●ある大学生の歓喜 俺には、誰にも言っていない秘密がある。 別に大したことじゃないし、悪いことをしているわけでもない。 それなのに俺は、この“趣味”を、どうしても人に打ち明けられずにいた。 そして、彼女にも隠し通すとなると、困るのは物の置き場所で。 こないだまではクローゼットの奥にひっそりと隠したり、机の引き出しを二重底にしたり、ありとあらゆる手を尽くしていた。 でも、今はそんな事をする必要はない。 リサイクルショップで偶然見つけた、扉付きの小さなブックシェルフ――これが、俺の悩みを一気に解決してくれた。 どうやら、この中に収納した物は、俺以外の人間には見えなくなるらしい。しかも、外見に反して物がいくらでも中に入る。 彼女がいつ部屋に来て、万が一この棚を開けてしまったとしても、俺の“趣味”がバレることは決してないってわけだ。 心配事がなくなったら、急に欲しいものが増えた。 今度発売されるBD-BOXは絶対手に入れないといけないし、場所を取るからって我慢していたプラモデルやフィギュアも、欲しいものがたくさんある。彼女に絶対見せられないアレだって、今は安心して買うことができる。 とりあえず、今週からバイトを増やすことにした。 少し忙しくなるけど、これで“趣味”を思う存分楽しめるなら安いもんだ。 もし神様ってのがいるなら、あの棚を俺にくれたことを感謝したい。 ――さて、バイトの時間だ。行ってくるか。 ●願いには代償がつきもの 「今回の任務は、一般人の手に渡ったアーティファクトの破壊です。今すぐに危険があるわけではありませんが、アーティファクトには違いありませんし、放っておけば人命にかかわります」 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)が、ブリーフィングに集まったリベリスタ達に向けて説明を始める。スクリーンには小さめの本棚が映し出されているが、あれがそのアーティファクトだろうか。 「『ドリーム・イン・ザ・シェルフ』と名付けられたこのアーティファクトは、ご覧の通り、扉がついたタイプの小さな本棚です。ですが、よほど大型の品物でなければ際限なく収納することができ、しかも一般人の目には収納した品物は見えません」 一般人が棚の扉を開けて中を見たとしても、当たり障りのない品物が見えるだけだという。つまり、あまり他人には見られたくない物を仕舞っておくのに最適ということだ。アーティファクトであるということを除けば、むしろ便利かもしれない。 「しかし『ドリーム・イン・ザ・シェルフ』には所有者の欲望を煽り、自らの中に収納する物を増やさせるという、もう一つの性質があります。これがエスカレートすると、借金をしたり、犯罪に手を染めてでも欲しい物を手に入れるようになるでしょう」 それだけではありません、と和泉は言う。 「もし、所有者が何らかの理由により『ドリーム・イン・ザ・シェルフ』に収納する物を増やせなくなった場合――『ドリーム・イン・ザ・シェルフ』は、所有者を喰らい、殺害してしまいます」 たとえそうならなくても、アーティファクトに触れている限りエリューション化する危険は付きまとう。早めに対処するに越した事はないだろう。 「所有者は19歳の男子大学生です。単身者向けのアパートに一人暮らしで、日中であればアパート全体がほぼ無人となるため、侵入は比較的容易と思われます」 それで済むなら、こんな簡単な任務もないだろうが。案の定、和泉は「ですが」と言葉を続ける。 「『ドリーム・イン・ザ・シェルフ』を所有者以外が動かそうとしたり、破壊しようとしたりした場合は、中から三体のエリューション・フォースが出現し、それを阻止しようとします」 スクリーンの表示が切り替わり、エリューション・フォースらの外見とデータが映し出される。鋭角的なロボットに、猫耳の少女に、金髪の女性。いずれも、漫画的というかアニメ調であり、現実味に欠ける。