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<三ツ池公園特別対応>幻影乱舞

●異界より出でしは
 この世界に辿り着いて初めて見たものは、眼下に広がる水と、それを囲む緑だった。
 既に不毛の地と化した故郷に比べて、なんと色鮮やかなことよ。

 蝙蝠の翼を大きく広げて、上空へと羽ばたく。
 生命に溢れた世界。色鮮やかな美しい世界。素晴らしい。
 それを打ち砕き、全てを幻にしてしまうのは、さぞや愉しかろう。

『かたち在るものは、儚く消えるがゆえに味わい深いものじゃ――』

 お前たちも――そうは思わぬか?

 ぬらぬらと妖しく光る蛇の尾の周りを、使い魔たる蝙蝠や鴉たちが舞う。
 異形の魔女は殺戮の予感に打ち震え、恍惚とした表情を浮かべた。

●黒き幻影の紡ぎ手
「今回の任務は、三ツ池公園に現れたアザーバイドの撃破」
 アーク本部のブリーフィングルームに集まったリベリスタ達を見て、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、いつも通り淡々とした口調で説明を始めた。
「みんなも知ってると思うけど、あのあたりは『閉じない穴』の影響で不安定になってる。強力なアザーバイドやエリューションが、多く見つかるようになった」
 昨年12月、ジャック・ザ・リッパーとの決戦を経て『閉じない穴』を抱えることになった三ツ池公園。現在、公園一帯はアークの管理下にあり、危険なアザーバイドやエリューションが外に出ないよう、常に警戒に当たっている。そういったものが現れた時、それを倒すのはアーク所属のリベリスタの役目だった。
「アザーバイドは『幻影の魔女』。下半身が蛇、背中にコウモリの翼が生えてて、空中から強力な神秘攻撃を連発してくる。それだけでも厄介だけど」
 まだ何かあるのか、と問うリベリスタに、イヴが頷く。正面のモニターに、今回の敵に関する詳細なデータが映し出された。
「『幻影の魔女』は『使い魔』と呼ぶアザーバイドを連れてる。カラスが二体、コウモリが二体の合計四体。この『使い魔』を先に倒さない限り、『幻影の魔女』には傷ひとつつけられない」
 つまり、『使い魔』を全滅させるまで『幻影の魔女』から一方的に攻撃を受け続けることになる、ということだ。
「アザーバイド達は、公園内の『滝の広場』にある池にいる。空中を飛んでて、しかも自分から敵に近付こうとしない。近接するなら、こちらも飛ぶ必要がある」
 色々と制約は多く、困難な任務には違いない。だが、これだけの敵を放っておくわけにはいかないだろう。
「……長期戦になった場合、かなり厳しくなると思う。勝てないと判断した時は、すぐに撤退して」
 イヴはそう言って、ブリーフィングを終えた。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:宮橋輝  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 4人 ■シナリオ終了日時
 2012年01月28日(土)23:59
 宮橋輝(みやはし・ひかる)と申します。

●成功条件
 全アザーバイドの撃破

●敵
 アザーバイド『幻影の魔女』と、その使い魔4体。
 『幻影の魔女』は女性の上半身に蛇の下半身、背にコウモリの翼という姿をしています。
 高い知性を持っているため、戦いとなれば使い魔たちを自在に操り、効率良く敵の戦力を殺ぎにかかるでしょう。
 なお、4体の使い魔を先に全滅させない限り、『幻影の魔女』には一切のダメージ・バッドステータスが無効です。

■幻影の魔女
 【幻影の黒蝶】→神遠複[必殺][呪縛]
   無数の黒い蝶の幻影が飛来し、ダメージを与えると同時に動きを封じます。
 【幻影の黒霧】→神遠全[魅了][呪い][死毒](ダメージ0)
   周囲を黒い霧が包み、敵全体に様々な影響を及ぼします。

  ※『飛行』『絶対者』『タワー・オブ・バベル』のスキルと同等の能力を所持。
  
 ≪重要≫
  使い魔を4体全て倒さない限り、一切のダメージを与えることができません。

■使い魔(カラス)
 【幻影攻撃】→物遠単[弱点]
   空中からカラスの幻影が襲いかかり、鋭い嘴で攻撃します。
 【鳴き声】→神味全(HP回復)

