●凍った暗闇 闇の中に、時折ごくわずかな光がよぎる。 そのたびに硬い雪のつぶてが空気を切り、吹雪が渦を巻く。 光と風は、頭上はるかな位置から来ている。ここは地下だ。登山中の一行が、地滑りに巻き込まれて落ちた先の、ごく狭い空間だ。 登山中の一行――13人。高校生男女十二人と、山岳部顧問の教師。彼らの帰還は絶望的であった。ここにこのような地割れがあることを知る者がまずいない。そして吹雪が収まるまでは救助隊も来ることが出来ない。 「うふ。うふふふふ……」 その暗闇の中で。一人の少女がゆらりと立ち上がり、暗く笑っていた。 お下げに編んだ髪に分厚い眼鏡。眼鏡はひび割れて傾いている。 「うふ、うふふふふ……私だけ、だ……」 「うう……助けて……」 声をかけたのは別の生徒だった。落石に下半身を挟まれて動くことが出来ないでいる。 「ねえ、ヒビナ。助けてよ……」 「うふふ。12万7千円」 「……え?」 「わからないの? 12万7千円。あなたが私から脅し取り続けて来たおかねの合計。今払って」 うふふ、うふふ、と意地悪く、ヒビナと呼ばれた少女は笑う。いじめられていた少女は笑う。 「ちょ、なに言って……今それどころじゃ……」 「今じゃなきゃ、いつなのよ」 よいしょ。重い石を持ちあげた。振りあげる。 「なに……やめて! やめ――」 ごつん。振り下ろしたら静かになった。 ぐしゃりなんて頭蓋骨が小気味よくつぶれることはなく、ただ生きていたのが死体になった。 「う……高石……か……? 動けるの、なら……」 次に声をかけたのは教師。 「知っていたでしょう」 いじめのこと。だから同罪。 実に手ごろな、殺人にうってつけの重さの石を、だからもう一度振りあげた。 「うふふ。うふふふふふ……」 12回石を振りおろしてから。高石ヒビナはゆうらりゆらりとゆれていた。風が捲く。吹雪がほおを凍らせる。 ――で。どうするのかね? その声は突然頭上から聞こえた。見あげる。地割れの入口に、黒いシルエットになって、誰かが腰かけていた。 「え――?」 ――これからどうするのかね? そう呼び掛けて来た謎の相手に、ヒビナは助けを求めようとは思えなかった。そもそも自分に救いがあるとは思っていなかった。だから、これからどうすると言われても返す言葉が無かった。 ――質問を、変えよう。 一瞬吹雪が切れた。地割れの上の相手は仮面をつけているようで、顔の半分が白く光った。 ――満足したかね? 「……え……」 ――殺しただけで十分かね? 「……いいえ」 まだ足りなかった。そうだ。殺しただけじゃ全然飽き足らなかった。死ぬより辛かったのだ。今まで。 ――ならば君に、プレゼントだ。 それが、与えられた。 それは、『王者の杖』だった。 ●『蠅の王』 「今回の任務は破界器(アーティファクト)一つの破壊と、その影響下にある12体のエリューションアンデットの制圧です。ただし破界器を破壊した時点でアンデットは全て死体に戻ると考えられます」 『運命オペレーター』天原 和泉(nBNE000024)はいつものように手早く資料を配った。 「破界器の名は『蠅の王』。死者をエリューションアンデットにして支配する能力があります。また、攻撃を受けると主に神秘攻撃で反撃します。詳しくは資料を参照してください」 ……遠距離の神秘攻撃で、主にこちらの生命力を奪い動きを鈍らせてくる。なかなかに厄介である。 「現在、このアーティファクトは高石ヒビナという少女の手にあります。彼女は先日遭難した高校山岳部の唯一の生き残りです。――そして、殺人者です。なお、仮に彼女の手から奪い取ったとしても、アーティファクトは問題なく機能し続けると考えられます」 殺人者。そう、たとえ生存の望みが全くなかったとしても、殺人は殺人である。 「それから12体のエリューションアンデットですが、元は山岳部員及び教師です。彼らは現在、2~3体の群れに分かれて地割れから這い出し、凍った土を掘って食料を探しています。生きたものを見つけ出すとそれを引き裂いて殺し、主である高石ヒビナに捧げに行きます。