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星空の戦記―White Letter―

●続・天珠の争乱
「姫様、準備が終わりました」
 白線で引かれた円陣。集う詠い手は四名。
 『姫様』と呼ばれた少女を含めても僅か五名。けれどこれが現状彼女らが割ける最大限の余力。
 大四族に在って殊更詠唱に優れる白飛に有ってすら、世界を繋ぐ程の詩が紡げる者は多くない。
「はい、今参ります」
 簡素な祭壇にも見える、一段高い円座。その上に立つ少女は空を仰ぐ。艶やかな黒髪が風に揺れる。
 其処には白い球体が浮かんでいる。――月。そう呼ばれる物。
 二つの世界を繋ぐ門にして、彼女達の希望。天に在る『底界』と呼ばれる異世界へ、道を繋ぐ。
「奏でましょう、共鳴法一節より――」
 声を上げようとした、その時。空に、大きな影が落ちる。
「――え?」
 ぽかん、と。その場の誰もが唖然とした様な声を上げた。
 上空に滞空する大きな黒い影。それは何か。遅れて聞こえる羽ばたき音は、実に四対。
 全長は10mを越える巨体。その巨体が空を飛んでいた。漆黒の八翼を羽ばたかせ、彼女らを睥睨する。
「……ひっ」
 それが何物か、気付いた一人の詠い手が息を呑む。黒髪の少女ですらが声を上げられない。
 彼女らの同胞達を幾人も、逝十人も葬り去った空の暴君。黒き八翼。闇夜の王。
「オクタ……ヴェイン……!?」
 再共鳴に成功した等と言う話は前線から届いていない。
 何より今宵の儀式場の場所は極々少数の人間しか知らない部外秘であった筈だ。
 何故、その場所にこんな物が。混乱と逡巡、それによって生まれた幾許かのタイムロス。
 それが、致命的な遅れであると、戦いに慣れぬ少女には分からなかった。

“――やれ”
 響いた声は冷め切った大理石の様に硬質的で、感情の欠片も感じられない酷薄なもの。
 それを、この場の誰になくとも、少女――『白姫』ミレイユだけは良く知っていた。
 聞き間違える筈も無い。彼女のみならず、その同胞にとっての怨敵の声を。
「――っ!」
 白と黒に明滅する黒翼の嵐。切れ味鋭いその無数の羽に引き裂かれ、悲鳴と苦悶と鮮血が舞う。
 視界が瞬く間に体中を血に染め、白翼の詠い手達が切り刻まれて行く。
 理解出来ない、いや、理解したくない。何故、前線から遠く離れたこんな辺境に、
 敵――黒鬼の首魁が、切り札たる翼獣を引き連れやって来る等と言う事があり得るのか。
 偶然、では在り得ない。弓兵隊の1個隊でも居れば、八翼の黒鴉、オクタヴェインはともかく、
 搭乗する者が無事では済まない。リスクが余りにも重過ぎる。
 そして黒翼でこんな物と共鳴出切るのは“奴”か、“彼女”かもう一人“彼”位の物だ。
 その誰もが、黒鬼の中枢を担う。1人でも欠ければ大打撃では済まない。
 なら、有ったのだ。勝算が。知っていたのだ。自分が護衛も連れず儀式を行うと言う事実を。
 でも、何で――
 考えている間にも、彼女の仲間達は1人また1人と抵抗する余地も無く倒れて行く。
 空を制され此処まで接近されてしまえば、幾ら熟達の詠い手でも翼獣には抗し得ない。
“ああ、姫君は傷付けぬ様に。折角の機会だ、丁重に城まで招待させて貰わなくては、ね”
 くっくっ、と含んだ笑い声が響く。もうこれ以上はどうにもならない。
 項垂れた少女が唇を噛み、けれど黒い八翼を睨み付ける。
 違う。
 そうじゃない。
 諦めるな。これで終わりに何てさせない。

