●afterdays故に屍山血河の悪態非ず 「今回は、調査をお願いしたいの」 その日、集まった彼等に『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)はそう告げた。 ミラーミスの落とし子。その七対を討伐して、もうひと月以上が経過していた。それで世界が平和なのかと言われれば、そんなことはない。ひとつ、何かが終わっただけだ。あれからも、これからも。殺人鬼は踊り、異形は狂い、上層はこちらを砕きにやってくる。 任務、任務、任務だ。リベリスタに息をつく暇はなく、あれら貪欲暴食姦淫妬心傲慢怠惰憤怒を思い返す余裕もなかった。 「調査対象は、彼女」 一枚の写真をホワイトボードに貼り付ける。年端も行かない少女だ。屈託の無い笑みを浮かべているが、目線はこちらに向かっていない。承諾を得ずに撮影したものなのだろう。 「この子はずうっと同じ場所にいるの。朝も夜も。ずっと、大罪の居た場所に」 その場所。同じ場所。七つの大罪なんて大仰な名前を冠された、エリューションの個体集。それぞれが悪意をまき散らしては消滅した精神のマイナス極点。 「害があるとは思えないのだけどね、今現在何をしているわけでもないし。それでも場所が場所だけに放っておくわけにもいかないの」 だから、と。それと、と。 「調査をお願い。あれらは完全に消滅したけれど、万が一にも何かあってはいけないから」 ●afterdaysなるは詰まるところ補足事項 「ね、遊んで?」 少女が純粋な笑顔を浮かべながらお願いしてくる。この子は、こんなところで何をしているのだろう。両親はどこに。友達はどこに。まさかひとりなのだろうか。そんなはずはない。だって、ここには。こんなところにはなにもない。子供がひとりで居るには不似合いだ。 「遊んで、くれないの?」 少女の顔が曇る。笑顔が消え、不満気に表情を歪めていく。嗚呼済まないと鎮めながら。少しくらいはいいかとその要望を承諾した。 「ありがとう!」 再び笑顔を取り戻した彼女に、どきりとする。何故だか、それにどうしようもなく艶美さを感じたから。ありえない、なんて頭を振る。こんな年頃でそれはありえない。自分には幼女趣味もないのだから、きっと錯覚だろう。そう言い聞かせたものだったが、結局のところ事実であったことを知る。 一時間だけ。彼女と色んな話をした。そのどれもが他愛のない話だ。色んな遊びをした。そのどれもが他愛のない遊びだ。日常であるとは思わなかったけど、それはドラマティックな悲劇でもファンタジックな英雄譚でもなく、ただただ他愛のないものだった。 それでも。それでも、その中で分かったことがある。この少女についてだ。彼女はお願いごとが多く、よくお腹を空かせ、間違いではなく色気があり、寂しがり屋で、少しだけ自分勝手で、面倒だと思えば口を尖らせ、そして様々な感情の発露を見せた。思うに、とても人間らしい。 一時間。あっという間の一時間。もっと遊びたいと彼女は言ったけれど、どうにかなだめすかしてその場を後にすることにした。 そういえば、と。最後にひとつだけ聞いておかねばならない。本来ならはじめに尋ねるべきではあるが、どうしたものかここまですっぽかしてしまったのだ。振り向いて、それを口にする。彼女はすんなりと答えてくれた。 「私? 私はね―――」 これは後日談。よって当書の末尾にあたる。 「なつみっていうの!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:yakigote | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年01月06日(金)22:10 |
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■メイン参加者 32人■ | |||||
