●三ッ池公園 先の戦いにおいて『閉じない穴』が発生した三ッ池公園は、常時危険な神秘が発生する可能性があるためアークの管理下にあった。 『閉じない穴』の影響で不安定な空気があるため、リベリスタたち定期的に見回りに警戒態勢を取ると同時に、『万華鏡』も重点的にチェックを行なうという二重の警戒を取っていた。 フォーチュナの一人がエリューションの発生を感知する。 慌てて報告しようと立ち上がると、別のフォーチュナも慌てて立ち上がった。 「三ツ池公園で――」 「エリューションが――」 同時に同じことを口にする二人のフォーチュナ。同じものを予知したのか? そう思ったが予知したエリューションは別のものだった。ただ三ッ池公園と時刻だけが一致していた。 「同時にエリューション事件が発生した……?」 公園内のほぼ同一時間にエリューションが現れる。それが二件。 「とにかく報告を――」 そのフォーチュナはすぐにその認識を改めることになる。 その日その時、予知されたエリューションの発生数は両手の指では収まらない数だったのだ。 まるで一箇所を目指すように進むエリューション。それは三ッ池公園のある一点を目指していた。 そこにいるのは異世界の穴を通じてやってきた一人の男。両手に刀を持つぼろぼろの着流しをきた盲目のアザーバイド。 エリューションはそのアザーバイドに拳を振り上げる。牙を向ける。巨体でのしかかる。炎を飛ばす。氷を投げつける。稲妻を放つ。毒霧を吹きかける。襲い掛かる襲い掛かる襲い掛かる襲い掛かる襲い掛かる襲う襲う襲う襲う襲う襲う襲う襲う襲う襲う襲う―― アザーバイドは刀を振るう。唐竹、袈裟斬、右薙、右斬上、逆風、左切上、左薙、逆袈、刺突、唐竹、袈裟斬、右薙、右斬上、逆風、左切上、左薙、逆袈、刺突、唐竹、袈裟斬、右薙、右斬上、逆風、左切上、左薙、逆袈、刺突―― 千の異形に千一の斬撃が走る。煌く白刃が振るわれるたびに、大地が赤く染まり命が一つ果てる。血河屍山を築きながら、そのアザーバイドは成長していた。 血を吸うたびに刀が切れ味を増す。 肉を切るたびに男が修羅と化す。 命を奪うたびに深くなる業が運命を狂わせる。 血河の中立つそのアザーバイドは、今だ満ち足りぬとばかりに啼き続ける。 「三ッ池公園を警戒中のリベリスタに緊急連絡です。今から10分後に大量のエリューションとアザーバイドが現れます。 直ちに警戒態勢を取り、最寄の『発生地点』に急行してください。これは演習ではありません」 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)はブリーフィングルームから、三ッ池公園にいるリベリスタたちに緊急用の回線を使い連絡を取った。 「『閉じない穴』から大量のエリューションが発生。それは発生後、この地点に向かい突き進みます」 各リベリスタに転送される地図。三ッ池公園の中央部分に赤い光点が示される。 「日本刀形状のアザーバイド『金無双』『四間飛車』……そしてそれを手にする人型のアザーバイド『サムライ』。それがココにいます。『サムライ』は二本の刀をまるで別の生き物のように扱いながら、自身も攻撃をしてきます。 理由はわかりませんが、発生したエリューションは誘われるようにアザーバイドに殺到していきます。そしてその牙をアザーバイドに向けて襲い掛かります」 和泉から送られてくるのは予知された映像。死体の山の中、鬼気迫る表情で立ち尽くす盲目の男。返り血に服や刀をそめ、それでもなお収まらぬ闘志を隠すことなく表情に出していた。 しかし、エリューションを倒してくれるのなら放置してもいいのでは、と思っていたリベリスタの耳に和泉の通信が響く。 「アザーバイドはエリューションを斬るたびに強くなります」 和泉の言葉にリベリスタたちは足を止める。大量に現れたエリューション。それを斬るたびに強くなるアザーバイド。つまり、そのアザーバイドは放置すればものすごく強くなるのでは? そして相手がいなくなったそのアザーバイドはどうなる? 満足して自分の世界に帰るのか? それとも更なる殺戮を求めるのか? 答えはない。不確定要素が多すぎる。 「現在公園内のリベリスタで、エリューションを足止めおよび殲滅する為のチームを編成し、向かわせています。彼らがエリューション全てを討ち取れればいいのですが……」 数が数である。全て、というわけにはいかないだろう。いくつかは討ち漏らす可能性を考慮しなくてはいけない。 「皆さんはアザーバイドに攻撃を仕掛けてください。アザーバイドがどれだけ強くなっているか。現段階ではわかりません。その場で対応してもらうことになります」 『万華鏡』である程度の情報はわかるが、それも完全ではない。 他のリベリスタたちがエリューションをどれだけ倒せるか。