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<裏野部>広角打法症候群<裏野球部>

●逃走→捕ダ=厳命にして優しい時間
 首が回る。
 頬にぶつけられた回転。遠心力。その力は頚椎を容易く破壊し、頭を二回転させた。
「ういーっす、ホームラン」
 惨劇。そうであったとは裏腹に、実行した男の声は気楽なものだった。
 振り回しているのは釘バットだ。これをスイングして、たった今この男は人をひとり殺してみせた。確かに殴打すれば致死に足るものだ。武器以外のなにものでもない。だが、人間がこうなってしまうなどどうして信じられよう。確かにこの目で見たのでなければ、自分も正気を疑うだろう。
 もう一度、その男を見やる。この寒いのに、アロハシャツだ。半ズボンでサンダル履いて、季節を半分取り違えている。顔は、わからない。逆行というわけではない。隠されているからだ。目鼻のあるべきそこは、ガスマスクで全体を覆い隠されている。なんだ、これは一体なんだ。
「俺か? あー……本名は、マズいわな。んー……よし、バットマン。俺ァバットマンだ」
 意味が違う。けれどそれを訂正する勇気はない。逃げろ、逃げろ逃げろ。逃げなくては。
 踵を返し、駆け出した。走る。走って。走って。脚に激痛を感じて、すっ転んだ。右脚の腱が切られている。どくどく。どくどく。血が流れている。止まらない。どうして。走って逃げたのに。あんなに向こうでスイングポーズのあの男が、どうやって。どうやって。
「あ、もう逃げないの? もうちょっと反抗心魅せつけてくれよ。それじゃあ足らない。足りないんだ。俺ァ―――」
 逃げろ。逃げろ。逃げろよ。脚がなんだよ。這ってでも。嗚呼駄目だ。震えが止まらない。逃げなきゃ。殺される。わかっているのに逃げられない。歩いてきて。目の前で。止まって。振りかぶって。畜生。
「―――スロースターターなんだからさ」
 暗天。閉幕。最早朝日がのぼ―――
 殴打音。

●会議←硬直+往々にして狂しい予感
「裏野部……」
『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、苦々しげにその名前を口にした。残虐。非道。その名を縦にするフィクサード集団。それを口にするからには、今回の事件にも彼らが関わっているのだろう。そう思えば、目先も暗くなるというものだ。
「そう……今回の事件を引き起こしたのは彼ら。少数グループのリベリスタを襲っては、殺害している。何のために行なっているのかはわからない」
 でも。だけど。その続きに誰もが同意する。
「うん。わからなくても、止めなくちゃいけない。絶対に、許していいものではないから」
 そう言うと、彼女は二枚の写真を卓に置いた。
「今回事件を起こしているのはこの二人。バットマンと、スターヒューマンって名乗ってる。とても強力だけど、別々に行動しているみたい」
 一枚は裏返され、ガスマスクで顔を隠した男の写真だけがその場に残る。
「だから、2チームで叩く。あなた達はこっち、バットマンが対象よ」
 そして、各自に資料が配られていく。そこには、現時点で知り得る全てが書かれていた。
「気をつけて。見えただけでも相当な強さではあったけど、それ以上をまだ持っているみたいだったから」
 巫山戯た名前の敵。それでも、侮っていい相手ではない。喉を鳴らし、資料を手に次の言葉を待った。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:yakigote  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年02月22日(水)23:46
皆様如何お過ごしでしょう、yakigoteです。

バットマンと名乗るフィクサードの行為を止めてください。
彼は少数集団のリベリスタを殺害して回っていますが、その行動目的はわかりません。
見過ごしては被害が拡大するばかり、なんとしても次の行為を阻止してください。

※エネミーデータ
フィクサード『バットマン』
・種族:ジーニアス、ジョブ:デュランダル
・ガスマスクに釘バット。アロハシャツという出で立ちの男。どこか余力を残しており、その実力を隠している模様。以下に記さない一般戦闘スキル・非戦スキル有り。

