●小さきものたちの困惑と危機 彼らは、心の底から困り果てていた。 先ほどまでのんびり散歩を楽しんでいたはずが、何か穴のような、裂け目のようなものに近付いた途端、そこに吸い込まれてしまったのだ。 気がついた時、彼らがいたのはまったく見覚えのない場所で。予想外の事態にいたく弱い彼らは、大いに動揺した。そして、パニックを起こして闇雲に走り回った。 そして――これが、彼らの犯した最大の過ちだった。 ようやく我に返った時、彼らは完全に道を見失っていたのだ。 周囲は小さな彼らの足跡で埋め尽くされて、どれが古くてどれが新しいのかすら判断がつかない。 それでも一族全員がはぐれずに済んだのは奇跡に近かったが、ここで彼らをさらなる災難が襲う。 道の向こうから、何か黒くて巨大なものが姿を現したのだ。 ゆっくりと歩いてくるそれは、見るからに恐ろしい風貌をしていた。 しかも、明らかに彼らを認識し、獲物を見つけたような目で唸り声を上げている。 このままでは、自分たちはあの恐ろしいものに食われてしまうに違いない――。 その恐怖は、瞬く間に彼ら全員に伝播した。 再びパニックを起こして逃げ惑う彼らに、黒くて巨大なものは、一歩ずつ近付いていった。 ●熊とペンギン(みたいなアザーバイド) ブリーフィングルームでリベリスタ達を待っていたのは、背に黒い翼を持つ、冴えない印象のフォーチュナだった。 「先日からフォーチュナとしてアークに所属することになった奥地数史だ。どうかよろしく頼む」 挨拶の後、『どうしようもない男』奥地 数史(nBNE000224)は手元のファイルをめくって任務の説明を始める。 「今回の任務だが、ええと……色々あるな。エリューション・ビーストの撃破、こっちに迷いこんだアザーバイドの送還、そしてディメンションホールの消滅」 ぎこちない手つきで数史が端末を操作すると、正面のモニターに巨大な熊の画像が表示された。 「まずエリューション・ビーストだが、これは見ての通り熊が元になってる。フェーズは2、戦士級……で合ってるな、うん」 フェーズ1が兵士級だから……などと口の中でブツブツ呟いた後、説明を再開する。 「敵は一体だが、デカくてタフな上に攻撃力が高い。まともに食らうと一気に持っていかれる危険もあるから、そこは注意してほしい」 そう言った後、数史はもたつきながらモニターの表示を切り替えた。今度は、可愛らしいペンギンのぬいぐるみのようなものが映し出される。 「で、アザーバイド。こいつらは体長15cmから20cmくらいのペンギンみたいな姿をしてる。ディメンションホールからうっかり迷い込んで、ウロウロしてるうちに帰り道がわからなくなったらしい」 ――こいつら? と、リベリスタの一人が首を傾げた。 「ああ、なんか知らんがわらわら出てきてるんだよ。ざっと20匹くらいか? ――それで、運の悪いことにこの熊に出会った、と」 疑問の声に対してそう答えつつ、『ペンギンみたいなアザーバイド』っていちいち面倒だからもうペンギンでいいか、などと適当なことを言う。 「ペンギン達は熊を見てパニックに陥ってる。騒ぎながら足元を走り回ってるもんだから、何とか落ち着かせてこいつらを逃がすなりしないと、正直戦うどころじゃないだろうな」 かといって、放っておけば熊に踏み潰されるのはまず間違いない。それはそれで気の毒だから、もし状況が許せば出来る範囲で何とかしてやってくれ、と数史が付け加える。 「現場は山の中だ。雪が積もってるし、当然寒いから装備とかは万全にな。ディメンションホールは割と近くにあるから、戦いが終ればすぐ見つかると思う。ペンギン達を戻したら、忘れずに塞いでおいてくれ」 説明を終えると、数史は顔を上げてリベリスタ達を見た。 「俺からは以上だ。――寒い戦場になるが、風邪ひくなよ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:宮橋輝 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2012年02月08日(水)22:24 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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●ペンギン(型のアザーバイド)を助けに 現場に駆けつけたリベリスタ達が見たのは、獲物に向けてゆっくり近付いていく巨大な熊と、その先で逃げ惑うペンギン型アザーバイドの集団だった。 