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【共食い】金と恋と賢者の石と


 其の事件は白昼に、けれども人目を憚って密やかに起きた。
 ひと気の少ない道路を走る大型トラックの前に、一人の警官が立ちはだかり両手を広げて停車を要請する。
 しかし、トラックの運転手の行動は停止では無く加速だった。トラックの運転手によって限界までアクセルをべた踏みされたトラックは、いとも容易く警官を挽肉へと変える。
 普通の人間な取る筈の無い異常な行動。けれどその行動は、このトラックと運転手の所属、其の目的を知れば納得は出来なくとも理解する事は出来るだろう。
 このトラックを所持し、運転手が所属する組織の名前は『恐山』。日本に存在するフィクサード組織の中でも主流七派の一角に位置する強力な力を持った組織である。
 そんな恐山に所属する、勿論フィクサードであるトラック運転手の任務は本部から実験の為の施設へと『賢者の石の収められたケース』を輸送する事。この大きなトラックは、小さな石一つを隠しながら、其の護衛達と共に運ぶ為に用意されたのだ。
 トラックの運転手は、そして護衛達は知っている。『謀略の』とすら呼称される恐山を止める警官など存在し得ない事を。
 表の世界からの万一の妨害の排除、そんな些細な根回しはとうの昔に済んでおり、彼等の所属が恐山である以上は根回しに関してイレギュラーなど起こりえる筈が無いのだから。
 ならば考え得る可能性は一つだけ。これは賢者の石を狙う、彼等と同じ裏世界に所属する敵からの襲撃なのだ。
 肉片を踏み砕き、加速するトラック。だが其のトラックの前に、次から次へと人が飛び出し踏み潰されながら其の進行を、己が血肉を楔として食い止める。
 ホイールに、タイヤに、血が、肉が、骨が、髪が、10を遥かに越える人の身体が絡み付き、其の動きを封じ込む。
 そして動きの止まったトラックに取り付いた老若男女様々な、共通点と言えばその生気の感じられぬ目ばかりの、明らかに操られている人々が、爆発した。


「鮮やかかつ残酷な、見事としか言い様の無い酷い手際ですな。流石は暴力、殺しにかけては手段を選ばぬ貴方達だ」
 言葉にたっぷりと皮肉を載せ、顔をマスカレイド用のマスクで隠した黒スーツの……恐らくは老年の男は、慇懃無礼に拍手する。
「そうねー。うちはそう言うの多いわね。でも貴方だって同じ穴の狢じゃないの? 寧ろ貴方の方がえぐいと思うわ。そもそも何でこんな任務に参加してるの?」
 男の言葉に睫毛の手入れをやめた、口元を白い使い捨てマスクで覆う、ゴシック系の衣装に身を包んだ少女が顔を上げた。
 確かに大量の一般人の精神を砕き、操り、死地に向かわせ、或いは自爆させたのは彼女だ。いや、今も賢者の石を護衛する恐山のフィクサード達に向かって彼女の操る一般人達が襲い掛かっている。
 けれど返り討ちに合い、倒れた一般人達がE・アンデッドとして蘇り、再び戦列に加わっているのはこの男が持つアーティファクトの能力なのだ。
 どちらがよりえぐいのかは見方にもよるが、どちらも同じ穴の狢である事は確かである。
「恥ずかしながら、金の為ですよ。上は賢者の石に随分興味を示したようで、多額の報酬を約束してくれました。『地獄の沙汰も金次第』と言うでしょう? 私の道は探求に金が掛かるのですよ」
 恐山から賢者の石を奪う。其れは多大なリスクを伴う作戦だ。
 相手は仮にも『謀略の恐山』。男の組織も、少女の組織も真っ向から恐山を敵に回す危険を簡単には冒せない。
 故に顔を隠し、名前を隠し、所属を隠す。ばれる位ならば自害をと要求されている。
 なのに男は、そんなリスクの高い任務を金の為に請け負ったと言うのだ。
「ふーん」
 しかし少女の返事は気の無い物だった。
 仮にも自分から聞いておいてあまりな少女の態度に、仮面の男の口から溜息が漏れる。
 気まぐれで年若い少女の考えは、年を経た男である彼にはいまいち読めない。
「…………」
「…………」
 二人の間に沈黙が流れる。
 一人のフィクサードに取り付いた一般人が爆発し、再び爆音が響く。銃声が鳴り、一体のE・アンデッドの頭が消し飛んだ。
「……ねぇ、私の参加理由は尋ねないの?」
 不意に口を開いた少女、其れはまるで自分の理由を聞いて欲しいかの様に、……いや、そもそも男に参加理由を尋ねたのも、自分の参加理由を語りたかったが為なのだろう。
「其れは聞くまでも無いように思いますが……。貴方達は殺しが出来ればどんな危険が伴っても満足な人種でしょう?」
 酷い偏見に満ちた男の物言いに、少女の頬が僅かに膨らむ。
「やめてよ。私をあいつ等と一緒にしないで。そもそも私は殺しとか嫌いなのよ」
 では先程トラックに突っ込まされた、或いは恐山のフィクサード達に今も特攻させられ続けている一般人達は何だと言うのだろう。
「いい? 私はね、とっても過激な恋がしたいの。心ならずも非道に手を染める私の前に王子様は現れるわ。そして正義感の強い王子様は怒りに震えて私と剣を交えて、……でもやがて彼は私の心の内に気付いて苦悩しながらも敵味方の道ならぬ恋に落ちるのよ」
 ………………。
「さて、そろそろ彼奴等にも疲労が見えて来ましたな。そろそろ参りましょうか『恋愛主義者』殿」
「貴方って友達居ない人なのね。それともお金と死体がお友達なのかしら?『金の亡者』さん。そんな貴方でも心優しい私が助けてあげるから安心すると良いわよ」