金髪の女性だけ、なぜか首から下がぼやけた肌色に見えるが……それを和泉に尋ねても「このエリューション・フォースの外見はここに表示されている通りです」としか返ってこなかった。深く追求しない方が良いのかもしれない。 「エリューション・フォースのフェーズは2。所有者の欲望から生まれた思念であるため、外見などはそれを反映した姿になっています」 つまり、所有者はアニメや漫画を趣味にしており、それを必死に隠しているということか。そこまで後ろめたく思うものでもない気がするが、まあそこは個人の考え方次第だろう。 全ての説明を終えると、和泉は手の中のファイルを閉じ、リベリスタ達をもう一度見た。 「――どうか、皆様には至急の対処を要請します」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:宮橋輝 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年01月20日(金)23:37 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●趣味と外聞のジレンマ アパートはがらんとしていて、まったく人の気配が感じられなかった。 事前に聞いていた通り、日中のこの時間は皆、学校や仕事に行っていて留守なのだろう。 「……合鍵の類は近くに置いていないようだな」 目的とする部屋の前に立ち、扉の周囲を透視とサイレントメモリーで探っていた『ナイトビジョン』秋月・瞳(BNE001876)が、やや残念そうに仲間達へと告げる。それを聞き、『錆びない心《ステンレス》』鈴懸 躑躅子(BNE000133)が、ヘアピンを取り出してドアノブの前に屈みこんだ。 「ダメで元々ですね。壊さないですむならそっちの方がいいですから」 曲げたヘアピンを鍵穴に挿し、ピッキングを試みる。その様子を横目に眺めつつ、『嗜虐の殺戮天使』ティアリア・フォン・シュッツヒェン(BNE003064)がアパートを中心に人払いの結界を張った。住人が戻ってくる可能性は低いだろうが、備えておくに越したことはない。ティアリアの傍らには、彼女に仕える執事である『忠義の瞳』アルバート・ディーツェル(BNE003460)が黙って控えていた。 耳を澄ませ、それとなく周囲を警戒する蘭堂・かるた(BNE001675)が、ふと口を開く。 「自分の趣味を周囲に隠し続けるというのは……辛いでしょうし、面倒も多いのでしょうね」 家主の留守に侵入するという任務の性質上、リベリスタ達が家主本人と顔を合わせることはまず無い。だから、考えても無意味なのかもしれないが。 「まあ、誰にだって知られたくない趣味というものはあるものです」 かるたの言葉に、明神 暖之介(BNE003353)が眠たげな目で答える。いたって柔和そのものの口調で、彼は続けた。 「しかし、ご本人には知る由の無い事であるとはいえ、こういった形で趣味が暴かれるというのは、少し気の毒ですね」 とはいえ、エリューション能力を持たない一般人のもとにアーティファクトがあるという事実、そして、そのアーティファクトが持ち主に害を及ぼすとなれば、放っておくわけにもいくまい。 開錠に挑戦する躑躅子を見守っていた『勇者を目指す少女』真雁 光(BNE002532)が、彼女の隣に屈み、手元を覗き込んだ。 「開きそうです?」 「やっぱりダメですね~」 流石に、構造が単純な南京錠などとは訳が違う。付け焼刃のピッキングでどうにかするには無理があった。 「少々強行手段となりますね」 「壊して入りましょう」 それならそれで、当初の予定通りに事を進めるまで。アルバートの言葉に、ティアリアは事も無げに頷いた。 かるたの、幾つもの刃を連結させた長剣が扉の鍵を破壊する。 「住宅内に土足で上がるのは気が引けますが……」 若干の後ろめたさを覚えつつ、かるたは部屋の中へと足を踏み入れた。 ●魅惑の本棚 部屋に入った小鳥遊・茉莉(BNE002647)が、ぐるりと室内を見渡す。 