●残されし者の挽歌 老人は一人、道場の床に座していた。 冬の朝の冷えた空気は、稽古の前に心研ぎ澄ませるには丁度良い。 古希を過ぎてもなお、老人は毎日の鍛錬を欠かしたことがなかった。 老人に家族はない。今は、弟子と呼べる者もいない。 妻も、息子も、弟子たちも――皆、先に逝ってしまった。今は、道場に住みついた犬猫たちがいるのみである。動物は良い。嘘を吐くことを知らぬ。 家族を失い、弟子を失い、もとより人付き合いが苦手であった老人は、自ら人との関わりを断った。祖先より受け継いできたこの道場も、自分の代で最後になるだろう。 では、受け継ぐ者のない拳を、何故今もこうやって鍛え続けているのか。 問われても答えられぬし、今さら鍛錬を止めることなど出来ぬ。 人を超えた“力”を得てしまった後も、それは変わらなかった。 突然に得た“力”は、老人に何の感銘ももたらさなかった。 “力”などあろうがなかろうが、静かに余生を送ることが出来れば、それで良い。 闘争を求む魂も、拳の疼きも、老いた胸の裡へと閉じ込めて。 この得体の知れぬ“力”とともに、朽ちて逝けば良いのだ。 ――老人はまだ、気付いてはいない。 己の変容が、この世界にとってどれほど危険なものであるのかを。 ●終焉への導きを アーク本部のブリーフィングルームで、『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は、集まったリベリスタ達に向けて一礼した後、説明を始めた。 「今回の任務は、ノーフェイスとエリューションビースト3体の殲滅。フェーズはノーフェイスが2、エリューションビーストが1です」 正面のスクリーンに、今回戦うべきエリューション達の情報が表示される。 「ノーフェイスの元となったのは70歳代の老人です。武術道場の師範ですが門下生はなく、家族も過去に亡くしているようです」 エリューション化による性格、性質の変化などはあるのかと問うリベリスタに、和泉は首を横に振る。 「この老人は、以前からずっと人との関わりを断って暮らしていたようです。ノーフェイスと化した後も、人としての理性、感情はそのまま残しています」 一緒に暮らしている犬や猫たちが触発されてエリューション化してしまったことを除けば、現在のところ周囲に大きな被害はない。もっとも、この先フェーズが進行してしまえば、取り返しのつかないことになるのは想像に難くないが。 和泉はいったん言葉を区切ると、端末を操作してスクリーンに地図と、現場の写真を映し出した。 「ノーフェイスはこちらの道場にいます。戦闘が始まれば、エリューションビースト達も姿を現すでしょう」 エリューションビースト達は、主人であるノーフェイスを守ろうと行動しますから、と和泉が付け加える。 「今日、明日に犠牲が出るといった案件ではありません。しかし、エリューションはエリューション、放置しておけばいずれ崩界を招きます」 和泉は手元のファイルを閉じ、リベリスタ達にもう一度頭を下げた。 「――皆様には、どうか至急の対処を要請します」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:宮橋輝 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年01月05日(木)22:35 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●静謐に分け入る者 その道場は、限りない静寂の中に建っていた。 古くとも揺るぎない強さを感じさせる佇まいは、主の人柄を表しているようでもあり。ハイディ・アレンス(BNE000603)は、思わず呟きを漏らした。 「老齢の武術家か……生涯をかけ鍛え上げられた業はさながら曇りなき刃の如く、か?」 