●真白き闇 辺りは蜂の巣を突いたような混乱に満ちていた。 視界の中、濁流のように押し寄せる白い悪魔。 触れれば熱く、ねっとりとしており、肌に残る感触、独特のべたべた感は、否が応なしに『それ』が何だかを可憐な少女に分からせる。 「や、やだ……っ……」 小さくいやいやをするように頭を振った彼女の瞳には恐怖。 生理的嫌悪感に鼻を詰まらせ、涙目になった彼女の頭――良く手入れされた長い黒髪に白い悪魔が降りかかる。 「やだ、やだぁっ、とれないよぅ……!」 予想だにせぬ陵辱と衝撃、恐怖にぺたりと尻餅をついた少女(13)は唯必死にこびりついた白濁の残滓を擦り落とそうとごしごしと袖で擦る。 混乱した彼女は余りに愚直で、余りに無防備過ぎた。彼女を恐怖の奈落に突き落とした『それ』は変わらずそこにあったのに。 本番は、これからだったのに。 「ふぇ……」 圧倒的な威圧感が影を作る。 太陽を覆い隠すように目前に迫った『それ』の本体に漸く注意を戻した少女は何処か間の抜けた声を上げて、正面の『それ』を茫と見つけた。 一寸先には白い闇がある。不定形に姿を変える悪魔が居る。 「きゃあ――」 少女の悲鳴は、 「――きゃああああああああ――」 最早、誰にも届かない…… ●討伐依頼 惨劇を映すブリーフィングの大モニター。 「陵辱。1、相手を傷つけ、恥をかかせること。「武力による―を受ける」。2、暴力で女性に酷い事をすること。この場合、解釈は大いに1になる。とてつもなく重要な事だから、くれぐれも忘れないで」 視線を切った『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の何処と無く珍妙な注意にリベリスタは「うむう」と小さな唸り声を上げていた。 「モニターの被害者はだって少女(13)だよ?」 「いや、突き詰めるな。その辺は」 「重要な事。幕府の犬は何処で何を狙っているか分からない」 「取り敢えず、解釈は1として」 何時になく訳の分からないイヴのアレでソレなやり取りをリベリスタは咳払い一つで打ち切った。 「エリューションの討伐だな」 「うん。エリューションの討伐。ある町内の『新春・もちつき大会』でついているおもちがエリューション化する未来が予知された。散々木の杵でブン殴られたおもちは取り敢えず怒ってる。暴れ回って周りがべたべた。幼女もべたべた。こんな被害は放っておけないから皆の出番」 「……」 「おもちはエリューション化したばかりだけどフェーズ2相当の能力を持ってる。冗談みたいだけど結構強いから気をつけてね。特に粘り強い分、防御能力、生存能力が高いみたい。それと……」 「何となくその先が想像出来るのが嫌なんだが」 「……説明する私も嫌だよ。このおもち、べたべたしろくてなかなかとれない。これに直接触った人は何だか体が火照るらしい。あと本気出すと服とか溶かしてくるみたい。服だけ。十三歳以上~妙齢位までの見た目の美人が大好きだけど、十二歳以下の子供には優しいよ。男の人が滅法嫌いみたい。男の人に対する攻撃は情け容赦の無い腹パンで、対応するリベリスタ達の編成が全て男の人だった時の戦闘能力は怒髪天を衝きジャック・ザ・リッパーに相当する。死人は出ないけど」 「おい!!!」 何処かで聞いたような――酷すぎる説明に思わず抗議の声を上げるリベリスタ。 「どうして、神様はこんな訳の分からないものを作るんだろうね……」 対応するイヴの目も遠く。 少女は色々を諦めたかのように頭を振り、最後の一言を付け足した。 「頑張ってね、お兄ちゃん、お姉ちゃん……」 新春とは浮かれるもの。 