●三高平 あれ。こんな所に本屋なんてあっただろうか。 確かここは空き家だった筈だが……ハテ。 『営業中。本アリマス。』 そんな看板。古びた看板が、空き家だった扉の前に。 窓の中は真っ暗で、何も音は聞こえてこない。いよいよ不思議だ、何だろう。 と、その時に扉が開く。ギィ、と古びた音を立てて。 「いらっしゃい……営業中ですよ、お入んなさいな」 上半身を覗かせたのは外套と帽子にスッポリ姿を覆った男……だろうか。尖った長い鼻に耳、枯れ枝めいた指。 あ。アザーバイドだ。 ●三高平2 「ハイ、という事があったんですよ~」 そう言って『歪曲芸師』名古屋・T・メルクリィ(nBNE000209)はホクホク顔で語り終えた。 ――纏めると、こうだ。 様々なチャンネルで様々なチャンネルの本を売り歩くアザーバイド『本屋さん』が三高平にやって来たという。 店自体が『異空間』の為に崩界加速の心配はなく、更にアザーバイドの力で全ての本が『誰にでも読める文字』に翻訳されているので言語の心配も無いとか。 そこではお金を渡して本を買うのではなく、自分が持っている本と本屋にある欲しい本とを交換する事によって手に入れるのだ、と機械男は付け加えた。 「折角ですし、皆々様も如何でしょうか」 きっと良い時間が過ごせますよと笑いかける。笑いかけながらフォーチュナは思った。 あの蛇の極道さんと虎の姉妹を誘うのも良いかもしれない、と。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ガンマ | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年03月29日(木)23:30 |
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●ドアの向こうに 古びた扉を軋む音と共に開けてみれば、そこは異世界。 「やぁ、いらっしゃい。ゆっくりしていっておくれ」 帽子の影、椅子に座し読書中の店主が笑む。 「本当にアザーバイドというのは色々な方が居るものですね」 僕かの好みとなるものがあるなら万々歳だ、と孝平は思い歩を進める。面白いものだ、様々な世界を渡り歩くなんて。 探すのは医学書。自身が医学生というのもあるし、この世界のものと全く異なる為に役に立つかどうかはさておき、興味がある。身体構造がまったく違う世界のものではどうなることでしょうね。 「異世界の本が読めるなんて素敵……」 どんな本と会えるかな?遠子は眼鏡の奥の瞳を輝かせてズラリと立ち並ぶ本棚を見渡した。異世界の神話についての本は何処にあるのだろう――意識していないのに足は自然と進んでいく。これも本屋さんの力なのだろうか。 「わ……この本、凄く表紙が綺麗……これ、もしかして神話の本かな……?」 形容し難い程の美しい蒼、思わず手に取ったそれは遠子の希望通りであった。期待に高鳴る胸を押さえて静かに表紙を開く。 (凄い……やっぱり世界が違うと神話も想像できないくらい違うね……) 静に読み耽る彼女の付近、リーゼロットもまた立ち読みしていた。異界の射撃武器についての本。開発部に役立ちそうなもの。後で交換しよう、この節約術の本と。 「異世界にはこのような生物がいるのか」 この世界の料理が他の世界でも広まることを願って差し出した『はじめての料理』と引き換えにクリスが読むのは『世界の凶悪生物図鑑』。 「もしこのようなアザーバイドが突然現れたら厄介だったが……なるほど、このような習性があるのだな」 凶暴凶悪に牙を剥く異世界の生物。その生態系を知る事で、今後の戦いに役立つ事だろう。 それは貴志にとっても近しく、彼が持参したのは覇界闘士として修練を積む上で参考にしてきた武術書、それと交換したのは異界の武術書。対価があるなら自分の好みの物と交換してくれるなんて随分と素敵なものだ。 しかし読んでみても再現できないものもある。身体の構造の問題故に仕方ないが、今後も色々な敵性エリューションやアザーバイドとの戦いがある上で、もしかしたら参考になるかもしれない。 いろんなところから本を集めてるならお菓子公爵さんとこのお菓子レシピ本とかあるかな?と、終が探しているのはお菓子の世界のレシピ本。前々からあの不思議なお菓子の作り方が気になっていたのだ。 あるかどうか本屋さんに訊いてみると、「欲しい本を想いながら歩いて御覧、本がお客様を呼んでくれますよ」と答えた。その言葉通りに歩む。と、 「あった、これだ☆」 『オカシな公爵作:お~いしいお菓子の作り方』 1、お~いしいお菓子を頭に思い浮かべ 2、指を鳴らします 3、出来あがり! 「凄いや……読めるのに意味が分かんないZE☆ さすが上位世界だNE☆」 でも、面白いから交換して貰おう。お勧めの料理・お菓子レシピ本を手に、店主へ。 「すみませーん、これ交換して下さーい☆」 そんな様子を星龍は横目に見遣りつつ思う。物々交換、システムとしては一番単純明快。何せ貨幣経済違って等価のものを交換するというのはどの世界でも通用するルールなのだから。 サテ、と目を落とすのは酒や煙草といった嗜好品についての本。やはり、自分の好きなものについて書かれた物が一番しっくりくる。 真琴は星龍と同意見であった。実にシンプルだが、分かりやすい仕組み。どの世界でも共通して存在しうるルール。という事はさて置き、彼女が読むのは自分の信ずる神についての本。 宗教というのは思想の一端について知ることが出来るもの。その成り立ちを知る事でそれを信じる人たちが望むものも分かるというもの。交換するのも同様に宗教書。 「これは迷う。実に悩む。異界の冒険譚や図鑑は気になる」 いや交換するならこれで決まりなんだけど、と七海は顎に手を添える。読むのは日常系にしよう。こっちの常識とかけ離れてるだろうし、先ず人間かどうかも定かではないからどういう生活をしているか気になる。