・戦法:釘バットによるスイング。近距離では殴打。遠距離には鎌鼬を発生させてと攻撃を使い分ける。殴打には致命、鎌鼬には出血の追加効果有り。

・いざという時頼れるキャプテン
 HP3割以下で自動発動。攻撃に以下のスキルを使用するようになる。

・EX殺すつもりでぶちかましたスイング
 遠方にいる複数の対象目掛けて巨大な真空波を発生させます。
 物遠範:流血

・EX星空を垣間見る一打
 ただ本気でバットを振るだけです。
 物近単:物防無視、致命、大ダメージ

※戦闘予定地
道端の一角。十分な広さが有り、障害になる物はない。夕焼け頃。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ホーリーメイガス
ルーメリア・ブラン・リュミエール(BNE001611)
ホーリーメイガス
氷夜 天(BNE002472)
クリミナルスタア
烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)
プロアデプト
アーリィ・フラン・ベルジュ(BNE003082)
クリミナルスタア
阿倍・零児(BNE003332)
クリミナルスタア
山県 昌斗(BNE003333)
ダークナイト
熾喜多 葬識(BNE003492)
ダークナイト
ユーニア・ヘイスティングズ(BNE003499)

●捜索→球児-青春にして輝かしい日々
 これに関して言えば、あまり自分の心情や感慨というものはない。悪党の自覚。人を人とも思わない残虐性。そういう評価には慣れているし、どういう経緯かこんな生き方しかできなかった。誰が悪いというつもりもないし、そもそも自分が悪いのだろう。

 例えば、探すともなく見つかる時がある。探そうとして、見つけようとして。その必要がない時がある。後から思い返してみれば、条件は揃っていたのだろう。夕焼け頃。青春の時間。リベリスタとフィクサード。阻止者と実行者。それが落ち合わずに出会わずに迎えずに終了する結末などあるはずがなく、あって良いはずがない。よってそこにそれは現れたし、そこに訪れた。片手を上げて、友人に挨拶するかのように。威風堂々と。一切の不意なくそれ故に不意だらけで。
「オイーッス、元気?」
 ガスマスクにアロハシャツ。釘バットを肩に担ぎ、ちょっとそこまでってな格好で。そいつは夕陽をバックに相対した。殺し屋。自称バットマン。

●会合←正義÷各々にして甚だしい理論
 自分のルーツを考えて見るも、何が思い出されるわけではない。はて、どうしてこうなったのだろう。頭を捻っても残滓すら見当たらず、諦めてかぶりを振った。まあいいか。今、自分はこうだ。これでいいや。過去も将来も、どうあったってどうでもいい。

