● ナイトメアダウンの傷跡に経つ三高平。その郊外には、未だ手付かずの場所も案外残っている。 なんせ主要なハコの建立は中心から行われていくというのに、アークの設立時には未だ工事中だった場所もあったのだから、外郭部たるや推して知るべし。 普段はあまり人も来ないその場所に、しかしその日は随分とにぎやかな声が響いていた。 「あったー!」 きゃあきゃあと喚くような歓声。 声の主、『深謀浅慮』梅子・エインズワース(nBNE000013)が(文字通り)空を滑る様に飛び回っている。 彼女の視線の先には、巨大な――と、一言で言ってしまっていいものか。 とにかく、超巨大なモミの木があった。 ざっと高さ20m。 ああ――語弊があった。 20mの木、それくらいなら、この世界中にいくらでもあっただろう。 問題は、そのモミの木の野郎、植木鉢に入っているということである。 当然、それ相応のサイズの。 ――お分かりいただけただろうか。 それではもう一度。 高さ20mのモミの木@植木鉢付き。 なお、この植木鉢にはモールやらオーナメントやら……いろんなモノが雑多に引っ掛けられていた。 「その飾りで目一杯飾ってあげて、周りで遊んで、みんなが喜んだのを見れば、消える」 数日前、ブリーフィングルームで『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)はそう言って頷いた。 そう、このモミの木はエリューションなのである。 覚えがないだろうか。 クリスマスツリーを飾りたかったのに『うちにそんな大きな物置ける訳無いでしょ!』と怒られたあの日。 そんな思いが凝り固まったこのエリューションの目的は、飾り立ててもらって人に喜んでもらうこと。 そのためずりずりと、秒速1cmって感じで三高平市街に向かって――いやこれ迷惑だからどう考えても。 とにかく、このモミの木の迎撃に、梅子らはやってきたのである。 「あたしが! てっぺんの! お星様を飾るのだわー!!」 天才()プラムの雄叫びが、モミの木以外一面に広がる銀世界に響き渡る。 「姉さんったら、相変わらず見てるこっちが恥ずかしくなるくらいのお馬鹿なんだから」 言葉は痛烈ながらも目元口元が緩んでいる外見天使の妹さん、『清廉漆黒』桃子・エインズワース(nBNE000014)も後ろからさくさくと、白い雪に足跡を残しながら近づいて、モミの木を見上げる。 「何か言ったー?」 「いいえ何も?」 上空にいるがために聞こえなかった梅子が大声を上げて桃子に問いかけ、桃子はそれを受け流す。 ――相変わらずの姉妹の光景である。 ● 「スノーファイト……白く美しい銀世界(シルバースノウ)の中で、これほど似合いの遊びもないだろう? こっちで勝手に決めさせてもらった。ただし、今回は攻撃スキルの使用はノーサンキューだ」 スヌードを首に巻いた『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)が、注意事項をリベリスタに呼びかける。 彼が喉を守るためだと言いながら巻いていた暖かそうなスヌードには黒猫の刺繍。 「下手に刺激してしまった場合、何が起こるかわからないんです。 ちなみに、最悪の場合は突然モミがスギに変化して、静岡全体でエリューション花粉症が発生します」 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)が、資料を手元で確認してからそう告げる。 ――その予想、さすがに嘘八百であると思いたい。 「かまくらを作ったり、雪だるまを作ったりというのも楽しそうですね。 遊びに参加しているだけでも、多分モミの木には楽しそうなのが伝わると思いますから」 少しだけ考えこんでから、和泉がそう続けた。 「寒さで体が冷えたりするのはゴメンだってなら、近くに、ちょっとした特設会場を立てた。 ちょっとした料理をつくることもできるようにしてある。勝手に作っても構わないが、火遊びはアウト」 伸暁が少し離れた場所を指さす。 確かに、そこには――さすがに突貫だからだろうか。体育館くらいの広さのプレハブが建っている。 