「さて諸君、今日の仕事は素敵な仕事だ。欲のままに蟲毒の壷で喰らい合う蛇蝎共は、いかにもフィクサードらしいと思わないか」
 珍しく上機嫌を露わにした『老兵』陽立・逆貫(nBNE000208)は、更に珍しい事に両手を広げて集まったリベリスタ達を歓迎する。
「恐山の所持する『賢者の石』の一つが、実験施設への輸送中に謎のフィクサード達に狙われる事を察知した」
 様々な手段で慎重に隠蔽された謎のフィクサード達の身元は判らないが、主流七派のどれかであれ、それ以外の成り上がりを狙うフィクサード組織であれ、所詮はフィクサード達、蛇蝎同士の喰らい合いに過ぎない。
 そんな諍いにアークが首を突っ込む理由は特に無いはずなのだが……。
「ところで諸君。恐山とアークが停戦中なのは周知の事実ではあるのだが、謎のフィクサード達が奪取してしまった賢者の石は、もう誰の物でも無いと思わないかね?」
 心底嬉しそうな笑顔で言う陽立逆貫。
「無論、其のまま素直に返してやるのも構わない。アークは既に幾つもの賢者の石を所持しているし、押収がトラブルの種になる可能性も充分にある。返せば恩を売る事も出来るだろうし、今後のイニシアチブを握りやすくも成るかも知れない」
 勿論全ては事がうまく運べばの話である。
 後に政治的判断で返却にいたる可能性も充分にあるが、取り敢えずこの場はリスクを冒して果実を食うも、分け与えて恩を売るも、現場に出撃するリベリスタ達の判断次第だ。





 資料

 謎のフィクサード勢力の戦力

 フィクサード女:『恋愛主義者』(仮のコードネームと思われる)
 ゴシックな衣装に身を包んだ少女。プロアデプトだと思われる。
 特徴的な所持アーティファクトは2つ。
『???』
 無鋒剣型。クルタナを模した非殺の魔剣。この武器所持者からの攻撃を喰らった者は、其の威力分のEPを消失する。ただしHPへのダメージは0。(%HITによる50%や150%等の増減は起きるが、物理防御や神秘防御による減少が起きない)この攻撃でEPが0になった者は精神を砕かれ戦闘不能状態に陥る。
 この武器を所持する事によるデメリットもあるようだが、不明。
『???』
 リップのアーティファクト。このリップの所持者が心身を喪失、或いは精神的に衰弱した状態にある者に口付けを行った場合、口付けされた者は口付けをした相手の操り人形と化す。
 また口付けを行った相手が己の操り人形に念じれば、其の生命力を燃やし尽くしての自爆を行わせる事が出来る。