  ※『飛行』のスキルと同等の能力を所持。

■使い魔(コウモリ)
 【幻影吸血】→物遠単[H/E回復][出血]
   空中からコウモリの幻影が襲いかかり、吸血を行います。
 【超音波】→神味全(BS回復)

  ※『飛行』のスキルと同等の能力を所持。

●戦場
 三ツ池公園にある『滝の広場』周辺。一般人が来ることはありません。
 人口の滝と池があり、池に向かってデッキがせり出しています。
 敵は全て池の上を飛行しており、自分から敵に近接することはありません。
 飛行状態でない限り、近接攻撃を仕掛けるのは難しいでしょう。
 (なお、『幻影の魔女』は初期位置から移動しません)

 情報は以上となります。
 皆様のご参加を心よりお待ちしております。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
クロスイージス
鈴懸 躑躅子(BNE000133)
ホーリーメイガス
七布施・三千(BNE000346)
マグメイガス
ウェスティア・ウォルカニス(BNE000360)
クロスイージス
ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)
ソードミラージュ
富永・喜平(BNE000939)
ソードミラージュ
レイライン・エレアニック(BNE002137)
マグメイガス
宵咲 氷璃(BNE002401)
プロアデプト
ジョン・ドー(BNE002836)
■サポート参加者 4人■
デュランダル
宮部乃宮 朱子(BNE000136)
ソードミラージュ
リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)
ソードミラージュ
鴉魔・終(BNE002283)
ホーリーメイガス
エリス・トワイニング(BNE002382)

●滅びの幻
 蝙蝠の翼をゆっくりと羽ばたかせ、『幻影の魔女』は悠然と地上を見下ろしていた。
 さて、この世界をどのように打ち砕いてくれようか――。
 思考に思考を重ね、破壊と殺戮を実行に移していく時、彼女は悦びを感じる。

 鴉の姿をした使い魔の一体が、小さく鳴き声を上げた。
 見ると、この世界の住人と思しき者たちが、こちらへ近付いて来る。
 ――ならば、手始めにあの者らから砕いてやるとしよう。
 『幻影の魔女』は、艶かしい唇に薄い笑みを浮かべ、使い魔たちに呼びかけた。

「気付かれたようだね」
 『終極粉砕機構』富永・喜平(BNE000939)が、眼帯に覆われていない左目で『幻影の魔女』の周囲に使い魔たちが集うのを見る。『幻影の魔女』にとって、使い魔は己の身をあらゆる攻撃から守る盾に等しい――迂闊に前に出すような愚は犯さないということか。
 彼我の距離は、まだ20メートルを超えている。相手が動かぬなら、事前に力を高めた上で飛び込んだ方が良い。意思を持つ影を足元から伸ばす喜平の隣で、『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)が己を中心に幾つもの魔方陣を展開していく。七布施・三千(BNE000346)が、仲間達に小さな翼を与え、空中における戦闘を可能にした。
 『幻影の魔女』と使い魔の距離が縮まったことで、『幻影の魔女』の射程外から使い魔を叩くという作戦は難しくなったものの、それでもやる事に変わりはない。近くにいる者の感情を読み取れる三千には、任務の成功にかける仲間達の意志が強く感じられた。
『自ら妾(わらわ)の幻に抱かれに来たか――この世界に先駆け滅ぶが良いぞ。儚く、そして美しく』
 使い魔を舞わせてリベリスタ達を誘う『幻影の魔女』に、『いつも元気な』ウェスティア・ウォルカニス(BNE000360)が眉を顰める。 
「私達の世界に来て物凄く勝手な言い草だね」
 増幅した魔力を活性化させる彼女の隣で、『錆びない心《ステンレス》』鈴懸 躑躅子(BNE000133)が己の身を輝くオーラに包み、口を開いた。
「かたちあるものは消えるから味わい深い……同感です」
 しかし、その根底にある考えは『幻影の魔女』とはまるで異なっている。いずれ消えていくからこそ、かたちあるものを大事にしようと、彼女は思う。
「未だに閉じぬ穴……か。早く何らかの打開策を講じなくてはのぅ……」 
 自らを速度に最適化し、身体能力のギアを大幅に高めた『エア肉食系』レイライン・エレアニック(BNE002137)が、『閉じない穴』がある北側を見る。そもそも、強力なエリューションやアザーバイドが頻繁に現れるようになったのは、この『閉じない穴』が原因だった。
「『禍福は糾える縄の如し』と申しますが、今のところは災禍のみ。いつか福が訪れることはあるでしょうか」
 『無何有』ジョン・ドー(BNE002836)の声に、レイラインは眼前の敵に意識を戻す。そう、今はそこに現れた“敵”を倒さねばならない。自らを超集中に導くジョンが「上手く勝利を手繰り寄せたいものです」と言うと、レイラインは強く頷いた。
 ――この度の災禍は、異世界からの来訪者たる『幻影の魔女』。
 世界から借り受けた生命力を己の身に宿し、『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)が、低い声で言った。
「任務開始だ」

