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【テラーナイト】クラッカーを打ち鳴らせ!


 クリスマスは、楽しく陽気に騒ぐのも素晴らしい。
 そして、ゆっくり静かにすごすのも素晴らしい。
 恋人、あるいは家族と。
 教会のミサに行ったり。
 星の降りそうな夜空を仰ぎながらそぞろ歩いたり。
 ちょっと上等な食事を楽しんだり。

 オールデイズのクリスマスソングを流していたトランジスタラジオからノイズ。
 間髪いれずに、どっかのバカヤロウがわめきだした。

『Hey、俺を知ってる奴にもしらねえ奴にも忘れちゃった奴にも親切な俺が、ジングルベルと一緒に手前らの健康チェックだ。聞こえりゃ、てめえの若さを誇れ、聞こえなきゃ、人生ハッピーだ。いいね、みんな、ハッピー。俺もハッピーになりてえんだよ。分かる分かるな、ギブアンドテイク! 御代は手前らのイライラとカリカリと血液サンプルで結構だぁ。 親切極まりねーな、今夜の俺は。クリスマスだからな、感謝の叫びを聞かせてくれよ.ご機嫌なツイストを見せてくれ。オーケイ、show me your dance♪ 』


「――担当したくなかった。正直今からでも夜倉に回したい。でも、逃げた。目が合ったとたんに、逃げた。廊下をすごい勢いで歩いて逃げた。カッカッカッカッて逃げていった」
 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、無表情かつ早口で言った。
 わ~。なんか目に浮かぶぞ~。
「フィクサード『テラーナイト・コックローチ』……害虫嗜好趣味を持ち害虫至上主義に浸る、本人単体ならどうでもいいようなフィクサード。Gだけじゃなかった……」
 スピーカーから、後頭部に煉瓦ねじ込んでやりたくなるようなラジオジャックの音声が流れる。
「先日のクリスマスツリーの案件で分かるように、最近やけに吹っ切れてる」
 なんで腰振って踊ってる映像が浮かぶんだろう。
「これ、ライトピラー。とあるビルとビルの間の広場なのだけれど、クリスマスの夜に、人工的にこれを作り出す」
 そもそも空気中を漂う微細な氷の粒に太陽光線が反射して、柱嬢の輝きが見える現象のことだが。
「ミストを散布して、ライト当てるんだって。ベンチも一杯あるし、賛美歌とか流れて。隠れたデートスポット。ここが狙われている」
 なんだろう。今回に限って、喝采を贈りたくなる衝動。
「で、これ。ウンカ。カメムシの仲間の5mm以下の総称。一杯集まると柱みたいに見える」
 まさか。
「サンピラーの変わりに、ウンカ柱を立てる気満々。更に、それを蚊でやろうとしている」
 はい? カメムシの親戚なんでしょ?
「だから、蚊をどうにかして、ウンカ的行動をとらせるようにしたみたい。しかも、口吻を改良して、厚着も刺し通して血を吸い、しかも、すごくかゆくなる改良、いや、改悪を……」
 うわ~……。
「更に、モスキート音がとんでもない。聞こえない人には聞こえないけど、聞こえる人にとっては暴れだしたくなるレベル」
 どうしてそんなことするの、テラーナイト。なにかつらいことでもあったの!?
「カップルへの嫌がらせとしか思えない」
 あ~、そうね。爆弾だね。
「だけど、クリスマス。人も一杯。銃かき振り回すのもどうかと思う。相手は蚊だし。弾丸より小さい」
 イヴは、ごろごろと机の上に大小さまざまなクラッカーを転がした。
「中は、アーク謹製自然にやさしいけど、蚊には優しくない殺虫剤。これでこのビルで囲われた空間の蚊を殲滅できる薬品濃度になる」
 わかった。つまり。
「今から行くと日没前で人がいない。フリースペースだから、人もいるけど、みんなの出入りもとがめられない。クラッカーの中にテープとかは入ってない。ちょっときらきらする粉だから怒られない」
 クリスマスに浮かれたお茶目さんグループとして、この山のようなクラッカーをぽんぽん打ち鳴らして来いってことですね、分かります!
「人畜無害だから、心配しないで。きちんとごみは持って帰ってきてね。それと、ほんとにかゆかったり、我慢で着ないほど不快だから。薬剤はラボに無理言って用意してもらったから、量に限りがある。無駄にしないように」
 これ、ゴミ袋。と、準備のいいことといったらない。
「完全に日が暮れたら、ミストが散布されてライト点灯。そうなったら、ライトを合図に蚊は行動しだす。テラーナイトはとっくに仕込みを終えて、今頃どっかでのぞいてると思う。蚊を何とかして、奴に砂糖を滝ほどはく、べったべたのキャンディナイトを見せ付けてやって。なんだったら、遊んで来て構わないし」
 きっと、虫がよってきて喜ぶから。
 イヴの怒りを買ったテラーナイトに、若干の同情を覚えなくもないリベリスタ達だった。