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●afterdaysだからこそ夢の跡 その場所。その場所。いつもの場所。戦って、戦って、戦った。あの場所。思い出に浸ることはあっても、感傷にふけることはあっても、まさか仕事で来るなんて思っても見なかったけれど。懐かしかったり、懐かしくなかったり。感情的に、精神的に。どんな場所であっても。ここに何もなかったとしても。そこに彼女はいた。思い出に照らしあわせれば、似つかわしくない笑顔で。待っている。待っていた。彼女から声をかけたようで、それを待っていたのかもしれない。どちらにせよ、ここの物語は既に終わっているわけで。 「ね、遊んで?」 だからこれは後日談。蛇足と取ってもいい。それでも巻末の一文であり、これまでとこれからのお話。 ●afterdaysにつきましては自己解釈の 「君はどこからきたのかな?」 雷音の問に、わからないと彼女は答えた。恐る恐る、彼女に手を伸ばして。思い出したくない記憶が、麻痺に似た錯覚を指先に醸しだす。伸ばして、触れて、触れた。何も起こらないことに、少しだけ安堵して。何も分からないことに、少しだけ安堵した。人であるのだろうか。人ではないのだろうか。どちらにせよ、モノではないようだ。そうでないのなら、それでいい。それでいいのだ。 「君は何者?」 雷音の問に、わからないと、彼女は答えた。 七罪。七罪。もう、ずっと昔の事のように感じるけれど。それでもそれはつい最近の出来事だ。この場所。その場所。あの場所にいる、彼女。あれらが残した形が、彼女なのだろうか。あれらが生み出したかったものが、彼女なのだろうか。 「なつみだっけ? 遊ぼうよ、僕はかずと」 「うん、あそぼう!」 屈託なく笑う。楽しそうで、楽しそうだ。嬉しそうで、嬉しそうだ。わかりあうために、遊んで、聴いて、話し合った。 「君はアザーバイドなの?」 「アザーバイドって、なぁに?」 ぎゅっと、ぎゅうっと、抱きしめた。抱きしめてあげた。ウーニャがあれらに感じた、拒絶と共感。痛い思いはしたけれど、不思議と辛かった思い出はない。艶かしく、ものぐさ。彼女を見ていると、それもわかる気がする。あれらは異物ではない。その感情は、その思想はいつだって自分達の傍に、中にあるものだから。 お菓子を食べて。笑って。遊んで。疲れたらだらけあって。思わせぶりな仕草は抑えたほうがいいなんて、アドバイスをしてみたりして。仲良くなれたと思う。根拠はない。いらないのだ。 「汝、これからも欲望に忠実であれ」 難しいと笑う彼女が、とても魅力的に見えた。 「初めまして、なつみ。私、は星川・天乃。少し、お話しよう?」 七罪の、集まり。そうであるのなら、それがどこまでも人間らしいというのは面白いものだと思う。そもそも、エリューションなのだろうか。普通の人間では、ないのだろうけれど。貪欲。姦淫。傲慢。大罪の暴欲。縁が深いものだと。業が深いのかもしれないが。あれらが残した、何かなのだとすれば。 何時からいるのかと。問えばわからないと彼女は答えた。 何かを待っているのかと。問えば遊んでくれる人をと彼女は答えた。 「……何の遊びでも、付き合うよ」 言えば、彼女は嬉しそうに嬉しそうに輝かしい笑顔を見せた。 「よう。嬢ちゃん、お腹減ってない? ハンバーガーとタルト、どっちがお好き?」 「どっち、どっち……ううううううう」 「まあ両方あげるよ。いっぱい食べて大きくなりやがれー」 俊介が差し出したそれらを、美味しそうにがっつく少女。大食いのあれを、残していたらと頭をよぎったが。まあいい、悪いことではないはずだ。 ところで、と。夢中で食べる彼女に問いかける。聴きたいことがあるのだと。 好きな言葉は何だろう、好きなものはなんだろう。食べかすを頬につけながら、それでも彼女は答えてくれた。 「えーとね……にんげん!」 朝も、昼も。ずっとあの場所で。ずうっとあの場所で。