そのかわり暖房は心配ないとのこと。 「せっかくのホーリーナイト。ちょっと気楽なパーティーとしゃれ込もうじゃないか。 もっとも、パーティー会場はエリューションの真下。革醒してない観客は呼べないのが残念だけどね」 ぱちん、と指を鳴らそうとした伸暁だったが、手袋に包まれた指はかしゅっと音を立てただけだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ももんが | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年01月02日(月)23:34 |
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● いの一番に飛び出したのはゲームセンター『GAME OVER』に集う面々の集まりである。 「ビッグネオンを最速で飾りつけするの!」 誰にも先を越されるまいと一直線に飛ぶルア・ホワイト。 「モミの木をげむおば色に染め上げましょう」 「誰にも負けないくらいに立派な飾りをね」 続くはエナーシア・ガトリング、そして斬風 糾華。 「このでっかいツリーにGAMEOVERの文字をでっかく飾り付けて。さもげむおば提供のツリーのようにしてやるです」 ツリーの上部に到着し、くるりと振り返った歪 ぐるぐがそう宣言した。 「このツリーはゲームオーバーが作り出したものなのよっ! っていう悪戯ねっ!」 ルアがキャッキャと笑う。 彼らは今回、ツリーのてっぺんの星の下、そのもっとも目立つ位置にGAMEOVERの文字を大きく飾り付けようとしている――ツリージャックを敢行するつもりなのだ。 「それでは各員作戦開始! やったもん勝ちですよー」 夢の国の住人(自称)の出した放埓な指示。それに従い、彼らは一斉に飾り付けを始めた。 クリスマスリース状の『GAMEOVER』ネオンを中心に、赤いリボンにサンタのぬいぐるみにお花に果てはLEDライトと、どんどん継ぎ足してぴっかぴかに飾りつけて行く。 「でもこの飾りとか電飾、何処から持ってきたのかしら?」 ゲームセンターの事務・経理を担当するエナーシアの脳裏にふと過る疑問。 普通の装飾ならツリーの鉢に入っているのだが――20mのツリーに置いて目立つ大きさのリースは、どう考えても特注である。 「まあ、ハンコ押したのはぐるぐさんだし、問題ないわ、派手に行きましょう」 祭りの熱気の前には些事だ。 「君のセンスに期待です!」 ぐるぐにサムズアップで無茶振りされた設楽 悠里はしかし肩を竦める。 「勿論飾り付けは手伝うけど、今回はげむおばのスーパー後始末人が居ないから他のみんなのフォローに回ろうかなって」 本音は口にしない悠里である。 「やるならテッペンじゃな! 妾の式神使役<サモンスピリッツ>で作業も倍速なのじゃ! にゃはは! 出でよ、魔神!」 バーンと叫ぶ瀬伊庭 玲。式神を呼び、作業を手伝わせる。 「ほーらリボンつけましょうねー。かわいいよー」 その玲をぐるぐがリボンで飾り、そのまま当然の様にツリーに飾り付ける。 「……え?玲ちゃんも飾られるの……? じょ……冗談だよね……?」 戸惑った声を上げるアーリィ・フラン・ベルジュの言葉もむなしく、哀れ玲は木の飾り。具体的には枝に吊り下げられたのであった。 「最後にぐるぐさんも飾っておきましょ。なんてね」 下手人に因果応報。冗談めかして言う糾華を初め、別の仲間に冗談ではなく本気でツリーに飾られ、かくて二人仲良くツリーの飾りに大変身。 「ぐるぐさんは飾り違うですし!」 「何故妾も一緒に吊されておるのじゃ!?」 すぐに悠里お兄さんが助け出しましたとさ。 「わたしも何か飾ろうかな?」 手伝うべきメインの作業が完了したと見たアーリィも何か独自の飾りをしようと、可愛らしいお菓子の飾りを物色し、羊羹を手に取った。具体的に言うと真っ黒い長方形である。 美しく煌びやかに飾られた『GAMEOVER』は燦然と輝き(羊羹除く)、彼らのツリージャックは最高潮を迎えた。 ここまで目立つ飾りを前にすれば、梅子の星など霞んで消えるだろう。 悔しがる顔が目に浮かぶ。 