●遠洋漁業 太平洋。日本の東に位置する、世界最大の海である。 そこには豊富な海洋資源があり、各国の船が乗り入れ、活動を行っている。特に日本にとって重要な資源、それは漁業資源である。 世界でも類を見ないほどに魚介類を食べる日本。太平洋にて獲れる魚介も重要であり、特に…… 「よしよし、今回も大漁だな! 脂の良く乗ったいいマグロだ!」 マグロ。その赤い身は寿司等の料理で使用され、特に脂の乗ったトロと呼ばれる部分は高級品として珍重されている。 その貴重な赤身を手に入れるために、マグロ漁船というものがある。長期間海に出て、マグロに目標を絞り、釣り上げ持ち帰る。それらの食材は食卓を飾り、人々のお腹と心を潤すのだ。 「よーし、そろそろ帰るべ」 今日もこの一艘の船が煌々と明かりを照らし、豊漁に盛り上がっていた。戦利品たる魚介を積み、港への帰港の相談をしていた。その時。 「……ん? 船長、ソナーに変なもん写ってるぞ」 魚群探知機。海中に棲む魚の位置を測定する機材だが、担当するクルーが発見したものは若干異質だった。 他の魚群に対し、圧倒的な速度と大きさを持つ魚影。それが船に向かって近づいてくる。その事をクルーが船長に告げた時―― ガァン! 「な、なんだ!?」 船に衝撃が走り、船上の明かりが一気に減る。失われた明かりを探し、周囲を見回す船長にぱらぱらと細かい粒が降り注いだ。 「……これは、照明の?」 船上にある照明が砕け、降り注いできたのだ。通常ではありえない、不自然な砕け方をした明かりに戸惑う船員達。その中の一人の船員が呆然と呟く。 「俺、見たぞ……さっき照明を打ち砕いたのは、トビウオのように飛んだ巨大な魚だった……」 その瞬間、再度の衝撃が船を襲う。バキバキと破壊音が響き、船が傾き始め…… 漁船は暗い水の底へと沈んで行った。 ●赤い宝石 「お前ら、寿司は好きかい?」 アークのブリーフィングルーム。集合したリベリスタ達に『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)が言い出したのはそのような言葉だった。要領を掴めない彼らに伸暁は言葉を続ける。 「いや、今回の任務だけどさ? ターゲットは船に乗って倒しにいかないといけないのさ。目標は体長七メートルの巨大なクロマグロ。極上の赤身を秘めたヤツさ」 いきなり寿司の話を切り出したのは目標がマグロだかららしい。 「あいつは海を物凄いスピードで泳いでいて、漁船の明かりを狙う。水中から飛び出す勢いはまさに弾丸。シュバルツバレットと呼んでもいいぐらいだ」 シュバルツはドイツ語でバレットは英語なのだが、そこを突っ込むのは野暮だろうか。伸暁は言葉を続ける。 「その突進力は凄まじく、直撃を貰ったら集中なんて途切れる衝撃だろうな。バリアだってパリーン。木っ端微塵だ。また、飛び出してくる相手を迎撃する形になるから厳しい戦いになるだろうな」 伸暁はくしゃくしゃの資料をぽんと机の上に放った。 「船に関してはアークの協力者が出してくれる。心配はいらないさ。ただ注意しなくてはいけないことがある。この敵は、そのあたりにいる中で一番目立つものを狙って飛んでくる習性があるんだ。つまり……」 ぽんぽんと机の上の資料を叩きながら、伸暁は続きの言葉を紡ぐ。 「目立つものが無ければ船が狙われる。そうなると足場もなくなるわけだ。とても戦いとは言えなくなるだろうな。まあ上手く考えて戦ってくれ」 説明は全て終わったのか、席を立つ伸暁。最後に一言添えて去っていく。 「まあせっかくの遠洋漁業だ。極上の赤身とお前達のオーシャンレジェンド、期待してるぜ?」