●鬼 「封印? そんなモン、こうやって破壊すればいいんだよ!」 一人のアザーバイドが大声で笑う。背中まで伸ばした黒髪。古風な服装。ふくよかな胸はアザーバイドが女性であることを示していた。何より特徴的なのは、額に生えた角だ。 『鬼』……そう呼ばれるアザーバイド。 彼らは祠を前にして立ち往生していた。この祠を破壊すれば封じられている鬼の封印が解けるのだが、そこに近づこうとすると耐え難い激痛が走る。それは鬼を封じた結界。リベリスタ『吉備津彦』が鬼と呼ばれるアザーバイドたちを封じていた術。鬼がそれを破壊しないように、鬼避けの術も施してあるのだ。 女性型の鬼は手に二本の錐を手にする。それを手に結界に足を突っ込んだ。 「痛ぇ痛ぇ痛ぇ痛ぇ痛え! でも、これくらい根性で耐えてやらぁぁぁぁ!」 激痛に苛まれながら、持っていた錐を無茶苦茶に振るう。否、それは本能と呼ばれる五感外の知覚。戦いの経験が、見えない結界の中心を知らせていた。そこに向かって錐を突き立てる。 「どぉだぁ、あたいのやり方に間違いはねえぇ! 術なんか根性で突破すればいいんだ!」 うぉおおおおおおお! 沸きあがる鬨の声。周りの鬼たちが破壊された結界と自分達のリーダーの漢気に喜びの声を上げているのだ。 「さぁ、結界はあと一つ! この『錐姫』の前に立ちふさがるものは、全て倒れるのみさァ! お前たち、いくよ! これが終わって仲間が増えれば大暴れだ!」 ●アーク 「鬼退治」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は集まったリベリスタたちに短く要件を告げた。 「みんなも知っていると思うけど、岡山県で大量のアザーバイドが現れた。頭に角を生やした『鬼』と呼ばれるアザーバイド」 イヴの説明によると、鬼は千年以上前のリベリスタ『吉備津彦』が次元の狭間に放逐し、封印したという。しかし、 「先のジャックとの戦いでそれを封じていた結界が緩んだ」 だから、鬼たちは封印を破り、現れた。封じられた鬼たちは人間たちを襲うと同時に、他の鬼の封印を解く為に跋扈しているという。 「みんなには封印を解こうとしている鬼の元に向かってもらう。数は六体。金棒を持った鬼が五体と、錐を持った女性型の鬼が一体」 イヴは端末を操作し、『万華鏡』で得た未来を表示する。 「金棒を持った鬼はデュランダルに似た動きをする。自らを強化して力任せに殴ってくる。 女性型の鬼は、ナイトクリークに似た動きをする。トリッキーに動き、稀に強い一撃を放ってくる」 説明と同時にリベリスタの幻想纏いにデータが送られた。う、と顔を青ざめるリベリスタたち。鬼たちは全て前衛。おそらく真っ直ぐに攻撃を仕掛けてくるだろう。チーム構成によっては、防御力が低い後衛まで突破される可能性がある。 「今から行けば封印を解こうとしているところに間に合う。 封印が解かれれば新たな鬼が現れ、犠牲者が増す」 そうなる前に鬼を退治すればいい。リベリスタは言葉交わさずに自らのやるべきことを察した。 「リーダーの女性型の鬼を倒しても、鬼たちは止まらない。全滅させる覚悟で戦って」 望むところだ、とリベリスタたちは微笑んでブリーフィングルームを出た。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年03月03日(土)00:07 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 風が吹く。二月の冷たい風が戦場を冷やした。 「誰だい誰だい? ひ弱な人間は回れ右しな。そうでなければ楽しもうじゃないか」 貫頭衣を着た鬼がやってきたリベリスタたちに告げる。錐を繰る鬼の姫。 覚悟などとうにできている。リベリスタたちは各々の武器を持ち、一歩を踏み込んだ。 さぁ、鬼退治だ。 ● 「生で鬼を見ることになるとは……これだからリベリスタはやめられませんね」 『靴の下の桃源郷』タオ・シュエシア(BNE002791)の故郷では鬼という単語は亡霊に近い存在を指す。