下記よりログインしてください。
ログインID(メールアドレス)

パスワード
















リンクについて
二次創作/画像・文章の
二次使用について
BNE利用規約
課金利用規約
お問い合わせ

ツイッターでも情報公開中です。
follow Chocolop_PBW at http://twitter.com






<三ツ池公園特別対応>魔犬、滅すべし――不吉な子犬――


 塔の魔女は「味方だから」、役目を終えた「それ」を次元の彼方に送還したのだ。
 だから、「それ」がここにいるのは、「それ」の意志。
 
 定命の者よ、我を恐れよ。
 ここが我が領域。
 昼は黒。夜は銀。
 我が名は「影なし」
 由緒正しい魔犬(バーゲスト)である。
 

「本年度の因縁は、本年度の内に」
『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、正月明けから掃除をしろと言う。
「三ツ池公園が、あれ以来不安定な地域になったことはみんなも知ってると思う。で、あれがまたこっちに来た」
 百聞は一見にしかずと、モニターに映し出されたモノを見たリベリスタの何人かがうめき声を上げる。 
 モニターに映し出されたのは、犬だった。
 規格外。生後一年くらいの子牛ほどの大きさ。手足の所在もわからないほど長い毛並み。
 まるで巨大なモップだ。かわいいとさえいえるかもしれない。
 毛の隙間から、らんらんと輝く赤い魔眼と、白い牙が見えさえしなければ。
 赤い月の下、影はない。
「由緒正しい魔犬(バーゲスト)。凶運をもたらす影なし犬。ヘアリージャック。攻撃力、防御力とも隙がない。強敵」
 モニターには三ツ池公園の地図。
 犬のアイコンが売店前から、森、更に碑の方へ数を減らしながら移動。
「あの夜、四体の出現を確認。撃退チームは一体撃破。三体にかなりの手傷を負わせた所で戦線崩壊。手負いのアシュレイシャドウ戦に乱入。結局全頭は倒しきれなかった。残ったのは、アシュレイが送還した。けど、自分で戻ってきた」
 イヴの無表情が、きりりと引き締まる。
『徹底殲滅』と、明朝体でモニターに大きく表示された。
「E・ビースト。不安定な環境のため、著しく革醒現象が進んでいる。例えば――」
 小さい。格段に小さいのが、わらわらといこいの広場に黒い子犬が大量発生している。
「――とか」
 更に売店から,百樹の森に至る道には、先に現れた者よりは小さいが十分大型の犬が片手で足りない数徘徊している。
「――で」
 森の中。
 巨大な、成牛まで巨大化した犬がいる。
 そして、首が三つに増えている。  
「増殖し、進行している。放置したら、公園が犬だらけになる」
 モニターに再び公園の地図。
「今回三チームを編成。いこいの広場から売店前、百樹の森まで突破しながら、魔犬を殲滅。アークは凶運の徒に屈したりしない」
  

「――このチームが担当するのは、このいこいの広場に沸いたちっちゃいの『パピィ』たくさん。これを蹴散らしてもらう」
 大きさは室内犬くらいだ。
「一匹一匹は非常にもろい。駆け出しでも一撃まともに当てれば大丈夫なレベル。ただし、数が三桁。しかも無駄に頭がいいので、散開陣形で来るから、いっぺんに巻きこめるのは最高十匹」
 後から後から、ハンディモップがわいて来るということか。
「こいつらの攻撃方法は、ハイアンドロウとメルティーキッス。傍目から見るとじゃれ付かれてるように見えるだろうね」
 イヴは、若干遠い目をした。
 いこいの広場は、生きた地雷に埋め尽くされているのだ。
「みんなが突入してから時間差で売店前チーム、森チームが突入する。みんながある程度数を減らしておかないと、この区域を突破の際、戦闘前にダメージと不運系のBSをこうむることになる」
 とん。と、イヴはテーブルを指で叩いた。
「更に、一定時間がたつと、子犬達はみんなの相手をやめて、他の地域の加勢をするため、戦場を離脱していく」
 モニターに、イブが書き込んだ矢印手書きキャプション。
「挟み撃ち」と書き込み、ぐるっと丸で囲んだ。 
「敵の戦力から算出するチーム損耗率が低いから、このランクの依頼としているけれど、責任は重い。みんなが仕損じれば仕損じるほど、他のチームの負担が増える」
 イヴは、モニターの中のハンディモップ的子犬に大きくバツをつけた。
「逆に言えば、みんなががんばるほど、他のチームが格段に楽になる。がんばって」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:田奈アガサ  
■難易度:EASY ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年01月12日(木)23:11
 田奈です。 
 ワンコが増えたので、どうにかしてください。
 影なしジャックについては拙作『<バロック強襲>四体の影なしジャック』をご参照ください。
 という訳で、このチームは子犬という名の地雷をどうにかする仕事です。
 かわいいけど、うつつ抜かしていると大変だよ!
 今回イージーなのは、チーム損耗率が少ないからです。
 ネタじゃありません。注意!
 ちなみに、やらかしたしわ寄せは他チームに降りかかります。
 だって、戦場は地続きだから。

