●承前 奥羽山脈、誰も立ち入らない奥深くの洞窟――。 その前には、傷だらけの侍が一人立っていた。 戦に敗れ、侍の時代が終わりを迎えて尚、彼は一人でこの地にいる。 いつから此処で主君を待っているのか、当に忘れてしまっていた。 ただひたすら主の帰りを待ち、奥に眠る大切なものを護り続けている。 維新を迎え、時が過ぎ、時代が変わり、誰も見向きすらしなくなったとしても。 彼はこの地に立って、戻らぬ主の帰りを待ち続ける。 それが主との死を賭した約束。 彼の名は――『最後の侍』。 ●依頼 「誰も見向きもしない山中でエリューションと化し、来ることのない主を待つノーフェイス『最後の侍』を倒す事。 それが今回の依頼」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は集まったリベリスタ達へと切り出した。 侍の元の名は亀頭辰之助(かめがしら・たつのすけ)という。 会津藩の藩士で戊辰戦争に敗れた旧幕府軍だった彼は、藩の財宝の一部を隠したこの洞窟の護りを命じられた。 だが財宝の正体は、既に使うことのできなくなっている武器や銃、弾薬の類。 今となっては、何の価値もない。 「エリューションとなった今でも、彼は侍としての誇りを捨ててはいないの。 戦いになっても、彼は正々堂々と侍としての矜持を胸に対決してくる」 フェーズは未だ2で止まっているが、その実力はなかなかのものらしい。 刀で接近戦を、遠くの敵には火縄銃を奮い、洞窟へと近寄る敵を殲滅しようとするだろう。 「年明けが過ぎた頃、彼は一般人に発見されてしまう。それがきっかけでフェースが3へと成長してしまうの。そうなれば厄介。 一早く現地へ向かって、『最後の侍』の魂を解放してあげて」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ADM | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2012年01月07日(土)22:48 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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●侍 福島県、会津山中――。 普段は雪に覆われるこの地域一体だが、不思議と雪の少ない地域が存在する。 昼間の移動の最中、『微睡みの眠り姫』氷雨・那雪(BNE000463)はいつもの眠たげな声で呟いた。 「……雪が酷くない、とはいえ……少し寒いわ、ね……」 雪がないとはいえ、日中も冷え込む東北では防寒対策は必要だと那雪がやんわり告げ、一行は上着を羽織って行動している。 移動中、『蒼銀』リセリア・フォルン(BNE002511)は、事前に調査してきた歴史についての情報をリベリスタ達に説明していた。 140年前にあった戊辰戦争、『最後の侍』はその際に激しく抵抗した会津藩士の生き残りだと言う。 「時が流れて、時代が変わって。もう必要ないのだと、もう逝っていいのだと、伝えてあげなければなりませんね……」 侍の魂が、在り方が、これ以上壊れてしまう前にそうしなければならない。 『Giant Killer』飛鳥零児(BNE003014)もリセリアに続く。 「死んでも信念を貫き続けるのは立派だよな」 自分もこのぐらい強い人間になりたいと感じた零児は、戊辰戦争や会津藩主について同じく事前に調べていた様子だった。 ふたりに反応するようにして、『吶喊ハルバーダー』小崎・岬(BNE002119)は言葉を返す。 「どんな気持ちで百回を超える冬を越えてきたのかなー?」 護っている物に対して岬は興味を持っていないが、その忠義を持って数多の時間を過ごした侍へは労いを掛けたいとは感じている。 やる気を全開にして進む『あほの子』イーリス・イシュター(BNE002051)は、元気良く細槍を握って歩き続けていた。 「その攻撃に隙なし! な、相手なのです。つまり! 強敵! うでがなるのです!」 屈託のない笑顔で、共に歩く『鋼鉄の戦巫女』村上真琴(BNE002654)がその様子をリセリアの後ろについて微笑ましく見つめている。 何人かと同様に感慨深い感覚を抱いていた『永御前』一条・永(BNE000821)。 「曽祖父がご覧になられたら、何と申したでしょう」 彼女の曽祖父はかつて仙台藩士であり、幕末を経て蝦夷へ入植したと祖父から聞いている。 自身の先祖と同じ旧幕府軍側にいた侍に浅からぬ縁に感じ、この依頼に志願したのだった。 そういう事情にはあまり興味なさげに『定めず黙さず』有馬守羅(BNE002974)が、少し考えて拳を下唇に当てる。 「まあ、幕末なら一対一とか言ってなかっただろうし、この人数で行っても正々堂々でしょ」 守羅の言葉に、後ろを進む『リップ・ヴァン・ウィンクル』天船ルカ(BNE002998)は軽く肩をすくめる。 