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:田奈アガサ  
■難易度:EASY ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 4人 ■シナリオ終了日時
 2011年12月27日(火)23:25
田奈です。
 だって、かざみんが。やれっていうから。
 景気よく、クラッカーを打ち鳴らせ。

 フィクサード『テラーナイト・コックローチ』
 *ジーニアス×アンノウンである害虫大好き困ったさん。
 *害虫の生態を知り尽くし、混乱による軽犯罪を繰り返す小悪党。
 *だが逃げ足が爆発的に早い為、未だ捕縛に成功した情報はありません。
 * リプレイには登場しません。
 *神気閃光は使えるみたいです。
 詳細は、風見鶏ST作:『不倶戴天の砦:最終決戦裏パート』『G戦場のクリスマス・キャロル 』
 を、参照して下さい。
   
 E・ビースト「モスキートピラー」
 *蚊の大群。
 *吸血 猛烈にかゆいです。呪い付与。
  手元が狂って、効果のない所に発射してしまうかもしれません。  
 *モスキート音:若者にしか聞こえない、強烈な不快音。呪い付与。
  手元が狂って、人に向けて発射してしまったりしてしまうかもしれません。  
  今回、20代まで聞こえる周波数に設定されています。
  実年齢と肉体年齢に差がある方は、聞こえる聞こえないを自己申告。
  聞こえないってことは――。
  書いていない場合は、田奈に白紙委任と解釈します。
  
 特別ルール・殺虫剤クラッカーについて
 取り扱い、大きさのイメージは、 
(特大)・超重武器相当 散布量15
 (大) ・2S銃器相当 散布量10
 (中) ・1S銃器相当 散布量5
 (小) ・通常クラッカー相当 散布量2
 散布量が、1000になるまで「空中に」撒けば、蚊は全部落ちます。
 どれを鳴らすか、書いてください。
 もちろん、状況に応じて持ち変え自由です。
 毎ターン、各リベリスタの手番で、吸血と(20代以下のリベリスタには)モスキート音の命中チェックをします。
 そのとき持っていたクラッカーが「無駄」になります。
 「無駄」になったクラッカーの散布量が300を超えた場合。もしくは、全員がBS状態になったら、失敗です。

 場所:スクエアスペース
 *ビルの狭間のオサレスペース。
 *デートするといいよ。イルミネーションとかぴかぴかだし。
 *デートしたらいいさ。ベンチとかもあるし。
 *散布が終わる頃には、ライトピラーが出来ています。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ナイトクリーク
犬束・うさぎ(BNE000189)
クロスイージス
中村 夢乃(BNE001189)
デュランダル
楠神 風斗(BNE001434)
ホーリーメイガス
アンナ・クロストン(BNE001816)
インヤンマスター
渡・アプリコット・鈴(BNE002310)
スターサジタリー
ヴィンセント・T・ウィンチェスター(BNE002546)
クリミナルスタア
関 狄龍(BNE002760)
クロスイージス
鎧 盾(BNE003210)
■サポート参加者 4人■
覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
ソードミラージュ
戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)
ホーリーメイガス
ルーメリア・ブラン・リュミエール(BNE001611)
クロスイージス
村上 真琴(BNE002654)