彼女の言葉に、李 腕鍛(BNE002775)が頷く。 「とても強い御老人……侍ではござらんが日本の武人ではあると思うのでござる」 格闘家として手合わせをしてみたい気持ちはあるが、果たしてどうなることか。彼の隣で、『黒鋼』石黒 鋼児(BNE002630)が道場を睨んだまま口を開いた。 「俺は闘争心が強いわけでもねぇ、拳の疼きなんてあるわけがねぇ。――それでもよ、何かを求める心てのは理解出来るぜ」 願い求める心、人の欲。自分も人だからこそ、それが持つ強さは分かる。内側から溢れる欲求を抑えることの難しさも。 「変容を知りつつも流される事無く、共に朽ちる事を選ぶ……成程素晴らしい」 眠たげにも見える目元を細めて、明神 暖之介(BNE003353)が感嘆をこめて言う。組織を捨てた今も私利私欲の為に力を行使する自分には、到達出来ない境地だ。 仲間たちの声を聞きながら、『みにくいながれぼし』翡翠 夜鷹(BNE003316)は、黙って道場を見つめていた。互いに全力で戦うため、老人と話がしたい。握り締める拳に、自然と力が篭る。 「老兵は去りぬ……か。余命まで生かせてあげたかったな。本当に、残念だ。心底残念だよ」 『彼岸の華』阿羅守 蓮(BNE003207)の言葉に、『忠犬こたろー』羽柴・呼太郎(BNE003190)が応じる。 「孤独な爺さんと犬猫達……出来ればそっとしておいてあげたいところっスけどね……」 彼らがフェイトを得ていない以上、そういうわけにもいかない。『騎士の末裔』ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)もまた、苦い表情で口を開いた。 「討たなければ、討たない事で喪われてしまう物もある。だから、何時かは……誰かがやらなければならない。リベリスタであるという事は、そう言う事なのですね……」 一瞬視線を伏せながらも、彼女はすぐに顔を上げ、決意をもって正面を見据える。 ――ならば、討ちましょう。 せめて……今は保たれている彼の心が、壊れてしまう前に。 ●再燃する魂 「――頼もう!」 引き戸が勢い良く開かれる音に、蓮の大音声が重なる。 流水の構えを取る彼の正面、板張りの床の上に、白い道着と紺袴の老人が座していた。 「御師の道場の看板、頂きに参じた次第。如何に!」 黙したまま、老人は蓮に鋭い視線を向ける。その眼光を、彼は逸らさず受け止めた。 多勢に無勢、正々堂々の勝負といかぬことは承知の上。それでも、世界の敵として殺すことはしない。それが、武門に生きる者としての、せめてもの礼儀。 (拙者たちはもともと半分道場破りみたいなものと思っていたでござるが……) 蓮の口上を聞いていた腕鍛が、素早く道場の中を見渡す。老人を守るはずの犬や猫達の姿は見当たらない。戦いが始まれば飛び出してくるだろうが、まずは老人へと視線を戻す。 (こうなれば、流派をかけて戦っていただきたいものでござるな) 長身を折り曲げるようにして、暖之介が「……失礼致しますね」と、道場の中に入る。この静謐を乱すのは、彼の本意ではないのだが。 老人は、未だ座したままリベリスタ達を眺めている。いきなり武装した集団が押し込んできたというのに、動揺した様子はない。 仲間達から数歩前に出た夜鷹が、まず老人に名乗った。 「俺の名は翡翠夜鷹。老師、貴方の名前は?」 老人が姿勢を正して立ち上がり、口を開く。 「――布施宗四郎(ふせ・そうしろう)。見ての通りの老いぼれよ」 自嘲めいた言葉とは裏腹に、口調には確かな力がある。夜鷹は、自然体ながらも固く握られた老人の拳を見て、さらに問いを放った。 「老師、本当にそのまま朽ち果ててもいいのか? 己の寿命が長くない事は、老師が一番知っているのではないのか?」 