●至禍々しき者 人里はなれた山奥。世界と世界を繋ぐゲートを潜り、それは降臨した。 ねじくれた角は天を衝き、背には六対十二枚の蝙蝠羽。鋭く尖った乱杭歯は鮫のアギトを思わせる。 フシュルル、と白い吐息を吐き出し、一歩、二歩と歩み行く。 向かうはより多くの人間の座する場所。祝祭を。血の祝祭を。聖なる鮮血の祝祭を此処に。 その身は赤く、白い飾り毛で首の周りを彩り、巨大な荷物を背負う山羊の角を生やした巨漢。 髭なのだろうか、口腔の周囲を覆う白い細毛が笑みを形作り撓んだ。 「メェエリィィィィ……」 声に呼ばれる様にゲートを潜り現れ出でる首無しトナカイの馬車。 其に飛び乗ると其は疾駆を開始する。子供達の集まる街角へ、血祭に生贄を捧げる為に。 「クリスマァァァァァ―――――ス!!」 カッ――と、閃光が瞬いた。 口腔より放たれた熱線が周囲の山路を平地へと変える。大地の上を悠々と、馬車は走る。ひた奔る。 やって来る。やって来る。人肉を狩りにやって来る。子供の柔肉を喰らいにやって来る。 お父さんお父さん魔王が来るよ。 アザーバイド『SANTA』降臨。 ●でもそれサンタじゃねえから 「……これはサンタじゃない」 開口一番、『リンクカレイド』真白 イヴ(nBNE000001)が断言した。 いや、そんな事は見れば分かりますが、と言う突っ込みにすら噛み付きそうなほどに、 普段感情を露にしない彼女の声に怒気が籠る。許せない、とその眼が言っている。 「……サンタじゃないから、退治して良い」 大事な事だから2回言ったのか、何がそこまで彼女の逆鱗に触れたのか。 平坦な韻を響かせながらも、其処には抜き刃の様な鋭さが宿る。 「敵は3体。アザーバイド、識別名『SANTA』命名、伸暁。 アザーバイド、識別名『H・L・R』及び『C・O・S』命名、和泉。どれも一筋縄ではいかない強敵」 何でこんな所でアークの古株フォーチュナが大集合しているのか其処のところを詳しく。 「討伐に失敗すると、一つの街が半壊する。犠牲者が一杯出る」 けれど続いた言葉は流石に洒落にならない事態を告げていた。突っ込みの余地も無い。 此処まで引っ張っておいて、まさかの本気仕様である。 「アザーバイド『SANTA』は去年だったら話にならなかった位の力を持ってる。 皆が力を合わせて漸く五分。これは冗談じゃない」 真っ直ぐ見つめる少女の瞳に宿るのは貴いまでの使命感である。 何所か抜けていた雰囲気に、引き絞る様な緊迫感が宿る。気を抜いていられる相手では、無いのだ。 「幸い、今は未だ犠牲者は出てない。でも時間的余裕は無いよ、出来れば直ぐ出て」 焦った様な声音で万華鏡の申し子が告げる。切実な響きを滲ませて。 「本物が、これを見て怒らない内に」 あわてんぼうなのも時々居るから。とイヴは頷いた。リベリスタ達は、頷かなかった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:弓月 蒼 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年01月06日(金)22:20 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●恐らくSANTAでは無い者 現地に到着したリベリスタ達の視界に映ったのは、砂埃を上げて疾駆する戦車(チャリオット)である。 御者を務めるは天を衝く二本の山羊角を生やした筋骨隆々の巨漢。遠目にも煌々と輝く赤眼が見て取れる。 戦車の前方を駆けるはトナカイ……なのだろうか。首から上が無い如何にも畏しげな巨大な四足動物。 その体躯は何者かも知れぬ赤黒い血に塗れ、その後ろからがらごろと禍々しい黒い戦車が追従する。 子供が見たら一発でPTSD確定の、出来損ないのホラームービーの様な異物感。 巨漢の背ではためく蝙蝠の翼に載せられた白い荷物袋がいっそ滑稽ですらある。迫って来る。SANTAが迫って来る。 って言うか―― 「完全に魔王だ!」 『高校生イケメン覇界闘士』御厨・夏栖斗(BNE000004)の叫びに集まったリベリスタ達の何人かが大きく首肯する。 