●ねんし(棒読み) 明けましておめでとうございます、とそこかしこから声がする。 新しい年がきた。新しい朝がきた。 喜び勇んで外を走れ。今なら虫は寒くて動けぬ。 あの馬鹿も寒さで動け…… 『――おォい、俺様喪中のこの中でおめでとうございますとか調子ノってんじゃねぇぜ。こちとら知人の大量死なンだ、冗談じゃねえ。分かってネェんだ現実を。理解が足りないんだ野郎共。今年も初めから最悪だって理解させて、お前らに消えない傷跡を与えようなんて思うわけサ。ひゅーっ、素敵だね俺! 拍手だ! 今回の趣向ってばサイッコーだぜ? お前ら好きだろBL? とかGL? とか。キライ? 冗談吐かせよ、吐き出せよ。全部見届けてやっからさあ……!』 流石に無理か。 ●機械男と包帯男、あとロリ 「夜倉様、ぼーいずらぶ……って何ですか?嫌な予感しかしないのですが念の為に確認しても宜しいですか? あとテラーナイト様がノーパンだったっていうのまで視えたんですけどどうしたらいいんですかコレ」 「名古屋君」 「ハイ? 何ですか夜倉様、何か目がマジですぞ?」 「この手合いを君だけに任せるのは流石に得策ではありません。かといって、僕が救援を出しても百パーセントの結果を出せるかは未知数です」 「は、はあ……夜倉様、何か企んでませんか?」 「そこで、今回はイヴ君にも手伝って貰います。三部隊による一斉行動で何とか片付けざるを得ません」 「……夜倉様、それって夜倉様がお一人で三部隊まとめれば」 「シャラップ。名古屋君だってこんなの一人で仕切れって言われてどうします? こういう時だからこそのフォーチュナ分業制ですよ」 「分業制でしたっけ……」 ● 「――今回は、夜倉に一つ貸し。ということにする。絶対に報いてもらう……!」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)、年初の呪い。 純白の君よ、健やかに育て。 「ここのとこ売出し中というか、よく出張ってくるというか。例のアレなのだけれど」 ああ、あれね、あれ。 日本語、便利。 スピーカーからは、巷をお騒がせ……する前に、アークに沈静化されて地団駄ふんでるフィクサード「テラーナイト・コックローチ」のがなり声がわんわんと流れている。 「年末の蚊柱のときはリア撲だった。今年はみんなにトラウマプレゼントしたいらしい」 辛いことでもあったんだろうね。と、文字通り他人事という具合でイヴ。 モニターが切り替わる。 廃屋。お化け屋敷といわれたら、さもありなんというほど廃屋。 「ここに、テラーナイトがくもを三匹仕込んだ。識別名『アラクネー』」 中はくもの巣だらけだ。 空間の全てがくもの巣で埋め尽くされている。 くもの巣に触れずに移動とか、無理。 少なくとも一人には犠牲になってもらわないと。 「このくもの巣のべたべた、皮膚から吸収されると、一番最初に目に入った同性に動悸、息切れ、めまい、熱などの身体症状から、具合が悪くなる。早い話、恋患いが発生する」 イヴ先生。今、同性とおっしゃいましたか。 「全身から愛情表現あふれるようになるから。こないだ桃子がうまいこと言ってた。なんだっけ。ポンコツ?」 うわ~。 「視線とか。気配とか。非常に饒舌になる。延々と恋心を吐露し続ける。戦闘は続けられるから、その点は安心」 つまり、ずっと空気が春になるんですね、わかります。 「三角関係とか、目も当てられない」 空気がぎすぎすするんですね、分かります。 「くもを倒せば、効果は消えるから」 え。BS回復は!? 意志の力は? 「特殊なフェロモンで邸内が満たされてる。一度反応を示すと、フェロモン濃度が薄い外に出るまで、そのまんま。戦闘中に大掃除始める余裕があればいいけど。そんな余裕在るわけない」 青い顔で後ずさるリベリスタに、イヴは言った。 「倒してしまえば、問題ない。このくもが増えたり、大きくなる前に。