対話の邪魔にならぬよう注意しながら、呼太郎が全身を輝くオーラで包む。余裕があれば生命の力も呼んでおきたいが……どれだけ時間を稼げるか。ハイディもまた、夜鷹と老人を見守りつつ防御結界を展開する。 (ノーフェイス……革醒して、でもフェイトを得られなかった人々) 鋼児と並び、同時に光のオーラを纏いながら、ユーディスは老人を見つめる。フェイトを得られるかどうかは個人の運。どんなに高潔な人物でも、フェイトを得られなければ世界に害を為す存在にしかならないのだ。 侵入者の気配を感じ取り、道場の奥から二匹の犬と一匹の猫が姿を現す。彼らはリベリスタ達に警戒の視線を向けているが、まだ攻撃の素振りは見せていない。リベリスタ達が自らを高めること、仲間を守ることを優先して行動した結果である。誰か一人でも、明らかな殺気をもって動いていれば、こうはいかなかっただろう。 老人もまた、リベリスタ達が戦いの準備を整えていることに気付いたはずだが、何も言わなかった。夜鷹がそこに、熱の篭った言葉を投げかける。 「未だ燻っている炎を俺達に見せてくれよ。さあ、最後に最高の闘いをしようじゃないか!」 数瞬の沈黙の後、老人は僅かに苦笑して口を開いた。 「――お主、言葉を弄するのは不得手と見えるな」 老人は既に悟っている。リベリスタ達の狙いは道場の看板などではなく、己の命であることを。 「拳のやり取りに言葉など不要、そう思わぬか」 腰を落とし、静かに構える老人を見て、リベリスタ達は確信した。眼前に立つ老人の、武術家としての魂に再び火が点いたことを。 翡翠の翼を大きく広げ、夜鷹が大きく声を張り上げる。 「俺達が最後の戦場をくれてやるよ!!!」 「――参る」 老人の声に応えるようにして、犬猫達も一斉に動き出す。 最後の仕合が、今幕を開けた。 ●ただ守る為に まず、先陣を切って動いたのは腕鍛だった。犬猫の中では最も厄介な小型犬に向かい、炎を纏う拳を振るう。なるべく仲間から引き離したいところだが、広さに限りがある道場ではそれも難しい。ならば、早めに倒すしかないだろう。 続けて蓮が中型犬の前に立ち、その行く手を阻むと同時に離れた小型犬へ向けて真空の蹴りを放つ。全ての敵を前衛で抑えながら、火力は極力集中するという方針である。 ストレートロングの金髪を揺らし、ユーディスが老人の正面に立つ。 「貴方のお相手は、私が仕りましょう」 「娘といえども手心は加えぬ」 容赦のない言葉は、裏を返せば対等な敵手として認めたということだ。間合いを詰めて血を吸わんとするユーディスを流れるような動作でいなし、老人が彼女の腕を取る。瞬間、弧を描くようにしてユーディスの身体が床に叩きつけられた。 「これは気合入れてかかるしかないっスね! 俺も腹くくるっス!」 呼太郎がすかさず駆け寄り、神々しい光で彼女の隙をカヴァーする。彼の役割は、ユーディスを支え、共に老人を足止めすること。続いて鋼児が猫を抑えに回り、もっふりした毛並みを見て僅かに眉を動かした。軽い舌打ちとともに、小型犬に向けて真空刃を撃つ。 無論、犬猫たちも黙ってやられてばかりはいなかった。中型犬が蓮に、猫が鋼児に、それぞれ襲い掛かる。 「止さぬか。お前達が敵う相手ではない」 儂に構わず逃げよ、という老人の言葉にも、彼らは耳を貸さない。命に代えても、主を守ろうとしているのだろう。小型犬が、高い声でけたたましく吠えた。何人かのリベリスタが、心を乱されて判断力を失う。 だが、それも予想のうち。あらかじめ小型犬の射程外に待機していた三人は混乱を逃れ、ここから一気に動いた。全力で小型犬に向かう暖之介の後を追い、夜鷹が翡翠の翼を羽ばたかせて低空を滑る。前進して仲間全員を射程に収めたハイディが、神聖なる光をもって仲間の正気を取り戻した。 (老兵の挽歌、か……) 奥に立つ老人を眺め、彼は今戦いの中に何を見ているのだろうと、彼女は思う。視界の端に、腕鍛の燃え盛る拳が再び小型犬を捉えるのが映った。 唸り声を上げ、隙あらば喉笛に噛み付かんとする中型犬を金剛杖で防ぎながら、蓮は犬へ語りかける。 「君達が、あの御老人を守りたいのは分かる。だから、道を外れた事をしているのは俺達だ」 老人はただ静かに暮らそうとし、犬猫達はそれを守ろうとしているだけ。――分かってる。それでもここは譲れない。 体勢を立て直したユーディスが老人に再び吸血を仕掛ける。その役目は老人を倒すことではなく、仲間が来るまで耐えること。牙は僅かに掠り、老人の血を介して彼女に活力を与えた。お返しとばかりに掌打が襲うが、素早く身を引いて辛くも直撃だけは避ける。呼太郎がユーディスに駆け寄り、世界を介して彼女に生命の力を与えた。 小型犬に辿り着いた暖之介が、黒いオーラでその頭部を狙う。強かに頭を打ったところに、夜鷹の翼が巻き起こす真空刃が追い撃ちをかけた。よろめいた瞬間を逃さず鋼児が蹴撃を放ち、小型犬を道場の床に沈める。 「主人を守ろうとするその心意気、上等じゃねえか。じぃさんがどういう人間だったのか、人伝えに聞くよりよっぽど分かるってもんだ」 最期まで敵に向かおうと、前のめりに崩れ落ちた犬の姿を見て、鋼児が呟く。仲間を倒されて怒り狂った猫が、鋭い爪で彼に傷を与えた。 見る限り、犬猫達の耐久力はさほど高くない。ならば自分は攻撃より援護に回る方が得策だろうと、ハイディは猫の周囲に呪印を展開する。幾重にも重なった呪いが猫を縛り、動きを封じた。 次に狙うは中型犬。腕鍛が神速の蹴りから真空刃を放ち、蓮が冷気を纏う棍で打ちかかる。 「――っ!」 一瞬の隙を突き、ユーディスの顎に鋭い掌打が入った。膝を揺らがせつつも踏み止まった彼女に、呼太郎の放った光が届く。今は何とか耐えている。今は、まだ。 暖之介が中型犬の方へ走り、全身から放つオーラの糸でその身を縛る。足の止まった中型犬を、炎を纏った夜鷹の拳が襲った。 「ごめんな……」 目的の為なら罪のないものを殺す事が出来る。だが、生きる為、手を汚すしかなかったあの頃とは違う。今は――妹の為に、未来の為に。自らの意志をもって、彼は拳を振るっていた。 前進したハイディが癒しの符でユーディスの傷を塞ぎ、再び放たれた腕鍛の蹴りが、炎に包まれた中型犬に止めを刺す。 残るは、動けぬ猫と老人のみ。 ●語り合う拳 猫に向けて、蓮と夜鷹、鋼児の攻撃が次々に叩き込まれる。瞬く間に追い込まれた猫に向けて暖之介が黒いオーラを伸ばし、その命を刈り取った。ほぼ同時、ユーディスが老人の手で床に叩きつけられる。 「交代するっス!」 彼女を庇い前に出る呼太郎の瞳に、一瞬、老人の沈痛な表情が映った。共に暮らした犬猫達の死を、悼んでいるのだろう。その間に、ハイディが癒しの符でユーディスの回復を行う。 行く手を阻む動物達はもう居ない。あとは老人と打ち合うのみ。 「拙者もなんやかんや言って強い人には興味があるでござるからな」 強者との手合わせに喜びを感じつつ、腕鍛が距離を詰めて炎の拳を放つ。続いて前に出た蓮は、老人に向けて名乗り、丁寧に一礼した。 「神道夢想流棒術、阿羅守蓮。推して参る」 「――布施流古武術師範、布施宗四郎。お相手仕る」 名乗り返した老人の拳と、蓮の棍とが激しく交錯する。力を取り戻したユーディスが剣を構え、大きく踏み込むとともに大上段から神聖な一撃を叩き込んだ。戦うなら、討たねばならないのなら、己が全力をもって礼を尽くすのみ。 「貴方が得たその力は世界を歪めるものだ。だから、老師。俺達が繋がなくちゃいけない未来の為に、俺は貴方を倒す!!!」 「ならば、拳で示してみせよ」 夜鷹の繰り出す拳を片手でいなし、老人が短く答える。そこに、暖之介の声が重なった。 