●水上の空中戦
 『幻影の魔女』と使い魔たちは、『滝の広場』に広がる池の上でリベリスタ達を待ち受ける。
 たとえ翼があっても、高度を維持して戦いを行うのは非常に難しい。できれば低空で戦いたかったところだが、敵が自分から動かない以上、こちらから近付いていくしかない。
 幸い、使い魔たちは一箇所に固まっている。この段階で抑えこめば、使い魔たちの散開を防ぐことができるだろう。
「奴はわらわが抑える、任せておけ!」
 レイラインが蝙蝠の姿をした使い魔の一体に肉薄し、流れるような連続攻撃でその動きを封じ込める。少数で蝙蝠をブロックする間、残りで鴉を一気に叩く――それが、リベリスタ達の作戦だった。喜平が池にせり出したデッキを蹴り、空中に身を躍らせる。乱雑とすら思える動きを繰り返しつつも、彼は巧みに『幻影の魔女』の死角を選び、鴉の使い魔に向けて大型の散弾銃を撃った。思わぬ角度から襲った射撃に、鴉が狂ったような甲高い声を上げる。
 三千が仲間達の全員に十字の加護を与え、戦う意志を極限まで高めていく。彼の援護を受けて、『光狐』リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)が混乱する鴉に連続攻撃を浴びせ、『ハッピーエンド』鴉魔・終(BNE002283)がもう一羽の鴉を抑えにかかった。
「カラスvs鴉魔の戦い☆」
 明るい口調とは裏腹に、隙のない攻撃が鴉の動きを縛っていく。背の翼を慎重に操り、敵に合わせて高度を上げたウラジミールが、敵全体の動きを視野に入れながら己の身を防御のオーラで包んだ。仲間達の攻撃で鴉が麻痺に陥ったのを見て、ジョンが鴉の目を狙って気糸を放つ。動けぬ鴉の赤い瞳に、怒りの色が浮かんだ。
 『幻影の魔女』の攻撃射程外となる地点を冷静に測り、そこに向けて動いた氷璃が、攻撃に向けて集中する。『幻影の魔女』の射程に踏み込まねば攻撃できないというなら、極限まで精度を高め、一撃で決めるのみだ。薄氷の色を映した彼女の青い瞳が、蛇の下半身を持つ異形の魔女を見据える。
 生きとし生けるものは総て、滅びて消え去る運命。何人たりとも、いずれ訪れる運命からは逃れられない。運命は、形無き魔女にも平等に祝福を与えることだろう。
「だから――私も貴女を祝福(ほろぼ)して上げるわ」
 唯一自由に動ける蝙蝠に躑躅子が迫り、その両手に構える大型の盾を輝かせる。破邪の力を帯びた盾が、蝙蝠を強く打ち据えた。仲間達の布陣が完成したのを見て、ウェスティアが自らの血液を媒介に黒い鎖を生み出そうと集中を始める。
 躑躅子に打たれた蝙蝠が人の耳に届かぬ超音波を響かせ、他の使い魔たちの麻痺を払う。自由の身になった鴉たちが次々に鳴き声を上げ、リベリスタ達に穿たれた傷を塞いだ。
 ここまで様子を窺っていた『幻影の魔女』が、蒼い色をした唇の端を持ち上げる。彼女が指を僅かに動かした瞬間、虚空より無数の黒い蝶が現れ、リベリスタ達へと襲い掛かった。
 体を突き抜けていく黒蝶の幻が、内蔵を蝕まれるような強い痛みとともに全身の自由を奪う。『消えない火』鳳 朱子(BNE000136)が神々しい光を放って仲間達の呪縛を解くと、エリス・トワイニング(BNE002382)が癒しの福音を響かせ、失われた体力を取り戻した。
「貴様の主人を放って置く訳にはいかんのでな……大人しくしておれ!」
 レイラインが再び蝙蝠に連続攻撃を浴びせる横で、躑躅子もまた輝く盾を眼前の蝙蝠へと振り下ろす。彼女らが蝙蝠を抑えている間に、喜平は無軌道に空中を舞いながら散弾銃を鴉に撃った。不恰好とすら思える崩れた姿勢からでも、狙いだけは外すことはない。弾丸を浴びせられ、動きが止まったところに、ウラジミールが鋼鉄製グリップのコンバットナイフを振るう。全身の膂力を一点に込めた一撃が、鴉の頭を文字通り叩き潰した。
 三千が癒しの福音を響かせる中、ジョンが残る鴉を気糸の罠で絡め取る。そこに、ウェスティアが濁流の如き黒い鎖の束を放ち、近くにいた蝙蝠もろとも飲み込んでいった。
「儚く消えるのが味わい深いっていうんなら、自称アークの誇るエリート魔術師の私が儚く消してあげるよ……!」
 血を鎖に注ぎ込んだことで、ウェスティアの顔色は微妙に色を失っている。それでも彼女は、薄ら笑いを浮かべる『幻影の魔女』に向けて、迷い無く言い放った。

