● 「失礼ながら、お尋ねいたします。その、右目の向こう傷、頬の三本傷。『四本傷の伊吾郎』さんとお見受けいたします」 兄貴分を罠にはめ、シマを奪ったはいいが、生来の怠け癖がたたって、シマは小さくなる一方。嫌気がさして放り出し、流れ流れて場末の次元。 たまのシノギで十分やっていけるぼちぼちこなれた土地。 こいつぁついてると思った矢先の面倒事、やっぱりついてねえなと振り返る。 「てめえら、あんときのガキ共かい。こんなサイハテまでごくろうなこった」 「謀殺された父の仇、見殺しにされた母やおば達の仇。貴様が逃げたせいで死んでいった姉達の仇、母達と一緒に枯れていった弟妹従弟妹の仇……。一族郎党総意の上意討ち。甘んじて牙を受けるがいい!」 「しゃらくさい。返り討ちにしてくれらあぁ!」 ● 「――状況は、大体こんな感じ」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、自作の紙芝居をしまった。 クレヨンタッチでなかなかよく出来た時代劇。 擬人化された動物がキュートだった。 最後まで描いて、冬休みの自由研究として提出してもいいと思う。 「アザーバイド。向こうの世界で一族への義務を放棄したならず者に、仇討ちの子供達が追いついた。落ちぶれたとはいえ、族長クラス。強い。子供たちは数はいるけど、未熟」 それ、王道パターンだと。 「助太刀がないと、どう考えても返り討ち。そんな凶悪なアザーバイドに居座られるわけには行かない。助太刀してきて」 リベリスタは、質問と手を上げた。 「で。ずっとモニターに写ってるそのかわいいんだかおぞましいんだか分からない生き物は、なに」 黄色い粉にまみれた見かけたことがある連中が、出来損ないのぬいぐるみバッグみたいなのと格闘中のビデオと、やっぱり見たことがある連中が延々と穴掘りしているビデオが流されている。 「だから、件のアザーバイド。今年の6月に動物形態、7月に植物形態を処理した、識別名『ダンデライオン』」 見た目はタンポポとぬいぐるみのライオンがくっついてる感じ。たてがみっぽい部分がタンポポの花びら。一部が種化して、ふわふわ。 動き回る様子もヨチヨチしている。時々、ぽてっと転んだりして。 めちゃくちゃかわいい。 しかし、それは擬態なのだ。 ダンデライオンの背中。 ぬいぐるみのファスナーみたいに少しくぼんでいた部分が、がばっと開いた。 赤々とぬめる口腔。すごい勢いで突き出される大きな舌。 ファスナーのような小さな歯が何重にもうねって、サメの歯のようだ。 イヴは、注視できないといった風情で、目を背けた。 「今回戦ってもらうのは、動物形態。個体識別名『四本傷の伊吾郎』。油断しないで。こないだのが働きアリなら、こいつは兵隊アリ。単体で集団と戦えるタイプ。残念ながら、子供達は働きアリ程度の力しか持っていない」 ダンデライオンの映像を見ないようにして説明を続けるイヴに、なんだか目頭が熱くなって来る。 「D・ホールはすでに収縮を開始している。若干大きめの伊吾郎はもう通らない。排除せざるを得ない。もちろん、伊吾郎を倒した後、可及的速やかに子供達の処理にかかってもらう」 「はい?」 それは、お約束から外れちゃいないか。 「ダンデライオンの知能は、この次元の動物並み。言語を解さない。非常に好戦的且つ凶暴。更に、胞子をばら撒いて、繁殖しようとする。前回も討伐の短い時間に30株もの植物形態が発生した。駆除するのに、フル編成のチームを派遣している」 人の背丈よりでかいタンポポ。 「根の深さ、5メートル」 掘り返しているリベリスタチームが魅了されて現場が混乱する様は、見ていて胸が締め付けられる。 