瑠琵には、それが一般人だとは到底思い得ない。であれば、その害性が問題となるのだが。 「それじゃあ、何して遊ぶかぇ?」 手をとりあって。遊んで、お喋りして。お腹が空いたと言われたら、自分も空いているのだと意地を張り合って見せたりして。それが続けば、もう友達となっている。 「わらわ達と一緒に帰らぬかぇ?」 ここに、この場所に。待ち人がただ、遊んでくれる人だけだというのなら。それでも。 「……ううん、ここにいないといけない気がするから」 七罪。ななつの、罪。結局、自分は最後まで関わり続けることは出来なかったけれど、と。快は思う。それでもと。それでも、仲間たちが拓いた道を最後まで駆け抜けてくれたから、今があるんだろう。 災厄の残滓。最悪の落とし子。ある意味、人間的な。人間的な、罪の塊。それらを全て倒して、自らで断じて。ならばこの先、どこへ行くのだろう、などと。 目前の少女に、問いたいことはひとつだけ。膝をついて、腰をかがめて。目線を合わせ、それだけを尋ねた。 「君は、これからどこへ行くんだい?」 「ううん、私はここにいるよ?」 ひょっとしたら、それは。 杏からすれば、一連の事件には日常の仕事として携わったものだった。戦って、戦って。時にはふざけあったりして。そんな日常。毎日の任務。 それでも。それでもと。こういった形で話が出来る何かが現れたことに思いを巡らせる。この意味は、この結末は、どういうことであるのだろうと。 「ねぇ、貴女は何者なの?」 「私はなつみだよ?」 きょとんと、不思議そうに答える少女。答えになっていない気もするが、それでいいと納得する。そうであるというのなら、それが全てなのだろう。 「君は……なつみちゃんかな。俺は新城拓真、初めまして」 なつみ。その名前にはやはり、一連のそれとの関係性を思い起こさせる。とはいえ、この少女がエリューションというわけでもないのだろう。害性もないのであれば、倒す必要もない。 七罪が全て集まった存在とはなんだろうか。自問すれば、自答は明快に人間であると告げた。であれば、彼女が例えあれらがそうした形をとった存在なのだと言われても納得がいく。 願わくば、この少女と殺しあうことのないように。 「僕と少しお話しませんか?勿論、お話の後は一緒に遊びましょう?」 「あぁ、それなら俺も混ざろう。無論、遊びも付き合うぞ……?」 微笑みながら、少女と目線を合わせる麗に涙が話を合わせた。問い詰めるようなことはしない。優しく話しかける。 「ご両親は心配なさってませんか?」 「そうだな……こんな場所に一人じゃ、親御さんも心配してるだろ?」 いないのだと、彼女は言う。それは悲しげでもなんでもなく。 「こんな場所に一人では寂しいでしょう」 寂しいのだと、彼女は頷く。だからもっと遊んで欲しいのだと。 「何か此処に気になる物でもあるのか? それとも……待ち人?」 わからないのだと、彼女は言う。それでもここにいなければいけない気がするのだと。 「さて、何をして遊びましょうね?」 「えーとね―――」 嬉しそうで、嬉しそうで。本当に、彼女は心からの笑顔を見せた。 相いれぬと、切って捨てたななつの罪。あれらが自分達そのものだったなんて、今更ながらに舞姫は思う。 「ねえ、あなたは幸せですか?」 それでも、罪だけが人ではないのだ。思いやり、痛みを感じ、勇気を奮い、愛情を持って。憤怒に立ち向かえるというのなら。あの悪夢の残滓を振り払うことができたというのなら。彼女はよほど、自分よりも人間らしい。 「うん、幸せだよ!」 微笑む彼女を、こんどこそ世界と運命が祝福しますようにと。祈り、願いを。 年頃の女の子との接し方なんて、自身がない。そんなことは他人に任せてしまおう。それがいいと喜平は自分を納得させる。なに、仕事をしないわけではない。ようは彼女がなんであるのか、どういったものであるというのか。それを見極める役割にこそ付けばいいのだろう。出来ることなら、その本質までも。 