●呪氷円舞曲 好奇心は猫を殺すと云う。 「何だ、これ……」 呟いた青年はその場所が既に尋常な場所で無い事に気付いていた。 冬色に染まった静寂の森に冷たい風が逆巻いている。 意思を持っているかのように青年の周囲をぐるぐると回っている。 枯れて色を失った下生えが凍り付く。周囲は刺すような冷気に満ちていた。 くす…… 誰も居ない。 森には誰も居ない筈なのに。 くす、くす…… 氷雪の風音に紛れるように何処からか少女の笑い声が響いてくる。 森は酷い殺風景なのに、そこに少女は居ないのに。居ない、筈なのに。 くすくすくす…… 狼狽してキョロキョロと周囲を見回す青年をからかうように。 冷気が存在感を増し、季節に主張を強める程に。笑い声は大きくなっている。何気無く――『踏み込んではいけない場所に踏み込んでしまった』哀れな犠牲者を嘲っている。 「ああ……あああああ……」 脱力して情けない声を上げた青年は最後の瞬間に何も無いそこに少女の姿を認めていた。銀色の唇が、その口角が吊り上がる。 幼く、美しく、残忍な。銀色の唇が――心凍る青年に愛を囁くのだ。 吹き付ける風は冷たい。 殺風景『だった』森には見事な氷像が一つ在る―― ●討伐依頼 大映しになるモニターから視線を切り―― 「単純なお話。皆の仕事はある森に現れたエリューションを討伐する事」 ブリーフィングで切り出した『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)にリベリスタは一つ小さく頷いた。 「……実にオーソドックスだ。事情の方も大体、読めた」 「うん。大体見ての通りだと思う。 敵はエリューション・エレメント。フェーズは2で数は六体。 『氷精』とでも呼ぶべき『彼女達』は悪戯で残忍、冷酷で気まぐれ。偶然、本当に偶然としか言いようがないと思うけど――領域に入り込んでしまった山崎毅さんっていう大学生を氷の像に変えてしまった……」 イヴの言葉にリベリスタは苦笑を浮かべた。助けられれば良かったのだが――言外にそんな気持ちが見え隠れしている。 「『氷精』には悪気は無いのかも知れない。人間と遊んでいるだけなのかも知れないけど――彼女達の愛情表現は人間に優しくない。エリューションを放置する訳にはいかないから皆の出番」 世の中はまことままならぬものである。 生まれ方を間違った『命』は誰にも幸せをもたらさない。 勿論、彼女達自身にも―― 「『氷精』は物理攻撃には少し耐性があるけど、効かない事は無い。 狙うなら特に火炎系のバッドステータスが有効みたいだよ。 唯、彼女達は素早いし、冷気を自由に操る能力は甘く見れないよ。 戦場の地面はツルツルに凍り付いているから――足場にも注意が必要。彼女達はふわふわ飛行する事が出来るからちょっとずるい」 「ううむ……」 唸るリベリスタにイヴはもう一言だけを付け足した。 それは実に――実に聞きたくなかった忠告だ。 「防寒対策はしっかりね。……クリスマスには寒波が来る」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:YAMIDEITEI | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2012年01月08日(日)22:49 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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●冬の森 「冬ですね。全く冬だ。間違いなく冬だ。即ち、この場所は紛う理由も無く冬なのです――」 目を細めた『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)の目の前を―― 刺すような寒気に覆われた森を一陣の風が駆け抜けた。 足早な風さえ凍り付かせてしまいそうな、蟠る冷気が風に撹拌されて一層周囲に撒き散らされる。 冬枯れの短い下生えが元気無くその身を横たえている。その枝から茂る葉を失った梢が荒涼とその身を揺らしている。 「――つまり、そう。