しかしここは日本ということで、鬼と呼ぶことにした。鬼の前に走って移動すると状態を軽く落として横に跳ぶ。十印移動による簡単なフェイント。一瞬の隙を突き、タオのフィンガーバレットが鬼の肉体に叩き込まれた。 「タオさん行けそう? ん、じゃ……いこっか」 タオを追うように『淋しがり屋の三月兎』神薙・綾兎(BNE000964)が真紅を帯びた刀身のナイフを振るう。足のステップで残像を生み、赤い刀身で鬼の気をひきつける。気がつけば振るわれた刃が、タオに傷つけられた鬼の防御を崩す。 「封印を解除して大暴れ、ねぇ。鬼らしくて良いじゃねぇか。そういう我利目的の悪党と戦うのはスッとするぜ」 『人間魚雷』神守 零六(BNE002500)は『刈り取るもの』の名を冠したチェーンソーを振るう。体内のオーラを稲妻に変え、チェーンソーを稼動させる。過電流により加速された刃の回転が鬼を襲った。血飛沫が舞い、怒りの表情を浮かべる鬼。 「あたぼうよ。策略とか細かいことは姉貴のような頭のいいヤツが考えればいい。あたいは真っ直ぐに暴れるだけだ!」 「アンタみたいに脳筋な鬼、嫌いじゃないッスよ」 『小さな侵食者』リル・リトル・リトル(BNE001146)は踊り子の衣装に身を纏い、戦場を駆ける。踊るように鬼の一体に近づき、舞うように鬼の前で回って気の糸を絡みつける。ギリ……! 食い込む糸が鬼の動きを封じた。 「燃え盛る闘争本能はまさに鬼。日本に来た甲斐があるというもの」 鬼たちの戦いに感動する『銀の月』アーデルハイト・フォン・シュピーゲル(BNE000497)だ。彼女自身もまた吸血鬼。西洋の貴族。夜に住む魔物。夜闇の如き漆黒のマントをなびかせ、体内の魔力を練った。生まれる稲妻が戦場を走り、鬼たちを焼く。 「……成程、今回の相手は直情馬鹿か」 「そういうのは嫌いじゃないがね?」 トリストラム・D・ライリー(BNE003053)の呟きに、相棒の『獣の咆哮』ジェラルド G ヴェラルディ(BNE003288)が答える。しかし人と鬼、互いが手を取り合う未来は『万華鏡』には見えなかった。ここでの敗北は人の悲劇に繋がりかねない。ゆえに、 「殺し愛といこうかね。戦を楽しむことにかけちゃぁ自信があるぜ」 「戦いを楽しめよ、鬼よ。貴様らへの手向けはそれで十分だろう?」 投擲するように槍を構えるジェラルド。バックステップで距離を測りながら集中を高めていくトリストラム。その姿を見て錐姫が笑みを浮かべる。 「ああ、楽しもうじゃないか。折角封印の外に出られたんだ。血肉踊る戦いを期待してるよ、人間たち!」 「イイね。久方ぶりに喰いでのありそうなお嬢さんだ」 錐姫の性格にぞくぞくしながら『人間失格』 紅涙・りりす(BNE001018)虚ろな瞳でしっかり錐姫を見据え、三ツ池公園でえた二本の業物を構える。これから始まる高揚を想像しながら、『万華鏡』で知っている事項を質問した。 「僕の名前は紅涙りりす。人でなしの出来損ないさ。君の名前も教えてよ」 「あたいは七瀬白蘭が第四の娘。名は錐姫! さぁ人間たちよ。この首ほしければ寄ってこい。あたいは逃げも隠れもしない!」 びりびりと響く錐姫の声。その手には大工道具で使う幾つもの錐。その鋭さが、リベリスタたちに向けられた。 ● 「ウオオオオオォォォォォ!」 鬼たちが吼える。血気盛んな彼らは大声を出して自らを鼓舞し、金棒を振り上げる。 そんな声に引くことなく、リベリスタたちはそれぞれの相手に展開する。 「行くっスよ」 踊り子の衣装を風に舞わせ、リルが鬼の一体に迫る。惑わすようなリルの動きが、突如二つに分かれた。踊るように振るわれる二重の爪が、鬼を切り刻んでいく。時に同時に、時に交互に。洗礼された武闘は舞踏の如く美しい。それを体現していた。 「なにっ!?」 その名はハイ・バー・チェン。質量を伴う分身。悪政に抗した英雄姉妹の名を冠した技が、鬼の虚を突き傷つけていく。 