●雪花散る その日、アーク本部に段ボール箱が届いた。といっても通常業務に必要なものではなく、リベリスタたちの作戦に使われるものでもない。人間関係を円滑にするためのイベント……要するに遊びをするレクリエーションのために調達した物資である。 段ボールの届け主は市内にあるゲームショップ。ここから格安で在庫を譲ってもらったのである。フォーチュナでアークの職員といえども女子高生の財力ではそれが限界であった。 しかし、それが悲劇の引き金だったのである。 「ふぁぁ……。やっば、寝坊しちゃったわ」 レクリエーションを企画した『運命演算者』天凛・乃亜(nBNE000214)はその日の前日、エリューション研究のために徹夜をしていた。そのため、段ボールを受け取ったのはアークにいる別の人物だったのだが……。 「……おはようございます」 その人物こと、『相良に咲く乙女』相良 雪花(nBNE000019)はレクリエーションルームで死んだ眼をしていた。まだ力が覚醒してない頃、暴力を前に人質となった時も強い意志を持って瞳を曇らせなかった彼女がである。 「あの……。私、TVゲームというものをやったことがなく、興味があってつい手を出したのですが……」 雪花の前には、ゲーム機とTV。それから、なぜだか不安を煽る一昔前のCGで作られたパッケージ絵と「キャラクターの装備の組み合わせは450通り!」という紹介文。 「これは、どう楽しめばよいのでしょう?」 その瞳には混乱も映っている。TVの中で繰り広げられているゲームの画面は、なぜか白い線が浮かび上がっており内容が見えない。 「あー、変なの掴まされちゃったわね。まあ、運が悪かっただけよ」 肩を叩いて、乃亜はゆっくりと頷く。そういう時もあると、ゲームをある程度やる彼女は知っている。だから、最初にやったゲームがそれだった雪花に、ちゃんとしたゲームは楽しいと諭した。 「そう、ですか。それならば、違うものを選べば楽しくなりますか?」 諭されて元気が回復してきた雪花は、段ボールの中に詰め込まれていたゲームの中から違うものを選ぶ。こちらは携帯ゲーム機を使って遊ぶタイプのゲームであり、パッケージには堂々と「おススメRPG!」というシールが貼られていた。 (あ、これダメな気がするわ) それを見て乃亜は嫌な予感がしたが、少し楽しそうに携帯ゲーム機をセットする雪花を見て何も言えなかった。 そして、 「……あの。これどう楽しめばよいのですか」 「無理」 悲劇は起こっていた。 そして、この悲劇はリベリスタたちにも降りかかる。 地雷もみんなで踏めば痛くない。そんなわけがないのに。 ●どうしてリベリスタたちはクソゲーをやらなければいけなくなったのか 大きな胸を持ち上げるようにして腕を組んでいる乃亜は、ゲームが遊べるレクリエーションと聞いて集まったリベリスタを前にしていた。 「えっと。みんな、ごめんね」 まず最初に頭を下げて謝った乃亜を前に、リベリスタたちはざわついた。横にいる雪花はどういうわけか見たこともない暗い目をしているだけに、それを聞いたリベリスタたちの心は不安に染まっている。事件かと勘繰る者さえいた。 「……」 雪花は暗い表情のまま、黙っている。レクリエーションと聞いて張り切っていたのだろう、ドレスのような洋服を着ているだけに、表情とのアンバランスが怖かった。谷間がよく見える格好でもあるが、元気のなく暗い胸元は見ても嬉しくない。 「実は、私がレクリエーションのために取り寄せたゲームがほとんどクソゲーだったのよ。あ、クソゲーというのは一言で表現すると一人でやり続けると心が折れるゲームね」 ざわざわ。広がる不安と、混乱の声。 「でもね。ちょっとアークの施設で調べたら、このゲームの中に覚醒物質が混じっている可能性があったのよ。だから、調査のためにも協力してくれないかしら?」 覚醒物質入りのクソゲー。リベリスタのような既に覚醒している者にとっては関係のないものなのだろうが、一般人がそれをやってしまえばどうなるか分からない。 これも閉じない穴の影響だろうか、こんなところにも世界崩壊の影は潜んでいるのである。 「だから、ね?」 ウインクする乃亜。リベリスタたちは項垂れながら、レクリエーションルームの中に入って行った。 これから始まるのは戦いだと、心の中で思いながら。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:nozoki | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年02月08日(水)22:22 |