寒い!」 日頃の軽装は嘘のようにこの日のうさぎは重装備に身を固めていた。 靴はスパイクのついた雪山用のもの。色彩を失った森に鮮やかな彩を添えるのは目立つ色合いの防寒用アウターに、これまた良く似合う派手なインナー。一見しても分からない所で言うならばその全身には道なりのコンビニでしこたま買い込んだ使い捨てカイロが貼り付けられまくっている。 「これは……わいるどであうとろーな狼の香夏子でも流石に応えます」 足元からせり上がる、周りから張り付く酷い寒さに身をかじかませるようにして『第10話:ゆくとし~くるとし~』宮部・香夏子(BNE003035)が呟いた。確かにうさぎの言う通り冬とは寒いものである。辺りに満ちる冷気が『冬だから』で済む程度のものだったならば、そも今日この時――十四人からなるリベリスタ達がこの森を訪れる理由等無かったのだが。 「今回は凄く寒い戦いですね……物理的に。早く終わらしてコタツでカレーにしましょうか」 何処か胡乱とした――眠そうな香夏子の瞳が木々の合間に逆巻く氷雪交じりの旋風をぼんやりと見つめていた。 リベリスタ達が望まぬ場所に借り出される理由等多くは無い。多くの不幸な事例の例外に漏れる事無く、今日この場においても彼等の目的は――やはり。 くすくす。 くすくす。 くすくすくす…… 静寂の森の中に少女の声が響いている。 張り詰めた空気を幽かに揺らし、氷雪の風の声に紛れるように。 くすくす、くすくすと。音は小さなノイズに過ぎないのに奇妙な程に鮮やかに聞く者の意識の中に滑り込んでくる。 「確かに妖精っていうと、くるくる踊ってるイメージがあるんスよね……」 『小さな侵食者』リル・リトル・リトル(BNE001146)の言葉は呆れたような、感心したような。 白と銀とそれから灰色―― 周囲を染める殺風景な色達の狭間にキラキラと氷精が踊っていた。 「彼女達も……せっかく得た命なら、一緒に踊ってみたいッスけど」 「美少女みたいな氷精かぁ。う~ん、拳で語るしかないのかな」 リルの言葉に頬を掻いた『食堂の看板娘』衛守 凪沙(BNE001545)が応える。 「氷の妖精さんとかメルヘンだね☆ 実際にはそんなかわいい存在じゃないのが残念だけど!」 『ハッピーエンド』鴉魔・終(BNE002283)の言う通り、光景は確かに妖しいながらも絵画的に美しい。 著名な芸術家が目の当たりにすればまさに望外の『ミューズの囁き』にも届こうかという幻想だ。 さりとて、『森の凍気』が結んだ少女の像は悪趣味な造物主のもたらしたまさに此の世の仇花であった。 「なんと邪悪な少女…… 可愛いけど……ただでさえ寒いのに……迷惑。愛情はちょっと今間に合ってる……から」 長い赤髪を風になびかせ、『消えない火』鳳 朱子(BNE000136)。 「今の私は氷などゼロコンマで融かす熱い気持ちに満ちているんだ……ふふ、火車くん……」 「相変わらず別人になってるな! 朱子は!」 続いた言葉にコホンと一つ咳払いをして―― 「仕方ない。可愛い妖精さん達を倒すのはちょっと残念だけどね」 ――赤いマフラーに張り付いた雪を軽く払い落としながら『高校生イケメン覇界闘士』御厨・夏栖斗(BNE000004)が言った。 「妖精といえばいたずら好きというのは相場が決まっているわね。 それも他人の迷惑なんて気にしない、自分が楽しみたいだけで時に結果として命を奪うことさえあるとか」 細・遥香奈(BNE003184)は真白い嘆息を吐き出した。 「本人達にとっては悪意のない遊びでも他人にとっては危険以外の何物でもない。 ありがちな伝承の真実を嫌な形で実感したわね。ここできっちり仕留めましょう」 「残虐と言われていますが……もしかしたら、本人に悪気は無いのかも、知れません。 ……ですが……既に犠牲者が出ている以上は……ごめんなさい……」 冷酷で残忍。美しく、無邪気。それは彼女達の『在り様』だ。 生まれ方を間違えた――表現は概ね正解だろう。彼女達とて『望んでこう生まれついた訳ではあるまい』。 面立ちに幾らかの憐憫を携えた『手足が一緒に前に出る』ミミ・レリエン(BNE002800)の言葉にも氷の少女達は小首を傾げて笑うばかり。 