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:都 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年05月10日(火)23:26 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●いざ大海原へ 杏の日記 一日目 『今日はついにマグロのエリューションを倒しに海に出かける日だ エリューションだが、やはりマグロなので、食べられるらしい まこにゃんは ねこ科なのでやはり生魚の方が好きなのだろうか 持ち帰ったらきっと喜んでくれるだろう』 港に一艘の漁船が停泊している。 いつも荒海に立ち向かい、歴戦の海の戦士と共に海の幸を手に入れ港へと帰る。そんな漁船だが、今は少々毛色の違う連中が荷物の積み込みを行っていた。 「まさかマグロ漁とは。こんな仕事まであるとは思わなかった」 マグロ漁など日常を送っていても滅多にやる仕事ではない。『影使い』クリス・ハーシェル(BNE001882)が戸惑うのも仕方のない事である。 「長丁場になるわね。さすがにたいぎいわ」 『重金属姫』雲野 杏(BNE000582)も面倒そうに資材の搬入を行う。 皆それぞれが思い思いの準備を行い、漁船へと積み込み、設置していく。だがそれら手間のかかる下準備も、口や態度に見えるほど皆苦ににしていなかった。 いざという時に備えてロープを命綱用に船に括りつける『BlessOfFirearm』エナーシア・ガトリング(BNE000422)も。漁師から機材の使い方を教わっている焦燥院 フツ(BNE001054)も。皆一様にして、考えることは一つ。 「……トロ、食べたい」 次々と大量のワイヤーと浮き輪を積み込む、『ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)の呟き。その一言に集約されていた。 食欲は人間の三大欲求の一つである。あらゆる欲求の中でも上位に位置するそれにより、今ここにいる皆の心は一つになっていた。 「……だが不慣れな環境。思ったより辛い戦いになりそうだな」 「準備は怠りないですから、きっと大丈夫ですよ」 『誰が為の力』新城・拓真(BNE000644)が不安げに言う言葉に対し、『マジメちゃん』赤羽 光(BNE000430)が前向きな言葉を返す。 各自がそれぞれの準備を行い、体勢は万全。本来ならば一ヶ月から一年かけることもある遠洋漁業だが、今回はターゲットは一匹。しかも場所は万華鏡が予知してくれている。一週間もあれば終わるだろう。 「三日坊主にならないようにしなくちゃね」 杏が持参した荷物の中にある日記。船での旅故に航海日誌に肖ったのか、普段つけない物を持ち込んでいた。あまりそういった事にマメではない彼女なりの覚悟の仕方なのかもしれない。 協力者の船長が出港を告げる。今、彼らの海洋浪漫――あくまで漁業だが――が始まる。 船が港を離れ、大海原へと繰り出す。遠ざかる港に向け、『ニューエイジニンジャ』黒部 幸成(BNE002032)が人気バンド、『ブラックキャット』のボーカルに肖った決め台詞を囁いた。 「待ってるで御座るよ。極上のクロマグロ、皆にも届けるから。」 ●遠洋の遭遇 杏の日記 三日目 『出港して三日になる なんとか今日までは忘れずに日記をつけている そろそろ目的の当たりに到着する、無事にマグロはとれるだろうか』 出港して三日になる。その間、リベリスタ達はそれぞれ思い思いの過ごし方をしていた。 自己鍛錬を行う者。これから来る戦いに向けてイメージを練る者、機材の点検を繰り返し行う者。中にはただ平常通りに過ごす者もいる。 最も過ごし方は人それぞれとはいえ、否応無しにその時は来る。 「オウ、そろそろ目的の海域だぜ」 海図を眺めていたフツの言葉に皆が緊張感を増す。 