 クリスマス。
 郷に入っては郷に従え。
 前世紀終盤から日本ではカップルの公然デート大量発生日と決まっている。
 ここにもデートスポットが一つ。
 光の柱を見ながらいちゃいちゃするカップルなんて、耐え難いかゆみとモスキート音のイライラで崩壊してしまえと立ち上がったフィクサードがいた。
 それいけ、僕らのリベリスタ。
 フィクサード・テラーナイト・コックローチの野望を完膚なきまで叩き潰して、恋人達のクリスマスを守るんだ!

 い い か ら。 


 件のスペース。日没前。
 一見ほほえましい高校生カップルがいた。
 女の子はキャッキャッとよく笑い、男の子は照れていると言うか、心が3センチくらい体から出ていると言うか。
 付き合って間もない二人が初めて迎えるイベントデート。
――という訳では無い。
 説明しよう!
『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189) は、性別不詳である。
 アークの書類上でもアンノウン扱いの上位機密事項である。
 しかし、相方への……げふんげふんテラーナイトへの嫌がらせのためなら、大抵のことはする。
 女の子らしいおめかしパーティーワンピにふわふわファー付Pコート。
 華奢な体躯をふんわり包む甘い色合いと柔らかな布地。
 ちょっぴり香水。
 黒髪ポニテのウィッグでうなじを強調。
 そして、常に動かない表情筋に活を入れ、目にハイライトを入れる。
「風ちゃん! 大好きです!」
『彼氏』の腕にぶら下がり、とろける笑顔さくれーつ。 
(ごひー)
『赤光の暴風』楠神 風斗(BNE001434)は声にならない悲鳴を上げていた。
 正直、とんでもなくきつい。
 しかし、逃げられない。
 公開焼き土下座から「仕事」と言って逃げてきたのだから、逃げられる訳もない。
 風斗の脳内では、現実はさておき、うさぎは「男」しかも「親友」。
 そんじょそこらの親友と思うな。
 心の壁がむやみやたらと高い男の「親友」認定は、ぶっちゃけヤンデレ女の「好きな人」と同義。
 そんな存在が、「女装」かつ「恋人ロール」。それが様になってる。
(くっ、いくら演技でもやりすぎだっ!! あ、いい匂い……って違ぇっ!! なんでこいつ、今日はこんなにテンション高いんだよ?!)
 それは、楠神さんの面白リアクションを堪能するため……じゃなかったコックローチさんを挑発するためです。
 事ある毎に隣に寄り添い袖を掴み背中に寄りかかり抱き付き頬を摺り寄せ……。
 うわ、ほっぺつるつるふわふわすべすべでやんの。
 やっぱり、女だったりして。
 実はこっちが地だったりして。
 風斗が見てない所で、ちゃんと女の子してたりして。
 実は、町でよくすれ違ってたりするけど、気づいてないだけだったりしてね!?
 可能性の恐怖に心臓バクバク言わせながら、レッツ恋人ロール!
(何なんですかこの状況。うさぎさんハイテンションだし、楠神さんは……もう知りませんっ)
 そんなお二人を胡乱な目で見る『ドラム缶偽お嬢』中村 夢乃(BNE001189)、ついにぷ~いと横を向く。
(……だいたい、何なんですかいちゃいちゃと。見せつけるとか言ったって、コックローチが居なかったらどうするってんです。それただいちゃつきたいだけでしょ。あたしたちにみせつけてどうするんですか)
 いろいろもやもやしているが、恋愛感情ではないのだ。
 例えるなら、ラブラブ両親の三歩後ろをついていく思春期の娘。
(あたしだっていちゃつきたいです。寒いです寂しいです。あ、なんか心のそこから虚しさが押し寄せて……)
「彼氏欲しいなあ……」
 夢乃の脳みその中身、漏れた。
(……いや、本当に欲しいかって言われたら……)
 首ひねっちゃうのだ。
(……寂しいだけですね、あたし) 
 自分で分かってるのだ。
 こんな気持ちで、彼氏とか早いのだ。こんな気持ちでなし崩しに彼氏できても彼氏に申し訳ないのだ。根がまじめなのだ。人恋しいのと恋は別なのだ。
 しかし。
 自分の視界範囲内に、比較対象物が存在するのは耐え難い。
(ところで蚊柱って蚊が交尾相手を探してるんだって聞いたことがあります! 蚊までリア充……?)
 座った目が、思わず肩ポンしたくなる痛々しさだ。
「リア充ぼくめつぁああ!!」
 ほとばしる本音。
 破裂する特大クラッカー。
 拡散する殺虫剤。
 夕映えにキラキラひかって、それはそれはきれいだった。
 