さっさと倒してきて」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2012年01月23日(月)23:11 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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● 「良くもまぁこんなことを考え付くものだわね。うふふふふ、脳内死刑フィクサードリストに追加っと。」 『紅瞳の小夜啼鳥』ジル・サニースカイ(BNE002960)は、低く笑いながらそんなことを言う。 というか、心にリストができるほど処刑対象がいるのか。 世にフィクサードの種は尽きまじ。 「それはともあれ、この廃屋に突入するのね」 ど廃屋。たっぷりとした土地を利用した、贅沢な平屋建て。 かつては瀟洒であったのだろうと察しがつく意匠。 玄関の扉から、障害物競争的に張り巡らされた蜘蛛の巣トンネル。 「……覚悟は、生まれた時に済ませておくものよ、うん」 リベリスタの頬に乾いた笑みが浮かんだ。 「いつかふん捕まえてやるあのごきぶり野郎……! というのはおいといて。狙いが一般人からリベリスタにシフトしてるのは良い傾向よね」 『ソリッドガール』アンナ・クロストン(BNE001816) 、自己犠牲精神旺盛? 「……いいじゃない。阿鼻叫喚確定なんだから、最初ぐらい真面目な話したって!?」 アンナがそう言うのにも訳がある。 「あらまたテラーナイトですか。相変わらず、『素敵』な趣味で……。とは言え、困った敵ですね」 小鳥遊・茉莉(BNE002647) がやや嬉しそうなのは、彼女がガチ百合だからである。 「可愛い女の子とか美人の女の人とか、たくさん居て目移りしちゃうの」 どんなものでも美味しくいただけますな『Unlucky Seven』七斜 菜々那(BNE003412)のゴスロリ服の下のスイカ胸は、期待で爆発しそうである。 うわぉ、スペクタクル。 (やっぱり誰が相手かって大事なの。ナナも可愛くておっぱいも大きいけど、自分のおっぱい揉んだって全然嬉しくないの。誰かを揉んでナンボなの! もちろんナナが誰かに揉まれる側も歓迎なの!) 熱く、激しく、情熱的に! こんなん混じってますけどぉ。 できれば、事前に知りたくなかった。 リベリスタのプロフィールには、命を預けるお互いの相互理解を深めるため趣味性癖を書く欄があります。 あけっぴろげすぎて、時々泣けます。 「『全部見届けてやっからさあ……!』ですか。あらあらうふふ、なんて可愛らしい。まるで初めて果実を目にした少年のよう」 『銀の月』アーデルハイト・フォン・シュピーゲル(BNE000497)は、テラーナイトのラジオジャックを思い出し、ころころと笑い声を上げる。 「 貴族で吸血鬼で魔女で熟女で人妻なんて、”この世界”ではどれ程に恐ろしい存在であるのかをご存じ無い。誑かされずとも、本気を出したら報告書に書けませんよ」 それ、涙が出るほど困るんでやめてください。 「男性でも女性でも素敵な人は好きですよ。わたしの周りには魅力的な女性がたくさんいますよ。蜘蛛なんかいなくても、いつもと変わりません」 『下策士』門真 螢(BNE001036)さん、それは安心していいの? 危機に感じればいいの? 養蜂農家御用達、宇宙服みたいな防護服きて、少しでも正気を保とうというその努力、イエスだね。 「百合の花は好きですが、私自身が咲かせるのは御免蒙りたいものです。早々に片付けてしまいましょう」 『蛇巫の血統』三輪 大和(BNE002273)、一番槍を志願。 突入しますよ。 というか、百合、見る分にはいいのか。え? そういう意味じゃないの? 「こんな危険な蜘蛛、絶対に逃がしてなるものですか。蜘蛛を逃がさないようにブロックです!」 発達した三半規管。粘着しない縦糸の上だけを歩く荒業披露。 いや、あの、ぶっちぎってもらえないと。 後ろの人たちはそんなに器用じゃないので、みんな蜘蛛の巣引っかかるというかいうかいうか……。 よぉ~し、その覚悟受け取ったぁ! ● 気配はする。 赤い蜘蛛、青い蜘蛛、黄色い蜘蛛。 