一方で『みにくいながれぼし』翡翠夜鷹(BNE003316)にとっては、己で立つ事を決めた最初の戦場だ。 かつてエリューションによって強いられた戦いとは違い、今回がリベリスタとして初めて臨む戦闘に、彼は気を引き締めなおす。 (俺や妹の様な子供を増やさないために!) 自分達の悲劇を繰り返さない為にとの確固たる決意を持った彼は、一同と共に洞窟へと向かう。 人里離れた山中の奥深く、誰も足を踏み入れる事もしばらくなかったこの地で、長い時を待ち続ける者が一人。 洞窟の前に陣取り腰には日本刀を、背中には火縄銃を背負い、時代錯誤な武士の鎧を身に纏っている。 彼はかつて、亀頭辰之助(かめがしら・たつのすけ)と呼ばれていた男。 エリューションとなった今も、主の帰りを待ち続ける『最後の侍』。 ●開戦 「会津藩士、亀頭辰之助さんですね」 最初に話しかけたのは、リセリアだった。侍は重々しく肯きを返す。 「如何にも」 「俺は翡翠夜鷹、あんたに話がある!」 夜鷹は注目させる様に語りかけ、その間に左右へと分かれていくリベリスタ達。 「話とは?」 短い言葉で返すものの凛とした声から、侍が未だに自身を失わずに存在している事が感じられる。 「……140年が経って、今はもう貴方の護るものが人々に必要とされない時代になりました」 リセリアの言葉に続いて、零児が話を続けた。 「既に会津藩はなく、藩主も亡くなっている。それに松平公自身、晩年は戦争を望んでなかったし、もう奥の武器を使うことはないんだ」 事前に読んでいた書物から、彼には当時の情勢が理解できていた。そこへ夜鷹が補足する様に重ねて問う。 「主君無き今、その忠義はどこへ向かう? その宝が忠誠を誓うに値するものなのか?」 「……だとしても、我が使命変わるに能わず。此の地で主を待ち、其を護る事が我が忠節」 侍は口調を変えず、澱みない答えを侍は告げた。 主が二度と来ない事。それは長い時を孤独に過ごす中で、既に理解はできている様子だった。 だから、一度決めた事は、魂に死が訪れるまで貫く。 彼が護り続けているのは、愚直なまでに真っ直ぐな彼の志のみだったのだ。 各人がその身体に闘気を纏い、集中を高めているのにも関わらず、平然とした態度で相対している。 永は如何なる手段を以ってしても相手が折れる事はなく、曲がる事はないだろうと見抜いていた。 何故なら彼こそのその名の通り、『最後の侍』なのだから。 「旧仙台藩士族、奥州一条家永時流が末、一条永。――亀頭辰之助殿、貴殿が御首級頂戴仕る!」 挑戦を受けて立つ、とでも言う様に上段に構える侍。 「同胞の子孫よ。是非もなし」 神光で仲間の護りを固める真琴は、静かにリベリスタ達へと促した。 「死しても尚、その想いは未だに潰えず……ならば、彼に相応しい名誉と眠りをこの戦いで」 頷いて二方向から侍と相対する中、元気一杯なイーリスの声が開戦を告げる。 侍はゆったりとした口調で、一同を見回して答えた。 「いざ、参られよ」 「やーやー! われこそは!! ゆーしゃ! イーリス・イシュターなのです! いざ!しょーーぶ!!」 彼女だけちょっと時代を間違えている様な、完全に浮いた言葉すら辰之助は唇を歪めて不敵に受け止めた。 ●兵 先陣を切ったリセリアは右側の前衛に立ち、火縄銃での射撃が後衛へ向かない様、射線を封じるように立ち位置を確保しつつ立ち回っている。 「私達は――貴方を解放すべく、参りました」 素早く左右に残像を創って両者から剣舞を放ち、先制攻撃を侍へと送った。 同じく右側の前線に立つイーリスが闘気を爆発させた状態で、激しい稲妻をランスに迸らせて飛び込む。 「ゆーもーかかんに、ぶっこむのです!」 左側の最も後ろに位置する那雪は、集中後には覚醒した口調へと移っていた。 「さて……今年最後の大仕事、きっちりとこなさねばな」 全身から気糸放って執拗に背後の火縄銃へと狙いをつけたものの、侍が銃を未だに背にしたままだった為、まずは敵の勢いを削ぎに掛かる。 那雪の前に立つ永は闘気を高めたまま、前衛達との中間地点に位置して薙刀を奮い、そこから発生した風の刃で侍へと斬りかかった。 「武には武を」 一方で隣の真琴は先頭のリセリアから順に自身で回復が出来るように、助力を授けていく。 反対に左側の中程に位置した守羅も、居合いの姿勢から太刀を抜いて遠距離からの真空刃を放っている。 「岬、いくよ」 その動きに合わせる様にして、続けて隣にいる岬もハルバードを奮って真空刃を侍へと叩き込む。 「ボク達は守ってるものを奪いに来たんじゃない、貴方に御疲れ様を言いに来たんだよー」 彼女達の前に立つ夜鷹は翡翠の翼を羽ばたかせ、それを推進力にして前へと踏み込み炎の拳を突き出す。 「あんたの使命は終わったんだよ!!」 隣にいる零児も、雷撃を纏わせたバスタードソードを振り抜き、最大の攻撃を持って当てにかかる。 