それによりアザーバイドがどれだけ強くなるかわからないのだ。 「危険な任務です。勝てないと思ったときは早急に退却してください」 和泉の声は硬い。それがこの戦いの厳しさを表していた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ EXタイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年01月17日(火)23:22 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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●百鬼夜行の果ての果て 「さあ、結末を始めましょう」 四方八方から響く戦いの音が消えた。静寂の中、しかし静謐ではない空気を感じながら『告死の蝶』斬風 糾華(BNE000390)はつぶやいた。彼女の持つアクセス・ファンタズムが糾華の武装をダウンロードする。ひらひらと舞うクロアゲハのブローチ。刀身に荊棘が巻き付くような装飾が施された流麗な銀の剣。夜に融けるような黒い服がひらひらと夜風に吹かれ踊る。 「百鬼夜行の最後の戦い。お正月から頑張り抜いた人達の為になんとしても勝ちましょう」 死の匂い、などというものがあるのならこういうものなのだろう。三ッ池公園の中央に近づくリベリスタたちはそんな匂いを感じていた。 それは殺気と呼ばれるものかもしれない。あるいは血臭だったのかもしれない。ただ単なる気のせいかもしれないし、戦いの前の緊張なのかもしれない。 百鬼夜行と称されたエリューションの群れ。それが集まる中央にして終点。 「百鬼夜行、ね」 その場に向かいながら『復讐者』雪白 凍夜(BNE000889)は短くつぶやく。その瞳にはこの闇の先が見えていた。そこに立つ一人の人型アザーバイド。百鬼の果てが人型とは、随分とエスプリが効いてる。そういって幻想纏いから護刀と小太刀を取り出す。煌鋼の妖精によって生み出された小太刀。その切っ先がアザーバイドのほうを向く。 「鬼を狩る人もまた鬼ってか、違いねえ。なら鬼は鬼同士って訳だ。さあ、殺し合おうじゃねえか」 凍夜は二刀を構えてアザーバイドに殺気を向ける。それに答えるようにアザーバイドも己の持つ刀を垂らしながら、殺気を返した。 『サムライ』『金無双』『四間飛車』……そう呼称された人型アザーバイドと刀型アザーバイド。そしてその傍に築かれる屍。 「参考までに聞いておこうかしら。此処に来てから何体斬った?」 「四十八」 『レーテイア』彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)はサングラス越しに『サムライ』を見る。駄目でもともととばかりに聞いた質問は、意外にあっさりと返ってきた。 「ボトムチャンネルを修羅道か何かと勘違いしてるんじゃないかしら」 「勘違いではない。ここは戦に満ちている。この『穴』は自然に起きたものではなかろう。 それにここには鬼の爪痕を感じる。数多の強者が戦った痕が」 アザーバイドがいう『鬼の爪痕』というのは、先の決戦のことだろうか? 彩歌はそれをおもいながら、ため息をつく。なるほど戦いを好む人種もいる。殺戮を求める人種もいる。それは否定しない。 「人も争いはするけれど、人間にとって戦い(それ)は目的じゃないのよ」 だけどそれだけではない。バトルマニアの拳だって誰かと握手をするし、霧の殺人鬼が魔女を愛することもある。何かを得る手段として、戦うのだ。この『サムライ』は戦うことが目的になっている。 「鬼に逢っては鬼を斬り 仏に逢っては仏を斬る。一方行だけしか観ないのは楽だけど詰らない道よ、私は撃つだったけど」 あらゆる依頼をこなし、さまざまな修羅場を経験してきた『BlessOfFireArms』エナーシア・ガトリング(BNE000422)は、自らの経験を語る。そのまま相手を見据え、推し量ろうと意識を集中させた。 (……斬った数に関して嘘は言っていないみたい。なるほど――) 「羅刹にはいたらず。視覚の変わりに音と足元の振動で動きを察するようね」 「肯定だ。我は血を求めている。羅刹に至れと血が叫んでいる」 「益体もないお仕事だというのに、祭りの如き騒がしさが悪い気がしないのは」 正月に三ッ池公園の集会に当たっていたことを、エナーシアはあまり後悔はしていなかった。なるほどこんな事件に巻き込まれるのは不幸だろう。突如起きた百鬼夜行の、しかももっとも危険な区域にいるのだ。 なのに後悔はない。周りのリベリスタに視線を送りながら言葉を続けた。 