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●戦士たちの挑戦 りベリスタたちの前にずらりと並んだクソゲーという名の破壊物質と、それを動かすための古今東西のゲーム機たち。主に何が破壊されるかといえば、時間と労力だ。破壊力を持って、時間の浪費ということをしてくれるありがたいゲームたちである。 「世の中にクソゲーなんてものは存在しない。たとえ失敗作だったとしても、内容を語り合い、楽しめたのならそいつはクソゲーじゃない。“楽しむ”ことができたんだからね」 とはいえ、それを楽しむものもいるし、友と語ることもできる。ならば、この世に時間の無駄、クソゲーというものはないのかもしれない。クソゲーと言われるこれらだって、立派なゲームだ。ゲーム好きで研究会もやっている白石はそういうことを語る。 「クソゲーとはいえゲー研たるボクには日常というか部長が定期的にそういうのを持ってきてデスネ……いえ、なんでもないデス」 「こういうのは一人でやると余程の訓練されたゲーマー以外は心をやられてしまうものだ」 ゲームをよく知る行方や、慣れている白石は耐性があるので既に心の準備が完了している。水子供養とはよく例えたものだ。世の中には出ちゃっているけど。 「入手できなかったこのゲーム! 噂でだけ聞いたあのゲームまで……!」 この部屋の中で、最も眼を輝かせているのはゲーム研究会部長の美月である。先に行方が言った通りには、そういうゲームが好きだ。世の中には色んな人が居るのである。 「部費が楽になるわー」 そんなゲーム研究会の面々の様子を見つつ、顧問のソラは持参してきた布団に包まりながらゲームをしていた。いわゆるごろごろスタイルであり、クソゲーをやるには最適だ。不貞寝できるし。 「何やら妙な空気をしてますな。え、クソゲーなんで?」 ゲームをやるだけの簡単な依頼と聞いてやって来た九十九も、クソゲーと聞いて表情を変える。しかし、苦行ならば気持ちよくなれると考えた。体だって、痛めれば快感に変わるのだ。……それも危ない考えだが。 「あ、クソゲー処理の前に、乃亜たんと雪花たんの姿を撮影しておかないとね! 二人がいれば俺はどんな敵とだって戦える!」 そんな中、竜一はブレずに乃亜と雪花の写真を撮っていた。できるだけ胸元やきわどい部分を撮って、エロスの得点を稼いだ写真を作っていく。エロス経験値を貯めてレベルアップしそうな勢いである。 それから、竜一たちリベリスタはゲームの世界へ飛び込んでいく。哀しくも楽しいクソゲーの世界へ。 その世界でリベリスタたちを待ち受けていたのは……。 「こんなげーむにまじになっちゃってどうするの」 深淵、そして虚無との戦い始まった。 ●戦士たちの苦闘 よくある事がポルカの前に発生した。 「さあさ、楽しいゲーム…、…クソゲーとやらを、はじめま、……ちょっと待って、はじまらない」 レトロなものほどよく発生することだが、そもそも画面が変わらず始まらないことがある。とはいえ、近年のゲームであっても油断はできない。 「確かに動きが遅いけれど、遅いとクソゲーと言うのかしら。……ぅ? なあに? とまった?」 さて、気を取り直してRPGなゲームを始めたポルカであるが、彼女の前に立ち塞がるのは再びフリーズ。ポルカの顔もフリーズ。 「これは、確かにその、心が折れると言うか。イライラ、するわね。って、え? …また同じところで、とまるの?」 そして再開してもフリーズ。にぼしを食べる手も止まって、顔がヒクヒクする。 「むうう、もう一回! ………ちょっ、また、同じところ? ……いっ、いい加減にして!!」 