玲などは待ちきれず渾身のドヤ顔で振り返り――硬直。 「……」 自前の羽で空中に佇む、エインズワースの娘の姿。 ――ただし、残念ながらそれは黒い羽でなく、白い羽であった。 手には大きなレリーフ飾り。 黒い翼の褐色の天使と白い翼の白磁の肌の天使が仲睦まじく寄り添っている優美な造形。 誰がモデルなのは一目瞭然。 そして桃子さん、満面のエンジェルスマイル。 えんじぇるすまいる。 後、何か触れただけで取り返しのつかない事になりそうなどす黒いオーラ。 頂上の☆の下。 つまり二番目に良い場所である。 当然、使いたがる人が他に居るかも知れないのは当たり前だ。 早い者勝ち。なるほど場所取りとしては最も有効なアプローチだ。普通は。 ――普通は。 天使()の笑顔を形作るその口が、ゆっくりと開かれる。 「総員退避ー!」 悠里の悲鳴が雪原に木霊した。 ● 石蕗 温子にとって、この任務はまさに死活問題だった。 「E花粉症って何!? スギに変態などさせてたまるかなのよ!」 齢10にして一度は思い余って相討ちすら覚悟したほどの天敵、その名は杉花粉。切実だった。 巨大な植木鉢に頭から突っ込んで行って様々なオーナメントを漁り、目当ての物を探し、やがて見つけたらしく尻尾がぱたぱたし始める。 ごそごそ、ばふり。 ツリーの大きさに合った、両手に余るほど大きなクッキーガーランドを頭上に掲げて尻尾ぶんぶん。 ――温子謹製、魅惑のお菓子ゾーン作りがココに始まった。 温子が掘り返したオーナメントを手に取り、リーゼロット・グランシールは少しだけ考えこむ。 「たまにはこういうラクで安全な任務も良い物ですね。しかし任務は任務、気を抜かず楽しみましょう」 彼女の友人曰く。リーゼロットの感性はどうにも一般の女性とかけ離れている。 「クリスマスの飾りつけなどやった事が無いのですが……全力で飾り付けしましょう」 そう言いながら、周辺に落ちていた、点滅を繰り返す電球が付いたコードをツリーに巻きつけ始める。 ぐるぐるぐるぐる。 加減がわからず巻き過ぎそうになっているリーゼロットの、そのコードの端は津布理 瞑が握っていたりする。で、実はずーっと瞑がヒューマンダイナモで点灯させてたりするのである。 「電気代も浮いて和泉ちゃんも大喜び間違い無しだぜ」 うん、電気代は浮くと思うんだ。でも樹に巻きつけられないようにね? フィネ・ファインベルは両手で林檎のオーナメントを差し出しながら、伸暁に消え入りそうな声をかけた。 「一緒に飾り付け、しません、か?」 呼ばれたことに気がついた伸暁が、フィネの目を覗き込む。 「ク、クリスマスは、良い子にしてたらプレゼント貰えるんですよ、ね? フィネ、アークに来たばかりで何も、してないですけど、来年ずっと、良い子でいます。 だから、だからそのっ、フィネの、サンタさんになってください……!」 その言葉に、しかし伸暁は口元に軽く握った拳を当てて考えこむ。 「そいつは難しいな、ナースな子猫ちゃん。 サンタってのは世界中の子供全部の為に、巨大な袋を背負ってる――俺のポケットには大きすぎる。 そのかわり、飾り付けは手伝うよ。さて、まずどうすればいいかな?」 「あ、は、はい!」 翼の加護をもらって飾り付けを手伝うNOBU天使(エンジェル)、此処に降臨。 他にも即席天使がいた。 「イーリス! エンジェルモードなのです!」 小さな翼を背中にもらったイーリス・イシュターの元気な声。 星を飾りたいと名乗り出た彼女だが、梅子が到着一番に名乗りを挙げたと聞いて、うぐぐ、と唸った。 (私! じゃじゃん! 中学三年生のおねーさんなのです。遠慮が出来るのです!! ばばーん!!) 口に出さないおとなな配慮。 梅子の方が年上かもしれないが、精神年齢はイーリスのほうが普通に高いのかも知れなかった。 プレゼントボックス型や林檎型のオーナメントを付けていくついでに、何故か自身の宝物である力の秘宝(別名セミの抜け殻)もくっつけていくイーリス。 「完璧なのです。夏と冬のコラボレーションなのです」 そこはかとない夏の残り香。 「こら、それ食べ物じゃねーから! 口を開けるな、美味しそうに見るな。ったく……」 「か、かじってないですよ!」 