 フィクサード男:『金の亡者』(仮のコードネームと思われる)
 黒スーツの老年の男。ホーリーメイガスだと思われる。
 特徴的な所持アーティファクトは2つ。
『??????』
 数珠型のアーティファクト。この数珠に念じれば、死亡後6分以内の死体をE・アンデッドと化す事が出来る。E・アンデッドの能力は生前の能力に比例する(一般人死体だとフェーズ1、革醒者の死体だとフェーズ2になる)。ただしE・アンデッドは生前の記憶等を保持しておらず、ただエリューションとしての本能のままに暴れる。

『?????』
 指輪型アーティファクト。この指輪に1ターンかけて念じれば、半径50m以内にいるフェーズ2以下のE・アンデッドを大雑把な命令に(自分達を襲うな。あいつを殺せ等)従わせることが出来る。


 人間:操られる一般人×18名
 キスマークの刻まれた『恋愛主義者』の操り人形。操り状態になる事で身体能力の枷が外れ、一般人とは思えぬ力を発揮するが、所詮一般人なのでリベリスタやフィクサードとは比べ物にはならない。ただし、『恋愛主義者』からの命令や思念を受けた時、彼等は生命力を燃やし尽くして爆発し、半径5m以内に侮れないダメージを撒き散らす。

 E・アンデッド:元一般人×11名
 フェーズ1。耐久力と攻撃力にやや優れ、速度がやや遅い。

 E・アンデッド:元フィクサード×2名
 フェーズ2。殺された恐山のフィクサードがE・アンデッドと化した物。生前の能力はサジタリーとクリミナルスタアで、其々が其れに元のスキル郡に近しい能力を持つ。



 恐山派

 フィクサード:百陣
 賢者の石護衛隊のリーダー。クリミナルスタア。
 銃での戦いを得意とし、テラーテロール、バウンティショット、ヘッドショットキル、仁義上等、血の掟、ギルティドライブを所持。

 三石
 百陣の部下。ソードミラージュ。
 トップスピード、多重残幻剣、ツインストライク等を所持。



 賢者の石が収められたケース。
 賢者の石が発するパターンと似た魔力を発するケース。
 中に本当に賢者の石が収められているのかは開けてみなければ判らない(透視も効かない)が、封印が施されており開封にはそれなりの設備が必要となる。




■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:らると  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年02月21日(火)22:18
 今回このトラックと同じ様に幾つかの『賢者の石を収めたケース』が恐山の実験施設へと輸送されて居ますが、本物の賢者の石は一つだけで他は全てダミーです。運んでいる人間も中身がダミーかどうかは知りません。
 どのSTのシナリオのケースに本物の賢者の石が入ってるかはまだ内緒です。

 老年の男と少女は正体を隠す為によほど追い詰められない限りはEXスキル(詳細不明)を使用しません。
 彼等は戦闘不能や死ぬと体が燃え上がり証拠隠滅が自動で行われます。其の他にも色々隠蔽が施されている模様。
 フィクサード達は奪取が不可能と悟れば撤退します。それに役立つ非戦スキルも所持しています。
 また恐山の生き残りは大分傷付いています。
 あと当然ですが、停戦中なので恐山の生き残りへの攻撃は厳禁です。
 恐山は謎のフィクサード、E・アンデッド、一般人を問わず攻撃をしています。アークのリベリスタ達が現れた時は其の時の行動によって対応が変わりますが、アークを名乗れば攻撃はしてきません。

 現場の道路の左右は森。
 リベリスタ達が到着した時、現場は交戦中となっているでしょう。

 謎のフィクサード達に『賢者の石の入ったケース』を持ち去られると失敗です。
 きちんと急げばリベリスタ達の到着時はまだケースは恐山の生き残りが守っています。

 恐山の生き残り、ケースの行方等、色々と要素はありますが、どうするかはお考え下さい。
 周囲は血と肉片で満ちています。
 それでは、お気が向かれましたらどうぞ。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
デュランダル
結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)
クロスイージス
新田・快(BNE000439)
プロアデプト
ヴァルテッラ・ドニ・ヴォルテール(BNE001139)
スターサジタリー
結城・ハマリエル・虎美(BNE002216)
インヤンマスター
土森 美峰(BNE002404)
デュランダル
マリー・ゴールド(BNE002518)
覇界闘士
三島・五月(BNE002662)
マグメイガス
クリスティーナ・カルヴァリン(BNE002878)


