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<裏野部>還


 煌々と降り注ぐ月明かりの下、3つの人影が空を見上げている。
「アタシ等だけなら兎も角、火吹ちゃんまで使い捨てにするなんて、少し意外だったわぁ」
「然り。『剣身一体』は極致だが、この様では素直に喜べんな」
 平然とした風を装って軽口を叩く二人だが、其の言葉の端には隠し切れない苦痛の色が滲んでいる。
「…………匡め」
 火吹は小さく呟き、自我を焦がし続ける痛みを誤魔化すかの様に口付けた酒瓶を傾けた。
 けれども其の中身は喉へと届く前に揮発してしまい、ただアルコールの香りだけが鼻孔を抜けていく。
 火吹の口から炎の如く熱い吐息が漏れる。

 火吹、刃金、ミヤビらが意識を取り戻した時、其の身は既に異形と化していた。
 神秘に親和する何某かを媒介に外道を為す『尸解仙』。
 到底『復活』とは呼べぬその外法。死者たちの下ろし先に選ばれたのは、同種を喰らう白蛇、妖刀と成るべく鍛えられた刃、妙なる地で永く燃え続けた炎。其々が其のままならば何れ革醒し、エリューションとなってもおかしくない素材達。
 稀な事ではあるのだが、死した三人の、或いは四人の『魂』とも言うべき高位概念が悉く『比較的良好』な形で残っていたのが幸運、……否、不運だった。
 三人の嘗ての仲間であった匡が『賢者の石』の入手に成功してしまったのも、不運な出来事に追い討ちをかけたと言えるだろう。
 死者の黄泉還りを目的とする『尸解仙』は神秘の秘奥。
 良識からの逸脱、入念な準備と莫大なコストを必要とし、更には多大なリスクすら伴うとするこの秘術は、されど真の意味では何も生み出しはしない。
 更に本来ならば漠然としたエリューション・フォースとして生み落とされる筈だった彼等は、『裏野部』に数億単位の金に加え、今回の実験や賢者の石のデータを要求した『六道』の協力で『中途半端に受肉して』ここに在る。
 だが其れは最悪だった。
 確かに力は強くなった。けれど其の強くなった力こそが彼等を内からじくじくと喰らう。
 彼等は生きても死んでもない。
 生の喜びは無く、死の安寧も無い。永遠に生き腐れ、死に続ける。
 まるで呪われたかの様に。

 もし彼等を呼び戻したのが砂蛇であれば、例え其れがどの様な形であれ三人はそれを幸運と喜び、再び砂蛇の下で力を振るっただろう。
 元々彼等は好き勝手に他人を押しのけ、我を押し通す生き方を選んだ者達だ。
 他人を殺して全てを奪い、自分が死ねば何も残らない。そんな塵の様な世界で生きて来た屑達なのだ。
 だからこそミヤビは刹那の快楽を追い求め、刃金は自らの分身とも言える武器の数々を遺す事に拘った。
 火吹とて二人とどれ程の違いがあるものか。あのチームの中で唯一先を見据えていたのは砂蛇だけだっただろう。彼等の生き方を理解し、それでも尚且つ先を見据えて彼らを率いた。故に黄咬砂蛇は彼等の頭足り得たのだ。
 そんな彼の下であれば、先の無い身に怯えを感じる事も無かったと言うのに……。

 しかし其の砂蛇も、もう居ない。
 彼等3人を実験の為に呼び戻したのは、賢者の石を入手した岩喰らいの匡だ。
「匡ちゃんも随分かわっちゃってたわねぇ」
「鈍らが砥がれただけだ。奴は元々我等の誰より強かった。我等の誰よりも甘かったがな」
 匡の名を口にする度、二人の瞳には暗い光が宿る。
 勿論、最も悪いのは力の足りなかった自分達だ。
 油断から、或いは色に狂い、もしくは女に見蕩れて無様に倒れた。
 自分達が残された匡が追い詰められる原因を作ったのだ。
 判ってる。
 判っては居ても、身の内で苦痛が猛る度に、決して恨みたく等無い筈の匡への憎悪が積もって行くのを止められない。
 強い風が、彼等の佇むビルの屋上を吹き抜けた。

「黄咬兄さんは『蛇に足は要らねえ』って言うんだろうなぁ」
 それでも、刃金も、ミヤビも、そして火吹も匡への恨みをはっきりと口に出さない理由は只一つ。
 匡の目指す先に居る者の為なら、仕方がないと心のどこかで思ってしまうから。
「奴は『裏野部』以外の全てを嫌っていたが、『六道』や『黄泉ヶ辻』は特に気に食わない様子だったからな。恐らく怒り狂うであろう事は想像に難くない」
 三人の唇が笑みの形に歪む。
「匡ちゃんも大変ねぇ。あ、でも砂蛇ちゃんなら生き返る時にアソコおっきくしてあげたら意外と許してくれるわよ。匡ちゃんに教えてあげないと」
 三人の笑いが屋上に響いた其の時、彼等が居るビルを取り囲む様にして六方向に立つビルの屋上に其々光が灯った。
 天、人間、修羅、畜生、餓鬼、地獄。『六道』のフィクサード達が発動させた結界に、三人は己の崩壊の加速を感じ取る。
「折角盛り上がって来たのにせっかちねぇ」
 夜目にも鮮やかな白い裸身と鱗に覆われた蛇の下半身をくねらせ、『virus』改め、E・ビースト『白蛇』のミヤビが呟く。
「鋼の身でも血が沸き立つ物なのだな」
 ぼんやりとした影が刃を抜き放つ。そして『斬鉄』改め、E・ゴーレム『剣霊』刃金の声はその刃から放たれていた。
「煙草は吸う前に燃え尽きる。酒は喉まで届かない。この体じゃ美少女でも抱き締めたら焼け爛れるか炭になる。……超萎える。でも俺等は所詮この生き方しか出来やしない」
 吹く風に、『ヴォルケイノ』改め、E・エレメント『イフリート』火吹の体が揺らめく。

 彼等は自分達に施された実験の意味を知っていた。砂蛇のより良い形での帰還を求める匡と、戦力の拡充を求める組織の駆け引きの末に行われた実験の意味を。
「きっとアークも今頃事態に気付いてる頃ね。今回は一体どんな子が来るかしら? そう言えば約束もあったわねぇ」
 自らの豊かな胸を持ち上げ、ミヤビは艶然と哂う。
「出来れば上等の贄が良い。塵を幾ら切った所で刃は育たんからな」
 この期に及んで色気を撒き散らすミヤビに、武器の事が頭から離れぬ刃金。
 結局彼等は変わらない。
 先を見ず、他人から奪う事でしか何かを為せぬ下衆どもは、何一つとして変わらぬままに終ろうと必死なのだ。
「早く来なよ。アークのリベリスタ。お宅等にとっては蛇足も良いトコだろうけど、付き合ってくれよ。精々楽しませてやるからさ」



