● 「凧揚げ」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、無表情のまま、くいくいと糸をひく真似をする。 「静岡、浜松の大会とかも有名。いい風が吹く。という訳で、三高平でもやってみるんだって」 臨海地区の空き地で、凧上げ大会。 当日白い凧が配られるから、自分で絵付けして飛ばす。 描き方も教えてもらえるそうだ。 お手軽に、シールも多数用意。 「書初めとしゃれ込んで、今年の目標書いて飛ばすのもいいかもね」 凧を揚げたことがない人も、ちゃんとレクチャーしてもらえるとのこと。 当日は、凧揚げには最適のいい天気と風具合だそうだ。 「正月の間に野垂れ死なないように、七緒も呼んどいた。写真撮らせる」 生存確認。生きるを続行してますか。 「後、お汁粉配るって。提供は三高平市商工会議所」 花より団子、凧より汁粉もありってことだ。 「お正月気分味わっとくのもいいでしょ」 楽しんできて。と、イヴは、集まったリベリスタに、凧引換券を配り始めた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年01月07日(土)22:44 |
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● いい感じの風が吹いている。 吸い込まれそうに青い空に、凧とお汁粉の白い湯気が昇っていく。 凧を揚げるフツの目は、どこか遠くを見ている。 「式神召喚」を使って凧を式神化してからあげて、視覚を共有しているのだ。 (昔から、こう思ってたんだよ。空を舞う凧を、すぐ近くで見たら、どんな光景が見れるんだろうってな) 上手な凧、下手な凧、かわいい凧、ムキムキ兄貴の描かれた凧、その兄貴に狙われるイケメン凧。 美少女のキスをもらう為にぶつかりあっているけんか凧……。 眼下の縁台では、奏音、リーゼロット、ベリルが汁粉を食べている。 奏音、リーゼロットが凧は二の次で、お汁粉を食べている。 ベリルは、きょろきょろしてお代わりのタイミングを見計らっている。 時折、空を見上げている。 ● 疾風は、絵筆を手に取り、白い凧を前にためつすがめつしている。 「どんな絵にしようか。たくさん絵付けしてみようかな」 脇には、お子様がわんさか。 5人戦隊やメタルっぽい変身ヒーローとか、怪人とか描いてくれるのだ。 「絵付けした凧が元気よく空を舞うと何だか嬉しいよねえ」 描いてもらった凧を子供たちが次々と揚げ始めたので、空は一大戦隊絵巻になっている。 「こんにちはー、写真撮って貰っていいですかー」 七緒は、にまあっと笑ってカメラ目線の疾風と、空一杯の凧を撮った。 イーゼリットは、ジャパネスク。 (題材は龍ね。用意がありそうだし、日本の顔料を使おうかな。完成したら、部屋に記念に飾っておきたいの) 自分で描けそうな龍の資料を、一生懸命見比べながらせっせと筆を動かす。 だんだん楽しくなってきたのか緩やかな笑みにかかる。 きっと、自分で納得の行く出来になるだろう。 座敷・よもぎは、真っ白な凧を前にしばし固まっていた。 (新しい年を迎えたこの日にそんな骨の折れる作業に出くわすとは、目に見えない何かが僕を試そうとしているように感じ……) 逆に考えるんだ。踏み出してしまえば、それでいいんだと。 「……いや。別に。回りくどい事を言って時間を稼いでいる訳ではないよ。本当さ……」 通りすがりの七緒が、画材置き場を指差す。 「シールとかもあったわよぉ。そんなに悩むんなら、そっちにすればぁ?」 「……」 よもぎは、絵筆を手に取った。 