●赤い月が終わる夜 気が付いたら地面に落ちて、うつ伏せに。 生々しい血の温度を冷たい皮膚で感じ取る。もう何も分からない。痛みすら分からない。 霞む視界の先には相棒にしていたエリューションの残骸。力尽きたのか。 あぁ、さよなら?さよなら?ここで終わり? これで終わり? いや、終わってなるものか。まだ彼らが。シンヤが。ジャックが。アシュレイが。 行かなくちゃ、早く――こんな所でこんな事をしている場合じゃないのに。 まだ戦える。まだ戦いたい。こんな所でこんな死に方、絶対嫌だ。嫌だ。嫌だ。死んでたまるか。戦うんだ。 空しく爪が引っ掻いた。血に湿った土。自分に血。土。爪が剥げた。血。痛くない。もう痛くない。 こ こ で お し ま い な ん て い や だ 「美味しそうな運命をしているね」 ――そんな時だった。 それが現れたのは。 霞む視界で見えたのは、異様な形をした靴だけ。声だけ。 「どうだい。私に君の運命を食べさせてくれまいか」 何を言っているのか。 これは何なのか。 分からない。 異質。異形。 少なくとも人間じゃない。分からない。 「そうしたら、お礼に君の願いを何でも叶えてあげよう」 分からない。分からない。分からない、が―― 無我夢中で手を伸ばした。 ●そして光に包まれて暗転 痛みも無くなった。傷も無くなった。力が溢れてくる。まるで今まで身体にかかっていた制限が無くなったかの様な。 早くシンヤの元へ。 そこまで考え、足が、思考が、止まる。 「……――え?」 違和感。異変。まさか、そんな。変な景色。変に静か。 恐る恐る、空を見上げて、 ――月はもう赤くない。 「嘘」 つまり、それは、崩界が食い止められたという事。 リベリスタが、アークが勝利した事。 ……シンヤが負けた事。 「嘘や」 急いで飛んで上空から見た。全貌を。高めた視力で見た。見てしまった。 シンヤが死んでいた。 ジャックが死んでいた。 全て全て、終わっていた。 終わっていた。 何もかも遅かった。 そんな 馬鹿な 折角、折角――フェイトまで喰い尽くされて『墜ちた』というのに! 全て無駄だった?これじゃ何の為にノーフェイスになったのだ?何の為に生きればいい?何の為に?どうして?無駄?必要無かった?お終い?もう終わり?やっと始まったというのに、もう、もう、何も無いなんて――何もかも失ってしまったなんて。 何かが壊れる音がした。 ●終わりの導 「フィクサード『暴君戦車』ガンヒルト・グンマを御存知でしょうか。 後宮・シンヤ様の精鋭として賢者の石争奪戦と三ッ池公園決戦にてリベリスタの皆々様と交戦した人物で御座います」 そう言って事務椅子を回し振り返る『歪曲芸師』名古屋・T・メルクリィ(nBNE000209)の眼差しは――真剣と緊張を孕んでいた。 大体お分かりでしょう、と卓上に広げてある資料に少し視線を落として言う。静かな予感。頷くリベリスタ。 「再々戦、リターンマッチ、そして最終決戦ですぞ、皆々様」 一寸、息を吸い込み。 「ノーフェイス『暴君戦車:ガンヒルト・グンマ』及びE・フォース『ファントムダンマーク』『ファントムタンク』『ファントムソルジャー』の討伐。それが皆々様の任務で御座います」 メルクリィの背後モニターには廃墟の遊園地。見た覚えのあるリベリスタも居る。 これは、最初に――賢者の石の争奪戦でガンヒルトが現れた場所だ。寂蒔とした遊園地。枯れた雑草がアスファルトを突き破って茫々と広がっている……朽ちた遊具、錆びた其処彼処、転がるゴミに落書きの跡。あの時と何も変わっていない。 その大通りに彼女は居た。あの時と変わらず、暴力の部隊を引き連れて、巨大な異形の天辺に。変わり果てた姿で。 先ず、彼女に腕は無かった。両方だ。その代わりに翼が大きく機械の様に、それは大量の砲門を揃えている。 表情は呆然と、虚ろ。理性も無ければその逆も無い。静かに静かに壊れていた。 また、異形達も今までとは様子が違う。似たような姿なのだが半透明だ。 数は巨大な物が一体、二タイプある小、中型が10体ずつぐらいだろう。 「ガンヒルト様が何者かにフェイトを喰われ、ノーフェイスになってしまったのは――先程、御覧になったかと」 予言師が視た事実。異界の者にフェイトを喰い尽された事で力を得ると共に蘇ったフィクサードが絶望と共に堕ちた結果。悲劇の成れの果て。 「件の『何者か』については現在調査中です。今回、皆々様が出会う事は無いでしょうな。取り敢えず今はそれについて何も考えなくって良いですぞ、出現も予知しておりませんし」 ではエネミーデータについて、とフォーチュナは説明を続ける。 「ガンヒルト様のフェーズは3。フェイトを失った事と件の何者かの力で能力のタガが外れた上に超凶化されたとでも思って下さい。 攻撃方法はスターサジタリーのソレが凶悪になったものでしょうな。威力、範囲、状態異常がマシマシだと思いますぞ。 彼女に自我は……もうありません。ひょっとしたら僅かに記憶が残っているかもしれませんが、落ち着いて会話が出来る状況なんてまず作れないでしょうな」 それからE・フォースについて。 「このE・フォースはガンヒルト様の絶望が生んだエリューションですぞ。いずれもフェーズ1~2ですが……ナメてかかっちゃあいけませんぞ。その上、数も多いのでお気を付けを。 詳細は資料にも纏めときましたんでそちらも参照して下さいね! それからこの廃墟に『賢者の石』があった影響かノーフェイス化したガンヒルト様の強力な増殖性革醒現象の所為か……フェーズ1の雑多なエリューションが其処彼処に居ますぞ。 これらはあまり脅威にならないかもですが、一応留意はしといて下さいね。 ――以上で説明はお終いです」 と、其処で漸くメルクリィが二コリと笑んだ。しかしその表情から心配の色は拭い切れていない。機械の目玉がゆっくりと皆を見渡した。 「死の可能性もある、非常に危険な任務です」 静かな低い声が響く。 「……、いや、これ以上言葉は不要でしょう。私が皆々様に言いたい事はこれだけです」 そして彼はハッキリ告げた。せめてと笑んだ表情のまま。 「必ず帰って来て下さいね!」 と。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ガンマ | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ EXタイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年01月29日(日)22:08 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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