 響く無限機関の暴走音と共に放たれたエネルギーが、哀れな操られた一般人を巻き込み血路を開く。
 必要な犠牲に内心は兎も角表情を変えず、冷静に障害を薙ぎ払う『鉄血』ヴァルテッラ・ドニ・ヴォルテール(BNE001139)の傍らで、けれども『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)の顔は血の色を失っていた。
 理不尽への怒り故か、悲しみか、それとももっと判別のつかない交じり合った衝撃故にか。
 べしゃりと、ヴァルテッラの業爆炎陣で弾けた人間の、撒き散らされた血肉が快の頬に当たる。
 只管に熱い其れは、業爆炎陣の炎の残滓だけではなく、つい先程まで彼等が生きていた事を雄弁に物語っていた。
「どうして、この任務は……『可能な限り一般人を助けろ』じゃ無いんだろうな」
 畜生と、思わず快の口から弱音が零れる。
 そう、其れは弱音で甘えなのだ。快も本当は判っている。彼の頭脳は否応無しに理解してしまっている。
 この現状を選んだのは他でも無い自分達、……いや消極的ではあれ、そうしようと自分も判断したのだと。
 例えば地に頭をこすりつけて、例え任務失敗の評価を受けようと彼等の救出をと仲間に乞う道もあっただろう。
 予知を通してしか現場を見ず、其処で散る命の価値を考えなかったフォーチュナに、自分の望みと決断を叩きつける事も出来たかも知れない。
 それらの決断がどんな結果を招くかはわからなくてもだ。
 けれど成功と彼等の命を天秤に賭け、選んだのはこの道だ。血で出来た道を進み、任務を果たす。
 足を動かす度に胸の奥に何かが刺さる。
 迷いはあった。けれど其れは弱さだ。心の痛みも其れは甘えだ。
 弱いからこそ、甘いからこそ、乗り越えた明日は今日よりきっと強い筈。だが今は……。
 故に此処からは、心に食い込んだ楔の物語。

 撒き散らされる弾丸、吹き荒れる炎、天より落ちる氷の雨。
 弾ける肉、舞い散る血、掻き消される命達。

「ほう?『爆葬炎神』春日京間は死んだと聞きましたが、成る程。簒奪者が居ましたか」
 降り注ぐフレアバースト、ハニーコムガトリング、陰陽・氷雨、そして業爆炎陣のことごとくを引っ掴んで盾にした一般人の体で捌き切り、金の亡者と呼ばれた男が呟く。
 其れは、彼等、金の亡者や恋愛主義者達が寄り尚更自分達の固有技を使用しにくくなった事を示している。
 彼が想定する最悪の事態は自分達の身柄を恐山に確保されてしまう事。
 恐山は、恐らくは情報だけでは動きたがらない筈なのだ。彼等の背後が恐山との全面衝突を避けようとする様に、恐山も相応の出血を強いる同格の存在と事を構えるのは出来る限り避けたいだろうから。
 例えば顔がバレても別の誰かが背後の組織を陥れる為に百面相を使った可能性等も含めれば決定的な証拠とは成り難い。
 其の程度の証拠では、恐山は動きたがらないだろう。落とし前をつける為に動かねば周囲が納得しなくなってしまう程の決定的な証拠が無い限り。
 けれどもラーニングの存在は、其の決定的な証拠を掴む要素になりかねない。
「他人の技を模倣する、神秘に集るハエが」
 苦々しげに吐き捨てる男の技がもし仮に模倣されてしまえば、それは自らの名刺を渡したに等しい。
 特徴的な独自の技を、再現性のある証拠とされれば、……最悪の場合、裏の世界だけでなく表までをも巻き込んだ、誰も喜ばない凄絶な潰し合いが起きる可能性すらある。
 一文の得にもならないと言うのにだ。
 なのに、
「特務機関アークよ。貴方達に“恩を売りに”来たわ」
「アークだよっ! 逃げて!」
 『殲滅砲台』クリスティーナ・カルヴァリン(BNE002878)や『猟奇的な妹』結城・ハマリエル・虎美(BNE002216)らの恐山への呼びかけを聞き付けた恋愛主義者と呼ばれる少女は、
「ふーん、アーク……ね。それより見て見て、あそこの彼とても悲壮な顔をしてるわ。自分達の行いを悔いがあるの? そうよね。とても沢山殺したわ。なんて可哀想なの。チョコラテの様に甘いけど、……そんな甘さで苦しむ彼はとても素敵」
 何故か男と違って其の背後に一人の一般人を庇いながら、男の感性では理解の出来ぬ謎の言葉を唇から紡ぐ。
 正直少し怖い。目をつけられたリベリスタには、ほんの僅かな同情を禁じえない。
「でも取り敢えずそうね。彼等は私が止めるから、貴方はお仕事をすませて来て良いわよ。言ったでしょう? 今回は私が守ってあげるって」
 そう言い、少女は庇った一般人の背を男に向けて押し出す。
「はい、爆弾。残り少なくされたから効果的に使ってよね。じゃあお互い頑張りましょう」
 一般人を殺す嵌めになったリベリスタに同情する様な言葉を吐いた直後に、其の一般人をさらりと爆弾と言い切る少女の感性は、やはり男には理解の出来ない異質だ。
 無論一々其れを咎める気も無いのだけれど……。金と恋を求める2つの闇が、もぞと動き出す。


