●星空の下で 怖いくらいに星たちが輝く、綺麗な夜。 海は穏やかに凪いでいて、時折打ち寄せる波の音が心地良い。 この時間はまだまだ寒いけれど、ふたりで寄り添っていれば大丈夫。 わたしたちの間に、言葉なんて必要ない。 ただ、こうやってそばにいるだけで、わたしたちは何より安らげる。 わたしも、あの子も、お互いがいれば他に何もいらなかった。 世界がわたしを拒んでも、あの子はわたしを拒まない。 世界があの子を拒んでも、わたしはあの子を拒まない。 何があったって、絶対にわたしはあの子を守る。 だって、わたしたちはこの世でたったふたりの双子だから――。 ●分かたれた運命 「今回の任務はノーフェイスの撃破。フェーズは2、戦士級」 アーク本部のブリーフィングルームで、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、集まったリベリスタ達に向けて淡々と切り出した。 「元になったのは16歳の少女、名前はスミレ。今はまだ、体も心も人と変わりないけど――いつまで保つかは、わからない」 瓜二つの顔をした少女が二人、正面のモニターに映し出される。髪型こそ違えど、二人は面影から雰囲気に至るまでよく似ていた。 ノーフェイスは一体ではないのか、と問うリベリスタに、イヴが答える。 「スミレのそばには、双子の姉のアザミがいる。フェイトを得た革醒者で、ジーニアスのクロスイージス」 あえて『リベリスタ』とも『フィクサード』とも言わず、『革醒者』とだけイヴは表現した。それ以外に、言い表しようがないのかもしれない。 「双子はお互いを守ることを第一に動く。スミレを倒すには、アザミとの戦いも避けられない。――具体的に、どうするかは任せるけど」 場合によっては殺害も辞さないと言外に匂わせつつ、イヴは説明を終えた。 「……よろしく。気を、つけてね」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:宮橋輝 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年01月25日(水)23:35 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●運命の岐路 星空の下、双子は海の前に立っていた。手を繋いで、空と海を眺めている。 生まれた時から、二人はずっと一緒で――互いの存在を頼りに、今まで生きてきたのだろう。 そして今、双子の運命は分かたれた。 ともに革醒しながら、フェイトを得た姉と、ノーフェイスと化した妹。 以前、どこかの依頼の報告書にも、そんな事例があった。『鋼鉄の戦巫女』村上 真琴(BNE002654)は、改めて運命の皮肉を思う。 「――世界は共に運命の祝福を与えないのですね」 世界が誰を選ぶか、誰を拒むのか。その基準は誰にも分からない。運命はどこまでも気紛れで、時に残酷だ。 双子の仲睦まじい姿を眺め、『黄金の血族』災原・有須(BNE003457)が虚ろな瞳で呟く。 「二人の愛……とてもすばらしいですね……。できれば……その愛を最後まで見ていたいところですが……」 生憎、そういう訳にもいかない。彼女らは皆、ノーフェイスとなった双子の妹――スミレを殺すため、ここに来たのだから。 七人のリベリスタが、双子に歩み寄る。足音に気付き、二人の少女は弾かれたように振り返った。 「こんな所で何してるの」 『fib or grief』坂本 ミカサ(BNE000314)が、やや軽い口調で話しかける。警戒を露にする双子に、『似非侠客』高藤 奈々子(BNE003304)が微笑みかけた。 「こんばんは。星がとても綺麗ね」 彼女の言葉に、双子は戸惑ったような表情を見せる。