「きっと貴方が見ようとしない輝かしいその他のせいなのだから」 エナーシアはショットガンを構えて気配を消す。静かになるのではなく、『一般』というカモフラージュで自らを覆う。そこにいるのにそこにいない。背景のように存在しながら、しかし背景のように気に留めない。そんな隠行。 「斬れば斬るほど強くなる……って何よそれ」 眠そうな目でアザーバイドと刀を見ながら『抗いし騎士』レナーテ・イーゲル・廻間(BNE001523)は背筋を走る寒さに身を震わせた。異世界の存在であるアザーバイドにこちらの理など通用しないことはわかっている。しかし斬ったらすぐに強くなるなんて。四十八体斬った分だけ、あの『サムライ』は強くなっているのだ。その源はどこにあるのか。 「刀が血をどうのこうの的なヤツなのかしらね」 理論はわからない。だが大切なのはその刃がこちらに向くということだ。盾を構えて腰を落とす。自らのオーラを防御に変えて鎧と化す。並の攻撃なら通さない自信はある。だが相手は並以上。どこまで耐えれるか。 「斬れば斬るほど強くなるのかー」 黒いハルバードを両手に握り、『吶喊ハルバーダー』小崎・岬(BNE002119)は『サムライ』を見る。岬も今までの戦いで沢山のモノを斬ってきた。戦い続けてどれだけ経つだろうか? ようやく自らのハルバードに振り回されない程度にはなってきた。 「じゃあそれだけ斬ったキミを斬ればどれだけ強くなれるのか。確かめるとしよっか-、アンタレス!」 今は亡きフィクサードの遺品。岬をこの世界に引き込み、そして今なお留めているハルバード――アンタレス。四方に刃を伸ばした上に中央に目のある禍々しいフォルム。それを振りかぶるように構え、『サムライ』にゆっくりと近づいていく。 「多くの血の啜り命を殺める事で強大な力を得る。正に修羅の如しじゃな」 『煉獄夜叉』神狩・陣兵衛(BNE002153)は煙管から煙を吸いながら、『サムライ』に歩を進める。片方しかない目で見るアザーバイドはまさに剣士。相手に不足はないとばかりに斬馬刀を抜く。漆黒の刀身に炎を連想させる紅蓮の模様が描かれた刀。幼馴染だった人物の忘れ形見。 「そんな輩は半端な覚悟では止められはせぬ。立ち向かうにはこちらも鬼と化すのみ」 体内の気を爆発するようにして自らの力を高める。握り締める刀の銘は『羅生丸』。二刀と一刀。数では劣るが刀に対する想いなら負けない。 「屍山血河、一騎当千ってか。地でいくと笑えねぇっつーの……」 ツァイン・ウォーレス(BNE001520)は剣と盾を構えて戦場を見る。百鬼夜行をとめるためにアークのリベリスタも粉骨砕身したはずだ。急造のチームとはいえ、それでも信頼に足る仲間たちだ。かなりの戦力がとめたのに、すべてを防げなかった。 「穴が開いて間もないっつーのに百鬼夜行とそれを皆殺しにする化物とか……先が思いやられるぜ」 その防げなかったエリューションをこのアザーバイドは切り伏せたのだ。その実力にぞっとする。十字の加護をリベリスタたちに与える。運命と神秘に対する加護が、光となってリベリスタたちに降臨する。 怖いとは思う。その実力に。その殺傷能力に。戦を好み、殺戮を常とする精神に。だけどツァインは退こうとはおもわない。先が思いやられるといいながら、しかし剣を置くという選択肢は彼にはなかった。 「そんじゃあ各々方、御大将に合戦と相見えますか!」 「四門を守ってくれた仲間のためにも、ここで僕らが気合をいれないとな!」 遠くの門で戦ってくれたリベリスタたちを思いながら『高校生イケメン覇界闘士』御厨・夏栖斗(BNE000004)は両手に棍を構える。右手に在るは防御型の炎牙。左手に在るは攻撃型の炎顎。とーん、とーんとリズムを取りながら『サムライ』に近づいていく。 夏栖斗は全員と視線を交わす。頷きあい、動くリベリスタ。作戦の最終確認を視線で行い、距離を詰めていく。力あるものの元に集う百鬼夜行。僕らも呼ばれたのだろうか? この場から逃げないのは、アークへの義務感だけだろうか? 引き込まれるように戦いに進んでいく。そんな感覚から目を覚ますように、隣の仲間に声をかけた。 「火車くん、今回も頼りにしてるぜ。どれくらい強くなってっか楽しみだ」 「ハッ! 年明け早々まったくめでてぇ奴らだぜ」 夏栖斗の言葉に気合を入れるように鼻を鳴らす『不退転火薬庫』宮部乃宮 火車(BNE001845)。年の初めの災厄を縁起モンだとばかりに口を笑みの形にゆがめた。 「どんだけエリューション殺そうが引き裂いてようが圧し潰してようが。最後の最後 土壇場瀬戸際踏み荒らして立ってるヤツが……強ぇんだよ!」 「肯定だ」 火車の言葉に首肯するアザーバイド。ともに力を求め、そして戦いを求める。似ているようにみえて、この二者には決定的に違う部分があった。