「ホーリーメイガスがいねぇなら」 紫電が走る。回復手がいない状態で反動を受ける攻撃は危険だと理解しながら、零六は躊躇なく反動付高火力の攻撃を行なう。それは神守一族の『国の為ならば自らの命を捨てることも辞さない』という思想ゆえか。 「ダメージが重なる前に倒せば良いってなァ!」 零六の一撃は鬼の腹部を裂き、苦悶の表情で鬼は金棒で反撃する。たたきこまれる鉄の塊に、苦悶の声を上げる零六。しかし、心は折れない。なぜならそれが零六が信じる『主人公』だからだ。 「結界なんかより、俺達と遊ぶ方が楽しいよ?」 「鬼サン、退治するデス」 綾兎とタオは一体の鬼を二人で翻弄しながら追い詰めていく。綾兎が独特の足運びで残像を生みながら鬼の隙を生み出すと、その隙を突いてタオが背後から鋭い一撃を放つ。タオのその一撃を警戒すれば、綾兎の『Imitation judgement』が鬼の肌を裂く。パワーに回る鬼を、スピードと裏家業の技で追い詰めていた。 「チッ、やはり鬼か。見た目通り硬い……! ジェラルド、合わせろ!」 トリストラムは鬼に攻撃を加えながら、相棒に声をかける。それがわかっていたかのようにジェラルドは槍を構えた。 「ハッ、強敵なのは解っていた事。腕がなるね。 いくぜ、トリストラム。お前の弓と、俺の槍。これらが揃い尚、打ち倒せぬ敵など有りはしない。そうだろう?」 「一人より二人の方が火力が高い。当然の結論だ」 「相変わらずのリアリストだね」 軽口を叩きあいながらトリストラムはヘビーボウを、ジェラルドは投擲槍を鬼たちに向けて撃ちはなった。まさに雨のように降り注ぐ矢と槍。息のあった連携。まるで二人の絆のように隙のない攻撃が、鬼と錐姫を傷つけていく。 「目には目を、歯には歯を、鬼には鬼を」 アーデルハイトは銀の懐中時計を閉じ、瞳を細める。研ぎ澄まされた感覚が戦場の一点を見出し、体内のマナを手のひらにに集中させて小さな炎を生む。それを握り締めるように掴むと同時、鬼たちが集まる場所の真ん中で爆発が起きた。 「――さあ、踊りましょう。土となるまで、灰となるまで、塵となるまで」 その雄雄しさ。猛々しさ。それに応じるのが貴族の務め。ゆえに魔力の出し惜しみはしない。常に最善手。それがアーデルハイトの敬意。相手の怒りの視線を、しっかりと受け止めた。 ブロックされていない鬼が後衛に殺到する。その一匹がアーデルハイトに金棒を振り上げた。一撃で倒れるほどではないが、軽視できるものでもない。見事と褒めて笑みを浮かべた。 「僕が勝ったら、その貫頭衣もらって帰るよ。あと、ぱんつもちょーだい?」 「いいねぇ。追いはぎ上等だ。じゃああたいが勝ったらその刀いただくよ」 りりすは錐姫と相対していた。仲間が鬼を倒すまで相手を抑えるつもりはない。倒しきるつもりで挑む。弱気になれば飲まれる。りりすはそれを察したのだろう。大きく動くのではなく、小さくしかし緩急つけて動く。自らのペースを乱さず、しかし動くときは動く。 そしてベストの間合いを取った時に、刃が動く。一瞬の静寂の後、高速。速度に任せての高速乱舞。ナイフが、刀が、その両方が。交互に、同時に、ワンテンポずれて、フェイントを入れて。流れるように刃が走り、錐姫を切り裂いていく。 「やるねぇ。お返しだ!」 錐姫も負けじとばかりに錐を突き刺していく。刺す、薙ぐ、柄で殴る、先端の異なる錐を矢次に繰り出していく。純粋な速度ではりりすが勝るが、瞬発的な動きは種族ゆえか錐姫が勝る。やっぱりイイ。りりすは傷の痛みに耐えながらゾクゾクしていた。 戦場はまさに乱戦。安全な場所など、何処にもなかった。 リベリスタと鬼。共に回復もなく殴りあう。 双方に負ける要因があり、双方に勝つ要因があった。 パワーとタフネスでは鬼が勝り。 数と技術ではリベリスタが勝る。 防御を捨てた殴り合いにおいて重要となるのはやはりタフネス。 そして火力という意味でパワー。 ゆえに。 ● 鬼の金棒がリルの動きを捉える。軽々と吹き飛ぶリルはそのまま地面を転がり、 「まだ倒れてないッスけど?」 