林檎のオーナメントをそわそわして見ていたニニギア・ドオレに、ランディ・益母がツッコミを入れる。 「ほらキラキラしただけじゃなくて強そうな飾り付けもアリだろ?」 「えぇーっ、ちょっとランディ、斧を飾るのはやめましょうよ! ナイフとかシミターとか、いくらきらきらしててもツリーの飾りには合わないと思うの……!」 ツッコミがボケに、ボケがツッコミに。 「お星さまうめこごーだつ。ちょっとずるい。でも、冥華は大人なのでゆるしとく」 ここにもおとながもう一人。 舞 冥華はぎゃいぎゃいと騒ぐ梅子――の、近くの桃子を観察する。 「腹ぐろすきるの観察。おぼえれたら、冥華さいきょになれそだし」 いやいやいやいや、覚えなくていいから。 一方少年は野望を燃やす。 「梅……プラムちゃんを手伝って一緒に飾り付けをするんDAZE☆ さながら荷物係のように後ろをついてまわるのさ。愛しのプラムちゃんの為ならなんのそのだDAZE☆」 そう爽やかな主張をしてみせる、カルナス・レインフォード。 ところで君の手にしているデジカメと、データメモリーは何だろうね? (後ろをついて回ってお尻を間近で眺める状況って滅多にないから脳内メモリーにしっかり記録だな!) それ全然脳内じゃないよね? 「そんなふらちーな人、みんなでぼこっとけばいーと思います。」 ももこ観察のついでに気がついた冥華、さっくりスタッフに通報。 その頃、結城 竜一は。 「雪で真っ白だよおおおおおおお! 真白イヴだけに。ぶふふーーーーっ!」 凄まじい勢いのオヤジギャグに、軽く年齢詐称疑惑を引き起こしつつイヴにつきまとっていた。 「さあ! イヴたん遊ぼう! なにがしたい?」 「まずツリーを飾り付けないと」 「飾り付けたい? いいよいいよ! 星とかよくわからん丸いのとか用意したよ! 一緒に飾りつけよう!」 「じゃあまず、その丸いのを、ツリーの上の方に」 「オッケー!!」 びし! とサムズアップを返してツリーに突っ込んでいく竜一。 イヴは無表情にそれを見て、よく見ないとわからない程度に小さなため息を吐いた。 ● りべりすた子供会の面々が中心になって、雪をかき集めている。 「このへんでこんなに雪が降るのも珍しいよな……これもエリューションの力なのか?」 そう言って空を見上げたのは北の国から来た小学生、鯨塚 モヨタ。 「こういこうい時、あれ言うんやんね『いざ鎌倉!!』……え、関係ないん? あはは、あいむそーりーヒゲそーりー☆」 雪を固める月星・太陽・ころなのギャグが周囲の気温を更に一度下げる。 「雪を運ぶのはモヨタ様に頼んでしまって構わないのじゃろうか?」 「力仕事ならまかせとけってんだ!」 同じように固めつつ、那須野・与市が少し不安気にモヨタに問い、力強い返事が帰ってくる。 「雪をたくさん盛って固めて中を掘って……水をかけて固めるんだよね」 気合を入れて『コタツが入るくらいでっかいかまくら作るぞっ!』と吠えていた五十嵐 真独楽だが、何故か足元には幾つかの雪玉が作られていたりする。 やがてかまくらが形になってきた段階で、余市と百舌鳥 九十九が何かをぐつぐつ煮込み出す。 寒サニモマケズ、出来上がったそれはなんとカレーであった。 「おおーおいしーおかわりー☆」 「くー、あったまるー! 雪の中で食べるカレーってのもまたおいしいなー」 「クリスマスカレーってゆーのも斬新でイイよね」 「ふふふ、子供が嬉しそうな顔をしているのを見るのは良いものですのう。 何だか身体だけでなく心まで温まりますな」 ていうか君ら、ご飯はどうした。 「おー! カレーの匂いがするのだー!」 「……駄目だ、姉さん。カレーは飲物じゃない」 団欒に特攻かまして全てを台無しにしそうなテトラ・テトラの尻尾を、リトラ・リトラが引っ張ってなだめる。 「シチュー食べる前に雪合戦するんだろ。ったく、食べたらすぐ寝るくせに……」 「雪合戦! 楽しそうなのだ。やらないでかなのだ!」 「まったく相変わらずノリと勢いだな、姉さんは」 リトテト姉妹が向かう先、もみの木の下では戦いが始まろうとしていた。 そう、それは雪合戦(バトル・オブ・シルバースノウ)。 