●幻を潜り
 蝙蝠の超音波と鴉の鳴き声が戦場を包む。どうやら、使い魔たちは攻撃よりも自らの回復に主眼を置いているらしい――敵の動きを眺めていたジョンがそう判断した直後、『幻影の魔女』の全身から滲み出すようにして現れた黒い霧が一帯を包んだ。もともと射程外にいた氷璃と、『幻影の魔女』の死角に動いていた喜平の二人を除く全員が、毒と呪いを帯びた幻惑の霧に触れる。
 霧の中から姿を現したレイラインが、隣にいた躑躅子に斬りかかった。霧の中を素早く駆け抜けたウラジミールが、浄化の光を放ちながら仲間達へと声をかける。
「無事な者は申告を」
 彼の声に、仲間達の間から次々と声が上がった。声の上がらぬ者には三千が再び光を放ち、その心を取り戻す。その隙に、喜平の散弾銃が残る鴉を撃ち倒した。続いて、リベリスタ達は蝙蝠の使い魔へと向かう。首筋に噛み付こうとする蝙蝠の幻をレイラインは難なく避けたが、その後に『幻影の魔女』が放った黒い蝶の群れが続いた。
「わらわ達の手で、安全を確保せねばならぬのじゃ……!」
 黒蝶の幻を掻い潜り、レイラインが強い意志をこめて声を放つ。一段と速さを増した剣が、蝙蝠を一刀のもとに断ち斬った。
「大丈夫です。僕が絶対に、みなさんを落とさせません……!」
 三千が癒しの福音を戦場に響かせ、仲間達の背を支える。彼を始めとする回復役の働きがなければ、『幻影の魔女』にたちまち動きを封じられ、一人ずつ力尽きていったことだろう。
 ここが攻め時と判断した氷璃が、前に進み出て蝙蝠を射程に捉える。ジョンの気糸で動きが止まったところを狙い、彼女は四属性の魔力を立て続けに開放した。高められた集中から放たれた四色の魔光が、最後の蝙蝠を完膚なきまでに葬り去る。
「使い魔程度で私達を倒せるとでも思っていたのかしら?」
『ほう――妾の使い魔を全て砕くか。それでこそ、滅ぼし甲斐があるというもの』
 氷璃の挑発にも『幻影の魔女』は余裕の笑みを崩さない。そこに、躑躅子が駆けた。
「……少なくとも、自分でかたちあるものを消して喜ぶような傲慢な真似は出来ませんし、させるわけにもいきませんよ!」
 一点の曇りなく輝く二つの盾が、同時に『幻影の魔女』へと叩き込まれる。躑躅子の腕に、確かな手応えがあった。使い魔が全て消えた今、『幻影の魔女』を守るものはない。
 ウェスティアが、自分の血で作り上げた黒い鎖を『幻影の魔女』へと伸ばす。毒も呪いも、この異形の魔女に効かぬのは承知の上――それでも、己の持つ中で最も威力の高い技をぶつけていくしかない。血を失い、僅かによろめくウェスティアを見て、『幻影の魔女』が指を動かす。
 たとえ間に前衛を挟んだとしても、その前衛自身もまた戦い続けて動いている限り、射線を完全に遮ることは難しい。襲い来る黒い蝶が彼女を内側から蝕み、残る力を根こそぎ奪い取った。
「負けたく、ない……!」
 自ら手を伸ばして引き寄せた運命が、ウェスティアの意識をギリギリで繋ぎとめる。
 ――力が欲しい。このような力に屈しないための、力が。
「水面に映る蝶であろうとも捉えて切り裂く!」
 飛来する黒蝶の群れを盾で払い、ウラジミールが幻から逃れる。放たれる神々しい光が戦場を包み、仲間達の呪縛を解いた。大型の散弾銃を構えた喜平が、『幻影の魔女』との距離を一気に詰める。
「遠慮しないでくれよ、全てが御前に送る現実だ」
 貫手と蹴撃、そして散弾銃そのものを打撃武器とした殴打――鋭い攻撃が火花のような光を散らし、『幻影の魔女』へと叩き込まれていく。
 余裕の笑みを崩さなかった『幻影の魔女』の表情が、初めて歪んだ。