アザーバイドは斬った相手の数だけ力を増す特性を持っている。火車にはそんな特性はもちろんない。 純粋な強さの違いではあるが、それはスペックの問題だ。決定的に違うのは、 「残飯全部食った奴食い荒らして強くなるのはこっちっつー話だ!」 挑む者。常に強者に牙を向き、勝ち残ろうとするもの。それは殺戮の修羅とは異なる強さへの上昇意識。アザーバイドにはなく、火車にあるもの。 リベリスタたちは『サムライ』の四方を囲む。動かず二刀を構えるアザーバイド。10対1。数の上では勝っていても、相手は百鬼夜行を切り伏せる存在。ましてや彼らは回復のないチームだ。十分な準備がなかったとはいえ、偏った構成だ。 それでもこのチームを無謀と笑うものは誰もいなかった。ただ仲間を信じて武器を構える。 「土産に見ていくと良いわ。斬っても手に入らない強さって奴を」 エナーシアは誇る。自らの持つ『強さ』を。 『サムライ』もその強さに応じるように構えを取る。『金無双』を守るように構え、『四間飛車』が突くように前に。たった二本の刀が、それだけで要塞のように思える。 幕が開く。殺界と血界の舞台の幕が。 ●血界 「魁は御厨かっ? いいとこ見せてくれよ!」 「おぅ! 拳士と剣士どちらが強いか力をぶつけ合おうぜ!」 「来るがいい。運命の加護を受けし者達。この世界の寵愛ごと、汝らを斬る」 刃を振るうアザーバイド。『四間飛車』が一瞬きらめき、夏栖斗に襲い掛かる。突き出された刀は届かない。だがその突きが殺気に似た何かを一直線に飛ばす。見ろ見ろ見ろ。その足裁き、腰の動き、刀の向き、肩の動き、相手の殺気。そして自分の経験を信じろ。思考は一瞬。判断はその半分。自らを貫こうとする迫る殺気を辛うじて避ける。 開いた傷口から、血が流れ出した。防御に徹しているため傷は思いのほか浅いが、それでも無視できる傷ではない。 「僕を食えば修羅どころか悪鬼羅刹になるかもな」 傷の痛みに耐えながら夏栖斗はアザーバイドを挑発する。その一言に矜持をくすぐられた様子はない。だがそれでいい。自分の役割は今ここで耐えること。勝利への道を明ける役割のため、今は踏ん張る。 「いっくよー」 岬がアンタレスを構え、『サムライ』の刀を狙う。その重量を持って刀を吹き飛ばすように。しっかり足で踏ん張って、地面と自分の武器をつなぐ。自らを神秘の世界につなぎとめる相棒を振るうのではなく、扱いづらい相棒を体の一部のように思うのだ。 大地から自分の体を通じてアンタレスを結ぶ一本の線がつながる。瞬間、相棒が思いのほか軽くなった。振り上げたハルバードは大上段から真っ直ぐに『サムライ』に振り下ろされる。それを庇うように『金無双』が掲げられた。十字に交差する刀と戦斧。 防御の構えを取っていた『金無双』はその重量を受け――流す。力を逸らすように斜めに傾けられた『金無双』はその身を削られながらしかし飛ばされることなく『サムライ』の手の中に握られていた。返す刀で岬はわずかに傷を入れられる。 当たるか否かと言われれば、当たる。だが吹き飛ばそうとするならしっかり狙わなくては難しいだろう。 「同じ剣士としてただ刃を交えたい。戦うのにこれ以上の理由も言葉も必要無いじゃろう」 陣兵衛が羅生丸を構え、紫煙をはく。煙管の火はすでに消した。ここから先、すべてを戦いにかけるとばかりに踏み込む。狙いは岬と同じく『金無双』。横薙ぎに振るわれた斬馬刀の一撃を今度は跳ね除けるように反らした。 その一撃。その一刀に陣兵衛は彼我の実力差を測り知る。強いとわかってはいたが、ここまでとは。心技体。すべてにおいて格が違う。戦いというものにかける気迫。それによって生まれた技量。それを支える肉体。なるほど、修羅とは斯様な者を指すのだろう。今の一撃でそれは知れた。 実力差は明白だ。だが陣兵衛に引く気はない。見えない右目を隠すように半身で構え、『金無双』に返された傷をなめながら口を開く。 「さて……心行くまで死合おうではないか」 彼女もまた剣士。口に笑みを浮かべ、死地で踊る。 「『金無双』が吹き飛ばせないのは厄介ね」 彩歌は『四間飛車』に意識を集中させながら、戦況を分析する。『サムライ』『金無双』『四間飛車』……この構えを崩すのが作戦のキモなのだ。特に防御の要になっている『金無双』を吹き飛ばさない限り『サムライ』は無傷で猛威を振るう。 「オルガノン起動――神経リンク――」 彩歌が腕につけている『論理演算機甲「オルガノン」』が起動する。助演算装置と気糸の制御装置の組み込まれた術手袋は彩歌の神経とつながることでその性能を最大限に発揮する。彩歌の得た情報を分析し、演算し、そして処理を行う。0に近い勝率でも、0でないのなら100にできる。否、してみせる。 放たれる糸はまっすぐに『四間飛車』に。