男子大学生の部屋と聞いていたが、一人暮らしにしてはそれなりに整頓されているようだ。もっとも、一番散らかりそうなものを全て一箇所に纏めて仕舞いこんでいる、ということも大きいのだろうが。 それらを仕舞いこんでいるはずの本棚――アーティファクト『ドリーム・イン・ザ・シェルフ』は、壁際、テレビやオーディオ機器が置かれた棚の隣にあった。 「無限に収納できる本棚! なんてうらやましいんでしょう」 躑躅子が、それを見て思わず声を上げる。エリューション能力を持たない人間には、中に仕舞った物の正体はわからない、ということだったが、リベリスタである彼女にはガラス戸を通してしっかりと見ることができた。アニメのBD-BOXやプラモデルの箱、美少女フィギュアから、ちょっと年齢制限のかかっていそうなゲームや漫画まで、棚の奥行きを無視してずらっと並んでいる。 「我が家に欲しいですね。家族が多いもので、本やらアルバムやらが溢れがちでして」 勿論、代償が無ければの話ですがね――と、暖之介がしみじみと言った。なにしろ、このアーティファクトには所有者の欲望を煽り、収納する物を際限なく増やさせるという副作用がある。便利なだけで済まないのが、なんとも残念なところだ。 「好きなだけ収納できるスペースとかちょっと羨ましいですよ。ボクもカッコいい武器とかたくさん収集したいです」 棚に並ぶBD-BOXにファンタジーアニメが含まれていないかを探しつつ、光もそんなことを口にする。『ドリーム・イン・ザ・シェルフ』を覗き見る仲間達の数歩後ろに立つティアリアが、嗜虐的な笑みを浮かべた。 「ふふ、良い趣味だこと」 なるほど、持ち主にとっては都合の良いアーティファクトだったのだろう。――けれど、もうおしまい。 「……いやはや。初任務の相手が、このような個人の嗜好の具現化とは」 同じく、ティアリアの隣で『ドリーム・イン・ザ・シェルフ』を見ていたアルバートが、率直な感想を漏らした。直後、自分を見る主の視線を受けて「これも任務ですから、当然真面目に取り組みますとも」と襟を正して答える。 「趣味なんてものは人それぞれなんだから、もっと堂々としていれば良いと思うんだがな」 瞳は棚に詰まったコレクションを眺めてそう呟いたが、その中にやけに露出度の高いアニメ美少女のフィギュアを発見すると、一言こう付け加えた。 「……まぁ、流石にこんなフィギュアを彼氏が持っていたら百年の恋も冷めるのかもしれないがな」 室内を一通り見て回り、他に貴重品がないことを確かめたかるたが、『ドリーム・イン・ザ・シェルフ』の隣にあるオーディオ機器の棚を隅の方にずらして退避する。戦闘に巻き込まれ、壊れてしまわないようにという配慮だった。 「みなさん、準備は良いですか?」 退避を終え、片腕にマントを引っ掛けたかるたが、仲間達に問う。全員が頷く中、アルバートが脳の伝達処理を高め、戦闘に向けて自らを集中に導いた。 『ドリーム・イン・ザ・シェルフ』の側面から、かるたが剣を振り上げる。直後、棚のガラス戸が開き、三体のエリューション・フォースが姿を現した。 ●妄想の自主規制 「まあ」 眼前に出現したエリューション・フォース――正確にはそのうちの一体を見て、躑躅子は思わず目を丸くした。 話に聞いてはいたが、アニメタッチの金髪の女性の首から下がモザイク状にぼやけている。全身ただの肌色にしか見えないといえばそうだが、どうにもいかがわしい。 かるたが、肌色の女性に向けてマントを投げた。これで敵の能力を防げるかどうかは怪しいが、多少は時間稼ぎになるだろう。マントを被せた部分すらモザイク処理されているのは、この際気にしないことにする。気にしたら負けだ。 アルバートがオーラの糸を紡ぎ、肌色の女性の周囲に罠を展開する。が、肌色の女性はすんでのところで糸の束縛から逃れ、麻痺を免れた。アルバートと共に後衛に立つティアリアが、活性化させた体内の魔力を循環させ、己の力を高める。 現れたエリューション・フォースを見て、光は「ファンタジー感が足りないです」と、がっかりした声を上げた。 