●駆ける鬼女の一団 石を無造作に積み上げたような峰には、人の手の形に似た岩があった。 そのすぐ下に目的の祠を見つけ、鬼女が笑う。 『かの“封印”を壊せば、あのお方の復活が近付く――楽しみだこと』 そう言って、鬼女は傍に控えている者たちを振り返った。その者たちも、全員が鬼女である。もっとも、言葉を発した鬼女に比べて少し、あるいはかなり、幼い顔立ちをしていたが――。 『我らを阻む者どもは必ず現れよう。だが、良いか。我らの目的は“封印”の破壊――それさえ果たせるのであれば、邪魔者など放っておいても良い』 鬼女の言葉に、少女の、あるいは幼女の姿をした鬼女たちが頷く。 そして、鬼女たちは祠へと走り出した。 ●“封印”を死守せよ 「一月から岡山県で頻発している鬼の事件について進展があった。今回は、それに関わる任務になる。……少しばかり長くなるが、よく聞いてほしい」 『どうしようもない男』奥地 数史(nBNE000224)は、ブリーフィングルームに集まったリベリスタ達に向け、そう切り出した。 「先日、アークのリベリスタが『禍鬼』と名乗る鬼と接触し、情報を手に入れた。どうやら、鬼たちは『禍鬼』をリーダーとして共通の目的のために動こうとしているらしい」 その目的とは、鬼の王『温羅』の復活。『温羅』についての詳細は判明していないが、ただでさえ強力なアザーバイドである鬼たちの王となれば、彼らを遥かに超える脅威であることは疑いない。 「昨年十二月のジャック・ザ・リッパーとの決戦で開いた『閉じない穴』――その影響で封印が緩み、『禍鬼』を始めとする鬼たちが復活したと考えられている。だが、現状で封印が解かれている鬼は、あくまでも一部でしかない。『温羅』はもちろん、本当に強力な鬼たちも、まだ封印された状態にある」 岡山県内には霊場や祭具、神器が数多く存在し、封印のバックアップを担っている。それらが存在する限り、『温羅』たちが復活することはまず無いだろう。 つまり、『禍鬼』の目的とは、これらの封印を破壊することだ。 「既に、『万華鏡』が復活した鬼たちを集めて動き出した『禍鬼』を感知している。陽動として街中に鬼を放ち、虐殺を行う裏で、本来の目的である封印の破壊を果たそうという狙いらしい」 たとえ陽動とわかりきっていても、むざむざと一般人の虐殺を許すわけにはいかない。アークは、この件に関して全力で対処することを決めた。 「街中の虐殺阻止については、別のメンバーに行ってもらうよう頼んでいるところだ。皆には、封印の破壊の阻止に向かってほしい」 そう言って、数史はリベリスタ達に資料と地図を配り始めた。全員に行き渡ったところで、説明を再開する。 「現場は岡山県の南端にある山だ。と言っても標高はあまり高くないが……この山の中に、封印が施された祠がある」 封印を担うものは祠の中にあり、鬼はそれを破壊しようと動く。祠の前で鬼たちを食い止め、封印の破壊を防がねばならない。 「ここに向かっているのは『淋鬼』と名乗る鬼をリーダーにした八人の鬼だ。全員が女の鬼だが、戦闘力は男の鬼に劣らない」 充分気をつけてくれ、と言って、数史は先を続ける。 「鬼たちの狙いは、あくまで封印の破壊だ。戦いの中でも、隙あらば祠の中に入り、封印を壊そうと動くだろう。特に、彼女らは敵の動きを封じたり、心を惑わしたりする術に長けている。注意して戦ってほしい」 手の中のファイルを閉じ、数史はリベリスタ達の顔を見た。 「俺からの説明は以上だ。