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DaDAダdA弾丸GUNがんgUnGun――暴君戦車に捧ぐ戦歌

●赤い月が終わる夜
 気が付いたら地面に落ちて、うつ伏せに。
 生々しい血の温度を冷たい皮膚で感じ取る。もう何も分からない。痛みすら分からない。
 霞む視界の先には相棒にしていたエリューションの残骸。力尽きたのか。
 あぁ、さよなら?さよなら?ここで終わり?
 これで終わり?
 いや、終わってなるものか。まだ彼らが。シンヤが。ジャックが。アシュレイが。
 行かなくちゃ、早く――こんな所でこんな事をしている場合じゃないのに。
 まだ戦える。まだ戦いたい。こんな所でこんな死に方、絶対嫌だ。嫌だ。嫌だ。死んでたまるか。戦うんだ。
 空しく爪が引っ掻いた。血に湿った土。自分に血。土。爪が剥げた。血。痛くない。もう痛くない。


  こ こ で お し ま い な ん て い や だ


「美味しそうな運命をしているね」

 ――そんな時だった。
 それが現れたのは。
 霞む視界で見えたのは、異様な形をした靴だけ。声だけ。
「どうだい。私に君の運命を食べさせてくれまいか」
 何を言っているのか。
 これは何なのか。
 分からない。
 異質。異形。
 少なくとも人間じゃない。分からない。
「そうしたら、お礼に君の願いを何でも叶えてあげよう」
 分からない。分からない。分からない、が――

 無我夢中で手を伸ばした。

●そして光に包まれて暗転
 痛みも無くなった。傷も無くなった。力が溢れてくる。まるで今まで身体にかかっていた制限が無くなったかの様な。

 早くシンヤの元へ。

 そこまで考え、足が、思考が、止まる。
「……――え?」
 違和感。異変。まさか、そんな。変な景色。変に静か。
 恐る恐る、空を見上げて、

 ――月はもう赤くない。

「嘘」
 つまり、それは、崩界が食い止められたという事。
 リベリスタが、アークが勝利した事。
 ……シンヤが負けた事。
「嘘や」
 急いで飛んで上空から見た。全貌を。高めた視力で見た。見てしまった。

 シンヤが死んでいた。
 ジャックが死んでいた。

  全て全て、終わっていた。
 終わっていた。
  何もかも遅かった。

 そんな 馬鹿な 折角、折角――フェイトまで喰い尽くされて『墜ちた』というのに!
 全て無駄だった?これじゃ何の為にノーフェイスになったのだ?何の為に生きればいい?何の為に?どうして?無駄?必要無かった?お終い?もう終わり?やっと始まったというのに、もう、もう、何も無いなんて――何もかも失ってしまったなんて。

  何かが壊れる音がした。

●終わりの導
「フィクサード『暴君戦車』ガンヒルト・グンマを御存知でしょうか。
 後宮・シンヤ様の精鋭として賢者の石争奪戦と三ッ池公園決戦にてリベリスタの皆々様と交戦した人物で御座います」
 そう言って事務椅子を回し振り返る『歪曲芸師』名古屋・T・メルクリィ(nBNE000209)の眼差しは――真剣と緊張を孕んでいた。
 大体お分かりでしょう、と卓上に広げてある資料に少し視線を落として言う。静かな予感。頷くリベリスタ。
「再々戦、リターンマッチ、そして最終決戦ですぞ、皆々様」
 一寸、息を吸い込み。

「ノーフェイス『暴君戦車:ガンヒルト・グンマ』及びE・フォース『ファントムダンマーク』『ファントムタンク』『ファントムソルジャー』の討伐。それが皆々様の任務で御座います」

 メルクリィの背後モニターには廃墟の遊園地。見た覚えのあるリベリスタも居る。
 これは、最初に――賢者の石の争奪戦でガンヒルトが現れた場所だ。寂蒔とした遊園地。枯れた雑草がアスファルトを突き破って茫々と広がっている……朽ちた遊具、錆びた其処彼処、転がるゴミに落書きの跡。あの時と何も変わっていない。
 その大通りに彼女は居た。あの時と変わらず、暴力の部隊を引き連れて、巨大な異形の天辺に。変わり果てた姿で。

 先ず、彼女に腕は無かった。両方だ。その代わりに翼が大きく機械の様に、それは大量の砲門を揃えている。
 表情は呆然と、虚ろ。理性も無ければその逆も無い。静かに静かに壊れていた。
 また、異形達も今までとは様子が違う。似たような姿なのだが半透明だ。
 数は巨大な物が一体、二タイプある小、中型が10体ずつぐらいだろう。

「ガンヒルト様が何者かにフェイトを喰われ、ノーフェイスになってしまったのは――先程、御覧になったかと」
 予言師が視た事実。異界の者にフェイトを喰い尽された事で力を得ると共に蘇ったフィクサードが絶望と共に堕ちた結果。悲劇の成れの果て。
「件の『何者か』については現在調査中です。今回、皆々様が出会う事は無いでしょうな。取り敢えず今はそれについて何も考えなくって良いですぞ、出現も予知しておりませんし」
 ではエネミーデータについて、とフォーチュナは説明を続ける。
「ガンヒルト様のフェーズは3。フェイトを失った事と件の何者かの力で能力のタガが外れた上に超凶化されたとでも思って下さい。
 攻撃方法はスターサジタリーのソレが凶悪になったものでしょうな。威力、範囲、状態異常がマシマシだと思いますぞ。
 彼女に自我は……もうありません。ひょっとしたら僅かに記憶が残っているかもしれませんが、落ち着いて会話が出来る状況なんてまず作れないでしょうな」
 それからE・フォースについて。
「このE・フォースはガンヒルト様の絶望が生んだエリューションですぞ。いずれもフェーズ1~2ですが……ナメてかかっちゃあいけませんぞ。その上、数も多いのでお気を付けを。
 詳細は資料にも纏めときましたんでそちらも参照して下さいね!
 それからこの廃墟に『賢者の石』があった影響かノーフェイス化したガンヒルト様の強力な増殖性革醒現象の所為か……フェーズ1の雑多なエリューションが其処彼処に居ますぞ。
 これらはあまり脅威にならないかもですが、一応留意はしといて下さいね。
 ――以上で説明はお終いです」
 と、其処で漸くメルクリィが二コリと笑んだ。しかしその表情から心配の色は拭い切れていない。機械の目玉がゆっくりと皆を見渡した。
「死の可能性もある、非常に危険な任務です」 
 静かな低い声が響く。
「……、いや、これ以上言葉は不要でしょう。私が皆々様に言いたい事はこれだけです」
 そして彼はハッキリ告げた。せめてと笑んだ表情のまま。