両の翼をぱたぱた動かし、きゃあきゃあと悲鳴をあげてその場をぐるぐる回るペンギンたち――それを眺め、『一葉』三改木・朽葉(BNE003208)が思わず声を上げる。 「なにこれかわいい」 見た目は皇帝ペンギンの雛にそっくりで、手に抱えられるほどの大きさしかない。ふわふわとした灰色の羽毛は、いかにも触り心地が良さそうだ。 まずは、彼らを熊から庇い、安全を確保しなくてはならない。朽葉が仲間の全員に与えた翼と、『定めず黙さず』有馬 守羅(BNE002974)が世界から借り受けた生命の力を纏い、『朧蛇』アンリエッタ・アン・アナン(BNE001934)が飛び出す。彼女は背の翼を慎重に操ってペンギンたちの頭上を越え、熊の進路を塞いだ。『レッドキャップ』マリー・ゴールド(BNE002518)が、その後に続く。 「うム。少々八つ当たり気味になってしまうが、お前をリベンジの相手としよう」 熊とペンギンの組み合わせに苦い思い出のある彼女は、眉根を寄せて熊を真っ向から睨んだ。 「野生の熊倒すだけならこんなに悩まなくてもいいのにね」 翼の加護を得て熊に向かっていく前衛たちを見送り、守羅が呟く。彼女らのブロックが間に合わないようなら自らが向かうつもりでいたが、現状では問題はなさそうだ。守羅は熊との距離を保ちつつ、大太刀を鋭く抜き放って真空刃を生み出す。いかにアザーバイドとはいえ、見殺しにすると寝覚めが悪い――進路を塞いだ上で攻撃を加えれば、自分達を優先して狙うだろう。 「……なるほどペンギンさん。ペンギンさん?」 『超守る空飛ぶ不沈艦』姫宮・心(BNE002595)が、きゃあきゃあ逃げ惑うペンギンたちを自前の翼で飛び越えつつ、軽く首を傾げる。どうやら、彼らはパニックに陥るあまり、駆けつけたリベリスタ達にまったく気付いていないらしい。 「いいから落ち着いてくださいペンギンさん。助けますからペンギンさん」 頭上からペンギンたちに声をかけると、心は熊のもとに直行した。彼女の役目は、他の前衛とともに熊をブロックし、ペンギンたちを『守る』こと。 「先ずはペンギン達を落ち着かせて安全圏に誘導せねばのぅ」 そう言って、『陰陽狂』宵咲 瑠琵(BNE000129)が前に進み出る。彼女と『ゲーマー人生』アーリィ・フラン・ベルジュ(BNE003082)は、フードがついた灰色のコートを着込んでいた。小柄で幼く見える二人が身に着けると、遠目には大きなペンギンのように見えなくもない……だろうか。本当はペンギンの着ぐるみが欲しかったのだが、任務に向かう前の限られた時間では調達が出来なかったのだ。 瑠琵はまず、大きく息を吸い込み、熊に向けて叫ぶ。 「がおー☆」 彼女の大声に、逃げ回っていたペンギンたちの動きが止まった。瑠琵はさらに、力強い口調で続ける。 「我が眷属よ。わらわが来たからにはもう大丈夫なのじゃ!」 言葉の意味は通じなくても、その迷いのない声はペンギンたちに届いた。ペンギンの王者のような風格すら漂わせる瑠琵に、彼らの視線が一斉に集まる。そこにアーリィがにこりと微笑みかけ、彼らの緊張を解した。 「さぁ、この場は我が下僕達に任せてわらわに付いて来るのじゃ!」 瑠琵がもう一声、ペンギンたちの背中を押す。ちなみに、下僕云々はあくまでもペンギンたちの注目を集めるための方便、些細な事は気にしてはいけない……らしい。 ペンギンたちは互いに顔を見合わせた後、彼女らの方に向けて恐る恐る歩み始めた。 「ペンギンさん……かわいい……」 熊から離れた誘導場所に木の枝で線を引きつつ、『柿園家側近一族の娘』小松 知世(BNE003443) が思わず表情を和ませる。そして彼女は、手を叩いてペンギンたちに呼びかけつつ、彼らを守る決意を新たにした。 (他者を守るのは小松家の使命。小松の名に賭けてペンギンさんを守ってみせますわ! ) 前衛が複数人で熊をブロックし、後衛がペンギンたちに呼びかけて誘導を行う――滑り出しとしては、そこそこ順調といえる。