「雪合戦!? やるやる! もちろんやるのだわ!」 「あらあら姉さんたら、雪にはしゃぐ仔犬みたいに間抜けな笑顔なんだから」 こちらの双子の返答も快諾。 「雪合戦で童心に返るのもたまには悪くは無い。 だが勝負となれば罰ゲームは定めておくべきだぜ、クリスマスらしく」 そこに斜堂・影継の物言いが挟まる。 「最も雪玉を喰らった者は『ハッピーメリークリスマス』と書かれた看板を掲げ、モミの木にクリスマスを祝う歌を捧げた後……ちょっ、いきなり開始ってやめっぐあっ!?」 誰も聞いちゃ居なかった。早速雪玉に塗れる影継に黙祷。 ともあれ合戦、開幕である。 「ほら、攻撃してくるならしてきていいぜ!」 雪国生まれの上沢 翔太は本気だった。 何時の間に用意したのやらミニスキーまで装着し、自信ありげな言葉と共に雪上を縦横無尽に滑り巡る。 「翔太! 頼む、力を貸してくれ! 俺達の連携を見せてやろう!」 そんな彼を呼び止めたのは親友であるツァイン・ウォーレス。 彼は焔 優希と白雪 陽菜のタッグと相対し、一対二の厳しい戦いを強いられていたのだ。 彼は考えた、これを乗り切るには……雪になれた北国育ちの親友の力を借りるしかないッ! と。 「ツァイン、食らえ雪玉10連弾!」 その時、木の陰から飛び出した優希の雪玉が宙を舞い。 「いくぜ! 翔太……シーーールドッ!!」 そしてツァインの『連携』が炸裂した。 と言うかぶっちゃけ盾にした。 急な展開に、避けようも無くほぼ全弾を受ける翔太の、その身体に命中した雪球が次々破裂して赤いペンキや冷たい水を撒き散らす。 「破裂? どういうことだ。白雪、一体何を入れたのだ!?」 一番慌てたのは投げた当人。 優希は雪玉の作成を陽菜に任せた為、彼女がどんな雪玉を作ったのか知らずに投げていたのだ。 「遊びであろうと手は抜かないよ!(悪戯的に)」 陽菜の返事は堂々としたものだった。 そもそも彼女は『投げる時は気をつけてね。強く握ると破裂しちゃうから』とだけは事前に注意していた。 つまり、雪玉の内容を伝えなかったのは明らかに確信犯(誤用)である。 「普段耳や尻尾を触られてるお返しです!」 そこにミニスカサンタ衣装のレイチェル・ガーネットが雪玉を投げる。スキンシップが嫌って訳じゃないけどやっぱり恥ずかしい。そんな微妙な淡い仕返し心の篭った雪玉だ。 狙い上手のレイチェルの腕前により正確に陽菜を狙う雪玉は、しかし立ち塞がった優希に阻まれた。 「優希あぶな~い!!」 彼が負った三ヶ池公園での怪我がまだ治ってない事を心配した陽菜が自分で被弾しようとするが、その陽菜を更に抱き包み、優希はあくまで彼女を己の背に庇う。 「庇わなくていい。寧ろ守らせてくれ」 ぽんと白雪の頭に手を置き、優しい言葉。 ――げに恐ろしきはラブラブカップル。雪玉合戦の最中ですら二人の世界を作るのである。 「……寒い」 一方、翔太は難敵に隙が出来た今がチャンスとばかりに集中攻撃を受け、転倒していた。 普通の雪玉程度ならなんという事もなかったのだが、中に仕込まれたカラーボールや水風船でぐっしょりと濡れてしまった為、体がかじかんで中々起き上がれないでいるのだ。 「まて! この陣は、多勢に無勢!! 私が助太刀ぐわああああ!」 乱入してきたイセリア・イシュターが助けに入り――そのまま大量の雪玉を受けて一緒に転倒。 だがそこは翔太と違って濡れてない分元気だ。 もしくはあれか、風邪を引かない人種なのか。一番下の妹と同種なのか。 イセリアは直ぐに立ち上がり、お手玉のように雪球を操り出す。 「やったな!? 思い知らせてやろう! 氷河流星衝(アイシクルスターゲイザー)!」 説明しよう! 氷河流星衝とはイセリアがたった今考えた必殺技である! 大げさな動作が無駄で隙が多く見えるが、必殺モーション中に攻撃をしてはいけないと言う不文律によりその弱点を完全に克服! 思いつき故に後にも先にも同じ形が存在しないため、見切られることもない! ――そんな儚い、夢を見た。 「今がチャンスなのだ。ほらリトラも手伝うのだ!」 「え、良いのか? いや、あたしは良いけど……」 リトテト姉妹、胸はともかく狩猟者ゆえの運動能力の高さは折り紙つき。 