「ついたか。さて、始めるとしよう」 「やれやれ、漁のスタートね」 クリスが立ち上がり、杏も先ほどまで爪弾いていたギターから手を離し準備を始める。 二人は懐中電灯とラジカセを結び合わせロープの先に括り付けた物を次々と甲板に運び出す。マグロ用に用意された、光と音の釣り餌だ。 「さて、目標はいつ来るかしらね」 エナーシアが各自に命綱を手渡す。他の皆も準備は万端。これから起きる戦いは順調に行くはずだ。 エンジンを止め、それぞれが目標に対して警戒に当たる。身に着けたタイトなミニスカートのように張り詰めた緊張感を保ちつつ船の舳先に立つ、天乃がぼそりと呟いた。 「来るなら……来い」 静寂が続き、しばらくした後。魚群探知機をチェックしていたフツが叫ぶ。 「探知機に反応だ。4時の方向にデカイ魚影が映ってるぜ!」 装置には遠方から接近する魚影がくっきりと映りこんでいる。単体の魚を察知するには不向きな探知機ではあるが、相手は巨大魚。しっかりと機械の目は捕捉していた。 声を聞きつけ、一斉に指示された方向に目を向ける。遠方より迫る生物の温度を、サーモグラフィのように熱を見ることを可能とする幸成の目が捕らえた。 「これは想像以上の大きさで御座るな……」 乗ってきた漁船ほどではないにしろ、巨大な魚影がうっすらと見える。高速で接近するその姿は徐々に海面に近づき、白波を上げ始める。 「来たぞ……ヤツだ!」 拓真が叫ぶと同時に、水を跳ね上げる凄まじい音が海域に響いた。魚影が跳び、船目掛けて飛び掛ってきたのだ。 宙を舞うその姿を全員の目が捉える。黒光りする鱗。丸みを帯び、流線型の巨体。まごうことなき極上のマグロの姿だった。 直後に響く破砕音。マグロがまず狙ったものは、漁船に搭載された照明。マグロは何よりも大きな光を放つそれを打ち砕き、再び水中に沈んでいく。 ――黒い弾丸。その名に相応しい、凄まじい勢いを持った一撃。 「これは……弾丸というより、もはや砲弾で御座るな」 呆然と呟く幸成。その質量に一瞬呆気に取られた一同だが、さすがに経験を積んできたリベリスタ。即座に各自自らの気を練り上げ、集中を増していく。 「さあ、作戦開始だ」 囮の電源を入れ、手にぶら提げ舞い上がるクリス。電灯と共に巻きつけられたラジカセから賑やかな曲が流れ始める。音と光の疑似餌。 船上に緊張が走る。船の周囲を高速で旋回するマグロ。やがて船上に舞うクリスに狙いを定め、凄まじい勢いで飛び出す! 「うわぁ!?」 その速度に対し、ぎりぎりでクリスは身を捻り回避する。鋭いヒレが身体を掠めたが、フツの張った守護の力により決定打とはならない。そのまま囮を引き千切り、船上を飛び越えようとする魚の巨体。 全て段取り通り。目立つ疑似餌を持ってして船上へと誘導するのが飛行班の役目だ。 「作戦通り。この調子で一気に仕留めるわよ」 エナーシアが砲撃を加えると同時に、各自が一斉に宙に舞うマグロへと攻撃を加える。しかし早すぎる速度に決して狙いは正確とはいかない。全身にダメージがばらけ、そのままマグロは再び海へと飛び込んでいく。 クリスに入れ替わって、今度は杏が照明を持って宙に舞う。交代で飛び、囮を用いて相手を誘う。船上を飛べば集中攻撃を加え、じわじわと弱らせる。あとはこれの繰り返し。難しい流れではない。 ――はずだった。 何度目かの杏の飛翔の時、それは起こった。 囮をぶら提げ宙を舞い、誘導。すでに何度も繰り返した行動。ただ一つだけ違ったのは、マグロが若干距離を取ったため、洋上に飛び出したこと。 その瞬間、マグロが飛び上がった。 「!? ヤバっ……!」 通常のマグロの回遊速度は大型の場合時速九十キロに達する。黒い弾丸のサイズはそれを大幅に上回り、加速もそれに伴い増加する。 