牛乳パックを飲みながら再び挑戦するも、フリーズ。そんな時は、拳を振り上げて。 「残念ながら、よくあることなんだよね……こういうゲームだとさ」 それを見ながら、白石は笑うしかなかった。 「そういや優希は何かゲームやってた? 俺はRPG専門ってとこだったけど格ゲーやレースは苦手なんだよね。シューティングは目が疲れる」 「俺もRPGは嫌いではない。格ゲーは4人抜きしかできんし、レースやアクションは大抵2面で死ぬ。シューティングは人の遊ぶものではない」 一方、翔太と優希は共に白い四角が消えないゲーム画面に向き合っていた。覚醒物質を探すという名目もあるが、一応遊べるなら、ということで遊ぼうとしているのだ。 「ええいこんなゲームはやってられるか! レベルを上げて物理で壊す!!」 しかし、結果はこのとおりである。ストレスは素早くMAXになり、リセット(物理)をしようと拳を振り上げる。 「落ち着け優希! こういうのはな、良いとこを見つけると面白いんだよ! ある意味コツだ!」 クソゲーというものは遊ぶのにも一苦労だ。翔太はゲーム機を破壊しようと物理攻撃しようとする優希をなだめている。 「ふーふーふー……」 「ふー……落ち着いたか」 「友情破壊することもあるので、クソゲーで遊ぶ時は気を付けましょう」 「乃亜は上着ろ上」 その後、落ち着きを取り戻した二人はパーティゲームを乃亜と一緒にやったり、無限に選択肢がループするギャルゲーをやって首をかしげたりした。 「実は……先輩のこと! 実は……先輩のこと! 実は……先輩のこと! 以下略!」 乃亜もそのバグでループをするギャルゲーを半笑いで真似をしたりしている。乃亜なりに盛り上げようとしているのだろう。 「そうそう、バカゲーなら何だか許せるんだけどねえ。クソゲーとバカゲーは似てるようで紙一重なのよね」 そんな風にバグで遊んでいる乃亜を見ながら、桜花は納得する。納得しながら、自分も挑戦しようとSTGを手に取った。しかし、それは桜花が知っているゲームだった。 「ああ。このSTGはねえ。カオスなのよねえー。荒唐無稽でツッコミ所満載のストーリーと設定とか」 とはいえ、お気に入りのゲームであることは確かだろう。ニコニコとした笑顔で、誰に聞かれなくても解説を始める。嬉々としてプレイも始めた。 「自機が何故かマッチョとか。ボスキャラが物凄く特徴的でキワ物とかねー。ある意味、良作(?)だと私は思うけどねー」 画面の中でくるくる回る筋肉モリモリマッチョマンのオカマを動かしながら、そのカオスな世界観にどっぷりと浸かっていく桜花であった。これだけハマるならば、このゲームは良いものだったのだろう。 「あるゲーマーは言いました。クソゲーを楽しめないのは二流。クソゲーを楽しむのが一流。クソゲーを神ゲー(異論は認める)に昇華させるのが超一流のゲーマーだ。まあ、言ったゲーマーは俺ですけど」 そんな中で、弐升はどっぷりと自分のゲームを進めている。好きなジャンルである格ゲーだ。 「まあ、色々と言いたいことはありますが、すごい残念要素が多いんですよねぇ」 と、先に言った自分の宣言を微妙に覆しつつポチポチ続けている弐升であった。ダメな部分がいくら見つけられても、好きなものは好きだから止められないし、続けられる。その結果がぽちぽちという音である。 「あ、でも販売数が少なくてレアなんでもらってもいいですか?」 うんうん、と頷きながらケースを既に仕舞っている弐升。これはこれで楽しんでいるのだろう。ウキウキとした動作が僅かに感じられる。 「わたくし、ちょっと無理をしてホラーゲームに挑戦しますわ。べ、別に幽霊が怖いのを無理するわけじゃありませんわよ?」 このアークに来てから日も浅いブリジットは、普段の騎士らしさを少し捨てて仲間との交流にやって来ていた。その為、苦手なホラーを選んで、叫びながら人に抱きつくという王道ハプニングを画策しているのだ。策士である。 「……ええと。このゲームの怖がる所はいつあるのでしょうか」 しかし、クソゲーはその幻想を打ち砕く。