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人形喰らい

●歪んだ欲望の果て
 がらんとした廃ビルの一室。扉も窓も閉め切られた室内は、広さの割に不気味な圧迫感がある。声も音も内側に閉じ込めてしまいそうな、分厚いコンクリートの壁のせいかもしれない。
 そのコンクリートの壁を背にして、金属製の椅子が一脚。
 いかにも頑丈そうなそれに、まだ幼い少女が縛られている。左右の肘掛けに腕を一本ずつ、椅子の脚に足を一本ずつ、背もたれに胴体を縛り付けられ、完全に身動きを封じられていた。
 さらに、口には猿轡をかまされている。少女に出来る意思表示は、怯えきった瞳を向けることと、がたがたと小刻みに身体を震わせること。たった、それだけだ。
 少女の視線の先には、一人の男。年の頃は、少女の父親とそう変わりはないだろうか。しかし、その面に貼り付けた表情は、優しい父親のものとはかけ離れすぎていた。
「くく……怖いかい?」
 歪んだ笑みを浮かべて、男が少女の艶やかな頬を指で撫でる。先ほどまで淡い薔薇色であった頬は、恐怖のためかすっかり青ざめていた。大きな瞳がこぼれ落ちてしまいそうなほどに目を見開いている少女を見て、男の欲望はさらに刺激された。
「時間はたっぷりあるからね。おじさんといっぱい遊ぼう」
 少女の柔らかな髪を一房手に取り、ねぶるようにその香りを確かめる。
「なあに、心配いらない。楽しく遊んだ後は、ちゃんと送ってあげるよ――天国までね」
 さらに表情を引き攣らせた少女を見て、男はさも愉快そうに笑った。

 さあ――遊ぼうよ。僕の可愛い可愛いお人形さん。

●救いの手は届くか
「至急の任務です。皆様にはブリーフィング後、すぐに現場へ向かって頂く事になります」
 アーク本部のブリーフィングルームで、『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は挨拶もそこそこに説明を始めた。
「任務はフィクサード1名の捕縛あるいは殺害。そして、現場に捕らわれている少女1名の救出です」
 和泉が端末を操作すると、正面のスクリーンにフィクサードの情報が表示される。
「フィクサードは『ドールマニア』というコードネームで呼ばれています。自らの欲望のため、幼い少女を誘拐し、殺害する犯罪者です」
 要は幼女趣味の殺人鬼ということか。となると、捕らえられている少女もまた、殺されるために連れて来られたのだろう。
「『ドールマニア』は誘拐した対象をすぐには殺さず、時間をかけて心身を苛んだ後に殺害するという手法を取っています。今すぐに現場に向かえば、少女の救出は可能かもしれません」
 逆に、時間をかければ、それだけ少女の命は危険に晒されるということだ。救出が遅れてしまえば、命は助かっても、心身に大きな傷を負うことにもなりかねない。
「現場は3階建ての廃ビル。『ドールマニア』と少女は、3階の一室にいます。――『ドールマニア』は“拷問室”と呼んでいるようですが」
 スクリーンに、廃ビルの場所と見取り図が大きく映し出される。“拷問室”の扉や窓には鍵がかかっているようだが、室内はそれなりの広さがある。突入に成功さえすれば、戦うのに不自由はしないだろう。もっとも、少女をいかにして救うかはまた別問題だが。
「『ドールマニア』は高い戦闘力を持っています。ここで彼を逃せば、後日さらなる犠牲を招くでしょう。確実に捕縛するか、殺害してください」
 最後に『ドールマニア』に関するデータを表示させた後、彼女は手元のファイルを閉じ、リベリスタ達を真っ直ぐに見た。
「もう一刻の猶予もありません――皆様には、至急の対処を要請します」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:宮橋輝  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年12月29日(木)23:01
 宮橋輝(みやはし・ひかる)と申します。

●成功条件
 フィクサード『ドールマニア』の撃破と、子供の生存。
 (『ドールマニア』の生死は問いません)

●敵
 フィクサード・通称『ドールマニア』。
 本名不明、外見年齢40歳前後の貧相な男。
 幼女趣味のサディストで、好みの少女を攫ってなぶり殺すことを喜びとしています。
 弱者に対してはとことん残忍ですが、自分が傷つくことは大嫌いです。
 不利と見るや、すぐに逃げ出してしまうでしょう(逃亡を許した場合は失敗です)。
 また、追い詰められると、なりふり構わず卑怯な手段に出ます。