「さて諸君、出撃だ」
 集まったリベリスタ達に『老兵』陽立・逆貫(nBNE000208)は短く言い放つ。
「今回諸君等に語る事は然程無い。このエリューションに関しては恐らく諸君等の方が私より詳しいだろう」
 放られた資料に記されているのは、嘗て戦った敵の名前。
「ターゲットのエリューション達が居るビルを取り囲むように立つ六方のビルに、『六道』と『裏野部』のフィクサード達が居るが此れは無視して構わない。奴等の目的はフェーズ進行の加速と其の観察だ。手は出してこないだろう」



 E1:『剣霊』刃金
 武器型のエリューション。分類するならE・ゴーレム。戦闘開始時はフェーズ2で、7ターン後にフェーズ3に移行。更にその8ターン後に砕け散り、半径100mの範囲内の全てに致命的なダメージを与える。
 高い物理攻撃力と物理防御、速度が特徴。
 刀を握り振るうのは刃金の影だが実体は無く、本体はあくまで刀。
 刃金が嘗て鍛えた妖刀や魔剣等の呪われた武器7つの力の一部を、或いは弱化してコピーする事が出来、ターンの最初に其の武器へと変化し能力を使用する。フェーズ2の間は4つまでしか開放されていない。
 Lv15以下で習得できるソードミラージュのスキル全てに良く似た能力と、『妖しの刃』と言う名の能力を持つ。


 形態1:運命喰らい
 ナイフ型。この形態を取った刃金からの攻撃を100%ヒット以上で命中、或いはクリティカルで受けた者は残りフェイトと同じだけの追加ダメージを受け、更にフェイトを2点失う。

 形態2:妖刀・血吸い蛭
 刀型。この形態を取った刃金からの攻撃が100%ヒット以上で命中した場合、刃金は与えたダメージの半分のHPを回復する。

 形態3:悪意の伴星
 左右2本の短剣型。この形態を取った刃金は、左右で合わせて2回の攻撃を可能となる(一回の攻撃力は他の形態より劣る)。右の短剣での攻撃を喰らった場合、○○無効等のBS無効の能力を持つ者は一時的に(3ターンの間)、其の効果の恩恵を受ける事が出来ない。左の短剣での攻撃を喰らった場合、虚弱、圧倒、鈍化、猛毒、流血、業炎、氷結、雷陣、麻痺、不吉、混乱、呪い、致命、怒りの中から3つまでのバッドステータスをランダムに受ける。

 形態4:魂砕き
 無鋒剣型。クルタナを模した形態。この形態を取った刃金からの攻撃を喰らった者はHPにダメージを受けず、其のダメージ分EPが減少する。この攻撃でEPが0になった者は精神を砕かれ戦闘不能状態に陥る。

 形態5~7は、フェーズ3になってから解放される為不明。


 E2:『白蛇』ミヤビ
 下半身が蛇の女性エリューション。分類するならE・ビースト。戦闘開始時はフェーズ2で、4ターン後にフェーズ3に移行。更に其の6ターン後には自我を失い、自らが従えるエリューション以外の敵味方の認識がつけられなくなる。
 情報収集、情報隠蔽等の搦め手に長けた個体。
 後衛型だったミヤビだが、ビーストとなる事で耐久力は大幅に増しており、牙や巻き付き攻撃等も可能になっている。
 Lv15以下で習得できるホーリーメイガスのスキル全てに良く似た能力と、その他に3つの独自能力を持つ。

 能力1:隠蔽結界『孤』
 このエリューションを含む、半径30m以内にいるエリューションの情報を隠蔽する常時発動能力。


 能力2:情報収集『独』
 ターンの頭に自動発動し、対象一人の全てのデータ(最大HPや現在HPから、フェイトの残量まで)を解析する。

 能力3:ウロボロスの輪
 このエリューションのフェーズを下回る(ミヤビの初期段階ではフェーズ1のみ)、エリューションを生み出して従える。
 ただし生み出すエリューションのフェーズと同じだけの手番が必要となる(フェーズ1なら1手番消費、つまり毎ターンも可能)


 E3:『イフリート』火吹
 炎の身体を持つエリューション。分類するならE・エレメント。戦闘開始時から既にフェーズ3。
 バランス良く能力が高い。
 Lv15以下で習得できるマグメイガスのスキル全てに良く似た能力と、その他に3つの独自能力を持つ。

 能力1:炎の身体
 このエリューションに対して近接攻撃を行った者は、100点のHPを失う。

 能力2:炎の刃
 受けたダメージに応じて攻撃力が上昇する。

 能力3:ヴォルケイノ
 遠距離全体神秘攻撃。獄炎、必殺付き。



「諸君等の健闘を祈る」



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:らると  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ EXタイプ
■参加人数制限: 10人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年02月04日(土)23:53
 火吹は捻りはあまりありませんが普通に非常に強いです。
 刃金とミヤビも並みのフェーズ2とは比べ物にならない実力があり、尚且つ能力がややこしいです。フェーズ3になった場合は更に厄介になるでしょう。
 ウロボロスの輪で生み出されるのは、ホーリーメイガスに近い能力を持つノーフェイスか、近接戦闘を得意とする蛇のE・ビーストのどちらかです。
 今回他のビルに居る六道や裏野部のフィクサードは時間も余剰戦力も無いので無視して下さい。

 戦場となるビルの屋上は充分に広いです。


●Danger!
 このシナリオはフェイトの残量に拠らない死亡判定の可能性があります。
 参加の際はくれぐれもご注意下さい。

 火吹達はアークのリベリスタを良く知る為、其れが可能な状況であれば戦闘不能者に対しては積極的にトドメをさして殺して来ます

 そして成功条件は『リベリスタから死者を出さずに敵に勝利する事』です。



 その他諸々は考察して下さい。
 ではお気が向かれましたらどうぞ。
参加NPC
 


■メイン参加者 10人■
覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
デュランダル
宮部乃宮 朱子(BNE000136)
クロスイージス
新田・快(BNE000439)
インヤンマスター
ユーヌ・結城・プロメース(BNE001086)
プロアデプト
イスカリオテ・ディ・カリオストロ(BNE001224)
ナイトクリーク
★MVP
クリス・ハーシェル(BNE001882)
スターサジタリー
結城・ハマリエル・虎美(BNE002216)
プロアデプト
ウルザ・イース(BNE002218)
スターサジタリー
望月 嵐子(BNE002377)
デュランダル
マリー・ゴールド(BNE002518)