「聖者(サンタ)というよりは魔王(セイタン)ですね」 「絶対悪ノリして名前付けてるとしか思えないよ……」 誰が、と言わずとも。嘆息する様に呟いたのは『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024) と山川 夏海(BNE002852)。『20000GPの男(借金)』女木島 アキツヅ(BNE003054)が感慨深げに瞳を細める。 「今年のサンタ狩りは、25日。日曜日だから幹部が来るって噂あったんだがな……」 そんな与太話を信じていた訳では無いが、蓋を開けてみればやって来たSANTAたるやこれである。 幹部級などとは生易しい。サンタクロース風の衣装が無かったとしたならどこのラスボスだよと言いたくなる佇まいである。 「まぁ遠路遥々お越し頂いたしね……プレゼントでも贈って帰って貰おうか」 『終極粉砕機構』富永・喜平(BNE000939)が愛銃を手に身構える。間合いを読み違えれば戦車は彼らを無視して 街まで一直線だろう。それを看過する訳には行かない。クリスマスは子供達に夢を与える物である。 であるならそれを悪夢で塗りつぶす様な存在を、リベリスタが見逃せる筈も無い。 「サンタは子供に夢を与えるものだ。こんな教育上悪いものを見せる訳にはいかないな?」 『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)が顕現させたのは長大な槍。 そんな超重量の獲物を手にしてどの辺りが普通なのか、等とは突っ込んでは行けない。普通とは皆の心の中にあるのである。 「伸暁くんの残念なネーミングセンスはともかく! さあ、サンタ狩りと行くよっ!」 『つぶつぶ』津布理 瞑(BNE003104)が上げた声は高らかに。間近に迫ったSANTAwith戦車が喜平の射程圏へと踏み込む。 「本当のサンタを待ってる子たちがいるんだ」 「暴徒を阻み人を守るは騎士の務め」 夏栖斗とアラストールが首無しトナカイ――H・L・Rの前へと立ち塞がり、その合間を喜平が駆け抜ける。 「聖夜の余韻をトラウマで塗り潰すそうとは……許せん!」 至近よりトリガーを引かれたショットガンが火を噴き、H・L・Rが音も無く嘶く。 しかし、銃弾で撃ち抜かれたSANTAはと言えば反応が余りにも乏しい。 動きこそ止まった物の近付く夏栖斗とアラストールの表情に怪訝の色が浮かぶ。陰になって見えぬ表情。 否、例え見えずとも分かる。巨漢は嗤っていた。嘲っていた。乱杭歯ば三日月を描く。 「メェェェリィィィ」 地獄の底から響く様なその声が、爛々と輝く赤い瞳が如実に語る。危ない、避けろと。 「私は! 守る! 人なのデス!!」 『超守る空飛ぶ不沈艦』姫宮・心(BNE002595)が跳び出すのと、鋸の様なギザギザの歯の隙間より 光が漏れるのはほぼ同時。“山道で待ち構えていた”以上は幾ら散開しようと、 最至近距離の前衛と、中衛・後衛のいずれか1組が並ばざるを得ない。 「クリスマァァァァァ――ス!!」 瞬間、視界が閃光に融けた。放たれたのは圧倒的なまでの熱光線。 至近まで迫っていた夏栖斗と、後方に控えていたユーヌ。これを庇いに跳び出した心がその光条に巻き込まれる。 視界が白く染まり、音すらもが聞こえない一瞬。その光を裂いて、色黒の少年が拳を握り締める。 「ちーっす! サタンさん、ご機嫌いかが?」 メリーXマス砲の直撃は彼の精神力を大幅に奪っている。だが、所詮は初手。 ほぼ完全な暗所の上、移動速度に長けるH・L・Rの全力移動。 思った以上に余裕が無く事前の準備をする時間に欠けたのは彼らにとってはマイナスだったが、 一撃でどうこう成る程夏栖斗の在り方は脆く無い。カウンターで突き立てられた魔氷拳がSANTAへと突き刺さる。 「……大丈夫か?」 「なに、いつものことなのデス」 他方、ユーヌを庇った心もまた、無傷とは行かずともその傷は致命に到るには程遠い。 不沈艦の名は伊達では無い。