 現状で判明しているデータは以下の通りです。
 救いようのない男ではありますが、戦闘力だけは高いのでご注意を。 

 《ヴァンパイア×ナイトクリーク》
 【武器】スローイングダガー
 【称号】ブラッディロア
 【使用スキル】ギャロッププレイ・バッドムーンフォークロア・テラーオブシャドウ
         ソードエアリアル・吸血
 【戦闘スキル】悪運・麻痺無効
 【非戦スキル】リーディング・生存執着・落下制御

●少女
 『ドールマニア』に攫われた少女。年齢は10歳前後。
 シナリオ開始時点ではまだ無事ですが、救出に時間をかけすぎた場合はその限りではありません。
 理由を問わず、彼女が殺害された場合は失敗となります。

●戦場
 3階建ての廃ビル。
 『ドールマニア』と攫われた少女は3階の“拷問部屋”にいます。
 “拷問部屋”の扉と窓には鍵がかかっていますが、中に入ってしまえば広さ・障害物ともに戦闘の支障になる要素はありません。
 少女は窓のない壁際の椅子に縛られており、『ドールマニア』は少女のすぐ近くに立っています。
 廃ビルにいる一般人は攫われた少女のみです。
 任務遂行中に誰かが通りがかるといったこともありません。

 情報は以上です。
 皆様のご参加をお待ちしております。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ソードミラージュ
仁科 孝平(BNE000933)
デュランダル
四門 零二(BNE001044)
覇界闘士
片倉 彩(BNE001528)
デュランダル
真雁 光(BNE002532)
ソードミラージュ
リンシード・フラックス(BNE002684)
ナイトクリーク
宮部・香夏子(BNE003035)
クロスイージス
高藤 奈々子(BNE003304)
ソードミラージュ
黒乃・エンルーレ・紗理(BNE003329)

●死の人形遊び
 目指す廃ビルは、もう目と鼻の先にあった。あのビルには今、幼女趣味のフィクサード『ドールマニア』に囚われた少女がいる。力無き少女の身の安全を考えれば一刻の猶予もない――そう考えたリベリスタ達は可能な限り迅速に行動し、最短の時間でこの廃ビルへ辿り着いた。あとは、ここからどう動くかが、少女の生死を分けることになる。
「『ドールマニア』という名前は正しく言い得て妙ですね」
 廃ビルの様子を注意深く窺いながら、『宵闇に紛れる狩人』仁科 孝平(BNE000933)が口を開く。幼い少女を捕らえて人形の如く玩ぶ男を表すには相応しい名だろう。
「なんと下衆な……救いの欠片もありませんね」
 嫌悪も顕わに、『ChaoticDarkness』黒乃・エンルーレ・紗理(BNE003329)が吐き捨てる。少女を攫い、残忍な拷問の末に殺める『ドールマニア』を赦すことなど、決してありえない。『白虎ガール』片倉 彩(BNE001528)も、可愛らしい白い眉を顰めた。
「まさに絵に描いたような外道ですね。リベリスタとしてこんな奴放っておけません」
 天が裁かぬなら、自分たちの手で成敗するまで。小さな拳をきゅと握り締める彩の隣で、『第9話:香夏子復活』宮部・香夏子(BNE003035)がおもむろに口を開いた。
「拷問とか香夏子よく分りませんが……めんどそうなことは分りました」
 どこか気の抜けた物言いではあるが、任務に向けての覚悟は他の仲間にも劣らない。そんな香夏子の携帯電話に、『剣華人形』リンシード・フラックス(BNE002684)が電話をかけ、通話状態のまま自らのポケットに入れた。
 ここから先は、一般人に偽装したリンシードが単身で先行することになる。危険な囮役を一人に任せてしまうことになるが、少女の安全を考えれば強行突入はあまりにリスクが高い。まずは『ドールマニア』と少女を引き離すのが先決と、皆が判断した。
 廃ビルに入るリンシードを見送り、残りの七人も行動を開始する。
 ここは『ドールマニア』の遊び場であり、敵の領域。警戒を怠らずに、リベリスタ達は廃ビルへと踏み込んだ。