『ピンクの害獣』ウーニャ・タランテラ(BNE000010)は、持ち前の勘を研ぎ澄まし、万が一不意打ちを受けても対応できるよう、さりげなく警戒を強めた。 「……アザミさんと、スミレさんですね。風宮 紫月……アークのリベリスタです、先ずはお話をさせて頂けますか?」 前に進み出た『朔ノ月』風宮 紫月(BNE003411)が、穏やかな口調で二人に語りかける。双子は手を繋いだまま、黙って彼女の顔を見返した。警戒心は強そうだが、話くらいはできるだろうか。 (命を懸けて守る人がいる、それも両想いだ、うらやましい限りだな) 互いを守るように立つ双子を見て、『ナイトビジョン』秋月・瞳(BNE001876)はそんな事を思う。一方的に守られるだけだった自らの過去が、どうしても思い出された。 一方、『積木崩し』館霧 罪姫(BNE003007)は、海岸の隅に建てられた小屋の陰から、仲間達が双子に接触する様子を眺めていた。仲間達が持つ懐中電灯やランプの光が砂浜を照らしていたが、彼女の懐中電灯はスイッチが切られたままだ。闇に紛れ、罪姫は機会を窺う。彼女にしか出来ないことをするために。 ●砂の城に築いた幸福 警戒して身構えたままの双子に、ミカサは『アーク』について説明し、自分達がそこに所属していることを告げる。奈々子が、彼に続いて口を開いた。 「此度は二人の運命について話すために来たの」 見たところ、双子は『アーク』を知らない。それどころか、自分たちに起こった変化の本質すらも理解していないように思える。知っていながら、目を逸らしているだけかもしれないが。 奈々子は、エリューション化と、それが世界に及ぼす影響について、そして、双子の身に何が起こっているのかを、噛み砕いて説明した。 全てを知った上で、自分の望む結末を迎えてほしい。それが彼女の願いだった。 二人で幸せに暮らす結末は選べないけれど、それでも。 話を聞き、長い髪の少女――スミレの顔が、さっと青ざめた。短い髪の少女、アザミの表情が険しくなり、スミレを庇うように前に立つ。 リベリスタ達を睨むアザミに、紫月が静かな口調で語りかけた。 「家族だからこそ、護ってみせる……その考えは、人として正しいものであると私は思います」 そう、人としてそれは正しい。ですが、と彼女は言葉を続ける。 「まだ人としての形を保てているなら良い、スミレさんとしての心を保てているなら良いです。けれど、それすらもままならなくなったら──アザミさん、貴女はどうなさるのですか?」 アザミは紫月を睨んだまま答えない。だが、その表情から、彼女の心は容易に知ることができた。 ――人じゃなかったら何だっていうの。たとえ化け物になっても、妹には変わりない。 アザミから崩すのは難しいと判断し、有須は彼女の後ろにいるスミレに声をかけた。 「スミレさん自身は……アザミさんをどう思っているのでしょう……?」 左右で色の異なる虚ろな瞳が、スミレをじっと見つめる。 「わたし達の目的はスミレさんだけですし……今回はアザミさんの方は助かるかもしれません……」 それを聞き、スミレはアザミの腕を掴み、体を強張らせた。無言で視線を向けたアザミに対して、小さく頷いてみせる。 そこに、奈々子が言葉を重ねた。 「貴方はいずれ心を喪い、化け物になり果てるわ。きっとお姉さんさえ手にかけてしまう……それでもいいの?」 姉のために自ら死を選べと、彼女は言っている。いきなり決断を迫られて、わかりましたと死を選ぶ者などいないだろう。本当は時間をかけて考えてもらいたいが――残念ながら、それを待つ時間はない。フェーズの進行は待ってくれないのだ。 双子に声をかける仲間達を、瞳は黙って見守っていた。皆のように説得を行うつもりは無い。そもそも、話し合いで避けられるならば、誰も戦いを選んだりはしないのだ。 それでも、仲間達の説得を真っ向から否定し、止めるような真似はしない。戦いを避けられる可能性が少しでもあるなら、その方が良い。