 私には、あと1つだけ頼れるかもしれない相手が居る筈だ。
「―――」
 圧倒的なまでの声量で、『白姫』が声を響かせる。唯一人の独唱で以って世界を手繰る。
 それは、彼女にしか出来ない技巧。白き翼に在って姫と称される所以。
 彼女は世界にすら道を拓かせる至上の詠い手。白き歌姫である。
“!、白姫、貴様――!”
 全身全霊を賭して奇蹟を辿る。隣り合う世界の隣人達へ。
 彼女達に、力を貸してくれると言ってくれた優しい人達へ。
(ごめんなさい、ごめんなさいっ)
 最初に訪れた時、もっと彼らを信じれば良かった。
 そうすれば、今より状況は良くなっていたかもしれない。
 この間訪れた時、もっと彼らに協力して上げれば良かった。
 そうすれば、彼女の目的が黒鬼等に暴かれることは無かったかもしれない。
 後悔は止まない。けれど、今の彼女に出来る事は、唯一つだけ。
“止めさせろ!”
 黒き八翼が羽ばたく。漆黒の雨が降る。間近に迫った翼が少女の体躯に突き刺さる。
「――――――!」
 歌声は止まない。詠唱。共鳴法第二節。この時点で拓ける穴等高が知れている。
 けれど、十分だ。少女は自信の髪と血塗れの白翼を毟って亀裂へ投げ入れる。
 これで、どうなる訳でも無いだろう。こんな物は悪足掻きに過ぎない。
 だけど僅かな可能性に賭ける。実るかもしれない種子を植える。
 どうか、届け。星空の――向こう側へ。

●純白の手紙
 アーク本部内、ブリーフィングルーム。
 新月と言う事もあり、自発的に集まって来たリベリスタ達に当然の様に舞い込む仕事。
「さて、毎月恒例の新月の夜がやって来た訳だ。ニューイヤーでニュームーンだね。
 何かが起きそうな予感がする、そんなセンシティブに浸るのも悪くない」
 例え世界に大穴が開こうと、崩界の危機が進もうと、歪夜の使徒の一角が墜ちようと、
 何時も通り変わらぬ『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)。これはこれで大物の貫禄である。
「――と、言いたい所だが今回は流石に厄介だ。
 何せリンクチャンネルが3箇所……いや、4箇所か。同時に開いてるみたいでね。
 良い加減スプーンを投げたくもなるだろうけれど、おまけに今回『バードマン』は居ないらしい」
 ペットの手綱位は握っておいて欲しい物なんだけどね、と呆れた様な笑みが浮かぶ。
 伸暁の操作するモニターに表示されたのはアザーバイド、識別名『アザークロウ』が計5羽。
 それに、見た事も無い啄木鳥の様な嘴を持つ六枚羽の黒い鳥が、1羽。
「新顔は、識別名『ホールペッカー』どうもこいつは極々小規模のディメンションホールを
 開く力を持ってるらしい。それその物は放っておいても消えてしまう位もスモールホールだ。
 恐らく10分もすれば自然消滅する。ただ、数を増やされると面倒な事になり兼ねない」
 唯でさえジャック・ザ・リッパーの開いた大穴の所為で世界のバランスは微妙な事になっている。
 これ以上の崩界の危険はどんな小さな物でも潰しておきたいのがアークにとっての本音である。
「まあ、以前『アザークロウ』6体を相手にした時より若干状況は入り組んでいるけどね、
 白い『バードマン』の様な不確定要素が無い分、シンプルだ。
 空での戦いも良い加減慣れたろ? お前達にとってはイージーなお仕事って奴さ」