●欲望に曇る眼
 男は今、歪んだ興奮をおぼえていた。目の前には、自らの手で椅子に縛りつけた可憐な少女の姿がある。この素敵な“人形”で、何をして遊ぼうか。どのように嬲り、どうやって壊そうか――怯えた表情の“人形”を眺めながら考えをめぐらせるだけで、胸の高鳴りが止まらない。くつくつと、喉の奥から笑いが漏れる。
 まずは、その柔肌に傷を刻んであげようか。そう思い、男は隠し持っていたダガーを取り出し、鈍く光る刀身を少女にちらつかせる。投擲用の短剣ではあるが、少女を切り裂くぐらいは造作も無い。
 ダガーの刃を少女の頬にひたりと当てた時、扉のノブがカチャカチャと音を立てた。
「あれー……開かないなぁ……」
 この廃ビルには滅多に人は近寄らない。僅かな警戒心が頭をもたげたが、男の意識はそれよりも声の主へと向けられていた。ダガーを仕舞い、扉へと歩み寄る。
「どうしたんだい、お嬢ちゃん」
「かくれんぼしてて、誰かここにいないかなーと思ったの」
 幼さを残した少女の声は、男の好みを刺激した。扉越しに感じる気配は少女ひとり、彼女が仮に危険な存在だとしても、自分ならば切り抜けられるだろう。
 そう判断した男は、“人形”を増やすことを選んだ。
「こんなところで遊ぶだなんていけない子だね。でも、いいよ……お入り」
 扉を開け、少女を中に招き入れる。長い髪の、美しい少女だ。再び鍵をかけながら男は少女の心を覗いたが、怪しい点は見当たらない。エリューションでもないようだ。
「おじさん、ここで何してるの?」
「遊んでるのさ。――お嬢ちゃんもおじさんと一緒に遊ぼう」
 懐からダガーを取り出し、椅子に縛られた少女を指す。途端、長い髪の少女が「こんなことしたらダメだよ、可哀相だよ」と、悲しげな声を上げた。
「私が代わりになるから、この子、逃がしてあげて……」
 この状況で、まず見ず知らずの子供を気遣うか。こういった気丈な娘を屈服させるのも、男の楽しみの一つだった。きっと、良い“人形”になることだろう。
「お嬢ちゃんは良い子だね。でもダメだよ、この子も、お嬢ちゃんも、もうお家には帰さないからね――」
 男の言葉を聞き、長い髪の少女が、少女に歩み寄りながら自らのポケットを小刻みに叩く。
 しかし、喜びに打ち震える男は、その仕草の意味に気付くことはなかった。  

●命を繋ぐ手
 ――コツ、コツ、コツ。
 香夏子の携帯電話から聞こえてきた音に、部屋の外で待機していた全員が身構える。それは、リンシードからの突入の合図だった。
 音声だけの情報ではあるが、大体の状況は把握している。少女は今も拘束中、扉には鍵。リボルバーを構えた『似非侠客』高藤 奈々子(BNE003304)が、皆に扉への攻撃を促す。直後、『闇狩人』四門 零二(BNE001044)の剣が一閃し、扉ごと鍵を斬り破った。
「な……ッ!?」
 リンシードを捉えようとにじりよっていた『ドールマニア』が、不意を打たれて立ち止まる。そこに、まず孝平と香夏子の二人が飛び込んだ。できれば突入前に強化を済ませておきたかったが、いつ合図が来るかわからない状況では無駄になる可能性が高い。やむなく、二人は『ドールマニア』と、椅子に繋がれた少女の間に体を割り込ませつつ、身体能力のギアを上げる。
 続いて突入した彩がまず確認したのは、部屋にある窓の数とその位置だった。窓は一つ――包囲が完成していない今、そちらに逃げられるのは避けなくてはいけない。彩は窓側に回りこみながら、『ドールマニア』に向けて鋭い蹴撃から生み出した真空刃を放つ。彼女に数歩遅れて、黒乃と『勇者を目指す少女』真雁 光(BNE002532)が窓に向けて走り、その前を完全に封鎖した。
「悪事はそこまでだ!! おとなしく御縄につくですよ!!」
 立ち止まる直前に跳び、一足踏み込んで全身の反応速度を高める黒乃の隣で、光が『ドールマニア』に指を突きつける。
「少女を人形扱いして、己の欲を満たすためにいたぶり命を奪うなんて……この勇者であるボクが絶対に許さないのです!!」