「君は、こんな事をする子じゃないだろう?」
 刃と刃をぶつけ合わせながら、『合縁奇縁』結城 竜一(BNE000210)は少女に向かって囁いた。
 少なからぬ一般人の命を犠牲にすると決めた以上、此処で失敗する訳にはいかぬと覚悟を決めて進み出た竜一の刃は重い。
「……えぇ、本当は私もこんな事はしたくないわ。でも私は組織の命令には逆らえな……。と、それよりあの子って貴方の彼女? 何だか殺気が凄いんだけど……」
 しかし少女はそんな竜一の刃の重さを気にした風も無く視線を、彼の後方に控える竜一の妹、虎美へと向ける。
 結城・ハマリエル・虎美、竜一と同じ結城の苗字が示すとおり、彼女は竜一の妹である。けれど『猟奇的な妹』の称号からも察する事が出来るが、虎美は兄である竜一を深く、男女的な意味で愛する、しかもヤンデレな、色んな意味で危険な妹なのだ。
 そんな虎美が、例え芝居であるとは言え……否、竜一の事だからうっかり本気で口説いている可能性だって決して否定出来ないのだから、思わず溢れ出た、一般人ならそれだけで失神してしまいそうな殺気を隠し切る事など出来よう筈が無い。
 其の刹那、竜一が感じ取ったフラグは死亡フラグ。目の前の少女からの圧力と、そして何よりも背中に突き刺さる妹の視線に、竜一の背を冷たい汗が流れ落ちる。
「……い、妹だよ」
 無事生き残る為の正解と言う名の道は細く狭い。だが竜一とて数々の死線を、潜らなくて良かった死線ももしかしたら混じっていたかも知れないが、越えてきた実績の持ち主だ。
 辛うじて選び出した生き残る為の答えに、少女の瞳が輝いた。
「あら素敵だわ。本当に素敵よ。兄妹なのにお兄様に恋してしまうなんて、なんて背徳的なの……。禁断の愛なんてとても羨ましいわ。私は貴女を応援するわよ。ねえ貴方、ちゃんと受け入れてあげてね?」
 出会い方が違えば少女と虎美は友達にだってなれたかも知れない。余りに素直な恋の応援に虎美が思わず戸惑いを覚えた次の瞬間、けれども和やかになりかけた空気は竜一とスイッチして前に出たヴァルテッラが打ち砕く。
「私はアークのヴァルテッラだ、君達の名を伺っても?」
 名乗る事で思考を誘導してからのリーディング。ただ読むだけでは曖昧な情報を得るだけになりがちなリーディングで、望む情報を引き出し易くする為の技法の一つである。
 だがリーディングで読み取れた少女の所属は……『オルクス・パラスト』。
「渋くて格好良い素敵なおじさま。でも行き成り心を覗くなんて、おじさまはとてもエッチなのね」
 笑う少女から滲む余裕に、ヴァルテッラの顔が渋面になる。
 例えオルクスが本当に賢者の石を欲していたとしても、日本でこの様な行為に出る事はまず在り得ない。ならば考えうる可能性は、『ペルソナ』での思考隠蔽。
 笑顔のままの少女が振るう斬撃は、ヴァルテッラの体を傷つける事は無く、けれども其の魂を砕くほどの衝撃を彼に与える。
 体勢を崩したヴァルテッラに代わり、前に出たのは快だ。
 顔は蒼白、噛み締めた唇から血を滴らせた彼は、
「刃金作の魂砕きに一般人の自爆、やり口がいかにも裏野部的過ぎる」
 砂蛇のナイフの切っ先を少女に向けて問いかける。
 心に食い込む楔が痛む。やり場のない怒りに、せめて情報だけは掴みとらんと。
「ねぇ貴方。貴方はそんな事を言いに此処へ来たの? 真っ赤に染まった其の体で、そんな悲壮な顔をして。だとしたら、貴方はとても可哀想な人だわ」
 なのに返って来たのは大袈裟な程の同情か憐れみ、或いは慈しみで好意。