……どうか、気をつけて行ってきてくれ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:宮橋輝 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年03月03日(土)00:06 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●祠の前の戦い 奇岩が連なる峰は、どこか不気味な静けさを湛えていた。 人の手の形をした岩の下、古びた祠の前に開けた場所を挟み、八人のリベリスタと八人の鬼女が対峙する。 鬼の王『温羅』を始めとする強力な鬼の復活を阻む封印の一つは、祠の中。 封印を守らんとするリベリスタと、封印を破壊せんとする鬼女たち。 彼我の人数は同じとなれば、各自の連携が勝負の鍵となるだろう。 先を争うように、リベリスタと鬼女たちが祠を目指して走る。 大剣を携えた『きらきら☆えとわーる』星野谷 すぴか(BNE000058)が、額の中央に小さな角を生やした美女の鬼――『淋鬼』と、彼女に従う少女や幼女の姿をした鬼女たちを見て、思わず声を上げた。 「鬼女、萌え! ……おおっと、間違えました。なんでもないです」 魔法少女アニメとRPGをこよなく愛する彼女としては、鬼女も萌えの対象であるらしい。「べ、別に釣られたワケじゃないんですよ! 本当です!」と弁解しつつ、表情を引き締める。 『黄金の血族』災原・有須(BNE003457)は、“幻想纏い”に手を触れつつ、祠の入口を見た。彼女を始め、何人かは車両によって祠の入口を塞ぐことを考えていたのだが、どうにもそれは厳しそうだ。事前に準備を行う時間があれば、また話は違ったのだろうが……既に戦闘に突入しつつある現状では、車両を出すことは出来ても、それで祠の入口をぴったりと塞ぐことは難しい。隙間が空いてしまえば意味はないし、かえって戦闘の妨げになりかねないため、断念せざるを得なかった。 それならそれで、自分達の体を使って防ぐのみ。全力で駆ける『下策士』門真 螢衣(BNE001036)が、鬼女たちに向けて声を投げかける。 「あなたがたの向かった方角は鬼門……いえ、あなたがた自身が鬼でしたか」 螢衣の言葉に、淋鬼は紅い唇の端を持ち上げるようにして笑みの形を作った。 リベリスタと鬼女たちの距離が近付き、互いの攻撃射程に入る。心を惑わす香りを放とうと動いた淋鬼の先手を取り、『ソリッドガール』アンナ・クロストン(BNE001816)が口火を切った。 「戦場で色仕掛けとは随分余裕ね年増鬼。そんなんで目的の温羅さんとやらに振り向いて貰えるのかしら?」 鬼女たちと祠の間に割り込むように立ち、淋鬼に強い意志を込めた十字の光を撃つ。 毒舌と同時に放たれた十字が淋鬼の頭を射抜き、彼女を激しい怒りに染めた。 『妾を年増と言ったか、小娘が……!』 激昂する淋鬼を横目に、『ミックス』ユウ・バスタード(BNE003137)が特殊な改造が施された小銃“Missionary&Doggy”を構える。 「会った事も無い王様に片想い、ですかー。思い込みの強いほうなんですかね、淋鬼さん」 お気持ちは分かりますけど――と言葉を続け、素早く鬼女たちの行く手に立った彼女は、銃口から幾つもの光弾を放ち、幼女の姿をした鬼たちを射抜いた。 「そゆ時は期待を五割減らしといた方がいいですよー。思わぬファンブルがありますからね。たとえば、私達の存在……とか♪」 続けて、螢衣が祠に一番近い位置にいた少女の鬼をブロックし、真言を唱えて防御結界を展開する。 