時に何だい幼女、その芸は? |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:YAMIDEITEI | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2012年01月11日(水)22:51 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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●その男、勇者につき 乾いた埃を吹き上げるのは紛う事無き戦場の風。 黄昏に支配された空気は熱くも冷たく。佇む矛盾は一秒毎にその存在感を増していた。 男は立っていた。 傷付き、疲れ果て。 磨耗し、傷みを抱いて。 それでも倒れる事無く、立っていた。 「――ん、ですよ……」 丁寧にセットされていた金色の髪が乱れている。 アメジストの双眸のその丁度前に垂れた前髪を鬱陶しそうに払った『彼』は荒れる呼吸に構わじと、強く気を吐き出した。 「倒れる訳には、いかないんですよ――!」 目の前に蟠るのは傲岸不遜なる白き闇。 此の世の絶望をこねまわしたその無明の造形は不定形の混沌――そのもの。 (怖い……) 光持つ何者をも飲み込もうとするかのようなその威圧は『彼』が知る何者にも増して恐ろしい。 (……怖いに決まってるじゃないですか! 正直、もうこの場から居なくなってしまいたいですよ!) 正直を言えば今すぐこの場から逃げ出してしまいたくなるような――そんな恐怖は『ジャック・ザ・リッパー』に感じたそれと同種だった。 しかし『彼』は――『彼』の両足はこの場に踏み止まって動かない。震える膝は幾度でも我を取り戻す。『彼』の両目は敵を見据えた。 そう、全ては――あの日から始まったのだ。 わたくしはまだまだ未熟で、弱い。だけど、泣いてるだけじゃだめだって、教えてくれた人がいたから―― ……こんなみっともないわたくしにも、できることがあるって教えてくれた人がいたから。 だから、わたくしは……誰かの盾になれる。一歩、前へ! 胸に勇気を抱いたなら。要するに―― 「――バレンタインが近いんですよ!!!」 『彼』は――『息をする記憶』ヘルマン・バルシュミーデ(BNE000166)はあらん限りに咆哮した。 迫り来る絶望を調伏せんと、その先に待つ運命さえ、従えんと! 「そう、バレンタイン! リア充御用達イベント!!! 聞くも涙語るも涙のクリスマスがやっとこ終わったと思ったら二月の悪夢・血のバレンタインまで二ヶ月を切ってるとかどんな罠だよ。 ああ無情。神は死んだ。今死んだ! いいですか、わたくしは本気です。いくらでもフェイトを燃やします。出来る事なら何度でも立ち上がりたいです。死すら厭いません。とにかく女性を庇います。かっこいいとこ見せます。バレンタインが近いんです。バレンタインが! 近いんだよ!!!」 腹パン一閃。 「へぶっ!」 汚ぇ花火だぜ! ●前座終了 芸人の前説で空気が暖まってきた所である。 学校のグラウンドは既に滅茶苦茶な混乱に包まれていた。 事の顛末は何時にも増していい加減。平和な地域の餅つき大会はつかれる餅が奇奇怪怪なる変異と化した時点で、超常識の世界へと突入した。かくして平凡な日常を襲った神秘事件はアークのリベリスタ達を今日この場へと駆り立てたのだった。 「年の瀬も迫っているのに相変わらず私達を休ませてくれないらしいな」 空から落下してヤバイ角度で地面に突き刺さったヘルマンを見ない振りして嘆息交じりに呟いたのは『ウィクトーリア』老神・綾香(BNE000022)だった。 「今回の相手はフェーズ2のエリューション…… 一体ばかりでは、この私達は止められまい。 