 ひらひらと手を振り、伸暁はリベリスタ達を送り出す。いつもの通りに。
 けれど、ブリーフィングルームを出て行く最後のリベリスタが扉を閉じるその瞬間。
 微妙な笑いを浮かべていた伸暁がモニターを眺め、小さく呟く声が届く。
「……10分もすれば、自然消滅する?……ん、おかしいな」
 モニターに映る4箇所目の穴。
 その小さな小さな亀裂は果たしてどれほどそのまま在り続けていたか。
 伸暁のセンシティブに今年最後のビッグウェーブがやって来る。
 万華鏡の探知にすら引っ掛からなかった極小の違和感。穴に引っ掛かる白い翼。
 今にも毀れて落ちそうなそれを視界に映し、伸暁はポケットに入れた携帯を操作する。
 普通であれば、気付けそうも無さそうなそれ。
 だが、様々なパズルのピースがその違和感を見逃すなと言っている。
 そう言えば先の報告書によれば、『白姫』とか言う『バードマン』が、
 やって来ると言っていたのは今宵では無かったか。
「……悪いな、どうも少しクールじゃない事態みたいだぜ」
 かくして、リベリスタ達に押し付けられるのはお馴染み無理難題の類である。
 星だけが瞬く新月の夜空。年末最後の宝探しが此処に幕を開ける。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:弓月 蒼  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年01月13日(金)23:15
 49度目まして、シリアス&ダーク系STを目指してます弓月 蒼です。
 星空シリーズ二章最終幕を御送りします。以下詳細です。

●依頼成功条件
 アザーバイドの全滅
 ディメンションホールの全消滅

●アザーバイド「アザークロウ」
 人間大、4枚羽の鴉型アザーバイド。羽を広げたサイズは全長2m程度。
 回避が高く防御力は低め。耐久力はリベリスタ達と同程度。
 計5体が2:2:1に分かれて飛んでおり、
 獰猛ながら瀕死になると戦線を離脱し逃亡する性質を持ちます。

・常態飛行:P、飛行による命中と回避のペナルティを半減する。
・フェザーシュート:A、物遠単。ダメージ小、命中大。
 羽を一条の影に換え放つ。部位狙いで命中率が変わらない。
・ライトレスフェザー:A、神遠単。ダメージ中、命中中。
 明滅する羽を放ち目を晦ませる。【状態異常】[混乱]

●アザーバイド「ホールペッカー」
 4枚羽の啄木鳥型アザーバイド。羽を広げたサイズは全長3m程度。
 「アザークロウ」の上位互換の様な性能を備え、
 Dホールを際限無く生み出すと言う能力を持ちます。

・常態飛行:P、飛行による命中と回避のペナルティを半減する。
・ディメンションパンチャー:A、物近貫。ダメージ大、命中小。物防無。
 物理防御を無視する嘴による貫通攻撃。回避された場合Dホールが1つ発生する。
・ライトレスフェザー:A、神遠範。ダメージ中、命中中。
 明滅する羽を放ち目を晦ませる。【状態異常】[混乱]

●特殊ルール・空中戦
・アーク所属のホーリーメイガスの助力によりリベリスタ達には翼の加護が付与されます。
 ただし、飛行状態は戦闘開始後12ターンで解けてしまいます。
 継続して戦闘するには解ける前に地上へ降り、再度翼の加護をかけて貰う必要が有ります。
 但し自前で飛行が付与出来る方々はこの限りでは有りません。

・滞空状態で飛行が解けると墜落します。
 墜落した場合戦闘不能と同様に扱われますが、ドラマ判定は行われません。
 フェイト消費でのみ戦線復帰が可能です。

・飛行状態では足場が不安定な為「全力防御」、「庇う」をする事が出来ません。
 更に命中と回避には常時一定のぺナルティが課せられます。

・3次元的に移動する事が可能です。死角からの攻撃は不意討ち扱いとなります。

●戦闘予定地点
 地上30mの夜空。新月の為光源等は有りません。星明かり程度です。
 360度障害物はなく、雲もありません。自由に飛行する事が可能です。
 目標地点はA、B、Cの3箇所。全てにディメンションホールが開いています。
 A地点とB地点とC地点は100m程離れており、正三角形を描いています。
 A、B地点にはアザークロウ2羽、C地点にはアザークロウとホールペッカーが居り、
 その三角形圏内のどこかに4箇所目のディメンションホールが開いています。