現状ではなんの害もありませんが……吹雪が止んで救助隊が近づいてきても、この行動原理は変わらないと考えられます」 それはつまり、アンデット達が救助隊に牙を剥くということである。 「上手く行動すれば、このアンデット達は群れごとに個別に撃破することができるでしょう。なお、支配されているのは肉体だけで、精神は生前のままです。つまり……そう……アンデット達はおそらく、口では助けを求めながら、襲い掛かってくることと思われます。耳を貸さないでください」 ……気の滅入る話だ。 「みなさん、くれぐれも気をつけて……無事に帰って来てくださいね」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:juto | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年02月05日(日)22:31 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●傍観者の教卓 休日の、ある大学の講堂だ。 生徒は一人もおらずがらんとしている。 教壇に、一人。 仮面を付けた男が立つ。 「さあ、答案を拝見しよう」 ●問い1 それは倫理の、あるいは意志の、テスト。 問い:助けを求めるものを殺せるか? 雪に閉ざされる、という表現がある。通常は交通の断絶を指す言葉だが、この吹雪の山においてはそれ以上の意味で、世界が雪に閉ざされている。 視覚が閉ざされる。捲く風に踊る雪が5m先も見通させない。 聴覚が閉ざされる。ごうごうと唸る風の音ばかりが世界を圧している。 まして嗅覚や触覚など、この中では有って無いようなものである。厳寒の吹雪の中では。通常の人間にとっては。 「来るよ」 先頭を行く『人間失格』紅涙・りりす(BNE001018)が端的に一行に告げ、無銘の太刀を抜いた。鮫が持つ超常の嗅覚は吹雪の中から標的の匂いを嗅ぎつけている。 標的の、人間の、匂い。 一瞬だけシルエット。一歩進むと雪の壁の中から不意に踏み出してきた、二人の人間の姿。 「あ……」 リベリスタ達に向かって、思いがけず絶望的な吹雪の中で出会った『助け』に向かって、硬直した両手を差し出す『登山部員』。 そう。その両手は硬直している。完全に冷え切っているというだけでもない。固まっている。 「誰? 助けて……」 助けて、と言いながらその腕はリリスに掴みかかろうとする。手袋がボロボロになり、肉がうじゃじゃけた傷口が覗いていた。 りりすは迷わず踏み込み、ざん、と太刀を振り抜いた。差し出された手がぼとりと落ちる。 「あ、ああああ……」 腕を切り落とされた高校生が叫ぶが聞き耳もたず。こんな事よりずっとショックなことが、世の中にはいくらでも起きているし。 「いや、助けて……」 私なにも悪いことしてない、と叫ぶ少女の背後に、す、と『ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)が回りこむ。 「……動かない、で……」 繰り出す技はギャロッププレイ。精妙にコントロールされた気の糸が『被害者』を締め上げ自由を奪う。 ――いや、自由は初めから奪われている。 「な、なんだっ? 助けて! 助けてくれよ!」 そう叫びながら伸ばすその手は曲がったままで異様に硬直している。死後硬直だ。彼らはもう、死んでいる。死んで操られている。 「……斬らせていただきます」 モノクロームの夢のような黒と白の衣装をまとった少女――『剣華人形』リンシード・フラックス(BNE002684)がバスタードソードを振り抜いた。 初めての遭遇戦はこのような調子であっさりとかたがついた。 リベリスタ達は冬山の登山に戻る。 地図と方位磁針を手にしている者もいれば、超感覚を発揮して雪の帳の向こうを捉えていく者もいる。時に声を掛け合い、一団になって進んで行く。 その一幕。 (『無事に帰って来てくださいね』とは言われたけど……) 吹雪の壁に潜り込んで行くような行軍の中で、『超絶悪戯っ娘』白雪 陽菜(BNE002652)の足取りがつい遅れた。