事実は小説より奇なりと言うし。 「4コマって他の世界にもあるのか……内容は結構ハードだけど」 正にシュールとブラックとシニカルの極み。因みに交換用に渡すのは日常系4コマと決めている。こっちの日常や常識が少しでも何かの縁で繋がったら交流が楽なんじゃないかな、とか。 (まあどうなるかはわかりませんがね?) 誰もが本を読み耽る、素敵な読書時間。 「ふーむ、他のチャンネルでは流行ってるゲームなんですかね、これ?」 ユナが手に持つのは他チャンネルのゲームについての本。大変興味深い。因みに交換したのはTRPGのルールブックである。 茉莉が持って来たのはやはり魔術書――と見せかけて、ごく普通の民間で流布されている呪いについて記載されているもの。 実際に効力があるかどうか分からないが、星座占いや血液型占いがテレビ番組の一コーナーとして定着しているようにやはり魔法・呪いという類のものは人々の心を捉えて引き離さないもの。交換したいのも異界の同様のもの。 「鰯の頭も信心から、と申しますが、案外どこの世界でも同様なものを信じているかもしれませんね」 紙面を捲り文字を目で追い、思う。なんだか万引きしようとしたエーデルワイスが盗難防止魔法によって黒焦げになって倒れていたが、まぁ元気そうなので大丈夫なのだろう。 「素敵な本屋さんですねぇ」 たまには本を読むのもいいのですぅと愛華は笑む。手に取ったのはお洒落関係の本、なのだが。 『流行の髪型(宇宙版)』『モテモテメイク(第Ω星雲版)』……えっと、これ火星人?口がタコみたいな。 因みに持って来た本は『誰でもわかる英語』。誰でもわかるって書いてあったのに、私にはまったくわからなかったのですぅ><。 ディートリッヒが持参したのは料理書、レシピ集の類。交換するのも同じ料理書。やはりどの世界であろうと食事というのは共通に存在するものだろう、例え食べれなくても見ているだけで楽しくなってしまう。そんなものだ。 「おっとテトラも来ていたのか」 「ナゴヤに誘われたのだー」 「……よう」 テトラとリトラは仲良く一冊の大きな本を読んで居た。魚の図鑑だ。 「お前はどんな本を交換するんだ?」 「これ欲しいのだー!」 はしゃぐ彼女にそうかと笑う。 「店主さんはやはり本好きが興じてこのようなことを始められたのでしょうか」 中々に興味深い事だと京一は本屋さんに訊ねる。彼は笑んでこう答えた。「私は本から生まれたのです」と。頷く。そんな京一の手にあるのは動物図鑑や植物図鑑の類であった。やはり図や写真が多いものはどの世界においても一番分かりやすいもの。そして何より、その世界に住む動物や植物というのは何より身近にあるものなのだから。 「店主、以前にもボトム・チャンネルに来た事ある?」 最中に本屋さんへ声をかけたのは綺沙羅である。異世界の知識を取りこむチャンス、有効に使うべし。けれど、ボトムチャンネルとは価値観も前提も全て違うとなると殆どの知識がSF小説の設定読んでるようなものだと思うので。 「えぇ、物凄く前だけどね」 「その時、本を交換した事無い?」 「勿論」 脚の赴くままに探して御覧なさい。その言葉を胸に歩き出す。異世界の知識の殆どがこの世界では意味をなさないなら、普通にこの世界でも意味なす知識を探す。理に叶ってる――探すは神秘に関わる本。現在では失われたスキルとかあるかもしれないし、凄い発見があるかも。 そんな様子を見、エルヴィンはこんなアザーバイドなら何時でも大歓迎だなと思う。店主が女の子だったらもっと良かったんだけどな。 探すのは別のチャンネルについて書かれた本。子供向けの簡単な物で良い、違う世界に住む人達の生活食事、文化など。自分達と何が一緒で、何が違って、どうすれば近付き、理解しあえるのか。少しでも良い、何か見えてくるものがあるといいな、と。 とは言え――ずっとそんな難しい顔して本と睨めっこしにきた訳でもなく。紙面から顔を上げる。本を探す。手に取る。開く。 「お、この世界の女の子、良いじゃん。で、この世界は……」 さんどうぉーむ。 「うん、見なかった事にしよう」 かるーくお気楽に、海外旅行程度のノリで未知の世界に思いを馳せる。お返しは料理の基礎の本の心算。 これもまた文化、ってな。 「ふむ」 アザーバイド自身の力で言語を翻訳し、その世界に言語の本として作り変える。 アザーバイド自身の知識欲を満たしつつ、かつ、訪問先の世界の住人との交流で相互に益のあることを為す。 中々に面白い仕組みだとジョンは頷いた。持参した歴史書と交換したのは同じもの。 世界史全般を網羅するもの。単一の国について取り扱うもの。特定の文化や習俗について書き記したもの。そして何より人物史。 歴史とは人が積み重ね生きてきた軌跡を表したもので、それを知る事によりその世界を知ることが出来うるものと考える。 「お邪魔するよ、本屋さん」 異世界の本と交換できると聞いては好事家の血がうずうずと騒ぐものだとクルトは笑む。本屋さんへ差し出すはヘイムスクリングラ、こちらの世界のある地方の古い時代の16人の王の話を綴った書物。後世の写本だけれども、自分が持っている中でもかなり古い本である事に間違いはない。 「こいつでこの本屋にある中でなるべく古い言い伝えのようなものが載っている本と交換を希望するよ」 「ふむ、では」 本屋さんがひょいと指先を動かした。ふわりとやって来るのは、大きな葉っぱ? 「これも立派な『本』ですよ」 どうぞ、と。成程。珈琲でも飲みながら少し読んでみよう。知り合いもいるしお互い貰った本を見せ合っても面白いかもしれない。 「すげえワクワクすんじゃん。ココにいるだけでも楽しそうなのに、マジで貰っていいの?」 あ、交換な。浮き浮きと周囲を見渡すプレインフェザーは本を手に本屋さんの元へ。 