「必ず帰って来て下さいね!」

 と。



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:ガンマ  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ EXタイプ
■参加人数制限: 10人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年01月29日(日)22:08
!Danger!
 このシナリオはフェイトの残量に拠らない亡判定の可能性があります。
 参加の際はくれぐれもご注意下さい。

●目標
 ノーフェイス『暴君戦車:ガンヒルト・グンマ』の討伐
 E・フォース『ファントムダンマーク』『ファントムタンク』『ファントムソルジャー』の討伐

●登場
ノーフェイスフェーズ3『暴君戦車:ガンヒルト・グンマ』
 元・フライエンジェ×スターサジタリー。後宮シンヤの精鋭であるフィクサードだった。
 瓶底眼鏡におさげの少女。ただし実年齢は不明。
 何かにフェイトを食いつくされた代わりに一命を取り留め強化されるがノーフェイス化
 両腕が無い。代わりに翼が機械の様に超巨大異形化、大量の砲門を備えている
 絶望の果てに自我崩壊
>主な戦法
 弾丸展開。常時発動
 スターサジタリー初~中級スキルの凶悪版
 Ex:サイシュウヘイキ(性能不明)

E・フォースフェーズ2『ファントムダンマーク』
 ガンヒルトの絶望が生んだE・フォース。
 アシュレイ謹製のエリューション『ダンマーク』と姿が類似している。
 鋼鉄と銃器が寄り集まった様な四つ腕の半実体巨大ゴーレム
 全腕がガトリング砲に異形化しており、腹部からもガトリング砲が突き出ている
>主な戦法
 弾丸展開。常時発動
 腕を振り回す。近接範囲。ノックB
 蹴っ飛ばす。近接複数。ノックB
 踏み潰す。近接単体。必殺
  など

E・エレメントフェーズ1『ファントムタンク』×10
 ガンヒルトの絶望が生んだE・フォース。
 アシュレイ謹製のエリューション『ダンマークタンク』に類似している。
 中型ダンマーク。下半身がキャタピラー状になっており、頭部に主砲を持つ
>主な戦法
 弾丸展開。常時発動
 主砲発射。貫。ノックB
 キャタピラーで轢く。必殺
  など

E・エレメントフェーズ1『ファントムソルジャー』×10
 ガンヒルトの絶望が生んだE・フォース。
 スリム小型サイズな人型ダンマーク。両腕が銃剣になっている。機動力が高い
>主な戦法
 弾丸を撃つ、銃剣で斬るなど

 また、雑多なフェーズ1エリューションが其処彼処に居ます。

●場所
 当方作『<賢者の石・争奪>DADADA弾丸GUNGUNGUN 』と同じ場所
 郊外の廃遊園地。広い。朽ちた遊具や雑草、落書き、ゴミが茫々とある
 時間帯は真っ赤な夕暮れ。明るい。一般人は来ない

●その他
 既に敵はメインストリートに布陣しております

●STより
 こんにちはガンマです
 繋がる糸。最後の暴君戦車。暴君戦車の最期。絶望の亡霊部隊。
 ガンヒルトに関しましては当方作
 『<賢者の石・争奪>DADADA弾丸GUNGUNGUN』
 『<強襲バロック>DADADADADADA弾丸GUNGUNGUNGUNGUNGUN』
 を参照して下さい。

 どんな結果になろうとも、これで最後。

 皆様の本気と覚悟をお待ちしております。

参加NPC
 


■メイン参加者 10人■
プロアデプト
歪 ぐるぐ(BNE000001)
スターサジタリー
★MVP
エナーシア・ガトリング(BNE000422)
スターサジタリー
百舌鳥 九十九(BNE001407)
覇界闘士
設楽 悠里(BNE001610)
スターサジタリー
坂東・仁太(BNE002354)
プロアデプト
酒呑 ”L” 雷慈慟(BNE002371)
ホーリーメイガス
エリス・トワイニング(BNE002382)
クリミナルスタア
桐生 武臣(BNE002824)
クリミナルスタア
烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)
ホーリーメイガス
天船 ルカ(BNE002998)

●一日の終わり
 ”It's a good day to die”――そんな言葉を聞いた事がある。
 どこで聞いたかは、覚えていない。映画だったか、何だったか。

 It's a good day to die.
  死ぬには良い日だ。

 死ぬにはいい日など死ぬまでない。
 いつだって今日を生きるしかない。

 ――太陽は地面の向こうに沈む一方で、最期の足掻きと言わんばかりに赤い赤い長い日を有象無象に投げかけている。
 赤く染まる。静かな空。
 観覧車の割れた窓に反射した。もう二度と回らない、夢と笑顔の成れの果て。
 その廃遊園地はガランドウ。
 X年前の残滓に過ぎないのである。

 その時は『マトモにぶつかったらタダじゃ済みません』と言われた。
 彼女は巨大な敵の上。圧倒的な威圧感を放って初めて自分達の目の前に現れた。
 場所は、此処。紛れもなく、同じ場所。

 二度目は赤い月の下。今日とは色味が違うが、赤く赤い光の中で。
『真っ赤な、真っ赤な、真っ赤な月。
 煌々。不気味に。奇ッ怪に。
 朱い月の歪んだ世界。』
 目を閉じれば生々しく蘇る。血と、死の、激戦。