怖いと言うよりもなんだかよく分からないポリゴンが浮かんでいるだけだし、妙に理不尽なパズルを何度も何度もやらされて疲れてきた。怖がりなのに、怖いということはない。 「ああ、はいはい……怖いですわ怖いですわ」 パズル達成後の効果音と共に出てくる一枚絵はそれなりに怖かったのに、疲れてきたから怖がることも忘れるブリジットであった。 「あ、後は任せますわ……わたくしの事は気にせず、先に進めて……うっ」 「おつかれさまです」 そのブリジットの隣にお菓子とお茶を置いて、にっこりと優しい笑みを浮かべるのは辜月だ。ゲームは得意ではないが、他人を気遣うことはできる。 「うう……わたくしのきゃっきゃうふふ計画が……。ああ、ポリゴンが頭の上でぐるぐると……」 「ちゃんと休憩を入れないといけませんよ? 計画については聞かなかったことにしますが、とりあえず……」 「あう?」 くらくらとしているブリジットの前で、ゆっくりと自分の胸に手を当てて、辜月は頭を下げる。 「初めまして、私の名前は雪待辜月です。宜しくお願いします」 「あ、はい。わたくしは、ブリジット・プレオベールですわ……♪」 この自己紹介で少し救われた気分がしたブリジットであった。 「やー、ゲームで遊べるレクリエーションと聞いてやって来たよー。あ、ボクの名前はウィンヘヴン・ビューハートだよ。よろしくね、ブリジットくん、辜月くん」 二人の間にやって来たウィンヘヴンは、二人の手をとってぎゅっと握手をしていく。ニコニコとしたその表情は、今やって来たばかりで余裕があるからだ。 「ん? みんな暗い顔してるね。どうしたんだろ。ボクにも何かやらせてよー」 ということで、手近なゲームを手に取って、ウィンヘヴンはゲームという名の戦いに巻き込まれていく。 まずはフリーズ。 「んぐぐ……!」 「ま、負けてはいけませんわ!」 そしてフリーズ。 「また止まったぁー!」 「疲れが溜まってきたら、休憩してくださいね」 やっぱりフリーズ。 「コレ何百回やれば進めるの? いや、それ以前にちゃんと進めるの?」 それでも繰り返すのは、ウィンヘブンに楽天的なところがあるからか。 「……もうやだよぉ」 でも、折れる。膝も曲って、体育座りでシクシクと泣きたくなってきた。だけど、涙も出ない。なぜなら、目はすでに虚ろになっており、心の中が硬質化してしまい泣くほど心を動かせないから……。 「何か震えてるのとか居るが何か嫌な事でもあったのかね。さーって遊ばせてもらおうか」 そんなウィンヘブンと同じく、遅めにやって来た燕は何も分からないという顔でRPGをセットしていた。起動音が、騒がしくないわけではないのに何故か皆の耳に響く。 「くっそ、また固まりやがった! ……はっはっは、燕さんの心はこのくらいじゃ折れないぜー」 とはいえ、燕は何とかクリアをしようとがんばっている。こういうものは、クリアするだけならばなんとかなる場合もある。なんとかならない時はならないが。 「おおう!? 今度は壁にめりこんでったぞ!? まいっか、ショートカット代わりに使っちまおう」 ここはポジティブな燕。不都合も自分の糧に変えて突破していく。その甲斐もあって、一本クリアに成功。快挙だ。 「ま、気張らなきゃいつか何とかなるもん……だよな? な?」 ただ、クリアが出来てスタッフロールが見られても、心の中に残るしこりはどうしても取れなかった。 これこそ、まさにクソゲーといわれる所以か。 ●雪花とゲーム 一方で、死んだ目で部屋の隅に立っていた雪花に声をかけるものは何名か居た。 「そこで死んだ目になっている雪花もどうだい、珈琲」 「……はい」 クルトから珈琲を受け取る手も、返事も暗い。いつもの雪花ではなかった。 「……ま、いいか。おや、普通に起動したね。意外とスムーズに始まったじゃないか」 それを横目に、クルトは自分のやることをやろうとゲームを進める。操作性も悪く、入力も中々受け付けないようなゲームだが、慣れればなんとか進められる。敵が一々強くて進まないけど。 「くっ……でもがんばってればいつか勝て……ここに来てフリーズ!?」 「……」 フリーズで悪戦苦闘するその様子を、雪花はぼーっと見ている。 