●追加情報
 飛行を開始して10秒の時点で伸暁から連絡が入り、
 4箇所目のディメンションホールに何かが引っ掛かっている事が判明します。
 この“何か”は付近をアザーバイドの何れかが通過するか、
 戦闘開始後10ターンが経過すると落下します。
 この情報は依頼の成否には一切関係有りません。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ナイトクリーク
星川・天乃(BNE000016)
ソードミラージュ
富永・喜平(BNE000939)
スターサジタリー
劉・星龍(BNE002481)
スターサジタリー
ヴィンセント・T・ウィンチェスター(BNE002546)
覇界闘士
焔 優希(BNE002561)
ソードミラージュ
ユーフォリア・エアリテーゼ(BNE002672)
デュランダル
結城・宗一(BNE002873)
マグメイガス
風見 七花(BNE003013)

●四度目の飛翔
「翼無き卑賤の人の身故に、翼の加護をお借りして」
 ふわりと浮き上がる体躯。空には今宵も月明りが無く、星だけが静かに瞬いている。
 今宵も朔日ごとに訪れる、歓迎されぬ来訪者(ゲスト)たちのお出迎え
 あたかも定例行事の様になっている異世界からの訪問者への対応は、既に半年を数えている。
 先ず夜空に王が在り。次いでその尖兵と矛を交え、やって来たのは白の少女と黒の少年。
 まみえた幾度目かのすれ違いと会合の果て、遂には異世界からの介入を経て
 漸く互いの交流を為し得たのが1ヶ月程前。けれど、その約定を交わした筈の相手は訪れない。
「此度の夜間飛行はどのような次第に相成りますか」
 『デモンスリンガー』劉・星龍(BNE002481)が久方の浮遊感に意識を引き締める傍ら、
 『Star Raven』ヴィンセント・T・ウィンチェスター(BNE002546)の表情は硬い。
 それほど深く付き合った訳では無いとは言え、2度顔を合わせた身。
 約束の日である筈なのに訪れない『白姫』と名乗った白の少女が、それほど無責任な人間とは思えない。
 訪問が遅れている位であるならまだ良い。来ないのではなく、来れないのではないか。
 或いは――何かに阻まれているのではないか。考察を巡らせる度に悪い想像が脳裏を過ぎる。
 その最中に舞い降りた異形の鴉達。どうにも、嫌な予感が消えない。
「いずれにせよ、この世界で暴れてくれるのを見過ごす訳にはいかん」
 気に食わない、と言う意図を表情にまで滲ませる『紅蓮の意思』焔 優希(BNE002561)が呟けば、
 『終極粉砕機構』富永・喜平(BNE000939)が大きく頷く。
 事情は良く分からずとも、異世界の生き物にこの世界の空を我が物顔で飛び回られる訳にはいかないのだ。
「此処は俺達の世界、俺達の空。勝手をする積りなら……砕いて墜とす」
 強く拳を握り、見上げる視線は漆黒に彩られた星空へと向かう。
 身を切る様な冷気も、今は然程気にならない。地上にはイルミネーションの光が瞬く。
 彼らが護った世界、彼らが帰るべき街が其処にある。であれば、空だからと放っておく手などある訳が無い。