「伊吾郎はかなりの強敵。三つ巴で戦うよりは、子供達と共闘がもっとも時間短縮且つこちらの被害が少ないと判断した。かといって、子供達を見過ごすわけにはいかない」 イヴは無表情。 「速度重視。D・ホールが閉まりきる前に生死に関わらず全頭送還。かなわない場合はこれを殲滅。要はできるだけ速やかに五頭をこの次元から消してほしいの……っ!」 (だって、何度も裏切られるの、辛い) 声に出さないイヴの背中がそう言っている。 イヴは、ふうと息をつくとモニターを見上げた。 「肩持ちたくなる、かわいらしさだけどね」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2012年01月03日(火)22:44 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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● 「たんぽぽだ! らいおんだ! かわいいな! かわいいな!」 仲間達が伊吾郎の足を止めている間に。 『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)は走り出した。 送り出された雷音の肩には、皆の期待がかかっている。 伊吾郎はともかく、子供達とは仲良くしたい! 「こんにちは、らいおんさんたち、助けに来たのだ。君たちと戦うつもりはない、君たちの仇はきちんとたおす。だから、きみたちは帰ってくれないか?」 仇討ちの仔ダンデライオンが、雷音の傍によってきて見上げる。 「ボクたちを信じてほしい。やくそくする。君たちが仇をとる手伝いはする、けれど帰れなくなる前に帰ってほしい」 差し伸べられた小さな手の先は、ダンデライオンの背中に吸い込まれている。 鋭くとがった細かい歯が、もぐもぐとうごめいている。 雷音決死の説得も、特有の黄色い花粉で、ダンデライオンさんかわいいですもふもふがぶがぶ……の危険ゾーン。 「……くっ、またかこの肉食系どもめ! 楽しいか! そんなにボトムチャンネルの期待を裏切るのが楽しいのか!!!」 かつて動物形態にかわいい物好きとしてハートを踏みにじられたアンナが叫んだ。 体からほとばしる高次存在の光が、雷音の傷と黄色い花粉の影響を吹き飛ばしていく。 「かくなる上は是非も無し、まとめてゲートの向こう側に放り込んでやるっ!」 ● 話は、少し遡る。 リベリスタ達は安全な所で、自らの能力を賦活し、峠まで走っていた。 すぐに、五匹の獣が見えてくる。 ふかふか毛皮の肩甲骨の辺りの緑の葉っぱから長い茎が伸びている。 まん丸おめめは真っ黒。 たてがみは黄色い花びら、所々がふかふか真っ白の綿毛だ。 大きさも手頃。もうぎゅっとしたくなる。 「がおがおっ!」 「がおがお、がああ!!」 クライマックス到達も間近らしい。 「あのライオン植物。任侠文化を営んでいるのかと思いましたが、イヴ嬢の意訳なのですね、少し残念」 『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)二度目のお目見えだ。 「異次元動物といえど仇討ちとは見上げた心意気。その願いは叶えられるものなら叶えたい所、お節介ですが手伝いましょう」 『気焔万丈』ソウル・ゴッド・ローゼス(BNE000220)も、前足踏ん張って立ってる若いもんは嫌いじゃない。 「ハッ!自分たちよりでっけー相手に立ち向かうってのはなかなか豪気なガキたちじゃねえか。仇討ちを果たすことでしか先に進めねえ若いヤツがいるならば、手を貸すことぐらい、やぶさかじゃねえわな」 侠と書いて、おとこと読む。 