 E・ビースト「ヘアリー・ジャック・パピィ」×111(12ユニット)
 *10匹で1ユニットと換算します。一人の一回の攻撃での撃破数上限は10匹です。
  戦闘開始時は、12ユニットスタートです。端数は、最後の一体が消滅するまでユニットとして機能します。
  攻撃は、1ユニット1回です。
 *犬種は狩猟犬のプーリー。歩くモップ。大きさは室内犬。
 *厚い毛皮は防御力に優れ、巨大な牙は攻撃に適し、赤い魔眼は魔物であることを示します。
  ――ただし、子犬なので高が知れています。
 *「汝、不幸に触れるなかれ」:Pスキル。
  攻撃を受けるたびに、攻撃した対象に「不吉」、「不運」、「凶運」を付与していく。効果は積算します。一度の攻撃で複数の対象に命中した場合、一気に凶運まで行きます。
 *ハイアンドロウ、メルティーキスを所持。
 *【精神無効】【麻痺無効】【呪い無効】

 場所:いこいの広場前道路
 *皆さんは、北門から突入です。
 *事前に付与スキルを使って構いません。ただし、移動ロスで有効時間は8ターンです。
 *真昼に突入です。足元、明かり、人払い一切問題ありません。
 *皆さん突入から2ターン終了後に売店グループ、4ターン終了後に森グループが突入します。
  そのときの残ユニット数に応じて、各チームに戦闘前ペナルティが課せられます。
 *5ターン終了後、損耗の少ないユニットから戦場を離脱して、売店前に加勢に行きます。
  そのため、この戦場の最大ターンは、17ターンです。

 撤退条件
 *今回の作戦は、決死隊ではありません。
  チームの半分が戦闘不能になった時点で撤退です。
 
 成功条件
 *加勢に行かせないことです。

参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
マグメイガス
二階堂 杏子(BNE000447)
覇界闘士
宮藤・玲(BNE001008)
ホーリーメイガス
救慈 冥真(BNE002380)
マグメイガス
トビオ・アルティメット(BNE002841)
ナイトクリーク
フィネ・ファインベル(BNE003302)
ソードミラージュ
明神 春音(BNE003343)
ホーリーメイガス
雪待 辜月(BNE003382)
ホーリーメイガス
護堂 陽斗(BNE003398)