 戦意は高い。向かうは世界と世界を穿つ穴。そしてそれを助長せんとする黒鳥の群の只中。
 徐々に徐々に、遠く見えていた異形の鳥が像を結ぶ。まだ遠い、だが――
 飛翔し続ける彼らの幻想纏いへ、突然の連絡が入ったのはそんなタイミングだった。
「『天珠』でしたか~? アザークロウの出身世界もずいぶん色々出してきますね~」
 報告を受け、方針を転換。各自配置を分散した結果、ユーフォリア・エアリテーゼ(BNE002672)が
 向かうのはアザークロウの舞う三角形の一角、B地点。
 1人で2羽を相手にする以上苦戦は覚悟の上ではあるが、彼女の役割はあくまで牽制兼囮である。
「この世界の空が彼らのものでないのを教えてあげないとです~」
 飛翔しながらのヒット&アウェイ。放たれた二条のチャクラムが夜空を裂く。
 されど、飛行中の不安定な姿勢に加え、攻撃後に退く必要がある以上精度は当たれば幸運と言う程度。
 この一撃をかわした1羽を見て、2羽が纏めてユーフォリアへと距離を詰める。
 そして放たれる影羽の矢。その軌跡は正確に彼女の翼を射抜くも、ここまでは織り込み済。
 問題はここからどれだけ彼の異形の鴉達を引き離せるかにある。
「こんなでも、高速戦闘のソードミラージュですよ~」
 翼をはためかせながら空中で静止するアザークロウらを見遣り、ユーフォリアが淡い笑みを浮かべる。
 ――他方。C地点。
「さて、招かれざる来訪者には早々にお帰り願いますか」
 此方は此方で既に交戦を開始している。戦火を切ったのは星龍の1$シュート。
 正確無比なその射撃は千丁に一丁生まれ得ると言う貴重なライフルの後押しを受け、
 この足場すらない不安定な空に有ってすら半ば必中を以って在る。
 片側の瞳を射抜かれたアザークロウが甲高い声で鳴くも、しかし此方はB地点とは全く真逆である。
 6対2。圧倒的なまでの多勢に無勢。
「どんな事情があるのかは知りませんが、この世界の空を侵すなら、討つだけです!」
 言葉も通じず、意志の疎通が出来ない以上、彼女はジャーナリストを目指す少女ではなく
 かつて魔道書に魅入られた魔術師の雛に過ぎない。
 風見 七花(BNE003013) の紡いだ陣が、夜空に魔炎の華を咲かせる。
 呑み込まれ、焼けて行くのはアザークロウより一回り大きな異界の啄木鳥、ホールペッカー。

 だが、攻撃はこれで終わりでは無い。
「獰猛さでは俺も負けんぞ、墜ちろ――!」
 これを機と見たか、一足で距離を詰めるやその翼を捉え姿勢を崩しながら叩き付けられる拳。
 優希の大雪崩落がアザークロウを追い詰める。更に上空から滑空してくるのは
 『ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)。
「……止まれ」
 放たれた気糸の網を潜り抜けられたのは、空中戦である事のアドバンテージが在ればこそか。
 ホールペッカーを捕らえるまでは到らなかった物の、それを見て呟く天乃の声音に暗さは無い。
「いいね……そうじゃないと、面白くない」
 当然、対するアザークロウとてやられてばかりでは無い。
 その翼より放たれるは明滅する羽の乱舞。その幾つかがショットガンを構えた喜平に突き刺さる。
 揺らぐ視界、白と黒とに彩られ上下左右が入り乱れ失われる平衡感覚。
 今正に放たんとした光速の連撃が狙いを誤り、同じくホールぺッカーへと向かっていた
 『咆え猛る紅き牙』結城・宗一へと向けられる。
 混乱すれば味方を攻撃する可能性が跳ね上がる。これは多勢に無勢で戦う以上当然のリスクである。
「――っ、おいおい、こっちは味方だぜ!」
 不幸中の幸いにして、宗一はC地点のメンバーの中で最も物理防御に長け、且つ回避能力も低くは無い。
 喜平のアル・シャンパーニュは決して侮れる威力ではなかったが、
 この一撃で墜とされる程には宗一とて脆くは無い。愛用の大剣を構え直し振り被る。
「ひたすら門を開く能力ってのは厄介だな。その辺で仕舞いにさせて貰う!」
 振り被り、振り下ろす。デュランダルならではの剛力一閃。
 叩き込まれた一撃は電撃を帯び、世界に穴を穿つ巨大な啄木鳥に強烈な一撃を浴びせ掛ける。
 元より多勢に無勢。状況はリベリスタ有利で推移する。此処までは。