異郷の人だが。 なに、心意気というものは万国共通。 『酔いどれ獣戦車』ディートリッヒ・ファーレンハイト(BNE002610)も頷く。 (アザーバイドで時代劇みたいな仇討ちをするやつが居るとはな。まあ、気持ちは分かるだけに手助けをしてやるのも一興。せいぜい時間内に終えるよう、力いっぱい助っ人として戦うさ) 命と力の等価交換は終わっている。 全力で、仇に突進するまでだ。 『レーテイア』彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)の機械の耳に、あの日の蝉時雨がこだました。 (植物形態を処理した身としてはあまり係わり合いになりたくないけど) 炎天下。ゲリラ豪雨。地中5メートルまで張った根。 思い返しただけでだるくなる記憶に、蓋を。 (何が言いたいかというと、見た目ファンシー中身グロ、そのくせ浮世の義理に縛られているという面白生物を相手にしないといけないから、マインドセットを) 戦闘思考ルーチン、発動。 (大切な何かを奪われた際に、怒りの感情を抱くのは……やはり、どこの世界も共通、なのでしょうか……) 『手足が一緒に前に出る』ミミ・レリエン(BNE002800)は、「仇討ち」に思いを馳せる。 (私も……目の前で御飯が誰かに取られたら、怒ってしまいそうですし……) それは次元が違う。 「それにしても……映像で見るより現地で見る方が可愛いです、ね」 ミミの言葉に、『みにくいながれぼし』翡翠 夜鷹(BNE003316)が相槌を打った。 「可愛い。確かに可愛い。イヴちゃんが倒すのを嫌がるのも無理は無い。あひるも可愛いと言うだろうな」 夜鷹の脳裏に、妹の笑顔が乱反射。 「子供達はちゃんと送り返してあげないとな。自分達の世界で繋いでいく未来があるのだから」 ● 伊吾郎の手前数メートル。 彩歌、ディートリッヒ、『鋼鉄の戦巫女』村上 真琴(BNE002654)は貴重な十秒を待機に当てた。 アラストールとソウルが伊吾郎に迫る。 「助太刀しよう、幼子よ」 白に青のブロードソードから十字の光がほとばしり、背中が煤けたダンデライオンに直撃する。 「故あって、そっちのガキどもに助力させてもらうぜ!」 一撃必殺の杭打ち機に、バリバリと雷が宿る。 ソウルの打突に、伊吾郎の体毛が逆立つ。 「流れ流れて気ままに生きてついた四本傷ってか?」 二人の攻撃が伊吾郎をD・ホールに向けて追い込んでいく。 夜鷹がヒスイの羽根を広げ、低空を滑空する。 「子供達よ!助太刀するぜ!一緒に悪を打ち滅ぼしてしまうぞ!」 (雷音ちゃんのバベルに期待して言い放ったはいいけど、伝わってるんだろうか。そこはボディーランゲージだ!) 四本傷の伊吾郎に体当たりをして、子供を庇うようにヒスイの羽根を広げ、トンファーを伊吾郎の前に構える。 夜鷹一人が突出する形になってしまった。 言葉が通じる雷音は後衛。 未だ、仇討ちの子供達と接触できる距離ではない。 砂塵に黄色が混じる。 花粉が、風に乗って、辺りを染め上げた。 ● 花粉を恐れ、アラストールとソウルの押し込み役以外の前衛は、伊吾郎の近接攻撃範囲を迂回する。 夜鷹の体は子供達の黄色い花粉に染め上げられていた。 「こんな子供達が頑張っているんだ。血垂れ流してでも歯食いしばってでもやらなきゃいけない時があるだろう!」 魅了など元々全力で助太刀する気満々だった夜鷹にとっては大した問題ではない。 花粉まみれだからと逆に信用されれば、夜鷹としては説得の手間が省ける。 炎を纏ったアッパーカットを繰り出す。 当たりはするが、極わずか焦げるのみ。 