「……あら、随分と強くなっちゃって。これはもう坊やなんて呼んだら失礼かしらねぇ」
 近付く複数の大きな力を感じ取り、其の中に彼女にとって思い入れのある色が混じっている事を確認し、ミヤビは感慨深げに呟く。
「我等が死してから、奴等に殺されてから、半年以上が経っているらしいからな。随分と修羅場を潜り続けたのであろうよ」
 あの時の自分達との戦いの様な、薄氷を踏み渡る様な死闘を幾度と無く繰り返して来たであろう彼等にとっての仇敵の接近に、刃金の心が焼けた鉄の様に真っ赤に燃え滾る。
「良い月が出てる。昔を思い出すわねぇ。こんな月の夜の敵は何時だって素敵だったわ」
 彼女が思い出すのは、嘗て砂塵と名付けられた裏野部の戦闘部隊でこなした幾多の任務。
 近付く力が一際大きく、恐らくはリベリスタ達が自己強化能力を使用したであろう事を受け、ミヤビが前衛たる刃金の刀身を光り輝くオーラ、浄化の鎧で包む。
「そうだな。特に思い出深いのは剣林の2刀流。最早叶わぬ願いとは言え、奴とは何時かもう一度刃を交わしたいと思ったものよ。……しかしそう考えれば」
 刃金には知る由も無いのだが、彼が脳裏に描いた2刀流の剣士も既にアークに討ち取られこの世界には存在しない。
 トップスピードの使用により、刃金の反応速度が更に研ぎ澄まされていく。
「最期にもう一度戦いの場を与えられただけでも、我等が主たる裏野部一二三様には感謝すべきなんだろうなぁ。……何せ、これ以上は望みようも無い相手達だしさ」
 砂蛇相手にも其の機嫌を伺わぬ火吹ですら、其の名を口にすれば畏れが混じる、裏野部一二三。
 複数展開した魔方陣により己の魔力を爆発的に高めた火吹の視線の先には、屋上への扉を潜りやって来たリベリスタ達の姿。
 知らぬ顔も多く混じるとは言え、待ち望んだ相手の来訪に、始まる死闘への期待感に、身を苛む崩壊への苦痛が一時遠のく。
「ごきげん麗しゅう」
 麗しい訳があろう筈も無い事は勿論判っている。
 先が無く、この戦いに自分達の意味を見出そうと、変わらぬままの自分で散ろうと必死な火吹達。
 実験である事を知りつつも、火吹達が使い捨てである事を判りつつも、この場へと駆け付けたリベリスタ達。
 麗しいと呼ぶには双方共に複雑すぎる心境だが、それでも『覇界闘士』御厨・夏栖斗(BNE000004)が放つ何時も通りの、そしてミヤビにとっては懐かしい挨拶に、戦いの予感に震える裏野部達の表情が狂喜に歪む。
「この戦いは最早因縁を超えた。外法すら厭わぬフィクサードと、世界を守るリベリスタとしての俺達。その在り方のぶつかり合いだ」
 そして『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)の宣言を皮切りに、リベリスタ達と、異種と化したフィクサード達、2つのグループが弾ける様に神秘の力をぶつけ合い始めた。


 動き始めたリベリスタ達を圧倒的な速度で制し、彼等の只中へと切り込む刃金。
 彼の取る形態はナイフ、リベリスタ達に取っても因縁深い運命喰らいの刃が、光の飛沫が散るように無数の刺突となって繰り出される。
 狙われたのは刃金の元へと飛び出さんとしていた夏栖斗と、連続行動によって彼をすり抜けた先に居たパーティの守護者である快。
 リベリスタ達を強敵、宿敵、仇敵と認め、一切の驕りや油断を捨て去った刃金の高速連撃は、夏栖斗に2度、快に1度、計3度突き刺さり、彼等を魅了すると共に運命の力を貪り食らう。
 けれども、だ。嘗ての彼等なら運命の力に頼らねば立っていられなかったであろう其の攻撃を、快はおろか2度も受けた夏栖斗までもが甚大な被害は受けつつも運命に縋る事無く耐え切った。刃金にとっての空白の半年の間に2人が越えた死線は、彼等に尋常ならざる成長を促したのだ。
 屈辱に刀身を震わす刃金。だが倒し切る事を放棄してまで連続行動を夏栖斗では無く快への攻撃に費やした彼の狙いは、敵陣深くに切り込む事のみならず魅了をばら撒く事だ。くるりと敵に背を向け、仲間達へと其の武器を向ける夏栖斗と快。
 無論リベリスタ達も徒に機先を制されたばかりではない。刃金は兎も角他の2人の異種は制するだけの速度を持つ2人、何処ら辺りが普通なのか一寸謎な『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)に『鷹の眼光』ウルザ・イース(BNE002218)がミヤビを封じる為に動いて居る。
 ユーヌとウルザの二人には、刃金、ミヤビ、火吹に対する因縁等は無いが、それでもこの戦いに向ける二人の思いは強い。何故なら、この二人のモチベーションと成るものは、敵への因縁ではなく味方への絆だからだ。因縁に引き摺られ前のめりになりがちな仲間達に、不足しがちな冷静さを二人は確りと持っている。
 そんな二人からミヤビに向かって放たれるのは敵を封じる事を目的とした呪印封縛にトラップネスト。通常集中によって狙いを溜めないで放たれるこの2つの技は大した意味を持たない。何故ならこの2つの技はただ当てるだけでは足りず、真芯から、クリーンヒットさせて始めて効果を発揮するからだ。
 しかしこの状況に、そしてユーヌとウルザの二人に限るならば、それも些か話を変える。二人の狙いは高速度を誇る自分達が、恐らく三人の敵の中では最も速度と回避が低く、尚且つ放置の出来ない癒し手のミヤビを縛る事。
 無論其れは簡単な事ではない。命中はすれども効果を表さなかったユーヌの呪印封縛。矢張りいかに命中が回避を上回るとは言え、格上の相手にクリーンヒットまでとなると並大抵の事ではない。けれども、だからこその2枚重ねだ。確率の悪い札でも重ねれば、其処に彼等の努力に運命が微笑みかけたなら、……並ではない命中を誇るウルザのトラップネスト、気糸で作られた封縛の檻がミヤビの動きを封じ込める。