「ご老人には、私は相容れない存在でしょうね。妻も大事、子供達も大事、仲間も大事。そしてそれらを護るためには躊躇なく力を振るう」 「……」 頭部を狙った黒いオーラは弾かれても、その言葉は確かに老人に届いた。 「どちらが正しいかを問う訳ではありません。貴方がその選択をしたように、私もまた選択の下に貴方に刃を向ける、というだけの事――」 無言のまま肯定も否定もしない老人に向けて、拳を燃やした鋼児が詰め寄る。 「じぃさんよ。あんたは静かに余生を過ごせれば良いだなんて、ホントは思ってねぇはずだ」 たとえ老人がそう思っていたとしても、長年鍛え続けた拳はどうか? 「あんたの拳を縛り続けるのはそろそろ止めにしようぜ。黙りこくった拳を喚き散らさせてやろうぜ。――なぁ、じぃさんよぉ!」 己がとうに失ったはずの若き魂の叫びを受け、老人の面に薄い笑みが浮かぶ。 癒しの符で回復に専念しながら、ハイディが老人を見た。 (彼との戦いがどんな終わりになるにせよ、その在り方を目に焼き付けておこう) それは、彼女が目指す目標の糧になるだろう。 刹那、老人の喉から凄まじい気合が放たれた。ハイディが動きを縛られた直後、前衛達は次々に腕を取られ、一瞬にして床へと転がされていく。達人の早業だった。 回復役の片翼を封じられ、前衛の殆どが浅からぬ傷を負わされた。それでも、誰一人倒れない。心折られもしない。 いち早く跳ね起きた腕鍛が蹴撃から真空刃を放ち、辛くも唯一踏み止まったユーディスが剣を打ち込む。呪縛の効かぬ呼太郎が、輝く光でハイディの縛めを解いた。 「俺の拳はじぃさんに比べりゃ未熟もいいとこだ。それでも俺の拳をじぃさんに見せ付けてぇんだよ」 立ち上がり、鋼児は尽きぬ闘志を己が拳へと篭める。 「じぃさんの拳も受け止めてやる。避けるなんてしねぇ、全部受け止めてこの身体に刻み込んでやるよ!」 その威力は身をもって知っている。それでも、絶対に退きはしない。 夜鷹もまた、血に染まった翼を羽ばたかせて吼えた。 「燃えろおおおお!!! 血星の業炎撃いいい!!!」 血と炎が、彼の全身ごと拳を赤く染め上げる。低空から突進する夜鷹の拳が、鋼児の真っ直ぐな拳が、老人の鳩尾へと吸い込まれていく。畳み掛けるように、蓮が急所目掛けて鋭い突きを放った。 「――御無礼!」 金剛杖が、老人の体を貫く。 せめて、貴方の業だけでも。彼岸の華に、添えさせて頂こう――。 「見事なり」 満足げな一言を残し、老人の体が凍り付いてゆく。 彼の命が尽きるその瞬間を、ユーディスは敬意をもって看取った。 ●受け継がれるもの 戦いの後、暖之介は静謐を乱してしまった償いに、手早く現場を整えた。 蓮の読経が響く中、呼太郎は手を合わせて老人の冥福を祈る。ユーディスもまた、散っていった老人へと思いを馳せた。 (討ったノーフェイスの死に……その度に身を入れるようでは、この先、戦っていけないのでしょうけれど……) それでも人として、そう思う心を忘れずにおかなければと、彼女は思う。 無言で道場に佇む夜鷹が思い起こすのは、老人の言葉、老人の拳。出来ることなら、その生き方と技を、この手に繋いでいきたいと、彼は願う。 腕鍛は、最初に老人が座していた場所で瞑想を始めたが、長くは続かなかった。その様子を眺めていたハイディが、ぽつりと呟く。 「――独り武術家として生き、武の果てに彼が見たものはなんだったのだろうか?」 彼女の問いに、答えられる者はいない。 それはきっと、リベリスタ達がいつか辿り着く場所にあるのだろう。 鋼児が、己の拳を強く握り締めた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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