 一方、リンシードは『ドールマニア』の意識が仲間に向いた隙に乗じて少女の拘束を解いていた。
「正義の味方が助けに、来ました……」
 状況の把握が追いつかず、口をぱくぱくさせている少女の耳元に、そう囁く。光の勇者然とした口上もあって、これは幾許か少女を落ち着かせる役に立ったようだった。手を引かれるまま、少女は扉の方へと走る。
「この……ッ、せっかくの人形だぞッ! 逃がすかよォ!!」
 彩の真空刃が掠った片腕を抑えつつ『ドールマニア』が叫ぶ。男の強大なエネルギーがコンクリートの部屋に極小の赤い月を生み出し、この場にいる者全てに破壊の呪いを撒き散らした。ひ、と小さく声を漏らす少女を、リンシードがその身で庇う。
 扉の前にいた零二が二人のカヴァーに回りつつ、不愉快げに眉を寄せた。
「……すがすがしい程の外道だ。躊躇い無く殺せるという点では、気が楽だがね」
 『ドールマニア』は無抵抗の少女を背中から撃とうとした。逃がして楽しみを奪われるくらいなら殺してしまえ、という考えの持ち主なのだろう。いよいよもって許し難い。
 全身に破壊の闘気を漲らせる零二の傍らで、奈々子が少女とリンシードを背に庇い啖呵を切った。
「菊水一党に恩受けし異能者、高藤……外道にかける情けは無し」
 赤月に傷つけられた蒼狼の面が、赤茶の瞳に強い意志を湛えて『ドールマニア』を見据える。
「――義によって貴様を討つ!」
 少女を仕留め損ねた『ドールマニア』は、その声に大きく舌打ちを返した。

●遊戯の終焉
 未練がましく少女の背を睨める『ドールマニア』の粘ついた視線。それを断ち切るように、孝平が自らの身を割り込ませていく。身動きの出来ない相手を意のままに玩ぶという、残虐きわまりない悪趣味。そのようなものを、決して許すわけにはいかない。
 集中の後、研ぎ澄まされた精神から放たれる淀みなき斬撃が、『ドールマニア』の脚を狙う。麻痺への耐性を持つ『ドールマニア』の動きを完全に止めることは叶わずとも、その逃げ足だけは封じておきたい。
「面倒なのでさっさと倒して終わらせてしまいましょう」
 投げやりに言い放った香夏子が、孝平の反対側から『ドールマニア』の死角を突いて黒いオーラを放つ。すんでのところで回避した『ドールマニア』だったが、その表情は大きく引きつっていた。
「お前ら、何してくれちゃってるんだよ……痛いじゃないかよ……!」
 『ドールマニア』の足元から、それ自体が意志を持つ影が大きく伸びる。直後、『ドールマニア』は香夏子に向けてオーラの糸を放ち、彼女を絡め取った。前衛による囲い込みが綻んだのを見て、彩がすかさずフォローに動く。既に、少女はリンシードの手で部屋の外に出ている。あとは、この男を逃さず倒せば、それでカタがつく。
 彩の蹴りで、旋風が再び巻き起こる。先と同じ場所を切られて情けない声を上げる『ドールマニア』に向けて、今度は黒乃が走った。
「光さん、窓の封鎖お願いします!」
 黒乃の手の中で、混沌の力を帯びたレイピアが風を切って唸る。襲い来る軌跡は四本、うち三本は高速のフェイントだが――それを瞬時に見破るのは至難の業だ。運良く直撃は避けたものの、『ドールマニア』の頬を掠めた刃が血色の悪い皮膚を切り裂いた。
 一方、窓の前に残った光は朗々たる詠唱をもって清らかなる存在へと呼びかけた。勇者を名乗る以上、仲間を癒す手段はしっかり持ち合わせている。勇者志望の少女の願いは清らかなる存在に聞き届けられ、穏やかな微風が香夏子の傷を塞いだ。
 リベリスタ達は数で『ドールマニア』を圧倒しているようにも見えるが、実際のところ有効打はそこまで多くはない。痛みに過敏なのか、攻撃を受けるたびに情けない悲鳴を上げてはいるものの、まだ致命傷にはほど遠い。攻撃の威力も高く、油断はできないだろう。
(――実力が確かで、そのうえ性格・嗜好含め凶悪だ。いまここで倒さねば)
 冷静に状況を判断した零二は、剣を構えて一度に『ドールマニア』との間合いを詰めた。全身を覆う闘気と気迫が、強烈な一撃と化して卑劣なフィクサードへと打ち込まれる。『ドールマニア』の足元から伸びた影が、その衝撃で霧散した。
「貴様の非道な手の内は、お天道様が見逃そうとも万華鏡は見逃さない!」  
 凛とした声とともに、奈々子が神々しい光を放つ。その輝きは部屋の隅々まで届き、香夏子を始めとする仲間達の縛めや穢れを払った。
「ちぃっ……まずはお前からだ、死ねッ!」
 囲みを破るには、まず麻痺を無効化できる回復役を倒すべきと判断した『ドールマニア』が、奈々子に狙いを定め跳躍する。何本ものスローイングダガーが多角的な軌跡を描き、彼女を次々に貫いた。
「――奈々子さん!」
 思わず叫び声を上げた彩の視線の先で、奈々子のすらりとした身体がゆっくりと崩れ落ち――そして、地に膝を突く寸前で止まる。まだ倒れられない、終われない。 
「自分の実力が足りないことは承知の上……でも、私にも意地がある、わ」
 運命を引き寄せ、遠のきかけた意識を繋ぎ止める。侠客としての拘りたる愛用のリボルバーを手に、彼女は『ドールマニア』に狙いを定めた。
「何をしようと関係ないのです。ボクは全力で止めて全力で倒す!!」
 光の明朗な声が響き、再び呼び起こされた微風が奈々子を癒す。彼女が信じるのは正義の心と、勇者の魂。いかなる時も、全力全開の正攻法でねじ伏せるのみ。
 敵の数を減らす絶好のチャンスを奪われた『ドールマニア』が、憎々しげに罵りの声を発する。瞬間、僅かに開いた扉から小柄な人影が飛び出し、水色の尾を引く軌跡をもって『ドールマニア』へと斬りかかった。
「いつも遊んでいる、人形に……裏切られた気分はどうですか?」
 無表情で問うのは、少女の保護を終えて戻ってきたリンシード。一人は怖いとすがる少女を宥めるのに時間がかかり、復帰が遅れてしまったが……ここで彼女が現れたということは、いよいよ戦力の差が決定的になったということでもある。先程まで“人形”として彼女を狙っていた『ドールマニア』が、大きく音を立てて歯噛みした。 
「――余所見の暇は与えません」
 神速で繰り出された孝平の剣が、『ドールマニア』の太腿から膝近くまでを大きく斬り裂く。激痛にのたうち、男は見苦しくも泣き喚いた。
「痛い、痛い、いやだ……痛いのはいやだ、死にたくないッ!!」
 残りの力を振り絞り、『ドールマニア』が呪われた赤い月をもう一度生み出す。弾けたエネルギーはリベリスタ達に確かな痛手を与えたが、悪足掻きもそこまでだった。
「香夏子……まだまだいけますよ……?」
 全身に傷を負いながらも、香夏子の動きは止まらない。お返しとばかりに伸びた黒いオーラが、『ドールマニア』の頭部を打ち据える。同じく、赤月の呪いを耐え切った黒乃が後に続いた。
「これしきの痛み、亡くなった方にくらべれば……!」 
 レイピアが描く軌跡は、先と同じ四本。しかし、今度はその全てがフェイントではなく本物の斬撃だ。罪深き男の体に、鋭い“痛み”が次々と刻まれていく。すかさず走りこんだ彩が、凍てつく冷気を纏う拳を『ドールマニア』に打ち込んだ。
「絶対に逃がしてなんかやりません」
 少女の声とともに、男の全身がみるみる氷に覆われていく。輝けるオーラを纏った零二の剣が、全てを断ち斬る勢いをもって『ドールマニア』を薙ぎ払った。
「――キサマの運命を打ち砕くこと、それがオレの運命だ」
 悪運も、生への執着もここまで。
 ついに命運尽きた『ドールマニア』の体は、血飛沫を上げてコンクリートの床へと沈んだ。