するとその背に『不屈』神谷 要(BNE002861)が、す、と手を添える。 「大丈夫ですか?」 「あ……うん。ありがとう。……あのさ……」 「はい」 「……『自業自得』だよね」 助けを求めながら襲いかかってくる死者のことだ。陽菜の胸にはずっとつかえていた。心を決めて撃つけれど、撃つたびに胸が痛む。 「……救いたいと思っても、救えない。だから……撃つしかない。それだけのことかもしれませんよ」 「そか。……あのさ、ヒビナは、救えるかな」 「そうですね……『救い』が全く無いとは思いたくありません。私は」 「うん!」 陽菜に笑顔が戻る。それは金色の太陽のように。 「あ……が……う……がは……」 次に出会った死者たちは、いずれも声帯を壊していた。おそらくは吹雪の中でただひたすら助けを求めて叫び続け、そして叫びつくしたのだろう。 「あ……ぐ……あ……」 真剣にリベリスタ達を見つめ、硬直した手を伸ばす。一人は足がおかしな方向にねじ曲がったまま歩いていた。 「残念ですが、私はあなた方を助けに来たのではありません」 穏やかに毅然と言って、『畝の後ろを歩くもの』セルマ・グリーン(BNE002556)は、二本の枝が絡み合ったような、あるいは山羊の角のような、祭器「化身の樹」を構える。 大人しく死なせてももらえないとはなんとも惨い話。そして出来ることは、大人しく死なせてあげることだけ。「化身の樹」を打ち下ろす。 目指す地割れは雪原に口を開けてはいたが、雪に縁取りされたその開口部はそこにそれがあると知らなければまず見つけることが出来ないものだった。なるほど。この底に落ちたのでは絶望するのも無理はない。リベリスタや死者はともかく、通常の人間ではとても出入りもできないだろう。 少し離れたところで待ちかまえると、やがて地割れに帰ってくる死者と行き合った。 「人だ、助けて……」 助けを求めながら死者は鉤のように曲がった指を振りかざし襲いかかる。 「助けることは、出来ません」 それを剣で受けて、蘭堂・かるた(BNE001675)は静かに告げた。 「できるのは精々現状からの解放と、力を頂いて原因排除に活かすくらいです」 現状からの解放とは、つまり再び『殺して』あげること。では力を頂くとは? 冷えた血がつ、と流れて雪に落ちた。 「……クス。久しぶりね、戦闘で血を吸うのは」 『吸血婦人』フランツィスカ・フォン・シャーラッハ(BNE000025)は一度は抱き寄せていた少女を突き放した。遺体に還った死者は雪の中にくずおれる。 連戦である。吸血による補給を行いながらの戦いは間違いなく『正しい』選択だ。 たとえその血が哀れに冷え切っていても。 しばらく地割れの外に留まり、もう一つのグループを狩った。これで倒した――骸に還した死者は10人。頃合いである。 リベリスタ達は地割れを降りていく……。 ●問い2 問い:助けを求めない者をいかにする? 「なあ高石、もう許してくれ……先生は本当に知らなかったんだ」 「助けて。あたしなにも悪いことしてない。仕方なかったんだもん。仕方なかったんだもん!」 暗い冷たい地割れの底で。 ヒビナの傍らに残っているのは教師だったモノと、小学校の頃は友達だったモノだ。それ以外は、もうずっと外から帰って来ない。 なにが起きているのだろう。わからない。確かなのは、支配した死者が帰って来ないというその事実のみ。 「ねえヒビナ、あたしたち、友達じゃない! 助けて、くれるよね……」 「……うるさい」 と、断じるけれど。 (あたし、たよっているのかな……) もうすっかりクセになった、ゆうらりゆらりと体を揺らすしぐさをしつつ、凍った思考の端でヒビナは思う。最後に手元にこの二人を残した自分の心はなんだろうと。 まだ心というものが生きていればの話だけれど。12回石を振りおろしながら自分の心も殺したような、そんな気もする。 寒い。とても寒い。 光はほとんど届かない闇の底に、吐く息が白く煙り、雪が細い風に捲かれて空中でわだかまる。とても寒くて、そして救いがない、この場所。 そこに。 上からからからと石が落ちた。細い懐中電灯の光が地下を仄明るくする。 