●岐路へのカウントダウン ――何のために生きてるんだろうって、ずっと思ってた。 小さい頃から、僕はいつも一人きりで。 周りの子達が簡単に友達を作れるのが、僕には信じられなかった。 親は仕事だの何だの理由をつけてほったらかしだったし、他に頼る人もいない。 “力”を手に入れたことで、僕と周りの溝は決定的になった。 もちろん、この“力”のことは誰にも話していない。 でも、僕にはわかる。皆、僕のことを気味が悪いと思っている。 どうして、この世界は僕なんかを許したんだろう。 許してもらったところで、僕の居場所なんて、どこにもないのに。 だから――僕はこの“爆弾”を手に入れた。 “爆弾”が爆発するのは、明日。 始業式で、全校生徒が体育館に集まっているはずの時間。 きっと、たくさんの人が死ぬ。 人を殺してしまえば、もう引き返せない。 でも、この世界にはもう、僕にとっての希望なんてない。 誰も僕を見ようとしないし、理解なんてできっこない。 だから、僕はこの一歩を踏み出す。壊す側に回る。 僕を許したくせに、僕の居場所をくれなかった、この世界を――。 ●爆弾処理班 「急を要する任務です。皆様には今夜、現場に向かっていただきます」 アーク本部のブリーフィングルームで、『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)が、集まったリベリスタ達を見回す。正面のスクリーンには、学校の校舎と、その地図が映し出されていた。 「今夜、こちらの学校の体育館に殺傷力の高いアーティファクトが仕掛けられる事になります。放っておけば、多くの死者が出るでしょう」 そのアーティファクトとは何か、というリベリスタの問いに、和泉は一拍置いて答える。 「簡単に言えば、時限爆弾のようなもの――でしょうか」 スクリーンの表示が切り替わり、赤い懐中時計のような品物が映った。 「このアーティファクト、『クロック・オブ・ザ・フレイム』と仮に呼称しますが……ご覧の通り、手の平に収まるほどの大きさをした懐中時計の形をしています」 時計の裏面にあたる部分を指し、和泉は説明を続ける。 「裏面の蓋を外すとシール状の接着面が露出し、平面であればどこでも貼り付けて設置することが可能です。そして、設置した瞬間から活性化し、あらかじめ所有者の定めた時間に爆発します」 その爆発はアーティファクトを中心に半径30メートルに及び、高い殺傷力を誇る。一般人であれば、まず即死は免れないだろう。 リベリスタの一人が、その爆弾アーティファクトを解除する方法はあるのかと問う。和泉は頷き、説明に移った。 「解除自体は、『クロック・オブ・ザ・フレイム』を設置面から剥がせば良いのですが……それを行おうとすると、四体のエリューション・エレメントが出現し、攻撃を仕掛けてきます」 スクリーンがさらに切り替わり、今度はエリューションのデータが表示される。 「エリューション・エレメントのフェーズは2、人型をした炎と言うべき外見で、見た目通り炎や爆発を自在に操ります」 四体揃った状態での攻撃力はかなり高いので注意して下さいと、和泉は言葉を付け加えた。 「アーティファクトの所有者は折本奏一という名のフィクサード。ジーニアスのプロアデプトで年齢は14歳、この学校に通う中学二年生です」 最後に、線の細い少年の写真をスクリーンに映してから、和泉は集まったリベリスタ達の顔を見る。 「今回の任務は『クロック・オブ・ザ・フレイム』の解除と破壊、そして所有者であるフィクサードの捕縛あるいは殺害となります」 手にしたファイルを閉じ、和泉は深く頭を下げた。 「情報は以上です。――皆様には至急の対処を要請します」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:宮橋輝 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年01月16日(月)23:07 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●革醒者の孤独 “爆弾”を設置し終えた後、折本奏一はステージから下りて体育館を見渡した。