そして必要十分な防壁が前に立っていればこそ、後衛はその真価を発揮出来る。 ●多分トナカイでは無い物 「ま、物騒なプレゼントをしてくれるサンタにはお引取り願おうかな」 「常識は大事だ。自重しろ非常識どもめ」 ユーヌが守護結界を張り巡らせれば、夏海がその身に血の契約を刻む。 更には進路塞ぐ位置取りで防御を固めたアラストールを目の当たりにして、突破は困難と悟ったか。 H・L・Rが遂に行動を見定める。脚で地面を引っ掻くと、頭部の無い首を下げる。それは突撃の構え。 「……来ますか」 対峙した一人と一頭。衝突までは一拍、その凡そ半分。 吶喊して来た首無しトナカイをアラストールのラージシールドが喰い止める。 「―――――ッ!!」 重量が違う、質量が違う、速度が違う。叩き付けられた衝撃はトラックのそれをも凌駕する。 耐える。堪える。されど――吹き飛ばされる。5mも身を弾かれ、地面を滑る。 だが、敵が如何に強大であれど、あくまで3体。その一角を1人で受け止めたなら、それが齎す利は決して小さくない。 「よし、アテにしてるぜ大将」 「どーせメリークルシミマスとか言うんだろ? 親父ギャグおもろないっちゅーねん」 アキツヅの浄化の鎧がアラストールを包み、怒りに駆られそうにそうになったその精神を癒す。 その間には瞑がその身を加速させ、機を計る。 沈黙を保っていたC・O・Sの暗黒オーラが夏栖斗、アラストール、そしてアキツヅを巻き込むも、 手番の遅さもあり現時点では大勢に影響は無い。 リベリスタ達のの殆どが自身の強化に手を取られた分、奇しくも前衛と中・後衛が完全に分断された形になった物の 前衛がその身を楯稼いだ時は値千金を数える。 だが、其処には当然間隙も存在する。彼らは初期時点で散開している。 其処にアラストールが跳ね飛ばされ、心が庇い、喜平が後衛へと戻る。前衛に立つは夏栖斗のみ。 そして彼らはあくまで3体。そう、1組でも3体なのである。ブロック出来るのは1対1。 3体をブロックするには、必然として3人以上の前衛が必要である。つまり―― 「プレゼント寄越せーっ!」 最も素早い瞑は、是が非でもSANTAを攻撃するべきだっただろう。 この場に於いて、H・L・Rより素早く行動出来るのは彼女だけだったのだから。 側面に回りこんだ瞑の放つ音速の刃。加速し放たれた二連撃が首無しトナカイを傷付け――そして彼らが動き出す。 「メェェェリィィィ――」 1手番の間、誰もSANTAを傷付けぬまま。 「クリスマァァァァ――――ス!!」 疾駆を開始するH・L・R。それを誰も止められない。加速は必要十分。リベリスタ達を置き去りに駆ける。 駆ける、駆ける、40mを瞬きの間に踏破する。 「逃がさないよっ」 追い縋った夏海がフィンガーバレットを構えるも、想定外の事態に気が焦る。 そう、布陣を突破された場合H・L・Rは先頭を駆ける。C・O・Sを引いているのだから当然である。 では果たして、馬車の後ろから馬が見えるだろうか。答えは――否。 「――っ!」 一瞬血の気が引く。惨劇に見舞われる街と血祭りに上げられる子供達の幻像が眼を過ぎる。 その想像、任務を失敗する以上の最悪の未来。だが、此処で奇蹟的にも彼女の所有する技術が窮地を救った。 夏海のバウンティショットは部位を射抜く事に優れる。そして戦車からは左右に露出していたのだ。 SANTAのその大仰な、十二枚の蝙蝠の翼が。 「まだ!」 諦めるには早過ぎる。外せばそれで詰みと言う決定的な場面。呼気を整えて撃ち抜く――バウンティショット。 会心の手応え。響いた銃声は2発。射抜かれた翼にH・L・Rの脚が、止まる 「~っ、サンタの対応を頼む!」 その期を逃さない。ユーヌが、アラストールが、夏栖斗が追い縋る。 だが、引き離された距離が長過ぎる。全力移動でも届かない。 窮地は未だ終わりでは無い。継続的にSANTAを攻撃しなければ、次に引き離されれば追いつけない。 ●明らかにソリではないモノ 「フシュゥゥゥゥ」 SANTAが呼気を吐くとH・L・Rの体を包む赤黒い血が鮮血へと色を変えて行く。 恐らくはその身に何らかの神秘を纏ったのだろう。