テラーナイト謹製「アラクネー」 残像は見える。 ならば、当てられない訳がない。 スパイクつき靴で踏みしめると、ふっかりした感触がするほど積み重なった蜘蛛の糸。 アンナが、AFから青いビニールシートを取り出し、ばさばさと投げ込んで広げた。 (糸の上に一枚被せれば少しマシになるかなとか。向こうが糸吐いたら無駄だけど、1Tでも楽になるなら試してもいいでしょ) 螢衣によって、二重三重に結界が張られ、空気がリベリスタに味方し始める。 そして立ち込めていた擬似フェロモンは、リベリスタ達の中にゆっくりと浸透し始めていた。 『不誉れの弓』那須野・与市(BNE002759)は弓を番えていた。 (ものすごく回避する蜘蛛が相手らしいのじゃ。よくわからんのじゃが厄介な能力も持っているようじゃの。この矢はどうせ当らない。それでも少しは役立てるように頑張りたいとは思うのじゃ) なぜならば。 (見るだけで息が吸えなくなる、みてるだけで幸せなのじゃ) 金色の揺らめきが、与一の心も揺らめかせる。 (……見てるだけでいいのじゃ。見てるだけでいいから……誰かこみ上げる涙をなんとかしてくれんかぇ?敵を…的を射抜くことが出来んのじゃ。的を射ぬけぬと褒めてもらえぬ……それだけは嫌じゃ。そうじゃ、敵を上手く射抜ければあの人はきっと褒めてくれるのじゃ。頭を撫でてくれるに違いないのじゃ……) ポジティブにネガティブな与一がここまで断言するのは自分の弓が当たらないという主張くらいだ。 断言するには訳がある。 過去の経験則だ。 「おお、よしよし」 お姉様の指が、与一の涙をぬぐった。 「……ところでトランプの兵隊の時にも思ってたけど与市ちゃんって可愛いわよね。いちいちだめじゃだめじゃと言ってる当たりが保護欲を掻き立てられて胸キュン」 いつぞやの依頼で、一緒になって深夜のご町内駆けずり回り、作戦終了時、お疲れ様と頭をなでてくれたのは、金髪眼鏡のアンナだった。 「なによなによ謙遜しちゃって戦闘終わったらしこたま撫でてやるわようーふーふー」 今、ちょっとお目目ぐるぐる状態ですが、全身からキラキラと光を放つアンナさんを見ているだけで幸せがこみあげてくる。 はい、もちろん。おでこは関係ありません。 (今回はどうにも、厄介というか……面妖な能力を持つ敵であるな……) 『硝子色の幻想』アイリ・クレンス(BNE003000) にも、そんなことを冷静に考えられる時期もありました。 「視線を交わすだけで、胸が高鳴る……こんな気持ちは久々であるな。好きな相手と触れ合うのが好きだ。手に触れ、指を絡ませる。髪に、耳に、頬に、唇に触れて相手を感じるのだ。そっと身を寄せ合った時に伝わってくるあの体温も良い」 孤児院でみんなと一緒にぎゅっとして寝たやさしい思い出。 今、高鳴る胸はラブビート。燃える想いはパッショネート。叫ばなくっちゃ、マイディアー! 「好きだ! そなたが欲しい!」 「ナナは大歓迎なの~!!」 15歳の華奢な肢体が18歳のわがままバディにダ~イブ! 「さぁ、共にこやつらを蹴散らそう。これは私たちの、はじめての共同作業だ!!」 菜々那のおめめは、愛理のがばっと胸元が開いた青いドレスに隠された神秘の白い谷間に釘付けである。 いやぁん、指突っ込みたぁい。 「そして、この舞台の幕が下りたならば、深く深く愛し合おう」 じゅるん。 菜々那は、集中を始めた。 お邪魔な蜘蛛をさっさと片付けるために。 もむの。あの白いの、もむの。 ● かつてはられた蜘蛛の糸、今つむがれてる蜘蛛の糸、これから飛んでくるであろう蜘蛛の糸。 20メートル四方、ダンスホールもかくやの大広間は、ばかげてでかい蜘蛛の巣によってべたべたするは、ムンムンするは、そもそもホコリ臭いは。で、たまったものではない。 『さまようよろい』鎧 盾(BNE003210) も、喧騒の中に巻き込まれている。 (相変わらずろくでもないものを作ってるのだな……色々と大変そうな事になりそうだが……なに、金の為だ。覚悟は完了している。しっかり潰すと致そうか) 「……だめです。