私とて三ッ池公園の戦いを無事に切り抜けて来たのだから――」 まぁ、全く。 彼女の言う事にも一理ある。 フェーズ2のエリューションは確かに強力ではあるが、彼等はそういった存在との戦闘に慣れている。 チームを組み的確な連携と役割分担で敵を追い詰めるリベリスタ達は通常ならばこれに良く対処する事が出来る。 しかし、しかしである。それは『通常』ならばのお話で―― 「ひ、ヒィッ! ヒィ!」 幾ら覚悟を固めていても、幾ら自分に言い聞かせていても本能に染み付いた恐怖ばかりは完全に拭う事は出来ないのか、悲惨なヘルマンを見た『From dreamland』臼間井 美月(BNE001362)が面白い悲鳴を上げていた。 「……来なけりゃいいのにさー」 「ち、違う。僕は恐れていない! ましてや悲鳴等上げていないよ!? そう、リベンジだ。えっちっち、今度こそ僕は君にリベンジを果させて貰うんだ!」 傍らの式神が冷淡に突っ込み、肩を竦める。情けない美貌を一生懸命張り直し、もっと情けなくなった美月は大儀林を片手にへっぴり腰で敵を見ている。 彼女の反応が物語る通り――今日、リベリスタ達が相対する神秘は危険である。 識別名『えっちっち』。別種同名を幾つも持つ、この訳の分からないエリューション(やアザーバイド)は出現する度にその苛烈な能力で多くのリベリスタに恐怖と絶望を叩き込んできた過去がある。 男には滅法鬼畜で、女にはとことん粘ってやらしー攻撃をしてくる。 字面にすれば間抜け極まりないその習性も目の当たりにすればまさに恐怖である。 既に校庭に犬神キメたヘルマンが死んだようにピクリとも動かない。 ――しゃあ! 新春一番! 御厨夏栖斗十六歳一番槍! 腹パニストいっきまーす! 何故だか嬉しそうにやたら元気に飛び出した『高校生イケメン覇界闘士』御厨・夏栖斗(BNE000004)が仰向けにお天道様を見上げている。 「夏栖斗……畜生……この親不孝もンが……親より先に逝く奴があるか!」 え? それ? マジ? いいの? みたいな設定を口にする『戦火の村に即参上』オー ク(BNE002740)。 (しゃあ! 死んだ振りして撮影するぜ! 鑑賞するぜ!) ……この親あってこの子ありでいいかも知れないな夏栖斗君。 「……ふん、やはり夏栖斗には荷が重かったようだな…… 女子供は下がって見てな、戦いの恐ろしさって奴を教えてやるぜ」 しかして、夏栖斗がアレでソレだったり、『人間魚雷』神守 零六(BNE002500)が嘯いたりしているが、ふしゅうふしゅうと湯気を噴出す白色の悪魔が誰の手にも重い荷であるのは明らかだった。そして、問題はもう一つ…… (やっぱりオレは慎ましやかな大人のお姉さんが好きだなー) 『ライトバイザー』瀬川 和希(BNE002243)の視線の行方が物語っている。 目前にはリベリスタ達を木っ端の如く薙ぎ倒した白い悪魔が佇んでいるのに、少年の視線は否が応無く―― 「……何時だったか、とても似たようなアザーバイドを見たことがあったような気がするんだけど……」 ――『綺麗な大人のおねいさん』、つまりは今一度『これ』に遭遇してしまった『月光花』イルゼ・ユングフラウ(BNE002261)の引き攣った美貌の方に引き寄せられている。断じて『ぴゅあわんこ』悠木 そあら(BNE000020)さんの方にでは無い。 「何だか、ナレーションに侮辱されている気がしたのでした。いちごおいしいです」 頬をお餅のようにぷっくりと膨らめた愛らしいそあらさんは置いておく。 (集中、集中。でも……うーん、集中、集中……) 否が応無く高まる期待感は全く邪魔者。 この敵の場合、夏栖斗といい和希といい、どうも真面目に戦える人間が極端に減るのも難題である。 