 今日で最後。

 これで、お終い。

●終わりの始まり
「3戦目やけんね――ケリつけに来たぜよ」
 静かな風が吹き抜ける廃墟に立ち、見渡し、空気を吸い込み、様々な事を思い出し、目を閉ざす……この気持ちを何と形容しようか。『人生博徒』坂東・仁太(BNE002354)がその手に携える暴君戦車(パンツァーテュラン)と名付けられた禍き巨銃こそ彼女の愛銃で、正に此処で手に入れた物。
 重い、なんて言うのも憚られそうな重量感。鈍く、不気味に、暴力を孕んだ銃は未だ使いこなせているとは言い切れない。掌からパンツァーテュランの余所余所しいまでの冷たさを感じる。
 それでも仁太がこの銃を手放す事は無いだろう。恐怖と死の予感に震える心臓を深呼吸で無理矢理落ち着け、集中を研ぎ澄ませ、ゆっくりと瞼を開けた。
 見遣った――彼方に布陣する絶望の成れの果て。暴君戦車の変わり果てた姿。フェイトを喪った姿。
「最後の喧嘩だ……」
 仲間と共に物陰に身を隠し、桐生 武臣(BNE002824)は細く紫煙を吐き出した。煙は風に紛れ、掠れ、有耶無耶になって消える。その彼方を細めた眼で見届け、煙草を踏み消す。

 直死嗅ぎ。無頼には分かる――この一帯に大きく横たわり蔓延った濃密な『死』の臭いが。
 死神は其処彼処から隙を窺って此方を北叟笑み観戦している。良い御身分だと吐き捨てる。
 誰かが死ぬ。それは自分かもしれないし、仲間の誰かかもしれないし、敵かもしれない。不愉快極まりない、嫌な臭いだった。

 それでも退く訳には行くまい。退くと彼等に怒られる――赫い花を咲かせる羽織、仁義の赫にそっと触れた。背負う魂が、纏う仁義が、撤退を敗北を恐怖を許さない。
「派手に、いこうや……!」
 懐より出したオートマチックを構える。それを皮切りに誰もが幻想纏いより武器を出だし、緊張――あるいは好戦、決意、無表情――それぞれの思いを胸に。
「意外と繊細ねぇ……グンマさん」
 掌にしっくりと吸い付くショットガンの感触を確かめながら『BlessOfFireArms』エナーシア・ガトリング(BNE000422)は呟く。己が最後に頼れるは『この子』だけ――自分の仕事は、弾と銃と標的がある限り引き金を引き続けるだけ。
「最終戦と往きましょうか」
 それでも人は前に往く。なればこそ、道ができるのだ。
 施される翼の加護は『リップ・ヴァン・ウィンクル』天船 ルカ(BNE002998)による祈りの具現化。彼にとっては初めて相対する敵。離れていても分かる、圧倒的な暴力の気配。目眩がしそうな殺気。
「散々我々を苦しめた相手なのでどんな方か興味はあったのですが、こうなってしまっては……」
 もう、彼女が敬するシンヤも――そのシンヤが敬するジャックも、居ない。自分達が討ち取った。あの赤い月の夜に。
「もう終わりにしましょう」
 Requiescat in Pace――安らかに眠れ。その為ならば、咽が潰れるまで歌ってやろう。最期の子守唄。
「シンヤの……落とし胤……ともいえる……ことが……まだまだ……多い」
 エリス・トワイニング(BNE002382)はセファー・ラジエルを静かに開く。常と変らぬ眠たげな目だが、その蒼は何処までも鋭く鋭く集中を重ねていた。
 深呼吸――大気の、大地の、光の、緑の、有象無象に散在しているマナを己が身体へ次々と取り込み、強力に巡回させて行く。浸み渡る魔力。
 シンヤもジャックももう居ない。残ったのは、悲劇の残滓と『閉じ無い穴』。
 そして全てを失った彼女に残ったのは――壊れて狂った運命。
「その運命、撃ち抜きますよ」
 フィンガーバレットで武装した拳を搗ち合わせ、『ヴァイオレット・クラウン』烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)は笑みに歪めた眼球で真っ直ぐに敵影を見澄ました。
 あの姿は自分の理想のメタルフレーム像。琴線に触れる。
「妬ましい。……なんて、ね」
 彼方の異形。人でも何でも無くなったモノ、しかし『Trompe-l'œil』歪 ぐるぐ(BNE000001)の目には恐怖や緊張は無く、キラキラとした喜びと遊び心しかない。
 Trompe-l'œil――騙し絵。芸術的冗談・本気の悪戯、等。その通り名が示す通り、常識に囚われる事を嫌う彼女は法則性を持たない冗談のような存在。全ては物語、全ては登場人物、『特等席』のチケットの為ならば幾らだって支払おう。
「数もパワーも向こうが上でしかも生半可な小細工が通用しないとか。ロボとしてカッコ良すぎる!」
 今度は辿り着いてみせる、そう意気込むぐるぐの一方で『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407)は仮面の顔を己がショットガンから敵影へ。ふむ、と。
「折角蘇ってきたと言うのに不憫な話ではありますな。だからと言って放置も出来ませんがのう」
 せめて、シンヤ達と同じ場所に逝けると良いのですが。彼方の暴君はこちらに気付いているか否か――今の所アクションは無い。ただ、暴力的な気配と殺意のみが一帯を覆い尽し、有象無象のフェーズ1エリューション達がざわざわと蠢いて居る。気配を増している。こっちに気付いて這い寄って来るモノも居る――いつまでも物陰で安全に居る事は厳しそうだ。互いの顔を見渡す。
「……――」
 覚悟は出来た。もう戦う他に道は無い。『生還者』酒呑 雷慈慟(BNE002371)が機械の掌を中空に翳せば展開式リアクティブシールド:ARM-バインダーの9枚盾が展開される。
「往こう」
 その一言に全てを込めて、今度こそ。
「さぁ、」
 臆病さを胸に秘めながらも『ガントレット』設楽 悠里(BNE001610)は真っ白に輝く篭手Gauntlet of Borderline 弐式を握り締めた。
 震える膝を、噛み合わない歯の根を水の流れと深呼吸で圧し殺し、凛然と瞳を開く。