夜の空気を裂く気の糸。絡まった糸は刀身を締め付け、その意識を彩歌に向けさせる。無形の圧力に彩歌は汗するも、目的は達したと自らを奮い立たせる。 「『四間飛車』の意識はこっちに向いたわ」 「よぉ御同類! 沢山食って元気してっかぁ!?」 その腕に炎をまとわせ火車が『四間飛車』に近づいていく。『鬼』と『爆』とかかれた手甲が赤熱し、その文字をさらに光らせる。その熱に答えるように『四間飛車』は月光を受けて煌いた。 踏み込む。刃が迫る。手甲で受ける。すべるように刃が体に迫る。本能が危険と叫んでも前に進む。刃が体に触れる。すんでのところで身をかわし、叩きおろすように拳を叩き込む。芯を反らしたのか突風に凪ぐように刃は跳ねる。追いかけるように両手を組み合わせて、ハンマーの如く振り下ろす。 「当てるだけなら難しくないみたいだなァ! ガンガンいくぜ!」 真芯に捕らえて炎に包もうとおもうのなら相手をよく見ないと難しい。だがダメージを与えるだけなら手数を重ねたほうがいい。火車はそう結論付けた。 「そう。じゃあ私の全力を刻み込んであげる」 自らの影をまとわせた糾華がふわりと踏み込んでくる。まるで夜に舞う蝶のように。幻想的なステップで『サムライ』に近づくと、白い指先で刻印を描く。それは死を告げる刻印。砂時計がすべて落ちるころには命をうばう時限爆弾。糾華の小さな指がアザーバイトに死を刻み付ける。 だがその刻印は『サムライ』には届かない。その動きに割って入るように『金無双』が動いたからだ。その刻印を受け止め、刻印ごと糾華を切り裂くように刀が動く。小さく悲鳴を上げる糾華だが、その表情は崩れない。クールに距離をとりながら、指を唇に当ててアザーバイトに返した。 「死蝶の舞を見ながら逝きなさい」 『金無双』に刻まれた死の刻印。それはじわりじわりと刃を蝕んでいく。 「悪くない流れね。相手の底が見えないのが不気味だけど」 エナーシアは『サムライ』を中心に円を描くように移動しながら、銃を撃つ。狙うは『四間飛車』。銃を撃つと意識したときにはすでに引き金は引かれている。瀟洒で華麗に動き重火器の祝福を受ける彼女の放つ弾丸は、吸い込まれるように『四間飛車』に命中する。 『サムライ』は銃弾を日本刀で受け、あるいは斬り裂く。だがエナーシアはそれ以上の速度で弾丸を放つ。まるで時間が止まったかのような感覚の中、幾千と繰り返した動作で弾丸を放つ。放つ、放つ、放つ放つ放つ。その嵐の中、削られる『四間飛車』。 このままいける。エナーシアの銃撃は奇妙な金属音で止まる。排莢不良。これまた慣れた手つきで詰まった薬莢をはずしながら、エナーシアは悪態をつく。 「幸運の女神は気まぐれね。ショウの盛り上がり中に、そっぽを向かなくてもいいのに」 彩歌の糸に縛られた『四間飛車』は、それを振り切ることなく殺気を彩歌に向けた。その切っ先が光る。獣が牙を突き立てるように、無駄なく一直線に彩歌に向かって飛ぶ突き。 「OK、防御任されたッ!」 彩歌を貫こうとした鋭い一撃をかばったのはツァイン。堅牢な鎧と盾がその衝撃を受け止め、機械化した骨がそれを支える。肉体のダメージは避けられないが、それでも倒れるほどのダメージではない。 自分の役割は守ること。ツァインはそれを理解している。ダメージ源としては貢献できないが、それだけが戦いではない。相手の攻撃を防ぎ、そして仲間の攻撃で相手を倒す。だから自分はけして沈まない。 「どうした? もっと来てもいいんだぜっ!」 攻撃を受け止めながら、戦況全体を見る。誰が危険かをみて、誰をかばうかを決める。それを誤れば。リベリスタたちは崩壊しかねない。 リベリスタたちはうまく攻め立てているように見えて、その内情は薄氷を踏むような心境だった。一手の間違いが、大惨事になりかねない。 防御の要である『金無双』が『サムライ』に迫る攻撃をかばい、『四間飛車』が牙をむく。そして何より『サムライ』自身もまた脅威だった。 すり足で重心を落としたまま向きを変える。岬につま先を向けて、一歩踏み出すように前に――踏み込んだ。破壊の意思が大地を伝わる振動となり、岬を襲う。体内で爆発していた気の力が霧散し、同時に体内を引き裂くような衝撃に襲われる。 「きっ……ついー」 自らの武器を杖のようにして立ちながら、岬は『サムライ』を見る。盲目のアザーバイトはまるで鬼のような形相でリベリスタたちを見ていた。そこに慈悲はない。怨恨や怒りもない。ただ殺す。殺界という舞台にたつ修羅。血界で踊る刃。 「これならどうかしら」 自らをオーラの鎧でまとい、レナーテは『金無双』に向けて神秘の光を放つ。己に意識を集中させる不殺の光。強い力を込めた十字の光。『金無双』はその光を受け止め刀身を震わせるが、それ以上の変化はない。 