●運命の順番
 黒い蝶の幻に傷つけられながらも、三千は懸命に癒しの福音を響かせていく。自分の役割は、回復をもって仲間に貢献すること――その強い思いが、彼を支えていた。
 『幻影の魔女』に向けて、ジョンが気糸の罠を展開する。だが、異形の魔女はうるさそうに腕を払うと、絡みついた気糸を難なく引き千切った。『幻影の魔女』に拘束は効かないと思い出したのは、その直後だ。
「もう少しよ。倒れさえしなければ決して負けないわ」 
 氷璃が仲間達に声をかけつつ、再び敵の射程外まで後退して集中を行う。未だ傷が回復しきらないウェスティアが彼女の言葉に頷き、『幻影の魔女』の攻撃が届かない距離まで逃れた。今は、態勢を立て直すまで時間を稼ぐ必要がある。
 リベリスタ達に穿たれた傷から蒼い血を流し、『幻影の魔女』が形の良い眉をつり上げた。蝙蝠の翼が広がり、空中に静止したまま黒い霧と蝶の幻を立て続けに放つ。
「……っ」
 黒蝶の幻をまともに食らったジョンの身体が、大きく揺らいだ。砕けかけた膝を、彼は己の運命を引き寄せて支える。勝利をこの手に掴むため、ここで異形の魔女に屈するわけにはいかない――。
「――みんな、大丈夫!?」
 直前に射程外に逃れていたため、蝶の呪縛も、魅了の霧も避けることができたウェスティアが、仲間達の安否を確認する。喜平の声が、彼女の耳に届いた。
「艶やかな君よ、私の心は今宵この時より貴女様の……」
 そう言って、彼は愛用の散弾銃を構え直し、その銃口を『幻影の魔女』へと向ける。
「……物になるか。他人様の世界で化生が調子に乗るな」
 言葉と行動で、喜平は己の心を守りぬいたことを仲間達へと示した。纏わりつく黒い霧を剣で鮮やかに払い、レイラインが『幻影の魔女』に仕掛ける。
「生憎、三高平には魔女なら既にとんでもないのが居るのでな……悪いがお帰り願うぞよ!」 
 澱みなき連続攻撃が『幻影の魔女』を傷つけ、その身から流れる蒼い血の量を増やしていく。戦場に鳴り響く癒しの福音、そして穢れを払う聖なる光――リベリスタ達は残る力を結集して、『幻影の魔女』へと立ち向かった。
 躑躅子の輝く盾が、破邪の力をもって『幻影の魔女』を打つ。ジョンが気糸を放ち、仲間が穿った傷をさらに深く広げた。
『妾が――このままで終るとでも……思うたかァ!』
 怒気も露に吼えた『幻影の魔女』が、黒蝶の幻を激しく撒き散らす。その猛攻の前にジョンが倒れ、空中で思うように受身の取れない躑躅子もまた、体を大きく傾がせた。
「この世界を、あなたの好きにはさせません……!」
 遠のきかけた意識を、運命の力で引き戻す。
 あとは、『幻影の魔女』との根競べだ――レイラインの剣が、喜平の貫手と散弾銃が、蒼い血とともに『幻影の魔女』の命数を削っていく。再び放たれた黒い蝶の群れに躑躅子が崩れ落ち、回復の要であった三千がとうとう膝を折った。
「あと少し……あと少し、なんです」
 仲間達の全員に回復が行き届くよう、彼はずっと『幻影の魔女』の射程内に留まり続けていた。ここまで来て、放り出すわけにはいかない。己の運命を燃やし、三千はなおもその場に立った。
 倒れた仲間をリュミエールと終がフォローし、エリスが癒しの息吹をもって全員に戦う力を取り戻させる。『幻影の魔女』の幻がもたらす呪いを、朱子の放つ神々しい光が片端から打ち払っていった。
「この世界の守護者として引くわけにはいかぬのだ!」
 ウラジミールの揺らがぬ意志が、彼のコンバットナイフを鮮烈に輝かせる。魔を切り裂くその刃は、『幻影の魔女』の身体を深々と貫いた。
 高い悲鳴を上げる『幻影の魔女』。その一瞬を狙い、集中を高めていた氷璃と、戦線に復帰したウェスティアが、それぞれの大技を立て続けに放った。
「脆く儚く味わい深く、消え去りなさい。幻影の魔女――」
 氷璃の声とともに四色の魔光が色鮮やかに踊り、『幻影の魔女』を巻き込んで破滅の旋律を奏でる。なおも運命に抗おうとする異形の魔女を、血によって生み出された漆黒の鎖が絡め取った。
 ――さぁ、受け入れなさい。運命を。
 黒鎖の濁流に呑まれ、『幻影の魔女』が断末魔の絶叫を放つ。
 蝙蝠の翼が、蛇の尾が、跡形もなく喰らい尽くされていく様を眺め――ウラジミールは一言、「汝れが消える番だったようだな」と呟いた。