「……うん、これは想像以上。こうも負け続けると心が折れても無理ないね……」 遠い目始めたクルトに向けて、小さく頷く雪花であった。 「うム……」 そんな雪花の頭の上に、ぽんぽんと手がのせられる。優しく撫でるように置かれたそれは、マリーの手だ。 「また挫けたら戻ってくるといい」 マリーは手を離して、雪花を送り出す。なぜかといえば、雪花がゲームをやらないかと誘われたから。 「雪花さん。ゲームも一人で遊ぶより、皆でワイワイやった方が楽しいよ」 という快の言葉もあったから、雪花も少しは信頼してもいいかな……と思い始めていたのである。 「審判がピッチャーに背中向けてる! バッターが外向きに構えてホームベースに背中向けてる! そのままスイングしてるのに、ストライクゾーンに来た球打ってる! ボールがセンターへ抜けて……外野が一歩も動かない! なぜかキャッチャーが外野までボール取りに来た! 足速い! あ、なんか必殺技っぽい感じにピッチャーがアップになって……。げえーっ?! 首が180度後ろに回ってるー?!」 ただ、その快自身は野球ができない野球のクソゲーの前に、ツッコミで大忙しであったが。 「電源使ったゲームは嫌みたいですから外でサバゲーしませんかー。大きくて古いデザインのチャカがあるのです」 さて、雪花は外で烏頭森と火縄銃バトルなサバゲーをやっていた。しかし、その火縄銃が重い。 「あ、撃てない」 弾込めが妙にリアルで、数分かかるという代物である。 「……どうすれば勝てるんですか、これ?」 「リアル三段撃ちかなー」 烏頭森は目を逸した。これが罠だと気付くまで、しばらく雪花は続けることになる。 「ん……」 そして解放され、戻ってきたところをマリーに頭を撫でられる。 「基本日本にくるのはドイツ製のものが多いですが、ボードもカードもどちらもドイツで人気でたものがくるのではずれがありません」 そうしていると、次は凛子に誘われてボードゲームを始めた。いやです、と最初は首を振っていたが、お茶やお菓子などを届けてくれた凛子を信頼したのだ。 「あ、これは……」 のんびりと、普通に遊べたので雪花の顔に生気が戻っていった。 「可哀想に、こんなに傷ついて。さあ、この携帯ゲーム機をどうぞ」 それだから、ニコニコとした茅根の罠にも引っかかった。最初は面白いゲームをやらせて、ハンカチで顔を拭くことで笑顔になった雪花も、次に渡されたゲームを進めるうちに顔が曇っていく。 「貴女は笑顔の似合う人なんですから」 よくもまぁ言えたものである。 ●ハマる者、怒る者 何も知らなかった者たちも、徐々に深淵を見せ始めたクソゲーの力に圧倒され始めていた。 「むむむむ……むむむむ……」 モニターに向かってがんばっているミーノも、背景も変わらず現れ続ける色違いの敵に疲れを見せ始めてきた。 「むぐぐぐぐぐ……」 色は豊富だが、パターンがなにか変わるわけではない。強いて言うなら、HPだけは増え続けている。でも、別に苦戦することはない。それが逆に単調作業になって辛い。 「ちっともおもしろくないの……。いちめんクリアしても全くおなじてきのいろちがいがでてくるつぎのすてーじにいくだけのゲームなの……」 的確に分析して、ぶん投げる。正確に言えば、ばたんきゅーしたので続けられなかった。 「これで打ってこれで飛行機を操作……だな。よし、できそうだ。頑張るぞ」 基本操作を覚え、シューティングの世界に入り込むレン。自機と一緒に体を揺らすその姿は、どこか微笑ましい。 「……別に当たってないのに死んだ!」 でも台無しにするのがクソゲーである。明らかにズレている判定や、まったく見えない1ドット攻撃の前にレンは次々に残機を失いゲームオーバー。 しかし、維持になって再開。ボスまで漕ぎ着ける。 「ボス……? これはボス……なのか? グラフィックがおかしい……のか? よくわからないものになっている。あっ、どこからともなく弾がきた!」 でも、やっぱりそこでゲームオーバー。まったく予想不可能でランダムで追跡する弾という斬新な攻撃の前に、判定がずれてる自機は勝てない。 「なんだこれは……! くそ、意地になるな。