「やっぱり絵は苦手だ」 ややあって、「使い古されたスポンジのような」クモの絵を見下ろす。 それを手にとって、腰を上げた。 紅香は、一番大きな凧いっぱいクレヨンで描いていた。 (絵付けに真剣に取り組む紅香の姿……可愛い!) 出来上がってくるにつれ、狗鳥に予感めいたものが浮かんでくる。 (……うむ、少し歪んだ気もするが、上手に描けたのではないか?) 「狗鳥! これは狗鳥の似顔絵だぞ。とっても大きく描いたのだ。どうだ、上手だろう?」 誇らしげな紅香。 (褒めてもらえるだろうか……ドキドキだ) (む……これは、……ワタシ!?) 「……やっ、凄くジョウズヨ。チョー似てる……ネ」 「早速空高く揚げよう!」 狗鳥の手をとって、紅香が駆け出す。 (此の凧が空の上に……。恥ずかしい、地味に。でも……幸せネ) 優希は、感慨深げだった。 (正月の由来。日本の伝統、慎ましやかな気質、神や先祖や縁を大切にするそんな優しい風土が好きだ) 大和は、ニコニコしている。 (凧揚げという古式ゆかしいこの遊びを作る時点から経験できるなんて、ふふ、とても楽しみ!) 後で見せっこするので、互いに見えないように描き始める。 「色が足りなければ、好きに絵の具を使ってくれ」 大和は、結城の気遣いに微笑む。 「それではお言葉に甘えて……赤をお借りしますね」 程なく描きあがり、ぱっと見せ合った絵柄に、優希は今年の干支ではない?と一瞬面食らった。 大和が描いたのは繁栄の太陽とその中央に豊穣の蛇を配置した絵柄。 「凧に描かれる蛇は多くが退治される側です。なんだか納得いきません。ですので」 蛇神を祭る巫女の面目躍如。 「豊穣と益々の繁栄を願いましょう。巳年は来年とか気にしたら負けです」 優希は、鮮やかな赤に、幸願う蛇の画に親しみを覚え、そして三輪の満面の笑みに思わず顔を綻ばせた。 「蛇神様が祝ってくれているのだ、良い一年にしていかねばな」 大和は首肯し、結城の入魂の龍が描かれた凧をまぶしそうな顔をしてみる。 「より高く、より遠くへ……なんて、力強い。まるで優希さんを見ているみたい」 大空を見上げる二人は、空に向けて吉兆を解き放つため立ち上がった。 とらは、やっこ凧に絵付けをしていた。 (やっこ凧の独特の形って、何を描くか迷っちゃうけど~…今回はねぇ、塔の魔女。この横の出っ張り部分が、巨乳ね) 横に突き出してます、どーん。 「くふふ……ジャックもバカよねぇ……あんな乳女に騙されて~。ねえ、七緒ちゃんもそう思うでしょぉ?」 余ったスペースに「バロックナイツとかワロスw」と書きこみ、七緒ににこっと笑って見せる無邪気なティーン女子。いや、なんか黒いんじゃないか。腹が。いや、胸か。 「千里眼で、アークストーカーだよ、あの女ぁ。とりあえず、今後のおやつ、若干気を配ったほうがいいかもねぇ」 冥真のは、穴が開いた凧が二、三個転がっている。 面作る時と同じ感覚で筆をおいたら、穴が開いたのだ。 (分かってる、だから何も言うな。書くよ。力加減が分かった以上やるようん、やりゃいいんだろ、描き上げてやるさぁぁぁぁ) 3番、エコーでお願いします。 そして出来上がったのは、般若モル面とか。 うん。飛ばせば店の宣伝になる……かも……。 「飛ばすなよ。乾く前は絶対にやめろよ」 何故か写メってメール打ってる。じっくり乾くのを待つ冥真。職人である。 ● 麗葉・ノアは、さわやかだった。 「やー、正月ですなあ。何の面白みもない感想でありますが正月ですなあ! 人が集まるところに乱あり。正月を清らかに迎える為に空の交通整理であります!」 白い呼子がまぶしいぜ! 