「なーに あっしが守ってやるから安心しなっせ」 言葉とは裏腹に何とも不安を煽るサムズアップでブヒる豚は言うに及ばず、 俺もれっきとした高校生だ。 だから、なんだ、男子高校生らしく興味が無いわけじゃない……が、同じく男子高校生らしくそういうのは恥ずかしいと言うか。 ……うん、できるだけ見ないようにはしていかないと…… 全くピュア極まる思考をどう拗らせたのか、 「考えてみれば、俺って集音装置使えば音だけで位置把握可能なんだよな。よし、オレは目隠しして回復役だ!」 堂々と目隠しをして戦場に仁王立ちする『Small discord』神代 楓(BNE002658)に到ってはもう滅茶苦茶である。 「あつあつ、もちもちのエリューション。 美女好きだなんて……きっと真っ先に狙われてしまう。……私、怖いわ!」 『夢見る乙女』樅山 多美(BNE003276)がその目に恐怖の色を湛えて大柄で筋骨隆々としたその体を意外と器用にくねらせた。 「……一体どうして、何の因果で」 「経験上、この手の相手に逃げの手は不利……! 今度こそ、今度こそ!」 夏栖斗、美月やそあらと同じようにこのイルゼや毛を逆立てる狼のようにそれを威嚇した『エーデルワイス』エルフリーデ・ヴォルフ(BNE002334)は似たような『何か』と遭遇の経験があった。 誰もが知っていた。或いは本能で理解していた。 どう見ても悪趣味な冗談にしか思えない目の前の餅がこれから引き起こす阿鼻叫喚の恐怖劇を、その果てを。 「新年早々、妙な物が現れますね。状況には色々と突っ込みたい所がありますが、被害を最小限に出来る内に退治しましょう」 何時まで経ってもシリアスのシの字も訪れない悲惨な空気を一つの咳払いで払い、『追憶の蜃気楼』神無月・優花(BNE000520)が言った。 「しょーがつ特番のさつえーちゅってせつめーで一般人たいひー」 九九式狙撃銃を片手にぶんぶかと振り回し、『うさぎ型ちっちゃな狙撃主』舞 冥華(BNE000456)が声を張る。 「何でおもち? よくわからないけど、新年早々うざったい。もちつきのじゃま。さくっと、たおしてこい。そこの男子どもー」 「ブヒヒ、それはね、お嬢ちゃん……」 すっこんでろ、豚ァ! 弱冠僅か十一歳の少女を世俗の汚れ(オーク)から守るのは正しい大人の義務である。 不幸中の幸いか、瓢箪から駒と言うのか、人生万事塞翁が馬とでも言えばいいのか。一部男性陣が不埒な目的で持ち込んだ『撮影アイテム』は悪趣味な特撮の如き光景を周囲の一般人に『何かの撮影』と思い込ませる事に成功したらしい。 イルゼの強結界と合わせればこんなどーでもいい……失敬、緩い依頼ならば何の問題も無いだろう! かくてテキパキと周辺の野次馬を一帯から離した少女達である。 いよいよ痺れを切らしたのか動き出した白い闇に優花は目を細めた。 (ああ、幸か不幸か。痛みや辱めの類には慣れてますが……) 『そういう目』に遭いたいかどうかと言えば、かなりこう複雑な部分は否めない―― とは言え、最早猶予は無い。スローイングダガーを両手に構えた少女の影が持ち上がる。襲い来る『それ』を迎え撃たんと、気配がざわめく! (シャッターチャンスは逃がさないよ!)←死んだ振り 「やっぱ、どうしても期待しちゃうよなー……」 「あ、でもやっぱり見えないと……不便っていうか……」 「おおっと、餅の攻撃で混乱してしまった! 不可抗力ですぜ、ブヒヒヒヒヒ!」 「そあらさん、あっちで普通のお餅を丸めているのです。お正月にはさおりんとパパにご挨拶に行かないとなのです」 「こ、怖くは無いよ!? 僕は克服したんだからね! どうして笑うの、みに!」 お前等、働けよ! 「――塵は塵に、餅は餅屋に。今年の戦いはこれで締め括りにしてくれる、とくと見るがいい!」 