「勝って、全員で帰ろう!」

●Xとの対話
 Q:シンヤが居なくなって、この世界に何を求めるの?
 A:存在意義を。
 Q:自分すら捧げても、見返りが無くても、良かったの?
 A:貴方は見返りが欲しくって『仲間』の傷を癒しているの?同じ事です。

●Krieg
「ぐるぐさん突撃ーっ!」
 大通りに布陣した暴力部隊へ、ぐるぐ・九十九がギリギリの射程から高速の弾丸を打ち出した。が、
「……む、上手くいきませんか……!」
 布陣したタンク、ソルジャーは素早く後退を。射程外。そう易々と思い通りに行く相手ではないらしい――幾度か試したが、これ以上近付けば何十体からの一斉射撃をその身に浴びかねない。木乃伊取りが木乃伊になる訳にはいかない、致し方ないがこれも想定の範囲内だ。
「真っ正面からかかってこい、って事ですかね」
 這い寄って来た朧なフェーズ1をショットガンの一撃で消し飛ばしつつ九十九はぐるぐと共に大きく飛び退いた。仲間へと振り返る。
「往くしか……ないか、やっぱり」
「燃えてきましたーっ」
「……生きて、帰るぞ」
 物陰から飛び出したのは悠里、エーデルワイス、武臣。ぐるぐもそれに加わり、背後の後衛チームと共に強く地を蹴り走り出した――応える様に幾つもの銃が、幾つもの銃が、暴力が。

 何発もの弾丸が空を埋め尽くす。赤く染まった夕焼けの空を。

(自分は崩界を防ぐ為。愛するこの世界に身を捧げ。
 奴はままならぬ世への報復……? 亡きモノの為、身を堕としてでも喰らい付いてきた)
 雷慈慟の目に映る幾つもの弾丸。それでも彼の脳味噌は酷く冷静で、平静で、静かだった。幻想纏いよりトラックと4DWを遮蔽として左右に展開し、素早くその影に潜り込む。
(個人を偲ぶ事と、世界を偲ぶ事に果たして広く差があるのか……?)
 鼓膜を劈く銃声。すぐ傍には回復手の二人。他の場所ではエーデルワイスが4WDを設置している。
(想うモノの重さなど人其々だ。相容れる事が出来ない。お互い無視する事は出来ない)

 『私と貴方は違う。』

 生き物が生き物である限り。完全理解なんて誰にも出来ない――自分自身ですら分からない事だらけのブラックボックスであると言うのに。
 私と貴方は違う。奴は敵。今はそれで十分。己の為。戦いに身を投じよう。

「状況は整った! 各々最大の手段で状況を打破するぞ!」

 凄まじい数の弾丸を浴びるトラックはきっと直ぐに壊れてしまうだろう――思いながらも顔を出し、P90 T型 MGで牽制射撃を行いながら雷慈慟は敵一団を見遣った。より敵が密集している場所。
「1時の方向!」
「おっしゃ任せぇー!」
「これだけ多いと、何処撃っても当たりそうね」
 傍でうろついていたフェーズ1を弾避けに、仁太のパンツァーテュランとエナーシアのショットガンが火を噴いた。正に機関銃の如く、凄まじい量の弾丸で襲い来る弾丸ごとソルジャーとタンクを射撃する。
 その同時、銃声の合間から聞こえてきたのはエリスとルカが奏でる癒しの福音――さぁ一息を吐いている暇は無い。敵の凄まじい火力、圧倒的な火力。一瞬でも詠唱の唇と閉ざす事は仲間の死を意味している。

 キャタピラーが激しく唸る音がすぐ傍で聞こえた。
「ひゃあっ!?」
 めぎりめぎり、エーデルワイスの設置した4WDが戦車型ダンマークに易々と踏み潰される。彼女諸共巻き込まんと唸りを上げる。間一髪、転がる様に躱して危機一髪、しかし強力な主砲に思い切り吹っ飛ばされた。
「ぐ、ふッ…… 上等ッ!」
 飛ばされながらも血濡れながらも弾丸を浴びながらも銃指を、狙い、バウンティショット。タンクの主砲が大きく逸れる、隙有りと悠里が飛び込んだ。迎え撃つソルジャー達の牽制射撃にまた一つ傷を作り、それでも痛みや恐怖は食い縛った歯の根の奥に仕舞い込んで。

 怖くないと言えば嘘になる。
 だからこそ、前に進む!

「大切なものを守る為なら、何とだって戦える!」

 両の白い拳に誓いを込めて、決意を込めて、悠里は疾風にも負けぬ速力と共に雷撃の武舞を展開する。叩き潰す。それでも止まる暇は無い、目の前にはあまりにも巨大な敵、大量の殺気。

「だーかーらー、FPSは苦手なんだってばぁ!」
 ぐるぐは弾丸の雨の中、飛び掛かって来たソルジャーの一撃をゴツい銃で受け止める。射撃は出来ない鈍器で圧し返す。後方からのエナーシア・仁太の猛射撃に砕け散った――それを横目にぐるぐは肩で息をしながら九十九へと見遣る。
「頼みますぞぐるぐさん!」
「オッケー任せて九十九さん!」
 九十九がガンヒルトへ弾丸を放った直後ぐるぐもリボルバーを翼を広げた異形へ向けた。九十九の一撃はダンマークの腕が庇う。残りの腕、或いは腹からは大量の弾丸が相変わらず。鳴り響くルカとエリスの歌がなければあっと言う間に倒れていただろう。
「うー…ぐるぐさんの数少ないリスペクトさんが……笑おーよ。すまいるすまーいる?」
 寂しいね。銃口から放つのは鋭い気糸。しかしダンマーク阻まれる……狙い通り。

