● かこめ、かこめ。 甕の中の瓜はいついつ出やる。 夜明けの番人、つると甕をおとした。 後ろの正面だぁれ。 「これ、なに? 割れてる……」 がしゃん。 「助けて……。あたしはここだよぉ」 少女が泣いている。 暗闇の中で。 ● 「アザーバイト。識別名『天邪鬼』 割と有名? 子供の姿で、素直じゃない。ずる賢いけど、所詮子供の浅知恵。参考資料」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)がドンと絵本を出した。 『郷土に伝わる昔話』 イヴが手に取ると、朗読し始めた。 「瓜から生まれた瓜子姫というかわいい女の子にお城のお殿様からお召しがかかりました。天邪鬼は瓜子姫を殺して皮を剥ぐと甕の中に詰めました。剥いだ皮をかぶって瓜子姫に成りすましてお城に行こうとしました。途中で不審に思ったお城の番人が機転を利かせて甕を割って、瓜子姫の変わり果てた姿を発見。天邪鬼のたくらみは露呈、天邪鬼は皮をはがれて甕につめられ埋められました。以上、要約」 身も蓋もない要約の仕方だ。 「事件が起こっているのは、ここ」 中国地方の一点を指す。 「西日本の瓜子姫は、大抵木につるされるくらいで死なないらしいんだけど。この地方のは陰惨」 皮剥いでかぶるって。 「詳しい人に意見を求めたら、ナイアガラバックスタブで首を掻き切って、肩から腕にかけて切り込みを入れて……以下略」 うん。そうして下さい。 「小学校の女の子が行方不明になった。山中で迷子になったところで、洞窟に迷い込み、復活した天邪鬼と鉢合わせ。果敢な努力をしたんだけど、つかまってしまった」 リベリスタの顔が引き締まった。 「必死に抵抗してる。がんばって逃げようとして抵抗してる。その努力は報われなくちゃならない。今行けばまだ間に合う。洞窟で天邪鬼が包丁研いでるところに駆け込める」 いやなタイミングだが、間に合うに越したことはない。 「ちなみに今回は、そんな事件発生してるなら、同行させなきゃぐれてやると駄々をこねているのがいるので連れて行って」 皆まで言うな。 ブリーフィングルームの隅っこで、目をキラキラさせてるから変だな~と思ってたんだ。 「ご飯はちゃんと食べさせた。多分邪魔にはならないと思う……」 うん、生活向上委員会調べで八倍くらい生き生きしてるね。 七緒さん。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2012年01月30日(月)22:05 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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● 誰そ彼。 あの子はだぁれ。 あの子じゃ分からん。 夕暮れ時に人紛れ。 あの子がいなくなったのに。 まだだぁれも気づいていない。 アークのリベリスタをのぞいては。 ● おぼろげに洞窟の中が見えてきた。 天井からつるされている女の子。 足元で鬼が包丁を研いでいる。 まだ見えないけれど、イヴはあの洞くつの奥には甕がたくさん転がっているといっていた。 「天邪鬼も一応鬼よね」 来栖・小夜香(BNE000038)は、鬼の頻出が引っかかる。 (最近流行の鬼と何か関係あるのかしら……節分が近いだけって事もありえるけど、その辺りの事を少し調べてみたいわ) 「最近増えてるわね、鬼。それもゲートからじゃなくて元から居たのが出て来たってケースが多いけど……ちょっと怖いわね。また何か起こる前触れじゃないかしら……」 『ソリッドガール』アンナ・クロストン(BNE001816)にとっても気がかりな話だ。 「とにかく急ぎましょう」 『虎人』セシウム・ロベルト・デュルクハイム(BNE002854)は、臨戦態勢だ。 「女の子の救助がとにかく僕のやることです。絶対に助けます……」 語調は柔らかだが、確かに仁義を張り切った。 「小さな女の子が困ってんだ、急いで助けに行かなくっちゃな! 待っててくれよ、瓜子姫チャン」 柿木園 二二(BNE003444)も女の子を大事にする主義だ。 (三年生……そんなころ、わたしにもあったかな) 『ならず』曳馬野・涼子(BNE003471)の人生の25%くらい前のことだ。 