「折角遠い世界からのお客なんだし、あたしのとっておきでもやるよ」 差し出すのは、何度も読み返した感のある古いロックミュージシャンの写真集。ほう、と興味深げに紙面を捲る本屋さんへ彼女は近くの机に頬杖を突き。 「カッコいいだろ?歌だけじゃなくて、ファッションも生き方も全部カッコイイんだぜ。ちゃんと別チャンネルのヤツにも教えてくれよ?」 「えぇ勿論、良い読み手が現れる事をお約束いたしますよ。それが私の生き甲斐なのだから」 「ありがとっ。……で、欲しいのは――そうだな、あたし、風景が好きなんだ。風を感じられるようなヤツ。 森とか山とか雪原とか……ああ、砂漠とか荒野は特に好き。 画集でも写真集でもさ、別チャンネルの風景が分かるような本ってねえの?」 どんな風が吹いてんのかすげえ興味あんだけどな、という彼女へ。本屋さんは振り返って御覧なさいと言う。斯くしてそれは真後ろ、まるで彼女を待っていたかのようにそれはあった。思わず手に取った、『風の世界』の写真集。 目が欲しいです、と存人は本棚へ目を走らせる。 異世界でなくても良いのだが、様々な世界を渡り歩いているならばきっと欲しい本もある筈。絵本でも良い、図鑑でも良い。 (俺に作り物の目を、紙に印刷された目を) 生身の目は要らないから、沢山の目に見られる様に。 ふと手に取った。『世界の目玉図鑑』。これと持参した絵本を交換しよう。他の方の邪魔にならないよう、珈琲を頂きつつゆるり座って楽しもう。 「しかし、異世界ともなると販売範囲が広いですね……」 頁をめくり、『見られながら』呟いた。 ●あいらぶっく 「きゃあ! すてき! とてもすてき! ああ、まるで夢のよう!」 野獣の住む城に閉じ込められた美女もこんな体験をしたのでしょう、とアルトゥルは瞳を輝かせる。その目に映るは本、本、本、宝の山。やはりそんな客が嬉しいのだろう、本屋さんもニコニコ微笑んで居る。そんな異形に彼女は持参した本を差し出して。 「本屋さん本屋さんはじめまして! 早速ですがこの絵本と本屋さんがオススメの絵本と、交換して下さいな! あ、あとあと欲張っていいのなら、これ。とうさまの本、論文? みたいなんですけど。 とうさまにも素敵な本を手に入れたの! って自慢自慢したくて! だからこれも、よければ。素敵な論文でも図鑑でも! ええ本屋さんのオススメをぜひ!」 「ふむ、私のオススメでよろしいのでしたら」 本屋さんが指先を動かすと、ふわり重力に逆らって本がその手元にやって来る。二冊。一つは幻想的な装飾の可愛らしい絵本、もう一冊は花について記された分厚い図鑑であった。 それらとアルトゥルの本が浮き上がり、交換が行われる。 「どうもありがとうございます」 「えへへ、こちらこそありがとうなのです。いつか違うひとの手に渡る時まで、大事に大事にしてくださいね!」 「えぇ、それが私の生き甲斐ですから。本も大切にして貰えばきっと喜ぶでしょう」 「アルもぜったいぜったい、たいせつにします。またいつか、来てくださいね?」 ゆびきりげんまん、と約束を。 「あの、この本を交換して貰えますか……?」 そんな本屋さんへ遠子が見せるのは先の神話の本であった。交換に提示するのは日本神話の本。 えぇ勿論、そんな店主の言葉に彼女は表情をぱぁっと輝かせてそれはそれは嬉しそうに入手した本を抱き締める。 「えっと、ありがとうございます……」 続けて言うは「また来てくださいね」と。待ってます、とはにかみ笑んだ。 面白くない本などこの世に存在しない。 どんな本でも機会に恵まれれば、世界でたったひとつの大切な宝物になる。 わたしは常に、心ときめく新しい本との出会いを求めて止まない。 それが本屋である七の信条。 並び踊る本が、本が、彼女を呼んで居る。誘って居る。様々なチャンネルから集められた沢山の未知なる本。 ああ、ここに住み込みたい。ここの住人になりたい。 (しかし、家では愛しの本たちがわたしの帰りを待っているのだ……) 許せと背表紙を指先で慈しむ。斯くしてやって来たのは本屋さんの目の前。 「本屋さん。わたしが高校生の頃に出会い、胸をときめかせながら日々ページを捲ったこの『日本全国毒きのこ図鑑』。 今まで苦楽を共にしたこの本を、ここにある本と交換したいと思うんだ。珍妙な生き物が載った図鑑とか、どうかな」 勿論ですと彼は笑む。それから曰くお探しなさいと。 「一番貴方に読まれたい本が、きっと貴方を一番大きな声で呼ぶでしょう」 「ありがとう、探してみるよ」 こんな素敵な取り引きが出来るのも、リベリスタの特権だよね。ふふ。 腐腐。素敵な本が読めると聞いて!!! 「うふふ、色んな世界のBL本が堪能できるなんて夢みたいッ! めくるめく薔薇ワールドッ! 美少年! お耽美! ガチムチ! この際なんでもいいわ! 珍しいんだもん!!」 今日はTHE・お1人様なジーニア腐乱ダル壱也見参。店内をキョロキョロ、くんくん、こっちの方からべーこんのにおいがする―― 「あったぁあぁぁ宝の山!!」 さぁ、時間が許す限り読めるだけ読もうではないか。 「本、本よ。古今東西の本、それを上回る異界点在の素晴らしき本!」 リウビアはテレキネスによって本を大量に引き出し広げて、次々に捲り目で追うは瞬間記憶。足りない、足りない。時間が足りない。 (そうよ、本屋さんにお願いしなきゃ!) 思い立ったが吉日、善は急げ。急いで息を弾ませ転がる様に店主の前へ。 「ねぇ、物は相談で要は懇願なんだけど……交換するだけじゃ蔵書は増えないでしょ? だから、この私の持ってきた選りすぐりの本20冊……いえ、後で帰ってもっと持って来ても良いわ! それをあげる代わりに、ここに住ませてほしいの! 一週間でも良いわ!」 思わぬ提案に本屋さんは目を丸くしている。だがリウビアは引かずにそのまま真っ直ぐに言葉を続けた。 「悪い事は何もしない、読むだけ知るだけ詰め込むだけ。 異界の生活娯楽宗教倫理思想生物歴史に絵画や音楽! 果ては化学や文明! 