「どーも、こんにちわ、バットマンさん。バットそんな風に使ってるけど、お兄さんは野球が好きなのかな?」
「ん、そこそこ。こう見えてもオニーサン、青春時代は野球少年でしてよ」
『なのなのお嬢様なの』ルーメリア・ブラン・リュミエール(BNE001611)の呼びかけに、軽い調子で答えるフィクサード。本当なのか嘘なのか。顔も見えない声色からは判断できない。だが、好きだとしてもそれは人を殺す道具ではないだろう。
「とりあえず、何さアンタ」
「よくぞ聴いてくれました。俺こそ殺し屋バットマン……あれ、なんかダサイな。ちょっと今のナシで!」
『灰の境界』氷夜 天(BNE002472)の問いにも巫山戯た調子だが、あまり興味はない。とりあえず、お約束ってやつだ。社交辞令で、様式美。どうあったってどうでもいい。その仮面ごとひん剥いてやる。
『ヴァイオレット・クラウン』烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)が厳しい目でフィクサードを睨みつけている。その視線に気づいたガスマスクの男は気安げに手を振ったが、それで空気が和らぐわけでもない。これからこの男と殺しあうのだ。当然だろう。自然、気は張り詰め。心は戦闘へと階段を転がり落ちていく。来るがいい。この弾丸、打てるものならば。
『ゲーマー人生』アーリィ・フラン・ベルジュ(BNE003082)は、ルーメリアの様子にびくついていた。野球帽子を被る彼女。本当に野球が好きなのだろう。そんな彼女が怒っている。大事な野球道具を人殺しの道具に使われたからだろうか。ともあれ、悪いことをしていいはずはない。拳を固め、気合を入れる。
「何回見ても『裏野球部』って目が滑りますよね」
「だよなー。オニーサンも意気込んで来たら、見てクダサイこのフンイキ。ダダ滑りですヨ!?」
 こちらに相槌を打つ男の調子は軽いことこの上ないが、これでも残虐非道なフィクサード。スポーツ感覚で挑めばやられてしまうのだろう。『Average』阿倍・零児(BNE003332)は平均的に気を引き締め、平均的に戦闘へとシフトし始めた。
「名前は舐めてるとしか思えねぇけど喧嘩相手としちゃ悪かねぇ」
「それオニーサンちょっとショック……っかしいなぁ。カッコいいと思ったのになぁ」
 アスファルトにのの字を書くバットマンに、『赤備え』山県 昌斗(BNE003333)は気を緩めない。スロースターターだというこの男。是非ともその本力を見てみたいものだ。きっとお互い似た者同士。争いごとを、楽しもう。
「そんな恐ろしい武器持ってるなんて俺様ちゃんこわぁい」
「オニーサンはそんな俺様ちゃんの方が怖い。何そのフライフェイス。マジかっけぇ」
 夕焼け時。きっとそれよりも朱い血の狂宴を期待して、『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)は笑う。理由なんてどうでもいい。殺せればそれでいい。殺人鬼。殺しこそが生き様だ。食い合おう。食らい合おう。勝ったほうが正義。それでいい。
「あっちのスターなんとかって投手、お前の知り合い?」
「そそ、所謂同期?」
「野球やってる奴ってすげーんだな。俺も仲間に入れてくれよ」
「ナイン揃ってっしなー……まずは補欠から始めまショウ?」
「お前がキャプテンなら俺審判な。ここでは俺がルールブックだ。お前ら二人とも、退場」
「イエス、横暴。いいね、じゃあそろそろ始めようか」
『ペインキングを継ぐもの』ユーニア・ヘイスティングズ(BNE003499)に言葉を返すと、ヤンキー座りだったフィクサードが立ち上がる。屈伸して。背筋を伸ばして。何度か素振り。
「おっし、ばっちこい。オニーサンも八人同時なんてハジメテだからドキドキしちゃう」
 本気なのか冗談なのか。いずれにせよ、それが戦闘開始の合図。現れてからずっと友好的で、親愛的なこの男。それでも敵対。殺人三昧フィクサード。剣を銃を手にとって、せーので用意で殺し合いが始まった。

●戦闘→直結+一刻にして騒々しい橙色
 本名を隠していること、顔を隠していること。それ自体に自己利益は存在しない。知られてマズいのは、いつだって雇う側。ついている側の人間だ。自分の仕事が手広すぎるせいだろう。いつしか、どこで誰に知れたって構わぬよう顔を隠すようになった。

「四番◯!」
 適当なセリフをあげて振り抜いたフィクサードの隙を、ユーニアが狙う。
「大振り野郎が、隙だらけなんだよ」
 紅く染まった大きな棘。突き込んだ致命のそれは、しかし構え直された釘バットに目的を阻まれる。
「真のスラッガーは隙を生じぬ二段構え、なんつって。いや何それ凄いネ、栗?」
 攻撃の手は緩めない。如何に強烈な一撃も、当たらなければどうということはない。例え当たろうと倒れなければどうということはない。もしくは倒れたとしても起き上がればどうということはない。
「イイネ、根性論。青春だ」
 痛む身体を鞭打ち駆ける。攻撃しろ。攻撃しろ。何度も何度も刺しつけろ。何度打ち込んだか、何度殴られたか。殴られただけ刺し返し、打たれただけ突き返して。ようやく出来た一瞬を逃さず、背後へと潜り込んだ。その顔に、巫山戯たマスクに手を伸ばす。
「反則だ、没収」
「ンー、まだダメ。そういうメーンイベントは終盤に置いとこうぜ」

 バットマンの手を、武器を釘バットを持つ手を狙う。零児が片腕の手甲を構え、見据えていた。呼吸に合わせたリズム。近似値を描き続ける所作。トップとボトムから見ての高い可能性。最高のパフォーマンスは、爆発的な一過性よりも平均的な恒常性にこそ相応しい。
「バットマン、バットが無ければただのマン」
 引き金を絞り、その直後に見た光景は驚くべきものだった。
「はいグワらゴワがキーン」
 きっと思いついたから言ってみた効果音。だが軽く振り抜かれた釘バットは、明らかに自分の弾丸を防いだ。否、打ち返した。打たれた弾に威力はなく、方向も明後日。その行為自体にまるで意味はない。ただ防いだと言うに結果だけは変わりがない。しかし。なんだこれ、本当に人間か。
「へいピッチャーもう一球!」
(マスクで見えないがたぶん)ドヤ顔で構えるその男に、零児は容赦なくトリガーを引いた。何度も、何度も。
「うわ待って冗談だから無理だってマグレマグレ。痛い痛いチョー痛い!」