もうどうでもいい頃の記憶は、かすんで遠い。 (助けろって言うなら助ける。アークを敵にする気はないから) 「鬼風情が……人を謀ろうなんて……ホント……ふざけてるわ……さっさと潰して終わらせましょう…… 」 ぼそぼそと途切れがちに『深紅の眷狼』災原・闇紅(BNE003436)は、物騒なことを口にする。 「任せるのじゃ。昔話のようにはさせぬ」 『陰陽狂』宵咲 瑠琵(BNE000129)は、そう請合った。 「七緒よ。天邪鬼で皮剥ぎ実践してくれんかぇ?」 『白詰草の花冠』月杜・とら(BNE002285)に手を曳かれて歩いている『スキン・コレクター』曽田 七緒(nBNE000201)は、首をめぐらせる。 「でもさぁ、天邪鬼ってまだどれだか確定してないんじゃなかったっけぇ?」 「……は、話を聞きなさい! ご飯食べてても大して変わってないとは……!」 アンナが、ぐああっと声を荒げる。 「幻想殺しで天の邪鬼の判別が付くまでは襲いかかるな! 剥いていいのは天の邪鬼と子鬼だけ! 最初は先頭スタートでなるべく倒れない様にしなさい! 三つ。復唱!」 「あ~、わかったわかったぁ。九曜の言うとおりにすればいいんでしょぉ」 「幻想殺しで百面相等を看破するっす。見破ったことを天邪鬼に気取られないよう、騙されたフリをしながら、ハイテレパスで知らせるっす」 『レッツゴー!インヤンマスター』九曜 計都(BNE003026)は、はいは~いと突入直後の手はずを宣言する。 計都から裏づけが取れなければ、動くに動けない。 「皮を取ってもいいけど、女の子は助ける事。いい?」 念のため、と、小夜香も念を押す。 実際、七緒がげらげら笑いながら人の生皮を剥いでいるところを目の当たりにしている小夜香としては、かなり切実だ。 「七緒ちゃん、鬼の皮は剥いでもいいけど子供の前でやっちゃ駄目よ?」 とらも、約束~と言う。 「皮剥ぐのは、あんたたちが女の子つれてった後にするわよぉ。あんたたちは、あたしのおかーさんかぁ」 あれこれと注意する年下の女の子達を見て、七緒は苦笑する。 「とにかくそなたは遠距離攻撃はできぬのだから、一番前にするしかないのじゃ。物見遊山半分のそなたに子供の救助を頼む訳にも行かぬ。精々暴れよ。よいな」 瑠琵が、ぴしゃっと締めた。 ● 「たすけてぇ……」 聞いた者の胸を締め付けるような悲痛な女の子の助けを求める声。 天井から吊り下げられた女の子の足元。 巨大な包丁を研ぐ鬼。 しゃっしゃっと鋭い音が洞窟内に響く。 「羽衣ちゃぁーん!! 助けに来たぜー!!」 二二の声が響く。 「たすけてぇ。おろしてぇ」 ブランと吊り下げられた女の子が泣き声をあげる。 (天邪鬼は此方の接近を察知して騙そうとするじゃろう。吊り下げられてるのは天邪鬼、足元にいるのは子鬼。本物の羽衣は奥にある甕の中、至極分かり易いのぅ) 「ふむ、まるで他人とは思えぬ思考パターンなのじゃ」 瑠琵の頬に見えないほどかすかな苦笑が浮かぶ。 涼子は、洞窟中に目を走らせる。 すぐに甕の中を見る。 羽衣。 小学校三年生の。 女の子。 いた。 甕の中。 生きている。しゃくりあげている。息を、している。 ただ、他の甕の中には、小鬼が詰まってる。 間違えて甕を開けたら、不意打ちされる。 『羽衣は、甕の中。でも、他の甕には小鬼が詰まってる』 計都の中継でリベリスタに情報が送られる。 とらからも、思念波が送信された。もちろん受け入れる準備もしている。 『声は立てないでね。お名前何ていうの? 助けてあげるから、そのままじっとしててね♪』 吊られた女の子から返事がある。 『三次羽衣です。はごろもでういと読みます。第一小学校の三年二組です。助けてぇ』 甕の中から返事はない。 ハイテレパスに心を開いていない。 神秘に縁のない者が、何の説明もなく心を開くなどという芸当が出来るとは思えない。 だが、それだけでは、確定的証拠にはならない。 囚われている内に、革醒したかもしれない。 答えないのは、天邪鬼の浅知恵のなせる業かもしれない。 天邪鬼に気取られないように。 次の情報を待つ。 『天井のは偽者っす。ホントは口が耳まで避けてるっす。あれが天邪鬼っす』 計都の目は目くらましの神秘を殺す。 