絶対クリアしてやるぞ!」 でも、やる。食らいついたものを、逃さぬ猟犬のように。 クソゲーハンターの素質ありですね。 「な、何じゃこの“戦乱美少女”とやらは……」 ポカーンとしながら、レイラインは不思議な現象を次々に起こしていく画面を眺めている。美少女キャラが喋っている場面で、違うキャラが映ったりずれていたりするのは当たり前。時より数値が妙なことになったり、ブラックホールが発生したりしているカオスな画面。フリーズも頻発する心折(しんせつ)設計。 「台詞が文字化けしていて何を言っているのか分からないわ、占領した拠点にいきなり死んだ筈の味方キャラが襲って来るわ……」 兎にも角にもバグだらけである。見ているだけなら面白い光景なのだが、実際プレイしてみるとロードの長さも相まって非常に苦痛が溜まっていく。忍耐力は鍛えられそうだ。 「と、とにかくこんなのクリア出来るかにゃぎゃー!!」 バグまみれのゲームで進めなくなりながら、レイラインは叫ぶ。金返せ、がないだけまだマシであった。 「くっくっくっく、最高にHIってやつですぞ~!」 一方で、あんまりにも精神的苦痛を受けすぎて精神がどこかにトンで行ってしまった九十九のような者もいる。彼は始める前に苦痛の前に人は笑うことで耐えられると言ったが……。 「すみませんな、精神的苦痛には効果が薄かったようです」 ぐったり。 (強さは大したことはない、むしろ弱すぎるぐらいなんだが……) 将棋ソフトを前に、拓真はずっと座っている。ずっと。 (10手目以降になると、敵の思考スピードがどんどん落ちる) コンピューター相手に勝ち進んではいるが、相手の思考時間が長すぎる上に一々止まるので中々進まない。やることがないけど、真面目な拓真はずっと向かい合っている。 「……終わるのか? これは」 終わるよりも、フリーズする方が速そうです。 「さて、このフレームに顔を収めて、と……。ン、撮影失敗? なになに……。“頭の上半分が写っていません”写ってるよ!」 そんな中で、フツはカメラを前に立っていた。カメラを使うという、結構新しめに感じるゲームであるが、発売されたのはそれなりに前。当時としては斬新なアイデアだと感心できる。 「“卵を映さないでください”卵じゃねーよ、顔だよ! “太陽を映さないでください”太陽じゃねーよ、光ってねーよ! “肌色の部分が多すぎます。顔が近すぎるのではありませんか?”そりゃな! 坊主だからね!」 しかし、フツのノリツッコミも冴えていく。とはいえ、顔が写っていることが中々認識できないものだとフツも納得した。 「後ろ向いて撮っても同じ事言うんだろ」 「“後頭部を映さないでください”」 「そこはわかるのかよ!」 カメラの性能は悪いが、何故か細かい設計であった。 「では、いざ…スタートです……。………うん? なんか、ゲームオーバーって出ました……、敵の、攻撃……見えませんでしたよ……?」 「そうそう、そんな感じで……あっ……やられちゃったね……。ま、まぁ……初めてだししょうがないよ。次は頑張ろうね!」 まともにゲームをやったこともないのに、まともじゃない敵にイラッとするリンシード。普段の人形のような顔は歪み、それを見ていたアーリィも苦笑するしかない。 「あ、クリアできたんだね。おめで……と?」 「クリア……あれ真っ暗……」 数分後、やっとの思いでクリアしたというのに画面が真っ暗になってしまったので、リンシードの顔は更に歪み、アーリィはもう笑うしかない。 「っ……!」 「ちょ、ちょっとリンちゃん落ち着いて!? 壊しちゃダメだよ!? ゲームに罪はないんだよ!?」 「止めないでください、アーリィさんっ……。どうせ覚醒していようが斬ってしまえば全て終わりです……。こんなものっ……この世から消し飛ばしてやります……!」 しまいには武器を取り出すリンシードをアーリィが羽交い絞めにして、その身をじたばたさせるというエンディングであった。 「……いろいろ言いたいことはある。……鉄心で耐えよう」 一方、超能力開発ゲームに挑む計都と冥。 「……なあ、つぶつぶ……? インチキじゃん、これ! どー考えても、おかしいじゃん!!」 