「ぬわーーーー!?」 容赦ない集中攻撃に剣姫、哀れ轟沈。 だが後悔はするまい。過去は消えぬ! されど省みなどせぬ! それが彼女の心意気! 今は半ば雪に埋まってますけれど。 「アハハハハ! 敵が単一の目標だと思ったら大間違い! 刺客はどこにでも潜んでいるのデス!」 乱入者はイセリア一人ではない。 クリスマスより冬より雪。犬は喜び庭かけまわり、都市伝説は奇襲するのだと。そんな持論を心に乱入し無差別に誰彼構わず(※ただし桃子除く)雪玉を投げまくっているのは歪崎 行方だ。 「他人事のような顔をしていられないのが冬の雪原の戦場なのデス! くらえーくらえーアハハハハ!」 テンション高い。でも桃子は危険なのでと避け続けてる辺り実は冷静という説が濃厚。 「ギャン!? やったわね!」 雪玉をぶつけられた梅子が投げ返すも、頭に血が登った梅子の雪玉など行方には当たらない。 ――行方とは真逆の態度を取っている勇者(つわもの)も居た。 「自分はただ貴女の『姉さんをいじめていいのはあたしだけ』と言う言葉を忠実に守っているだけですよ!」 梅子を狙わず、桃子を集中狙い。正に蛮勇と言えよう桐月院・七海の覚悟完了振りである。 「全力で楽しんでいきましょう!」 レイチェルはその二人の中間、或いは複合だ。梅桃を容赦なくその精密な投擲の的に入れている。 そう、覚悟は完了しているのだ。後のことは考えないのだ。 「怖くないといったら嘘ですが。ただ……なにか。なぜか心が晴れやかでいて穏やかなんです」 七海くん。それって悟りの境地じゃないかな。 「ムキー! 当たらないのだわー!」 梅子、決してノーコンでは無い筈なのだが、興奮しすぎた雪玉の狙いは全然定まっておらず、一方的にぶつけられてもう雪玉まみれだ。黒い羽に白い雪のコントラスト。文字にしてみるとちょっぴりえっち。 「…………」 問題の桃子さん。こちらもかなり被弾しているが、余り反撃せず泰然自若。 それどころか、あらあらとか言いながら梅子の顔に付いた雪玉を払って上げたりしている。 そこに。 「ふ、魔王の命日が聖夜とは……できすぎだな。いくぞッ!」 大雪球を抱えて桃子に特攻するツァインの姿が。 さすがに危険を感じた桃子が、ひょいとかわし。 「もう許さないのだわ――ぶッ!?」 梅子、あうとー。 きゅう、と目を回した梅子が倒れる、ばさりという音が響く。 桃子の羽が、一度ぱたりと揺れ動く。 落ちる沈黙。 ――まさに、嵐の前の静けさである。 「さて」 「も、桃子さん? クリスマスは博愛と寛容の精神が……」 ある意味アーク最凶と謳われる天使()は――満面の笑みを浮かべた。 「みんなまとめて し ぬ が よ い ♪」 「すんません! 生まれてきてゴメンなさ……ギャアアァァァーーー……ッ」 その頃、竜一は。 「雪遊びしたい? いいよいいよ! 任せて! かまくら作ったよ! 雪だるまも傍にあるよ! かまくらから雪玉投げて攻撃するといいよ! あ、両手が寒くなっちゃった? OKOK、俺が両手をぎゅっとして暖めるよ!」 イヴにつきまとっていた。 「……(・×・)」←ドヤ顔うさぎで遊んでいる。 ● 「外? 絶対ヤ。私は、こういう場所でぬくぬくするの。くすくす。いいでしょ?」 イーゼリット・イシュターはプレハブの中でドヤ顔を披露する。 「あ、よかった手伝ってくれるんだよね? じゃあタマネギとジャガイモとニンジンの皮剥きをお願いしたいんだよ」 「え」 「助かる。俺の使う分のジャガイモは剥かなくていいんだ」 「えっ」 衛守 凪沙とディートリッヒ・ファーレンハイトが、自分でも下ごしらえをしながらイーゼリットに頼む。 慌てて周囲を見回せば、そこはある意味戦場だった。 ――そりゃそうだ。 外で騒いでいる人数に対し、プレハブの中にいる人数は圧倒的に少ない。 そして騒いでいる中には、購買の看板娘も存在しているのだから。 一瞬絶句したイーゼリットの肩を、急遽援軍に呼ばれたリトラ(料理上手)がぽんと叩いた。 「まずこのタマネギの山からだ。大丈夫、いつかは終わる」 「結構な人数分になるのね……」 数分後、そこには手に臭いが、袖に匂いがと文句を言いつつもノリノリで調理するイーゼリットの姿が! 