「おん・きりきり・ばさら・ばさり・ぶりつ・まんだまんだ・うんぱった……」 その直後、怒りに我を忘れた淋鬼が、自らの血を媒介にした毒の鎖を放った。 アンナを中心にユウと螢衣をも巻き込み、死毒で彼女らの全身を蝕む。三人よりさらに祠に近い位置に回り込んだ『猛る熱風』土器 朋彦(BNE002029)が、活性化した魔力を循環させながら愛嬌のある笑みを浮かべた。 「さ、鬼退治といこうか」 戦闘を指揮する能力を持つ者同士、気持ちが通じるところもあれば良いのだが。 『侠気の盾』祭 義弘(BNE000763)が淋鬼の前に走り、彼女をブロックすると同時に己の全身を防御のオーラで覆った。 あえてリーダーの淋鬼に向かう事で他の鬼女たちを牽制する狙いだったが、残りの鬼女たちは淋鬼が事前に出した指示の通り、迷わず祠へ向かう。螢衣に進路を塞がれた少女の鬼が大地の気を操って彼女にかすり傷を負わせ、残り二人の少女鬼がアンナとユウに貫手を繰り出し、防具の隙間を突いてダメージを与えた。 「妄想が過ぎるんだよ、鬼のくせに」 残る幼女鬼たちが辿り着く前に、『塵喰憎器』救慈 冥真(BNE002380)が祠の正面に立ち塞がる。 「会ったこともない王のために盲目的に動くなんて鬼らしい。同胞に会う前にお前達の運命を摩滅させてやろう」 ……仲間がな、と一言付け加え、彼は癒しの福音を戦場へと響かせた。 ●封印巡る乱戦 一人が一度にブロックできるのは一人だけ。それを考えると、こちらと同数の敵を前衛のみで食い止めることは難しい。 幼女の姿をした四人の鬼が、祠の前に立つ冥真と朋彦に迫る。彼女らは二人一組で連携を取り、冥真と朋彦にそれぞれ鬼火を放った。 炎の明滅から軌道を予測し、冥真が初撃をかわす。しかし、時間差で放たれたもう一撃は避けることができなかった。朋彦もまた、動きを封じられる。 麻痺に陥った二人をフォローすべく、すぴかが幼女鬼の一人をブロックした。 「すぴかでも役に立てるか分かりませんが、全力で頑張ります――幼女でも容赦はしませんからっ!」 大剣に輝くオーラを纏わせ、幼女鬼に斬撃を見舞う。有須もまた、別の幼女鬼をブロックしつつ、己の身に闇の衣を纏った。 淋鬼がまだ怒りに囚われていることを確認し、アンナが厳然たる意志を秘めた聖なる光を放つ。輝く光が淋鬼と三人の少女鬼を焼いたが、彼女から見て背後に位置する幼女鬼までは巻き込めなかった。淋鬼の怒りを維持することは最優先事項、彼女から目は離せない。 少女鬼の一人をブロックするユウが、敵の移動を巧みに阻害しながら自らの体の向きを変える。彼女は幼女鬼たちを射線上に捉え、光の弾丸でその背中を射抜いた。 『――毒に塗れ、地に伏すが良い!』 怒り狂う淋鬼が、反動も顧みずに毒血の鎖を伸ばし、アンナとユウ、義弘の三人を狙う。義弘は“侠気の鉄”と全身を覆う防御のオーラでそれを完璧に防いだが、アンナとユウが毒に蝕まれた。 先に受けた毒で体力を奪われながらも、螢衣が淋鬼の運命を占う。不吉な影が淋鬼を覆い尽くし、彼女の運を封じた。 強い決意により麻痺を打ち破った朋彦が、琥珀色に磨き上げられた木刀で眼前の幼女鬼に強烈な打ち込みを見舞う。本来は魔炎で幼女鬼を一度に巻き込む心算だったが、既に敵味方が入り乱れるこの状況では、仲間を巻き込まずに炎を召喚するのは不可能だ。乱戦になる前に、初手で魔炎を撃つべきだったか。 三人の少女鬼が、行く手を阻む螢衣、アンナ、ユウにそれぞれ貫手を繰り出す。