あとは、彼らが全員退避するまでに、いかにブロックを維持し続けるかが鍵となるだろう。 眼前のリベリスタ達を眺め、熊が大きな唸り声を上げた。 ●あの手この手で誘導作戦 後ろ足で立ち、前足を炎で包んだ熊がアンリエッタに襲い掛かる。巨体から繰り出された一撃が細い体を打ち据えたが、彼女はギリギリでその場に踏み留まり、吹き飛ばされることを防いだ。 自らに攻撃が向かうのは望むところ――アンリエッタは怯むことなく、眼前の熊に十字の光を放つ。強い意志の込められた十字が熊の顔面を射抜き、黒き猛獣の怒りを誘った。 マリーが肉体の枷を外し、己の生命力を戦闘力に変えていく。彼女は熊から視線を逸らすことなく、その動きを見ていた。タフで攻撃力の高い相手とあれば、倒すこと以前に進ませぬ事も大事――前衛とはいえ、直撃を受ければただでは済まないだろう。 「寒いけど気合入れてこー! おー!」 元気な声とともに、アーリィが脳の伝達処理を向上させ、自らを集中領域に導く。ペンギンと直に触れあうチャンスではあるが、まずは目の前の熊を倒し、彼らを助けるのが先だ。こちらに歩み寄るペンギンたちを視界に入れつつ、意識を戦いに向ける。彼女の前方では、守羅が前衛を援護すべく再び疾風居合い斬りを放ち、熊の黒い毛皮に赤い傷を穿っていた。 「ペンギンはいいですね。見ていて和みます」 周囲に防御結界を展開しつつ、『子煩悩パパ』高木・京一(BNE003179)が呟く。のんびり和んでいられるほど悠長な事態ではないのだが、小さなペンギンたちの愛らしい仕草には微笑ましくなってしまう。京一の言葉に、彼の近くに立つ『朔ノ月』風宮 紫月(BNE003411)も小さく頷いた。 ペンギンたちは概ねこちらの呼びかけに応え、誘導に従おうとしていたが、やはり熊が怖いらしく、時々足を止めては、そちらを眺めてしまうものもいる。心は全身のエネルギーを防御に特化させつつ、立ち竦むペンギンに向けて声をかけた。 「ペンギンさん。どうか落ち着いて。大丈夫。私達が守ってあげますのデス」 たとえ言葉は通じなくても、気持ちの伴った行動というのは相手に伝わるものだ。『守る』という意志をもって熊の前に立ち塞がる心の思いはペンギンたちにも通じ、彼らは再び誘導場所に向けて歩き始める。 『その黒く恐ろしいものから距離を取って!』 朽葉もまた、熊に比較的近い場所にいるペンギンに向けて心の声を放った。伝えたいのは、言葉そのものより彼らを助けたいという思い。彼女は、ペンギンたちに状況の変化を悟らせるべく、一帯に癒しの福音を響かせる。 パニックのあまり走り回っていたペンギンたちの中には、途中で転んで擦り傷を作っていたものもいた。福音の力で傷を治してもらったペンギンは、喜んで翼をパタパタと動かし、小走りに熊から離れていく。続いて瑠琵が式神“影人”を召喚し、それに命じた。 「では、迷子のペンギン達を助けに行くとするのじゃー!!」 主の命に従い、“影人”がペンギンたちの保護に向かう。うっかり集団から離れそうなペンギンには瑠琵が声をかけ、正しい方向へと導いていった。 雪の上に引かれた線の向こうでは、知世が手を叩きながらペンギンたちに呼びかける。 「ペンギンさん、ペンギンさん」 やがて、最初の一体が線を越えた。知世はその頭を撫で、あらかじめ用意していた魚を与えてやる。ちょうど腹が減っていたのか、それを見た後続のペンギンたちは、子供のような歓声をあげて彼女のもとに殺到した。 ――たとえは少々良くないかもしれないが、動物に芸を教える要領である。 このようにして、リベリスタ達は少しずつ確実に、ペンギンたちを安全な場所に引き寄せていった。 ●折れぬもの 怒り狂った熊は、雄叫びとともに豪腕を振るった。アンリエッタと、その隣にいた心の二人が引き倒され、次々と巨体に踏みつけられる。心の全身を覆うエネルギーに攻撃を跳ね返されようと、熊はお構いなしだった。 衝撃に痺れつつも、アンリエッタが再び背の翼で宙を舞う。しっかりと防御体勢を整えられる低空に留まり、彼女は次なる攻撃に向けてガードの構えを取った。まだ、十字の光が熊に与えた怒りは生きている。マリーが側面から、熊の腹に破壊の気を込めた掌を叩き込んだ。