リベリスタ達が討ち果たさんとする神秘達は現れた新たな来訪者――即ちリベリスタ達自身を楽しそうに、値踏みするように眺めている。 「エリューションとは言え、子供の苦しむ姿を見るのは忍びない。 出来得る事なら彼女等が苦しまぬ様に一撃で殺してやれれば、とも思うのだがね。 如何せん、業だ。それが叶う相手でも無さそうだというのは――」 『鉄血』ヴァルテッラ・ドニ・ヴォルテール(BNE001139)がそう言う間にも、身を切るような冷たさは一層その猛威を増していた。 少女達は本能的に理解したのかも知れない。この場にこれから訪れる時間の意味を。 今度の狩りにおいて――どちらがどちらを狩ろうとしているのかを。 「冬の……精霊より……春の……妖精の……方が……好き」 吹き荒ぶ寒風に大粒のサファイアを細めて、エリス・トワイニング(BNE002382)が呟いた。 くすくす。 幕が開くのだ。 くすくすくす。 呪氷の円舞曲が始まるのだ。冬枯れの森のホールで、風と雪を従えて。 くすくすくすくす―― それは確かな、耳障り。 「あー、もう! うるせぇ!」 両手に嵌めた鋼鉄の篭手同士をガチンと打ち鳴らし、『蒼き炎』葛木 猛(BNE002455)が白い息と気を吐いた。 「一体、どんな感じで凍らせてくれンのやら。 俺の炎とお前らの氷、どっちが上か試してやンぜ――!」 ●くる、くるり。 かくて雪の舞い散る白の森でリベリスタと氷精達の遊戯、円舞は始まった。 潤沢な戦力と手数を生かさんとするリベリスタパーティは、比較的防御や耐久に優れる朱子、うさぎ、リル、凪沙、終、香夏子、夏栖斗等前衛を前に出し、敵をブロック。中衛に立つヴァルテッラ、猛、遥香奈等は攻防における楔とし、残る後衛――ミミ、エリス、『ぴゅあわんこ』悠木 そあら(BNE000020)、『ネメシスの熾火』高原 恵梨香(BNE000234)による厚い支援、支援攻撃で押し切るというプランを立てていた。 六体からなる氷精達に相対するパーティの基本の戦略は非常に単純明快かつオーソドックスであると言えるだろうか。 素早く戦いの準備を整えたパーティの中で抜群の反応速度を見せたのは終だった。 「妖精さんこんにちはー☆」 スパイクは凍る地面を強く踏み締め、蹴り上げる。 「プレゼント持って来たよー! 一緒に遊ぼー♪」 飛び出した彼は持ち前の戦闘感覚で瞬時に極限の集中を纏い、手にしたかぼちゃのたるとを正面の少女へぶつけにかかる。 「ごめんね、シャークさん!」 しかし、敏捷性に優れた少女は慣れない動作に出た終の一撃(?)をひらりと避ける。 宙空を舞い遊ぶ六体の氷精達は向かい合うリベリスタ達の様子を面白そうに眺め相変わらず少女の笑い声を零していた。 「ステップを踏んで踊るッス、。ダンスも立派な遊びッス――」 細かいステップを踏んだリルが終に続き少女の陣地へ飛び込んだ。 彼の放ったカラーボールも地面に落ちて虚しく割れる。飛び散るインクが周囲に色彩を撒き散らしたが目印とする程では無い。 「びゅーんです」 「そあら、すべんなよ」 「こんな所で転ぶそあらさんではないのです。 こんな見てくれがさおりん好みの奴らはさっさと討伐してさおりんの懐でぬくぬくするのです」 ハイスピードを従えた香夏子が、一言を残した夏栖斗が前に出た。 「こんにちわお嬢さん方、一緒に遊びましょう!」 鮮烈な戦いの口火を切ったのは片手に備える『11人の鬼』に甘やかな死の刻印を携えるうさぎである。 一拍の呼吸を置く形となった仲間達とは異なり、うさぎは持ち前のマイペースのままに一撃を叩き込む。 ――! 「おや、ようやくやる気になりましたかね」 ふざけて舞っているばかりだった氷精の少女達もこの痛みを刻まれれば敵への認識を改めようとも言うものである。 目前を塞ぎ始めた前衛達に対応するようにやがて銀色の少女達が動き出す! 「さあ……遊ぼう、か。私は愛されても凍らない……から、存分に……遊んであげるよ」 消えない火はこの現世と同じ、不完全なる『絶対者』。 口元に薄く『へたくそ』な笑みを貼り付けた朱子はその実、その表情を浮かべている自覚が無いのかも知れない。 