「なんだよこれ、完全に運ゲーじゃねぇか。これ作ったヤツ自分でクリアしたことあんのか? つーか、頭おかしいだろ! あと計都、おっぱい小さいな!! ぺちゃぱいじゃねーか!!」 「つか、もうとっくにうちら、革醒してるやん! 超能力つかえるやん! くあー、クソゲと一緒につぶつぶも滅びろ。がっでむ!」 わーぎゃーと二人で叫び煽り合いながら、ゲーム画面に向かって騒がしい二人。冥はこれでもそのクオリティにすごみを感じているのであった。クソゲー色々。 「設定だけでも色物だけど嫌いじゃない。クソゲーの定義って何かしらね……」 少し哲学的な問をゲームにしている櫂は、いわゆる乙女ゲーをプレイ中だ。主人公に自分の名前をつけたり、攻略対象は好きな人に近いヴィジュアルを選んだりしているその姿は、まさしく乙女といえよう。にやにや。 「難易度ハードじゃないかと思うミニゲームで、損をしている気がする……後はリアルすぎる三角関係。スキップ機能が無い、イベントスチルも使い回しが多い。とありがちな部分は置いといて」 問題点を淡々と呟きながらコントローラーを置き、画面を眺め、声を聞く。 「……キャラはいいのよね」 楽しんでいるのだろう。これはこれで。 「ふふふ、これで勉強して男の子いちころじゃ~い!」 クソゲーが大好物と豪語する壱也もまた、いわゆる乙女なゲームを始めていた。といっても、これは画面を見なければ面白い類のゲームだ。 「今何してたの? あーそうなんだ」 攻略法はこの通り、画面に向かって話しかけていくというやり方。適当な相槌すれば、返事が帰ってくるんじゃないかという算段である。 「おっ! 告白……照れるぅ。でもわたしには先輩がいるの!」 そうしていたら、どんどん画面のゲームにのめり込んでいく壱也であった。 「ほわぁーこんなの先輩に言われたら幸せだぁー」 紅潮した顔を左右に振りながら、きゃーきゃー黄色い声を上げる壱也。完全にハマっている……。 「クソゲー、それは楽しみにしていた物ほどダメージが大きい魔性のアイテム。無料でなら珍味として楽しめるかも?」 この状況下で、楽しんでいるリベリスタが現れていることから、そう分析する疾風はゲームを手に取りながら調査を進めている。 「これはダンジョン系のRPGか。普通に歩いているいきなり全滅する場所があったなあ。デバックがしっかりしてればねえ」 そして、解説を始める疾風。ゲームの知識も彼は十分にあるため、こういうところでの仕分けは得意だ。 「たまにはアクション系もいいか……右手的には辛いんだけど。でも当たり判定といい落とし穴や空中ブロックの判定がおかしい。落ちる、埋まる、消える。あっ動けねえ」 同じく、ゲーム系の知識を持っている七海もまた調査を進めていた。やったことのないゲームを中心に進めており、バグ条件をメモしていくというデバッグプレイまでやっている。 「三徹ぐらい余裕ですからね、さっさと終らせましょう」 持ってきた最新機種で時間を潰そうとしたが、それもできそうにない。みんな真剣だから。 「あと、これは文字通り危険物だな」 そう言っていたら、疾風が覚醒物質の入ったゲームを見つけて仕分ける。これでリベリスタとしての仕事は終了だが……。 疾風が見渡すと、まだ遊んでいる者たちはいた。というか、主にゲーム研究会の面々だが。 ●遊びでやってんじゃないんだよ! 画面には、進んでも進んでも代わり映えのしない塔の内部。全体的に画面が暗いせいか見ている方まで気が滅入ってくる、リアルなダンジョン仕様。 「……なんデスカ? 今デスカ? 多分400階ぐらいデスガ。残り? 聞かないで下さい。一階一階ちまちま登ってるんデスカラ」 目標は1000であるが、単調なためひどい作業感が漂う。 「目が死んでる? いつも通りの愛らしい瞳デスヨ?」 フフフ……フフフ……。奇妙な行方の笑い声が、レクリエーションルームに木霊する。時刻は夜中。ゲーマーに時間は関係ない。 「壮大なファンタジー世界に数百人の将軍達が入り乱れて、一バトル千人VS千人の戦いが繰り広げられる。