腰や腹を狙い、下半身にダメージを蓄積させていくには、この体格差はむしろ好都合だろう。なにしろ、わざわざ狙わずとも真っ直ぐ打てば自然とそこに当たるのだから。 心が神々しい光を放って自分とアンリエッタの痺れを取り除き、アーリィが福音を響かせて傷を負った前衛たちを癒す。熊の雄叫びを聞き、再び恐慌状態に陥りかけたペンギンたちに向け、守羅が大きな声を上げた。 「黙れ。落ち着け。お願いだからあっち行ってて。ここはあたし達が何とかするから」 そう言って熊に向き直り、鋭く抜いた大太刀から真空刃を放ち続ける。視線は敵に向けたまま、彼女は背中越しにこう付け加えた。 「……あ、後で帰すんだから遠くまで行かないようにね」 その言葉にペンギンたちが「はーい」と手(翼?)を上げたかどうかは定かではないが、ともかく再度のパニックは免れたようである。 『家族を失いたくなければコッチ来な!』 背の翼を存分に活用しつつ、朽葉が方向を見失ってきょろきょろしていたペンギン二体を腕に抱え上げた。どうも、ペンギンたちの知能はあまり高くないらしい。呼びかけに応じて歩き始めたものでも、何かのきっかけがあれば立ち止まったり、別の方向にそれてしまったりする。全員が安全な場所に逃れるまでは、きちんと見てやる必要がありそうだった。瑠琵が“影人”をもう一体召喚し、保護の手をさらに広げる。 その様子を眺めていた知世は、既に退避を終えたペンギンたちが再び飛び出してしまわないように一計を案じた。まず、自分のそばに居るペンギンたちに魚を配り、それでも離れていこうとするペンギンには声で呼びかけ、戻ってきた時に魚を与える。そうすることで、知世のそばに居る方が得であると教えようという狙いだ。 この作戦は功を奏し、ペンギンたちは次第に知世から離れようとしなくなった。まだ保護を終えていないペンギンも、仲間達がすぐに連れてきてくれるだろう。 熊が、仁王立ちの姿勢から凄まじい威圧感を放つ。誘導の甲斐あって、ペンギンたちは全てが効果範囲から逃れていたが、前衛に立つマリーと心が運悪く動きを封じられた。ただ一人麻痺を免れたアンリエッタは、熊が怒りから解き放たれたのを見て十字の光をもう一度撃ったが、熊は辛くも直撃を逃れる。 前衛二人が麻痺したのを見て、守羅は迷わず前に出た。ここまで来て、熊に突破を許すわけにはいかない。アーリィの気糸が熊の目を狙い、京一の作った鴉の式神が空から熊を襲う。 「ペンギンさん達は……」 アーリィが後ろを振り返ると、朽葉がペンギンたちを木の下に集め、そこにサーフボードを横向きに立てかけて避難場所を作っているところだった。 「熊とワンクッション置けるだけでも違うだろう?」 サーフボードの陰で団子のごとく固まっているペンギンたちを眺めつつ、朽葉が言う。これで、戦いが終るくらいまでこの場に留まってくれるはずだ。 瑠琵の“影人”が、最後まで戦場に残っていたペンギンに付き添って戻る。それを避難場所に押し込んだ後、瑠琵は小鬼を作り出して熊に視線を戻した。隙を見てペンギンたちと戯れる、という考えは彼女にはない。この戦いが終わったら、堂々と戯れられるのだから。 知世が、避難場所の中にいるペンギンたちを撫でつつ、ここから出ないように言い聞かせる。戦場に視線を戻した彼女の背で、翼の加護を纏ったドラゴンの付け羽根が羽ばたき、その体を宙へと浮かせた。 あとは、全力をもって熊を倒すのみだ。 「私の知る王を称する者の威圧はそんなものではないぞ?」 マリーが、仁王立ちのまま熊に声を投げかける。全身は未だ麻痺したまま動かないが、そのくらいで怯むほど彼女はヤワではない。眼光鋭く、熊を睨みつける。 ――折ってみろよ。 熊が、高く雄叫びを上げた。これまでにない速さで動いた熊は、燃え盛る拳でマリーを吹き飛ばし、そのままの勢いで空中のアンリエッタを叩き落とす。世界から借り受けた生命力の加護も及ばず、数トンの衝撃に匹敵する踏みつけが、彼女の全身を砕いた。 微かに動く指先が、辛うじて繋ぎとめた意識が、倒れたアンリエッタのもとに運命を引き寄せる。 「……私が手の届く仲間を守るのが、私の、リベリスタとしての信念です」 再び立ち上がった彼女は、あくまでも攻撃を自分に引き付けるために十字の光を放った。