● 煌々と降り注ぐ月明かりの下、3つの人影が空を見上げている。 「アタシ等だけなら兎も角、火吹ちゃんまで使い捨てにするなんて、少し意外だったわぁ」 「然り。『剣身一体』は極致だが、この様では素直に喜べんな」 平然とした風を装って軽口を叩く二人だが、其の言葉の端には隠し切れない苦痛の色が滲んでいる。 「…………匡め」 火吹は小さく呟き、自我を焦がし続ける痛みを誤魔化すかの様に口付けた酒瓶を傾けた。 けれども其の中身は喉へと届く前に揮発してしまい、ただアルコールの香りだけが鼻孔を抜けていく。 火吹の口から炎の如く熱い吐息が漏れる。 火吹、刃金、ミヤビらが意識を取り戻した時、其の身は既に異形と化していた。 神秘に親和する何某かを媒介に外道を為す『尸解仙』。 到底『復活』とは呼べぬその外法。死者たちの下ろし先に選ばれたのは、同種を喰らう白蛇、妖刀と成るべく鍛えられた刃、妙なる地で永く燃え続けた炎。其々が其のままならば何れ革醒し、エリューションとなってもおかしくない素材達。 稀な事ではあるのだが、死した三人の、或いは四人の『魂』とも言うべき高位概念が悉く『比較的良好』な形で残っていたのが幸運、……否、不運だった。 三人の嘗ての仲間であった匡が『賢者の石』の入手に成功してしまったのも、不運な出来事に追い討ちをかけたと言えるだろう。 死者の黄泉還りを目的とする『尸解仙』は神秘の秘奥。 良識からの逸脱、入念な準備と莫大なコストを必要とし、更には多大なリスクすら伴うとするこの秘術は、されど真の意味では何も生み出しはしない。 更に本来ならば漠然としたエリューション・フォースとして生み落とされる筈だった彼等は、『裏野部』に数億単位の金に加え、今回の実験や賢者の石のデータを要求した『六道』の協力で『中途半端に受肉して』ここに在る。 だが其れは最悪だった。 確かに力は強くなった。けれど其の強くなった力こそが彼等を内からじくじくと喰らう。 彼等は生きても死んでもない。 生の喜びは無く、死の安寧も無い。永遠に生き腐れ、死に続ける。 まるで呪われたかの様に。 もし彼等を呼び戻したのが砂蛇であれば、例え其れがどの様な形であれ三人はそれを幸運と喜び、再び砂蛇の下で力を振るっただろう。 元々彼等は好き勝手に他人を押しのけ、我を押し通す生き方を選んだ者達だ。 他人を殺して全てを奪い、自分が死ねば何も残らない。そんな塵の様な世界で生きて来た屑達なのだ。 だからこそミヤビは刹那の快楽を追い求め、刃金は自らの分身とも言える武器の数々を遺す事に拘った。 火吹とて二人とどれ程の違いがあるものか。あのチームの中で唯一先を見据えていたのは砂蛇だけだっただろう。彼等の生き方を理解し、それでも尚且つ先を見据えて彼らを率いた。故に黄咬砂蛇は彼等の頭足り得たのだ。 そんな彼の下であれば、先の無い身に怯えを感じる事も無かったと言うのに……。 しかし其の砂蛇も、もう居ない。 彼等3人を実験の為に呼び戻したのは、賢者の石を入手した岩喰らいの匡だ。 「匡ちゃんも随分かわっちゃってたわねぇ」 「鈍らが砥がれただけだ。奴は元々我等の誰より強かった。我等の誰よりも甘かったがな」 匡の名を口にする度、二人の瞳には暗い光が宿る。 勿論、最も悪いのは力の足りなかった自分達だ。 油断から、或いは色に狂い、もしくは女に見蕩れて無様に倒れた。 自分達が残された匡が追い詰められる原因を作ったのだ。 判ってる。 判っては居ても、身の内で苦痛が猛る度に、決して恨みたく等無い筈の匡への憎悪が積もって行くのを止められない。 強い風が、彼等の佇むビルの屋上を吹き抜けた。 「黄咬兄さんは『蛇に足は要らねえ』って言うんだろうなぁ」 それでも、刃金も、ミヤビも、そして火吹も匡への恨みをはっきりと口に出さない理由は只一つ。 匡の目指す先に居る者の為なら、仕方がないと心のどこかで思ってしまうから。 「奴は『裏野部』以外の全てを嫌っていたが、『六道』や『黄泉ヶ辻』は特に気に食わない様子だったからな。恐らく怒り狂うであろう事は想像に難くない」 三人の唇が笑みの形に歪む。 「匡ちゃんも大変ねぇ。あ、でも砂蛇ちゃんなら生き返る時にアソコおっきくしてあげたら意外と許してくれるわよ。匡ちゃんに教えてあげないと」 三人の笑いが屋上に響いた其の時、彼等が居るビルを取り囲む様にして六方向に立つビルの屋上に其々光が灯った。 天、人間、修羅、畜生、餓鬼、地獄。『六道』のフィクサード達が発動させた結界に、三人は己の崩壊の加速を感じ取る。 「折角盛り上がって来たのにせっかちねぇ」 夜目にも鮮やかな白い裸身と鱗に覆われた蛇の下半身をくねらせ、『virus』改め、E・ビースト『白蛇』のミヤビが呟く。 「鋼の身でも血が沸き立つ物なのだな」 ぼんやりとした影が刃を抜き放つ。そして『斬鉄』改め、E・ゴーレム『剣霊』刃金の声はその刃から放たれていた。 「煙草は吸う前に燃え尽きる。酒は喉まで届かない。この体じゃ美少女でも抱き締めたら焼け爛れるか炭になる。……超萎える。でも俺等は所詮この生き方しか出来やしない」 吹く風に、『ヴォルケイノ』改め、E・エレメント『イフリート』火吹の体が揺らめく。 彼等は自分達に施された実験の意味を知っていた。砂蛇のより良い形での帰還を求める匡と、戦力の拡充を求める組織の駆け引きの末に行われた実験の意味を。 「きっとアークも今頃事態に気付いてる頃ね。今回は一体どんな子が来るかしら? そう言えば約束もあったわねぇ」 自らの豊かな胸を持ち上げ、ミヤビは艶然と哂う。 