「ぐるぅ?」 今何かしたか的鳴き声がしたと思ったとたん、先端がかぎ爪状になった触手ががっちりと夜鷹の体をホールドした。 伸びた触手を縮めると同時に、伊吾郎の背中の捕食用口ががぱりと開き、夜鷹の肩口に食らいつく。 何十にも重なって生えているサメ状の歯が沈み込み、透明なよだれと夜鷹の血が、その緑の羽根に滴り落ちる。 「……ひぃぃぃ、だからせめて足で歩いてっていってるでしょうが!?」 後衛から、アンナが細い悲鳴を上げ、回復呪文の詠唱準備に入る。 「ぎゃーーーっ!」 雷音の口から、ありえない悲鳴がほとばしる。 (いや、わかっていたが、目の当たりにするというのは……ボクは少女だから厳しいのだ) 手にした符を知らず知らずの内に握りしめている。 更に、四本の触手を持つ伊吾郎の攻撃は終わらない。 ぞわぞわっと伊吾郎のたてがみが隆起する。 花びら状のそれが、一気に白くほわほわになったのだ。 顔の四本傷さえ気にしなければ、卒倒もののかわいらしさだ。 それを見た彩歌の脳裏に、いやな可能性がよぎった。 注意を喚起しようとした瞬間、ボンと破裂音がしたように思えた。 次の瞬間、リベリスタ達は身体中に鋭い痛みを感じていた。 体に食い込む白い綿毛と、尖った種。 無数の生体ダーツが、八方に撃ち出されたのだ。 血を流しながら、ミミはすすすっと伊吾郎との距離を詰める。 (ふわふわしてて……あの背中もギャップが有って何だか面白いですし……) ミミのキモカワ心を射抜くヴィジュアルであることは間違いない。 (これだけいるなら、一匹ぐらい持ち帰っても……いえ、ダメ……です、よね……) 残念に思いながら、ミミは、伊吾郎の首筋に、食らいついた。 その体液をじゅるじゅると吸い上げる。 唇が、かわいいと呟いていた。 ● 『正義の味方を目指す者』祭雅・疾風(BNE001656)が、名にし負う蹴りを放つ。 伊吾郎の腹がぱくりと割れた。 (ここだ) 彩歌のはなった細密射撃は、確実に伊吾郎の怒りを買う場所にヒットした。 伊吾郎の右目の上、縦に走る向こう傷に、ちょうど十字。 つぶらな黒い目を真横に通る傷。 それなりにかっこついていた傷が、一気に間抜けになり下がる。 仔ダンデライオン達が、新たに出来た傷を見てふっと鼻で笑ったように見えた。 数瞬の空白。 「ぐるああああ!!」 伊吾郎がたけり狂う。 仇討ちの子供達の中に突っ込むと、背中の四本の触手を振り回す。 アラストールと夜鷹は、それぞれ仔ダンデライオンの一匹の前に立ちはだかった。 すぐそこに、ふかふかもふもふの仔ダンデライオン。 (安心させる様撫でたり、ちょっぴりもふもふしてみたい) 以前は、裏切られたと猛り狂う仲間を消極的に押しとどめるのが精一杯だったアラストールの胸がきゅんとする。 人、それをときめきという。 それをぎゅっと押し殺し、アラストールは屹然と前をむいた。 (今の俺は弱い。ここに居る仲間の誰よりも弱いだろう。敵に攻撃を受けてもろくに防御もできない) 癒されても、神秘を受け止める器が発達していない夜鷹は、その恩恵を十分に受け止めきれず、常に傷が絶えない。 かぎ爪を持つ触手が縦横無尽に暴れ回り、仔ダンデライオンと夜鷹が宙を舞う。 「負けられない!こんな所で倒れてられるか!」 宙で仔ダンデライオンの一匹を抱えて、地面に激突する。 体がもう無理だと悲鳴を上げた。 (フェイトを燃やせ! 躊躇うな! ただ我武者羅に邁進しろ!) 喉に詰まる血反吐を吐き出し、翼を血で汚した青年が再び立ち上がる。 「子供達には未来があるんだ! それを、明日に繋げる! その為ならこの翼、折れようとも構わない!!!」 その腹に、鮫の歯が食らいついた。 