はい、綾香さん。カッコいい台詞いただきましたァ! ●gdgdするよー! ――貰う打撃と同方向に超柔軟で内蔵をスライドし衝撃を最小限に緩和する! これこそが一流のリベリスタに存在する本能の防御法。 いかな打撃とてインパクトの有効時間を受け流せばたやす―― 「ブゲェエエエエ!」 豚がキラキラ輝く汚いものを撒き散らして吹き飛んでいく。 「なッ、和希!? 馬鹿野郎、どうして出てきやがったッ!」 「危ないっ!」 「若いお前には未来が有る…ここで散らせる命じゃない… へへ……もう、目が、見えなくなってきやがった……ごめん……俺も、そっちに、兄さ……」 「零六、無茶しやがって……!」 主演、神守零六、瀬川和希。 「やっちゃるぜ!」 和希が仇とばかりに気糸を放つ。 男共ドラマティックボコボコ劇場は置いといて―― 「ええい、やるな!」 綾香の豊かな胸が激しい動きに上下に揺れた。 こぼれ落ちそうなバストは誰の目も引く彼女の武器か―― 「うしろから、てーこくさいきょの九九式狙撃銃でねらいうつー」 後衛に陣取った冥華には不似合いなサイズの銃身が鋼鉄の咆哮を轟かせる。 「1$しゅーとでねらいうちー♪ でも、もちっぽいのに弾丸……びみょい?」 効果の程は如何程か、少女は目をぱちくりとさせている。 「覚悟完了したのです!」 男が次々と面白い格好で動かなくなる、荒涼絶望の戦場で少女は可憐に声を張る。 なけなしの勇気を小さな(?)胸に秘めて、華奢(?)なその両足で必死に暴威に立ち向かいながら。 「でも、お餅は好きです。つけばつくほど粘りが出て美味しくなるんです。 だから、つっつかれるのが理不尽なんて、そんな事ないんです!」 叫んだ少女――多美は何キロあるんだという鉄鎖つきの鉄球をぶるんぶるんと振り回し、 「ですから、怒らないで! 皆、あなたの事が憎くてついている訳じゃないんです!」 余りに強烈な一撃を餅が飛び散る程に叩き付けた。 「みんな、あなたの事が大好きなのよ! その証拠に私は逃げません!」 私の勇姿をどうかその目に焼き付けて、と困った方向に覚悟完了した彼女の奮闘はまさにパーティの軸になっていた。 何故ならばパーティが遭遇した今日の運命はそれはそれは悲惨・過酷なものになっていたからである。 「ちょっと待て! ここでオレが倒れたら……まだ何も見てないのに! 何度でも立ち上がる! 立ち上がらなくちゃダメだろう!」 あー、はいはい。和希君すごいね。ドラマ、ドラマ、フェイト、フェイト。 んじゃまぁ、ご期待のアレ行きますよー! ・綾香の場合 「……っ、んくっ……」 戦いはお互いの隙を探るものである。 目前の敵を強く凛と睨みつけ、負けぬと果敢な接近戦を仕掛けていた綾香ではあったが…… 激戦の中で生まれた一瞬の間隙は彼女の体を白濁の闇へと飲み込ませていた。 「……この、不埒なっ、あつっ……」 べたべたねとねとと絡み付く白い粘体は凹凸のはっきりとした彼女の肢体に粘つく残滓を刻み込む。 肌色と白のコントラストは余りに鮮やかで、戦場らしからぬ音色を漏らし始めた彼女の色香を嫌という程に煽って、煽る。 「……っ、ッ……く、ん……っ……」 声を堪える程に唇から滑り落ちる熱い吐息めいた鼻声は『少し期待してしまった』彼女の業によるものか。 全く、サービス精神豊かな彼女は、無遠慮に頬に唇にまでべっとりと跡を残した『餅』!!!(※ここ重要)を赤々とした舌でぺろりと舐め取る。 (唯のネバネバしたモノだと思ったが……これ凄く濃い……) 餅! 健全!!! 「……わ、わざと見せてるんじゃないぞ、そのこの場の勢いと言うか何と言うか……」 時に何で綾香さんダブルピースしているのん? ・優花の場合 苦痛や辱めの類には慣れている―― 優花はこの難敵にもそれが故に怯まずに果敢に戦いを挑んだ。 