「はーいそこ行く凧揚げの皆々様がた!お空もこの時節は交通渋滞でありますからして、うっかり事故の起こらないように気を付けるでありますよ!」 うん、これで空の安全は守られてるね。 亘は、新年早々、冒険野郎だった。 (お正月の定番にあがる凧揚げですが、現代っ子なので実は初体験だったりします。この機会にたっぷりと楽しみしょうか) 凧揚げがブームだったのは今から30年位前。昭和も遠くなりにけり。 (この帆船凧にしましょうか。海を渡る船が風に乗り空を飛ぶロマンを感じます) いきなり、風がビュービュー吹かないと揚がらない上級者向け。 「む、ぬ、これは飛ばせるだけでも難しいものですね。しかし、風の名を持つものとしてなんとして上手く大空へと飛ばしたい」 (そうだ、もっと風を感じるんだ……第六感発動!) こうして人は、非戦スキルを自分のものにしていく。 文は、走っていた。 「あ…あれ?揚がらない……もう一度っ。てえーーーいっ!!こ、今度こそっ! てええーーーーーいっ!!!……全然揚がらないよぉ……」 まじ泣き始める女の子に、商工会議所のおっちゃんがレクチャー。 「……え? 風を背にして走っちゃダメ? 風に向かって走るの? 分かりました! やってみる! ええーーいっ!」 文、素直が美徳。 教えられたとおりに走ると、するすると凧が空に揚がっていく。 「わぁ……!揚がった、揚がった!わたしでも揚げれた!凧揚げって、楽しい♪」 今泣いたカラスがもう笑った。 「どこまで揚がるか、やってみようっ」 今年も、そのまんまの文ちゃんでいてね! リンシードは、涙目だった。 豪兄貴と言う双子のガチムチマッチョメンな凧。 「え、二つ同時はあげられないって……? ダメです、2人一緒じゃないと……両手であげますから……!」 幼女の涙、値千金。 おじちゃんが連続で揚げてくれて、タコ糸をリンシードに持たせてくれた。 「……おぉ…燦然と輝く2人…素晴らしい……あ、凧糸が絡んで……あぁっ…そんな…!2人、激しく絡み合って……いけませんっ……!」 いやな予感がする。 「だめです、そんなくんずほぐれつ……!」 妙な解説に糸がぶちっと切れた。 「あ……2人は、旅立ちました……真の、愛を求めて……」 イーリスは、はしゃいでいた。 「わたし! どらごんの絵のやつにするです! 今年は、ドラゴンの年らしいのです」 一番気に入った龍のシールをたこに貼り付け、野原にゴー! (そして! いちおう! そのへんの、くわしそうなひとに、おそわりながら、あげるのです!) これが、末っ子の生きるテクニック。 もう確立されてるノウハウは吸収するに限るのです。 (やったことはないのです!でも!全力で戦うのです!!) ……戦う? 絶対負けられない戦いがある。 「落としたら勝ち、のルールでいいね?」 快は糸巻きから糸を繰り出していた。糸の選定も終了。勝つ気満々。 「楽しむとか言ってる奴らにだけは負けてられねえ!けんか凧は、やるかやられるかの命がけの勝負なんだよ! 戦いは非情さ! 教えてやるよ……本当の闘争というものをな……!」 変態なのにリア(規制)の竜一は、無駄にかっこつけ。勝つ気満々。 「なな、一番に成った奴があざっちゃんにほっぺちゅーもらえるのどう?」 夏栖斗は自分がほっぺちゅゲットすると信じて疑わない。勝つ気満々。 ていうか、糾華ちゃんの承諾取ったの? 「ってお前、勝手に糾華さんを商品にするとかマズイだろ!」 快さん、まじアークの良識。 凧が高々と空に上っていく。 頃やよし。 (快は鉄壁そうだから……) 夏栖斗と竜一の思惑は一致していた。 だって、「あらゆる意味で守護神」だし。 