 真っ黒いもこもこしたコートに黒い手袋。
 毛皮の帽子もかぶらせたい『ソリッドガール』アンナ・クロストン(BNE001816)は、ほっぺたピンクだった。
 コートの下に簡易カイロ多数、あったか~い甘酒がダース単位でぬっくぬく。
 おでこがうっすら汗ばんでいる。
(……こんばんは、黒ストンです。とネタ振りをかましたいぐらいには酷い準備よちくしょう)
 甘ったるいつぶつぶを噛みしめつつ、飲み干していく。
(前の依頼では見事にGにたかられるし、なんか虫づいてるわ…)
 別にサボっている訳ではない。アンナの役目は囮なのだ。
(蚊は蚊ということで、体温とか二酸化炭素濃度によって刺す相手を見極める性質は変わっていないはず。羽虫だから光にも寄ってくるわよね。もこももこ厚着して体温あげて、甘酒を飲む)
 そして、努力は報われる。
 ぷ~……んと甲高い、蚊の羽音。
(…ええと、なんといいますか)
 甘酒、いい匂い。
 サーモグラフィーで見れば一目瞭然な高温度。
 蚊、召喚完了。
 モスキート・トルネード。 
 アンナを中心にして、撒きあがる蚊柱。
(痒いのはもうどーしょーもないレベルなんだけど、それ以前に!)
 本体から解けた蚊がアンナに吸い寄せられていく。
(四六時中蚊柱に巻かれてるってかなり酷い気分なんだけど! 耳にはいるな口に入るなメガネ掛けててよかった! もうやだー!)
 間断なく聞こえるモスキート音に、涙もちょちょぎれる。
 手に握ったカメラのフラッシュ。
 ついでに放つ、凶事払いの光。
 でこからではない。断じてでこからではない。
 一瞬だけひくかゆみと、イライラ。
 だが、すぐにまた襲ってくる。
 次回の束の間の安寧まで、もう十秒お待ちください。
 そして、Gにご縁があるのは、アンナだけではなかった。
『錆天大聖』関 狄龍(BNE002760)が、クラッカーを手にとった。
「――ってちくしょー! 俺ァついこの前Gとバトってきたばっかなんだぞ!? ホントにヒマだなテラーナイト!!」
 うん、多分。
 今、製薬会社やめて、ぷーのはずだし。
「ころす。いつかぶっころす」 
 ぱっかーん。
 鬱憤と共にはじき出されるアーク謹製殺虫剤が、夕方の風に溶けていく。
「どっかで見てやがるテラーナイト! 男の死に様見さらせやぁー!!」
『鋼鉄の戦巫女』村上 真琴(BNE002654)も、額に手を当てている。
「また……この人ですか……」
 真琴もまたGの洗礼を受けた一人である。
 仲間のために、十字の加護を。
 クラッカーというよりは、メガホンのような大。
 耳栓して、クラッカーを修行僧の面持ちで打ち鳴らす。
「ほんとほんとあれくらい飲んだ内に入らん!!」
 パーンパーン!
 『十徳彼女』渡・アプリコット・鈴(BNE002310)は蚊帳的守護結界をはった後、クラッカーを打ち鳴らす。
 年末の忘年会で出来上がった風を装ってるんだよ。
 ほんとに酔っ払ってるわけじゃないし、アラフィフなお年頃だから無問題! 
  じっとり汗をかいて蚊を集めているアンナの襟首に、つつつっと冷たい感触をプレゼントフロム鈴。
「ねえ、どこをくりくりされたら気持ちいい?  吐息が温かあい。ほら、もうこんなに汗ばんできたやない。もっと?  じゃ――」
 ぶちきれたアンナが神気閃光の詠唱を始めるコンマ3秒前にヒットアンドアウェイ。
 次なる標的、狄龍に突撃。
 偽造カップル第2弾ですし。
 狄龍も普通に嬉しい。
 鈴、かわいいし。
「あたし博多の女やけんさあ、ナヨナヨしたのよりか、マッチョな方が好いとるんよぉ。あなたの逞しい腕……素敵」
(博多弁って萌えるよね)
 狄龍、鼻の下伸び気味。 
 上腕二頭筋をなぞる指。熱のこもった目。どきどき鼓動。舌なめずり。
「でもね、あのね……そ、その指は? どうしたのん? なんか十徳指がギュンギュン唸ってますけど!?」
 うん、なんか感じる微細な振動。これが恋の震え? ううん、指に仕込まれた工具の電動モーターの振動。
「……分解してよか?」 
 しゃきーんっ!
 義指覆い、解除。
 うっひゃあ、鈴さん、解体マニア!?
「や、やめろー! 俺の腕なんか解体してもお前の哀しみは解体できないぞ! 君の途はまだ続くのだからー!」
 狄龍、必死に逃げながら、パンパンとクラッカー撃ちまくり。
 チャフか、それ。チャフなのか。