魔術をね! 貴方は蔵書を増やせる、私は知識を得ることが出来る。WinWinって奴よね! 来て見て触ってじゃ満足できないの! お願い!」 手を取って懇願する。折角の機会だから。 店主はしばし考え込んだが……リウビアの熱意に負けた。苦笑交じりにゆっくり頷く。 「ふむ、では……本当に短期間だけですが、良しとしましょう。こんな店で良いのでしたら」 「ありがとうっ!!」 ああ本当に夢のよう。 ●こじかず 「こじりさん、なにそれ?」 「これ? 『耽美なる薔薇族』『冷たい内に食べるのさ』『黒い巨こn<みせられないよ!>」 「わあああ なんでそんな本もってんの?」 夏栖斗の目の先にはこじり自前の三冊の本。彼女へ目を移すと、その瞳と視線が合った。 「御厨くんは? 要らないエロ本持ってきたの?」 「え? なんで? エロ本は必要じゃん」 これだよ、と見せるのは使い古しの参考書。冗談よ、とこじりの視線が本へと戻される。 二人で並んで座ったソファ。片方の手は本、片方の手は恋人。 夏栖斗は異世界の漫画を読み耽る。最中。横目。彼女が読む本。 『獄門拷問のススメ』 「ねえなんで、そんなやたらアグレッシブな怖いのよんでるの? 絵本とかかわいいのじゃだめなの?」 「……別に誰にするとも無いけれどね。そう、誰にするとも」 「へ、へぇ~、あとなんで力いれてるの?」 キリキリキリ。逃がすまいとこじりさんのデュランダル握力。 「そうだ、帰る時だけど。ちょっと千枚通し買って行きたいから付き合いなさい」 「あのさ、千枚通しって知ってると思うけど腹パン用の貫通アイテムとかじゃないからね? 正しい使い方しようね?」 なんかもっとギリッと握られた。 ●それは素敵な時間 先ず留吉が二人に見せたのは『さいごに愛を知った猫のおはなし』だった。 「有名だけど、本屋さんにも読んでほしくて!」 今日をとっても楽しみにしていた留吉は表情を綻ばせる。いい本が見つかるといいなぁ。 次にあひるが見せるのは『みにくいアヒルの子』。 「この本はあひるにとって、大切な思い出の本。はじめてプレゼントしてもらえた絵本なの」 本屋さんにもぜひ読んでもらいたいな、と。 それから、二人の本をちらちら見ていた雷音が見せたのは『ネズミの兄妹の絵本』だった。 「ボクが小さい頃からとても好きだった、本なのだ」 浮かべる笑顔はほっこり笑顔。大好きなふたりの大好きなもの。すてきなのだぞ、と。 小さな三人で大きな本棚の間を歩く。見上げる程の大きな本棚、まるで迷路のよう。 されど脚は迷う事無く絵本の並ぶ本棚へと辿り着いた。沢山の本が三人を呼んでいる。 「なにがあるかな……!」 どきどきする胸を押さえてあひるはキョロキョロ、 「どんな本を読もうかな、どうぶつとか、あるかな?」 留吉も一つ一つの本へ目を走らせてゆく。雷音は大きな童話の本を抱えて微笑んだ。 「こっそり回し読みだな」 そうしたら、皆でみれるのだ。 そうして選んだ本を抱えて、ふわふわソファに三人並んで。早速読む――その前に。雲のクッションを投げ合いっこしながらソファでぽよんぽよんと跳ねて遊んでいっぱいはしゃいで。 やんちゃもしちゃうのは二人と一緒だから?と留吉は思い、怒られるかな……?とあひるは思い、雷音は偶にはお転婆なのも悪くないと楽しんだ。 「雲の上みたいで、楽しいね……っ!」 頬を薄紅に染めて笑って、ソファに座って。 温かい紅茶を味わい、その香りを楽しみながら絵本を開いて童話の世界へ。 読んだ本はこっそりお隣さんへ。皆で読む。だって、友達が選んだ本だもの。 勿論、皆が持って来た大切な本にも目を通す。たくさん読んできたのだろう、丸くなった角を留吉は優しく撫でた。想いの込められた絵本たち、しあわせにね。 ただ、本を読むだけの暖かい優しい時間。 それはとても愛おしくて、笑顔が溢れる。 そんな笑顔を見てると、すごくしあわせ。 友達と素敵な時間を過ごせて、本当に幸せ! 如何ですと立ち寄った本屋さんへ三人は笑顔で礼を述べた。こんな素敵な気分にしてくれた。 「また、きてくれると、いいのだ」 雷音の言葉に、留吉とあひるも頷く。 ●夜猫 ソファに二人。 レイチェルが静かに読み耽っているのは懐かしい本、小さな頃途中まで読んでそのままになっていた物語。 一方の夜鷹はとある小説を読んでいた。 満月の丘の上 夜の闇に紛れて醜い鳥が飛んでいる 羽は血で赤黒く染まり、力なくゆらゆらと漂っていた それを見上げる綺麗な黒猫 艶やかな毛並みの尻尾をゆらゆら揺らしている 黒猫は醜い鳥に聞いた 「どうして、飛ぶの?」 醜い鳥は答える 「僕の居場所を見つける為に」 黒猫は諭した 「そのまま飛び続けたら死んでしまうわ」 醜い鳥は答える 「そこに僕の居場所があるなら構わない」 黒猫は醜い鳥を引き止めた 「じゃあ、私があなたの……」 (……綺麗なひと、だな) 昔を思い返しながら読み進めていると、ふと肩に重みを感じて。 レイチェルが目を向けた先には夜鷹の顔が、至近距離。 ホッと息を吐いたのは彼が眠って居る事を知ったから。だけど、視線は彼から逸らせないまま。 停止した思考の中、ぼんやりと――髪が触れ合う、息がかかるくらいの、すぐ近く。 長い睫毛を、整った顔立ちを、透き通った肌を。 そして、唇を。 ただじっと見つめ続けて、 「……、」 パタンと。 (今……私は……) 手元の本が閉じた音で我に返った。夜鷹も目を覚ます。いつのまにか眠りに落ちていたらしいと自覚して、そう言えば小説の中身を夢で見た気がする。続きが気になった。けれど頁を捲って見当たらなかった。 そんな中で気が付く、横の彼女の紅潮した頬。 頭を優しく撫で抱いた。 ●対話 「――という訳なのですよ」 「うん……サッパリ分からん」 本屋さんにこの異空間を作り出す能力と方法について訊ねてみたアウラールだったが、何と言うか、何が何やら。 