ふと、それを口にする。もしも勘違いならなんて思いつつも、一応は。 「少しは……君と、君達の助けにはなったかな?」 きょとんと。そんな顔をした。やはり見当違いであったのだと思ったが、すぐに少女は満面の笑みを返してくれた。 「ありがとう!」 螢衣が出した使い魔の仔犬と共に、少女が駆けていく。その様を目に焼き付けながら。 「なつみさんは、この場所が好きですか? わたしは……冬に遊ぶには少し寒いかなと思いますけど」 「ううん、わからない。私は、ここにいなきゃいけないと思うだけだから」 その答えは曖昧だ。彼女がここに拘る理由。やはりそれはあれらの証明であるからだろうか。彼女の名前。ななつの罪。その略称であるのではと。 「なつみさんにはここ以外に戻りたい場所はありますか?」 ここしか知らないのだと、彼女は言っていた。 「石っ焼ーき芋―――♪ 美味しい、美味しい、焼き芋は如何ですか? 石っ焼ーき芋―――♪」 軽快なチャルメラとともに、七海が現れた。どこからもってきたのかなんて、そんなことは気にしちゃダメだ。 「あっおじょうちゃん。そこのお兄さん、お姉さんが奢ってくれるらしいよ? 良かったねー」 一連のそれに関わってないからといって、巫山戯ているわけでもない。冬。真冬。この寒さだ。そろそろ温かいもののひとつも欲しくなるだろうと踏んだに過ぎない。 「お茶はサービスだ。助手席にあるから適当に持っていきな?」 しかしこのミミズク、ノリノリである。 「僕はここですごく強い人達と戦ったんだ」 芋を食べる少女の横で、悠里はぽつぽつと話し始めた。 「その人達は痛くて悲しくて永い間苦しんでたんだ」 辛くて、大変な。そう思えるだけの戦いだった。思い起こせるだけの戦いだった。 「僕はその人達に伝えに来たんだ。もう苦しまなくていいんだよ、って」 可否はわからない。でも伝えたいと思う。 「もう大丈夫だから。僕達が悲しみも苦しみも繰り返させないから」 だからもう、ゆっくりおやすみなさい。 その袖を引いて、袖を引かれて。少女の方を向いた。 「大丈夫。きっとみんな、救われたから」 大きな、ななつの罪。驚異的であったそれらも、思い返せば人が抱えているものに過ぎない。少女を見ていれば、それらがそれらとして人間たらしめていることに気づく。ニニギアにして、暴食はまるで自分の罪でも見ているかのようだった。辛かったけれど、変わらない。これまでも、これからもきっとくいしんぼう。心で抑えられるくらいの大きさで。あまり大きくならないでほしい。そうすれば、罪と言われたってきっと仲良くやっていけるから。 「ね、なつみちゃん。おねーさんと、美味しいもの食べましょうか。食べ過ぎないように、ねっ」 憤怒。強欲。力が欲しい。何故に力が無いのか。無い故に何も救えぬというのか。自分へのひたすらに。葛藤。渇望。無念。そして怒り。あの大罪は自分に鏡写しのようだったとランディは感想する。だからこそ、あれらを兄弟と呼んだのかもと。ここからは離れることができないという少女。だから約束しようと思う。ここで生まれたこの妹に、また何度でも会いに来ると。 「なつみか、良い名前だ」 指切りをかわして。笑い合って。約束の印に写真を撮った。デジタルデータに写る満面の笑みが、戦って勝ち得たものなのだろう。 少女と遊びながら、クリスは彼女をさりげなく観察していた。エリューション、とは思えない。アーティファクトを所持している様子もない。 「君はいつもここで遊んでいるのかい?」 「うん、いつもここで遊んでるの」 熱心に記号を書きながら、それでも彼女は答えてくれる。 「ここに何かあるのかな?」 「わかんない。でも、何かある気がするの」 少女が丸を書いて。それでお終い、彼女の勝ち。 「はは、お姉ちゃんの負けだ。君は○×ゲームが強いな」 問題ないのだと、笑みに浮かべた。なに、普通の少女さ。 全てを包括する少女。人が抱えうるななつの罪。