 最初は一匹の傷ついた影なし犬だった。
 影がないのは、その存在自体が影だから。
 千切れて、数を増やし。
 膨れて、力を蓄え。

 運命の狭間に揺れ動く者共よ、我を恐れよ。
 我が名は、『影なし』
 由緒正しき魔犬(バーゲスト)である。


(覚醒現象は多くの不幸を呼ぶ。ここで必ず打ち止めなければ。どうか僕に、この戦場を守りきる力を)
『剣を捨てし者』護堂 陽斗(BNE003398)の祈りによって、リベリスタの背に仮初の翼が宿る。
 体一つ半いつもより高い目線。
「羽ありがとうね」
 陽斗に、明神 春音(BNE003343)は、きちんとお礼を言った。
 遠目からでも分かる。
 もふもふよちよち子犬達が、三々五々といこいの広場から道路にやってくる。
(たくさんのわんこ、わかった、倒すよ。春まだよわいけど、一生懸命やる!)
 愛らしいとさえいえるだろう。
(危険がなければわんわんパラダイスだったのが、凄く惜しいです)
 雪待 辜月(BNE003382)は、そう思っていたが、真っ黒の縮れ毛の下に隠された、発達した白い牙と赤い魔眼をまともに見てしまった。
 あれは、愛玩動物じゃない。
(倒さないといけない敵なんですね)
 見る見るうちにアスファルトを埋めつく黒い小波。
 後から来る仲間の足を止める障害だ。
「あらあら、随分と子犬ちゃんが沢山ですのね。可愛いですし……」
『白月抱き微睡む白猫』二階堂 杏子(BNE000447)がドレスのすそを翻す。
 呪文の詠唱で、異界の炎が黒い波の中央に召喚される。
「……遊んで差し上げますわ、子犬ちゃん……♪」
 火柱。
「パピィの皆様、ボトムチャンネルにようこそですわ。うぃんうぃん」
(ワンコ様方はあちらの世界でよほど嫌なことでもあったのでしょうか……ふふ、自身の境遇とつい重ね合わせてしまうのは私の悪いクセですわね。でも容赦はしないのですわ)
 異界共感の声音で語りかける。
 子犬は『マギカ・マキナ』トビオ・アルティメット(BNE002841)の膝に取り付く。
(地雷原は突っ込むものですが地雷に群がらせるのは新しいですわね)
 真っ赤な目。
 トビオが呪文の詠唱を終えるより、子犬が爆気を伴った舌でトビオの足をなめる方が速かった。
 黒いクラシカルなドレスのすそが爆風にあおられる。
「歓迎の花火なのですわ。所詮私たちは相容れない存在ですもの。出会ったことが凶運、もとい不幸ですわね」
 痛みを感じない彼女は、お返しとばかり自分を中心として炎を召喚した。
 ぼとぼとと焦げた子犬が地面に落ちる。
「ま、参りますね! みなさんは、そばによらないで下さいね!」
 きょろきょろとあたりを確認し、仲間を巻き込まない子犬の只中に飛来した『何者でもない』フィネ・ファインベル(BNE003302)は、千切れんばかりに尾を振る子犬の群れに、くくうっと喉を鳴らした。
(敵なのにこんなに可愛いなんて、不条理、です……!)
 それでも、動きによどみはない。
「純粋無垢な救済」という銘を持つたっぷりと毒の詰まった注射針を振りかざし、次々と手の届く動く者全てに無差別注射していく。
 毒が次々と体組織を破壊し、血管の流れに沿って割れ、切りつけられたように鮮血を噴き出した。
 ぶくぶくと血泡を吹いて転がる子犬に、眉が八の字になった。
 しかし、これがフィネの慈悲なのだ。

 味方も巻き込みかねない範囲攻撃が終わるのを見計らって、残党狩りが動き出す。
『天翔る蒼狼』宮藤・玲(BNE001008)に、日頃恋人の横にいるときのあまやかな表情はない。
 頭の中には、いかに効率よく子犬を狩るか。
 どう動いたら、この先の戦場に向かう仲間の助けになるか、ただまっすぐに、そのことだけを考えていた。  事前に考えてきたことを、何度も何度も反芻する。
(まずは、群れからはぐれて動いてるのを狙う)
 うろうろと統率からはみ出した個体は、空から見ればすぐ分かる。
 子犬は、気づかない。
 自分のはるか上空から、狼が自分を獲物と定めたことを。
 宙で、玲の爪先が空を裂く。
 放たれた風の牙にずたずたに引き裂かれるまで、子犬はうろうろし続けていた。
「は、は、春だってやればできるもーーー!!」
 すぐそばにいた仲間をたてにして難を逃れた子犬は、突っ込んできた春音目掛けて飛び掛った。
 かみ合わせた牙に肉の感触はない。
「春ちゃんだって頑張るんだぞー」
 まだ手になじみきっていない初陣のレイピアが、子犬を串刺しにする。
 わずかに浮かんだ感傷を自己認識する暇もなく、春音に複数の子犬が飛び掛った。
 
 攻撃には報復を。
 リベリスタの猛攻に、子犬が互いを踏み台にして、その足元にすがりつく。
 とりわけ、地面に近いところにいるフィネと春音の二人が、犬の波に飲み込まれ、体のあちこちから小規模な爆発が揚がっているのが、上空の陽斗と『塵喰憎器』救慈 冥真(BNE002380)から如実に分かる。
「二人とも耐えてくれよ……ここで踏ん張らないと、皆を傷つけることになる!」
 冥真の詠唱が、間一髪間に合った。
 命運つきかけていた春音はぶるんと頭を振るって、呼吸を整える。
二人の消耗具合を注視していた陽斗は、念のためと更に福音を重ねる。
 見上げる百を優に超える赤い目が、殺し手を立ち上がらせる癒し手を呪う。
 