明日、ここは爆炎に包まれて灰になる。自分を受け入れなかったクラスメイトや教師と一緒に、消えて無くなる。 もう後戻りはできないし、ここでする事も残っていない。それなのに――奏一はただ、その場に立ち尽くしていた。目を伏せ、拳を握り締めて。 体育館から扉一つ隔てた廊下で、八人のリベリスタが突入の準備を整えていた。 「……中、照明落とされてるな。暗くてよく見えねえ」 扉越しに体育館の中を見ようとした『雷帝』アッシュ・ザ・ライトニング(BNE001789)が、軽く舌打ちする。物質を透かし見る事はできても、暗闇を見通す力はない。今回のメンバーにも、その双方を兼ね備えた者はいなかった。扉から光が漏れないよう注意しながら、来栖 奏音(BNE002598)が自らの足元を発光させる。 「やっぱり、鍵かかってる」 扉に軽く手をかけた『蒼き炎』葛木 猛(BNE002455)が、潜めた声で仲間達に伝える。『Dr.Faker』オーウェン・ロザイク(BNE000638)が、鍵は俺が何とかしよう、と頷きを返した。 「革醒者の悲哀……と呼べるかしら」 愛銃のバレルに取り付けたタクティカルライトを確かめ、『鋼脚のマスケティア』ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)が体育館の扉を見据える。革醒で孤独を強めてしまった少年――彼が人生の岐路に立っていることは間違いない。 「けれど、彼はまだ引き返せる。踏み止まれる。決して道を違えさせないわ」 その言葉に、『不屈』神谷 要(BNE002861)が大きく頷いた。 「どうにか奏一さんを説得して、アークへ仲間として連れて戻るのを目指したいですね」 目覚めた力を誤った事に使わせたくないし、万一説得が叶わなかったとしても、命を奪うことだけは避けたい。本音を言えば、彼女もまた、同年代の友達が欲しかった。 「ひとりぼっちの気持ちは、よく知っています」 可愛い顔に不似合いな暗視ゴーグルをかけ、『何者でもない』フィネ・ファインベル(BNE003302)が呟く。ずっと眺める側で、それを苦痛と知るだけの賢しさも無くて――でも、あの時感じていたものが寂しさだったんだと、今ならわかる。 仲間達がそれぞれの想いを口にする中、アルジェント・スパーダ(BNE003142)の考えは彼女らのそれとは些か異なっていた。 (何というか……「居場所をくれない」だの「理解してくれない」だのと……とことん受け身な奴だな) 居場所など、誰かに無条件で与えられるものではない。彼はそう思う。 ともあれ、ここで止めねばなるまい。その点で、リベリスタ達の意思は一致していた。 脳の伝達処理を高めたオーウェンが扉をすり抜け、内側から素早く扉の鍵を外す。仲間達が行動を開始すると同時に、彼はそのまま床下へと身を沈めた。 ●誘う声 扉の鍵が開く小さな音を聞き、奏一は弾かれたように振り返った。勢い良く扉が開かれ、懐中電灯の光が彼の顔に向けられる。 「――!」 奏一が身構える間もなく、反応速度を大いに高めたアッシュが瞬く間に彼との距離を詰めた。 「ようはじめまして、手前が折本奏一だな」 名を言い当てられ、奏一がびくりと体を震わせる。続いて突入したリベリスタ達を見て、彼は完全に顔色を失った。 「俺は葛木猛、折本奏一で間違いねえか?」 念を押すような猛の声に、奏一が小さく頷く。その目は、リベリスタ達が一体何者であるかを、必死で探っているように見えた。 「ご機嫌よう……貴方と同じ境遇の人間よ」 機械化した黒銀の両脚、そのハイヒールが床を叩く音を響かせ、ミュゼーヌが歩み寄る。その脚を見て、奏一は彼女が自分と同じ革醒者であることを悟った。 「奏一様、フィネとお友達になってください」 「え……?」 フィネの言葉に、奏一が思わず声を上げる。 「あ、鈍くさいの、お嫌いかも、ですが……っ」 「いや、嫌いとか……そういう問題じゃ、なくて」 しどろもどろに弁解する姿からは、彼が本当に人との会話に慣れていない事が窺えた。要は両手を軽く上げ、武器を持っていないことを示しながら、奏一の前に進み出る。 