斜面を滑り降りてくる8人。リベリスタという呼称をヒビナは知らない。ただ、知っている人ではないのは確かだ。 その先頭を切っている子が、金の髪を横に束ねた少女が叫んだ。 「ヒビナ危ない! その杖放して~!」 「え?」 意味が分からなかった。ヒビナはむしろ逆にぎゅ、と杖を掴んでしまう。けれど陽光のようなその声はたしかにヒビナの心に引っかかった。 「行きます」 水色の髪の少女が恐ろしい速さで踏み込んで来て、『先生』に剣をふるった。 「ぎゃあ! 助けてくれ!」 『先生』はみっともなく喚きながら、少女の温かそうな肉体にかじりつこうとする。少女はほとんど消えるような素早さで身をかわした。 「……くさいな」 独りごちた白い髪に褐色の肌の少女が太刀を振るい、『蠅の王』に斬りかかる。斬撃が狙い過たず凍った豚の頭を捉えると、豚は「びごぉっ」と絶叫した。 そして反撃。凍てつく真っ白な息が前線の少女たちを襲う。剣を手にした水色と白の少女たちは素早くこれをかわした。 「……うっ……く」 金の髪の少女は冷気にもろに身を晒した。 「平気だもん!」 やせ我慢で耐える。 大きな白いリボンを付けた黒髪の少女が無言で、そして無音で滑り込んでくる。手に生じたまばゆい光の玉を、『友達』の胸に撃ち込んだ。と、数瞬後にそれが爆ぜた。血肉が飛び散る。 「あああ、痛い痛い痛い!」 『友達』が黄色い涙を流しながら絶叫しても、少女は意に止める様子がない。 「また、趣味の悪い……」 褐色の肌の女性は『蠅の王』への嫌悪を隠しもせず、ねじくれた鈍器を振りあげた。とてつもない勢いで振り下ろす。 ぐん、とヒビナを振りまわして杖が逃げた。かすった。ぶぎい。醜く叫ぶ。 「そこです」 見事なストレートの黒髪の女性が、蛇腹になった剣を一度旋回させ、激しく叩きつけた。 「――あっ――!」 弾き飛ばされた杖が岩の間に転がる。ぶちい、と手首ごともぎ取られたような気がした。間違いなくこの杖に依存していたから。 ぐらりと揺れて倒れそうになる。そこを黒いコートの少女が抱きとめた。 「代わります」 金髪の少女にそう声をかけると、さあ、とヒビナの手を引いて行く。助けようとしているようだ。 (今さら……) そう思う。けれど手をひかれるままに連れて行かれる。放心しているからか、違うのか。 「さあ、今度は銃撃戦ね」 金髪の見事な美女が機関銃を構え、暗がりの死者と杖に撃ちこむ。ノズルフラッシュが眩く辺りに飛び散り、跳ねた弾が火花を散らした。あそこにそのままいたら巻き込まれて死んでいたのだろうな、と思われる。 「貴方はこんな所にずっと隠れて死者を操り続けるなんて結末に満足なのですか?」 ヒビナを大きな岩の影に引っ張って行きながら。黒いコートの女性はそう問いかけた。赤い眼がヒビナを覗きこむ。 「だって……それしか……」 「それしかない、でしょうか。本当に?」 救われるための絶対条件は、救われたいと思うことだと。少女は、ヒビナに告げた。 (だって! だって……!) それから決着がつくまでの間、ヒビナの胸中には狂おしい感情が渦巻くことになる。 リベリスタと『蠅の王』の戦いは激しいが時間にすれば短いものだった。 まず天乃が数度の爆発を仕掛けた末に『友達』を残骸にした。リンシードは目にもとまらぬ斬撃で『先生』を切り裂いた。このようにして、無論それぞれの死者の繰り言には耳を貸すことなく、相手取った死者を沈黙させた。あとは『蠅の王』への集中攻撃となる。 腐りかけた頭部はしかし死者を司るだけあって頑丈で、連続で打撃を受けながらも冷気を吐き出し血も凍る叫びを上げ、幾度となくリベリスタ達の行動の自由を奪った。 特に恐るべき絶叫が地割れの中全てを凍てつかせると、リベリスタ達の動きは長く封じられることになった。 一度目は素早く岩陰に入って難を逃れた要が、破邪の光を放って仲間を回復させた。 二度目は全員が動きを封じられた。死者が多数戦場にいれば、あるいはそれは反撃の好機となったかもしれない。けれどしもべを全て倒された『蠅の王』にはそこから畳みかける手が無かった。