「うーん……やはり私とお客様は別世界の種族故、難しいですかねぇ」 「それじゃ、異空間を作り出す能力とかの本ってない?」 「ありますよ」 そう言って本屋さんがアウラールへ差し出したのは数冊の分厚い本だった。頷いたのは付き添いにやって来ていたキリエ、トレード用とフルカラーの科学雑誌と、世界史を手渡した。 「ありがとう」 本屋さんとキリエに礼を述べ、アウラールは早速表紙を捲ってみる。 異空間を創り出す力――それがあれば異能力者同士の戦闘に一般人を巻き込まずに済みそうだし、うまく利用すればノーフェイス等を討伐せずに済むんじゃないのか、と。 本人たちは嫌がったり否定するかもしれない。 封印された鬼達の様子を思い起こせば、現実的でないのかもしれない。 けれど殺さずに済むのであればそうしてやりたいし、彼らに生きる可能性を与えてやりたいのだ。 (逃げて時を待てるように) 熱心に読み耽る彼から、キリエは本屋さんへと視線を移す。口を開くは訊いてみたい事。 「貴方のチャンネルにも、ボトムでいうフェイトに相当するものがありますか? 私たちのチャンネルでは、フェイトを持たないエリューションは世界を崩壊させてしまうから、エリューション化した時点でその者の善悪や老若男女問わず、処分せざるを得ないのだけれど……。 貴方達の世界では、そういったことにどう対処しているのですか? それとも、そういった事象は起こらないのでしょうか?」 「ふむ……そもそも、このボトムが特別であると申し上げましょう。どうやら余所のチャンネルにフェイトなるものは――今の所、私は存じ上げません。 フェイトは『ボトムチャンネルの生存市民権』とでも呼びましょうか、この世界の愛はこの世界にしかないのでしょう」 すまないねと言う店主へ「いいえ」と答える。真摯に応じて貰った礼を述べて。 ●蜘蛛と白花、あとメカ 「メルクリィさーんっ!」 本屋だから大人しく、今日はてこてこ歩いてご挨拶。立ち読みをしていたメルクリィへ。 「こんにちはルア様ー♪」 長い腕で高い高い。普通のお家なら頭をぶつけちゃうかも?なんて思いつつキャッキャとはしゃいで――その視界、向こうの方、ランプに煌くオレンジの髪。ドキリと胸が跳ね上がる。 (……何でここに居るの?) 「異空間、別チャンネルの本! 非常に浪漫を感じるね」 本屋さんへ恭しくお辞儀して挨拶していたのはスケキヨであった。 「素敵な機会を有難う、あなたもこのチャンネルの本を楽しんで行ってね」 「えぇ、皆様のお陰で読みたい本が沢山できましたよ」 「それじゃあボクからも。お下がりで多少心苦しいのだけど、推理小説を沢山持って来たよ。 古いけど、王道で読み応えのあるものばかり集めたから、楽しんで貰える筈」 良かったらお菓子も一緒にどうぞ、と手渡した。ポリポリ。本屋さんがクッキーを齧る音が聞こえる。 「それで、お客様はこの本達と交換で何を欲するので?」 「建築好きのボクとしては、建物の描かれている本と交換して貰えたら嬉しいな。 どんな世界のどんな人が住んでいるのか想像するのも楽しいよね」 言いながら、これを貰うよと手に取ってゆく。無造作に開いて――おや。何だか夢に出てきそうなお城。可愛らしくも幻想的なそれに彼は薄く表情を綻ばせた。 (ルアくんに見せたら、何て言うかな?) フフフ、と笑みが零れる。そうだ、彼女へのお土産に何か可愛い絵本も貰っていこうか―― 「ふにっ?!」 彼がこっちを見た気がする! 思わずルアはメルクリィの背中に隠れ、真っ赤になった頬を両手で覆った。たったあれだけでもドキドキ。 (バレてないよね?) おやおや、微笑ましい表情のメルクリィはルアの頭をなでなで。 そしてスケキヨが本屋さんと共に歩いて行った後、ルアは彼が居た本棚の前へ。彼が目を通していた本を手に取って。これと自分のお気に入りの絵本を交換しよう。 「ゆっくり一歩ずつの速度で」 貴方の事を知っていこう。本をぎゅっと抱きしめる。 ●ごうえんげきとぜったいしゃ ツマリこういう事だ。『知識とかこの先きっと必要になってくっと思うんだわ』。だからまあなんだ?こういうとこ来慣れてそうな朱子と一緒に来た訳だ。 「こういう所での立ち振る舞い教えてくれ……!」 半ば挙動不審に火車は横にて本棚を見渡す朱子を見遣った。 「正体不明のアザーバイドの資料が……そして誰も読んだことがない本が……! ふあー!」 「お、おぉう」 「……こほん」 「……」 「本は静かに文字で語るから騒音を嫌う……の」 「そうか……」 そんなこんなで、朱子が持参したのは漫画。数巻で打ち切られたものや、怖いもの見たさに買うからいっぱいあったのだ。代わりに手に入れたのはファンタジーな世界のファンタジー小説である。正直、全部欲しかったのだけれど。 ボロボロだけどよかろ?と言われた通り火車が持って来たのは『拳馬鹿一代』。望んだ本は『30の軍団を指揮する序列63番の地獄の大侯爵』についての書物。 「コノヤローうっとおしいちょっかいかけて来やがったから情報が欲しいぜ……」 溜息、ソファに二人並んで頁を捲る。 「えーと? 静かに本でも読んでりゃ良いんかな?」 のんびりまったりと茶でもシバキつつ。朱子は浮き浮きと異界の本に夢中になっている。 紙を捲る音、お茶を飲む音、時折会話。ゆっくりとした時間。 「海外では新書が買うとすごく高いから……こういうスペースがあるのが普通らしいんだけど。本屋の食事の味の方が話題になったり……」 徐に言葉を紡ぎつつ朱子は隣の彼を見遣り――あっ寝てる。 彼女に寄りかかって本を開いたまま眠っちゃって、穏やかに寝息。 (……寝顔かわいい…) 傍の顔にそっと顔を寄せてみたそのまま、そっと、 ちゅ。 (き、気づいてないよね……) えへへ。 ●麗しき兄妹愛() エロ本!エロ本! 竜一が探すは異世界のエロ本、交換するのも勿論エロ本。 「こちらの世界のエロ本を広めるのも、俺の役目! なぜならば、俺は愛の伝道師でもあるから! ぼっちだけどな!」 