「もっとファンタジーなアニメを見るべきですよ。凶暴なモンスターとか出てきてくれればもっと燃えるですのに」 三体の中では比較的ファンタジーな感じがする猫耳の少女に接敵しつつ、指先から一条の雷を放つ。まさにファンタジー世界の魔法の如く、その雷は室内を自在に駆け巡り、三体の敵全てを貫いた。 丸っこく大きな目をした猫耳の少女が、柔らかそうな肉球で光をぺしぺしと叩く。気の抜けた動作にもかかわらず、その打撃は思いのほか重かった。防御し損ねた光が、僅かに体勢を崩す。躑躅子が大きく前に踏み出して等身大のロボットの前に立ち、全身を輝く防御のオーラで包んだ。 「堂々とできないならやめてしまえ、などという気はありません。誰にでも秘密はありますからね」 あえて趣味の内容そのものには触れずに言う躑躅子に向けて、ロボットの超振動剣が唸りを上げる。まともに食らえば厄介なことになっていただろうが、メンバーの中でも守りに特化した彼女は、それを易々と盾で弾き返した。 瞳が、仲間達に小さな翼を与えて全員の機動力を高める。室内の戦いであるため、飛行能力そのものが生きる場面は少ないだろうが、多少なりとも回避率を上げることに意味があると、彼女は考えていた。 肌色の女性に接近した暖之介の全身から、オーラの糸が伸びる。絡みつこうとする糸をするりとかい潜りつつ、肌色の女性がマントを被ったまま妖しく肢体をくねらせた。 ――何かが見えそうで、見えない。 見たいか、見たくないか、そんな意思にはまったく関係なく、リベリスタ達の心が激しく掻き乱される。防御に徹する躑躅子と、辛うじて影響を逃れたティアリアを除く全員が混乱に陥った。 ティアリアが神々しい光を放ち、彼女の執事を含む、メンバーの半数以上を正気に戻す。 「それにしても……なんで見えないのかしらね。見えても良いでしょうに。そう思わない?」 主のきわどい問いに対して曖昧に答えつつ、アルバートが再度、オーラの糸を展開させた。今度は、見事に肌色の女性を捕らえ、その動きを封じることに成功する。 「無駄に動かれると困ります故、失礼を」 かるたが、すかさず走りこんで肌色の女性に痛烈な一撃を浴びせていく。まともに食らった肌色の女性が吹き飛ばされ、すぐ後ろの壁に叩きつけられた。 「正直なところ、このぼやけた姿とか三体の取り合わせとか理解に苦しみますが」 剣が当てられて、斬れて、吹き飛ばせるなら。――敵としては、何も問題はない。 「えっちなのはだめです」 猫耳の少女の攻撃をしのぎつつ、光がもう一度、指から雷を放つ。部屋への被害は心配だが、長引かせるともっと酷いことになるのが目に見えているので、この場合は仕方がない。出来る限り部屋に置かれた家具などは避けるようにして、敵のみを貫いていく。 躑躅子がさらに光を放ち、残る全員の混乱を払う。ロボットがライフルを構え、眼前にいる彼女と、その向こうに位置するかるたをレーザーで打ち抜いたが、清らかなる存在に呼びかける瞳の詠唱が、癒しの福音となって彼女らの傷を塞いだ。 オーラの糸に縛られ、壁際に追い詰められた肌色の女性の頭部に向けて、暖之介が黒いオーラを放つ。的確に急所を打ち抜いたその一撃の前に、肌色の女性は霧散し、あえなく消滅した。 ●激突、ロボットVSリベリスタ! 肌色の女性が倒れ、残る敵は二体。まずは魅了の技を持つ猫耳の少女を先に倒したいところだが、動きがすばしこく、攻撃を当てていくのが難しい。ここはじっくり狙っていくのが得策と判断し、アルバートは敵の動きを注視しつつ、集中を研ぎ澄ませていく。 彼の隣には、主として仕えるティアリアの姿。 (お嬢様の御勇姿もこの目で見られるのですから、執事冥利に尽きるというもの――) そのティアリアは、敵前に立つ暖之介に光り輝くオーラの鎧を纏わせ、彼の防御力を高める。先に霧散した肌色の女性が、正しく人間の形をしていたのかどうかは、とうとう確かめそびれてしまった。 「蘭堂様、あれがそちらを見ています。気を強く持たれますように」 猫耳の少女に向かうかるたが、アルバートの声にはっとする。