「私達はアークという力を持つ者が集まる組織の者です。単刀直入に言うと、奏一さんを誘いに来ました」 「――僕を……誘いに?」 恐る恐る問う奏一に頷き、要は自らの前髪をかき上げて機械化した瞳を見せる。 「私はこんな目をしているので、普通であれば奇異の目を向けられる事でしょう。ですが、アークではそういった物を隠し暮らす為の術も教わりました」 奏一は、黙って彼女の瞳を見つめる。確かに、人の持つそれとはかけ離れてはいたが――自分に向けられる視線は、どこまでも真っ直ぐだった。 「この世界には、貴方と同じ力の、境遇の者が大勢いる街があるの。そうした者が集う学校だってある。この世界を見限るのは早計じゃないかしら」 ミュゼーヌが、凛とした口調で奏一に語りかける。 「私達と一緒に来て欲しいの。そこなら、きっと貴方の居場所が見つかるわ」 戸惑いの表情を見せる奏一を見て、奏音が軽く首を傾げた。 「う~ん……居場所とか奏音は考えたこともなかったのですよ~」 寝ることが何より大好きな彼女にとっては、ちゃんと家があって、ずっとそこでごろごろ寝ていられるなんて、とても良い環境にも思えるのだが。目の前にいる彼はきっと、それで満足はできないのだろう。 「ふむ……人それぞれなのですねぇ~」 「嘘、だ……僕を受け入れてくれる場所なんて、無かったのに……どこにも」 「……ま、お前の言い分もちっとは認めてやるよ。けど、それと爆弾を使って他人を巻き込むのは話は別だ」 猛の言葉に、奏一の表情が凍った。 自分の名だけでなく、“爆弾”のことも知られているなんて。 「つーかよてめえ、結局は止めて欲しかったんだろ?」 「……そんな、こと」 慌てて首を横に振る奏一に、アッシュは追及の手を緩めない。 「なら、何で現場に留まる必要があるよ。設置して即逃げりゃ良いじゃねえか」 これ以上ないほど、的を射た指摘だった。奏一の顔が、いよいよ色を失う。 恐いと思える気持ちがあるのなら、戻れない訳じゃない。そう確信したアッシュは、口の端に不敵な笑みを浮かべ、奏一に言い放った。 「俺が言うべきこた一つだけよ。――てめえを、止めに来た」 知らず握り締めていた拳が震える。奏一の背中を、冷たい汗が流れた。 「悪い事してる自覚はあンだろう? ……話なら聞いてやるからさ」 諭すような猛の声にも、奏一は頷けない。なぜなら、自分はもう“爆弾”を仕掛けてしまったから。解除は不可能だと、後戻りはできないと――“爆弾”に添付されていた説明書きに記されていたから。 「もう……遅いんだ。僕はもう、止まれない」 震える手で、奏一はパワースタッフを強く握り締める。沈黙を貫いていたアルジェントが、もはや戦いは避けられないと判断して二丁のリボルバーを構える。 「ふむ。気に入らないから全て壊せ、か。敗北主義者が考えそうな事である」 いつの間にか、ステージと奏一の間にオーウェンが立っていた。彼は、ずっと床下に潜んで様子を窺い“爆弾”――『クロック・オブ・ザ・フレイム』と奏一を分断する隙を狙っていたのである。 「その考え方は、実に気に入らない。『勝てないならば他の手を使え』は同意するが、もう少しスマートな手があっただろうしな」 オーウェンの言葉に、奏一は唇を噛んだ。八対一、よほどの実力者でもなければ、覆すことは不可能な戦力差である。それでも後に引けぬと、リベリスタ達を睨む奏一に、アッシュは上等、と笑った。 「だったら目一杯付き合ってやる。足掻いてみろよ全力で」 ●訪れる岐路 速度で圧倒するアッシュの連続攻撃が奏一に襲い掛かる。麻痺だけは辛うじて免れたものの、彼の体には生々しい傷がいくつも刻まれていた。 「痛いか、恐いか、苦しいか?」 力はあれど、実戦経験は無いに等しい。そんな奏一に、死の恐怖が圧し掛かる。 「分かるか、これが生きるって事だ」 息を呑む奏一の前に、今度は猛が流水の構えで立つ。 「戦う以上は、遠慮も容赦も無くなるからな。――気合い入れて掛かって来いよ、折本……っ!」 奏一は猛を絡め取ろうとオーラの糸を放つが、難なく回避されてしまった。逆に攻撃の隙を突かれ、オーウェンの展開した糸に捕われてしまう。 