 着実に進んでいる。
 着実に削られている。
 優勢であり、劣勢である。

 武臣の背後で聞こえた物凄い音は、きっと戦車の主砲に雷慈慟が設置した遮蔽物が破壊された音だろう。
 随分と、派手な事だ。正に数の暴力。見遣る先には敵の大将――未だ疲労の色は見えず、ガンヒルトに至ってはダンマークの堅固な守りに傷一つない。
 一方自分は傷だらけで、身体を穿つ弾丸に仁義の赫にまた一つ赤い花が咲いた。
「フン……」
 数を削らねぇとハナシにならねぇ。落ち着いて狙う。正面、キャタピラーを唸らせて突っ込んでくるタンクを。
 『やってまえ、今度こそ』――……あぁ、分かってるさ。

「通さねぇよ……分の悪い喧嘩はキライじゃねぇ!」

 その身に纏う誇りを信じ、放つ銃弾は高速の早撃ち。
 兵力差故に全ての敵の突撃を防ぐ事は出来ないが、それでも後衛にて回復の呪文で手にした銃で自分達を強力に支えてくれる仲間達の為に。
 銃声は一発――に聞こえるだけ。放った弾丸は無数、穿つ。だがまだ足りない、強く地を蹴り跳躍した。直後に武臣の耳元を強烈に掠めて行ったのはタンクの主砲、パン――と、鼓膜の裏で聞こえたのは、きっと鼓膜が破裂したんだろう。脳味噌にじーんと響く痛み。モノラル。構うものか、やれ、やっちまえ。ぶっ潰しちまえ。拳を振り上げる。振りかぶる。
「喰らえ……!」
 脳天から、叩き下ろした。無頼の拳。タンクの分厚い装甲をめちゃくちゃに拉げて壊して叩き潰す。

「雑魚一団の早急な対処が肝だ! 遠慮無用! お見舞いしてやれ!」

 拳を振るい、防御用マントで降り注ぐ弾丸を凌ぐ武臣へ雷慈慟は心を重ねて精神力を供給する。視線の先では襲い来る暴力の部隊に運命を燃やしても尚立ち向かう仲間達。それに指示を、精神力の供給を。自分の心臓の音が聞こえる。堅実な方法。ソルジャー、タンクがまた一つ破壊された。

 弾丸の雨が暴力を撒き散らす。

「悪夢はここで終わらせる!」
 悠里が放つ稲妻を纏う疾風の武舞が飛び掛かるソルジャーの銃剣ごと砕き壊す。それでも頬を切り裂いた銃剣に赤が散った。Gauntlet of Borderline 弐式の白に垂れる。赤。夕日に染まって、それでも彼は拳を止めない。
 この場で拳を止める事は、歩みを止める事は、――『死』だ。
 死んでたまるか。
 死んでたまるか。

「死んでたまるかぁあ!!」

 生きて帰るんだ、三高平へ。誰一人欠ける事無く。その為なら運命なんて幾らでも燃やそう。悲劇を否定しよう。塗り替えよう。
 仲間が剣となり盾となるなら、自分はその使い手を守る篭手。
 大切なものを守る為なら、弱っちくても臆病でもどんなにちっぽけでも戦える!

 左手に『勇気』を、右手に『仲間』を握りしめ、全ての膂力を込めて駆け抜ける――生と死のBorderline。

 弾丸の雨が暴力を撒き散らす。

「ハスタラビスタです、狂える少女さん」
 ボタボタボタリ。血が落ちる。伝う。エーデルワイスの機械の腕。運命が一つ燃え落ちた。
 銃口を向ける。血濡れた唇が描くのは三日月。

「ターゲットロック……私の痛みよ、裁きの弾丸となれ!!」

 ダンマークへ放つ絶対有罪の弾丸。
 唸りを上げて、呻りを上げた。
 それはガンヒルトを護るダンマークの腕へ、ぐるぐと九十九が交互に集中狙いしていたその腕を一つ、粉砕する!
「あっは」
 どんなもんだ、ヤッてヤッた。反動にゴボリと血を吐いて。
 何かが聞こえる。銃声か、仲間の鬨の声か、癒しの歌か、誰かの罵倒か、喝采か、馬鹿笑いか、幻聴か。
 何かが見える。銃弾か、仲間のソレか、敵のソレか、雷を纏う拳か、武骨な無頼の拳か、絶望が生んだ戦士達か、血か、赤か、黒か、何か。

 弾丸の雨が暴力を撒き散らす。

 弾丸の雨。
 暴力の雨。
 濃密な硝煙の臭い。
 辺り一面に血の臭い。
 弾丸に削られた遊具達。
 首の捥げたメリーゴーランド。
 赤い。赤い。夕焼け。

 嗚呼――二度と回らぬ観覧車が、あんなにも赤い――

●Xのモノローグ

 死にたくなかった、

●回る、回る
 シン、と静まり返った。
 気の所為かもしれない。

 死に物狂いで死にもの狂いで、そんな一刹那。

「――……」

 不思議な時間帯だった。一瞬の様で、永遠。
 時間が止まった様な。
 ただ、妙に周りの景色が見えた。
 東の空は既に暗く、棚引く雲は様々な色合いを見せて空に横たわって居る。
 風が静かに火照った頬を撫でて行った。
 方々に生えた雑草がゆらりと揺れる。
 西からの太陽は長い長い影を落とした。

 一日が終わる。
 終わろうとしている瞬間。

 錯覚した。不意に。如何して自分はこんな所に居るのか。
 何処かで誰かが何かを呼んだ気がする。

「……ふは、」
 自分が息を止めていた事に気が付き、仁太は大きく息を吐いた。心臓は早鐘。呼吸は荒い。全身に傷。血。構えるパンツァーテュラン。聞こえてくるエリスの歌。彼女が持つ天使ラジエルの書の白い紙面に血が一滴垂れた。絶対に安全な場所等ここには無い。なれば自分は歌うのみ。

「我が名の……下に……汝の……聖なる奇跡を……今こそ、齎し給え……」

 紡ぐの祝詞。輝きと共に顕現するは聖神の寵愛。彼の者の優しい掌が一撫ですれば、彼の者が愛する子らを蝕む危険が苛む痛みが柔らかく消えて行く。
「ありったけの回復を頼む」
「任せて……インスタントチャージも、お願い……」
「心配無用だ」
 とうとう唯一となってしまった回復手たるエリスを護るべく、彼女の前に立ちはだかる雷慈慟は思考の盾に己達を護らせつつ彼女へ精神力を供給する。エリス自身の強力なチャージ、そして雷慈慟の精神力供給のお陰で回復の手が切れる心配は無いだろう……エリスが倒れるまでは。