少なくとも、彼女はそう思うからだ。 スミレはアザミにしがみついて震え、アザミはそんな彼女の前でリベリスタ達を睨んでいる。それを見て、ウーニャは溜め息まじりに口を開いた。 「スミレちゃんが目の前にいるのに諦めろって言っても難しいわよね……」 アザミが、マジックガントレットに覆われた両腕で構えを取る。もはや戦いは避けられないと判断し、真琴は切れ長の目をわずかに細めた。 「私たちはただ、自分たちのすることをするのみです」 このような運命の残酷は、決して珍しいことではない。今後も、似たような事例はいくらでも出てくるだろう。――なすべきことは、ただ一つしかない。 アザミが戦う姿勢を見せたことで、スミレもまた覚悟を固めたようだった。腕を掴んだ手を離し、自分を守ろうとする姉を守るため、リベリスタ達を見据える。 瞬間――衝撃音とともに、スミレの細い体が宙を舞った。 罪姫が闇に紛れて双子の死角を突き、二刀のチェーンソー剣から繰り出される一撃でスミレを吹き飛ばしたのだ。 「スミレっ!」 不意を打たれたアザミが、吹き飛ばされる妹を見て初めて声を上げる。そこに、薄い微笑を湛えた罪姫の声が重なった。 「こんばんは、私罪姫さん。今宵貴女達を殺しに来たの」 それは、双子に対する宣戦布告であり――同時に、死刑宣告でもあった。 ●救いの鍵は何処に 双子の距離が離れたのを見て、ミカサはジャミングを発動させた。双子が一切の言葉を交わさずに意思の疎通を行っていたのは、互いにテレパシーで心を通わせていたからだろう。連絡手段を断っておくに越したことはない。 「この程度で断ち切れる絆じゃないだろ。言葉に出して相手に伝えるのもいいものだよ」 先手を取ったリベリスタ達は、双子を再び合流させないよう一斉に動いた。吹き飛ばされたスミレを追って罪姫が肉体の枷を外し、後に続いたウーニャが全身から気糸を放って少女を絡め取る。動きを封じられたスミレに奈々子が迫り、全身の膂力をもって彼女を打ち据えた。 「スミレ……っ!」 スミレに駆け寄ろうとしたアザミの前に真琴が立ちはだかり、仲間達に十字の加護を与える。 「どいてよ、スミレが……っ!」 行く手を阻まれたアザミが、輝ける光でスミレの縛めを解く。仲間達に翼を与えた瞳が、必死にスミレのもとに向かおうとするアザミに口を開いた。 「私だって譲れない物の為に戦っていて、それを曲げるつもりはない。――だから、後はどちらが正しいではなく、どちらが強いかで決めるしかない」 力ある者が生き、力なき者は滅びる。浅ましいが、生きるという事はそういう事だ。 闇の衣を纏う有須の瞳が、スミレの指先から伸びる漆黒の鎖を捉える。警告を上げる間もなく、それは戦場全体を覆った。 リベリスタ達に猛毒を帯びた黒い鎖が絡みつく。予め警戒して射程外に逃れていた紫月が神々しい光で仲間達を包み、毒の鎖を粉々に砕いた。 思っていた通り、スミレの能力は厄介極まりない。その動きを確実に封じるべく、ミカサとウーニャが視線を交わす。スミレの周囲に、ミカサの展開した気糸が張り巡らされ、再び彼女を捕らえた。 「逃がさない。逃がしてなんて、あげない」 動けぬスミレに罪姫が組み付き、白い首に牙を立てる。悲鳴を上げる彼女にアザミが癒しの微風を呼ぶが、後手に回っているのは明白だった。立て直す暇を与えまいと、ウーニャが黒き影のオーラを伸ばしてスミレの頭部を打つ。 「……私がこれまで手を下した中には、あなたみたいに、ただ運が悪いだけの可哀相な子もいたわ」 でも、彼らは無意味に消えていったわけではない。この世界を守るための犠牲になったのだと――彼女は思う。 「犠牲っていうのはね、生きてる人が背負わなくちゃならないものなの。だから私は、世界を守るためにあなたと戦う」 そして、スミレの犠牲も背負う。背負い続けて、これからも戦う。 「そこをどいてよ……っ!」 