が、リベリスタ達にそれを斟酌する余裕は無い。 「慌てなさんな、パーティーは始まったばかりだ」 喜平がシャドウサーヴァントを付与する暇も無く距離を詰め、ソードエアリアルでSANTAへと斬り込む。 この一撃に返る意外な手応え。実の所、H・L・R健在の場合この3体の内で最も回避に欠けるSANTAである。 僥倖的な一撃と言うのが発生しないでも無い。混乱こそしない物の、先のバウンティショットに続いて削られた体力。 見兼ねたかC・O・Sがこれを回復しに回る。3体目の動きが止まる。――絶好機。 「こっの、止まれ――!」 瞑が駆ける。類稀なる瞬発力を生かした2度の全力移動。首無しトナカイに追い縋り、遂にその前方へと回り込む。 続いて動くH・L・R。疾駆する強脚が立ち塞がる瞑を踏み潰す。 元より防御に欠ける身、その一撃で吹き飛ばされる。けれどリベリスタ達に必要だったのはこの“間”に他ならない。 「ごめん、抜けられた!」 「家畜らしく大人しくしたらどうだ? ああ、頭がないなら仕方ないか」 夏栖斗が、ユーヌが首無しトナカイへと回り込み、夏海の射撃が再びSANTAを射る。 「私は世界を守るのデス!」 其処に追いついた心がC・O・Sを捕まえる。3方より囲み込まれれば、さしもの首無しトナカイとて動けない。 「ったく、苦労させてくれやがって……」 そうして追いついて来たアキツヅが呼気を溢せば、夏栖斗の体躯に対する者を焼く浄化の光が集う。 本来の予定とは異なる物の、兎にも角にも成立した包囲。この状況、逃す手は無い。 「さあ来いよ! 広範囲攻撃やってみろ!」 「メェエエエエエリィィィイイイイ!!」 それは怒りの雄叫びか。強く、猛々しく狂おしく。巨漢が背負った荷物を降ろす。 戦いと言う土俵に引き摺り下ろした。その実感に拳を握る。薙ぎ払う様に揮われる魔性の袋。 「私は、超硬いのデス!」 叩き付けられたそれを、近接距離にまで迫った夏栖斗と割り込んだ心が受け止める。 浄化の鎧に反射されたダメージがSANTAの巨躯を血に染めたか、それを見る間も無く普通を愛する少女が駆ける。 「一度サンタ狩りとやらをしてみたかったんだ。パチモノでもそれなりに歯応えはあるんだろう?」 ぐるりと手にしたランスが円を描き、跳躍と共に叩き込まれる刺突撃。精度を必要とする攻撃は彼女の十八番。 SANTAの体躯が宙を舞い、地に叩き付けられる。跳ねる巨漢を一瞥し、極寒の眼差しで見下ろすユーヌ。 長い黒髪がさらりと風に揺れ、歪めた口元が何かを呟いた。 「しかし必要とは言え、こんな長物取り回す日が来るとは……」 まだ一般人よりのつもりだったんだが、と嘯くも、大体において普通と言う人ほど普通ではないのがこの界隈である。 「おっけ、ナイスゆーぬ。後は任せろっ!」 落ちたSANTAに夏栖斗が駆け寄り、握り締めるAbsolute FIRE。 絶対不滅の潰えぬ炎がSANTAの横面を引っ叩く。 流石に、これは効いたろうか。続くアラストールはブロードソードを両手に構える。狙いは戦車と馬の接続部。 「将を射んとすれば、まず馬!」 叩き付けられるヘビースマッシュ。だが、これは流石に当たらない。 元より彼女は然程命中に優れる方では無い。狙い通り当てる事が困難な上に局所を狙えば当たりはぶれる。 主を失ったH・L・Rが首の無い頭を上げる。脚で地面を掻く仕草。再び疾駆を始めるSANTAの従者。 それは先同様、愚直なまでに瞑を狙う。当然前方に立ち塞がる夏栖斗を踏みつけながら。 「うち、こういう役は慣れてないんですけどっ!」 そんなことを言いながらも、彼女とて覚悟を決めて進路を塞いでいる。 突撃され、吹き飛ばされ、それによって運命の祝福が削られても、それが今必要と信じればこそ。 「プレゼントをごそごそするまで死ねんよ!」 それは欲望? No! No! No! 瞑曰く「これは純真少女の夢です!」 であれば、その疾駆をも受け止めたのは瞑ではなく、瞑の抱く純真少女の夢に他ならない。 転んでも、唯では起きないのがニート脳の強みである。 