光の残滓が夜に消える。その残滓を追いかけるように『金無双』から飛んでくる斬戟。傷はたいしたことはないが、それでも回復のないこの構成では小さな傷の積み重ねが危険であることはみな理解している。 「吹き飛ばせなかったか……っ!」 凍夜は奥歯をかみ締めながら『サムライ』に向かって踏み込む。可能な限り気配を消したつもりだが、戦闘中に完全に気配をたつことは不可能である。相手の闘気に当てられてしまい、不意打ちにはいたらない。 『金無双』を吹き飛ばし、分断後集中砲火。この作戦がなされていない以上、待つ意味はない。凍夜も二刀を振りかぶり、『四間飛車』に刃を振り下ろした。体内のギアを最大回転させ、弧を描くように二本の刀を交互にたたきつける。体重移動と足運び。刃は凍夜を中心に回るような軌跡を描き、何度も叩き込まれる。唐竹、袈裟斬、右薙、右斬上、逆風、左切上、左薙、逆袈、刺突。剣術における九つの筋。凍夜の二刀と『金無双』がその筋を中心に目まぐるしく交差する。 「サムライ、ね。流石に俺程度の付け焼刃じゃ刃が立たねえか」 「否、良い一撃だ。倫理を捨て三年血にまみれれば鬼すら狩れるだろう」 そいつはどうも。言葉を返す代わりに刃を返す。倫理をすててフィクサードになれば強くなれる。なるほどそれはそうだろう。だが凍夜にそんなつもりはまったくなかった。たとえ力を得れるとしても、それは彼にとって唾棄する力だ。 「知るがいい。これが闘争と殺戮の果ての刃だ」 修羅は刀を振るう。『四間飛車』『金無双』の二本を構える。 闘争と殺戮の果て。そんな刃が動く。 ●殺界 リベリスタたちは散会し、範囲攻撃を食らわないようにしていた。また直線状に立つことも避け、『四間飛車』の攻撃をまとめて食らわないように動いている。多対一に優れる『サムライ』だが、それも敵がまっすぐに突っ込んでくることが前提だ。『万華鏡』により事前情報を得ているリベリスタとは相性が悪い。 だからといって楽に倒せる相手ではない。 「く……っ!」 彩歌の糸を振り払い。『四間飛車』が四方八方に放たれる。体力に劣る凍夜が刃の恐怖で心を刻まれながら、同時に肉体の限界を向かえた。運命の加護を燃やしてその場に立ち止まる。 「刃が立たねえなら立つまで繰りかえすだけよ。こちとら諦めが悪いのだけが取り柄でね」 「たまにはかっこいいとこ見せないとね」 糾華に迫る突きは夏栖斗がかばって受け止める。体力に自身があるとはいえ、刃で削られる精神はそう多くない。技を放てる回数は後どれぐらいか。それを計算して冷や汗が出てきる。 「さすがに厳しいのぅ……!」 陣兵衛が体力の限界を感じて一度『サムライ』から距離をとる。それを見逃す『サムライ』ではなかった。裂帛の怒声を上げると、陣兵衛に気合の塊をぶつける。体の心から何かを抜かれるような感覚。倒れそうになる肉体を運命を犠牲にして踏みとどまった。 瞬き一つする間もなく『金無双』が防御を解いて切りかかる。堅く鍛えられたその刀身。それが受けた傷をそのまま返すような一閃。それは炎の拳を振るう火車に振るわれる。想像以上の切り口に驚くも、火車は意識を沈めて瞳を閉じる。 「さぁてお立会……!」 静かな水面に一滴の水が落ちて、波紋を広げるイメージ。流れる水は不定。窪地にあれば湖の形に。グラスに注げばグラスの形に。状況にあわせて自らを変えながら、その本質は変わらない。その心。その構え。それでいて闘志は熱く。 「こっから先がようやく本番……だろ?」 にぃ、と微笑む火車。『サムライ』も無言で口を歪める。 「あんたは強い」 言って夏栖斗は『サムライ』から距離を離す。 「自らの弱さを認め、逃げるか」 ステップを踏んで蹴りを放つ。真横に凪ぐように振るわれた足が真空の刃を生んだ。風の刃は『四間飛車』を刻み、傷をつける。 「まさか。弱いヤツが強いヤツに抗うほどかっこいいことなんてねえからな」 相手の強さを認め、自らの弱さも認める。そんな強さを持つ弱者の一撃が『サムライ』の気を引いた。 「これでどうだー」 気を引いた隙をつくように、岬が斧槍を横に振るう。大地を踏みしめ、振り切るように強く。細かく動き回る『金無双』の芯をようやく捕らえ、キィィィンという金属音とともに『サムライ』の手から吹き飛ばすことに成功する。 「あとはお願いー」 「了解。任せてもらおう」 レナーテが吹き飛んだ『金無双』に向かう。自らが斬った亡者を使役して自らを浮かせ、『サムライ』の手に戻ろうとする刃型アザーバイド。レナーテはそれをブロックし、その動きを封鎖した。『金無双』は亡者を使い、主の元に戻るのを邪魔するレナーテと相対する。 「こっちはこっちで我慢比べといきましょう」 盾を構えて防御の姿勢をとるレナーテ。『金無双』の一閃を盾で防御する。金属と金属がぶつかり合う音。