問題は、直接的なエロスでは意味がない。 直接的なエロスでは、こちらのエロス文化の程度が低いものと見られてしまう。 重要なのは、年齢制限にひっかからない方向性でありながら、あふれ出るエロスを夢想させて仕方ないエロ。 「たとえば、ふとももに<みせられないよ!>」 後は、異世界剣術指南書とかだろうか――この二刀に更に磨きをかけねば。 でも!そんな真面目でシリアスな様子がバレるのは恥ずかしい! なら!エロ本の間に、こっそり別の本を忍ばせておこう! 普通の本にエロ本を挟むのが一般論な気がするが 気にするな! そんな竜一の後を付けていたのは虎美。脳内お兄ちゃん(ブレインラヴァー)と超直観を駆使して、逃がさない。 (どんな本が欲しいのかな、って……なんとなくわかるけどね) 手に持っているのは異世界の兄妹モノ。因みに料理本と恋愛小説と交換。後を付ける。本屋さんの元へ行くお兄ちゃん。交換した、その直後に息も掛かりそうな程の真後ろで。 「こういうのが良いんだ……してあげようか?」 キャッ、言っちゃった。 もじもじ☆ 肩に置いた手は、離さない。絶対に。 ●メカと蝮とリベリスタwith本 数冊の本を手に、メルクリィの元へ笑顔のとらが駆けてくる。 「メリクリーさんもコーヒー飲むよね? とら、スティックタイプの持ってきたよ☆」 ジャーン!! 「あれ、コラーゲン入りプロテインだった☆ ……似たようなものよね!? 飲めばお肌もプリプリよ♪」 「では、有難く頂きますぞ♪」 そんなこんなでコーヒーを手に、とらが座るのはメルクリィの膝の上。読むのは破界器に関する本。ゆっくり優しく髪が撫でられる心地を感じながら。 「ねぇ、WPのおっさんって、あの趣味の悪いAFを何のために作ってるのかなぁ? 効果としてはとっても限定的なものばかりでしょう? しかも自分用ではあり得ないし。 名前を売るため……? 何かもっと他の理由があるような気がするのよねぇ。メリクリーさんはどう思う?」 「ふーむ……『作りたいから』、ただそれだけとか? 理由なんて無い場合もこの世にはあったりしますし」 そうかぁと頷く。真相は本人のみぞ知る、だろうか。息を吐いて機械男の胴に背を預けた。 「ふー……、メリクリーさんのお膝は国宝級ね……zzzZZZ……」 ついウトウト、夢の中へ。 これは面白い場所だ、と宗一はのんびりと。やはりSFか、もしくは落ち着いた日常の話か、しかし余りラブコメは好かない。短編の本が良いか。長編も好きだが、そんなに長居しても迷惑だろう。 なんて、見かけたのはお馴染みのメルクリィ。思わず苦笑。 「なんつーか、似合わないな。特に名古屋。読書しているのは別段良いんだが、こういう場にその棘の体が、な」 「と、棘じゃあなくってアンテナですぞ」 「そうかい。どんなの読んでるんだ?」 「えぇ、とら様が持って来た破界器に関する本を」 膝の上には微睡む少女。 異世界の奇想天外なトリック、すごく興味がある。 アンジェリカが目で追う文字が紡ぎ出すのは異国の推理物語。登場人物に愛する神父を重ねてみたり。 最中にふと顔を上げてみれば、隅の方で静かに読書中の咬兵が。ドキリと胸がなる。ちょっと躊躇してから、そろっと近付いて。 「あの、隣で読んでいいですか……?」 「ようミスティオラ。別に構わねぇよ」 「ありがとうございます……あ、それから、鼈甲飴美味しかったです……」 「そうか、何よりだ」 視線は本に向けたまま、しかし意識はちゃんと彼女へ向けている。そんな無頼にアンジェリカはお茶を差し出して、自分はコーヒーとチョコ。隣にちょこんと座る。本を広げる。が。 (うう、集中できないよ……) 本を読みながらもちらちら、目を向けるは蛇の無頼。その横顔に思わず僅か幸せそうな表情を浮かべて――駄目、ボクの一番は神父様なんだから。頭をぶんぶん。 「……?」 横目に咬兵は瞬き一つ。 「一人で来たよ」 「……そうか」 「然様で……御座いますか」 「なんでそんな目で見るの!? 本は一人で読むものだろ!?」 「「いや何でも」」 なんて、メルクリィと咬兵に何とも言えぬ反応をされたのは快。交換したのは本、っていうかノート。今年の地酒をあちこち飲み比べた時の感想を纏めた作者新田本。データは別に保存してあるし、折角だからと。曰く、異世界でも似たようなことをした人がいることが分かれば、浪漫やシンパシーを感じられると思うんだ。 「ところで蝮原さんは本の交換はしないんで?」 「俺は此処で読むだけで良い」 「へぇ……いや、普段どんな本を読んでいるのか気になって」 順当に任侠モノや歴史小説?古風に純文学?まさかの恋愛小説?雪花の武将好きは彼の影響だったりして。 ひょいと彼が快に見せたのは、雑学の本。 「そういったジャンルの本をよまれるとは意外でした」 メルクリィと咬兵の傍に居た凛子が興味深げに小首を傾げる。因みに彼女が読んでいるのは医療関係の本――外科手術に関する論文の類。 「……まぁ今偶々読んでるだけだがな」 曰く、別段雑学が好きと言う訳では無く広く浅く読むのだと言う。成程と頷いた。 凛子が用意したのはちょっとした茶菓子とお茶、それらを楽しみつつのんびりと。 「名古屋さんはどのような本を読まれるんですか?」 「神秘現象の報告書とかですかねー」 和気藹々。 「さってどんなレシピブックがあるでござるかなー」 と、虎鐡が探すのはレシピ本の類と推理小説。見付けたら自分のレシピ本と推理小説と交換して、いざ読書スペースへ。 そして瞠目。リベリスタに囲まれ静かに読書中の咬兵。 「……驚いたでござる。咬兵が居るとは思わなかったでござる」 ちょっと失礼だが本とかを読むイメージがそんなになかったのだ。 「俺もお前が居るたァ思わなかったな」 冗談混じりにくつりと笑う。そんな彼の向かいに腰掛けて。 「あ、ホワイトデーありがとうでござる。