だから二人の作戦は、「まずは隙のある方にぶち当ててそいつごと快を倒すぜ!」 「うりゃ! うりゃ!」 夏栖斗の攻撃に危険を感じた竜一、掟破りの本体攻撃、夏栖斗の尻にキック! 「てめーざけんな! あざっちゃんのちゅーもらうのは僕だ!」 「言ったろう? 闘争だと! 勝利のあざにゃんのほっぺにちゅーは俺のものだ!」 ぶつけられたらああしよう、こうしようとシミュレーション一杯したのに、快の凧は無事なまま。 「この勝負、勝たせてもらう!」 快、発動! ピキピキピーン。 「「ざけんなぼけー!」」 糾華は、エレオノーラじいちゃんとお汁粉食べていた。 「ほらほら、男子しっかりしなさいよー」 くすくす笑いながら、無責任な声援。 凧揚げしている野原はいい感じに距離が開いているので、何をしゃべっているかは聞こえない。 「喧嘩凧という割にはあまり喧嘩って感じじゃないわね。小手先に頼り過ぎなのよね」 尻キックとかしているし。 「あたしの調査によると、ガラスの粉を自分の凧糸に付けて、相手の凧糸を切れば勝ち、負ければ腹パンっていう血も涙もないゲームだって話だわ」 だまされてます、諜報員。 穏やかな冬の青空。 風に流れて聞こえてくる、「てめーざけんな! あざっちゃんのちゅーもらうのは僕だ!」 「え? 何? ちゅーって、私知らないわよ?」 立ち上がる糾華に、エレオノーラじいちゃんにっこり。 「女の子のキスが欲しいからって目の色変えちゃって……若いって良いわね、勢いで何でもできて」 知ってたのか。恐るべし、諜報員。 糾華、発進。 エリスはお汁粉すすりながら空を見ていた。 「寒い時には……温かいものが……何よりの……贅沢」 (そう言えば、昔の特撮や時代劇小説とかに大きな凧に忍者が乗って偵察するなんて有ったけれど実際にやったらどうなるのかな) 「やってみたら……面白そう……」 縁台でモッズなミカサが汁粉を食べていた。 (あの子、凧に乗らないのかな……乗って欲しいな) 視線は、幸成に釘つけである。 (何か忍者に凧って鉄板じゃない。新年早々、颯爽と飛んで欲しいよね。風を感じていて欲しいよね。自分でも何を言ってるのか解からなくなってきたけどね。うん、外国の方々レベルで忍者が好きなんだ) エリスよ、ミカサよ、忍者は裏切らない。 ( 凧揚げとくれば、忍びたる自分が大凧に乗って空を舞う以外ないで御座ろう……。普段は忍んでいる身なれど、新年の祝いくらいは大々的に参らねば) その意気やよし! (その大凧を揚げるは勿論我らが王。人馬一体となった我が王に不可能など無し……人が乗った大凧すらそのお力で悠々と揚げて下さることで御座ろう) 王様こと刃紅郎は、意気軒昂。 「戦凧とやらが行われようとしておると聞く。戦と聞いては黙っておれぬ。我等も参戦せねばな!」 執事、馬引け、昼花火を揚げよ。 黒部、獅子の絵に刀と手裏剣をあしらった我等の凧だ。 さあ、黒部! 正月の空を存分に彩れ! 幸成が凧に乗り、刃紅郎が馬で引いて揚げる。 「人馬一体となった我等の勢いなら、人一人乗っておろうが揚げるのは容易い!」 幸成は、懐に大量に忍ばせた色とりどりの紙吹雪を撒いて、正月の空を彩り。 げに麗しき初春の空かな。 「む、遠めに見えるは喧嘩凧で御座るか……?王よ、我らも参戦………おや?凧と馬を結ぶ糸の様子が……」 すでに馬を駆る刃紅郎に、幸成の声は届かない。 「応! 新田! 我等もその戦に参戦するぞ!……喰らえ! 王技・忍風無双乱舞凧!」 「ご、ござぁぁぁぁ!?」 乱気流に飲み込まれた木の葉みたいだったねと、後にミカサは語る。 ふと、刃紅郎は気付く。 