「何処が彼等は私が止めるからなのか……、小一時間問い詰めたいところですな。私の精神が削れるだけなのでしませんが」
 溜息混じり手を打ち鳴らし、自分や少女、そして周囲のアンデッド達に翼の加護を付与する男。
 其の視線の先には、投擲した爆弾、もとい一般人を打ち落としたクリスティーナ、
「どうも、援護させて頂きます」
 可愛らしいメイド服姿の『メイド・ザ・ヘッジホッグ』三島・五月(BNE002662)、
「アークだ。助太刀に来た。どうにか逃げ切ってくれ」
 忌々しい事に恐山のフィクサード達にまで翼の加護を付与した『レッドキャップ』マリー・ゴールド(BNE002518)、そして彼女等の後方には式符を取り出す『捻くれ巫女』土森 美峰(BNE002404)等、計4人の見目麗しい女性達。……もっとも、一人だけ少年が混じっているのだが、可愛らしいその姿は少女にしか見えず、寧ろだからこそ恋愛主義者は五月を止めずに通したのだろう。
 つまり恋愛主義者と呼ばれる少女は、自分が絡みたい男性陣のみを抑えて其の他はそのままこちらに丸投げして来たのだ。
「天才、真白智親謹製の一品よ。とくと刮目なさい!」
 威勢の良い啖呵と共に、クリスティーナ自慢の二連装殲滅砲が雷を、チェインライトニングを吐き出す。
 クリスティーナが敢えて自分のアーティファクトを誇示する様な真似をしたのは、金の亡者と呼ばれる男の注意を惹く為だ。
「成る程、確かに素晴らしい逸品ですな。さぞや良い値が付くでしょう。勇ましくも美しいお嬢さん、貴女と同様にね」
 その啖呵に男は自らの欲をちらりと覗かせ、
「しかし一つ間違いがありますな。それ程の品を作る人間を天才等と呼ぶのは理解が足りぬと言わざる得ない。天も所詮は輪廻の輪の内、才など与えぬ。天だけでなくこの世界の六は、人に対して決して優しくはない。其のアーティファクトは、君が言う真白なんとかの自ら行った努力の結晶であるのですよ」
 けれども切り捨てた。
 空を駆けるフェーズ2のアンデッド、クリミナルスタアの力を持つ其の個体を、マリーから付与された翼の加護で宙を舞う美峰の影人がブロックする。
 刃に切り裂かれて真っ二つになった式符に戻る影人。だが其の攻撃に体勢を崩したアンデッドを、五月の苛立ちを、怒りを込めた拳が地上へと叩き落す。
 地面すれすれの低空を飛ぶマリーの刃、メガクラッシュが銃弾を撒き散らすアンデッド、スターサジタリーの力を持つ個体を捕らえ、更には恐山のフィクサードに駆け寄った美峰が傷癒術にて彼等の傷を癒し出す。
 数に勝るアンデッド達を、此処の力で勝るリベリスタ達が押さえ込む。
 自爆が可能な一般人が生き残っていれば突破口も開けただろうが、その一般人達は彼等の非情な決断により既に排除済みであり、其の自らの手で一般人を排除せざる得なかった事実が、彼等の怒りを煽り更なる苛烈な攻撃へと繋がる。
「通さない行かせない逃がさない。此処は私の戦場よ」
 男の目の前に立ちはだかるはクリスティーナ。其の瞳に不退転の決意を込めて、
「殲滅砲台は砕けない」
 彼女は告げる。
「……然様で」
 溜息混じりに両の手をパンと打ち合わせ、男は神気閃光を放つ。
 白に染まる視界の中、死闘は続く。