●白羽の矢
 順調に推移した戦いを割って入ったのは幻想纏いへの別動班からの連絡である。
“見つけました、どうもそちらの方が近いみたいです。回収して下さい”
 突然響いたヴィンセント声に、驚いた様に動きを止める七花。
 周囲を見回しよくよく注視すれば、確かにある。距離にして20m少々。極々小さな世界の亀裂。
 だが、それに気付いたのは七花だけではなかった。
 連絡を受けてその場のほぼ全員がD地点――4番目のディメンジョンホールを探ったのだ。
 異形の鴉達もまた、気付く。彼我の目的は同じである事に。
「不味い、勘付かれた!」
 宗一と天乃がホールペッカーの進路を塞ぐ。その一方で明らかに彼らの視線の方角に羽ばたくアザークロウ。
 彼の四翼がゲートを掠めるだけで彼らの目的は失われる。この月無き夜空、掌サイズの物品が落下したとして
 それが地面に落ちる前にキャッチするなど運命の加護が有っても到底望み得ない奇蹟だろう。
 であるなら、先手を取られれば詰みと言って良い。アザークロウの進路上には誰も居ない。
 これは悪手か、いや、そうではない。確かに接敵している者はいない。
 だが、この場には必中をすら任ずる射手が居るのだ。
「行かせません」
 静かに照準を付けた星龍のワン・オブ・サウザンドから火線が走る。狙い違わず射抜かれもう片側の瞳。
 視界を失ったアザークロウがバランスを崩すのが見て取れたか。その上空を取った優希の拳が握られる。
「一気呵成に、撃ち貫く――!」
 再度叩き付けられる雪崩の如き強烈な一撃。既に姿勢を崩していたアザークロウに、
 これを避ける予知などある筈も無い。叩き込まれた勢いのままに墜落して行く黒い影、一羽。
「回収、しましたっ!」
 七花が上げた声に誰からとも無く安堵の吐息が漏れる。彼女が掴んだのは血に染まった白い翼。
 そして黒い髪の様な物に結び付けられた奇妙な紐。それが何かと言う事を考える暇も無く、
 何処か不吉な感を覚えるその絡み合う白と黒を懐に仕舞う――仕舞って、しまう。

 ――場所はA地点。連絡を終えたヴィンセントの視界を旋回するのは2羽のアザークロウ。
 極度の集中と研ぎ澄まされたその射撃で以ってアザークロウを射抜く事数度。
 目的である引き付けと時間稼ぎこそ成功したとは言え、彼らもまた移動と共に攻撃を仕掛けてくる。
 一般的なリベリスタ達より長射程を誇るヴィンセントではあるが、その真価は前衛が居て初めて発揮される物。
 ヒット&アウェイでも用いない限りは、彼が攻撃出来ると言う事は四翼の鴉もまた攻撃出来る
 と言う事であり、当然の如くに男は劣勢を強いられていた。
「中途半端に撃墜を狙うよりは……っ」
 放たれた影羽の矢が幾つも体躯に突き刺さる。痛みに僅か姿勢を崩すも、立て直す。
 彼の選択は目的を加味すれば最適である。アザークロウ達を逃がさないと言う点に重点を置いた戦術。
 だが、それを負って尚彼は警戒していた。普段の様にただ異世界へ転がり出て来た異邦人とは異なる感触。
 以前『白姫』を救った戦いでのアザークロウの動きを知るヴィンセントは、
 敵が時に局所的優位を捨ててでも目的を優先する事を知っている。で、ある以上――
(やはり、D地点はミレイユさん絡みですか)
 旋回していたアザークロウ達がぴくりと反応し、その進路をC地点へと向けた時、
 彼は決して驚かなかった。その辺りまでは想定の範囲内。即座に戦線を離脱しようとする黒き四翼に追い縋る。
 疾駆する黒翼3羽。追う者と追われる者が入れ替わり、三角を描いていた戦場は急激に収縮する。
 ――それはB地点でもまた同じ事。
「えっ……?」
 三角の範囲外へと避難を試みていたユーフォリアの後背。アザークロウ達が進路を転換する。
 彼女とて囮役を担う以上当然の様に無傷では無いが、しかし未だ撃墜されるまでには多少の余裕がある。
 であれば、何故。自ら連絡を入れたヴィンセントとは異なり、ユーフォリアには皆目見当が付かない。
「あっ、この、待ちなさ~い!」
 とは言え、逃げる以上は嫌が応にも追わなくてはならない。
 予期せぬ行動に仲間達へ幻想纏いを繋げながら、ユーフォリアもまた夜空を翔ける。
 ヴィンセントとユーフォリア。A地点とB地点。
 その双方からの連絡を受けて、さて。焦ったのはC地点の6人である。