 神秘の力を振るう超人達の間で、濃密に圧縮された時間が流れていく。
 次いで行動を取ったのは、刃金の攻撃に魅了されて我を失った夏栖斗と快だ。リベリスタ達にとっては不幸な事に、仲間達より速度で上回ってしまう2人の攻撃が仲間に向かって牙をむく。
 本来先手を取るであろう、上の三人に次ぐ速度を持つ火吹の行動は攻撃ではなく、次の攻撃を放つ為の『溜』。己が執着した、そして己を殺した、『不機嫌な』マリー・ゴールド(BNE002518)を視界の端に収め、其の胸中は何を思うか、火吹はただ無言に魔力を集め練り上げる。
 そして放たれるは『消えない火』鳳 朱子に向かって横合いからの夏栖斗の土砕掌と、あろう事か庇う対象である筈の『影使い』クリス・ハーシェル(BNE001882)に向かっての快のヘビースマッシュ。もっとも、麻痺を物ともしない朱子への土砕掌や、守り手である為に火力に欠ける快の攻撃では大事に至る事はなかったが、其れでもリベリスタ達の陣形は掻き乱されて行く。
 だがこの程度で押し切られ、崩れ去る様ならば彼等は此処まで生き残れては居ない。
 仲間からの打撃を受けつつも、朱子は怯まずに火吹に向かって距離を詰めてのブレイクフィアー、邪気を退ける神々しい光が夏栖斗と快、2人の意識を覆っていた靄を払い正気を取り戻させ、更には、
「倒れることを恐れるな。私が必ず回復する。だから……全力で行け!」
 一言一句に心を砕き魂を込め、唄われるクリスの天使の歌がリベリスタ達の傷を塞ぎ身体の活力を賦活する。
 そして回復の後に放たれるは残る仲間達による一斉攻撃。
 戦場に降り注ぐ光は、砂蛇には愛されたにも関わらず裏野部の砂蛇関係者に最も忌み嫌われる男、『原罪の蛇』イスカリオテ・ディ・カリオストロ(BNE001224)が放った神気閃光だ。此れまで彼は、頭脳で、舌で、其の技で、煽り、弄び、踏み躙り、最初から同じく砂蛇に欠かさず関わり続けた夏栖斗や朱子を光とするなら、イスカリオテはまるで彼等の影として戦い続けてきた。けれどそんな彼が、此処に至っては最早語る言葉無しと、瞳に万の言葉よりも心抉る鋭い光を宿らせて、ただ無言で技を繰り出す。
 そして光に白く焼けた視界を切り裂いて動くマリーが立ち直った夏栖斗と共に刃金を挟み込み、
「また撃ち殺してあげるよっ」
 そう、一度イスカリオテと共に刃金を殺した『猟奇的な妹』結城・ハマリエル・虎美(BNE002216)が、銃器を自在に操る其の名も『ガンスリンガー』望月 嵐子(BNE002377)が、2人のスターサジタリーが其の構えた銃口から、神秘の力を込めた光弾を刃金に向かって撃ち込んだ。


 己を狙っての分厚い集中攻撃にも、刃金は動きを鈍らせない。刃金の刀身をリベリスタの攻撃が掠める度に、ミヤビによって施されたオーラがリベリスタ達に僅かではあれ手傷を負わせる。嘗ては1人で、バラバラにリベリスタ達と戦おうとした彼等が、リベリスタ達を強敵と認めたが為に連携を怠らない。
 次なる刃金の変化は左右一対の短剣、毒と、無効を得意とする能力者の血をもって鍛え上げられた魔剣『悪意の伴星』。其の呪われた刃が狙うのは……、地を蹴り飛び上がる刃金の影。人の枠に縛られなくなってしまった刃金に其の行為は無意味だが、身に染み付いた習慣が其れを行わせる。高速跳躍からの多角的な動きでリベリスタ達を飛び越え、放たれるはソードエアリアル。狙うはリベリスタ達の戦線を支える要となる、先程回復の術を使って見せた癒し手、クリス・ハーシェルだ。
 悪意の伴星の特殊能力により頭上より降り注ぐソードエアリアルの攻撃は左右の二度。しかし其の前に立ちはだかったのは、未だ先の行動により崩れた体勢を立て直せていなかった筈の快だった。快の速度は刃金に遠く及ばず、先の行動を仲間を庇う事ではなく仲間への攻撃に使わされてしまった快がクリスを庇う事は本来不可能……けれども、それでもだ。クレバーではあれど同時に熱い、ともすれば青臭い感情を内に秘める彼の、その青臭く熱い部分が、守護者でありながら仲間を傷付けさせられた悔しさが、彼の身体を無理矢理動かし、刃金とクリスの間に体を滑り込まさせたのだ。
 無理に捻った体が軋む。そして違和感を伴う異質な痛みに顔を顰める暇もなく、左右の短剣は快の体を切り裂き、無効化能力を奪った上で『業炎』『不吉』『致命』を彼の体に刻み込む。
 其れに次ぐは矢張り先程と同じくユーヌとウルザ。しかし選ぶ行動は、先程と違いミヤビが未だ呪縛の中に居る為に其々異なる。ユーヌが狙うは刃金の弱体化を狙った陰陽・星儀、もう一方のウルザが狙うは先程と同じトラップネストでの火吹の呪縛だ。
 だが速度や回避に優れる刃金や、フェーズ3に達している火吹へのクリーンヒットを狙う事は、幾ら彼等でも些か厳しい。無論コンセントレーションで高められたウルザの馬鹿げた命中力ならば目が全く無いと言う訳でもないのだが、しかし分が悪い勝負である事に違いは無い。
 そしてウルザのトラップネストを潜り抜けた火吹が前に進み出、遂に束ねた魔力を解放する。葬操曲・黒、刃金を巻き込まぬように発動された、使用に溜めを必要とするこの強力な技の対象となったのは、癒し手たるクリスを中心に快、そして万の一時にはクリスを庇う事を考えて居たイスカリオテの3人だ。
 血液などとっくの昔に失い、ただ炎のみの体となった火吹の、其の炎の一部が黒鎖と化して濁流の様に3人を飲み込む。
 クリスを庇った快とイスカリオテの身を、『猛毒』『流血』『呪縛』『不運』が侵す。
 此れまでに放たれた半分以上の攻撃を其の身に受け、其れでも尽きぬ快の耐久度は賞賛に値する。だが、既に彼は死に体だ。
 回復役から潰す敵の作戦に対し、己が体に鞭打ち一身にそれ等を引き受けた快のお陰でリベリスタ達は互角の戦いを演じているが、それだけに負担の割合が集中しすぎている。
 行動の度にブレイクフィアーを強いられ、火吹を捉えてブロックに回れぬ朱子が再びブレイクフィアーで仲間達を侵すバッドステータスの除去を試みるが、運命は弱った快に容赦なく追い討ちを仕掛けた。邪気を祓う光に、イスカリオテは其の身の自由を取り戻す……だが快の身体は光を受けた後も負の力に侵されたまま変化が無い。