 汝ら、不吉に、不運に、凶運に触れる事なかれ。

 まさしく権化たる子犬達の妄執がリベリスタに追いすがり、その一挙手一投足を価値なき徒労に貶めようとする。
 凶運にあえぐリベリスタに、辜月から凶事払いの光が降り注ぐ。
「不吉も不運も全部気の迷いです、気を強く持って下さいね?」
 その意志の力を増幅するのが、辜月が放つ光だ。
 この凶運渦巻く戦場から消すこと値わざるヨスガの光だ。
(自分の不甲斐なさで庇われるのは心苦しいですが、いえ、だからこそ、その分は働きで返してみます)
 しかし、上空5メートルからの照射では、地上に立つ仲間をカバーできる範囲が小さくなる。
 苦心してどうにか全員を範囲に入れ、再び攻撃に動き出す仲間の動きを目で追った。
 その辜月を、彼方から赤い瞳の魔犬の群れが見ていた。
 
 おまえか。お前が我らに仇するものか。


 背後から、仲間の足音が聞こえる。
 まだ来てくれるな、もっと削るから、どうかまだ来てくれるな。
「吹き飛ばしますわ!」
 トビオが密集したところを狙って、業火を投げ込む。  
「ここなら、群れが消えますわね」
 入念に動きを読みきり、そこ目掛けて放り込んだ杏子の炎が群れを焼き尽くす。
「フィネさん、すぐ後ろ。9体来てます!」
 ひときわ上空の辜月から指示が飛ぶ。
「わ、わかりましたっ」
 日頃ぽそぽそと消え入りそうな声で話すのが精一杯のフィネにとって、連携のためとはいえ大声を張り上げるには気合がいる。
 声を張り上げた後は恥ずかしさを忘れるためにか、注射器を振り回すことに専念し、気がつくと群れ一つが消えていた。
 玲、春音が端数を削り、売店前チームが通過する際、ユニットの数は半分になっていた。
 声をかける暇もない。
 杏子の足元を双子の姉が駆け抜けていく。
 束の間絡み合う視線に、互いへの信頼を確認するだけだ。
 黒い波をかきわけ走り去っていくその背を見送る余裕はない。
 森チームがそこまで迫っている。
 更に、更に、更に。
 困難に立ち向かう仲間の負担を減らさなければ。

● 
 仲間の体を踏み台にして飛び上がってくる黒い子犬の群れには、多少上に浮き上がっていることはアドバンテージにはなりえない。
 子犬の攻撃はたいしたことはない。
 それがきちんと防具で止まれば。
 何で、そんなところで、何でそんなところで、何でそんなピンポイントなところで!?
 動脈の上で、鎧の隙間で、神経が過敏な場所で。
 それこそが、呪い。それこそが凶運。
 愛らしい子犬の甘噛み。
 それがリベリスタを追い詰める。
 辜月が放つ光が恋しかった。
「もっとだ。みんな、もっと寄ってくれ。光の中へっ!」
 上空から、みなの位置関係を把握し、何とか狭い効果範囲に攻撃手の皆が納まるように。
 声を張り上げる冥真と陽斗を弄ぶように散開する子犬の群れ。
 群れの大部分を失ったものほど、リベリスタから距離を置こうとし、結果、春音が光を浴び損ねた。
(危なくなったら、空に逃げよう)
 春音はそう決めていたが。
 春音が一匹倒すのをまってから、纏わりついてくる子犬から逃れる術はない。
 仲間を生贄に、ただし報復は執拗に。
 子犬達は非情ともいえる団結に結ばれていた。  
 それは、地上近くで注射器をひらめかせるフィネにとっても同じことだった。
 クラシカルなナース服が子犬のよだれで汚されていく。
 連続する炸裂音。
 仲間を巻き込まないように、つまりは仲間から幾分離れた位置に突出せざるをえないフィネに攻撃が集中する。
 福音召喚が間に合わない、急速にして急激な痛手。
 看護服の白いエプロンや色のない頬が煤で汚れようとも、まだ地に伏すときにあらず。
「フィネは。フィネは、諦めない、です……」
 運命の恩寵は、不諦の者を好む。
「誰一人欠けず、一体でも多く討伐することが第一義だ。陽斗さん、フィネさんを!」
 冥真の福音だけでは、フィネを癒しきれない。
「心得ました!」
 陽斗の呼んだ風がフィネの器を満たす。
 ぎりぎりで繋がれた命に更なる活力を。
 距離を置いた子犬達が、じりじりと売店方向への逃走の気配をうかがっている。
 そのとき間近に、森チームの足音が聞こえた。
「残り、9匹、10匹、10匹、1匹! 踏ん張れ。全部しとめるぞ!」
「最後まで皆で乗り切りましょう!」
 無傷で、森チームを通せる希望が見えていた。