こっそり美味しく飲ませてもらってるでござる」 「そうか、何よりだ」 で、何を読むんだ?料理?だろうと思った。 ●おデート 「これがデートなのですね。まおは大人に一歩近づいた気がします」 狄龍の背中にくっついて、まおはキョロキョロ周囲を見ていた。 「つっても、俺ふだんは本とか読まねェからなァ……」 今そこらで買ってきた【ヤーン】な男向け写真週刊誌しか持ち合わせがねェぞ。 (ま、こいつを図書館に置いて、別世界の客をビックリさせるのも面白いかもな♪) 「まお、関様の持ち込んだ本も気になります」 「あ、まおにはまだ早い! 見ちゃダメだ!」 「じゃあ、我慢します」 「よしよし。ほら、お前さんは何が読みたいんだ?」 そんな狄龍の問いに彼女が見せたのは、爬虫類と両生類のカラー事典。 「カラー事典? へー、いいな。俺もそう言うのは好きだぜ、分かり易くて」 言い終わりの頃に辿り着いたのは読書スペース。手頃なソファを見遣ってから、狄龍はニッと笑った。 「よーし、今日は特等席を用意してやろう!」 ほれ、こっち来い――座って、自分の膝をぽんぽん。 「わ、特等席ですね。ありがとうございます。まおも本もちょっと重いですよ」 そっと乗る。浮き浮きと辞典を広げれば、鮮やかな色彩。大好きなやもりさん。 「他の世界も気になりますが、この世界にもカラフルで沢山のやもりさんが世界中にいるのですね」 何時か実際に会いたいですと少女は瞳を輝かせる。 「まおはやもりさんが好きだなー。俺も好きだな!」 たまに見かけると可愛いよな、アイツら。蜘蛛少女を優しくぎゅっと抱きしめて。 ●ほのぼの二人 魔術書の棚も一瞥。活字も詰め込まれていて面白く個性的な本ばかり。1冊だけでもかなりの力になりそうだと陽斗は分厚い魔術書を手に取った。 そんな彼の後ろをちょこちょこ付いて回るのはフィネ、お誘いが嬉しかったのでご機嫌である。本選びの邪魔をしないように、じっと、じーっと…… 「あ、あれ……っ?」 あんまりにも真剣そうだったので、つい後ろから羽を広げて覗き込んでしまった。それは絵本、心が温まるような、優しい絵本。或いは動物達の元気溢れる話や冒険もの。どれも可愛らしい絵に飛び出す仕掛け、 「フィネさんの好きそうな絵本を」 どのようなものが良いですか、と。 交換。陽斗が出したのは持参の小説、フィネが出したのはお気に入りの絵本と童話集。 「フィネがこの本に出逢えて、とっても嬉しかったように。この子達を喜んでくれる誰かの元に、届くと素敵だなって、思います」 彼が選んでくれた本をぎゅっと抱きしめる。 「ありがとう、ございます。大切にします、ね」 残りの時間は、二人でゆっくりテーブルで読書でも。 ●ドド読書 ふかふかのカーペットに寝っ転がって。姓は自宅で飼ってる白い猫――お嬢さんと一緒に。 猫が読書するか。まぁものは試し。最初は絵本。 「ほら見て御覧」 本を開けば、泳ぐ魚。それを追う様に、じっと本を覗き込むお嬢様。暫しすると顔を上げて、にゃあと鳴いた。次の頁をご所望の様だ。 次は何にしよう。 「人が主人公じゃ面白くないかな」 猫が主人公の推理小説。どうだい?難しいかな?という予想に反して、鯛が泳いでるのかの様な食い付きっぷり。黙々と読み耽る。 「これくーださいっ!」 壱也が本屋さんの前にドドンと置いたのは厳選した30冊の薔薇本。 引き換えに出すのは、自費出版関係10冊とオススメのBL商業誌本20冊。 「ねね、もっとBL本仕入れといてくださいよっ!」 「え、えと。本を持って来て下さるお客様次第ですね」 苦笑を浮かべる店主であった。 「別チャンネルの本を見れるとか凄くない? 超立読みしまくるよ……!」 ウェスティアは嬉々と本棚を見渡していた。常に神秘を追い求める魔術師として、当然魔術書とかの類を探しにきた……のだが。 (ちょっと漫画とかも読んでみたいよね) うん、ちょっとだけ……その一冊から数時間も夢中になる事なんて露知らず。 未明はのんびり読書していた。他のチャンネルの生き物図鑑。 (心なごむの半分、SAN値が削れそうなの半分、ね) 偶に『生き物』の定義を見直す必要に駆られるのがいたけど、忘れましょう。 目鼻口が位置そのままで縦になってたり、手足の関節が通常と逆向きな生き物は見なかったことにしましょう。 脳内に残すのも、持って帰るのも、ふわふわした可愛い小動物が沢山載ってた一冊ってことで。 置いていく予定なのは、彼女が幼い頃に読んで居た動物図鑑。 (象やキリン……どこかの階層からしたら、これもありえない造形なのかもしれないわね) さっきの自分みたいに「忘れよう」という感想を抱かれるかもしれない。 「本か……」 エナーシアは実は本が好きなのだが、今までの放浪生活のお陰で読む暇が無かった。最近は落ち着いたし色々と積んでいこうかしら、なんて。 手元にあるのは昔のエナーシアが書いた2冊の手記。『主に対する考察』――なのだが、如何せん頭のおかしかった時期に書いたものだからか独自の創作言語で書かれている為に本人ですら読めないという。 もう片方の手に持つのは異世界の地理を解説したものや紀行文。世界中を彷徨っていたので判るように、知らない土地の色々なl事を知るのが好きなのである。此処でしか手に入らないものだしじっくりと立ち読みして厳選した『面白そうな』本。 交換を行って、エナーシアの手記を翻訳をしているのだろう店主を見る――あの手記も読めるようになっているのだろうけれ、ど。 (自重しておくわ、SAN値を下げたくないもの) 如何なる概念の基に構成されている世界なのか? 如何なる思考をする種族が構築する文明なのか? 雑誌であれ、漫画であれ、絵本であれ、論文であれ、それは各々の世界の文明を記した、知識そのもの。 「そんな未知の世界の書物を、まさかこんな風に閲覧する機会を得られるなんて……」 時間も忘れてしまうと、けれど悠月は満足気。 