今にも泣き出しそうな、媚びるような上目遣い――かるたは視線を振り切るように顔を逸らし、力の限り剣を振るった。ワイヤーで連結された幾つもの刃が唸り、破壊のエネルギーを一点に向けて爆発させる。その一撃の前に、猫耳の少女が甲高い悲鳴とともに消滅した。 ただ一体残ったロボットが、リベリスタ達に向けてレーザーライフルを乱射する。それでも、リベリスタ達は落ち着いて対処に当たり、逆にロボットを囲む形で追い込んでいった。 そんな仲間達の背中を、瞳が癒しの福音を響かせて援護する。攻撃の精度にあまり自信のない彼女は、前に出ながらも防御と回復に徹し、自ら攻撃を行おうとはしなかった。 (“夢”を破壊されるだけで十二分にかわいそう過ぎるのに、住所不定にするわけにもいかないからな) 幸いなことに、敵の攻撃は部屋を破壊するほど見境なしではない。だが、こちらが攻撃の狙いを派手に外せば、思わぬ被害が出てしまう可能性があった。 しかし――彼女やティアリアのように回復に徹する者がいるからこそ、攻撃役も活きるというものだ。麻痺を与えるより火力で叩いた方が有効と判断した暖之介が、ロボットの頭部を狙って黒いオーラを伸ばす。ここまで防御に徹していた躑躅子も、攻勢に転じた。 「覚えたての技です!」 両手に構えた大型の盾が、一点の曇りもない輝きを放つ。盾に込められた破邪の力がロボットを強烈に打ち据え、その手からレーザーライフルを叩き落した。 なおも諦めずに超振動剣を繰り出すロボット。光が、両腕に構えた勇者の剣でそれを受け止め、激しく火花を散らす。 「――これで、止めなのですよ!」 大上段から振り下ろされる光の剣が強く輝き、ファンタジー世界から飛び出した勇者の必殺技もかくやと、ロボットを一刀両断に斬り伏せた。 ●“夢”のあと 戦いの後、『ドリーム・イン・ザ・シェルフ』は呆気なく破壊された。アーティファクトとしての機能を失った小さな本棚から、雑多な物が床に溢れる。 暖之介はそれを眺めながら、愛する子供たちの顔をひとりひとり思い浮かべ、小さく肩を竦めた。 「……我が家の子供達の趣味。気になりますが、暖かく見守るのが親の務めですね」 かるたは耳を澄ませて、アパートの周辺で騒ぎになっていないかを探る。戦闘で結構な物音を立ててしまったが、幸い付近の住民には気付かれていないようだ。少し安堵して、かるたは光とともに物取りに遭ったかのように室内を適度に散らかし、偽装を行う。 瞳は、床に散らばった男子大学生の“夢”をざっと整理して纏め、その上からシーツを被せてやった。 「万が一、彼女に見られでもしたら申し訳ないからな」 そういえば、と躑躅子が声を上げる。 「侵入や戦闘で生じた彼への損害はアークのほうで補填していただけるんでしょうか?」 彼女の問いに答えられる者は、この場にはいなかった。本人に事情を説明するわけにはいかないから、アークから大っぴらに補償を行うわけにはいかないだろうが……そうと知られぬよう、何とか手を回してくれることを祈るばかりだ。 一通り現場の偽装を終えてしまえば、もう現場に長居は無用である。リベリスタ達は、鍵の壊れた扉から手早く撤収を開始した。 アルバートを伴い最後尾にいたティアリアが、仲間達の目を盗んで、家主が最も奥に仕舞いこんでいた彼の“夢”を、一番目立つ机の上に置く。 (帰ってきて浮かべるであろう驚愕、絶望の顔が見れないのが残念だわ。ふふっ) 彼女の執事たるアルバートは、主の行動に気付きはしたものの、あえて口を出すことはしなかった。何も見なかったといった風情で、ティアリアの後に続いて部屋を出る。 帰り道、躑躅子が『ドリーム・イン・ザ・シェルフ』の特徴を思い起こしながら、誰にともなく呟いた。 「ラボに報告して、同じような物を作ってもらいたいですね~」 それがもし実現した暁には、今度こそ“夢”の詰まった棚になることだろう。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|