直撃。時速百キロを越えるマグロの衝突はもはや交通事故。革醒した身でなければ、即死していただろう。最もリベリスタだからといって、無事なわけではない。 凄まじい衝撃に呼吸が止まる。集中が途切れ、揚力を失い水面へと叩きつけられる。 「杏さん!?」 光が即座に飛び出し、船の壁面を走り抜け助けに向かう。天乃が素早く浮き輪を水中に投げ、拓真が命綱を全力で引く。 しかしマグロはその間も待ってくれない。水中に落ちた杏を、自らの支配権を主張するかのように蹂躙し、弾き飛ばす。海面も若干赤く染まり始める頃、ようやく船へと引き寄せた。 「杏さん、しっかり!」 手を伸ばし、ぐったりと脱力した杏を引っ張り上げる光。他の者も手を貸し、船上へと救い上げる。 同時に船へと衝撃が走った。杏を狙ったマグロが勢い余って船へと衝突したのだ。 「今治すぜ、しっかりしろ!」 「このまま続ける。皆は攻撃を継続してくれ」 フツが駆け寄り治療にかかるが戦線復帰には若干かかりそうだ。しばし囮はクリスに一任されることとなる。神経をすり減らすこの作業。どこまで精神力が持つか、それが勝負の要だった。 ●一本釣り陣形 そこからは持久戦である。マグロの体力が尽きるか、こちらの体力が尽きるか。ひたすら誘導し、攻撃を加え、避ける。それの繰り返しである。 囮の照明の数が一つ、また一つと減っていく。ひたすら弾丸のような速度の攻撃を避け続けるクリスの集中力も、そろそろ限界に達しようとしていた。 しかし限界はお互い様。繰り返される誘い出しと攻撃にマグロの動きも目に見えて悪くなっている。 「そろそろ頃合だわ」 油断なくマグロの様子を監視していたエナーシアが合図を出す。号令に合わせて皆が動き、新たな準備を始めた。 ワイヤーの先に括りつけられた、一際明るく目立つ疑似餌。それには釣り針がつけられ防水用のビニールに包まれている。、その先は漁船の巻き上げ機へと繋がっていた。 「さて、上手く行けばいいんだがな」 祈るように拓真が呟き、疑似餌を海へと投げ出す。どぼん、と大きな音を立て、光が暴れるマグロで荒れる海へと沈んで行った。 「ここからが本当の勝負だな」 それを見届けたクリスも今までぶら提げていた照明を切り、甲板へとへたりこんだ。長時間の飛行に誘導、疲労はピークに達している。 甲板に久方ぶりの静寂が訪れる。マグロの魚影も海深く潜り、見当たらない。果たして上手く行かなかったのか……その時。 がくんっ、と船全体に衝撃が起きる。巻き上げ機に繋げられたワイヤーが凄まじい勢いで引っ張られ、送り出されていく。 「よしかかった!」 フツが手ごたえを確認し、巻き上げ機のスイッチを入れる。引っ張られる力と巻き上げる力、お互いの力が反発しあい、激しく船上が揺さぶられた。 「ここは腕の見せ所で御座るな!」 幸成がワイヤーへ掴みかかり、引く。それに呼応するように次々とリベリスタ達はワイヤーを掴み、引いた。機械の力と互角の引き合いを行っていたマグロも、じりじりと船へと引き寄せられる。 「くっ……うおおぉぉぉ!」 雄叫びを上げ、拓真が全力でワイヤーを引き上げる。鍛え上げられたリベリスタ達の渾身の力と巻き上げ機、二つの力によってさすがのマグロも巨大な水柱を上げ宙を舞う! 「フィッシュ、ね。ここからはこっちのものだわ」 エナーシアの言葉をかき消すように、ずどんっ! という激しい落下音を立て、甲板に叩きつけられるマグロ。漁船が衝撃に深く沈み込んだ。すかさずリベリスタ達はマグロを仕留めるために次々と飛びかかる。 しかし船にとっても不釣合いな巨体を持つマグロ。例え水揚げされても、凄まじい抵抗を見せた。びたんびたんと跳ね回り、尾を、頭を、群がる人間に振り回す。激しく船体が揺さぶられ、悲鳴を上げる。 「ええい、暴れるなで御座ろう!」 