「弾丸だけじゃ足りないか、なら少し派手なのを」 一方起き上がろうとしていたSANTAはと言えば、これこそ正にフルボッコと言わんばかりのボコボコである。 ショットガンによる殴打、蹴り、踏みつけ、おまけに零距離からの近接射撃。 閃光の様な速度で連ねられたその連続攻撃がSANTAの骨格が変わる程の威力で打ち付けられる。 ●Xマスは今年もやって来る 「ヌウゥゥゥウウ!!」 邪悪戦車の暗黒オーラがSANTAの、H・L・Rの体を癒すも、重ねられたダメージはそう容易くは癒せない。 低い声を上げたSANTAが周囲に闇を撒く。リベリスタ達が危惧していた通りに。 撒かれた闇に融ける様に、巨漢の赤い瞳が輝く。街までの距離は必要十分。 この状態から覆すのは流石に困難と見切ったか。呻く様なSANTAの声がぴたりと、止む。 「……不味いな」 それに真っ先に気付いたのは暗視を持たぬユーヌである。集音装置で代用する事で彼女には相手の位置が一定分かる。 だが、アラストール、夏海、瞑、心等、この場においてはそうでない者の方が多い。 彼らにとって、闇の世界は文字通りの死角である。 幸いSANTAを吹き飛ばした結果としてH・L・Rの所在はまだ一定知れている物の、 元よりリベリスタ達の優位は手数。攻撃を集中しての各個撃破は戦いの常套手段である。 であれば嫌が応にも攻撃が分散せざるを得ないこの現状は、お世辞にも良い兆候とは言い難い。 「アラストール、ユーヌ、こっちだ」 夏栖斗が声を上げてSANTANに追い縋るも、その声が皮肉にもH・L・Rに彼の位置を知らせてしまう。 最後のミステイク。それはノックバックで敵が分散した場合に、それぞれを誰が抑えるか決めていなかった事。 この1点に尽きるだろう。H・L・Rが地を蹴る。駆ける。疾走する。 ユーヌが、アラトールが動くより、SANTAを捕まえていた夏栖斗を吹き飛ばす方が、どうしても早い。 「メェェェリィィィィ」 巨漢が翼をはためかす。飛行する。向かうはSANTAが目指した街とは真逆の方角。 追いつける。まだ追いつける筈だ。飛行の速度は決して特別速くはない。追い縋れない筈も無い。 其処に、禍々しい戦車と、首無しトナカイが立ち塞がって居なければ。 其処に、闇色の世界が展開されてさえ居なければ。 せめてSANTAの分断とH・L・Rの討伐、どちらか片側に全力を傾けていたならば。 だが、状況は変わらない。満身創痍と言って良い程にSANTAを追い詰めようと、 けれど討伐には届かない。どうしても後一歩、届かない。 「っ、くそっ」 翼を広げふらりふらりと飛翔するSANTAを見つめ、ショットガンを構えていた喜平が手を降ろす。 惨劇は免れた。唯の一人の犠牲も生まれなかった。けれど――――けれど。 主を見送った首無しトナカイは、嘶くように頭を上げる仕草を取るとその後を追従する。 瞳を細めたアキツヅが、それを眺めながら小さく嘆息を溢す。 「クリスマスってやつぁ、家族とさ、しんみりと耶蘇を祝う日だ。 恋人同士のロマンスも素敵だが、神さんもサンタさんも、そればっかりで怒っちゃったのかもな」 煙草に火つけて走り去る黒い戦車を眺める眼差しには、如何様にも想う所が有ろうか複雑な色が浮かぶ。 今年は追い返す事が出来た。だが、来年はどうだ。再来年はどうだ。 先の事を語れば鬼が笑うと言いはすれど、けっして楽観出来る状況に彼らは無い。 「とりあえず……ちゃんとしたサンタをゲートに向かって要求したい気分だよ」 勿論プレゼントつきで、と白い息を吐いた夏海に若干硬かったリベリスタ達の表情が僅かに和らぐ。 ともあれ、彼らは守りきり、守り抜いた。そしてクリスマスはまた、やって来る。 「世界の平穏のため、次こそ退治なのデス!」 決意を新たに、彼らは思い思いの帰路を辿る。聖夜に訪れる悪夢の使者との再戦を誓って。 メリー、Xマス |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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