 ほほほ、捕まえてごらんなさ~い――。
 はっはっは、捕まえて分解掃除しちゃうぞ~ぉ――。
 
 おっかけっこは、しばし続いた。 

(毎年この手のフィクサードは風物詩ですね。このエネルギーをもっと有意義に使えないのか。毎年言ってる気がしますが)
『Star Raven』ヴィンセント・T・ウィンチェスター(BNE002546)は、花束のようにばかでっかいクラッカーをを抱えていた。
(不自然でない高度でジャンプで誤魔化し、高度を稼いで広範囲に散布)
 効果的な作戦だった。実際行動してみるまでは。
 ぴょんと飛び上がる。
 ぼふ~ん。
 ぴょ~んととびあがる。
 ぼふ~ん。
 顔つきはそれは穏やかだ。
 穏やかな顔をした男が、ぴょ~んぴょ~んと軽やかに跳躍を繰り返しながら、クラッカーを打ち鳴らす情景。
 不条理。
(コマ送りに流れる世界なら、蚊の動きなど簡単に見切れます)
 でも、それって攻撃タイミングを見極める集中状態で、よけられるかどうかは別問題なのよね。
 じゃあ、刺されたのかっていうと、思い込みってすごい。
 ほとんどよけた。 
 ほとんどよけられたが、刺された所がそりゃもうかゆい。
 しかも、音聞こえるし。
 聞こえるよ。
 むかつくんだよ。
 26歳がそうなのだから、ガラスの鼓膜の十代は発狂レベルだ。
『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)の目がモスキート音で血走っている。
 青春の暴走。
 高速で撃ち出される特大クラッカーは、空中から力任せに軌道を捻じ曲げられ。
 まともにヴィンセント目掛けて打ち込まれていた。
(愛ゆえに)
 頭のてっぺんから足の先まで銀色に染め上げられたヴィンセントは、肩を震わせた。
「これもみんなBSのせいです」
 特大クラッカーのヒモに手がかかる。
 高速移動中のソードミラージュと言えども、特異集中しているスターサジタリーの前では。
 ぼっふーん。
 標的だ。
「BSのせいなので僕は悪くありませんよ。強いて言うならそんな所に立っているのが悪いんですよ」
 舞姫が、銀色の乙女に。
「あくまでも愛ゆえに」
「にゃー!? 耳が、耳が割れるのー!?」
『なのなのお嬢様なの』ルーメリア・ブラン・リュミエール(BNE001611)が、地面を転がって行く。
 手に大量に持っていた小さなクラッカーがぺしょんと潰れた。
 いっそ、モスキート音で狂えるならよかった。
(モスキート音っモスキート音らめえええ。あたまがおかしくなっひゃいまふううう……とでも言うと思いましたか?)
 夢乃、キリリ。
(聞こえますけどねかゆいですけどねそこは根性論で)
 テラーナイトの呪いもはねつける根性。
(正直なんで着物来てるのあたし袖から虫が襟から虫がていうかどこにもかしこにも)
 でも、根性で痛覚なくなるわけじゃないし。
 着物の中で死んだ蚊の死骸がなくなる訳でもないし。
 というか、最近の研究じゃかゆみと痛覚って別回路らしいよ?
 そういうわけで。
 素敵デートスポットの中心で叫ぶ。
「かゆい!」
 
