●現在のお話 意味はないと、解ってはいた。 例え、幾度彼らを切り伏せても、幾度自身を死に近づけても、其処には何の意味も有りはしないと、解ってはいた筈なのに。 「――何、まだ悩んでるの?」 と。 直ぐ傍らに居た少女が、苦笑混じりの声をかける。 生まれたときからほぼずっと一緒だった幼なじみである彼女は、俺の右手をきゅっと掴んで、脳天気な笑顔で言い放つ。 「今更悩む意味なんて無いでしょ。やっちゃったモノは仕方ないんだから。こうなったら毒も皿も食べたところで変わらないって」 彼女は笑う。 傷だらけの身体で空を仰ぎながら、俺を元気づける。 けれど、浮かべている笑顔は、きっと俺を励ますためではなく、心の底からのものなのだろう。 「大丈夫! イザとなったら私が守ったげるから。安心して突っ込めばいいよ」 思わず、俺は苦笑する。 この少女に限っては、例え無惨にも死ぬ瞬間であろうと、笑顔で受け入れかねないな、と。 いや、実際にそれを問うことも出来るのであろうが――それは、今此処にいる彼女の尊厳を傷つけるようだったから、止めた。 少女は、あくまでも笑う。 『生前に受けた』傷跡を晒すことを恐れずに、腐りかけた右腕を切り落とした身のままで。 「それじゃ、行こうか。私の仇を取りに……なんてね」 ●未来のお話 「……討伐対象は、エリューションとフィクサードが一体ずつ」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が唐突に始めた依頼説明に、リベリスタ達は若干驚きの意を示した。 エリューションとフィクサード。片方だけなら何ら珍しくはないが、両者が共にやってくるというのは滅多にあることではない。 「エリューションの種類はE・アンデッドの少女。フィクサードの方はデュランダルの青年。……二人は元々仲の良い幼なじみだったんだけど、革醒したことによって一人はエリューションに、一人はフェイトを得て、リベリスタに成る……かも知れなかった」 だが、それは叶わなかった。 エリューションとなってしまった少女はリベリスタによって殺され、それを知った青年は、近しい者を殺されたことで生気を失い、リベリスタにもフィクサードにも成らない、狭間の異能者に成ったという。 それが何故、今になってアークに弓引く存在になったかというのは……E・アンデッドというカテゴリが、如実に表していた。 リベリスタは僅かに苦い顔をするものの、直ぐにその感傷を振り払い、事務的な質問をした。 「エリューションの能力は?」 リベリスタの一人の質問に対して、イヴは難しそうに顔を歪める。 「何て言えばいいのかな……。まず、身体能力についてはどれもが並以下。攻撃、防御、命中、回避、体力すらも、全てがフェーズ1のエリューションにも劣る程度の性能。……けど、それを補って余りある能力が、一つだけ」 「何だ?」 「『再生し続ける』能力」 それだけを聞けば驚異的な能力であろうが、具体的ではない分、どうにも捉え所のない説明だ。 視線だけで続きを求めたリベリスタに、イヴは小さく頷く。 「先ほども言ったとおり、このエリューションは体力もかなり低いから、一発でも攻撃を当てれば倒れると思う。けど、直ぐにまた復活する。これは、かなり脅威」 「……? どういう事だ?」 「例えるなら、単純に300の余力を持つエリューションが居るなら、100の攻撃を三回当てれば倒れる。けれど、15の余力に十回再生する能力を持つ敵に対しては、例え直ぐに倒れるにしても、前者とは違って十回攻撃しなければ倒せない」 要は、倒せるにしても手間がかかりすぎる、と言う意味だ。 しかも厄介なことに、このエリューションの再生数限界は確認できないという。 「エリューションは、自分の行動を放棄してでも、常にフィクサードの方を庇い続けている。しかも、エリューションを倒した後でも、フィクサードの体力も削る必要があるから……」 その間、デュランダルである青年の猛攻を受け続けなければならない、と言うことだ。 典型的な、と言うと少し違うが……防御タイプと攻撃タイプの連携だった。 