自力で麻痺から逃れた心が、神々しい光で戦場を包みながら声を上げる。 「一人で戦ってるわけではないのデス!」 そう、心折れぬ者はもう一人。ブレイクフィアーによって麻痺から解放されたマリーもまた、雪の中から立ち上がっていた。熊の拳も、彼女を打ち倒すには僅かに及ばなかったのだ。 アーリィの福音が、前衛たちの傷を塞ぐ。ここまで来たら、あとはどちらが先に倒れるかだ。踏み込みから間合いを奪った守羅が、気合とともに大太刀を振るい、強烈に打ち込む。すかさず、瑠琵がそこに鴉の式神を放った。 眉間を鋭い嘴で突付かれ、熊が猛り狂う。己の身を痛みで蝕みながら、知世はおぞましき呪いの力を練り上げ、熊へと放った。 「こんなに可愛いペンギンさんを痛めつけようとするなんて許せませんわ!」 痛みにのたうつ熊に、マリーが迫った。 「――貴様に恐怖を刻んでやる」 掌から打ち込まれた破壊の気が熊の分厚い毛皮を貫き、その肉体を内側から砕く。熊の耳から、鼻から、口から――真っ赤な血がしぶき、滴り落ちた。 断末魔の絶叫すら上げることなく、熊の巨体が雪の中にゆっくり沈んでいく。 それを見届けてから。朽葉は、避難場所のサーフボードを持ち上げ、ペンギンたち全員に小さな翼を与えた。 自分たちを脅かしていた危険が取り除かれたことを悟ったのか、はたまた空を飛べることに興奮したのか、ペンギンたちは次々に小さな翼を羽ばたかせ、リベリスタ達の勝利を祝うように宙を舞い始める。 「うん、空飛ぶペンギン見たかったんだ」 ペンギンたちが楽しげに飛ぶ様子を眺めて、朽葉は満足そうに笑った。 ●ペンギンたちの帰還 「エリューション・ビーストともなればあまり摂取しない方が良さそうだな……」 倒した熊を見下ろし、マリーがぽつりと呟く。そのまま振り返った彼女は、はしゃぎながら低空を飛び続けているペンギンたちを見た。 僅かに躊躇った後、ペンギンの一体に手を伸ばす。逃げられるかとも思ったが、彼らは空を飛ぶ高揚感で文字通り舞い上がっているらしく、撫でてもパニックを起こしたりはしなかった。 生き物としてどこか微妙に抜けている気もしないでもないが、まあそこはそれ。リベリスタ達は、思い思いに空飛ぶペンギンたちと触れ合うことができた。 幸い、守羅が見た限りでは、重い怪我を負ったペンギンはいないようだった。一体の犠牲も出さずに済んだことは、彼らにとって幸運なことだったろう。 さて、あとはペンギンたちを元の世界に帰すだけだ。ペンギンの一体を腕に抱き、ふわふわもふもふとした灰色の羽毛を撫でながら、瑠琵は彼らがやって来たディメンションホールを探す。帰すのは名残惜しいが、ペンギンたちがフェイトを得ていない以上、この世界にいつまでも置いておくわけにはいかない。 周囲はペンギンたちの足跡で埋め尽くされてはいたが、目的のディメンションホールは程なくして見つかった。 「家におかえりなのデス?」 心が、ペンギンたちを撫でながら彼らに帰還を促す。穴がちょっと怖いのか、ペンギンたちはしばらく互いの顔を見つめ合っていたが、やがて意を決したのか、一体、また一体と、ディメンションホールをくぐり始めた。 その背を見送りながら、「またおいでー」と手を振った朽葉が、仲間達の視線を受けて「え、駄目?」と呟く。それを聞いたアンリエッタは、しゃがみこんでペンギンたちと目線を合わせつつ、彼らに向けてこう言った。 「あまり長居してもらっては困りますが、あなた達のような可愛らしい来訪者は皆喜びます。またいらしてください」 彼女の気持ちが通じたのかどうか、ペンギンたちが微かに目を細める。彼らの運命が再びこの世界に繋がれば、また会うこともあるだろう。 最後の一体を見送ってから、アーリィがディメンションホールを塞ぐ。まだ、手の中にはペンギンたちの柔らかな羽毛の感触が残っていた。 小さくて、もふもふで、温かくて――そしてちょっと抜けてるペンギンたち。 彼らが見せた表情の一つ一つを思い出しながら、知世はそっと、踵を返した。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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