それらを内に秘め、この少女は何を思うというのか。 遊んでと、彼女は言う。その言葉に何が隠されているのだろう。セッツァーにはわからない。この先にわかることも出来はしない。 ならばできることはひとつ。この声で彼女を喜ばせる手伝いをしたい。少しでもこの少女に安らぎが訪れるように。楽しいという気持ちを、少しでも長く感じてもらえるように。ならば歌おう、声も高らかに。響かせよう。奏でるは九曲目。合唱は第四番。さあ、歓びを。 「はじめまして♪ 美胡と一緒に遊びましょう♪」 お気に入りであるクマのぬいぐるみを少女に差し出して、自分はねこのぬいぐるみを持って。 「女の子ですから、ヌイグルミは好きかしら♪」 「うん、大好き!」 「気に入ったならソレ、あげます♪」 笑顔で話し合ったあとは、身体を動かそう。 「追いかけっこなら負けないですよ♪ 美胡、足は速いですから♪」 胸を張り過ぎて後に倒れると、少女はけらけらと笑い声をだした。 「うー……痛いですぅ……って笑わないで下さいっ」 その声は、本当に楽しそうで。 七罪。ななつの大罪。それらになぞらえられたエリューションたち。エリスには、この少女があれらパンドラの箱に残った最後のもの。もしくは、全ての澱みが取り除かれ、透き通った上澄みのようなものに思えてならない。 少女はなにも知りはしないのだろうか。だが、それでいいのだと思う。彼女の望みが一緒に遊ぶことだと言うのなら、そうしよう。手を取り合い、彼女が満足できれば自分にも喜ばしい。 残された全ての想いが昇華されますようにと。願う。望む。嗚呼、悲劇の終焉と。新しい幕開けを。 「ごきげんよう」 「こんにちは!」 氷璃の挨拶に、少女が元気よく返してみせた。隠した翼を目前で振るも、彼女が気づく様子はない。調べようにも、何もわからない。 「これ以上はダメよ? 貴女の為にならないわ」 度の過ぎた要求は制した。わがままばかりでは許されない。罪に果てぬようにと。 「うー……わかった、我慢する」 「良く出来ました。偉いわ」 褒められたことに笑顔を見せる。それを、根拠無く人間なのだと感じた。 憤怒≠奈落。 その圧倒に、一番臆病だったのはきっと自分なのだろう。這い上がれぬほどに遠い、奈落の天井。だからこそ、ヴィンセントは誰一人欠けることなく戻ってこようと思ったのだ。 全てが終われば、そこはただの穴底に過ぎなかった。拍子抜けするほどあっけなくて。頭上には青が広がり。あれはここで何を見たのだろう。こんな暗い暗いそこで。天の高みを思うことはあったろうか。 「空は好きですか」 他愛のない質問。それでも、その笑みはまるで太陽のようで。 皆が思い思いに遊ぶ中を、リサリサは少女と手をつないで回っていた。小さな手。か細くて、強く握れば砕けてしまいそうな程に。でも、暖かい。暖かい。 ひとしきり遊んで。ひとしきり笑って。ひとしきり動いて。疲れたら少し休憩。座ってお話。お願いごと。君のことを、知りたいのだと。 「今まで誰とどんな遊びをしてきたか。お姉ちゃんたちにお話してくれるかな」 「うん!」 それは本当に、楽しい思い出ばかり。 「僕はモル! 君みたいに可愛い子と会えて嬉しいよ!」 モル人形を出して見せながら、木蓮が少女に話しかけた。とびあがって喜ぶ彼女に、自己紹介を済ませていく。人形は自分で作ったのだと言うと、少女はとても驚いたものだ。 「なつみ、って七つ罪、七罪かな?」 隣に立つ相方へと同意を求めた。 妬心、怠惰、そして奈落≒煉獄。龍治も、まさかここまでこの一連のそれに関わることになるなどとは思ってもみなかった。 この少女に接触したものの、自分では警戒されてしまいそうだ。その役目は木蓮に任せ、自分はその様を観察することにする。 「この人形は元は端切れと綿だったんだぜ。つまり出身地は手芸店ってことになるな」 「シュゲーテン?」 何時、何処からやって来て、何故そこに留まっているのか。 わからない。少女はわからないと答えるだろう。 