ついでに、と相模の蝮へも声をかける。敵として相対して以来、きちんと顔を合わせた事がなかった事もある。こんな場で静かに挨拶できるというのも不思議な物だけれど。 「こんにちは」 「よう」 「……ところで、何故此処に?」 「名古屋に誘われただけだ……良い暇潰しになる」 以外にも、読書家。 「異世界の本か……」 見渡すレンの瞳は好奇に輝いていた。凄く興味がある。知らない事が沢山ありそうだ。 店主へ渡すのは取り敢えず読み終えた沢山の本。 「どれも面白いものだったから、ぜひ色んな世界の人にも読んで欲しい」 「お約束しましょう」 そんなレンの手元には引き換えに入手した本達。それに加えて店主のオススメ。 コーヒー片手に頁を捲る。この、のんびりした時間が良い。 「これが俺の持ってきた本だ。店主も一度読んでみてくれ。この世界の本も面白いぞ」 手渡す本を異形は嬉しそうに受け取った。心の底から本が好きなのだろう。 楽しい時間だ――また来たいものだ。 ●幻想童話奇譚 「素敵……色々とあるのね。何から読もうかしら……目移り、しちゃうわ……」 そわそわ、那雪の視界に一杯の本。 手に取ったのは異界の童話――道徳観念は、意外と童話を通して子供に伝えられるもの。それに、読み物としても面白い。 ぱらりと頁を捲る。 (なるほど……こちらでは悪徳でもあちらでは美徳になるものもある、か。……興味深い) ぱらりと頁を捲る。 雪に纏わる物語で手が止まる。 「あらまぁ……」 こちらだと雪の纏わる童話は冷たい印象の物語が多いけれど、これは可愛い。きゅん。 「決めたの……これ、お持ち帰りしたいのよ?」 大事に大事に店主へ渡すは外国の童話集。 「これ、交換……お願いしたいの。それから、楽しい時間、ありがとう……」 本を抱いて、ぺこり。 「初めましてご主人。自分も本を交換して頂けないでしょうか?」 亘も交換希望。本好きな自分にはなんというチャンス。差し出す本は50冊にも及ぶ。小説、漫画、童話。 「特に『青い鳥』なんて超オススメなのでぜひ読んで見て下さい」 「それは楽しみですねぇ」 「えぇ。童話って子供向けで普通に読めば幸せな話です。でもその影には怖い、恐ろしい事実があったりするんですよ。 子供向け、大人向け関わらずそんな一面が面白いのです」 因みに童話を含め、全て布教用だったり。 そんな亘の欲しい本もまた童話中心に恋愛小説も。 「ふふ、異界にはどんな幸せな話ががあるのでしょうね」 眼鏡をかけて準備OK、さぁじっくりゆっくり時が許すまで本を読み続けよう。 「す、凄いなぁ……なんていうか、まさか違うチャンネルの存在とこんな風に出会えるなんて」 アークって本当に懐が深いよね、とルークは思う。手にした本は子供の頃に読んでいた絵本、あの頃はすごくどきどきわくわくしてたよね。 交換するのもやはり絵本。 異世界の子は、どんなもの読んでるんだろう。 「もしできたら、この本、異世界の子にあげて欲しいな。 色々な人に読んでもらえたら……本も……嬉しいと思うし、ね」 約束しましょう、と店主は笑んだ。 エリスの手にもまた、絵本。よく知られた童話。 童話はその世界でも特定の人達だけに限られず、一番皆に読まれている本だと思う。 楽しいこと。 悲しいこと。 面白いこと。 辛いこと。 「色々な……ことが……描かれているから……エリスは……一番……好き」 交換希望もまた絵本。 出来るだけ沢山の違う世界の絵本に出会いたい。 ●閉店間際に レイラインは誰も居ない時を狙って本屋さんへ突撃した筈だった。 【男性の視線を釘付け♪ゴスロリファッション『FRILL』】 【三高平おすすめのデートスポット2011】 【還暦からでも遅くない!熟年結婚のコツ】 という、何度も読んでボロボロになった本を抱えて。 結局役に立たなかったのでこの本よりもより役に立つ本に変えてもらうのが目的。 【これで異性はメロメロ☆オサレファッションΩ】 【イプシロンイチオシおデート殺法】 【これで貴方もK☆W☆P】 結果、大本が変わってなくて結局役に立たなかったり。 嗚呼――今日も三高平ににゃぎゃーと悲鳴が響く……。 「あ、レイライン様こんにちは……それ何の本ですか?」 ひょいっと現れたのは758、758ではないか。 「ち、違っ! これは人から頼まれて……!!」 必死。見付からないよう必死。尻尾逆立ちぶわわ。 「えっと地球人用的なものないかなぁ。あっ! ゴスロリ! ちょっと興味あるんだよねぇ。これにしよう! 本屋さ~ん、交換してくっださいなぁ~♪」 交換したての【男性の視線を釘付け♪ゴスロリファッション『FRILL』】が、愛華の手に渡ってゆく…… 「うあぁ……消えてぇ……」 視線を逸らして、ぼそっと。 ●さようなら そろそろ閉店です、と本屋さんの声が静かに響く。 「……え、もう閉店!?」 ゲッとウェスティアは漫画から顔を上げた。慌てて本を掻き集める。 「あーあーあー、今読んでる漫画とグリモア交換お願い! 続きが気になるからまた来てね、絶対だよ!」 え?神秘……?そんな事もあったね☆ 慌ただしく、或いは満足気に、緩やかに。また一人と去って行く。 気付けば人疎ら、ああもうこんな時間か。 帰ろうかと思えども物語はまだ中盤。 「そんな恨めしそうに見ないでくれよ」 苦笑交じりに姓はお嬢様を一撫で。 そうだなあ、持って帰って家で読もうか――と、 「はい千円」 本屋さんに渡すのは、旧千円紙幣のあの人の著書。 古びた扉を軋む音と共に開けてみれば、そこは現実世界。 「今日はどうもありがとうございました。またのお越しを」 帽子の影、椅子に座し読書中の店主が笑む。 『了』 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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