しかして、彼女の運命にとってその『慣れ』は些か不幸な作用を齎す結果となっていた。 「……ぅ、あっ……」 全く、自分のものではないような声が上がった事に優花の『冷静な部分』が苦笑する。 堪えられる、堪えようとは思っていたのだが――吸血ばかりはまずかった。 背に腹は変えられ無かったとは言え、噛み付いたのは殆ど毒を取り込む行為に他ならなく。直接触れた対象にたまらない恍惚感を与える……らしい不埒な生物は冷静な少女の頭の中さえ白く染めた。 「ぅ、ん……っ……はぁ――」 頭の中に残る『冷静さ』が、それが統べる領域が刻一刻と減っていく。 吐き出す息は熱くて甘く、体中を這い回る『餅』!!!(※ここ重要)の感触に体は嘘のように反り返る。 (これ、すご――っ――) 身を委ねる訳にはいかない、それは嫌という程分かっていた。 しかし、罪の味は苦い程に甘いもの――冷静と情熱の間、少女の天秤がどう傾いたかは…… ・多美の場合 「やわらかくて……あったかくて……とっても美味しい! お餅が皆……って、どうしておもちが逃げてるの!?」 さもありなん。 ずざざざざざ、とばかりに退避するえっちっちに多美が必死の形相を浮かべている。 「ちょっと、逃 げ な い で !!!」 ずざざざざ! ごごごごごごご! 「お待ちになって!」 鉄球ぶんぶん。ずごごごごごごご! ・イルゼの場合 「焼け石に水だと思うけど、呪印封縛を…… あ、えっちっちじゃなくて和希さんにかけちゃった。ごめんなさい、わざとじゃないのよ?」 そろそろくたばりそうな和希君お待ちかね、待望のイルゼさんのターンである。 連携の悪さ故か獅子身中の虫の所為か、そもそもこの依頼に予約した時からこの運命は避け得なかったのか。 後衛で支援に徹したい! とか何とか儚い希望を抱いていたイルゼさんも早々にお餅の魔手に捕まっていた。 「うぅ、体中……べとべとで……熱いし……」 ねっとりとした白い液体を頭から被せられたイルゼは顔と言わず体と言わず張り付いた白濁に流石に眉を顰めて拭っていた。 しかし、その『餅』!!!(※ここ重要)は神経を鷲掴みにして、体の芯を過敏に燃やす毒である。 「……ぁん……っ……」 上がった嬌声は彼女の意図したものではない。紅潮する頬も、火照る体も又然り。 (胸とかにまで絡み付いてくるぅ……少しでも回復しないと。向こうから近くに来るんだから……) 熱に浮かされたイルゼはとんでもない事を思い付いてしまった。 (吸血、させてもらうわ) 艶やかに濡れた薄い唇が微かに開く。少し自己主張の強い犬歯の向こうにローズ・ピンクの柔らかな舌。 かぷ。 「~~~~っ!?」 こんなもん噛めばどうなるかは、既に優花が実証している。 「って、目隠ししてるから大丈夫と思ったんだが……声が! 声が! なんか悩ましくて艶っぽい吐息とか、集音装置で余計ハッキリ!?」 あ、楓君死んだ。やられた。 ・冥華の場合 「もちっぽいのねばねば。つかまるとべたべた」 あどけない表情で自身を見上げた冥華を餅は捕まえようとはしなかった。 苛烈に自身を攻撃する少女を目の前にしても「子供はこの国の宝なんだよ」みたいな雰囲気で優しく見守る餅は抵抗らしい抵抗をみせていない。 「んー?」 不思議そうにする冥華を見守る餅のその目は優しかった。目とかねぇけど。 戦いにも傷んでいなかったごく普通の餅を皿に載せて差し出すと、彼は次なる獲物に目を向けた。 「むー? もちっぽいのと男子ーどもの考えよんでみる」 結果は悲惨。餅の方がかなり紳士だったのは言うまでも無い。 ・エルフリーデの場合 「……もう、以前みたいに骨抜きにされる訳にはいかないのよ!」 