刀から力が最も加えられる瞬間に腰を落とし、鉄壁と化す。重い一撃だが、防御に徹していればしばらくは耐えれそうだ。 ここでどれだけ抑えてるかが、勝負の要となる。疲弊しているリベリスタにとって、最初で最後のチャンスだろう。『金無双』が戻ってしまえば、勝機は消えるといってもいい。 「ようやく作戦通り、ね。ここからが正念場。お代は観てのお帰りよ、急ぎ足の修羅の人」 エナーシアはショットガンを構え、意識を集中させる。特別な能力なんて要らない。大切なのは積み重ねた経験。そして銃器に対する非凡な才能。狙って、撃つ。ただそれだけ。叩き込まれる弾丸が『四間飛車』への傷を増やしていく。 「どれだけ戦い喰らっても満たされないなら」 彩歌は気の糸を放ち、『四間飛車』の意識を向ける。二回に一度は糸をはずす事ともがるが、それでも『四間飛車』の攻撃力のコントロールはおおむねうまくいっている。 「それは修羅ですらない、餓鬼よ。餓えるままに血を流し、暴れまわる鬼」 糸を振り払うように『四間飛車』が荒れ狂い、殺気の刃を飛ばしてくる。その一撃を受けるのは、ツァイン。 「ハッ、敵陣に斬り込んだポーンを舐めんなよ……!」 プロモーション。敵陣に乗り込んだポーンはあらゆる駒になることができる。敵の攻撃にさらされるこの場はツァインにとってのベストポジション。彩歌をかばって盾で槍のような気を受け止め、 「まだ、まだだぜ……!」 荒い呼吸で運命を削って立ち尽くす。如何に持久力に優れるとはいえ、『四間飛車』の攻撃を最も受けていたのはツァインなのだ。しかし自らの傷を省みず、仲間の心配をする。最前線に立つという存在の気概がそうさせるのか。 「レナーテさん! 後ろから攻撃来るぞッ!」 『サムライ』がレナーテに向かって気を放ち、レナーテの盾の構えをわずかに崩す。その後に近くにいた火車に向かって踏み込み、衝撃を与えた。 「……っ! わかってはいたけど、厳しいわね……!」 「何度でも燃えろフェイト! 明けて早々……『負けました』じゃあ、俺等全員笑いモンなんだよドグサレがぁ!」 『金無双』を一人で抑えているレナーテと『サムライ』から退くことなく拳を振るっている火車。双方とも世界に愛された祝福を使い、異世界の剣士に足を向ける。 「火車きゅん!」 「合わせるぞカズト! いい感じで火が入ってきたぜ!」 夏栖斗と火車は『サムライ』を中心に回るように移動する。夏栖斗が風の刃を放つと同時に火車が炎の拳を『四間飛車』に向ける。風と炎が交差し、伏竜の刀を軋ませる。みしぃ、と何かがゆがむ音がする。 「どぉよ? 衝撃の逃げ場がねえってのは!」 「いっけぇぇぇ!」 ちぃぃぃぃぃぃぃん。 火車と夏栖斗が叫ぶと同時に追撃をかける。風と炎。斬と打。二重の衝撃が『四間飛車』に叩き込まれ、小気味いい金属音とともに『四間飛車』が砕け散る。 先ずは一本。リベリスタたちは見え始めた希望に表情が明るくなる。 しかし修羅たる『サムライ』は、ほぼ無傷で戦場に立ち尽くしていた。 ●戦 「一気呵成に攻め立てるわ」 糾華が無手の『サムライ』に迫る。彼女が刻む死の刻印は修羅によって得た再生能力を封じ、身を滅ぼす毒を与える。相手の回復を封じれば、勝機も少しは見えてくる。 「この刃に宿るは仲間達に託された想い。凶刃を振るい屍を増やして得ただけの力とは、意味も重みも違うのじゃ」 陣兵衛が刀に稲妻を宿らせ、自らを傷つけながら『サムライ』を攻める。その動きまさに迅雷。落雷の如く振り下ろされた一撃。それは百鬼夜行を止めてきた仲間からのバトン。繋がれた思いを込めて、羅生丸を振り下ろす。 「あんたが千一の剣を振るうならこっちは千二の拳だ」 夏栖斗はその手に氷を宿らせて『サムライ』に迫る。相手の強さに恐れることなく、それ以上の力で攻める。自分ひとりだけじゃない。仲間も含めて千二の攻撃。 「ふん!」 『サムライ』は自らを中心に気を爆発させ、自分の周りにいるものすべてを攻撃する。虚脱し倒れる陣兵衛と糾華。 「たおれるわけにはいかないわ」 蝶が突風の中で体制を整えるように、糾華は気の爆風の中で倒れそうになる自分を押しとどめる。ゴシックな服が血と刀傷でぼろぼろだが、それを気にしている余裕はない。 「武門の端くれとして一つだけ聞かせろ。手前、名は?」 凍夜はぼろぼろの体をどうにか支えながら問いかける。 「刃の修羅。元の階層ではそう名乗っていた」 「刻んだ。手前の刻んだその血路、この俺が継いでやるよ」 そこまでいって凍夜は力尽きる。倒れることなく立ったまま、刃を構えて意識を失った。実力が至らずとも、百鬼刻んだ修羅の道を歩んで見せる。その気持ちが背中に土をつけることを拒んだのだ。 同時に『金無双』を抑えていたレナーテも膝を突いた。