 彼らはA地点を踏破後両面に分散する心算だった。そしてそれは余分であるとされるD地点に
 早々に手を出さなければ確かに果たせていたであろう流れである。しかし、そうはならなかった。
 奇しくも彼らの目論見の後の先を取られた形である。
 このままでは大凡50秒後、4体のアザークロウが援軍でやって来る事となる。
 それまでに残されたホールペッカーを倒さなくては手痛い打撃を受ける事になる。
 にも拘らず、不運にも彼らの内に翼の加護の使い手は居ない。
「すみません、離脱します」
 墜落する訳にはいかない以上、余裕を持って降下を始める星劉と七花。
 白羽を確保した七花を追う異形の啄木鳥。その槍の如き鋭さを持つ嘴が彼女の体躯を穿つ。
「く――っ!」
 世界にすら穴を開ける一撃は七花の体力を大きく削り取る。
 しかしホールペッカーが追い縋れたのはそれまでである。
 この場に極端に多くのリベリスタを集めていた事が、今回ばかりは大きく巧を奏す。
「風よし、角度よし――其処!」
 正気を取り戻した喜平の連撃。瞬く光の様な散弾を皮切りに優希が拳を叩き付け、
 宗一がバスタードソードを大上段に振り上げる。
「逃げんなよっ! そっちからこねえならこっちから行くぜ――!!」
 薙ぎ払われた強烈な一撃に身を負った四翼の啄木鳥が、そうして最後に見たのは
 手に死の爆弾を携え笑う、あたかも死神の如き少女――無重力に戯れる、天乃のシルエット。
「……爆ぜろ」
 交差は一瞬。轟く爆音。落下していく世界を穿つ異邦の四翼。
 離脱に成功する星劉と七花を一瞥し、天乃が静かに息を吐く。まだまだ、終わりでは無い。
 瞳を細めれば周囲2方向より迫る黒い影。やって来るのは夜空の王の衛兵四羽。続く緊張感に天乃は詠う。
「さあ――もっと、踊ろう? 王の、尖兵」

●月下に響く白の詩
 8対4。とは言えローテーションで翼の加護をかけ直す必要がある以上、その戦いは数字程に楽ではない。
「今回は、逃がしません!」
「鬼さんこちら~ですよ~」
 ヴィンセントの精密射撃が内一羽を射抜き、死角を探るアザークロウをユーフォリアが撹乱する。
 放たれた対のチャクラムが動きの鈍った撃ち抜かれ四羽へと突き刺さり、その自由と命を纏めて刈り取る。
「全然話は呑み込めないが、真冬の空で戦わされるってだけで万死に値するんだよ!」
 富永喜平(35)そろそろ腰とか肩とかがあれやそれとなる御年齢。
 怒りの込められたアル・シャンパーニュが火を噴くと、その死角から飛び出すのは小柄な影。
「……手応え、あり」
 気糸が四枚の翼の一つに絡み付きその体躯を縛ったか。天乃が軽く拳を握る。
「貴様らここで駆逐してくれる!」
 両手のトンファーを振り上げるや、優希の組んだ拳が振り下ろされ動きの止まった黒翼を打ち据える。
 抵抗する余力もなく落下するアザークロウ。これで、二羽。
 この間アザークロウもまた明滅する光の羽で対抗するも、流石に四度目の交戦となれば対策も浸透して来る。
 殆どのメンバーがサングラスを着用する戦況下、敵を掻き乱す事が適わず、
 リベリスタ達が空中戦に不慣れであると言うアドバンテージすら失われつつある以上
 アザークロウ達はそれほど直接的な脅威とはなり得ない。
 数を頼りに攻め立てられればともかくとして、今回に限ればリベリスタ達の戦術は見事に嵌っていた。
「――お待たせしました!」
「おう、助かる!」
 翼の加護を纏い直した七花が天使の息を紡ぎ、最もダメージが嵩んでいた宗一を癒せば、
 後は白峰が雪崩れるが如くである。一度傾いた流れを覆すのは容易くは無い。
 主力であるホールペッカーを真っ先に墜とされた以上は必然として、
 一羽、また一羽と撃ち落されたアザークロウ。その最後の一羽が踵を返した瞬間を、紅き牙は逃がさない。
「逃がさねえ、ここで墜ちろっ!」
 渾身のギガクラッシュが四翼の内二つを穿ち、ぐらりと姿勢を崩した異形の鴉が身を崩す。
 視界は良好。射線上に障害物無し。
「これだけ冷えると、酒とタバコが恋しいですね」
 呟くように嘯いた、星劉の一撃が夜空に銃弾の線を――引く。