「ねえ、人殺しって楽しい?」
 葬識が殺し屋に問いかける。
「オニーサンやっぱ俺様ちゃんチョー怖いわ。え、何、ソッチ系の人?」
「逃げ惑うリベリスタを追い立てて、命を奪うのはたのしいよねぇ」
「よし、オニーサンの話聴こうか。人の生命って結構大事らしいぜ」
「俺様ちゃんもそうだよ、這いつくばって命乞いするフィクサードが大好きだよ」
「オニーサンもうやだこの子。健全な趣味とは言えまセンヨ! 殺しはお仕事だけにしときナサイ!?」
 どっちが悪人なのか。否、どっちもでいいのか。一元論的でわからなくもなるが、それでも殺し合いは続いている。バットと鋏の金属演奏。耳障りで、居心地の悪い不協和音。言外に死ねとだけ言い続ける行動のキャッチボール。殺害コミュニケーション。
 楽しい。楽しい。嗚呼、戦いが始まってどれだけ経ったろう。どれだけ過ぎたろう。数秒か、数分か。濃厚な殺し合いの時間。もうすぐ。もうすぐだ。もっと楽しくなる。ほら、待ちに待った仲間の声が来た。最上段の構え。派手に、大きく、斬り下ろす。

 ルーメリアの詠唱を終え、その息吹が仲間を癒していった。現れてからずっと、あのフィクサードはこの調子だ。その口調には殺し合っているという様子が伺えない。だが、行動は別だった。重い一撃。遠近の攻撃を兼ね備え、隙を見せれば後衛も容赦なく狙われてしまう。リベリスタを殺しうる。確かにその実力を持っていた。
 だが、だからこそ自分がいる。そのための癒し手。回復役。治療師だ。誰も倒れさせない。その為に癒し続けている。待ちながら。作戦の決行。その瞬間が訪れるまで誰も倒れさせはせぬのだと待ち受けながら。
 と。その時が来た。仲間の合図。ライフメーターをカウント。六割をカット。もう一度高位種の慈悲を唱えた。万全を期すために、そしてその時。
「いくよ、みんな! 必殺、打者一巡の猛攻!」
 その掛け声を銅鑼がわりに、味方の攻撃が苛烈さを増した。予知から得たスロースターター対策。起きる前に潰せ。かかるエンジンを限りなく押さえ込め。
「うっし、燃えてきた」
 気を引き締める。ここからが本番だ。

「次は俺の番だ。てめぇの最高のやつで来いよ。ぶっ殺してやるからよォ!!」
 皆が一撃に集中すれば、その分防衛は疎かになる。その役目を買ってでた味方が下がるのに合せ、昌斗は前に出た。陣形として壁の重要性は、的であることだ。フィクサードの意識を自分に向けさせる。
「熱いネ少年。そういうの好きだし、見せちゃおっカナー」
 口調はそのまま。相も変わらず戦闘態勢。だが、そこから感じる殺気はそれまでのものより遥かに強大だ。
「さぁて……こーゆーのをエクストラスキルっつーんだよ!」
 フルスイング。ただそれだけだ。それだけの筈だ。水平移動する釘バット。だがその起動は目視で捉えきれず、直感すら容易く抜き去り、昌斗の顔をぶっ叩いた。頭蓋の砕けた音がする。だが倒れない。倒れてやらない。この先を消費する。実に美味しい。良い見せ場だ。ここで食わずにいつ食らう。自分が死んだはずの事実をなかったことにして、その隠された顔に銃口を向ける。否、押し付ける。
 撃鉄が火炎を吐いた。