限界にきました」 螢衣が、蜘蛛の糸が落ちているブルーシートに膝をついた。 するすると防護服をかなぐり捨てる。 見て、これが、本当のわたし! 「わたし、寂しいんです。みんなカップルつくってて、わたしだけが一人ぼっち。わたしの心を蕩けさせてくれる方はいらっしゃいませんか。抱きしめてくださる方はいらっしゃいませんか。熱いものが胸からあふれてきて止まらないんです」 落ち着いて見えるけど、まだ17歳の女の子なんだもの。 アーデルハイドの胸にこみ上げてくるものがある。 螢衣を抱き締めながら、 「ほら、可愛い顔が台無しですよ」 顔に付いた蜘蛛の巣の銀色のキラキラを純白のハンカチで拭った。 (良いですねぇ、若いって。好奇心旺盛な子猫のよう。撫でるも遊ぶも甘噛みされるも愛おしい) うっとりと頬をぬぐわれままにし螢衣は、かさかさ動く蜘蛛を一瞥した。 「蜘蛛はどこかに行っててください。鴉、その汚物を追い出しなさい」 放たれた符が蜘蛛に飛び、蜘蛛の足を一本さらっていく。 ● 「この程度の毒など消し去ってくれよう」 前に出て文字通りみなの盾代わりに案っている盾の凶事払いの光で、こみ上げてくるような熱っぽさは緩和されるが、この熱い想いはとめられないの。 どうしよう、ハートビート。あの人の瞳はダイヤモンド。 (恋わずらい、か。私には愛を囁き、接吻を交わす唇もない。触れる為の指も、抱き締めるべき腕も鋼で覆った私にできるのはただそこにあるだけだ。言葉など要らぬ) 擬似フェロモンは、自分と「同性と確認した最初の相手」に対象をしぼり込ませる。 視認のため、どうしても鎧で全てを覆った盾に懸想をする者はいない。 ぶっちゃけ、ぼっち。 (……まあ、その、なんだ。普段はそうは思っていても、この特殊な状況下で貫き通せるかは……不明だが、な。どんな自分が曝け出されようと金の為だ。覚悟は出来ているさ) え、え~と。 あの、ごめん。 「貴方達……今、ジルさんを傷付けましたね?」 大和の背中に控えていた影が怒りの炎に姿を変える。 「それが、どれだけ罪深い事か心得ていますか? ……ああ、結構。心得ていなくとも構いません。」 手に握られた道化のカードが、蜘蛛に破滅の運命を与えるべく、更なる大和の心が乗せられる。 「冷静に、確実に、1匹残らず、この世から滅してあげますから……魂の一片たりとも残せぬと知りなさい!」 でも、そんな健気な大和の心いざ知らず。 うふふ、うふふと不気味な鳴き声を発しつつ、ジルの目は茉莉に集中。 放つ魔弾は蜘蛛の胴体を穿っていく。 ぶんっ! と音がするほど激しく振り返り、空中にわずかに浮く茉莉を見上げるお目目は、ご褒美をねだるワンコ状態。 なでて~、なでて~。く~んく~ん。 「ジルさん、素敵」 癒し系ガチ百合、ジルのハートわしづかみ。 (ああかわいい、飛んでる羽根がぱたぱたしてるのがかわいい、詠唱してる唇がかわいい) 茉莉さんが詠唱してるの、死ぬほど物騒な魔曲ですよ。 「好きだと伝えたい。唇を交わしたい。愛しさが体の内側からあふれ出して、この身を引き裂きそうなくらいだ」 劇団出身アイリ、ただいま集中の真っ最中。 小さな紫の花が咲いたりするとき、やたらと幅の狭い階段から羽根つけて降りてくる感じでお読みください。 「しかし……もしも他の誰かを見ていては、心がきゅっと締め付けられるようで切なくなる……」 苦悩のポーズを決めつつ、蜘蛛に集中。熱くはげしいタメをお楽しみください。 「私のことだけを見ていてほしい!」 かっこいいポーズからの音速の刃をお楽しみください。 「この舞台の最中、周りの目を盗んで、唇を交わすことは出来ないだろうか。いや、周りの視線に晒されながら……というのも悪くはないかな……ふふふ」 再び妄想という名のタメをお楽しみください。 「ナナはいつでも構わないの」 見つめあう瞳、絡み合う指先。 君ら、そういうことは蜘蛛全部倒して、正気に戻って、なおかつ同意を得られてからにしたまえ~!! ● 男子は、彼女ができると集中できなくて成績が下がる。 女子は、彼氏ができると奮起して成績が上がる。 