防御に徹していたため長い間抑えることができたが、もう盾を構えるだけの力が残っていない。 「逃がしは……しないわ」 『金無双』をつかんで動きを封じようとするレナーテ。それはあっさり振り払われるが、ツァインが代わりにブロックに入る時間は稼ぐことができた。 「テメェの厄介さは俺が一番良く知ってんだ……!」 傷だらけの肉体を押して、強がるツァイン。長く押さえてられないだろう事は、誰の目にも明らかだった。 「こちらを見なさい。あなたの相手は私よ」 彩歌が手甲から糸を放ち、『サムライ』に絡ませる。アザーバイドはその糸を振り払わずに、殺気を彩歌の方に飛ばした。不可視だが確かに存在する意思の奔流。それは彩歌の前に立ちふさがったエナーシアが受け止める。その一撃でかなりの体力を奪われたが、それでも痛みを口にする代わりに『サムライ』を見て、 「仕事熱心なのは美徳だけど、少しは休憩を入れたほうがいいわよ」 エナーシアは常時と変わらぬ口調でため息をついた。 「行くよ、アンタレスー」 パーティ内で最大火力を持つ岬が斧槍を振るう。それは『サムライ』の胸を裂いて出血させるが、致命には遠い。 『サムライ』は意思の力で彩歌の糸と糾華の刻印を跳ね除けた。骨がきしむような音とともに『サムライ』の傷を塞ぎ始める。腕を自らの前で交差し、腹から力を込めるように声をあげて交差した腕を腰に落とす。自らを中心に気の爆発が起きた。 「まだ負けねえぇぜ!」 「僕だってー」 夏栖斗と岬が意識を手放しそうになり、運命の加護で戦場に留まる。息絶え絶えに『サムライ』を見た。ダメージをかなり与えたが、それでも『サムライ』が倒れる気配はない。 「負けるくらいなら……!」 火車は自らの運命をチップに奇跡を望む。ここで倒れれば覚悟持って託して逝った連中にあわせる顔がない。拳を握り、炎を燃やす。 しかし、奇跡は起きない。歯軋りををしながら、苛立ちとともに拳を振るう。 「仕舞いだ」 『サムライ』は軽く足を踏みあげ、震脚の構えを取る。振り下ろされればまた一人誰かが倒れるだろう。その一撃が、 「JACKPOT! その一歩は勇み足ね」 放たれなかった。エナーシアが『サムライ』の脚に弾丸を放ったからだ。 生まれた隙に割り込むように糾華が迫る。 「貴方が喰らってきた命を吐き出しなさい!」 糾華の指が夜の闇に動く。幾何学的に描かれる死を告げる刻印。それが『サムライ』の胸に刻まれる。 「ここで果てるか、我が修羅道……!」 刻まれた印に『サムライ』は膝をつく。溶けるような死の接吻。 「だが悔いは……ない!」 百鬼夜行を食らい尽くしたアザーバイドが、ここに倒れる。殺戮と闘争の刃が、ここに折れた。 ●リベリスタ 『金無双』は主の死を悟り、粉々に砕け散った。同時にリベリスタたちも力を抜く。 糾華は『サムライ』の死体に目をおろす。 「最悪の状況まで到らなかった……つまり、私の、私達の、この公園で戦ったすべての人達の勝ちよ」 糾華は四方の門で闘った32人のリベリスタたちを思い、ここにいる10人のリベリスタを思う。それら全てがあっての結末。それがあっての夜の静寂。 「手前の死を無駄にゃしねえ。だから、此処でお前は終わっておけ」 凍夜は傷の手当てをしながら、『サムライ』に告げる。この戦いは大きな糧となった。この経験は無駄にはしない。刀を持つ手に力を込めた。 「勝因? 歩のない将棋は負け将棋。なんてなっ」 ツァインは怪我人を治療しながら、他のリベリスタと健闘を称えあう。いかに強力な武器を持っていようとも、単体では手詰まりになる。仲間との連携があってこその勝利だ。ツァインを始め、それは皆充分に理解していた。 「これしか残っておらぬか」 陣兵衛は折れた『四間飛車』の柄を拾い上げる。敵とはいえ同じ戦人、その証を受け取る事が弔いになる。そう思い、その刀を見た。武器としてはもはや意味を成さないだろうそれを大久野幻想纏いで隠し、収納した。 「そっちも終わったか」 北門、南門、東門、西門で闘っていたリベリスタたちがやってくる。 比較的怪我の浅い人が重傷者を支える形で撤退を始めた。 『ここには鬼の爪痕を感じる。数多の強者が戦った痕が』 彩歌は『サムライ』が言っていた言葉をふと思い出す。 何かの比喩なのだろうか? そもそもあの『サムライ』は何を求めてこの世界にやってきたのだろうか? そんな思考は、仲間が呼ぶ声で現実に戻される。彩歌はその声に応じて血界を後にした。 百鬼夜行の騒がしさは、もうない。ただ静かに風が吹いた。 今はただ、静かに。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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