計都には、泣いている女の子と二重写しに、舌を出して足元から見上げいるリベリスタをせせら笑っている天邪鬼が見える。 『騙されてる振りして、こっちが騙すっす』 『まずは羽衣を助けるぞ。鬼に気取られるでない。まずは足元の鬼から行くぞ』 「今直ぐに助けるから、もう少しの辛抱なのじゃ!」 瑠琵の銃というよりリボルバー式の式神打ち装置「天元・七星公主」から放たれた弾丸形の式は鴉に変わり、小鬼の腹を貫く。 吊られた女の子が本物だったときの救助役だったセシウムは、小鬼への攻撃に行動を切り替える。 「んじゃ、やるわよ?」 つっと七緒が鬼の背に回るとその首を固定し、慣れた手つきでピーラーを横に引いた。 しぶく血液が天井まで飛び、吊り下げられた女の子に悲鳴を上げさせる。 計都が断言していなければ、これが鬼とはにわかには信じられない。 とらと闇紅が奥に走る。 「もうちょっとの辛抱だかんな!! 大人しく待っててくれよ!!」 二二が叫ぶ。 天邪鬼は、判断がつかない。 小鬼を倒してから、自分を助けようとしていると考えていいのだろうか? ならば、まだおとなしくしておくべきだ。 奴らにおろされたところで、首にがぶっと……。 いや、落ちている包丁を拾って、ざっくりと。 続けざまの攻撃に、包丁を研いでいた小鬼はどさりと音を立てて、地面に伏した。 「怖かった、おろして……」 天井から涙が落ちてくる。 鬼の目にも涙。 いや、騙すためなら涙も流せば、血も流そう。 ふっと、瑠琵が笑う。 「まったくいやになるほど化けるのがうまいのぉ。お主の手の内なんぞ、当の昔にお見通しなのじゃ」 天邪鬼は気づく。 見上げてくるリベリスタの目が、とらわれた少女を心配している目ではなく。 獲物をどうやって仕留めようかと思案する狩人の目であることを。 「……思考が鈍るから考えないようにしてたんだけどね。やっぱり腹立つわアンタ達」 低く唸るように、アンナが言う。 「普通に暮らしてるだけの女の子を攫ってきて皮を剥ぐとは何事だ……! 影も残さず灼かれてしまえっ!」 金の髪の先からあふれるように、神威の光が発せられる。 その痛みが、吊り下げられた女の子……いや、天邪鬼にも突き刺さる。 「ぎゃあああああああああっっ!!」 洞窟中に響き渡る天邪鬼の声。 それが合図というように、とらと闇紅の目の前で甕の中から小鬼が飛び出してくる。 そこに狙い澄ませた銃撃。 涼子のフィンガーバレットが火を噴いた。 (後衛で、特に役割もない。だからって訳じゃないけど、守りは考えない。ただ、奴らの頭をぶち抜くことだけ考えればいい) なぜそうかは考えないようにしているけれど、腹の底にはいつも苛立ちが渦を巻いている。 別に、エリューションを倒したからってすっきりする訳じゃない。 弾は、当たらない。 イライラする。 もっとよく狙わなくちゃいけない。 イライラする。 (報われないなんて、糞みたいによくあるけど……そういうのを一番、ぶっ飛ばしてやりたいんだ。きっと) イライラしないでいいようになりたいとか思ってないけど。 「くたばれ、糞野郎」 羽衣の入っている甕がそのままになっている。 その甕に手をかけようとしている小鬼目掛けて、計都の鴉がくちばしをねじ込ませる。 血走っていた小鬼の白目が一気に血の赤に染まった。 計都がその怒りを一身に買っている。 小鬼は、ばらけ出した。 二二からあふれた黒いものが小鬼の足元にあふれる。 二二も無事ではすまない身の内を焼く灼熱感。 それでも、慌てふためく小鬼の様子に、口角が上がる。 頭上からぶつぶつと縄を切る音がした。 ● 巣とんっと、女の子の姿をした天邪鬼が地面に降り立つ。 「まったくよ、まったくよ。騙してやろうと思ってたのによ」 げひっ、げひっっと、しゃくりあげるように。 かわいい少女の顔のまま、猫背、肩幅以上に開いた足。下卑た笑い。 「なんだって、わかったんだよ。俺はこのとおり、とってもかわいい女の子だろお?」 くねっとしなを作り、助けて~っと、一声鳴く。 「こいつの代わりに家に帰って、親も食ってやろうと思ってたのによ。そしたら、こいつらを親に化けさして、その親も食ってやろうと思ってたのによ」 『鋼鉄の戦巫女』村上 真琴(BNE002654)の普段は柔和なまなざしが、ぎりりと引き絞られる。 体からあふれる力を一点に据え、天邪鬼に突き立てる。 