しかし、アンナの神気閃光による痺れが残っているためか、先の攻撃よりは明らかに精彩を欠いていた。防具の隙間を縫うのが厄介だが、耐えられぬほどではない。 運悪く麻痺を解除できずにいる冥真を肩越しに見て、義弘がブレイクフィアーを放つ。有事に備えて待機するつもりでいたが、幼女鬼が祠に迫っている以上、その前に立つ冥真が動けぬのは致命的だ。自由を取り戻した冥真が、幼女鬼の一人をブロックしつつ癒しの福音を響かせる。 これで、八人の鬼女たちは全員、リベリスタ達に行く手を阻まれた。 このままでは突破は叶わぬと悟り、四人の幼女鬼が次なる攻勢に出る。 四つの鬼火が、すぴかを一度に撃った。 彼我の数が同じだからこそ、ブロックにより進路を阻まれる。 ならば、最も与し易そうな者に攻撃を集中させ、倒してしまえば良い。 「――すぴかくん!」 朋彦の前で、すぴかの小柄な体が鬼火に包まれる。 しかし、彼女は自らの運命を燃やしてそれに耐えた。 「皆さんに迷惑をかけるわけにはいかないのです……!」 大剣をしっかりと両手に握り、輝けるオーラを纏う斬撃を眼前の幼女鬼に向けて振り下ろす。 続いて、有須が己の生命力を糧に暗黒の瘴気を放ち、幼女鬼たちを一度に巻き込んだ。 「ふふふ……おいたはダメですよ……?」 瘴気にまかれた幼女鬼たちが、一様に苦悶の表情を浮かべる。しかし、彼女らを撃ち倒すにはまだ足りない。 鬼女たちの中では脆いと考えられる幼女鬼たちといえど鬼は鬼、リベリスタ達と同等の耐久力は備えているということか。 水際の攻防は、まだ予断を許さない。 ●惑わしの香 淋鬼の瞳に理性が戻ったのを見て、アンナが再び十字の光を撃つ。 (兎も角淋鬼の怒りは最優先。魅了撃たれたらガタガタだからね――) しかし、十字の光は淋鬼を捉えたものの、彼女を怒りに誘うにはわずかに足りない。 『小賢しい真似を。妾の香で夢幻に堕ちよ』 「――!」 警告の声を上げる間もなく、淋鬼の全身から甘い香りを含んだ煙が立ち上る。 それはたちまち戦場に広がり、リベリスタ達を包み込んだ。 仲間達の半数が淋鬼の術中に落ちる中、冥真が低く笑う。 呼吸器全体が空気清浄機と化している彼に、気体の毒など通用しない。 「悪いな、体臭がきつくて笑ってしまったよ。で、その程度か?」 冥真の辛辣な言葉に、淋鬼が形の良い眉をつり上げる。 味方の多くが魅了に陥っている今、出来ることなら祠の中に駆け込み、封印を担う祭具を直接守りに行きたいところだが、生憎と眼前の幼女鬼がそれを許さない。忌々しいことに、鬼女たちは自分たちの行く手を塞ぐリベリスタ達をブロックし返すことで、リベリスタ達が迂闊に動けぬ状態を作っていた。 ならば――今は、少しでも回復の時間を稼ぐことだ。 「お前の毒は美学に欠けるんだ。吟味に値しない」 『減らず口を……!』 淋鬼の美しい顔が、またも怒りに歪む。 魅了を免れた義弘がその隙にブレイクフィアーを放とうと動いたが、魅了された仲間達の方が数段速かった。 ユウが、改造小銃の銃口を味方へと向ける。精密な狙いから放たれる光弾が、アンナを、有須を、すぴかを射抜いた。 「……っ!」 前に立つ幼女鬼に射線を遮られて難を逃れた冥真が、着弾の衝撃で体を揺らがせたすぴかの姿を視界に映す。 直後、朋彦が魔炎を召喚した。 「おおおおおおおおう!」 朋彦本人を中心に巻き起こった炎が、冥真と有須、すぴか、そして四人の幼女鬼を飲み込む。 この一撃で、すぴかがとうとう力尽きて倒れた。 