仔ダンデライオンが、アラストールと夜鷹にかぶりつき、その血を吸い上げた。 傷ついた体を癒すには、最適の弱った生き物。 仔ダンデライオンにも、死んではいられない理由がある。 守るべき「子供」に命を吸い取られながら、夜鷹はゆっくり地面に沈んで行った。 「どうしてだ、通訳しているのだ。どうして分かってくれないのだ……」 雷音は、夜鷹の血で背中の口をべっとり汚し、なおかわいい顔をしている仔ダンデライオンを見る。 もはや、雷音の強力な癒しの符でも、この場で夜鷹を再び立たせることは叶わない。 「いや、あいつらね? 言葉が通じても話の意味が通じない気がするのよ。なんかこう、前回も私達エサに見えてた感じもするし……」 アンナは、ぼそぼそと呟き、再び行為存在への介入要請詠唱に戻った。 自分の次元では食物連鎖の頂点に立つダンデライオンにとって、全ての生物は「おいしいまんま」である。 動物程度の知能しか持たないダンデライオンに「助太刀してくれるから襲わない」という概念は、そもそも理解の範疇外だ。 ともすれば、リベリスタは「聖戦に介入してくる邪魔者、もしくは弁当」に他ならない。 「子供」、「かわいい」、「仇討ち」という状況構成要素が、優しいリベリスタ達の判断基準を狂わせる。 事前から分かっていたことだが、固定観念が戦況に影響したのは確かだった。 だが、そこで膝を屈するリベリスタではない。 仔ダンデライオンとアラストールと彩歌目掛けて叩きつけられた触手の嵐からいち早く飛び退っていたディートリッヒ、ソウルの容赦ない斬撃が、伊吾郎の骨身を砕く。 二人は文字通り「助太刀」に徹し、仔ダンデライオンとは伊吾郎を挟んでいた。 アラストールや夜鷹が仔ダンデライオンのために身を切る役目なら、二人は仔ダンデライオンのために伊吾郎を斬るのが役目。 またミミの吸血により吸い取られた魔力が、少しずつ伊吾郎の行動選択肢を狭めていた。 ● 伊吾郎は満身創痍だった。 仔ダンデライオンの攻撃は、伊吾郎目掛けて叩きこまれている。 数匹がかりで、触手が伊吾郎を押さえ込み、小さな前足が、頭頂部に叩きつけられる。 黒目が飛び出さんばかりの衝撃は、確かにある次元の頂点決戦であることをリベリスタに知らしめるものだった。 しかし、それでも伊吾郎は、その性根はともかく、攻撃種として完成されていた。 触手の一撃を受け、仔ダンデライオンが一匹動かなくなった。 雷音がひゅっと息を呑む。 ソウルは顔をゆがませ、伊吾郎の正面に立った。 ずいっと一歩前に進むと気迫に押されたか、伊吾郎が後ずさる。 「何より、筋を通さねえのは俺としても気にいらねえ。傷は確かに男の勲章だが、てめえの傷にゃあ、誇りが感じられねえ!」 クリミナルスタア、かくあれかし。 いや、ソウルはクロスイージスであるが。 ほぼ同じ位置に傷を持つ伊吾郎に、ソウルは自信たっぷりにいい放つ。 (ついた四本傷も、どうせロクな理由じゃあるまい。俺の顔の傷とは意味合いも違うだろうさ) はらわたぶちまけろと打ち込まれる杭に、小さな音声用口から滝のような血が噴出する。 「七ターン目だ!」 雷音の声が戦場に響く。 出来れば、子供達は殺したくない。 そのためには、八ターン目から強制的に仔ダンデライオンをD・ホールの向こうに押し戻すとリベリスタ達は決めていた。 戦力の半分は、仔ダンデライオンの強制送還に手を裂く。 まもなく、事前にかけた加護も切れる。 ここが正念場。 疾風の拳から放たれる炎は天をも焦がし、真琴が膂力全てをつぎ込んで伊吾郎を打ちすえる。 ディートリッヒの激しい打ち込みに、伊吾郎の腰が据わらない。 「8ターン!」 雷音の声が悲痛だ。 