目の前に立つ『悪』を討つ事――今の彼女は『それのみ』を求めたかつての彼女では無い。 後方の氷精が少女目掛けて魔氷の散弾を撃ち放つ。されど範囲に次々とぶち撒かれた氷の弾丸にも朱子は怯まない。 DIVAより噴き出した赤い炎が盾の如く機能する。 それでもぶち当たる氷弾を不動で弾き、張り付く氷を物とせず振り払う。体を芯から貫くような冷気さえ圧倒する! (火車君、火車君。見ててね、火車君!) ――それは語れば落ちる、朱子『の』炎。今の彼女はかつてと比べても尚、強い。 その反応の鈍重さから待つ形で迎撃の形を取った朱子に対して、 「さー、行くよ」 虚空を切り裂き飛来する氷精をカウンターするように一歩を踏み出したのは覇界闘士の凪沙である。 事前に確認した通り。足場のグリップも、踏み込んだ感覚にも問題は無い。 土をめくる勢いで一歩を踏んだ少女の身のこなしに全領域戦闘用セーラー服――そのスカートがはためいた。 「あたしの拳はすっごく熱いよ。遊び気分で近寄ったら――どうなっちゃうか分かんないから!」 繰り出された凍気の剣を髪一筋切り散らされるまでで掻い潜り、金色のツーテールを揺らした凪沙は炎を巻く拳をお返しにと繰り出した。 統合格闘支援装備“成香”が唸る。威力を重視した重い格闘は言葉通り氷精に猛烈に襲い掛かる。 氷精達の反撃に対応を始めているのは他の前衛達も同じである。 「香夏子、痛いのも寒いのも嫌いです」 表情すら碌に変えず、抜群の回避能力で氷精の氷弾の殆どを避けてみせたのは香夏子である。 「っ、……む」 それが『全弾』にならなかった事に些か不本意そうな彼女が幾らか動き難そうにしているのは足場の悪さの為か。 「っと、痛っ……!」 斬り付けられた終が声を上げる。 少女達はなりは可愛いが危険な殺傷力を持っていた。 十数センチばかりの刃でも一人前のリベリスタを傷付けるだけの鋭利さを持っていた。 とは言え、終も伊達にソードミラージュでは無い。クリーンヒットをすんでで外した彼は華麗なバックステップを踏み、すぐさま態勢を整える。 防御能力を発揮し受けて見せた朱子に対してこの辺りの面子が頼るのは身のこなしの方であった。 俄かに騒がしさを増した森の中、戦いはすぐに加速し――凍える空の下に熱を溜めていく。 如何に前衛が攻撃を抑えようともその全てを食い止める事は困難である。 後方に散った散弾呪氷に撃たれ顔や服に氷を張り付けたミミだったが、それでも彼女は気丈に呟く。 「大丈夫、です……寒い所は慣れていますので……」 効いていない筈は無い。 「私はまだ、実力がありませんから……このようなお手伝いしかできませんが……いけます」 されど怯まず放たれる神々しい光は少なからず氷精達の魔力に侵されていた仲間達の危機を取り除いた。 可憐な声を凛と張り、高らかに歌うのはそあらとエリスの二人である。 「これは、中々力強い。頼りになるお嬢さん達なのだね」 コンセントレーションに身を浸すヴァルテッラが感嘆の声を上げた。 天使の声と聖神の息吹が戦場にもたらす意味は何より重い。故に要は最後列のこの二人。 (結局の所、私は彼女達を焼き、苦しませて殺す他にない、か。 ……不甲斐ない事だ。せめて、出来得る限り早く終わらせたいものだ) ヴァルテッラがかつて盗んだ奥義、業爆炎陣は獄炎を抱く。それは少女達には致命足るものになる。 強力に気力を体力を賦活する厚い支援に力を取り戻したパーティは氷雪の渦を巻き、冷気の中に遊ぶ氷精達を今一度見据えた。 「今度はこっち!」 「お返しッス!」 終の音速の刃が閃き、一声を上げたリルのクロー、その両の爪先が掻き斬る軌道をそのままに戒めの気糸を紡ぎ出す。 「……さぁて、行くぜ! 俺の炎、受けてみやがれ──!」 流水の構えから集中を噛み、突き出された拳は苛烈なる魔炎を引き出した。 定点に荒れ狂う炎を嫌うように少女達が怒りの顔を見せていた。 彼女の立つのは陣の中程、それは楔。 「ええ。生憎と、そう簡単に好きにはさせないわ――!」 再び迫り来る氷の煌き目掛けて遥香奈の指先が鋼鉄の悲鳴を撒き散らす―― ●きら、きらり。 「全く、次から次へと良く難題が降りかかる――」 吹き付ける氷雪の風に顔を背ける事無く、呟いた恵梨香の視線の先には舞い狂う少女の姿がある。 