「茹でたてのブロッコリーやアスパラなんかをちょっと味見するのって、役得でしょ?」 「料理だったらあたしにお任せ。寒さなんて吹き飛ばす勢いのビーフシチューを作るよ」 凪沙は肉の下ごしらえをした物を持ってきていた。 赤ワインとお酢にタマネギとキウイ、そしてヨーグルトをあわせ、朝からずっと漬け込んでおいたのだ。 「肉の下ごしらえはまだまだ――あと一時間くらいは必要だね。 食べるときに舌の上でとろけるくらいにしないとね」 三高平では知られた某食堂経営者の作るウマトロ角煮定食以上を狙う、と意気込んでみせ、オリジナルレシピでデミグラスソースを濃くしようと鍋に向かう。 「あー、まだまだ。こんなの『煮込んだ』うちに入らないよ。もっともっと濃くするからね」 芽を取った皮付きジャガイモとキャベツ、ニンジン、セロリにザワークラウト、大蒜、ベーコン、水煮トマトを先に小麦粉を塗して焼いたスペリアブと一緒に煮込む。味付けはハーブ、白ワイン、固形スープ。 途中でアク取りもしっかりと。 根菜類が煮崩れたりしないように途中で出したりと、豪快なようでいてちょっと手の込んだドイツ風スープ。 味を見て、ディートリッヒはふむ、と唸った。 あとは塩胡椒で整えれば、良し。 「外で作業している連中、じきに戻ってくるんだよな? 出来立てを熱々のうちに食うのがうまいぞ」 添えるための粒マスタードを準備しながら、プレハブの外に目を向けた。 はてさて。 外の連中に喜んでもらうための料理を作る二人がいる一方、烏頭森・ハガル・エーデルワイスは全く違う目的で鍋を火にかけていた。 小さめの鍋には白いシチュー。 大きめの鍋には赤いシチュー。 赤い方からは、なんだか妙に目がシパシパするような匂いが漂っている。 その上でさらに。 「ついでに変な茸も投入。桃子様の食事に添える悲鳴、一丁上がりです♪」 大魔王の食卓ですか。 よく見れば白いシチューの鍋には『桃子様用』と書かれたメモがあり、赤いシチューの鍋の前には、ハバネロや唐辛子調味料の、空になった瓶が転がっているのである。 ――犠牲者に幸あれ。主に梅子とか梅子とか梅子とか。 「美味しいシチューを作るわ! ……と思ったのだけれど何故か配膳担当になったわ」 (´・ω・`)風味の深町・由利子。 雪合戦の怪我人は自業自得でも、食あたりはちょっと可哀想かと――あ、いや、なんでもないです。 「……まあいいわ、飾り付けを見ていましょう」 そうして外を眺め、ふと、とぼとぼと歩いてくる人影に気がついた。 ずぶ濡れの深町・円である――多くは語るまい。クリスマスの予定を聞かれもせずに押し付けられたアルバイトのために少し遅れて来た円にも、雪合戦の魔の手が忍び寄ったのだ。主に流れ玉。 「こんなにずぶ濡れになって……風邪を引いてしまうわよ」 由利子は娘をプレハブの中に招き入れドイツ風スープをよそい、シャギーの髪をタオルで拭いてやる。 「これ、母さんが作ったんじゃないでしょ。だって美味しいし」 「……来てくれて、ありがとうね」 円の言葉に由利子は笑顔で返して、プレゼント包装のかかった箱を渡す。 「あの……さ。プレゼント……これ」 少しだけ濡れたプレゼントボックスを、円も差し出し――何かを言うべきかと、少しだけ口を開閉した。 結局円には言葉が見つからなかったのを、由利子はただ傍で優しく見守っている。 ――母娘というのは、それで良いのだろう。 その頃、竜一は。 「お腹すいた? 任せて! ホワイトシチューだよ! ニンジンとかもちゃんと食べなきゃだめだよ! はい、あーん!」 イヴに(略) ● 「どこに飾るの?」 「飾りってのは偏ってたら見た目悪いし? だろ? ……ほれ 朱子こっちゃこい!」 飾り付けの少ない方(つまり、人の少ない方)へ向かう、宮部乃宮 火車。彼もまた借り物の羽で飛行していたが――元々自前の羽を持っていない人々からすれば、何かしらの理由や事情がない限り、飛ぶという経験はやはり特殊なものだ。 「戦ってる時以外で飛ぶのなんて……初めてかも」 火車の後をついていく鳳 朱子も、その経験を特殊だと感じる側である。 「こうやってダラダラしてんの、やっぱ良いよな。