「……む? 我の手には切れた綱のみ……黒部?」 「あ~……」 三つの凧が、幸成の凧とリンシード言うところのくんずほぐれつしながら空の彼方に消えていく。 情けない声を出しながら見送る三人の背後から、 「どういうことか説明して頂けないかしら? 黙ってると腹パンならぬ腹ハイアンドロウが炸裂するわよ」 背後におどろ線を背負って、糾華登場。 「ハイ、整列! 正座!」 「す、すみません、ごめんなさい」 (やばい、あざっちゃん怒ってるすがたもかーわーいーなー!) 「止めようとしたのに、なんで俺まで……」 快、報われないね。 「そういう時は報告、連絡、相談!」 「はい!」 「本人のいない所でね、そういうのを決めるのはね。なんなの?」 「はい、すみませんでした……。悪気はなかったんです……」 (でも、可愛い子に叱られるのも……アリだな) 竜一。リア撲でも変態、リア(規制)でも変態。 「レディの意思を無視するのは良くないわね、紳士的じゃないわ。だからDTなのよ」 エレオノーラによって、ホワンとし掛けていたココロに冷水がびしゃーとぶっ掛けられた。 魔法使いにはまだ時間があるし、そんなに急ぐこと、ないんだよ? ころなは、静に凧揚げを教えてもらうと張り切っている。 「新年初遊び! 天高く凧を揚げようぜ!」 「わー沢山飛んでるー。ここで飛ばすん?」 凛子を発見したころなは、ぶんぶん手をふる。 「凛子さーん、ボク、桜小路さんに凧教えてもらうねん。あんなーボク、お陽さんまで凧飛ばすねん。ジュッゆうて燃えるとこ見とってなー」 「風上に向かって走ってごらん。凧が揚がったら、凧に風を当てながら、少しずつ糸を伸ばしていくんだよ」 とてとて走ったり、転んだり、草むらにつっこんだり、キャーキャー声を上げるころなを見守る静の目も優しい。 「わー飛んだー桜小路さん見てーボクにも出来たー。わーい太陽まで飛んでけー☆ あっ桜小路さんも飛ばすん? わーほんなら桜小路さん、お月さんまで飛ばす係な? えへへー楽しなー♪」 上がった凧ところなの笑顔を合わせてデジカメでパチリ。 ころなの姉、宇宙へのお土産だ。 「どっちが高く揚げられるか競争だ、今日は日が暮れるまで遊ぼうぜ♪ 」 ヘルマンとエリエリは、仲良く。 (いや、何かしらお正月らしいことしたいなーって……まったり遊べたらなと) 外国の人なんですよね。日本、満喫! (エリエリは邪悪ロリですので、まだまだこども。あそびには本気を出さざるをえません) 「あっ」 エリエリが、ヘルマンさんの背後を指さした。 飛んでく凧忍者。 その隙にヘルマンの凧の尻尾をばれない程度にちょんぎった。 バランスが崩れ、ひょろろろとかしいでいく、ヘルマンの凧。 「あれっ飛ばない……浮くけどすごい回転しながら落ちてくる……怖……エリエリさんのはちゃんと揚がるんですね、うーんどっかで作り方間違えたのかなー」 しきりに首を傾げるヘルマンにニコニコするエリエリ。じゃあく! 「しっぽのながさがふぞろいですよ。プロアデプトですからね、凧の修理もおてのもの!あたまいい! 」 ぺたぺた。その尻尾の紙どこから出したか? こまけえことはいいんだよ。 「エリエリさん物知り! ありがとうございます! まだ小さいのにすごいですねえ偉いですねえよーしよしよし」 ヘルマンには今年幸せになってほしいなと思う。 (人は……、空に憧れを抱いてきました。あの蒼空をこの手に掴むため、数多の先人達が夢を追い求めてきたのです!) 「今日は人が乗れるサイズの巨大凧を用意しました。初飛行の栄誉は、一番身軽な京子さんに譲るよ! 超がんばって!」 