●幻が去りし後
 『幻影の魔女』の最期を、躑躅子とジョンは地に伏したまま見届けた。
「美しいのは滅びではなく、それを終着点としながらも懸命に生きる今であることを理解してほしかったのですけれどね――」
 傷の痛みに顔を歪めながら言う躑躅子に、ジョンが無言で頷く。 

「――任務完了だ」
 目標の完全な消滅を確認した後、ウラジミールはそう言って軍帽を被り直した。三千が「お疲れさまでした」と全員に声をかけ、重傷を負った二人を労わる。
 氷璃は戦場の周辺に回収できそうな物がないか探したが、残念ながら目ぼしいものは見つからなかった。それを眺めていたウェスティアが、デッキから人工の滝と、その下に広がる池を改めて見る。蝶と霧の幻が去り、そこには元通りの『滝の広場』が広がっていた。
「幻が晴れた後、在るのは真実だけだ」
 誰にともなく呟き、喜平が踵を返す。撤収する仲間達の後を追ったレイラインは、もう一度『閉じない穴』の方角を見た。
 
 怪異を呼び続ける次元の穴は、まだそこに在り続けている――。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 まずはお疲れ様です。
 今回は使い魔の全滅までにどれだけ時間がかかるかが重要だったため、魔女をひとまず放置して使い魔に集中攻撃、という方針は正解でした。
 ただ、『魔女の射程外から使い魔を攻撃』という作戦に関しては、敵の知性が高かったこと、敵が見晴らしの良い空中で待機しており、リベリスタ達の接近に気付きやすかったことなどから、少々難しかったかな、と思います。
 重傷の方々はどうかお大事にしてくださいませ。
 当シナリオにご参加いただいた皆様、ありがとうございました。