足元から絡み付く白い闇に負けじと、エルフリーデは折れそうになる心を必死で鼓舞した。 「火照ってなんて、こんなのに、何度も……火照って、なん、か……ぁ……」 苛烈な反応を見せ、逃れようと必死で暴れていた女の抵抗が小さくなる。 太腿を這い登り、両手両足を絡め取る餅!!!(※ここ重要)。 それは、その感触は彼女が以前に知った敗北の甘い味を思い起こさせるに十分過ぎて。 「え……そ、そんなこれ以上、駄目。切なくて、私、もう飛んじゃっ……駄目、やめてぇ……」 餅だからね! ・そあらの場合 「あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 何故あたしの所にも来るですかぁ!?」 A:そあらさんだから。 ・美月の場合 戦場は壮絶な混乱に満ちていた。 以前の戦いを『奇手に頼り過ぎた己がミス』と断じた美月はこの戦いに際して一つの強い決意を持っていた。 (……気付いたんだ。僕は回復役、いかなる時も仲間の傷を癒すのが役目!) 目を閉じ、必死に歌を奏でる彼女は強い決意を新たにしていた。 (オークさんを初め、信頼できる仲間の傷を癒す事で勝利に繋げる! それがホーリーメイガスである僕の歩むべき道なんだ! 僕は生まれ変わった!) だから。 「だから今度こそ! 絶対えっちっちに負けたりしない!」 両目が開く。凛と張った声と共に戦場の光景が少女の視界の中に飛び込んでくる! 「……あれ?」 周りは最早、死屍累々。 果てたような顔で茫然自失とする女性陣に物理的に動かない男性陣。 「あれえ!?」 「……まるで成長していない」 冷淡な式神の突っ込みも今の美月には聞こえない。 「馬鹿な! そ、そんな馬鹿なッ!? わ、我らアークの精鋭達がこんなにも……容易く……!? ……えっちっち……奴は一体……何なんだ!?」 餅です。 食後の楊枝をしーはーするが如き余裕を漂わせていたえっちっちがギロリと美月に視線を送った。 「ちょ、ちょ、ちょ……お腹一杯じゃありませんか? ね、ねぇ!」 美月ちゃんは別腹ー。 「い、いやあああああああああああ――ッ!?」 腰を抜かして這って逃げようとした美月の脚に後方から『餅』!!!(※ここ重要)が絡み付く。 素肌を這うのは濡れた熱い感触。背筋を反らす美月の睫に露が宿る。 「でも僕は鋼の意思で最後まで仲間の治療を続けいやあああベタベタするうう!?」 ぶっちゃけ、二秒ももっていない(自己申告以下)。 (……あ、熱い。あうう、熱い。厚着して来たから物凄い蒸し暑…… ……何か…のぼせて来た様な……うあ……いけない……本当に……意識が朦朧と……) ……。 (あ、あれ? 急に涼しくなった? 助かっ――) A:服が溶けただけ。 「いやぁああああああああああ――!」 美月の悲鳴が空に響く。 「チャンス!」 がばっと起き上がった夏栖斗がカメラを構える。 「させるか! 喰らえ!」 生きてたらしい豚が吠える。 「“EX女子なら誰でも戦火したい。約束は破るモノ2012(作詞DEBU)”!」 何故かパージした豚が夏栖斗の眼前に立ちはだかり。 「何てもの撮らせるんだよ! 父さん!」 「うるせー、美月チャン達のネイキッドな子猫ちゃんを見ていいのはあっしだけだ!」 「撮るならどうぞ、私を!」←元気な多美ちゃん 「た、助け、助け……がぼげぼ……」←瀕死の美月ちゃん 後は色々酷かった。 気付けば男共は揃って血の海に沈み、えっちっちは果てていた。 謹賀新年! シリアス! |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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