「これはこう使うものだ」 要が奏一の前に走り、仲間達に十字の加護を与える。見得を切り、運命を引き寄せたアルジェントは、糸から逃れようともがく奏一を見て、ある疑問をおぼえた。 (……こいつ、本当にフィクサードなのか?) 爆弾で大量殺戮を行おうとした事から、到底リベリスタとは呼べない。しかし、それは私利私欲によるものだろうか。少なくとも、彼の目にはろくに力も扱えない、ただの引きこもりにしか映らなかった。 「聞き分けのない子には……お仕置きよ!」 ミュゼーヌの中折れ式リボルバーから放たれた弾丸が、奏一のパワースタッフを射抜き、彼の手から弾き飛ばす。奏音が体内の魔力を活性化させて自らの力を高めた直後、奏一はようやくオーラの糸の束縛から逃れた。 「居場所なんざ貰うもんじゃねえ、てめえの手で勝ち取るもんだ! 甘えんな! 戦え! てめえ仮にも男だろうが!」 アッシュの言葉が、与えられる痛みが、奏一の心と体を打つ。自分たちの誘いを、すぐに聞き入れるのは難しいと思うから――フィネは、彼に向けて道化のカードを放った。今は、実力行使も辞さない。 「気に入らないなら壊してしまえ? それはタダのガキの言い分である。プランも単純で考えなしだ」 奏一の行動パターンを解析したオーウェンが、容赦のない言葉とともに鋭い連続攻撃を放つ。混乱に陥る奏一に、今度は猛が迫った。 「お前の境遇なんかより、不幸な奴らなんざ幾らでも居るぜ?」 鳩尾に掌打が叩き込まれ、破壊の“気”が荒れ狂う。 「甘えんな、お前はまだ自分で出来ること全部やり尽くしてねえだろ」 奏一の口中に、血の混ざった胃液がこみ上げた。まだ、体は動く。混乱する頭を駆け巡る思考の奔流が、物理的な爆発となって前に立つリベリスタ達へと炸裂した。 理屈を越えた本能の足掻き。死に物狂いのその一撃を、アッシュはあえて回避せず、その身で受け止めた。 「かははっ、何だ。やりゃあ出来るじゃねえか」 吹き飛ばされ、床に叩きつけられたアッシュが、呵々と笑う。直後、我に返った奏一は、再び迫る彼を見て身構えようとし――そして、視界の隅に映った要の姿に愕然とした。 「――私は奏一さんと戦いたくありません」 攻撃を受け、傷つけられたにもかかわらず、要は未だ武器を手にしていない。最初から今まで、彼女はずっと仲間を守るためだけに動き、攻撃の意思すら見せなかった。 「どうして……そこまで」 要の瞳は、さっき彼を誘った時と、些かも変わってはいない。心を揺らがせる奏一に、ミュゼーヌとアルジェントが銃口を向けた。 戦意を完全に砕かれ、奏一がゆっくりと両腕を下ろして視線を伏せる。 彼の耳に、フィネの穏やかな声が届いた。 「将来の夢は、ありますか?」 誕生日は? 趣味は? 好きな食べ物は? 矢継ぎ早の質問に、奏一が顔を上げて彼女を見る。そんな彼に、フィネは照れたように微笑った。 「フィネは、奏一様の事を何も知りません。でも、知りたいって、思います」 そう思う気持ちが、最初の一歩。屈託のないフィネを眩しそうに見つめる奏一に、猛が語りかけた。 「……折本、お前さ。今よりずっといい景色、見たくねえか。もしそうなら、俺らと一緒に来い」 この眩しいところに、自分も居られるだろうか。まだ、間に合うのだろうか。 そっと歩み寄った要が、奏一の手を優しく取った。 「私達の友達になって、正しい事の為に一緒に戦って頂けませんか?」 掌から伝わる温もりが、凍てついた心をゆっくりと溶かす。 「フィネ達に、奏一様と並んで歩く未来をください」 道は一つじゃない。こちら側に一歩踏み出すのは今なのだと、フィネは強く呼びかけた。 溢れた感情が、涙となって奏一の頬を伝う。 「後悔はさせねえ――約束するさ」 要の反対側から差し出された猛の手を取り、奏一は声を殺して泣いた。 ●闇からの悪意 奏一をこちらに引き入れる事は成功したが、やるべき事はまだ残っていた。 「あのアーティファクト、どこから手に入れたんだ?」 猛の問いに、奏一が答える。 「家に小包が届いたんだ。その中に“爆弾”と、この説明書きが入ってた」 ポケットから紙片を取り出し、リベリスタ達に示す。 「差出人の名前はなかったし、誰が送ったかは知らない。