「攻撃は最大の防御ってな」 敵の火力を考慮すれば、出し惜しみは出来ない、零児はそう考えていたからだ。 侍は各人の攻撃をその鎧と刀を受け止め、再度状況を逡巡する。 左右に別れたリベリスタ達を前に両方への攻撃は難しい状態だった。 火縄銃を抜いた侍は、右側に回り込んだリセリア、イーリス、那雪、真琴、永へと連射する。 右側の最後衛に位置していたルカへは、リセリアが位置取りを工夫して視界を遮断させていた為に辰之助からは攻撃する事が出来ない。 前衛たちに護られているルカが手早く回復の風を送り、一行の傷を癒す事で前衛を護る。 「回復切れは無いと自負してますので、気にせず存分に戦って下さい」 辰之助が強烈な攻撃を繰り返そうとも、ルカが回復に専念する限りリベリスタ達は全身全霊で一撃を加え続けられるのだ。 幕末では出逢う事が無かっただろう強敵を前に、辰之助が瞳の鋭さを増していく。 「会津での戦に参加できず悔やんだものだが、この様な兵達と相見えようとは……」 彼は戊辰戦争時に戦いへは赴けず、この地での護りを強いられていた。辰之助の言葉から、当時の無念さが垣間見える。 戦闘は徐々に苛烈を極めていく。刀を振るう度に感じる、戦場の熱。 「忠義に殉じるも、また忠節」 辰之助の声は、僅かに歓喜を感じている様だった。 ●解放 左右に大きく別れたリベリスタ達が相互で侍を相手取り、その結果全体攻撃を封じる事には成功している。 だが持ち前の鎧の防御力に加え、火縄銃と刀の強大な攻撃力を前に、侍の攻略は進められずにいた。 侍は戦いの中で、自らの叶えられなかった想いが達せられている充足感を得ている。 それは彼の同志達と同じく、戦いの中で命を散らしていく事にあったのだろうか。 仲間の護りを完全に固め、回復を続けるルカと真琴には、そんな風に見えていた。 形勢が変わったのは、那雪が狙いを火縄銃に絞った事から始まる。 「……さて、貴殿の火縄銃と私の糸、どちらの精度が高いかな」 彼女の冷静な思考が、気糸に集中をもたらして火縄銃を幾度となく貫き、遂に銃を破壊させて取り落とすに至った。 その瞬間を見逃さず、リセリアは前進して目にも留まらぬ刺突の連続を投げ掛ける。 「貴方は、誓いを見事に果たされました。主君の、仲間の方々の下へ行ってあげてください」 光の飛沫と化し、華麗に侍の右腕を粉砕していった。 度重なる攻撃を受けたリベリスタ達だったが、互いが庇い合って前に立つ者を入れ替えることで侍への対応が出来ている。 イーリスと入れ替わっていた岬のハルバードがオーラを纏わせて踊りかかる。 「じゃあ、行こうか―。お休みなさいの時間だよー」 重い一撃が侍の身体を襲い、後ろにいた永が合わせて攻勢へと出た。 居合いの疾風が右半身を斬り裂き、侍の動きが徐々に鈍りだしたのを見て取る。 「……雄々しき武士よ、英霊となりて、護国の戦へ赴く者達をお護りくださいませ」 それは、永から彼への最大級の敬意を払う言葉。 後方で庇われたイーリスは集中を続けていた。 倒れては恥とばかりに自身を奮い立たせ、前へ出ると大きく振りかぶった雷撃を落とす。 「そのちゅーぎ! わたし! わすれぬのです!」 左翼に回っている守羅も、右翼の攻勢に合わせて一気に攻撃の手を送る。 「いける……?」 その居合いを侍の左側へと向け、一気に止めに掛かって行く。 だが侍の動きは止まらず、鈍いながらも左腕の太刀を振り被り、幾度となくリベリスタ達を大きく傷つけた闘気の一撃を見舞おうとする。 そこへ左側から正面へと引き付けるように躍り出た夜鷹が、その一撃を一身に受ける。 翼を広げ、後方への視界を封じる様に立ちはだかり、血塗れで崩れ落ちそうな状態でも己の運命を燃やして攻撃を凌ぎきる。 「今だ!!! 零児!!!」 夜鷹の翼の影から、ステップを踏んで回り込んだ零児。 「あんたは十分に使命を果たしたと思うよ……あっちの世界で胸を張って報告してこい」 その雷撃が、侍の動きを完全に沈黙させた。 「見事な連携と戦い…………我の望みは、此処に、達せ……られた……」 その刀を地に着かせ、膝を折ってその場に倒れ行く侍。 「同胞、達よ……遅れたが、今から……我も………側に…………」 満足げな表情を浮かべたまま、彼は静かに仲間達の元へと旅立っていった。 『最後の侍』の身体が、積年の時を一気に動かした様にさらさらと崩れ落ちていく。 塵へと帰さなかった刀だけが、突き立てられたその場所で刃の中央から折れて彼の生きた証を残していた。 だが、それも一時的なものなのだろう。 リベリスタ達がその刀に視線を向けると、刀の主を追うように緩やかに崩れ始めていたのだから。 まるで刀の主同様、現世に未練はないとでも言いたげに――。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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