●悪夢より醒めて
 部屋の外で座り込んでいた少女は、リベリスタ達の姿を見て弾かれたように立ち上がった。まだ不安を色濃く残したその顔に、リンシードがもう心配要らないとばかりに頷いてみせる。
「怖い目に遭ってかわいそうなのです」
 光が少女に駆け寄り、僅かに震えるその手を取った。視線を合わせて、にっこりと微笑む。
「安心できるまで手を握っててあげるです」
 優しい言葉と、掌から伝わるぬくもりに気が緩んだのか、少女は大きくしゃくり上げた。
 部屋の中に倒れたままの『ドールマニア』が少女の視界に入らないよう気を配りながら、奈々子は泣き続ける少女を見る。神秘に巻き込まれてなお、元の生活に戻れるのは幸運なこと――自らの過去と少女を重ねて、彼女はその幸運を守れたことを誇りに思った。
 “拷問部屋”に『ドールマニア』が残した危険なアーティファクトなどが無いことを確認し、零二が扉を閉める。 
「もう大丈夫だ。さぁ、家に帰ろう」
 送っていくのですよ、という光の声に、少女が小さく頷いた。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 まずはお疲れ様でした。
 倒しても後腐れのない敵を出そうと思って考えた『ドールマニア』でしたが、自分でも書いてて嫌になるレベルの下衆野郎になってしまったので、さっくり倒していただけて安心しました。
 これでも実力としぶとさだけは本物だったのですが、性格的に小物臭が漂いすぎて、いまいち伝わらない気がするのが心残りではありますが……。
 ともあれ、皆様の活躍で少女は無事に救い出されました。
 当シナリオにご参加いただきまして、ありがとうございました。