「いやいやいやいや、私はイヤですよ! ちょ、終くん! 助けてくださーい!!」 「そりゃあ、絶妙なバランス感覚に風のような身のこなしの舞りゅんしかないよ」 ここまで言われて引き下がる舞姫ではない。体重はりんご三個分だし。 「さあ、終くん、京子さん。全力でダッシュです!DALv2コンビの実力の見せ所です」 「はぁ~……、毎回毎回、無茶言うなぁ……、って、ホントにいいんですか? じゃあ引っ張りますからね?」 「とりゃあー」 終と京子が駆け抜ける。 背中に凧を背負って舞姫も助走し、タイミングを見てジャンプ! (ああ……わたしは鳥になるのね……) コンマ数秒の陶酔の後、そのまま墜落して、凧と一緒に引きずり回される。 「ふおおお、すとっぷ、すとぉぉぉおおっぷ!!」 (後ろから何か聞こえる様な気がするけど気にしない私は凧をあげる私は凧をあげる普通だから何も気にしない、おかしい事なんて何も無い) 京子には、風の音しか聞こえない。聞こえないんだったら。 ( ああ、舞りゅんがついに風に……なるわけなかった) まだ理性が残っていた、終、急ブレーキ。 「衛生兵! 衛生兵! 凛子おねーさん、舞りゅんのお顔が大変~」 そんなっ! 残念美少女が、ただの残念少女になったら大変だ。 衛生兵~!! 声を聞きつけ、凛子はもとより、お汁粉食べていた陽斗も駆けつけた。 「崩壊も戦いも忘れ、今日のこの一日を、幸せに過ごすことができるように」 尽力は喜びであるのだと。 辜月は、飛んでいく喧嘩凧を見送っていた。 (賑やかで見てて飽きないなぁ。なんかトンでもな光景っぽいのも見えるけど、気のせい?) 気のせい。とんでもないと言えるようなことは、なかった。 「三高平標準がこんなのだったら、なんか恐いかも」 うん、ごめん。割と日常。 強く、生きていってね。 ● 「くわっしゃーーん!! どっちが多く食えるか勝負! まあ、俺が勝つけどな!! ふはははーん!!」 俊介、早くも勝利宣言。 「上等だこのクソガキ! 食い殺す! 勝負しかけた事を後悔しろよ……!」 甘い者が苦手な火車、それでも受けて立つ。 (汁粉… 不味くは無ぇ… 不味くはねぇけど… 雑煮無かったのかよ!) 三高平は、移民の町だよ。東西の中央、静岡だよ。そんなところで雑煮作ったら、戦争が起こるに決まってるじゃないですか、やだー。汁粉、食べてよ。 (茶! 茶をよこせ!!) 一方、彼女とケーキバイキングにいけるくらい甘い者が得意な俊介。 (やべえ、なかなか美味いな、よしペース的にも勝ってるこれで俺の勝利は確定的明らかだな!ざまぁあー!!) 「なんだこの野郎……! 何勝ち誇った顔してやがる!」 俊介に腹パン豪炎撃(強パンチ・ため) 「ガッブォォエ!!?」 (あまりの痛さに失神しそう、だが負けぬ) 「ぁにすんだよううう! もっとやってええええ!!」 取りすがる俊介、痛い光を放出ついでに、火車にがぶぅ。 おまわりさ~ん、おまわりさ~ン、場外乱闘ですぅ~!! 「ああ 曽田元気にやってるか?」 乱闘の隙間に火車にご機嫌伺いされた七緒は、返事の代わりに乱闘写真を撮った。 うさぎは、そんな七緒の首根っこを捕まえた。 凛子が七緒のまぶたをひっくり返したりして、栄養が足りているかの確認をし、首を横に振ると、持参の雑煮を食べさせる。 「あのさぁ、あたし、写真撮りたいなぁとかぁ……」 「またどうせ全然食べてないでしょう? この機会にキッチリ炭水化物とカロリーと糖分を補充して下さい」 雑煮の次は汁粉と、うさぎがそれ食えやれ食えと見張っている。 「後丁度偶然作り過ぎたんで持って来てる手作り御節もどうぞ。いやあ偶然ですね。