「ふふっ、燃え盛る炎と戯れるのは楽しいでしょう……?」
 杏子の声が、魔犬達の呪いの声の中に響く。
「避けられたら、ちょっぴり悲しいのですわ」
 詠唱しながら仮初の翼の制御は少し身に余る。
 不器用にふわふわと宙を漂うトビオ。
 遠方に放てる技を、わざわざ自分を爆心地にして技を放つトビオ。
 子犬達の技も確かに効いているのに、痛がるそぶりも見せない。 
 飛びつき、今度こそ彼女に死の刻印を刻もうと飛び込んできた子犬をぎゅうっと抱きしめた。
「ふふふ。もふもふですのね。毒を食らわば皿まで。凶運覚悟で堪能しますわ」
 子犬からは、血と火の粉と不吉の匂いがする。
「ここあなた方の領域ではありませんのよ。私こう見えても真剣(マジ)なのですわ」
 これが最後の業火召喚。
 抱きしめた黒い子犬を白い灰に変え、黒衣の鋼令嬢はアスファルトにぽつんと立っていた。

 立ち上がったのは、このときのため。
 注射器を握って、踊るため。
「10匹、お預かり、します!」
 ひらめく針からこぼれる毒が、子犬の分厚い毛並みを刺し貫いて、黒い毛並みに血の赤い縞を作って事切れさせる。
「あ、あの、一匹、残して、しまいました!」
 申し訳ないです。と、ぽそぽそとうつむくフィネの髪を風があおる。
 玲の蹴りが残った一匹をしとめた。
 ぽんぽんとアスファルトの上を転げて動きを止めた子犬を見たフィネは上空に目を転じる。
 玲が、売店方向に後ずさりかけている残り三匹の子犬を指差した。
「大丈夫」
 そう言って、人懐っこい笑みを浮かべた。
 その頬がわずかにこわばっていることに気がついた者は、この時点ではいなかった。


「こっち、こっちだよ……!」
 春音は文字通り踏ん張っていた。
 今倒れないのが不思議なくらい。
 満身創痍だった。
 後かすり傷一つついたら、体が勝手に悲鳴を上げるというところでの癒しで、小さな体に鞭打って。
(春まだよわいけど、一生懸命やる!)
 まさしく、「懸命」の働きだった。
 その子犬も無傷ではない。
 炎に巻かれ、縮れ毛からは焼け焦げた臭いがする。
 真っ黒な不吉の化身の牙だけが白く、目だけが赤い。
 かっと開かれた口が、死出の旅路の供に春音を望む。
「かわいらしい犬さん、でもごめんね、倒すよ」  
 犬の歯が空を切る。
 仮初の翼が、かろうじて春音の命を繋いだ。
 子犬が思っていないところから、春音が突き出すレイピアの細い刀身に刺し貫かれて。
 三匹の子犬が二匹になった。

 攻撃手は全て出せるカードを出し尽くした。
 二匹の子犬が踏ん張って、まもなくここを通る森チームの腕なり足なりを噛み千切ろうとしている。
 冥真と陽斗は、刹那目を見交わした。
 二人とも、決めてはいたのだ。
(最後の最後になったら、攻撃に転じることも視野に入れておこう)
 しかし、これが最後か?
 本当に「最後の最後」か?
 あの子犬を攻撃すれば、「不吉」がその身に纏わりつく。