「最後に、戦闘を行う場所だけど……彼らは三高平市のちょうど町境の所で待機している。何かを待っているかのように」 「……俺達か?」 「そう。だから彼らは、これ以上市内へ向けて侵攻しない」 何故かハッキリと断言するイヴに対して、リベリスタ達は怪訝な顔を受かべるものの――それ以上を問うことはなかった。 依頼の説明は終わり、リベリスタたちはミーティングに入るべく、すぐにもブリーフィングルームを出ようとする。 だが、その寸前、イヴが「待って」と声をかけた。 「……最後に一つだけ、知っておいてほしいことがある」 迷いながら、しかし、どこか決意を込めた瞳で。 イヴは彼らに対して、最後の、些末な情報を開示した。 ●過去のお話 「それでさ、どうするの?」 「…………」 「解ってるでしょ。私は動いてるし話せるけど、只の死体だよ。後は腐って骨だけになって、何もかも忘れて只の人殺しになっちゃう」 「…………」 「私は嫌だよ。そんなの。それくらいなら、またあの人達に殺して貰う方が、ずっと良い」 「…………」 「それとも、さ。そっちが、私のこと、殺してくれる?」 「…………」 「…………」 「……しゃーない、行くか」 「何処に?」 「お前が言ったんだろうが」 「え、殺して貰うって言う、アレ? 本当に?」 「ああ、それと――」 「ちょっとした、八つ当たりに」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田辺正彦 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年05月11日(水)22:46 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 微かにざわめく森が、静まる。 残った、闇と静寂だけの世界で、彼らリベリスタは、森に挟まれた道路上で佇む二つの人影をじっと観察していた。 「……彼ら2人の思いを受け止めることが、僕たちに出来るのでしょうか」 唯、呆然と佇んでいる青年と、笑顔で座り込んでいる少女の姿を見て、『宵闇に紛れる狩人』仁科 孝平(BE000933)は、思わず小声で呟く。 平和主義――とまではいかなくとも、争いを好まない彼としては、此度の依頼は些か気分を重くさせる。 解を求めぬ言葉に対して、だが律儀に「解りません」と答えたのは、『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189) 「ただ、ぶつけるならもう少し、大きい思いにして欲しいと思いますよ。八つ当たり程度の思いなんて、小さすぎます」 無為と思って、気のない、捨て鉢な戦いを挑むのではなく、 傍らの少女を守るために、自分たち全員を殺すつもりで来て欲しい。 受け止める思いが大きければ大きいほど――彼女もまた、あの二人のために、思いを込めて戦えるのだから、と。 「……何にせよ」 二人の短い会話を区切ったのは、『やる気のない男』上沢 翔太(BNE000943)だった。 普段気怠げにしているその風体も、戦いを目前とした今は凛然とした気配を纏い、武器を手にした状態でぽつりと呟く。 「向こうも覚悟して俺達を待ってる、話をするならば勝てた時だ」 その言葉に頷く彼らは、しかし未だ動きを取る事は出来ない。 彼らからの合図が来るその時まで、リベリスタ達はじっとしたまま、二人の様子を見守っていた。 一方。 先ほど青年達を監視していたうさぎたちとは別に、もう一つ、動いている者達が居た。 井上・輝紀(BNE001784)率いる一行は、少年に対してうさぎたちの班と道路上で挟撃を行うため、現在道路を挟む森を通って、青年達の居る地点を迂回している最中なのだ。 可能な限り、音を立てぬようにし、気配も感じさせないように努力しつつ、井上班は青年達の脇を通っていく。 二人に気づかれていないか、足下を確認しながらも青年達の姿をちらと見やる『紫電』片桐 文月(BNE001709)は、その度にどうしても視界に入る、少女の傷だらけの姿を見て、少しばかり眉をしかめる。 (運命に愛されなかった少女と、その幼馴染を色々な意味で救うお仕事、か) 親しい人との離別。その一点に於いてのみ青年達と通ずる文月は、今この時ばかりは、ほんの少し、やりきれなさにも似た感情を抱いていた。 そしてそれは、同じく森の中を往く『シルバーストーム』楠神 風斗(BNE001434)も同じく。 (二人の身に起きたこと……同情はするが、放置はできない) 感情で動く青年達とは違い、風斗達リベリスタはまさしく、正当性有る責務によって動いている。これを止めないと言うことは、即ち自分たちの大切なモノが在る世界の崩壊と等しい。 (せめて、未来に希望を見いだせるように……) それだけを祈って、風斗は拳を強く握りしめる。 ――その瞬間、 「……ああ、挟み撃ちか」 「!?」 青年が何となく呟くと同時に、影に潜ませておいた武器――包丁や農作業用の鉈を加工して作った、急ごしらえの斧槍――を抜く。 それと同時に、彼は爆発的な殺気をリベリスタに向けて放った。 「この道幅じゃ正しいと思うけどさ。アンタ達、俺に気づかれないための策も講じずにそれをやろうとしてたのか?」 成功しかかってたけどな。と青年は小さく付け加える。 だが、確かに。青年の言うとおり――リベリスタ達の行動は、殆ど運試しであった。 月明かりがあるとは言え、真夜中の森の中、それも青年達に見つからぬよう、光源を落とした状態で動くというのは、どうしても見えない足下や、音を鳴らす要因に注意が行きがちで、自然と移動速度が遅くなる。 加えて、その間待機している班側も、彼らが移動し終えるまで同じ場所に居続けたのでは、時間の経過と共に青年達がそれに気づく可能性は高くなる。 勿論、青年達も知覚能力に秀でたものがあるわけではない。だがそれは、リベリスタ達の隠密能力にも同じ事が言える。 結果的にどうなるかは、ご欄の通りだ。 成否、共に五分の賭であろうと、冒す必要の無かった賭を行った結果は、最悪の形でリベリスタ達に降りかかる。 「……悪いとは思うけど、見つけたからには仕方ないよな?」 「だね。大人しく、私に仇を取られて貰おっか」 青年の言葉で、リベリスタの存在に気づいた少女も、一本だけの腕で構えを取り、彼らの前に立ちはだかる。 戦闘は、リベリスタの不利で始まった。 ● 初手を取ったのはうさぎだ。彼女は両手に握った剣を巧緻に操り、青年の身体目がけて振り下ろす。 「……ズルいなあ、貴方達」 それを苦笑しながら守るのは、青年の傍らの少女だ。 青年に対する攻撃を庇い続けるという少女の習性を逆手に取ったリベリスタは、左腕を顔の前にやって防御の構えを取る。 一条の銀光が夜闇に浮かぶ――と、共に、少女が膝を着く。 見れば、剣に織り交ぜた気糸が彼女をがんじがらめに縛り上げ、その行動の自由を奪っていた。 攻撃の命中を確認したリベリスタ達は、それと同時に、青年目がけて武器を振るう。 孝平と天月・光(BNE000490) のレイピア、井上・輝紀(BNE001784) の広刃剣に、後方から文月がナイフを解して行う強襲攻撃。 様々な種類の剣による、多種多様な攻撃に対して――青年は避けるそぶりも見せない。 何故ならば、 「残念だけど……さ!」 「!?」 既に行動が可能となっていた彼女が、その全てを受け止めたが為に。 凝固し、黒くなった血がぱらぱらと舞う。硬く、冷たくなった皮膚が、紙でも裂けるかのような、無機質な傷跡を作る。 少女はそれを気にも留めず、相変わらずの笑顔で言う。 「一応、か弱い乙女だからさ。あんな拘束狙いの一撃でも倒れちゃうくらい、弱いんだ、私」 ――エリューションは体力もかなり低いから、『一発でも攻撃を当てれば』倒れると思う―― 冷水を浴びるかのように、依頼説明時、真白イヴが言った言葉が彼らの胸を刺す。 かと言って、それを悔やむ余裕もなかった。 攻撃後の僅かな隙を逃すはずも無く、青年は手にする斧槍を突き出し、リベリスタ達の心臓を狙っているのだから。 「ッ!」 幸いなことに、すんでの所で、間一髪の所で割り込んだ二つの盾に、その攻撃は阻まれた。 