 再び、刃金に対しての集中攻撃が始まった。
 対角線上に挟み込んで放たれる夏栖斗とマリーの土砕掌。夏栖斗は問う。何故、3人はこの先の破滅を判っていて戦うのかと。もう彼等が砂蛇に会う事は出来ないと言うのに。
 だが当然の様に刃金からの返事はない。ただ夏栖斗の言葉に、刃金の動きが僅かにキレを増すのみだ。もし元の体を持っていたなら刃金はきっと笑みに其の唇を歪ませただろう。嘲るではなく、自分と違いすぎる、或いは甘すぎる感性を持つ相手を宿敵とする自らが可笑しくて。
 身の内を喰らう崩壊への苦痛が増している。恐らくはフェーズの移行が近付きつつあるのだろう。
 けれど刃金の心は喜びに満ちる。最期の相手が殺伐とした『裏』の相手でなく、尚且つ自分にとって脅威となりうる、甘い宿敵である事が面白くてならないのだ。
 こんな身にされた恨みあれど後の事は匡に任せれば良い。恨みと能力に対する信頼は別だ。彼等は利と互いの能力への信頼をベースにした絆で繋がっているのだから。
「あんたらは何も変わらない、化物だとは思わねえよ。だから人として倒す」
 夏栖斗の宣言に、其れでも刃金は揺るがない。
 刃金を貫く2条の光弾は、虎美と嵐子。
 両の手の銃を構える虎美の心を過ぎるは感慨だ。初手で刃金の見せた高速連撃は、嘗て同じ様に放たれ彼女の目の前で仲間を串刺した。1対多で彼女達と互角に渡り合い、倒れた仲間の作ってくれた隙に付け込まねば倒せなかった強敵が、今再び眼前で技を振るう。
 また会えるとは思いもしなかった。目の前の敵を殺せはしても最終的には失敗となった手痛い作戦失敗は心に焼き付き残っている。けれど其の痛みが彼女を強く育てたのだ。
 一方、嵐子は怒りを覚える。その怒りは刃金に対してではない。ミヤビに対してでも、火吹に対してでも。嵐子は彼等に因縁を持たない。だからこの状況になった所以にも共感はしにくいだろうし、そもそも彼女は大抵の事は「ふーん」と平然と流してしまう。
 しかしそんな彼女が怒りを覚えたのは、この状況を実験と称し安全な場所から観察する者達に対してだ。
 そしてそんな彼女達の思いを知ってか知らずか、イスカリオテの放つ神気閃光が、まるで思いごと塗り潰すかの様に再び場を白に染めた。


 次なる刃金の変化は切っ先を持たぬ剣。カーテナ、クルタナ等と呼ばれる英国王家に代々伝わるクラウンジュエル、慈悲の剣を模倣して作られた、刃金の冒涜の魔剣『魂砕き』。皮肉にもフェーズ2で解放されている形態の中では、リベリスタ達にとって最も有功打を放ちえるのはこの形態だ。
 刃金が其の形状を変えると共に、ミヤビが己が捕らわれた縛鎖を逃れ、そして快が出血と毒と炎に身を焼かれて崩れ去る。
 先程、朱子のブレイクフィアーを待つ為に敢えてリベリスタ達の行動の最後に行われたクリスの天使の歌も、致命に侵された快の身体を癒す事は出来ていなかったのだ。
 己が運命を天に捧げて、砕けそうな膝に力を込めて何とか踏み止まる快を尻目に、刃金は己をブロックする敵の一人、先程熱い言葉を投げ掛けて来た愛しい怨敵に向かい、彼が放ちうる最強の技『妖しの刃』を繰り出す。
 敵の防御の一切を無視するその技は、けれども魂砕きの能力で夏栖斗の身体は傷つけずに、その代わりに決して多いとは言えない精神の力を、彼の魂を一撃の下に砕き去る。
 其れは夏栖斗にとって致命的で、尚且つ決定的な一撃だ。精神を砕く其の一撃の前では運命を対価に耐える事すら許されない。運命を消費すれば身体は最低限の賦活を得、意思の元に再び動く。だが運命は精神の力を取り戻してくれる事はしないのだ。
 崩れ、戦闘不能に陥った夏栖斗に、ミヤビの、火吹の視線が注がれる。其れが示す物は明確な殺意。特にミヤビにとって夏栖斗は黄泉路の道連れに望むならこれ以上は無い存在だ。
 戦いの中想いをぶつけ、交わしたい言葉もあった。けれど忌々しく小賢しい縛鎖に、何らやり取り出来ぬまま求めた夏栖斗は沈んでいった。ならばせめて黄泉路の連れ合いとする以外に報われる術はないではないか。
 しかし、夏栖斗の危機に動いたのは敵ばかりではない。『まったく、誰が死んでも死人如きに釣り合わない』と、このビルへ到着する前に呟いたユーヌの目的は仲間全てを絶対に生きて帰す事。そんなユーヌと、仲間の危機にも、……否、危機だからこそクールに自らが果たせる役割を冷静に果たすウルザの、二人掛かりの呪縛が再び、怨嗟の声を上げるミヤビの身体を封じて縛る。ミヤビが暴れれば暴れる程に食い込む気糸。
 だがその次に動くのは、矢張り火吹だ。彼が解き放つは殺意。嘗て彼の異名であった、火吹の代名詞とも言うべき彼の必殺技。意識を失った夏栖斗に向けた指を鳴らして叫ぶ、
「ヴォルケイノッ!!!」
 リベリスタ達が、以前に体験した其れよりも遥かに強力な炎の渦が、天から、地から、噴き出て夏栖斗を中心とした空間の全てを余す所無く埋め尽くす。
 其れは黄泉路の道連れとなる友に対しての弔いの火葬。意識を失い、神秘の力で其の身を守る、最低限の防御すら出来ぬ身で喰らえば、骨すら残さず灰と化す勢いの火勢。
 荒れ狂い、ビルの表面を溶かし、リベリスタ達に多大な被害を与えて消えた其の炎。けれども、其の中心で夏栖斗の身体は未だにその形を保っていた。
 夏栖斗が燃え尽きず、命を失う事も無く、其の炎を潜り抜けれた理由は、彼に覆い被さる一人の影、そう、パーティの守護者にして彼の相棒でもある新田快が其の身を挺して炎を受け止め切ったからだ。
 先程運命を対価に踏み止まった際に呪縛を逃れた快。勿論復帰したばかりの其の身体で炎を受け止めれば耐え切れよう筈が無い。もし庇わずに、炎を何とかやり過ごしてクリスからの回復を受ければ長く戦い続けることも可能だったかも知れない。
 でも、それでもだ。快の冷静に戦況を分析する頭脳も、快の秘める熱い心も、出した答えは同じく一つ。「友を救え」だ。
 きっと、恐らく、まだ彼等の後には砂蛇との戦いが控えているだろう。だから、「命の賭け所は、ここじゃない」。それに何より、掛け替えの無い友の命を失ってしまうならば、例え一つの戦いに勝利した所で其の勝利には何の価値もありはしない。そんな事は、リベリスタ達から相良雪花の奪取に成功しながらも、火吹を失い迷い果てた砂蛇の例を見るまでもなく明らかなのだ。
 この戦いを、勝者の居ない戦いにしてはならない。