「幾万の鬼たちの先頭に立つ尖兵……ここで復活されたら日本は鬼の国になりますね」 仲間達の窮状を見て、螢衣がわずかに焦りを滲ませる。救援に行きたくても、彼女もまた、眼前の少女鬼と睨み合いが続いており、動くことができない。淋鬼を見れば、彼女の不運は怒りと同時に解けている。 「……先人はどのように鬼の大群と戦ったのでしょうか。是非とも教えを乞いたいものです」 道力を纏わせた剣を自らの周囲に浮遊させ、少女鬼の攻撃を刀儀陣で防ぎながら、螢衣はそう呟いた。 鋭く踏み込む少女鬼の貫手に対し、アンナが身を捻って直撃を避ける。 ユウが魅了されたことでブロックが外れた少女鬼が、ここぞとばかりに祠の方へと駆けた。 「一人、そちらに向かったわ!」 アンナの警告はしかし、魅了されている有須に届かない。 立ち尽くす有須の背中に、少女鬼の貫手が深々と突き入れられる。 貫かれた背中から、口の端から、とめどなく溢れ出す鮮血。 意識を失いかけた有須の虚ろな瞳に、引き寄せられた運命が宿る。 「……まだまだ愛が足りません……もっと愛し合いましょう……?」 踏み止まった彼女の顔には、いつも通りの薄い笑みが浮かんでいた。 ここで、義弘のブレイクフィアーが仲間達に届く。魅了により生じた隙は大きいが、まだ巻き返しはきくはずだ。 冥真が癒しの福音を響かせながら、幼女鬼を抑える仲間達に声を放った。 「相手の射線に入るな、散開して抑えこんでくれ!」 恐ろしいのは、集中攻撃で味方の数をこれ以上減らされることだ。 しかし、すぴかが倒れた今、祠の前の戦力は鬼女たちが数で勝っている。この状態で、有利な位置を確保するのは難しい。 二人の幼女鬼が、最も傷の深い有須に鬼火を撃ち、その動きを封じる。冥真の回復がなければ、ここで倒れていたかもしれない。 そして――すぴかが倒れたことでフリーになった幼女鬼が、小柄な体を活かして冥真の脇をすり抜け、祠に突入する。 入口を物理的に塞ぎきるには、一人では足りなかったか。 「祠に入った鬼の撃破を!」 冥真の声に真っ先に反応したのは、魅了から立ち直ったユウ。 「どちらが先に倒れるか……我慢比べと参りましょうか!」 彼女の放った気糸が、祠に足を踏み入れた幼女鬼を狙い撃ち、これを倒した。 ●一手の明暗 「……別に、鬼の復活とかいうのは良いわよ。アンタ達がそれを望むのはある意味当然だし」 淋鬼に十字の光を放ち、彼女を再び怒りに誘ったアンナが、眼鏡越しに鬼女たちを睨む。 「でもねえ。その為に何も知らない人達巻き込むっていうのはどういうことよ……!」 封印の破壊という目的を果たすため、鬼たちは陽動として一般人の虐殺を行おうとしている。アンナには、それが許せない。 『あのお方の復活は我らの悲願、人間如きが……!』 美しい顔を怒りに歪めた淋鬼が、幾本もの毒血の鎖を手当たり次第に伸ばす。 淋鬼の前に立つ義弘と、彼女の怒りの矛先が向かうアンナ、まだ傷の浅かった螢衣やユウはその攻撃に耐え抜いたが――鬼火で動きを封じられていた有須だけは、鎖の一撃をまともに喰らってしまった。 既に運命を燃やしていた有須が再び踏み止まることは叶わず、彼女はそのまま地に倒れる。 鎖の連発で消耗する淋鬼を螢衣の不吉の影がさらに追い詰めるも、まだ撃破には至らない。 朋彦が、気合とともに木刀を振るい、強烈な一撃で幼女鬼の一人を倒す。しかし、仲間を倒され、リーダーを追い詰められても、鬼女たちはなおも諦めなかった。 戦場に冥真の癒しの福音が響く中、少女鬼が動く。二人が螢衣とアンナに貫手を繰り出し、先ほど有須の背を貫いた一人が祠の中に入った。