「何があろうとも……屈する事だけは罷り成らん!」

 ここで退いてなるものか。思いは一つ。応える様に放たれたエナーシアの猛射撃が最後のタンクを破壊した。
 ガランドウに開ける。
 遂に開けた。
 残りは今も尚、馬鹿みたいな両の弾丸を撒き散らし続けているダンマークとガンヒルトのみ。
 勿論、リベリスタの損害も零では無い。誰もが傷を負い、運命を燃やした者は数多く、倒れた者が二人。倒れた者への対処をしっかり考えていた為に死んでしまった者はいない。精神力切れに問題がない事が僥倖か。

 さて、この状況。優勢と見ようか、劣勢と見ようか。

「残るは『ナイト』と、『クイーン』かしら」
 チェックメイトを覚悟せよ。

「――女も黙ってワンコインといきましょう?」

 エナーシアはショットガンを構え直す。
「ケリ着けようぜ、ガンヒルト」
 血唾を吐き捨て武臣がオートマッチックを構える。
「今度こそダンマークちゃん貰うんだもんね!」
 ゴツい銃を手にぐるぐはぴょんぴょん跳ね、
「決着の時は近いですのう」
 九十九は射手としての感覚を研ぎ澄ませた。

 いざ、決着の時。

●Xの呟き
 大事なモノって大事だから大事にしているのに、気が付いたらもう何処にも居ない。
 強ければそんな事は無いんだと思っていた。
 この世に正義も悪も無い。あるいは、正義と悪だけがある。
 勝った方が正義。
 勝てば失わない。
 強ければ勝てる。
 ああ。
 力が欲しい。
 もっと強かったら。
 どうして、どうして――誰も彼も自分を置いて逝った。

 いかないで、って言いたかった。
 さよなら、って言いたかった。

●かんらんしゃ
「ガンヒルト! シンヤを殺したのは僕だ!」
 仲間と共に弾幕の嵐を駆け抜けつつ悠里は叫んだ。挑発。反応は無い。無駄か、焦点の定まらぬ目は何処を見て居るのか――赤く燃え揺らめいたガンヒルトの翼。空に放たれる幾筋もの炎の矢。
「来るぞ……!」
 武臣の声と共に誰もが防御の姿勢に入った。
 降り注ぐ獄炎の矢。慈悲も無く容赦もない。くぐもった悲鳴は誰のものか。凄まじい威力に膝を着きそうになる――しかし気合いで、ドラマで、あるいは運命を消費して、耐え切る。倒れない。
「エリスが……治すから……」
 負けないで。エリスはありったけの魔力を込めて、聖神の息吹を顕現する。
「よし、行こうッ!」
 奇跡の息吹に包まれながら突撃を再開する。
 悠里は真っ直ぐガンヒルトを見据えていた。

 誰かを殺すっていう事は誰かを悲しませるってことなんだ、そう悠里は思う。
 相手が悪人でも人殺しは人殺しであり、自分達はそれを忘れちゃいけない。
 自分と相手の違いは何か。例え同じ数の命を奪っても自分はリベリスタで、相手はフィクサード。
 それでも、自分はその罪を背負っていかなくちゃいけない。
 守りたいものがあるから。
 譲れない誓いがあるから。

 駆けるリベリスタの正面に呪いの禍々しい弾丸が迫る。
「させんぜよ!」
 それを打ち抜いたのは仁太のパンツァーテュランによる弾丸だった。着弾し、暴力のままに爆発し圧し潰す。
「ひゃっぱつひゃくちゅうじゃけぇ、の」
 フッと銃口から立ち上る煙を吹いた。瞳は静かに、因縁の彼女。

 一回目。命からがらその手を銃を奪った。
 二回目。死力を尽くすも敗北してしまった。
 三回目、――……

 正確無比な弾丸を吐き散らすガンヒルトと目が合った、気がする。耳を弾丸が掠めた。鋭い痛み。
 思えば数奇な運命だ。
 憎み合って、傷付けあって、戦い合う運命。
 浪漫の欠片もありゃしない。
 それでも思うのだ。

 もし――彼女が自分達の仲間だったならば――

「……せめて。シンヤの元に送ったる」

 後は銃を、己が運命を、そして仲間を信じて撃つだけだろう。
 この戦いが、運命が導く先は何処か。
 その答は銃が教えてくれる。
「メルクリィにも帰って来いって言われとるけんな、倒れるわけにはいかんぜよ!」
 放つ銃弾。それはエナーシア、九十九と共にガンヒルトの翼へ向かうが、ダンマークの腕がそれを徹底して防いだ。
 その隙。

「今度は辿りついたもんね!」

 ダンマークの足元、ぐるぐはゴツイ銃を振りかぶる――ノックダウンコンボ。相手の急所を瞬時に見抜き、隙も容赦も無 い打撃を叩き込む必殺技。一発で十分。自分の得意分野は弱点を見抜く事ぐらい。機械的構造・製作者の癖・加えられた異形……構造的急所は絶対にある!
「―― !」
 しかしその瞬間だった。ぐおーんと不愉快そうに鳴いたダンマークが巨大な脚でぐるぐの華奢な身体を思い切り蹴り飛ばす!
「うぐ、っあ……!?」
 全身を襲った激痛、激しく歪んだ意識、骨が内臓が破れて壊れて。地面に転がる。
「ぐるぐさん!」
 九十九が咄嗟に彼女を抱えて戦闘範囲外へ運ぼうと――その時である、破れた肺でぐるぐが無理にでも声を張り上げたのは。