では、女子に彼女ができるとどうなるかというと、相乗効果で調子に乗りまくる。 だって、好きな人が見ててくれるんだもの。 好きな人は見ていたいんだもの。 好きな人に、褒めてもらいたいんだもの! そのためには……。 「あ、こんなところにひどい傷が……でも手がふさがってるんです。はい、口移しにお札です」 「うふふ、螢衣さん、かわいい唇ね」 「ああ、お願いします。あなたの微笑みが欲しいんです。もうわたしのブレーキは壊れました。わたしを捕まえて、わたしに唇の赤切符を切ってください!」 「与一ちゃん、しとめるなんて! いいこ、いいこ、いいこ~!」 「ほめてくれるのかえ、わらわをほめてくれるのかえ?」 「あああ、ひらりとしたスカートからのぞく足ももかわいい」 「白魚のようなあの指に触れてもらえたなら、触れることができたなら、鈴を転がしたような声で名前を呼んでもらえたなら……きっとそれだけで私」 「なんですか、大和さん! あなた、茉莉さんのこと好きなんですか、きいぃ!」 「違います。私が好きなのは、ジルさんです! ああ、やっと名前を読んでいただけた。それだけで私、幸せです! 十年戦えます!」 「そこの蜘蛛、邪魔です。馬に蹴られて死になさい」 女の子は無敵。 実年齢はいくつだろうと、恋する女の子は無敵なのだ。 ● 蜘蛛を倒しても、館の中には濃密な擬似フェロモンが充満していた。 盾がいちゃこらいちゃこらしている即席百合達を、廃屋の中から連れ出していく。 外の正常な空気が少しずつ彼女達の頭を明晰にし。 それと一緒に薄れたりしない濃密な記憶に、懊悩する。 (ああ、十年戦えるとか言っちゃいました……) 大和はアスファルトにがっくり手を突いて、自分の言動だのやったことだの思い返すと、涙目で身悶え。 次、依頼で一緒になったとき、どんな顔すればいいの。 (本心でないとはいえ、あのようなことを口にするなど……しかし、あの胸の高鳴り……わ、悪くはなかった) アイリ、思い出して、ぽと頬に血が上る。 そんなアイリに、菜々那、手とか振ってるし。 「……うぐおおおお! ノーカン! 可愛いと思ってるのはウソじゃないけどアレはノーカンで!」 アレって、どれだ? さっきまでの与一さんにデッレデレの自分のことは忘れたいアンナさんは、きれいな金髪ぐしゃぐしゃにかき回しながら、空に絶叫。 「いいのじゃ、わらわ、わかっておるのじゃ。アンナ様が褒めてくれたのは、蜘蛛のせいでおかしくなっていただけなのじゃ。わらわを褒めてくれる人などあるわけがないのじゃ」 心配しなくていいのじゃ、っと、ポジティブにネガティブなことを言い放つ与一さんが、かわいい。 「うわ~! それをノーカンにしたいわけじゃないのよ~ぉ!」 どうしたらいいの、このほんのり色づきっぱなしの空気どうしたらいいの? (屋敷に火を放ちたい気分だが……叶わぬならアークの事後処理部隊に任せて帰るとしよう) 盾はそんなことを考えながら、幌つきトラックを取りにいく。 アーデルハイドは螢衣の耳元に唇を寄せて囁いた。 「帰ったら私の部屋へお越しくださいな。でも、皆には内緒ですよ。魔法が解けてしまうから」 貴族で吸血鬼で魔女で熟女で人妻のシュピーゲル家の奥方様は、報告書に書けない本気をお持ちと、承っております。 結局、盾をのぞいたリベリスタは、大量に吸い込んだ埃と、熱と極度の興奮状態を長時間続けたことから来る脱水症状で入院。 大部屋でベッド並べて点滴を受けることになった。 盾は、結局みんなに付き合って、りんごをウサギさんにむいてくれた。 ああ、一過性の恋の病。 まやかしごとだということは、百も分かっているけれど。 眠るあなたの横顔に問いかける。 目が覚めて、心臓の鼓動がまた跳ね上がったら。 あなたの手をとりたいと思う気持ちは、罪ですか? |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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