『さまようよろい』鎧 盾(BNE003210)は、一人ぼっちだった。
 ちがう。不戦スキル『一人ぼっち』発動中だった。
 フルプレートメイルが規則的な動きでクラッカーを持ち、パーンパーンパーン。
 一般人には、クリスマス仕様の着ぐるみにしか見えない。
 微妙に銀色にキラキラしているのは、虫除けスプレー代わりに自分に向けて撃ったから。
 クリスマスのイルミネーションが反射して、それはもうきれいだ。
 寡黙だ。
 一人ぼっちなのもさることながら。
(何よりアレだ……痒い)
 鎧の隙間から入り込む蚊が、鎧の下に着込むキルテッドシルク・コットンアーマー、ぶっちゃけ綿入れさえ貫き通し、生身の体から血を抜いていく。
(流石にここで鎧を脱ぐわけにはいかぬ……さっさと終わらせたいからな)
 かきむしることも出来ない。
 それでも、捨て身のアンナの囮作戦のおかげで盾にまとわりつく蚊の密度が減る。
(クラッカーの大きさを大きくしてみようか……)
 中と大の間には、深くて暗い川がある。
 そ~れ、ぼっふん!!

 そんな阿鼻叫喚テイストな空間に、いいムードを求めるカップルが近づくであろうか。
 ぼっちもカップルも着物も鎧もパンクも片手にクラッカー持って、ぼっふんぼっふん気が狂ったとしか思えない大きさのクラッカーを打ち鳴らしているのだ。
「ははははは」
 ぶちきれた頭で、軽やかに飛び跳ねながら、クラッカーを打ち鳴らす。
「うおおー死ねー!! 空中六連蹴り(ロミオマストダイ)!!」
 蹴りはしないが、六連クラッカーは打ち鳴らす。 
「……え? モスキート音? 聞こえる聞こえる!  あれやろ、ミーンミーンって鳴くんやろ!?」
 やっちまった悲しみをごまかすように、クラッカーを打ち鳴らす。
「光あれよこんちくしょう」
 かゆみ止めがわりに光を放つ。
「う、うさぎっ! とっとと仕事を終わらせて、夜のレストランでディナーを食べるぞ!」
 動揺しながら演技をしつつ、クラッカーを打ち鳴らす。
「メリークリスマスっあんどハッピーバースデーあたし!」
 ハイテンションで、クラッカーを打ち鳴らす。
「風ちゃんの手、あったかいですね!お日様みたい!」
(……うーん、表情変えると昔の癖が出てハイテンションおばかになりますね私……) 
 自己分析しながら、クラッカーを打ち鳴らす。
「…………」
 寡黙に鎧がしゃがしゃ言わせてさまよいながら、クラッカーを打ち鳴らす。

「パフォーマンススペース……?」
 図らずも。
 リベリスタ達は、体をはって一般人を守っていた。
 大丈夫。
 地元じゃないから、恥ずかしくないもん!