斧槍を弾いた『ドラム缶型偽お嬢』中村 夢乃(BNE001189)は、受けた一撃の重さに顔を歪めつつ、青年に向けて断言する。 「……貴方の八つ当たりくらい、この身で良ければいくらでもお受けしましょう」 眦を決して構えを取る彼女に、迷いは一分たりとも無い。 苦悩の末に、鞘から抜かれた矛を目の当たりにしようと、理由無き盾は僅かに揺るぐこともなく、その全てを防ぎ切らんとする。 「……有り難いな、本当」 青年はただ、その言葉に対して疲れた笑みを浮かべただけだった。 夢乃はその姿を見て、何かを言いかけるが……それを堪えて、盾を眼前に構える。 バッドステータスでの行動制限が失敗に終わった以上、少女の『盾』を封じる手段は、風斗の吹き飛ばしだけだ。 自然、青年を倒すまでにかかる時間は多くなる。彼女のカバーが何処まで保つかが勝利の一端を担っていると言っても過言ではない。 そして、盾である夢乃に呼応するかのように……森の中から出でた銀の剣は、少女に向けて躊躇いもなく剣を振りかぶる。 「悪いが、お前はどうあっても存在を許しておくわけにはいかない」 構えた少女の腕が、途方もない重量の一撃に醜くひしゃげる。 暴風の如き一撃が、その矮躯を巻き込み、彼方へと吹き飛ばす。 「……だが、お前が護ろうとしたものは、お前が生きていて欲しいと思った奴だけは……」 救うつもりだ、と。 そう言いかけた彼に対して、少女は苦笑いを浮かべた。 「勝手だよ、それ」 淡々とした、短い言葉ながらも、其処に込めた想いはどれほど深いものだったろうか。 ぎり、と歯を食いしばる風斗は、しかしそれ故に構えを解くことは許されない。 青年と少女の連携は、距離という障害を以て確かに崩した。 後は、少女を青年の元へ近づけさせないことと、その間に青年を倒すこと、その二つを果たすのみ。 青年も、それを理解したのか――斧槍を握る手に一層の力を込め、眼前のリベリスタ達を睨み据える。 戦況は続く。リベリスタと青年達、天秤を左右に揺らしながら。 ● 「本当に嫌なのは自分だけ?」 剣戟の折。 青年と夢乃達の側面――森の中から攻撃を仕掛ける光は、そうぽつりと呟いた。 「違うよね? 本当は、ずっと自分の罪を見続けて生きていくのが嫌なだけ。八つ当たりなんて、嘘」 「……」 自分が嫌いなのではない。そう、光は断定する。 あの日、少女がエリューションと成ったとき、彼女を守りきれず、殺されてしまった時の、自分の弱さを、 「逃げれない罪を見せ続けられるのが……辛いだけだよね」 「……そうかも、なあ」 超高速の刺突を、斧槍の柄で受け止めつつ、青年はぽつりと呟いた。 「救えなかった自分が弱くて、憎くて……だから、今この時だけでも蘇ったアイツを守る真似事をして、ちょっとは救われた気分になりたかった、それだけなのかもしれない」 言葉こそ緩やかではあるが、反して動きは更に鋭さを増している。 斧部分を振りかざして、光の胴を狙ったそれは、最早幾度目か解らぬ夢乃の防御によって防がれるが……その彼女も、回復しきれぬ傷と、疲労によって動きの鈍さが目立った。 「……止めにしないか。いい加減」 そんな夢乃の姿を見た故か、はたまた本心からか、文月が不意にそう呟く。 「お前の望みが幼馴染との心中だというのなら、それを叶えるのもやぶさかではないが──そうでは無いのだろう?」 「……解らない」 ほんの一瞬、リベリスタ達に対する動きを止めて、青年はそうごちる。 「アイツを守れなかった自分を殺して欲しいのか、本当に、唯の八つ当たりなのか……俺でも」 「……。そうか」 説得は無意味と判断した文月は、最早加減は不要とばかりに、今一度の強襲攻撃を行う。 青年はその全てをすんでの所でかわしつつ、言う。 「……大体、アンタらが降伏勧告しても、冗談にしか聞こえないぜ?」 傲慢にも聞こえるその言葉を、しかし笑うことが出来たものは誰もいない。 それは、彼の言葉が紛れもない真実であることを物語る証拠だった。 当然と言えば当然ではある。