本当だよ」 説明書きには『クロック・オブ・ザ・フレイム』の仕様と使い方が書かれていた。ただ、解除方法について「設置後の解除は不可能」と記していたあたり、送り主の悪意を感じる。 「僕はずっと、自分が何の為に生きているかもわからなかった。だから――」 見知らぬ人間が届けた悪意に、まんまと乗ってしまったという訳か。それを聞き、アッシュが片眉を上げた。 「何の為、ね。本気で生きてもねえ奴が理由を問うなんざ傑作だぜ」 返す言葉もなく俯く奏一に、彼はさらに続ける。 「先ず精一杯生きてみろよ。誰の為でもねえ、何かの為にでもねえ。自分の為にな」 そのやりとりを聞き、甘ったれた奴だ、とアルジェントは思う。 (まぁ、そんな奴に危険な玩具を渡してなにやら企んでる奴が一番むかつくが……) まずは、残る“爆弾”を処理せねばなるまい。 「貴方はフィクサードと認定されているけど、今ならまだ未遂で済むわ」 ミュゼーヌの言葉に、奏一が頷く。既に、戦う決意は固めていた。彼が逃げ出すのではと心配して手を繋いでいたフィネに「大丈夫。逃げたり、しないから」と言って、パワースタッフを手に取る。猛が、その隣で彼に笑ってみせた。 かくて、戦いが始まった。教壇に設置された『クロック・オブ・ザ・フレイム』を中心に四体のエリューション・エレメントが現れ、リベリスタ達に襲い掛かる。先手を取ったアッシュが連撃を加え、続いてオーウェンの緻密な攻撃が一体を混乱に陥らせるも、炎の勢いは留まるところを知らない。猛の蹴りが生み出す真空刃、フィネの放った道化のカードを掻い潜り、次々に攻撃を繰り出してくる。混乱による同士討ち狙いも、広範囲を巻き込む爆発を放たれては味方の損害は避けられなかった。 要を中心にして神々しい光が輝き、仲間達を包む炎を払う。ミュゼーヌとアルジェントが、それぞれの銃から無数の弾丸を吐き出し、纏めて敵を穿った。 「マグメイガスなのに回復スキルが一番重宝するというのは……にぃ……」 若干複雑な思いを抱えつつ、奏音が傷を癒す福音を響かせる。しかし、敵の猛攻を前に、回復役が一人きりというのはやはり厳しいものがあった。猛が斬風脚で一体を消滅に追い込んだ直後、残る三体が一斉に爆発を起こす。 「―――!」 運悪く、直撃を食らったアルジェントが吹き飛ばされ、全身を壁に叩きつけられた。運命を引き寄せること叶わず、彼はそのまま意識を失う。 あらかじめ散開を心掛けていたがために傷の浅かったミュゼーヌが、マスケット風の中折れ式リボルバーからさらに激しく弾丸を放った。 「火遊びの後始末よ、消え去りなさい!」 蜂の巣と化した二体目が消滅し、要の聖なる光と奏音の福音が仲間達に再び癒しをもたらした時、流れはリベリスタ達に傾いた。 後方から必死にオーラの糸を放つ奏一の援護を受け、アッシュが一際速く動く。常人はおろか、並のリベリスタにも捉えられないだろう連続攻撃が、炎すら細切れにする勢いで三体目を消し去った。 残るは、一体。漆黒のロングコートを靡かせ、オーウェンが敵との距離を詰める。既にデータは解析済み――守りの脆い一点を狙い、銀色の脚甲が唸りを上げた。 必殺の一撃を叩き込まれたエリューション・エレメントの炎が、消滅の間際にひときわ明るく輝く。 「気に入らないと言うのであれば。スマートに……思考を繰り返し、計画を精密にし、相手に泣いて投降させるのだ。その方が楽しいのではないかね?」 排出された薬莢が床に転がる音と、彼のその一言が、炎の渦巻く戦いの幕を引いた。 程なくして、『クロック・オブ・ザ・フレイム』はリベリスタ達の手により破壊された。これを奏一に届けたのが誰なのか謎は残るが、現状の情報だけではどうする事もできない。後片付けを済ませ、未だ動けぬアルジェントを連れて撤収する。奏一も、要の後についてそれに倣った。 最後尾にいたフィネが、静けさの戻った体育館をふと振り返り、表情を綻ばせる。 暗殺者として育てられた彼女も――この春からは、一人の中学生になる予定だ。 まだ見ぬ学校生活を夢見て、フィネは体育館の扉を静かに閉めた。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|