仔ダンデライオンは三匹。 すでに力尽きている一匹は容易に穴の向こうに放り込まれた。 (ないに越したことはなかったんだけどね) アンナの体から、神威を現す光が走る。 伊吾郎も含めたダンデライオン達の体が硬直した。 「すまん。時間が無い」 アラストールが感情を押し殺しつつ、体に絡みつこうとする触手を引き剥がし、噛みついてくる派を体から引き剥がしながら、穴の向こうに放り込む。 それを見た仔ダンデライオンは、リベリスタに向かって大量の花粉を散布した。 ここにきて、仔ダンデライオンへの激しい愛慕がリベリスタ達の胸を締め付ける。 倒すべきは敵だ。 というか、仇討ち途中の仔ダンデライオンを穴の向こうに放り込むとかどういうことだよ。本懐とげさせてやろうよ! 自分と仔ダンデライオン以外、全て敵に見える。 「みんな、しっかりしてくれ。ここでけんかしている場合ではない! ボクは少女だが、それくらいは分かるのだ!」 祈りをこめた凶事払いの光が雷音から放たれる。 かろうじて発動している真琴の戦いに向けての加護が功を奏し、リベリスタ達は正気づく。 リベリスタ数人がかりでは、さすがのダンデライオンも抵抗に限りがある。 「穴が閉まる前に……」 (復讐は何も生まないけど、前に進む為に必要なら、全部終わらせてから悟ればいい) 彩歌が放つ気糸が、仔ダンデライオン達に集中攻撃を受けていた伊吾郎の前頭部の奥に隠された急所を刺し貫いた。 「首級、切り落として!」 とっさに疾風が放った蹴りが真空の刃と化す。 彩歌は駆け寄って、伊吾郎の首を即時計算による正確なスローイングで間一髪D・ホールの向こうに放り込むことに成功した。 ぎゅるっと音を立てて、次元の裂け目は見えなくなった。 後には、肩で息をする、傷だらけ、黄色い花粉まみれのリベリスタ達だけが残った。 「……ゲート――」 リベリスタ達は、一拍置いて、改めて念入りに次元の入り口を破壊した。 ● 「これ、いただきます……ね……」 ミミはいそいそと伊吾郎の死体を抱き上げた。 「命を奪って、そのまま……という訳にはいきませんので……何より、その……美味しそう、ですよね……」 じゅる。 何かをすすり上げたミミの手から、ひょいっと別働班が伊吾郎を持ち上げ、焼却処分袋にナイナイした。 岩をも消化するR・ストマック持つゆえミミの腹の心配はしないが、なにしろ種がこぼれたらそこから凶悪害獣こんにちはである。 大量にばら撒かれた弾丸、否、種。 後処理参加を申し出たリベリスタに別働班は、丁寧に礼を言った。 『たんぽぽらいおんさんは攻撃しなかったらかわいかったです。残務処理がたいへんそうです』 義父に当ててメールを送信した雷音に、別働班が声をかける。 笑顔と共に手渡されたのは、業務用掃除機工事現場仕様。 ディートリッヒとソウルには、恐ろしく似合わない代物だ。 「根付かれても困りますので」 アラストールは、なるほどと掃除機をかけだした。 「あの時も大変だったわ……。根を張る前に綿毛とか処分できればいいのだけど」 彩歌の目が今は遠い夏を見る。 「しかしここのリンクチャンネル、どんなヒエラルキーになってるんだろう……他の動物も見たくはあるわね」 アンナの言葉に、かわいい物好きのサガがにじみ出ている。 リベリスタ達は、丁寧に丁寧に地面に掃除機をかけて種と花粉を採集した。 峠に春が訪れる頃、リベリスタ達の努力の結果が明らかになる。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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