最初、陣形の構築時点で青年に気取られた挟撃班は、それと同時に足場の確保を捨てて青年に攻撃を始めたため、不安定な環境によって命中精度や回避動作にはかなりの遅れが出る。 加えて、盾である少女を封じたと言っても、剣である青年の大火力の攻撃は未だ生きている。 火力を集中して倒すという作戦自体に問題があるわけではないが……それは防御役にして回復役である夢乃が倒れれば瓦解する危険な策でもある。 事実、夢乃が倒れそうになる度に後衛に下がり、体力の回復を待っている間に受けた彼らの被害は甚大なものとなっていた。 殆ど前衛のみで構成されたパーティに於いて、狭い道幅の路上という障害がある以上、彼らが優先すべきは『陣形の構築』と『少女と青年、両方に対する策』の二つだった。 だが、今更になってそれを改めることは出来ない。 青年は斧槍の刺突と斬撃、両方を駆使することで、翔太に向けて幾重もの攻撃を撃ち込む。 「く……ッ!!」 受け止め、避け、全てをいなそうとした翔太も、しかし時と共に受けた傷が行動を阻害する。 さばききれなかった攻撃が彼の生命を削り取っていき――最終的に、構えの隙間を縫って叩き込まれた斧の一撃が、彼の意識を刈り取った。 「上沢さん……!」 防御が追いつかなかった夢乃が、悔恨の声を上げる。 うさぎも苦虫を噛みつぶしたような表情を浮かべるが――そこに後悔は無い。 手に持つ剣に死の気力を纏わせ、振るうと共に爆発音を鳴らすそれは、青年の防御すら抜けて多大なるダメージを与える。 「……やはり、手加減は出来ませんでしたね」 零れた孝平の言葉は、僅かに悲壮なる決意を感じさせる。 細剣と短剣、二刀を器用に操って放つ攻撃をその身体で受け止めた青年の身は、その身体の殆どを朱に染めている。 だが、未だ敵は止まらない。 「……痛いな、やっぱ」 そんな益体もない言葉と共に、返す刀を以て、斧が彼の身を薙いだ。 幸い、受けた傷が少ない孝平はその一撃で倒れはしないが、それでも受けた傷の重さは隠しようがない。 リベリスタ達の方も、最早継戦能力は限界に至っている。 動けて、後二回か三回。青年もそれを感覚で理解し、敵の攻撃を受け切るべく、気息を整えていく。 これを耐えきるかが、勝利の鍵だ。 唾を飲み、防御の構えを取るリベリスタ達の中、唯一、輝紀だけがちらりと笑顔を見せて、言う。 「――どれだけでも受けてやるさ」 子供をあやす父親のような、何処までも優しい声音で。 「俺はお前を、ヘタレてるなんて思わねぇぜ?」 ……その声が、果たして青年に届いたのかは解らない。 唯、 攻撃を放つ寸前、彼の口元は、微かに笑っているかのように見えた。 ● がしゃり、と言う音と共に、風斗は武器ごと身体を路面に投げやる。 血と汗で火照った身体には、冷えたアスファルトが心地よく感じられた。 「……言っちゃったね」 同様にして、座り込んだ光は、それだけを呟いた。 ――そう。結局、最後の攻撃を受けた夢乃と輝紀は耐えきることが叶わず、地に伏すこととなった。 防御役にして回復役が無くなり、残る五人も万全とは言い難く――更に、少女は進路妨害しか行われていなかった為に余力は十分にある。 青年が降伏勧告を行わなければ、死人すら出ていたかも知れなかった。 『……アンタらの気持ちは嬉しかったよ』 去り際、二人はそう言った。 『けどさ、アンタらから逃げるほど俺達は強くないし、かと言って、もう離れたくはないんだ。コイツと』 だから、もうすこしだけ、頑張ってみる、と。 二人が向かった先はアーク本部だった。総勢二千を超えるリベリスタ達が在籍する本拠地に向かった彼らがどのような末路を迎えるかは――恐らく、考えるまでもない。 ただ、それでも。 「彼らの想いには、応えられましたかね」 少し哀しげで……しかし、確かな笑顔を浮かべて、孝平は呟く。 最後の最後、去り際の二人が浮かべた笑顔……敗北の中に覗けた僅かな救いを、胸に残しながら。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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