 キャストを減らし、戦闘は徐々に加速を始める。
 細腕に見合わぬ腕力で二人を引っ掴んで引き摺り、屋上階段へと駆けるイスカリオテ。滅多に形を崩さぬ笑みの張り付いた唇が、今はきつく結ばれ彼の中に静かに燃える怒りを表す。
 逃げる獲物に咄嗟に後を追いかけそうになる刃金の眼前に立ちはだかり、掌打の一撃を繰り出すマリーと、虎美のWingerとRising Force、嵐子のサンダラー、合計3丁の銃より複数の光弾が弾幕の様に放たれ刃金の足を食い止める。
 掌打とぶつかり合い、光弾を切り裂いた刃に、ビシリと大きな亀裂が入った。
 クリスの天使の歌が、火吹の攻撃で受けた多大なダメージを少しでも取り戻し、立て直しを図らんとリベリスタ達の身体を癒す。
 そして遂に、朱子が火吹の前に立ちはだかった。
「お前たちの事は残念に思ってたんだ。……私が殺すことができなかったから」
 朱子の口から漏れる其の言葉は呪いの様な憎しみに満ちており、
「砂蛇とは地獄で会え、すぐに全員送ってやる」
 けれども、だからこそ、火吹はその朱子の言葉を鼻を哂う。朱子の憎しみの源を火吹は知らない。知る心算も無い。けれど、其の程度の憎しみなら幾度と無く向けられて来た。
 いや、もっと弱かった頃は憎む側だった事もある。弱く、頼りも無く、周囲に憎しみを撒き散らしながら生きる事しか出来なかった自分は、あの時砂蛇が其の憎しみに興味を抱き手を差し伸べて来たからこそ、奪い、憎まれる側へと回ったのだ。
 弱ければ憎みながら生きねばならない。憎むのが嫌ならば、奪う側に回らねばならない。
 弱さこそが罪なのだ。故に今、自分達は苦しんでいる。この苦しみから逃れるためには、奪うしかない。
 数多の怨嗟に浸かって生きて来た彼等は、憎しみを向けられた程度では今更興味を示す事も無い。
 あの時、其の憎しみに興味を抱いた砂蛇の手を振り払った朱子に対しては、尚更に。
 朱子の振るう剣に、火吹の炎が揺らめく。

 再び刃金が姿を変える。次なる姿は刀、裏野部の残虐なる『狂人』血蛭・Qの為に刃金が鍛え上げた、傷つけた相手の生命を吸い取り己が物とする『妖刀・血吸い蛭』。
 だが其の変化は刃金の積み重ったダメージが危機領域に突入した事を示している。
 その人食いの刃から繰り出されるは多重残幻剣。高速移動により作られる残像が、対象を惑わす幻惑の武技が生み出す多数の幻影が、マリー目掛けて刃を繰り出し、其の影に紛れて本命の一撃が彼女に向かって放たれる。
 其れは刃金にしては弱気な一撃だった。削られた耐久を回復する為の、謂わば攻めでは無く守りの一撃。確実に命中させて血を啜る為に選択された幻惑の剣。
 しかしマリーは加護で得た翼をはためかせ、刃では無く敢えて影を見据えて其処から理想の形で繰り出される剣を想像し、刃金の高速の剣に対して反応してほんの一歩だけ後退を成功させる。彼我のスピードが違い過ぎ、それ以上の回避行動をとれぬ彼女だったが、其の一歩の距離が血吸い蛭の刃にマリーの胸を浅く裂かせるに留まらせた。
 血吸い蛭の刃が本物ならばそれでも問題は無かったのだ。傷付けた相手を喰らい、啜る魔性の刃はどんな小さな傷からでも其れに応じた吸収を行ってくれるから。
 けれど刃金の力でコピーした其れは、クリーンヒットせねば血を吸えないデッドコピー。
 狙い外された衝撃につけ込む様に、
「君は危険だ……慄け、妖刀!」
 ウルザの放った神気閃光、聖なる光が辺り一帯ごと刃金を完全に捉えて焼き払う。
 ショック状態に陥り、動きを鈍らせた刃金に、追い討ちとばかりに今度はユーヌの陰陽・星儀が。
 追い詰められる刃金に、けれども火吹がそう簡単には刃金を討たせまいともう一度獄炎を呼び出しリベリスタ達を薙ぎ払う。
 其の強すぎる火勢に、守り手を失った孤独の癒し手、クリスの耐久が限界を迎えて運命を対価にしての踏み止まりを余儀無くされる。
 しかし、しかしだ。もはや、刃金の運命は決していた。
 舞い戻ったイスカリオテの神気閃光が、プロストライカーによって増した命中力を活かして真芯からぶち当たった嵐子の、弱り行く刃金の姿に嘗ての戦いをフラッシュバックさせた虎美の、二人のスターライトシュートが、マリーと対峙する刃金に次から次へと突き刺さっていく。
 そしてクリスの天使の歌が響き、朱子のブレイクフィアーが炎の残滓を拭い去る。


 遂に崩壊の時がやって来た。
 せめて後一撃、心残りなく逝く為にも、最後の、そして過去最高の一撃をと足掻く刃金の姿が、大鎌、戦斧、更に刀へと目まぐるしく変わる。
 それはフェーズが進まねばコピーし切れぬと判断した、離魂の鎌、全てを薙ぎ払う伸長の巨斧、そして刃金の最高傑作、相手の硬度が増せば増す程に切れ味を増す斬鉄の『刃金』。
 しかしビシリと其の刀身に大きな亀裂が入り、耐久度の限界を迎えたにも関わらずに振るわれた其の刃は、其処に載せられた刃金の魂ごと、空中で粉々に砕け散る。
 最高の一撃を、其の軌跡を、夢見たまま刃金の自我も、魂も、粉々に砕けて風に舞う。
 後には何も遺さぬ其れは、死ですらなく消滅。
 ……けれど、戦いはまだ終っていない。寧ろ、此処から更に地獄は深まる。