 烏頭森が、ガスマスク男の動きを見ている。バット一本で巨大な真空波を生み出すその運動性能。こちらをまるごと切り裂くスイング。欲しい。それが欲しい。
 その視線に気づいたか、男がこちらを向いた。息が荒いことを見るに、やはりダメージは負っているのだろう。マスクも割れて、一部生身が露出している。
「お? これ覚えたいのお嬢ちゃん。いいぜ、大事なのは腰な。腰」
 軽く自分のそれを叩き、おかしなことにわざわざレクチャーを始める彼。しかしその手本を見せる度に斬鉄の刃が飛来するのだから、悠長に眺めている暇もない。だが、熱心に観察しよう。その動き。理屈でなく経験と鍛錬によって生み出された合理性。一部の無駄も感じられぬ居合にも似たその稼働。それを我が身に修めようと思考する。だが。
「ちょいとお嬢ちゃん基本が足りないんじゃないザマス!? キャッチボールからやり直してキナサイ!」
 怒られた。わざわざ攻撃の手を休めてまで怒られた。一流スラッガーへの道はどうやら遠いようだ。

 敵の動きに疲れの色が濃く出始めている。だが、厳しい状況にあるのはこちらも同じであった。一撃が重い。重すぎるのだ。燃えてきた、そう宣言してからこちら。バットマンの攻撃はそれまでと別人のように激しさを増した。口調は不真面目なそのままだが、釘バットが振られる度に大きなダメージをこちらに与えてくる。8:1。その手数さを用意に埋められる程傷は深く。深く。
 よって、天は味方を癒すためその身を粉にして歌い続けていた。あまりにも傷が深く、その息吹を分け与えられないこともあるが、それでも攻撃に身を回せるような余裕はない。誰もが傷ついている。誰もが攻撃を受けている。一進一退ではなく。ただただ削り合い続ける消耗戦。自分は倒れない。倒れられない。役目は支えること。自分が倒れれば、仲間も同じになるだろう。
 歌う。歌い続けている。決着は近いだろう。どちらが最後までマウンドに立っているのか。それでも信じている。三振アウトでゲームセット。きっと魅せてくれるに違いない。

 アーリィは、そこを狙っていた。
「ぜひー……そろそろしんどいな。バックレちまおうか……おあっ痛ぅ!?」
 思い立ったがなんとやら。逃走算段を口にした頃にはもう足を向けていたフィクサード。だが、駆け始めた一歩目を気糸の阻害に貫かれた。痛みで一瞬、男の動きが止まる。クリーンヒット。すぐさま矛先をこちらに向けてくるのだろうが、もう遅い。この隙間を逃すようなリベリスタは、ここにはいないだろう。
 顔をこちらに向けた頃には仲間が斬りつけている。逃走経路には別の仲間が陣取り、包囲網を完成させた。これでもう、逃げられない。明らかに見える焦燥。その瞬間、アーリィの放つ第二矢がフィクサードの得物をはじき飛ばした。これまでどれだけ狙っても手放させることの出来なかった釘バット。それを維持するだけの握力も残っていないのだろう。これで決着。決着だ。仲間が、自分が、それでも警戒を解かず構え。武器を魔導を突きつける。
「あー……降参デス」
 両手を上げて。戦意喪失の合図。それにあてられたか。壊れかけのマスクが崩れ落ちて、中身を外にさらけ出した。

●終戦←正義=面倒にして麗わしい諦念
 自分のようなものが、ここにいることに違和感を感じる。それに慣れてしまったことにもだ。

 ボディチェックして、ふんじばって。後はアークに連れていく。その目的を、行動理由を知るために。
 顔を隠していた割には、その下が表に出たところで苦にするような素振りのひとつもこの男は見せなかった。身体検査の間も、拘束される間でさえも。文句のひとつ言うことはなく、こちらの動きに任せていた。その間、しゃべり続けては居たのだが。
「イヤァ、正直感謝。ほら、殺される覚悟のあるやつだけなんとやら。でもオニーサンだって死にたくないしさ。生かしてくれるならめっけもの」
 殺しているという自覚。それがあってなおこうであるあたり、裏野部らしいというえば裏野部らしいのだろうか。
 ともあれ、大事な情報源だ。これだけノリの軽い男なら、案外こちらの知りたいこともぺらぺらと話してくれるかもしれない。だが、まあ。
 ひとまずはこれでゲームセット。次の試合までお待ちあれ。
 了。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
フレンドリーな殺し屋。