「ここって思い出深い場所なのか? 俺様にもそういう場所があるんだ。いつか案内させてくれよ」 そして何処へ行くのだろう。疑問は尽きない。それでも、笑顔で頷く彼女に不安は浮かんでいなかった。 この場所。この場所。戦って、戦って、戦った。この場所。明確な呼称はなく、故に名前を持たず、代名として語られるも印象の深い。この場所。 最早残滓などこの場所にはないのやもしれないが、何かしら残っていては異常の発端となるやもしれぬ。宗一は跡地とも呼ぶべきこの場所を丹念に調査していた。結局のところ、それで何かが見つかったわけではない。何もなかった。何もなく、何もなかった。 まるで真っ白で、とてもとても洗われたように。 アークに興味を持ってもらえればと、エーデルワイスは自身の失敗談をギター片手に紡いでいく。窃盗未遂で吊るされ、盗撮未遂で捕まり。悪行とその報いの数々。こんな大人になってはいけないと、反面教師な意味も込めて。それでも楽しかった思い出を。 それを聴く少女は目を輝かせ、時に熱心な顔で耳を傾けている。それでも、一緒には行けぬのだと首を振った。ここに居なければならないのだと。理由を尋ねても曖昧だ。それでもだからこそ、彼女をここから他所にやることも出来なかった。 杏子もまおも、一連の事件については書類上のものでしか知ってはいない。だが、少女が少しでも笑顔になる手伝いが出来ればと、その場に脚を運んでいた。 「こんにちは、お姉さん達と一緒にお手玉をしませんか?」 色とりどりのお手玉を抱えて、少女の傍ら。お手本を見せながら教えていく。むずかしい、むずかしいと。唸りながら、それでもめげずに少女は布玉を宙に放る。 みっつ、よっつ、いつつ。どんどん数を増やして。それでも危なげなく披露する杏子に、まおも少女も手を鳴らして喜んだ。 「ふふっ、お手玉とかアヤトリは得意なんですぅ」 使ったそれらを、少女に差し出した。受け取った彼女がくるくると廻り、笑顔を振りまいている。好きな色を聴いたら、どれも好きだと笑っていた。 ひとつだけ。 「此処に一人で、寂しくはないの……?」 寂しい。寂しい。寂しいに決まっている。ひとりで、なにもない場所で。でも、こうして誰かが来てくれるならそれも紛らわせるものなのだ。 「ただの赤い毛糸と思うことなかれ、これでもなかなか奥が深いモノですよ」 凛子の両手で次々と形を変えるあやとりに、少女は目を白黒させて驚いたものだ。喜ぶ彼女に目を合わせ、聴きたいことを聴いてみた。 それは一連の大罪について。暴食、姦淫、怠惰、奈落、妬心、暴欲、傲慢、憤怒、あるいは煉獄にして奈落。それらをどう思うのか、どう思っていたのか。 「ぼう……うー?」 わからない。そんな顔だ。意味と言うより、言葉そのものが。 「もう他に兄弟はいないのですか?」 「うん、私はひとりだよ?」 他に何がいるのだろうという風に。 ●afterdaysこれにてお終い 冬の夜は早い。夕陽が差し込む頃には、誰彼も腰を上げて帰らねばならなかった。少女はどうするのだろう。振り返っても、どこへ行く様子もない。寂しげではあっても、この場所を離れるつもりはないのだろう。 ここ。この場所。罪の居た場所。罪を乗り越えた場所。辛くもあり、怖くもあり。だけれど、それは終わったことだ。過ぎ去った話だ。その先へ踏み出して、誰も彼も救われたのだろう。彼女の笑顔に、なぜだかそんな確信を持っていた。 もう一度振り返る。少女はまだ手を振っている。地平線に太陽が隠れていく。嗚呼、夜が始まるのだ。街灯もなく、彼女は見えなくなっていた。それでも、消えてはいないのだろう。これからも。いつだって。いつまでも。 ここはこの場所で、少女は笑ってここにいる。 終。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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