「まあ、いいや。おめえらみんなやっちまえば、おんなじことさ。ちと早いが桜吹雪見て死ねや」 天邪鬼は、ごぼごぼと血を吐く。 吐きながら、落ちていた包丁を拾うと、振り回し始める。 巻き起こった暴風が、リベリスタ達を打ち据えた。 重たい砥石さえ宙に浮く。 セシウム、七緒、真琴、瑠琵の背中の仮初の翼が引き千切られる。 包丁で切られた血潮が風に巻かれて、散り乱れる桜の花びらのようだ。 「響け、福音の歌」 小夜香の召喚で、すかさず傷は癒される。 「麻痺はいけないよね~♪」 とらから、凶事払いの光がほとばしる。 厚い回復が、リベリスタに追い風を吹かせる。 経験不足の者が多いが、大きな傷を負う前に癒し手が傷をふさいだ。 瑠琵の召喚した氷の雨が小鬼達の体を蝕む。 羽衣を確保しようと甕に近づく闇紅に追いすがる子鬼。 しかし、再三神威で焼かれた腕に、闇紅を捕らえきれるほどの力が入らない。 「……ほんと、うざいわね……」 闇紅にとっては、子鬼はうざったく、潰さなくてはいけないものにしか写らない。 何度も何度も頭に浮かぶキーワード。 うざい、潰す。うざい、潰す。 面倒だから、集中して、確実に潰す! 腕を振り切り、甕が乗っていた棚を蹴り、天井を蹴り、地に這う子鬼に幅広の刃を突き立てる。 「さっさと……潰れてしまいなさいっ!」 汚い腕で取りすがってきた腹いせに。 虚ろな目のまま、少女は空を駆け回る。 洞窟内で何度も何度も異なる種類の光がほとばしる。 子鬼達の数が減るごとに、光は癒しではなく断罪に変わる。 「せっかく、蘇ったってぇのによぉ」 逃げようとした天邪鬼の足を、唸る獣の声が射抜く。 セシウムの狩猟用拳銃、「EREHWON」。 すかさず装填・排莢しながら注がれるセシウムの物言わぬ、それゆえ雄弁な眼光が天邪鬼を射すくめる。 「あたしは、皮をもらうからぁ。とどめは、譲るわよぉ。誰がさすのぉ?」 七緒が水を向ける。 リベリスタ達は、一斉に技を繰り出した。 ● 「怖かったろ、頑張って耐えたな。よーしよしよし! 偉いぜ!!」 背後の血みどろをみせないように、二二は羽衣を抱っこすると足早に洞窟から出た。 口下手なセシウムは、羽衣の死線をさりげなく遮る。 「うむ、よく頑張ったのぅ♪」 つま先立ちして、瑠琵もぽんぽんと羽衣の頭をなでる。 「もう鬼が来ないように、あれだぞ、節分はちゃんとするんだぞ。柊の葉を玄関に! 北北西やや右向いて、恵方巻きを食べるんだぜ!」 二二の鬼よけはやたらと細かい。 旧家の坊ちゃんには、チャラチャラしてても、遺伝子・模倣子におうちのしきたりが染み付いているのだ。 とらは豆が入った巾着を握らせた。 「羽衣ちゃん、泣いていると鬼が声を聞きつけてまたやって来るから、決して泣いたり、お家の人に言ったりしないで節分を待つのよ? そして節分にこのお豆をまけば、もう鬼はやってこないからね?」 うんうんと二二はまじめにうなづく。 「そしたら鬼は逃げるからな。おっけー?」 「――わかった」 ぎゅっと豆入りの袋を握り締めた。 目の周り、手でこすった跡が赤い。 「ご褒美にガムやるよ。早くパパとママのとこに帰ろうか。おにーちゃん達がちゃんと送り届けるぜ!」 山の下では、車が待っている。 羽衣ちゃんは、山の中で迷子になっているのをハイキングサークルの人に見つけられて送られてきたのだ。 羽衣ちゃんを乗せた車が小さくなっていく。 「羽衣ちゃんを送った後は、みんなでケーキでもどうかしら。七緒さんもご褒美ケーキ……あれ、七緒さんは?」 小夜香がきょろきょろ辺りを見回す。 「え~、なぁ~に~ぃ?」 洞窟の中から元気度300倍(生活向上委員会調べ)の声がする。 中から、カメラのフラッシュとか、ビデオの作動音とか。 何かを運び出す別働班とか……。 「ケーキ……」 呼ぶ小夜香の声が震えている。 「あ~。待って~。あたしも行く~ぅ。もうちょっとで終わるからぁ……」 派手にやっていいといった手前、七緒の所業に何もいえない。 せめて服は着替えてきてほしいと切に祈るリベリスタ達だった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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