気にせず食べなさい」 日持ちがするお惣菜だ。お袋の味。 「ダメ人間もここまで来るとなかなかと…。」 凛子も御節の差し入れ。 「カロリーと糖分は今日の汁粉で補給できると思ったから、ビタミン系持ってきたわよ?」 お汁粉のおわん片手に現れたアンナの差し入れは、大量の野菜ジュース。 「一日一本のむように。ストローの使い方は分かるわよね。ここ開いてこう、差し込む」 「ジュースて」 おせちや汁粉とのミスマッチぶりに、うさぎがぼそりと呟く。 「……うるさいな。漬け物のつくりかたしってるように見えるか。私が」 七緒は、わんこそば状態でずっと食べさせられ続けた。 「こんなに一人で食べ切れ……」 「「「良いから」」」」 「もう正月なのだな、俺自身は余り凧をあげた記憶はないが…」 (随分と昔に挑戦したことはあったが、確か上手くはあがらなかった記憶がある。祖父などは綺麗に凧をあげて俺を喜ばせてくれていたが……) 「…うむ、こういった時くらいにしか食べないが……美味しいな」 甘い物は嫌いではないのだが……、そんなにたくさんは食べられない。 「そこの新城~ぃ。しょっぱいもの食べて~ぇ。手伝って~ぇ」 助けを求める七緒の声が。 一番高く飛び上がっている凧を眺め、ゆっくり立ち上がった。 「…今年は、順風満帆と行きたい所だな」 玲は、ボケ倒していた。 「蛸揚げだー! ふらいどおくとぱーす!」 イーリス並みか、日本人! 「あれ? 違うの? まあ、いっか」 持ち込んだ道具で、ほんとに蛸揚げ作っちゃった。 「皆も蛸揚げ食べるー?」 蛸揚げ……じゃない凧揚げに興じる静に向かって、大きく手を振った。 静がウインクしてくれた。 イセリアは、凧揚げに興じる下の妹、凧の絵付けする上の妹とも別行動。 「このスープ、小豆は豆のスイーツだな。なかなかいいなこれは。なにより暖かい。夏には冷えたものもいいが、冬はこうするのだな。ぜんざいとどう違うのか気になる所だ」 酒も飲むけど、甘いモノも好きだよ。女子だもの! 「餅は米から作るのだろう?つぶれても、こうはならないが。なんと! 米の種類が違うのか。なるほど奥深いな」 これからはグルメ情報チェックに甘味処も入るかもしれない。 (しかしそろそろ年始の祭りも終りか……次の年末が待ち遠しいな) 「よかろう! ならば今年は、もう仕舞いだ。もうあと360日ぐらいで来年なのだろう。よし、また来年も頑張ろう 」 こうして、イセリアの長い長い年末が始まった。 悟は木の上でお汁粉を食べながら、高々と上がっている凧をのんびり見ていた。 (空を飛べるっていいよね。羨ましいと思ったことは何度もあった) 悟はジーニアスだ。 その背に空駆ける翼はない。 (けど、翼の加護っていう神秘を使えば、空だって飛べるんだって聞いた事がある。世界の神秘やリベリスタって凄いんだなぁ) 空は青い。そして広い。 リベリスタは神秘の空に揚がっていく凧のような存在かもしれない。 その中にいるように下から見えても、実際はまだまだ上があるのだ。 (もっと色々な神秘を知りたい。力をつけて世界を駆け回りたい) ● 風が少し弱くなってきていた。 フツの凧が、徐々に降下していく。 (オレだけが見てるのももったいねえな。しっかり見て覚えよう。んで帰ったら、部室の仲間や、同じ下宿のメンバー、もちろん彼女のあひるにもな) 話してあげたくなる、ひと時だった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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