「うざったいわ……。調子にのってんじゃないわよっ!」
 縛鎖に捕らわれ動けぬまま、刃金の消滅を目の当りにしたミヤビの瞳が、人から蛇の其れへと変化する。
 噴出すオーラで体を縛る気糸を弾き散らし、ミヤビは遂にフェーズ3へと堕ち、崩壊への段階を進めてしまう。
 リベリスタ達相手に先手を取り続けた刃金が消えた為、最速となったのはユーヌとウルザの呪縛チーム。
 しかし放たれる幾重もの呪印の檻を、周囲に展開された気糸の罠を、フェーズを移行させて能力の全てを増大させたミヤビは、難無く潜り抜けて無効化する。
 そして、そんな彼女の蛇身が、彼女を中心に円を描いて紋様を描き……不意に、ミヤビの腹がまるで妊婦の様に膨れ上がった。
 勿論動くのはミヤビだけではない。刃金を失い、連携を立たれた火吹に残された戦い方は唯一つ。ただ只管に己が持てる最大火力をぶつけ続ける事のみだ。
 再び吹き荒れる炎に、クリスを庇ったイスカリオテが限界を向かえ、
「未だ我が悲願は成らず。終わる訳には、行きません」
 矢張り運命を消費して崩れそうな膝を何とか支える。
 全てを知る。其れは何と傲慢で我侭な願いだろう。けれども、其れがイスカリオテだ。彼は裏野部的であり、六道的であり、黄泉ヶ辻的でもある……異質なリベリスタ。
「貴方にとってはさぞ冒涜的な光景でしょう来なさいヴォルケイノ。簒奪者ならば此処に居る」
 そして放たれるは、彼等砂蛇を知る者にとっては馴染み深く、そしてイスカリオテが彼等に憎まれる其の最大の所以、簒奪した必殺技『灼熱の砂嵐』。
 けれど火吹は身を貫く灼熱の砂の嵐に、唇を歪ませ嘲り哂う。
 其の技を見せ付けられて、悔しくない訳が無い。だが火吹の、ミヤビの、刃金の戦いは、彼等の犠牲は、其の技の本当の主である砂蛇へと続く戦いであり犠牲なのだ。
 其れを思えば、今一時の怒りに飲まれはしない。
 砂を浴びた火吹に対して、嘗ての、勝者の居なかった戦いで唯一人倒れる事なく立ち続けた虎美と、今回の敵の中で火吹を一番危険視し、そして炎による仲間達の惨状に自分の直観が間違っていなかった事を確信する嵐子が、刃金に対しては敢えて封印していた本来得意な物理による銃撃を叩き込み始める。
 先程まで、徹底して火吹が攻撃の狙いから外されていた理由は、彼が持つ特殊能力『炎の刃』だ。受けたダメージにより攻撃力を上昇させるこの能力を警戒し、火吹への攻撃は避けられていた。攻撃するならば、可能な限りダメージを集中して、一気に削りきらねばならない。
 だがそれは、短い時間ではあれど火吹の危険度が加速度的に進行する事を同時に意味する。削り切れるか、それとも膨れ上がった火吹の脅威に一気に飲み込まれるのか。
 圧倒的な火勢の前に足りぬ事は悟りつつも、それでも響き渡るは天使の歌。必死さすら感じる表情で想いをのせ、喉も裂けよと言わんばかりに加護を願うクリス。
 なぜそこまで出来るのか? オーラを込めた剣を振るい、朱子は思う。
 理解が出来ない。彼女にとっての砂蛇は、火吹にとっての砂蛇とは違いすぎるから。
 そんな姿になってまで何故戦うのか?
 手を振り払った者と手に縋った者、想いも、見える物も、何もかもが真逆で交わらない。
 だが其れで良いのだろう。彼女にも掛け替えのない大事な人はいる。わだかまり無く思いを同列で図れば、答えが見える事もあるかもしれぬ。
 けれどそんな事に意味など無い。相手の気持ちを知れたとて、振るう刃の速度が鈍る以外の事象は起きないのだから。
 朱子が自分の大事な人への想いや絆を、砂蛇と火吹の間の其れを同列の位置で測る事など在り得ない。
 何故なら砂蛇も、火吹も、憎むべきクズであり、朱子はそのクズを狩る者なのだから。
 それは火吹にとっての朱子も同じ事。火吹にとっての朱子は、ただの、その他大勢の敵の一人、憎しみを撒き散らす、奪われる立場から抜け出れぬ愚者に過ぎない。
 2人の想いは交わらず、ただ剣と炎が交じり合う。

 そして、遂にマリーが火吹の前に立ちはだかった。


 腹の膨らみは胸へ、喉へ、そして大きく裂けた口から、ずるりと蛇が、明らかにミヤビの体内には収まり切らぬ筈の質量を持った大蛇が、一匹這い出して牙を剥く。
 己が生み出した大蛇を抱き締め、ミヤビが啼く。
「坊や、坊やは何処なの? 貴方の彼女を私は削いで削いで削いで、少しずつ食べるわ。そして泣き顔の貴方も、私は、私は、私は、食べたい。食べたいわ。貴方を、貴方を、貴方を、美味しい貴方を、齧って齧って齧って、呑んで、舐めて舐めて、しゃぶりつくして齧りつくして、……嗚呼、食べるのよ」
 吐息は、切なげに、狂おしげに。
 夏栖斗をもう坊やと呼ばぬと決めた事すら忘れた其れは、最早ミヤビと呼べる代物ではない。彼女の抱く歪んだ想いに、同種食いの白蛇の意識が表在化して混じり、別種の化け物が生まれつつある。
 強い自我を持ったミヤビでさえも、異種としてのフェーズ3には崩壊を免れないのだ。
 けれど、ならば何故、同じ異種として、寧ろ仲間達よりもずっと早くフェーズ3に移行して置きながら、火吹は理性の崩壊から尚程遠く在れるのか。

 其れは嘗て、1人の少女がとあるアーティファクトに願った想い。
 万能に願望を叶える様に見せかけ、ただ虚像で騙すアーティファクト『願いかなう星』に、マリーは火吹の姿を願った。
 其れは幻、其れは虚像。其れ単体では何ら意味を成さぬ、マリーの願いの結晶。
 宙に消え去った其れは、其れでもマリーには火吹として認識されていた。マリーによって生み出された火吹と言う概念は、既に在った火吹の魂と呼ぶべき高位概念に混じり、彼を補完した。
 火吹が、崩壊に向かって近付きつつあるのは変わらない。マリーが生んだ火吹は、ただ少しばかり火吹を火吹として強めているに過ぎない。
 其れは歪めずとも起こされた奇跡。
 火吹の崩壊は変わらない。彼が敵である事も変わらない。
 ただ一時、彼女と彼が向かい合える時間を作っただけの奇跡。

「私を覚えていてくれたろうか」
 マリーの言葉に対峙する火吹の表情が歪む。
 其れは彼にとって待ち望んだ瞬間であり、同時に最も避けたかった瞬間なのだ。
 火吹が死んだあの時の再現。
 彼女の想いを知らなければ、あの日あの時のあれはただの気の迷い、自分の弱さだったとして吹っ切ることが出来たのに。
 魂に混じるマリーの想いが、火吹の、既に無い筈の心臓を鷲掴みにして離さない。想いを知る知らないどこではないのだ。彼女の気持ちは、彼の中に根付いてしまっているのだから。
 火吹には、マリーを殺す決断が出来ない。

 なのに、戦いは激しさを増して加速していく。
 ダメージに火勢を増して吹き荒れる炎に、嵐子、虎美、そして朱子やマリーまでもがフェイトの消費を余儀無くされ、更にダメージの色濃く残っていたイスカリオテが完全に力尽きて倒れ伏した。
 ユーヌとウルザは火吹の火炎の射程外に居た為難を逃れこそしている物の、更に配下を産まんとするミヤビを食い止める事が出来ていない。
 ミヤビが増殖を優先させた為狙われなかったイスカリオテを朱子が運ぶ。
 吹き荒れるハニーコムガトリング。嵐子と虎美の二人掛かりの無数の銃弾が、大蛇を、ミヤビを、火吹を飲み込むが、足りない。
 足りない足りない足りない足りない足りない。
 まだ足りない。どうしても足りない。あと少し、あと少しが足りない。
 時間が、流れる。