 辜月が凶事払いをしてくれるのは分かっているが。
 万一のことがある。
 癒してやれなくなるかもしれない。 

 攻撃手達は、皆傷だらけのぼろぼろだ。
 皆、耐えに耐えてきた。
 ここで、癒してやらないという選択をしていいものか?
 残りは、たかが子犬の一匹や二匹。
 蹴散らしていけと。
 お前らの戦場に行かせたりないから、この刹那、傷ついた仲間を癒させろと。 
 癒し手なら、誰でも思う。
 チームの保全が、その身上だ。

 また、陽斗には魔力の残量の心配もあった。
 陽斗の予想以上に戦況は過酷で、今一度の翼の加護のために温存していた分を差し引けば、ここで魔矢を放つのはぎりぎりの選択だ。
 もはや、彼は誰も癒すことは出来なくなる。

 それでも。

 足音が。
 足音がする。
 これから、戦場に向かう仲間の足音がする。
 餞を。
 これから、困難な戦場に走りこむ仲間に最大限の餞を!

「魔犬は魔犬、一切の油断はしてやらねえよ!」
 冥真が吠えた。
「被害がどうとかじゃねえ、正念場なんだ。他のチーム含めて、勝って帰るぞ、皆!」
 二人は、詠唱を、魔矢射出に切り替える。
 攻撃術式は、短い。
 それぞれはなった魔矢は。

 二本の魔矢は。


 森チームが、いこいの広場横を駆け抜ける。
 先ほどまで激しく上がっていた火柱は収まっている。
 警戒しながら走りこんだが、動いているのはリベリスタ達だけだ。
 頭上わずか上を飛んでいるリベリスタ達だけだ。

 走り去る森チームを見送って、青年は、たおやかに手にした魔道書を静かに閉じた。
 もはや魔力も体力も、継続するだけのリソースが乏しい。
 戦場に向かった他チームのことが気になるが、加勢に行っても足を引っ張りかねない。
 広場チームはここまでだ。
「やれるだけの事はやりましたわ……」
 風に流れる杏子の声。
 心地のよい疲労感と達成感が声ににじんでいる。
 冥真と陽斗は、なれない攻撃呪文に、まだ肩で息をしていた。 
「大丈夫だよぉ。ちゃんと当たってるよぉ」
 春音が、魔矢の餌食となった子犬の死骸を改めて、空に向かって声を上げた。 
 フィネは、辺りを見回して、彼女の慈悲を受けるべき子犬がいないことを改めて指差し確認すると、へなへなと座り込んだ。
 上空で皆を支え続けていた辜月が、地面に降りてきた。
「フライエンジェの方は、いつもこうふわふわ楽しいんでしょうか? ちょっと羨ましいです」
 眼下で傷つく仲間達に駆け寄ることが許されない絶対の役目を帯びていた辜月が、重圧から開放され、そんな軽口を口にした。
「あら、私としたことが、綿毛だらけに……」
 その焦げ臭いおまけを払うこともせずに、トビオは北門に向かってよろよろ飛んでいく。
 事ここに至っても、うまく制御できないらしい。
「ちょっと待て!」
 冥真が声を上げた。不吉も振り払い、完全復活。
「玲さん、その傷なんだ!? 何で、今まで黙ってた!?」
 玲の腹に深い噛み傷。
「あはは……。だって、ブレイクフィアーは大事だから……」
 そう呟いて、玲は空から落ちた。
 
● 
 かくして、ヘアリージャック・パピィは、いこいの広場にて完全殲滅された。
 リベリスタ側、重傷1。 

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 リベリスタの皆様、お疲れ様でした。
 うきぃ。何でみんなそんなにロス少ないのさのさのさ。でございます。
 田奈さん、どうしてパピィちゃんは、遠距離技なかったの?
 答え・ぼうやだからさ。
 これほどまで翼の加護が憎かったことはないわあああああぁぁぁ!! でございます。
 ええい、飛べども飛べども届かなかったパピィのどす黒い呪いを知れぃ! でございます。

 いっとくけど、作戦はかなり危ない橋だったからね。
 みんな、ほんとにHP乱高下だったんだからね。
 一歩間違えてたら、みんな立ってなかったんだからね!?
 黒い犬のもふもふ地獄に飲み込まれるリベリスタとか、すれすれだったんだからね!?
 まあ、運も実力のうち。文字通り不吉ねじ伏せたんだから、無問題。
 とにかく、パピィちゃん殲滅。
 森チーム無傷で通過、ペナなし。成功です。
 ゆっくり休んで、次のお仕事がんばってくださいね。