冥真の前に立つ幼女鬼が、彼をブロックしながらユウに鬼火を放ち、有須が倒れてフリーになった幼女鬼が少女鬼に続いて祠に滑り込む。 鬼火で動きを封じられたユウに、義弘のブレイクフィアーの輝きが降り注いだ。 「自分たちが蘇らせようとしてる存在がどんな存在かも知らないで復活させるのは危険だろうに。憧れってのは怖いもんだ」 仲間はおろか、自分の身すら顧みずに祠を狙い続ける鬼女たちを見て、義弘が眉を寄せる。 もっとも、人間も他人の事は言えないが――。 怒りから醒めた淋鬼を、アンナの十字の光がすかさず撃つ。ここで魅了の香を放たれでもしたら終わりだ。 毒血の鎖を掻い潜ったユウが祠に侵入した少女鬼を気糸で射抜き、怒りで彼女を引き寄せる。 淋鬼の運命を占った螢衣が、彼女の運命を凛とした声で告げた。 「あなたの行くては、計都星と羅喉星の陰に閉ざされています。待つのは破滅だけです」 不吉を纏った影が淋鬼をすっぽりと覆い隠し、彼女の命を食らい尽くす。 花のような甘い香りを残して、淋鬼のしなやかな肢体が地に倒れた。 『淋鬼さまが倒れた』 『命に代えても封印を』 リーダーを失い、残された鬼女たちの動きがわずかに鈍る。 しかし、目的を果たそうとする執念は失われていない。 祠に侵入した幼女鬼を追った朋彦が、彼女をブロックして木刀を打ち込む。重圧が幼い体にずしりと響くも、あと一歩、倒すには至らない。 冥真が、はっとして背後を振り返った。 踏み止まった幼女鬼の指は、真っ直ぐに封印の祭具に向けられている。 最悪の場合は、祭具を抱えて何があっても離さぬつもりでいた。殴られ蹴られ血を吐いても、絶対に壊させまいと。 しかし、飛び出して我が身を盾にしようにも、冥真は別の幼女鬼に移動を阻まれ動けない。 初手で幼女鬼の数減らしに手間取ったのが拙かったか――。 幼女鬼の指先から、鬼火が奔った。 封印の祭具が、呆気なく炎に包まれて砕ける。 「――っ!!」 それは、封印を巡る戦いにリベリスタ達が敗れた瞬間でもあった。 『封印が破れた』 『これで、あのお方は復活に近付く』 『淋鬼さまも喜ばれよう』 鬼女たちが、口々に歓喜の声を上げる。 しかし、その身は一様に傷ついており、今にも倒れてしまいそうな者もいた。 封印は破壊され、リーダーである淋鬼も既に倒れた。 これ以上、双方が争うことに利はないと、義弘が投降を促す。 「憧れは分かるし、理解もできる。だが、命を落としては憧れる事もできないから、な」 彼に続いて、朋彦も口を開いた。 「人も鬼も、意志を持ち生きている。意味なく殺し合うだけが道じゃ無し。そう思わないか?」 倒れた淋鬼を眺め、できれば正々堂々と一対一の賭けを挑みたかった、と残念に思う。 せめて生き残った者だけでも、命を奪わずに済ませられないか――。 しかし、鬼女たちは投降を拒絶した。 『我らの役目は果たした』 『これで敵に情けを受けたとあっては鬼の名折れよ』 温羅の名を、口々に叫びながら。 幼い鬼女たちは止める間もなく、自らの命を絶った。 屍と化した鬼女たちを見下ろして、義弘が長く息を吐く。 鬼女たちが倒れ、封印は敗れた。 この先、さらに激しくなっていくだろう鬼たちとの戦いを思いながら。 リベリスタ達は重傷者たちを連れ、山を後にした。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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