「大人しく……する」 忍の技を持つ幸成と天乃がワイヤーをかけ、縛り上げようとする。しかし抵抗激しくなかなか拘束することが出来ない。その時ゆらりと立ち上がり、マグロへ向かう姿があった。 「よくもさっきはやってくれたじゃない……」 負傷から戦線を一次離脱していた杏だった。水中に叩き込まれた恨みをその両目に滲ませ、暴れるマグロを睨み付け、ギターを構える。 「きっちりお返ししてあげようじゃないの!」 高く振り上げた腕を振り下ろし、接触した弦が金切り声を上げる。同時に凄まじい紫電の光が船上を覆った。激しい電撃がマグロを打ち据え、一瞬動きが止まる。 その隙を逃さず、幸成と天乃の二人がワイヤーによる拘束を完了させた。マグロはショック状態から復活したのか再び暴れようとする。しかしもはや時は遅く。 「チェックメイトね。お疲れ様」 「これで終わりですよ」 エナーシアの砲撃がエラを打ち据え、光のカタールが深く切り開く。 「――せいやぁっ!」 深く切り開かれたエラに拓真の双剣がめり込み……そのまま道と繋ぐ骨を断ち切る。 それでお終い。びくんっ、とその全身を痙攣させ……空前絶後の巨大マグロ、黒い弾丸はその動きを止めた。 ●後の祭り とろとろとした速度で満天の星空の下、太平洋を漁船が行く。 激しい暴れっぷりを発揮した巨大なマグロも、死んでしまえばただの食材。極上の赤身へと姿を変えた。そこまではよかった。 「……さすがに参ったわね。しっかり置き土産を残してくれたわ」 エナーシアが海を眺めながらぼやく。彼女のぼやきは、この船に関してである。 釣り上げたまではよかったのだが、大暴れをかましてくれたマグロのおかげで船はボロボロ。騙し騙し応急処置をしながら帰港することとなってしまい、予定より大幅に時間がかかる事となっているのだ。 「仕方ないですよ。動けるだけマシだと思わないと」 光が諦めたような口ぶりで相槌を打つ。実際彼の言うとおり、甲板は滅茶苦茶。荷物も大部分が海に投げ出され、エンジンがかろうじて無事なだけでも良かったぐらいだ。 しかし一つだけ、良いことはあった。 「大物捕りでは御座ったが、良い土産が出来たで御座るな!」 「極上のマグロが食べ放題だ。港につくまでゆっくりしようじゃないか」 土産が出来たことに上機嫌な幸成や、手に入れたマグロに舌鼓を打つクリス。さすがの巨大マグロ、船の冷凍庫だけでは収容しきれず余った分をこうして帰り際に処理しているのだ。 「まあ、慌てても仕方ないな。なるようになるさ」 拓真も観念したかのように、目前のマグロを食べる。まだまだ余剰分は大量にある。しばらくはマグロを食べ続ける事になる為、飽きた時の事を考えるとなかなかに恐ろしい話である。 船の舳先にて、無言で釣り糸を垂らしている天乃もちゃっかりと自分のマグロは確保している。当面は宴会でもしつつ帰還することとなるだろう。 「しかし参ったわね……」 宴会をするつもりで大量のビールを持ち込んでいた杏――実際はメンバーに未成年が多すぎるため、一人でビールを開けているのだが――が、マグロを突付きつつ途方に暮れたような表情で呟いた。 「どうしたんだ、杏?」 自らは呑まないのに彼女の一人酒に付き合っているフツが面倒見のいいことに、問いかける。その問いへ杏は答えた。 「荷物、ほとんど流されちゃったじゃない。だからさ」 星空を遠い目で見上げ、言葉を吐く。 「日記、結局三日坊主になっちゃったわ」 彼女の日記は海の底。 謀らずも、見事に三日で打ち切られたのである。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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