 アンナの甘酒ストックが尽きた。
 ほとんど脊髄反射で、凶事払いの光照射。
 そして、ふと気づく。
 かゆくない。
 不快な羽音もしない。
 見上げれば、銀の粒子がふわふわと宙を漂っている。
 気がつけば、持ち込んだクラッカーは撃ちつくしていた。
 すっかり日は落ちて、ライトが照射される時間。
 ビルとビルの狭間。
 リベリスタ達は見た。
 中空に、巨大な銀色の光の柱が聳え立っているのを。


 蚊は殲滅されても、作戦は一部で続く。
 テラーナイトをいじめられるなら、いじめなきゃ嘘じゃね?
 どうせ、どっかからのぞいてんだろ?
 意地でも、幸せなクリスマス演出してやる。
「――問答無用で首筋くんくんされて、濡れた犬の匂いするとか言われたり、ちょっと愛情表現わかりにくいんだけどねっ」
「あ~、そうなんですか~」
「シークレットバースデーパーティしたら、すごく喜んでくれてね。それがかわいくてねっ――」
 偽装カップル第三弾、腐女子仕様。
 ヴィンセントに『高校生イケメン覇界闘士』御厨・夏栖斗(BNE000004)の二人組。
 リベリスタの捨て身の献身により、よりゴージャスなデートスポットになったベンチに野郎が二人肩を並べて座っているのだ。
(なにこの罰ゲーム?)
 と思いながらも、この場にいない恋人の自慢話。
 ヴィンセントの耳に夏栖斗の話は届いているが、まったく意味を成さない。
(彼女と初めての夜を過ごすので今から緊張(と妄想)で頭一杯なのです)
 たとえ人畜無害のサンタ役としてでも、相思相愛のかわいい人と過ごす夜。
 人の惚気話聞いてる心境じゃない。
 じゃないが。
「ルメにもいつかあんな素敵な人できないかなー?」
 恋に恋するお年頃のルーメリアの背後で。
「愛してるよ、舞姫……」
「わたしもよっ!」
(はぐはぐちゅっちゅ、きゃー、ひゃっはー!)
 一人二役、脳内漏れてる舞姫、トランス状態でエキサイト。
 なんかやばい汁出てるのをほっとくわけには行かない。
(他人の振り……もできないので止めます。通報されます)
「正気に戻ってください」
 ヴィンセント、舞姫の肩を叩いた。
 はっと正気づく舞姫。
 我に返っても一人――――。
 泣いてもいいのよ?
 
 盾の車はトラックなので、道路交通法的にみんなは乗せて帰れない。
(さっさと帰って痒みを何とかしたいだろうと思ったんだが……)
 この鎧、優しさで出来てる。
 アークからもうすぐお迎えが来るだろうし、それまで自分達が作った光の柱を満喫するといいよ。
 はらはらと落ちてくる銀のが殺虫剤なんて、きっとみんな気づかない。
 お疲れ様、リベリスタ。
「はぁ……まあ、何はともあれせっかくのクリスマスだ。仕事が終わったらラーメンでも食いに行くか……」
「え、ラーメン? それって勿論奢りですよね?」
 ちゃんと三高平のクリスマスに間に合うようにしてあげるからね! 

■シナリオ結果■
大成功
■あとがき■
 リベリスタの皆さん、お疲れ様でした。
 シナリオの意図を汲んだプレイングの数々、ありがとうございます!
 田奈は、それはもう楽しく書かせていただきました。
 薬剤のロスも、田奈の予想よりは少なかったです。
 やりたい放題してるようで、きっちり帳尻合わせてくるリベリスタにサムズアップ。
 明日からのリベリスタ人生に影響出るかもしれないね。
 なんていうか……せめて持ってけ、大成功。

 皆さんの嫌がらせがテラーナイトにどんな影響を及ぼすかは、テラーナイトを貸してくれた風見STの裁定を仰ぐとして。
 おかげで、素敵デートスポットが守られました。
 ゆっくり休んで、次のお仕事がんばってくださいね!