「……これです」
 戦いを終え、無数に開いた極小のディメンジョンホールを備に破壊し付くし、
 地上に戻ったのは既に夜明け前。後生大事に仕舞いこんでいた七花が差し出した、黒い髪と血に濡れた白羽。
「これは……」
 星劉が声を途切れさせ、優希と宗一が揃って眉を寄せる。白に映える暗赤色は余りに痛々しく、
 絡み付いた黒と共に如何にもただただ嫌な予感を刺激する。だが、それ以上に。
「……これは?」
 天乃が指差した物は髪に絡まった飾り紐の様な物品。どう見てもこの世界の品物では無い。
 リベリスタ達E能力者であれば見れば分かる。それが破界器である事が。
 何気なくユーフォリアがそれを手に取った瞬間、彼女の耳元に響いたのは声。
「えっ?」
 それに声を途切れさせたのは彼女だけでは無い。ヴィンセントにもまた、聞こえた。
 澄んだ歌声。それは『白姫』と名乗った少女のそれに良く似ていて。
 けれど、彼女は今この世界には居ない。いや、それどころか世界を繋ぐ穴すら塞いだばかりである。
「……世界を結ぶ、破界器……?」
 呟いた声に、反応する者は誰も居ない。
 呆然と見つめる男ですらが、その言葉の意味を完全に理解し切れている訳では無い。
 そしてそれ単体でどうにか成る訳でも、当然無いだろう。だが、誰とも無く気付く。気付かざるを得ない。
 ここが、始まりである。
 ここが、スタートラインである。
 彼らは辿り着いた。世界を超えるその突端に。世界と世界とを結ぶ手段のその最初の一に。
 異世界より齎された引けば千切れそうな飾り紐。そんな瑣末な、今にも吹き飛びそうな第一歩。
 それを掌に載せたユーフォリアの手を引きながら、慌てた様に男は告げる。
 感傷に浸っている暇は、無い。
「急いで、真白室長を呼んで下さい。いえ、こっちから行きます、何処に居ますか!?」
 騒がしくも慌しい、戦いの果てに訪れた新たな戦いの火種。
 けれど今宵この場の一幕は、その騒動を最後に幕を閉じる。
 
 月無き空に、羽が舞う。白き絆が、世界を――変える。
 
 

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
参加者の皆様はお疲れ様でした。STの弓月蒼です。
ノーマルシナリオ『星空の戦記―White Letter―』をお届け致します。
この様な結末に到りましたが、如何でしたでしょうか。

卒の無い良い戦闘プレイングでした。
特に大きな被害が出る事も無く、驚くほど順当に勝利です。
ただ、活性して居ない非戦スキルを、シナリオ中で使用する事は原則出来ません。
サイレントメモリーと言う着眼点は良かっただけに残念ですが、御了承下さい。

この度は御参加ありがとうございます、またの機会にお逢い致しましょう。