たとえ恐るべき呪いが身を縛ったとしても、それに屈し続けるリベリスタではない。やがては意志を振り絞って回復し、『蠅の王』に反撃を加えていった。斬撃が、銃撃が、打撃が蠅の王の耐久力を削り取って行った。 時間にして10分足らず。 「ぶぎ。ぶぎおぉぉぉぉぉぉおお!!」 最後の苦鳴を上げると、『蠅の王』は真っ二つに折れた。 その後。 残されたのは、寒さに震えるお下げ髪の少女、ヒビナのみである。 「この人って『殺せる』人だと思うけど。説得とかすんの?」 りりすが一行を見回してそう問いかけた。自分は殺すのになんのためらいもないという、そういう言い方である。 「そうね。一般人かどうかはこの際関係はない……」 がちゃ、とフランツィスカが銃を構え直した。 「人の理で殺し、けれど神秘の力で死者を弄んだ。だからその復讐は神秘によって裁かれるべきね」 「ままま、待ってよ!」 陽菜があわてて口をはさんだ。 「アタシはヒビナを助けたい! 助けられると思う。話をさせてよ」 「それもいいかもしれませんね。彼女と話すというのは。それを望む人がいるなら、ですけど」 かるたが頷いた。 「最終的には、責めるのも償うのも赦すのも、彼女が自身で行うべきと考えます」 「どうする? ……戻っても、辛いだけ」 生き残ったヒビナに対して初めに声をかけたのは天乃だった。 「戻るなら、連れてく……けど、残るなら、止めない。どうする?」 「わ、わたしは……」 ヒビナの声が震える。言葉が続かない。 「怖かったんだよね?」 と陽菜が言う。 「いつも虐められてて、部の皆を助けたらまた虐められると思ったから殺しちゃったんでしょ?」 「わたし……は……」 それは違った。あの時は、助かった後のことなんて考えていなかった。助かることなんて考えていなかったから。そうだ。私は……。 「でも、殺人は罪だからちゃんと法の裁きは受けようよ……このままここに居たら部の皆みたいなバケモノになっちゃうよ。そうしたらアタシ達はヒビナを殺さなきゃいけなくなっちゃう」 「もう、――だから……」 小さな声。 「え? ヒビナ、なに?」 「もう、バケモノ……だから。私は。だから……」 12回の殺人で、もう心は死んだのだから。 「だから……殺して……」 「私たちがあなたを……殺さなかったら……あなたはこれ以上殺戮を続けますか?」 そう問いかけたのはリンシード。少女人形。 ヒビナはかぶりを振った。 「なら私は……あなたを……殺しません。貴方には……これから一生……罪を背負って貰います……」 「殺してくれないのなら!」 ヒビナは自分の体を抱きしめた。 「なら……助けて……寒いよぉ……」 救われるための絶対条件は、救われたいと思うこと。 「……じゃあ、行こう?」 陽菜が差し出した手は、あたたかかった。 ●挨拶 「どうせ、見ているんでしょう? わかっていますよ」 下ろしておいたロープを頼りに地割れを登りきると、セルマは辺りを見回してそう告げた。 「何度も出し物に付き合ったんです。そろそろ自己紹介くらいして欲しいですねえ」 「そうだね」 その声――低い男性の声は、思いがけず近くで聞こえた。 見れば吹雪の中に辛うじて見えるのは、白い小さな、鼠だ。 仮に攻撃をしかけても、すぐに雪にまぎれて姿を消してしまうだろう。 「直接お会いできないことを許して欲しい。私自身はもうそこにはいないのでね。はじめまして。名はDutch/Craftと読む。あり様は、好事家さ。君たちリベリスタのことをとても気に入っている」 「そうですか」 セルマが答える。 「私は貴方が気に入りません。なので貴方も貴方の出し物も、叩いて潰す所存です」 「楽しみにしているよ」 お世辞でも皮肉でもない、とD/Cは言う。 「君たちのあり様が私には本当に楽しみでならないのだ。今日はいいものを見せてもらったよ。ありがとう……」 鼠の姿は、雪の中に消えた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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