「脚の!! 関節ーーーーー!!!」

 後の声は、ごぼりと吐血に溺れて。激しく咳き込む。後は任せた、と無理矢理に笑顔でピース……そこで彼女の視界は暗転する。
 託された思い。その身を代価に見付けてくれた『弱点』――希望の突破口。
 顔を合わせて頷き合う。撒き散らされる弾丸を、撥ね飛ばそうと蹴って来る巨脚を掻い潜り、死力を尽くして。

「みんなで生きて帰るんだ!」

 真っ先に『突破口』を突いたのは悠里の白い稲妻だった。更に仁太、エナーシア、九十九の正確な射撃が同じ個所へ続け様に命中する。ダンマークの巨体が揺らぐ。弾丸が、火の矢が空から降り注ぐ。誰かが倒れたかもしれない。誰かが立ち上がったかもしれない。
 あと、一押し。
「泣こうが笑おうが、これがてめぇとの最後の喧嘩だ!」
 胸を弾丸が貫いた運命を運命で『無かった事』に、雷慈慟からのインスタントチャージとエリスの聖神の息吹を受けながら武臣は真正面に立ちはだかる。天辺のガンヒルトに声を張り上げる。

「てめぇ、寝惚けたまま終わらすつもりかぁ!?
 ふざけんじゃねぇぞ……地獄で鬼相手に喧嘩してるシンヤに負けねぇ喧嘩みせやがれ……!」

 鬼の無頼より託された赫い羽織を赤い光に靡かせる。
 仁義上等。背負うは魂、纏うは仁義。
 運命なんて幾らでも灼けてしまえ。どんな運命だって捻じ曲げてみせる。
 身体の動く部分で、全てで抗う。

「本気のてめぇの全部で咆哮(うた)え。暴君戦車……ガンヒルト・グンマの戦歌をよ!!!」

 鋭く放たれた、弾丸。

●Xの記憶
 からからから。
 回る。
 観覧車。
 回る。
 からからから。

 観覧車が好きだった。

●終わりの終わり
 倒れたダンマークは最期の足掻きと言わんばかりに滅茶苦茶な量の弾丸を撒き散らした。だが、悠里の拳が完全に沈黙を齎す。

 ふわり。

 変わり果てた翼を広げ、変わり果てた姿で、彼女は中空。
 大量の、大量の、様々な、弾丸。
 撒き散らして、或いは受けて。
 無表情。虚ろ。

 終わりが始まる。

「くッ……!」
 暴君戦車の名は廃れていない――凄まじい火力。前衛の悠里、武臣はおろか、後衛の者にも容赦なく見境なく。
 圧し切れるか――圧し遣られるか。

 悠里が駆けだそうとした瞬間、正確無比な弾丸がその脚を貫いた。一瞬蹌踉ける、それでも踏み止まる。
「まだだ……まだ戦える!」
 銃火。
 弾丸。
 拳。
 雷慈慟の気糸を振り解き、暴君戦車はひたすら暴れる。
(不味い……)
 ジリジリ、ジリジリ、と。

 圧されて、いる。

「くそっ……!」
 もうフェイトを使っていない者は居ない。
 次に誰かが倒れた時点で、『半数が戦闘不能』になり――『撤退』せねばならない。
 焦るな、落ち着け――雷慈慟は血の味がする咥内で深呼吸を。

 弾丸が降る。

 そんな中、仁太が不意に前へ出た。
「……ここに来たっちゅうことは覚えとるんか?」
 問い掛け。ここは、自分達が初めて出会った場所。
 ガンヒルトがこっちを向いた……と、思う。いや、そうなのだろう。
 刹那、光の弾丸が唸りを上げて仁太の右腕に着弾した。脳を劈く痛みと、拉げてしまった右腕。大量の血が噴き出した。
 それでも仁太は続けた。ボロボロの腕でパンツァーテュランを構えながら。
「っくく、何や、前のお返しや、ってか……? 上等ぜよ。
 ……ガンヒルト。おい、聞こえとるか? これ、お前の使うとった銃ぜよ。こいつも覚えとるか?
 わしじゃまだ扱いきれんでな、お前みたいにショックも発動せん。シンヤに及ばんでもお前はすごいわ、ホンマ」
 でもな。歯噛みした。仁太は悔しくって堪らない。どうしようもない、遣る瀬無い――感情のまま、声を張り上げる。

「でもな、今のお前はガンヒルトですらないわ! しっかりせいや! いつまで壊れとんねんドアホ!
 わしは本当のお前と戦いたいんや……リベリスタである前に勝負師やから!!
 そして何より楽しそうに戦うお前が好きやったから!!
 ……おいガンヒルト! 聞こえとんねやろ!?
 これはわっしの意地、この戦いでこいつを使いこなして、わっしはお前に勝っちゃるけぇ。
 絶対に越えてやるぜよ、奇跡見しちゃるわ、ガンヒルトォオーーーーッ!!!」

 震える手でパンツァーテュランの引き金を引いた。

「…… 坂東」

 着弾の刹那。
 確かに、彼女は――そう、言った。

 パンツァーテュランの弾丸は爆発の弾丸。
 吹き飛ばす。荒々しい暴力の火。
 打ち抜いた。暴君戦車の片翼を。

「坂東、」

 唇が震えた。
 翼が目一杯開かれる。

「うう、ううぅううううああああああああああああああああああああ!!!」

 絶叫――光輝く翼。 
 ゾクリと全身を駆けた『死の臭い』に武臣は叫ぶ。「逃げろ」と……あれは危険だ。あれは喰らってはならない!