中二全開の必殺技ムービーや、キャラクター同士の短い対話から生まれる人間ドラマに、おじいちゃんも二度びっくり。そんな夢でネバーな大地のヒストリーが好きだった」 積んであるシリーズ物のゲームを消化しつつ、イーゼリットもやっぱり目が虚ろになってきている。画面で繰り広げられる、戦乱の歴史が動いていく。動かない時もある。 「話の大きな矛盾、次々に使い捨てられていく設定、ポっと出の連発。違うの! 私が見たかったのはコレじゃないの!」 でも絵師は好きだし、一度好きになったものを中々捨てられる訳がない。 「でも、このゲームの世界観はいいよねっ! キャラクターもいいよねっ! キャラクターごとにストーリーあるのも良いよねっ! キャラのイラストもいいよねっ! 音楽いいよねっ! 声とか出るのも良いよねっ!」 同じゲームが好きだった、大好きな杏が必死にフォローを始めていく。それがよく分かるから、イーゼリットも肩を震わせる。 「システム以外いいよねっ」 そしてこのフォローである。 「あの日見た夢の続きは残酷な現実だったの……」 夢は、人の心を縛るもの。そして、儚いものだ。 「アーケードの格ゲーもあるわよ!」 「いやー!!」 乃亜の追撃で、夢は悪夢へと変わっていく。いや、ある意味覚めない夢なのかもしれない。 「クソゲーといっても評価できるポイントはあるのよ携帯ゲームなので携帯して遊べるとか」 そんなフォローをしながら、糾華は同社の携帯移植ゲームを進めていく。クソゲーなどでは糾華は止まらないのだ。 「移植作でよくある、無理矢理な移植で画面比率がおかしい、文字が見えない、絵が潰れてる……。元ゲームが好きな人は、辛いわよ、これ」 はぁ……と、大きなため息。それでも、ピコピコと動かす手は止まらない。止められない。ゲーマーの性。 「辛いわ……これ」 エンディングまで泣くんじゃない。 得意の格ゲーをやり続けながら、エンディングを目指す岬。テコンドーの大会を勝ち進むゲームなのに、チェーンソー持っていそうな仮面の男やら回る原住民やらを倒しながら先に進む。 「パーフェクトソルジャーにだって勝ったんだから負けるわけるわけにはいかんよー。最期の仙人ぽい手足が伸びる人は結構強かったけど、全く勝負たならんわー」 気合で倒す敵も倒せる岬に、普通の敵はまず相手にならない。なので、最後の戦いまではすんなりと行けた。 「ラスボスは他流試合かー、ってなにそのおとなバックドロップ。空手はどこにー。全身無敵で跳び上がってなんで下段飛び道具を打つんだよー」 実は空手じゃない説のあるラスボスに理不尽を感じながらも、岬はなんとか押し切って勝利。 「何とか倒したら勝利を讃えてくれたよ、空手先生ー。終わりよければ全てよし、ってスタッフロールハングルで読めぬー」 ずらーっと並ぶ読めない字を前にしながら、岬は次のゲームを漁るのであった。 「惜しい。流麗なメロディを誇っていたBGMが拍子抜けていたり、特定の処理落ちが酷かったり……」 それぞれ移植された先の家庭用ゲーム機を見比べながら、うむ、と唸るのはブリリアント。 「でも。私はこれ大好きなのだ。上記の欠点は“味がある”とも言えるし、技術的な問題もあるのだろう。何よりも! 初めて遊んだのがコレなんだもん!」 あー、それなら仕方ないねー、と白石も頷く。 「ごめんこれクソゲーじゃなかった」 その言葉にずっこける面々であった。時は深夜。 朝。もうレクリエーションにはゲーム研究会と乃亜以外居ない。 「……あ、朝だー」 窓の外から溢れる朝日を眺める女が一人。ゲーム研究会部長、臼間井美月であった。その豊満な胸の中にはレトロなゲームが沢山。まだやりきれてない。 もぞもぞ、と布団を動かしなら、まだやる。既にレクリエーションルームは片付けが始まっているが、それでもやる。 「あはは、おっかしいー♪」 クソゲー。それは愛の魔法。その魔法に魅入られた者は、深淵に喜び勇んで落ちていく。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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