彼女の赤い双眸は単純に映る光景のみを見ていない。 凍える空気を『冷やす』その中心部――極端な冷温こそが少女達の居場所である。 熱を感知して敵の所在を正確に理解する彼女の超感覚は格別の集中で少女達に業火の御手を差し向ける。 「せっかくなら身も凍る冷たいキスより、身も心も融ける熱いキスの方が素敵でしょ」 何時になく洒落て冗句めいた少女の視界の中で色の無い世界が赤く燃える。ネメシスの熾火に赤く、染まる。 冷気の世界には幾度と無く、赤い炎が瞬いていた。 氷精達の弱点は至極分かり易く強烈な熱――つまり炎である。 しかして、凍気そのものであるかのような氷精を『燃やす』事は難しい。 持ち前の敏捷性でパーティの陣形をかき乱し、次々と危険な攻撃を繰り出してくる彼女達にパーティは少しずつ消耗を深めていた。 特に厄介なのは銀色の唇が織り成す冷たい口付け――対象を呪いで氷像にせしめる銀色リップノイズには手を焼かされている。 手厚い支援に守られるパーティは簡単に落ちはしないが、若干の攻撃力の不足は否めないか。 「……言ったでしょ……私には、効かない」 赤い剣が大振りの軌跡を描く。 ここぞ出番、と攻撃を集めんが為に動くのは朱子。 彼女も、パーティの誰も奮戦し、奮闘していたが――戦いは辺りを取り巻く冷気と同じように厳しさと苛烈さを増していた。 木々の合間から無数の氷の煌きが飛来する。 実体の無い凍気の剣が前から、横からリベリスタ達を狙う。 銀色の口付けは死、そのものであるかのように冷たく――舞台に皮肉に見事な氷像を作り出す。 「……しっかり、大丈夫ですか……」 ミミも必死だった。強力な状態異常を払うのは彼女の役目。 そあら、エリスの聖神の息吹が無明を晴らす。 夏栖斗の拳が炎を巻いた。 「――っ!」 死角を埋めるように立ち回った遥香奈の双眸が強く光を放つ。 撃ち放たれた銃弾が冷気を掠めて彼方を貫く。 「香夏子神出鬼没です」 傷んだ朱子をフォローするように動いた香夏子が、 「痛いのはちょっとだけですよ?」 氷精の一体を気糸で捉え、縛り上げる。 「――仕留めます」 短い宣告は殆どタイムラグ無く下された。 名の通り低い姿勢で間合いを奪ったうさぎの動きは獣のよう。 繰り出された甘き死の誘い(メルティー・キス)は今度こそ動けぬ氷精を大気の中に散らし、溶かした。 「この――っ!」 痛打を受け、眉を顰めた凪沙が反撃に出る。 「面白いものを見せてやるっす――」 告げたリルの体が実体を持った分身を作り出す。 多重分身から繰り出される完全なる無死角攻撃――ハイ・バー・チュン。 異国の英雄の名を冠したその技は彼がとあるフィクサードから盗み取った『手品』であった。 「寒かろうが、冷たかろうがぁ……!」 全身を取り巻く寒気に負けぬと、声を張り上げたのは猛だった。 「この手足の動きは誰にも止めさせやしねえ――!」 意志の力は時に低い確率さえ掴み取る。 全身に張り付いた氷を割り弾き、今一度猛の炎が宙を焦がす。 おおおおおお……! 継戦能力という意味でパーティは敵に長じていた。 戦いは続く。激しく削り合い、激しく拮抗する。 崩れ始めた氷精のペースに止めを下すべく、動き出したのは鉄血のその男。 「さあ、行き給え。――業爆炎陣」 轟音と共に無限機関が最大に稼動する。暴走めいた暴発めいた獄炎の宴に凍気に満ちた冬枯れの世界さえ塗り替える。 十分な集中を重ねた一撃は少女達の二体を範囲に飲み込み、熱と獄炎に咽ばせた。 一体はそれで散る。業火は冷気で出来た美しい少女達を溶かす呪い。 しかし、そこまで。 宙を舞う少女達は形勢不利に散り出していた。四体も残る彼女達を仕留め切るには手が足りない。 パーティの尽力は更に二体の氷精を在るべき姿に帰したが――全てを殲滅し切るには到らなかったのである。 銀色のノイズは歪んで割れた。それでも何時か。何処かで、囁く―― |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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