 凄まじい光が、全てを覆い尽した。

●はぐるま
 かたかたかた。
 回る。
 歯車。
 回る。
 かたかたかた。

 回り始めたらもう誰にも止められない。
 歪んで、捩じれて、燃え上がり、運命の歯車は加速する。

 それの黙示録が示す先は破滅か、はたまた――

●『善意』
 網膜を焼く光の中。
 誰もが伏せる中。
 しかし、エナーシアだけは違った。

「全てを失った? 元より全て投げ捨てるものでしょう、銃声以外は」

 軽快に走り出した。手にはたった一つ、銃を携えて。

「運命なんて端数があろうがなかろうが貴方は貴方。
 弾があり標的がいるならガンヒルト・グンマのすることはただ一つでしょう?」

 一歩。
 一歩。

 また一つエナーシアが足を踏み出す瞬間に、運命の歯車は回り出す。
 
 一歩。

 加速する。運命が、歯車が、黙示録が。
 燃え上がる運命はガンヒルトが放つ光に負けず強く輝き、赤い空を焼き尽くす。

「聞こえてるかしら? ……聞いて貰うわよ、私の声」

 全てが酷くスローモーションで、コマ送り。
 映画のフィルムみたいな世界を、エナーシアは駆けた。
 弾ける光は己が運命、燃える運命。

「私はグンマさんと決着を付けに来たのであって、益体もないシケた面を拝みに来たのじゃないわ」

 一歩。
 目の前。
 凛然と真っ正面から見澄まして、エナーシアはゆっくりとショットガンの銃口をガンヒルトの眉間に向けた。

「いい加減目を覚ましなさいよ、この寝坊助眼鏡」

 引き金に指を乗せ、

「――BlessYou!」

 引いた。

 この弾丸が、彼女に捧げる最後の花束。
 斯くして迸る運命の祝福を得たその弾丸は最終兵器たるガンヒルトの超爆発をも飲み込み。
 あらゆる運命を、悲劇を、因縁を、全てを、抱き締めて。
 刹那で居て、無限の時間を孕み込んで。
 それは燃え上がる運命の歯車が為した奇跡か――あるいは彼女が引き寄せた必然の運命か。

 『世界の凡ては素晴しい』

 全て。総て。凡て。

 すべては一つの弾丸、なのである。


  Bless Of Fire Arms.


 銃火器の祝福を、貴方の全てに。

●終わりの終わりのお終い
「……?」
 身を起こした雷慈慟には理解が出来なかった。
 確かに、『ガンヒルトを中心に凄まじい大爆発』が起こった筈なのに――誰一人被害を受けている者は居ない。それどころか、地面にも雑草にもただ佇む観覧車にも傷は一つもない。
 彼が見たのは、膝を突いたガンヒルトとその目の前で銃を構えているエナーシア。
 その銃口から細く立ち昇る煙で漸く理解する。

 如何なる運命をもひっくり返す奇跡、黙示録。

 今となってはその残滓しか見えない。『一瞬を完全に支配した』エナーシアの奇跡。
「……」
「……」
 エナーシアもガンヒルトも黙り込んだまま動かない。
 ガンヒルトのもう片方の翼ががしゃんと墜ちた。

 ――そして、それは本当に『奇跡』なのかも、しれない。

 砕けた翼がガンヒルトの周囲を漂い始めた。
 塵は右側に集まり、そして、銃を持つ一本の腕となる。
 奇跡か。偶然か。必然か。
 理由は分からない。
 いや、もう理由なんてどうでも良い。

 立ち上がった。
 視線が交差した。

 そして『彼女』は漸く――笑った。
 厭味ったらしい、あの笑顔で。
 その手に持つのは奇しくも『かつての銃』と同じ形。

「決着を」

 飛び退き、銃を構え。

「坂東」
「おう」
「ガトリング」
「ええ」
「桐生」
「あぁ」
「トワイニング」
「うん……」
「酒呑」
「うむ」
「歪」
「はーい……」

 かつて戦った者達へ。

「決着つけよっか――来いや、リベリスタァアアアアアアアッ!!!」

●終わりの終わりの本当のお終い
 交差した弾丸はほんの僅かに触れ合い、傷付け合い、――互い身体に突き刺さった。
 全ては一瞬。

 静寂。

 ふ、と
 気が付いたら、

 ガンヒルトはその場に倒れていた。

 終わった。
 本当に、遂に、――終わった。
 彼女の腕はもう無い。
 彼女はもう動かない。
 幻だったのだろうか、と錯覚してしまう程。

 それでも確かに、『暴君戦車』は居たのだ。

 ――日が沈む。
 もう、火が沈む。
 赤は黒へ。
 太陽から月へ。
 夜が来る。
 一日の始まりに向けて、夜が来る。

 仁太はそっと、仰向けに倒れたガンヒルトの傍にしゃがみ込んだ。
 手を伸ばす先は彼女の眼鏡。今まで顔もじっくり見る機会もなかった。
 取った。
 小奇麗な顔だった。ただ眠っているだけの様な。
「……ガンヒルト?」
 ただ眠っているだけの様な――つい、声をかけて。
「坂、東?」
 彼女は薄く薄く眼を、開けた。
 そして、フッと笑う。小馬鹿にした様に。
「何してんねん……さっさと、仲間んとこ行きぃな。寝顔見られんの……恥ずかしわぁ、スケベ」
 ウチ女の子やさかい。そう言って、くすくす笑んで、ゆっくり瞼が落ちて行く。
「シンヤに会えるとえぇな」
「うん……」

「ほな、おやすみな」
「…… うん」
 最期に瞼が落ち切る前に仁太はガンヒルトから視線を逸らして立ち上がった。背を向けた。
 手には形見の眼鏡を、脚は彼女に言われた通り仲間達の元へと。

 観覧車が佇んで居る。
 広がり始めた星空を、幾つもの窓に映しこんで。

 輝いて居た。



『了』

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
メルクリィ:
「お疲れ様ですぞ皆々様、……御無事で、本当に何よりです。
 ゆっくり休んで、疲れと傷を癒して下さいね……!」

 だそうです。お疲れ様でした。
 如何だったでしょうか。

 これにてガンヒルトは安らかに永遠の眠りに就きました。
 三度に渡った戦い。如何だったでしょうか。
 複数参加の方、皆勤賞の方、お付き合い頂き本当にありがとうございます。

 MVPはエナーシアさんに……全てはリプレイの中に込めました。あの決断、あの一押しがあったからこそのこの結末です。素晴らしい。

 これからの依頼も頑張って下さいね。
 お疲れ様でした、ご参加ありがとうございました!


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レアドロップ:『欠けた瓶底眼鏡』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:坂東・仁太(BNE002354)