顔を歪ませ、声を嗄らして叫び続けるアザミの前に立ちながら、真琴は全身のエネルギーを呼び起こし、己を攻撃を反射する盾と化す。泣かれても、恨まれても、ここを通すわけにはいかなかった。 瞳が清らかなる存在に呼びかけ、鎖に傷つけられた仲間達の傷を癒す。印を結び防御結界を展開しながら、紫月はアザミに語りかけた。 「……人の形を捨てて、スミレさんとしての心を切り捨てた“何か”を守りますか? ──そうなってしまって、後悔がなかったと言葉に出来ますか?」 アザミは答えない。彼女の言葉が聞こえていないわけではない。心に蓋をして、必死に聞くまいとしているのだ。認めてしまえば、妹を失うことになるから。 次に、紫月はスミレに問いかけた。 「スミレさんも──愛してくれたお姉さんを……最後には自分で殺してしまう結末を、望むのですか?」 それが、本当に二人の願いだというなら良い。けれど、そうでないなら、二人は踏み留まるべきなのだ。 いずれ破滅が訪れると、知っているのなら。 しかし――と、有須は暗黒のオーラをスミレに放ちながら思う。 (いくら私達が言ったところで……愛のない説得……通じるか分かりません……) アザミを救えるかどうかの鍵は、スミレが握っている。そう、彼女は確信していた。 ●彼女らの選択 自ら拘束を引き千切ったスミレに、ミカサとウーニャが立て続けに気糸を放つ。一度は逃れたスミレだったが、時間差で放たれたもう片方は避けきれなかった。敵がいかに強力な攻撃を持とうと、先手を取り続け、動きを封じていけば脅威にはならない。アザミの回復も、既に追いついていないのは明らかだった。 終幕が近いと判断したミカサが、ここでアザミに向けて口を開いた。 「これが運命だなんて悔しくないの。――俺は悔しい。世界はちっともやさしく無いし、運命は大事な物を取り上げて行くばかりだ」 彼を見るアザミの顔は、大切なものを理不尽に奪われる怒りに満たされている。彼は、さらに言葉を続けた。 「ねえ、妹が妹である内に君が幕を引く事は出来ないの?」 目を剥くアザミを、ミカサは冷然と見返す。お互いがいれば、と思う程に、彼女達の世界は二人が全てだ。それを、彼はとうに見抜いている。 アザミは青ざめた顔で唇を震わせながら、それでもスミレに癒しの風を届けた。真琴が、両手に構えた大型の盾でアザミを打つ。 (たとえ、恨まれるとしても――それはリベリスタとして仕事を請けた以上、当然のことですので) だから、彼女は迷わない。自分のなすべきことを、果たすだけ。 「アザミ……!」 スミレはアザミに手を伸ばそうとしたが、気糸に縛られて叶わない。どうして、という呟きが、彼女の唇から漏れた。 「貴女は別に何も悪くないのよ。何もいけなくない」 スミレに組み付いた罪姫が、彼女の耳元で囁く。 「でも運が悪かった。だから、罪姫さんが御片付けするの」 抗うように、スミレが首を横に振った。奈々子の渾身の一撃が、彼女の鳩尾にめりこむ。 「そうやってお姉さんは貴方を庇ってくれるでしょうね。たとえ貴方がお姉さんを殺そうとしている状況でも」 咳きこむスミレが、奈々子を見た。そして――その向こうにいる、最愛の姉を。 「非情なようだけれど……姉の命か、自分の命か。選んで」 スミレの顔が大きく歪む。死にたくない。でも、姉を死なせたくもない。 瞳の詠唱が癒しの福音を響かせる中で、有須はスミレに語りかける。 「あなたが本当にアザミさんを愛して……大切に思い……生きていくことを望むなら。あなたの口から言葉を紡いで貰えないでしょうか……?」 アザミさんが、あなたを失ったとしても生きていけるように――そう告げる有須に、スミレの表情が揺れた。ミカサの言葉が、そこに重なる。 「逃れられない運命なら、他人に奪われるよりもさ。そっちの方が、君達にとって、ずっとずっとやさしい事なんじゃないの」 スミレを攻撃するため式神を作り出そうとしていた紫月は、アザミとスミレの視線が交錯するのを見た。 