運命の加護を使い、立ち上がる。血の混じった唾を吐き出し、爪を構えて鬼に向かう。 「素晴らしい。その豪腕が鬼の誇りなら、吸血鬼の誇りを示そうぞ」 アーデルハイトも後衛にやってきた鬼の攻撃を受けて膝をつく。目の前の敵を高火力で叩けば、力尽きる前に倒せたかもしれない。しかし、わが身可愛さに仲間を見捨てたりはしない。それは貴族の義務に反する。我が魔力は勝利の為に。運命を燃やして爆ぜる稲妻が荒れ狂い、鬼たちを傷つけていく。 「意地は張らせて貰うさ」 「相棒との初仕事、無様な姿は見せられん」 トリストラムとジェラルドも鬼の暴力に意識を手放しそうになる。運命を犠牲に戦士はこの場に留まることを選ぶ。何が何でも立ち尽くす。それは世界の為かあるいはアークのためか。おそらくはノーだ。そこに戦場があるから、立ち上がるのだ。 「まだ撃てるか、相棒」 「誰にものを言っている?」 降り注ぐ矢と槍。アクセスファンタズムから呼び出された槍を掴んでは投げ、ヘビーボウに番えては撃つ。二重の武器の嵐が、鬼たちを襲う。 「これでオシマイ。おれの速さについてこれなかったみたいだね。……バイバイ」 「さようならデス!」 傷つきながらも最初に鬼を倒したのは、数で押す綾兎とタオのペアだった。後衛の全体火力による後押しもあり、二人でダメージを蓄積していった結果である。どう、と倒れる鬼を確認し、二人はダメージの大きい後衛の鬼を倒す為に走り出す。もう技を出す余裕のないタオは、アーデルハイトと鬼の間に入り、彼女を守る盾となった。 「少しでも長く高いダメージを与えていてほしいデスからね。倒れてもお気遣いなく!」 「了解だ。ならば一気呵成に敵を撃つのみ!」 その気遣いに答えるべく、稲妻を放つアーデルハイト。 鬼よりもパワーとタフネスに劣るリベリスタたち。 ゆえに。 彼らが勝つにはそれ以外の部分で押し切るしかない。チームワークと、そして戦闘に対する気概。長く戦場に留まろうとする強い意志が、勝利という運命を掴む。 「フハハハハハハハ! 主人公を舐めるな!」 零六の『Desperado “ Form Harvester ”』が鬼を切り裂く。追い詰められれば追い詰められるほど強くなるのが主人公。逆転こそドラマ。哄笑をあげ、錐姫のほうに向かう。 「てめぇが親玉だな……ったく、人間みてぇな姿しやがって化け物が! 直ぐに居るべき所へ帰してやるよ、地獄って奴にな!」 「あんたの武器は口先かい? 閻魔じゃないんだし地獄に送るならその得物で送ってみな!」 「いわれるまでもねぇ!」 「僕の方も忘れてもらっては困るよ」 りりすが跳ぶ。圧倒的な速度を武器に相手を翻弄しながら、その速度を殺さぬ武技。叩き付ける重量ではなく素早く引く技術で無銘の太刀を繰り出し、突き出すのではなく裂くようにリッパーズエッジを振るう。 「お死舞いまで存分に、一緒に踊り狂ってもらうッスよ」 自分が押さえていた鬼を倒したリルが、錐姫のほうに迫る。その爪が錐姫の胸を薙ぎ、鬼の防御を崩す。 「思ったより時間がかかったな」 トリストラムの矢が鬼の最後の一匹を貫く。そのまま視線を錐姫の方に向けた。 「素直に敵の強さを賞賛しよう。伝承に残るだけのことはある」 ジェラルドが槍を投擲から近接の構えになおして錐姫に迫る。もうスキルを放つ余裕はない。だがそれでもこの槍があれば闘える。 「残ったのはあたい一人だけか」 「降参する?」 「まさか! ここまで血が滾ってるんだ。温羅様の命令でも止まらないよ!」 両手の指と指の間に一本ずつ。合計八本の錐を構え、鬼の姫はリベリスタたちに向かう。その目は敗軍の兵士の目ではない。まだ負けるつもりはないと奮起する鬼の目だった。 ● 錐姫が八本の錐を繰り出す。三ツ目錐、四方錐、壺錐、ネズミ歯錐、剣錐、匙錐、ブタ錐、ネジ錐。八本の錐を交互に握りなおしながら突き刺し、近づくリベリスタたちに刺し傷を与えていく。 「……お……?」 始めから錐姫に相対していたりりすは、今までのダメージが蓄積して膝をつく。