「出来れば上等の贄が良い。塵を幾ら切った所で刃は育たんからな」 この期に及んで色気を撒き散らすミヤビに、武器の事が頭から離れぬ刃金。 結局彼等は変わらない。 先を見ず、他人から奪う事でしか何かを為せぬ下衆どもは、何一つとして変わらぬままに終ろうと必死なのだ。 「早く来なよ。アークのリベリスタ。お宅等にとっては蛇足も良いトコだろうけど、付き合ってくれよ。精々楽しませてやるからさ」 ● 「さて諸君、出撃だ」 集まったリベリスタ達に『老兵』陽立・逆貫(nBNE000208)は短く言い放つ。 「今回諸君等に語る事は然程無い。このエリューションに関しては恐らく諸君等の方が私より詳しいだろう」 放られた資料に記されているのは、嘗て戦った敵の名前。 「ターゲットのエリューション達が居るビルを取り囲むように立つ六方のビルに、『六道』と『裏野部』のフィクサード達が居るが此れは無視して構わない。奴等の目的はフェーズ進行の加速と其の観察だ。手は出してこないだろう」 E1:『剣霊』刃金 武器型のエリューション。分類するならE・ゴーレム。戦闘開始時はフェーズ2で、7ターン後にフェーズ3に移行。更にその8ターン後に砕け散り、半径100mの範囲内の全てに致命的なダメージを与える。 高い物理攻撃力と物理防御、速度が特徴。 刀を握り振るうのは刃金の影だが実体は無く、本体はあくまで刀。 刃金が嘗て鍛えた妖刀や魔剣等の呪われた武器7つの力の一部を、或いは弱化してコピーする事が出来、ターンの最初に其の武器へと変化し能力を使用する。フェーズ2の間は4つまでしか開放されていない。 Lv15以下で習得できるソードミラージュのスキル全てに良く似た能力と、『妖しの刃』と言う名の能力を持つ。 形態1:運命喰らい ナイフ型。この形態を取った刃金からの攻撃を100%ヒット以上で命中、或いはクリティカルで受けた者は残りフェイトと同じだけの追加ダメージを受け、更にフェイトを2点失う。 形態2:妖刀・血吸い蛭 刀型。この形態を取った刃金からの攻撃が100%ヒット以上で命中した場合、刃金は与えたダメージの半分のHPを回復する。 形態3:悪意の伴星 左右2本の短剣型。この形態を取った刃金は、左右で合わせて2回の攻撃を可能となる(一回の攻撃力は他の形態より劣る)。右の短剣での攻撃を喰らった場合、○○無効等のBS無効の能力を持つ者は一時的に(3ターンの間)、其の効果の恩恵を受ける事が出来ない。左の短剣での攻撃を喰らった場合、虚弱、圧倒、鈍化、猛毒、流血、業炎、氷結、雷陣、麻痺、不吉、混乱、呪い、致命、怒りの中から3つまでのバッドステータスをランダムに受ける。 形態4:魂砕き 無鋒剣型。クルタナを模した形態。この形態を取った刃金からの攻撃を喰らった者はHPにダメージを受けず、其のダメージ分EPが減少する。この攻撃でEPが0になった者は精神を砕かれ戦闘不能状態に陥る。 形態5~7は、フェーズ3になってから解放される為不明。 E2:『白蛇』ミヤビ 下半身が蛇の女性エリューション。分類するならE・ビースト。戦闘開始時はフェーズ2で、4ターン後にフェーズ3に移行。更に其の6ターン後には自我を失い、自らが従えるエリューション以外の敵味方の認識がつけられなくなる。 情報収集、情報隠蔽等の搦め手に長けた個体。 後衛型だったミヤビだが、ビーストとなる事で耐久力は大幅に増しており、牙や巻き付き攻撃等も可能になっている。 Lv15以下で習得できるホーリーメイガスのスキル全てに良く似た能力と、その他に3つの独自能力を持つ。 能力1:隠蔽結界『孤』 このエリューションを含む、半径30m以内にいるエリューションの情報を隠蔽する常時発動能力。 能力2:情報収集『独』 ターンの頭に自動発動し、対象一人の全てのデータ(最大HPや現在HPから、フェイトの残量まで)を解析する。 能力3:ウロボロスの輪 このエリューションのフェーズを下回る(ミヤビの初期段階ではフェーズ1のみ)、エリューションを生み出して従える。 ただし生み出すエリューションのフェーズと同じだけの手番が必要となる(フェーズ1なら1手番消費、つまり毎ターンも可能) E3:『イフリート』火吹 炎の身体を持つエリューション。分類するならE・エレメント。戦闘開始時から既にフェーズ3。 バランス良く能力が高い。 Lv15以下で習得できるマグメイガスのスキル全てに良く似た能力と、その他に3つの独自能力を持つ。 能力1:炎の身体 このエリューションに対して近接攻撃を行った者は、100点のHPを失う。 能力2:炎の刃 受けたダメージに応じて攻撃力が上昇する。 能力3:ヴォルケイノ 遠距離全体神秘攻撃。獄炎、必殺付き。 「諸君等の健闘を祈る」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:らると | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ EXタイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年02月04日(土)23:53 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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