 戦いが続いたのはほんの短い時間だった。
 けれどもその間にリベリスタ達にでた被害は非常に大きい。何故なら、彼等、彼女達は自らの身を盾に恐山のフィクサード達が逃げ延びる事に全力を注いだからだ。
 群がるアンデッド達の攻撃に、五月が、マリーが、クリスティーナが運命を対価に踏み止まる。其れでも彼女達は自らの後ろに敵を漏らさない。
 美峰の癒しすら、自らでも、仲間でも無く、残り体力が半分を切っていた恐山のフィクサード達に対して優先的に行われた。
 竜一、ヴァルテッラ等が精神を砕かれ倒れる中、快は恋愛主義者と呼ばれる少女のある不思議な戦闘パターンに気付く。少女は複数回に一回自らの精神を賦活させて回復する術を挟むのだ。
 快に指示され、其のタイミングを狙って放たれた虎美の1$シュートは恋愛主義者と呼ばれる少女の動きを一瞬止める。
 さて、此処でもう一度言おう。戦いが続いたのはほんの短い時間だった。
 何故ならリベリスタ達の献身により、短く感謝の言葉を告げた三石と百陣の二人、賢者の石のケースを所持した恐山のフィクサード達が、マリーが持って来た2台のバイクに跨り戦場を離脱したからだ。
 目標である賢者の石のケースがこの場を離れてしまえば、戦いの続く理由が無くなる。

「追わないのか?」
 マリーの問い掛けには挑発の色は無く、寧ろ金の亡者と呼ばれる男のあまりの諦めの良さに疑問を覚えたから。
「多分、あれだけ判り易い輸送をしていた以上は恐らく偽物ですからな。貴方達の様に手ごわい相手に命まで賭けてまでは……。それとも通してくれるので?」
 溜息を吐き、じりじりとリベリスタ達から距離を取る男の問い掛けに、
「まさか」
「逃がすと思うの?」
 美峰が式符を構え、クリスティーナ魔術を繰り出す。
 だが其の魔術が捉えたのは、
「地の獄に捕らわれし亡者よ縛鎖を逃れ舞い戻れ!」
 起き上がる、リベリスタ達の手で死体となっていた元一般人のアンデッド達。

「一寸顔はやめてよ。顔は。貴女も可愛い顔してるんだから……あれ?」
 一方恋愛主義者と呼ばれる少女の顔に一撃叩き込まんと宙より襲い掛かった五月の拳は、寸での所で翳された少女の切っ先の無い剣によって受け止められていた。
「貴女……、いえ、貴方、……ごめんなさい。そんな綺麗な顔してるから見間違えたわ。良いわね、その格好素敵よ」
 五月に謝る少女。だが五月の怒りの意味を、少女は理解していない。
 再び拳が振るわれんとした其の時、横合いから乱入してきたアンデッドが五月に齧り付く。
「うー、私嫌われてるのかしら? 其れは兎も角そろそろ潮時ね。でも素敵なアークの貴方達に一つだけ聞きたいのだけど……、確かに私達があの石を手に入れたら碌な事には使わないわ」
 でも、
「でも其れは恐山も同じ事よ。アイツ等だって碌な事には使わない。ねえ正義の味方さん達、どうして貴方達は、其の手を哀れな犠牲者の返り血に染めてまでアイツ等に加担したの? 貴方達が来なければ、きっと少しは生き残った筈なのに。……難しい質問よね。でも次に会う時までに、考えておいてくれると嬉しいわ」

 石が逃げ、金と恋は去った。
 切り伏せられた亡者達は、この世界への怨念を撒き散らしながら、ただの肉の塊、屍に戻る。
 リベリスタ達の他には全て屍のみ。
 楔の物語が静かに幕を下す。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 らるとが担当するシナリオの賢者の石のケースはダミーでした。

 理系男と文系女、みたいな感じで書いた心算ですが、酷い偏見ですよね。はい。
 特徴的な敵になっていたら嬉しいです。

 皆さんの作戦は的確だったと思います。
 ただ葛藤も好きです。

 ご参加有難う御座いました。お気に召したら幸いです。