自らの手で殺すことに、とうとう踏み切れなかった姉と。 自らの手で幕を引くことを決意した妹が、互いに見詰め合う。 スミレが気糸の拘束を振り解き、漆黒の鎖を伸ばす。妹の意図を悟ったアザミが、声を限りに叫んだ。 ――ごめんね。ありがとう。 最期に、そう言い遺して。スミレは、漆黒の鎖で己の心臓を貫いた。 ●紅い双花 スミレの亡骸を前に、アザミは呆然と座り込んでいた。 すっかり戦意を喪失した様子の彼女の傷を、瞳が癒しの微風で包む。 妹を抱いて肩を落とすアザミに、紫月が慎重に言葉を選びながら語りかけた。 「……今回のような件があればこそ、その経験をした貴女の力がきっと必要になる時が来ます」 そうする事が、妹の命を繋げる事になると――月並みな台詞とわかっていても、言わずにはいられない。ウーニャも、それがアザミの心に届くことを信じて、真摯に言葉を紡ぐ。 「スミレちゃんが『守った』世界を一緒に守ろう。それが無理なら、せめてスミレちゃんの分も生きて欲しい」 結論は今すぐじゃなくて構わないからと言う彼女の後を、奈々子が継いだ。 「だから……自暴自棄な選択をせず、まずはアークへ来てみない? 全てを知ってからでも、道を選ぶのは悪くないでしょう」 その上で恨むなら恨むといいと、彼女は付け加える。幕を引いたのはスミレ自身でも、彼女の背中を押したのは自分たちであったから。そこから逃げるつもりは、奈々子にはない。 アザミは、黙ってリベリスタ達の言葉を聞いていた。じっと俯き、考え込んでいるようにも見える。真琴はアザミから視線を外さず、ただ彼女の決断を待っていた。 (已む得ない場合は、殺すことになりますが……殺さなくてもフィクサード化だけは阻止したいところです) 罪姫もまた、アザミの出方を窺う。彼女が全て忘れて生きられるならそれで良い――だが、それを良しとしなかった時は。 ややあって、アザミが妹の亡骸を砂浜にゆっくりと横たえた。 妹の顔を覗き込んで、囁くように呟く。 「――ごめんね。ごめん、なさい」 二言目の謝罪が、自分達に向けられたものだと皆が気付いた瞬間――アザミは、拳で己の体を撃ち抜いた。 「……!」 仲間がアザミを殺そうとした時は庇おうと身構えていたウーニャも、これには対応できなかった。スミレの血を吸った砂浜にアザミの血が加わり、赤い花のような模様を描く。 ミカサの言う通り、彼女らの絆は深かった。スミレの最期の一言は、姉が生きることを願った想いは、余すところなくアザミに届いていたし、リベリスタ達の言葉も、妹を想う彼女の心に確かに訴えかけた――でも。 アザミは、どうしても許せなかったのだ。 妹を守れず、見殺しにした自分を。 妹の幕引きを躊躇い、妹の手でそれを行わせた自分を。 そんな自分こそを恨み、滅ぼさずにはいられなかった。 妹の最期の願いを、踏みにじることになっても。 ――これが、彼女の選択。彼女が、彼女の愛のために動いた結果。有須は、それを見届けた。 奈々子がアザミの目を閉じてやり、皆に撤収を促す。もう、ここに留まる理由はない。 「是非教えて頂きたいものだね。想い合う者同士の心って奴をさ」 俺は今でもそれを上手く理解出来ないんだ――と、誰にともなく呟き、ミカサは踵を返す。最後に折り重なる二人の亡骸を見た罪姫は、あえてそれに手をつけようとはせず、仲間達の背に向けて語りかけた。 「――後味が悪い? いいえ、それは違うのよ」 私達は彼女達と言う物語に終止符を打ちに来たの。 であるなら、悲劇であれ、喜劇であれ、最後まで味わうべき。 私達にはその義務が有り、彼女達にはその権利があるの――。 彼女の言葉に、答える者はいない。 穏やかな波の音が、ただ、双子の眠る海岸に響いていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|