 火吹の懐へと踏み込む、否、飛び込むマリー。
 既に随分と耐久度を削られ、しかし逆に最大限にまで高まった火吹の火勢は、放たれれば傷付いたマリーを一撃で吹き飛ばす事が出来る程に育ち切っている。
 近付くだけでマリーを焼く火吹の、炎の身体。
 けれど、……否、矢張り、火吹は攻撃を放たなかった。迫るマリーの一撃を前に、避ける素振りすら見せず両の手を広げる火吹。
 あの時は迷いから。でも今度は自分の意思で。
 戦いの中で、何も残さず燃え尽きる覚悟は出来ていた筈なのに、未練ばかりが心を過ぎって仕方ない。其の末がこの甘い結末だ。
 体の芯に、マリーの掌打が突き刺さる。
 なのにこんなにも満足なのは、そう、こんな身体でも彼女は腕を回し、抱き締めてくれる事を予感していたからに他ならない。
 思えば、自分達は皆飢えていた。奪う事でしか飢えを満たす術を知らなかったのだ。
 砂蛇ですら与えてはくれなかった。彼はただ、奪い方を教えてくれただけ。
 砂蛇はきっとこの結末を、反吐が出るほど甘いと吐き捨て、其れでも好きにしろと笑うだろう。
 与えられると言う事を想像した事も無かったが、身を包む満足感に、死への恐怖が募る。
 消えたくない。炎の自分よりも熱い、この身体の柔らかさに包まれていたい。 
「もう居ないのと、また居なくなってしまうのではこんなにも違うものなのか」
 けれど火吹が粘れば粘るだけ、彼は彼女を傷つける。
 贅沢なのだ。在り得ないのだ。本来この様な事はあってはならない。
 充分だ。満足だ。幸せだ。
 だから……、抱き締める先を失ったマリーの、焼け焦げた両腕が、自身の体を抱く。


 けれど余韻に浸る暇は与えられなかった。
 降り注ぐは閃光。ミヤビの放った神気閃光に、朱子が、虎美が、嵐子が、そしてマリーが、其の身体より力を失い地に伏せる。
「食べるわ。食べるわ。食べるわ。食べるわ。貴方を、貴女を、彼方を、皆、皆、うふふふふ。呑むわ。丸のみに、子供を産むの。もっと、増やして皆食べてうふふふふふふ」
 肉の焼ける臭いに、其の豊かな胸元まで涎を垂らし、嘗てミヤビで在った者が笑う。
 生み出された配下のフェーズ2に、ウルザが、ユーヌが苦戦を強いられている。
 幸い理性を失いつつあるミヤビからなら逃走が成功する目も無くは無い。

 生き残り達の頭にそんな考えがチラリと過ぎった時、けれど覚悟を心に決めたクリスが一歩進み出た。
 解き放つは運命。願うは癒し。
 彼女は、恐らくずっと悔しかったのだろう。今回だけではない。何時だって、敵からの攻撃は彼女の癒しを上回り、彼女の仲間を傷付け奪って行く。
 特に耐久に優れる訳でもないが、最重要の駒として庇われ続け、最後まで立ち続ける事も多い。其れが一体どれだけの苦痛で、どれほどの悔しさか。経験せぬ者には判らぬだろう。
 其れでも、其れでも彼女は癒しを願う。癒す事が、彼女の戦い。
「燃え上がれ、私の運命よ!」
 クリスの宣言に、彼女の体が光を放つ。眩く、なのに優しい光。其れは癒しを願う彼女の心。
 運命すらも歪めて曲げる彼女の強い覚悟と願いが、傷付いた、或いは倒れ伏して動けぬ仲間達の身体に浸み込んでいく。
 立ち上がれ。立ってくれ。もう一度、其の足で。
 掛け替えの無い仲間達よ。
 ……其れは真なる運命の恩寵、歪曲運命黙示録。

 クリスを襲う強烈な虚脱感に、彼女の膝が地を突く。
 視界が霞み、感じた事の無い喪失感が彼女を襲う。けれどクリスの微笑みが向かう先は、ゆっくりと体を起こす仲間達の姿。
 癒し、癒し、圧倒的な癒し。限界を超えて注ぎ込まれる力の奔流に、立ち上がるリベリスタ達の身体から溢れた力がオーラとなって漏れ出て行く。
 湧き上がる活力に目を輝かせ、夏栖斗が、快が、イスカリオテが、自らの足で戦場へと帰ってくる。
 朱子が、虎美が、嵐子が、マリーが、手に武器を握り直して構えを取る。
 ウルザが、ユーヌが、撤退を覚悟していた彼等が心に再び希望を宿す。
 体だけでなく精神も、それどころか消耗した筈の運命ですら分け与えられたリベリスタ達。

 だが其の対価となったのは決して軽い物ではない。
 身に宿した運命の殆どを燃やした影響か、彼女の唇は罅割れ、其の顔には濃い隈が、……いや、死相が浮かぶ。
 言葉どころか呻きすら発せぬ疲労感。だがそれでも、クリスはもし口を開ければ言っただろう。
「戦友を救えるのなら安い対価だ」
 と、きっとそう言っただろう。
 敵の滅びでは無く仲間への癒しを願う。彼女こそが、正に癒し手。クリス・ハーシェルこそが、癒し手だ。
 最早動けぬ彼女を護る様に、彼女の命を懸けた信頼に応じんと、並び立つ戦友、仲間達。









 光が走り、銃弾が舞う。怒声を砂嵐が包み込み、牙が守り手を貫く。けれど空間に満ちる力が動けぬ癒し手の意思の代わりであるかの様に守り手の傷を癒し、糸が蛇を絡め取る。
 刃が振るわれ、血飛沫が舞う。産み出されたフェーズ2の存在もあり、戦いは長く続いた。
 それでもやがて……、ミヤビの胸を炎に包まれた手刀が貫く。
「おやすみ」
 嘗てと同じ、人を殺す感触。言葉を理解する知能を失ったミヤビに投げ掛けられた離別。
 だが其れは救い。リベリスタ達が逃げていれば、六道に実験動物として切り刻まれていたであろう彼女にとっての救い。
 こぼれたなみだはひとしずく。

 長く続いた戦いの、登場人物から蛇足と称された舞台の、幕が下りる。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 MVPは最高の癒し手に。

 歪曲も適切な条件設定と心情を備えていました。
 毎回縁の下で支え続ける彼女。
 文句なしのMVPだと思います。


 全体的に、命を大事にして下さってたのが嬉しい限り。
 心残りがあるとすれば、刃金の7武器を見せ切れなかった事ですが、見せれてたら其れは其れで拙かった気もしますし、其のうち出せると良いなあ。

 ただ一つ、気になった事は歪曲に関してです。
 最近歪曲の文字を良く見かけますが、歪曲は死ぬ気で頑張るの代わりに使う言葉ではないと思います。
 気持ちは良く判りますし、嫌いじゃないですけどね。
 リベリスタなら歪めて曲げずとも、起こせる奇跡もある筈です。

 勿論、起こしうる条件での覚悟を決めた歪曲は素晴らしいですよ。

 

 ともあれ、3人のお相手ありがとうございました。
 長いリプレイになりましたが、お気に召したら幸いです。