼が地面に沈む。
「いっやー、死ぬかと思った……!」
 真っ青な顔をして、二二は呟く。
「遠子チャンのとこに来る鬼は怒ってんだよな。なら呪刻剣の出番だって。倒すのは任せてよ」 

 鬼とて馬鹿ではない。
 一番厄介な魔曲を歌う娘さえどうにかしてしまえば、どうにかなる。
 リベリスタの魔力さえ尽きてしまえば、純然な力比べなら、まだ鬼に分があるのだ。
 前衛がばらけた一瞬の隙をついて、宙に浮かぶ紅葉に向けて鬼が鉈を投げつける。
 紅葉の目が大きく見開かれた。
 間に合わない。
 硬いものが硬いものに食い込む音がした。
 魁の花のように桃の木を彩る久嶺の血しぶき。
「おねえさまにてぇだしてんじゃないわよ。貴方が今折った桃の木より無残にぶっ飛ばすわよ……?」
 クリミナルスタアの面目躍如。
 腕の骨で紅葉を両断する鉈を食い止めた久嶺の形相は、憎悪にまみれた鬼そのものだった。
 すかさず地面に降りると、刺さった鉈もそのままに臓腑をえぐる啖呵をきる。
 警告ではない。事前の断りだ。
 下から突き上げられたライフルの銃口が、鬼の下顎に押し付けられた。
 銃声。そして、硝煙の臭い。
「ふん、残念だったわね。貴方達もここで桃の木の下に埋まる運命だったのよ」
 頭を吹き飛ばされた鬼の耳に、久嶺の言葉など届くはずもなかった。

 後に残ったのは、怒りで頭を煮えたぎらせた鬼だけだった。
 リベリスタ達は、注意深く桃から迂回させながら、最後の鬼を狩った。


 さすがのダークナイトも死んだ鬼から生命力をすすることは出来ない。
 絶賛貧血状態進行中の二二は、よろめきながらきり飛ばされた桃の木を担ぎ上げる。
「折れちゃったよ。ごめんな。精一杯させてもらうから……」
 静もそれに手を添える。
 リベリスタの並外れた膂力二人がかりで切り口を合わせられるのを確認すると、静がそこに消毒薬を塗りつけた。
 せーのと声を掛け合い、添え木を添えてロープでくくった。
 いいとこの坊ちゃま、習わぬ庭師の仕事をしてみる。
「……後は木の生命力に賭ける」
 後は若木をと言っているうちにひっくり返った。
 かわりに、遠子がスコップを握った。
(桃林の封印はこれからも私達が護っていきたい……)
 天を埋め尽くす桃の枝を見れば、振り仰げば、つぼみはもうすぐほころびそうなのだ。
「……君はおっきくなりなよ、ね」
 綾兎も新たに桃を植えた。
 丁寧に植樹して声をかける。
 未来の封印を担う木になるだろう。

「傷ついた木を手当てしましょう、園芸の本など借りてきたのだけれど……。あったほうがいいかと思って」
 戦闘終了に伴い、ステージ衣装から和服に着替えた紅葉の眉は困り眉に戻った。
「桃栗三年柿八年……折るのは簡単だけど、育てるのは大変。綺麗な花咲かせなさいよ、またお花見に来るわ」
 紅葉と久嶺は、他の木の小さな傷を丹念に手当していった。
「ごめんなさい、ごめんなさい。アルの力が足りなかったです」
 アルトゥルは、両断された桃の木をさすった。
(アルに特別なちからは無いけれど、ちょっとでもよくなるように。いつも、いつまでも。そのこころとともに咲き続けてくれるように)
 それでも、桃の園の封印は守られている。
(まもるお手伝いが出来たこと、アルは、アルトゥルは誇りに思うます)
 未熟なアルトゥルに出来ることは小さなkとだったけれど、それがなければ風向きは変わり、桃の園がリベリスタの血で赤く染まっていたかもしれないのだ。
 ヘクスは、折れた桃の小枝を集めていた。
(運が良ければ花ぐらいは咲かせてくれるかもしれませんし)
 癒し手がいないので、即完治とは行かない久嶺は、痛々しいほど白い包帯で腕を首から吊っている。
「さて、お疲れ様、お姉さま! あ、ヘクスもね」
それでも片手でハイタッチを要求する久嶺に、ヘクスはまあ、それぐらいは……と言いつつ応じた。
 そのくらいは許されるだろう。
 桃の園を守ったリベリスタに。
 桃の節句の祝い花を。
「犬猿雉はいねぇけど、桃の無事っつー土産話持って帰ろうか」
 担架で運ばれながら。
 二二が、皆の笑いを誘った。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 リベリスタの皆さん、お疲れ様でした。
 力押しでいければこっちが有利だったんだけどな~!
 その前に雨あられとBSご馳走様でした。
 不吉、怖いよ。不吉。
 あ、隙も痛かった。神秘弱いとこ更にはがれたら痛いっつの。
 怒りとか、勘弁してよ。手数減るじゃないよ。
 ちくしょ~。前衛早々にぶっ飛ばして、後衛のかわいこちゃん達丸齧りにしようと思ってたのに~。
 前衛といえば、ひょこひょこひょこひょこ避けられて。
 さっぱり手傷負わせられなかったつーの!
 ぷきー!!

 これで、封印は守られ、鬼の眠りはそのままです。
 ゆっくり休んで、次のお仕事がんばってくださいね!