しかし、突き刺さった錐を離すまいと筋肉に力を入れる。 「骨も肉もくれてやる。だから君の全てを僕にくれ」 全て。それは肉体精神を含めた全て。この戦闘の高揚も、生死を分かつ戦いの緊張も全てを欲する鮫。それはりりすの業ゆえか。 「こんな楽しそうな鬼と舞えるチャンスなんて、次があるかどうかも分からないッスからね」 リルは踊る。オーラの軌跡が踊りの跡を追うように光り、そのオーラが死を告げる爆弾となる。鬼の防御の弱いところで爆ぜる爆弾は、錐姫の体力を大きく削った。 「ハッ……なかなかやるじゃねぇか。だが……てめぇの力、似た武器を使っていた『釘打ち』って奴には遠く及ばねぇなァ!」 八種の錐の乱舞に運命の加護を使って立ち上がりながら、零六は懐にある鉄釘に触れる。あの時打ち込まれた呪い。あの時打ち込んだ一撃。一撃の鋭さはあの殺人者には遠く及ばない。 「トリストラム、さーて見せ場だぜ。貫通させる気合で撃ち込んでみな!」 ジェラルドが錐姫を背後から羽交い絞めにする。ジェラルド自身も錐の乱舞の中にあって傷ついたが、その動きを一瞬拘束することに成功する。それに応えずして何が相棒か。 「あぁ、そのまま動かしてくれるなよ──その心臓、狙い撃たせて貰う……!」 トリストラムがまさに瞬き一つの時間で矢を放ち、鬼の心臓を貫く。 「がぁ……まだまだまだまだぁ!」 吼える鬼の姫。ジェラルドを跳ね除け、再度錐の踊りを舞う。鬼気迫るの言葉の如く、心臓を貫かれてもなお動く鬼の生命力に驚愕するリベリスタ。 「その生命力に敬意を表します」 ゆえに自分の持つ最大火力の技で手向けを。アーデルハイトが魔力を集める。自身の周りで飽和した魔力が彼女のマント『ディー・ナハト』をふわりと浮かした。四種の魔力がせめぎあいながらアーデルハイトの元で一つに集う。 「ごきげんよう、猛々しき皆様方。いずれ冥府にてお会い致しましょう」 四にして一の魔弾が錐姫に叩き込まれ、錐と舞う鬼姫を吹き飛ばした。 ● 「あたいの……負けだね」 「すごいデス。まだいきてマスヨ」 タオが錐姫の呟きを聞き取る。アーデルハイトの盾になり、傷だらけの肉体を何とか動かしながら錐姫の方を見た。地面に転がり、頭だけ動かしながら錐姫は笑う。 「馬鹿力だけじゃなく、しぶといのか。さすが鬼だね」 綾兎が呆れたように呟く。鬼に殴られた箇所がまだ痛い。正直言えば、力で攻めてくる鬼との戦いは純粋に楽しかったのだが、素直にそれを口にはしない。 生きている、とはいうがそれが消える前の灯火であることは明白だ。錐姫は口から血を吐き、呼吸も荒く乱れている。 「敵ながら見事な戦いだったぜ。――っておい、トリストラム」 ジェラルドはウルフカットに手櫛を入れて、鬼たちの戦いを褒め称える。そして相棒の方を見やれば、既に帰路についていた。やれやれと肩をすくめてその後を追う。 「ハンデ戦で勝ったみたいなのはアレだけど、楽しい『恋』だったよ」 りりすが咥えタバコを口にしながら、死出に向かう錐姫を見下ろす。 「アザーバイドは化け物だ。存在するだけで罪な奴を生かしておく価値もねぇ」 零六はチェーンソーを振り上げ、鬼たちの命を奪おうとする。ナイトメアダウンの犠牲者である彼の一族は、アザーバイドの恐ろしさを良く知っている。生かしておく理由はない。 「はは、違いない。あたいたちは不倶戴天の敵同士だ。さっさとやりな」 それを受け入れたかのように、錐姫は瞳を閉じた。口元を笑みに変える。 「でも礼を言うよ。楽しい戦いだった。あばよ」 それが七瀬白蘭が第四の娘、錐姫の最後の言葉だった。 鬼の封印は守られ、リベリスタたちは帰路につく。 しかし鬼との戦いは、まだ始まったばかり。 二月の冷たい風が血だらけの戦場を薙ぎ、血臭を運んでいった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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