楽しいわ」 「そうだね。やっぱり……飽きるほど平和なのが一番いい。ずっとこんな時間が続けばいいのにな」 地上からは、大騒ぎする声が聞こえてくる。 雪合戦だろうか。それにしては随分と悲鳴が激しい気がするが――まあ、気のせいだろう。 下方に見えるかまくらからは談笑の声が漏れ、カレーの匂いが漂ってくる。 ――冬空の寒さの中に差す、穏やかな陽だまり。 それが文字通りの意味だけではなく、自分たちの心の中にも由来するのだと、朱子にはわかっている。 「火車くんと一緒にいられてすごく嬉しい、本当に幸せ。 こんな気持ち知らなかった、こんな日が来るなんて考えたこともなかった。――ありがとう、火車くん」 「ん……ああ」 落ちた沈黙は、暖かなもので。 「朱子。手ー冷たくなってんじゃね?」 不意に、火車が朱子の手を捕まえて、ジャケットのポケットへとさらう。 ――自分の手と一緒に。 「! 手、冷たくない?」 革醒と共に機械と化した手だ。この寒気に、例えば人肌のような温度は望むべくもない。 「ま こんな時くらいな?」 「こんな時くらいは……ね。ふふ」 誰かがいるわけでもない場所。 喧嘩両成敗とばかりに、イヴの指示によって移されていた『GAMEOVER』のリースと梅桃らしき天使の飾りが二人を見守っている。 つないだ手は、寄り添えない距離を許さない。 「戦いになったら背中任せるぜ?」 「……うん。火車くんの背中は私が守る。私のことも守って」 その頃、竜一はイヴに(略)。 「あ、梅子あそこ! UFO!!」 「えっ!? ドコどこ!!」 御厨・夏栖斗の唐突な声に、梅子は思わずつられて空を見回して。 「やっべぇ……まさか……こんな前時代的なのに引っかかるとか……」 ――その間にかっ攫われる大きな星。 「ちょっと! それ返すのだわ!!」 「こっちこっちー」 いじめっこモードに入った夏栖斗が星をあっちにこっちにとチラチラさせて、その様まさに闘牛士。 「やだー! それあたしが飾るのー!!」 半泣きになりつつある梅子と、楽しんでる夏栖斗。――そしてふと少年を襲う、猛烈な寒気。 「すごい殺気……、なにこれ世界の終わり?」 うん、きっとそう。 「まあそれは大変ですね。怪我したのかも知れませんよ?」 にこにこしてる、しろいあくま。 「いや、キズとか別にないけど……っ!」 「まあまあ、知らない間にどこかぶつけたのかも知れないじゃないですか」 「あのっ! ちょっとまって? ここ上空結構高いよ?」 「加護切れたら大変ですもんね? ちょっとあっちまで行きましょう、私が翼の加護をかけなおしてあげます。大丈夫、サービスですよ?」 ――笑顔で木の裏まで連れて行かれる夏栖斗であった。 あー 「? あ。桃子、さっき悲鳴が聞こえなかった?」 「気のせいじゃないですか?」 首を傾げる梅子と、素知らぬ顔で一人戻ってきた桃子。姉妹の微笑ましい(?)やりとりに、新田・快は全てをなんとなく察しつつ、何も聞かなかったことにした。 「や、梅子さん桃子さんメリークリスマス! ホットレモン貰ってきたから、一緒に一息付かない?」 「あら快? どうしたの……ってあったかいの? やったもらうもらうー!」 「うん、皆が楽しそうにやってるのを見に来た、かな」 「クリスマスなのに予定、ないんですね」 飛びつく梅子が零さないように飲み物を渡しつつ答える快に、にっこり笑う桃子が図星を指す。 「こっちに星が落ちてるんだが、これは梅子のだな?」 音楽に合わせてゆっくりと色を変える電飾を、基板から組み合わせて作っていたジェイド・I・キタムラが、下から梅子たちに声をかける。 「あー! そうよ、あたしの星!」 慌てた様子で降りていく梅子を見ながら、入れ替わりに上がってきたジェイドが快に話しかけた。 「お前の相棒と一緒に落ちてたんだが……邪魔は程々に、と言っといてやれ」 「ははは……」 地上にて、その怪我人(自業自得)を治療しているのは氷河・凛子である。 「気を付けてくださいね」 今は目を回しているが、じきに気がつくだろう。 夏栖斗を置いて、飾り付ける人々の後ろで、バイオリンを手に聖歌からはやりのクリスマスソングまで弾いたり歌ったりしていた雪白 桐に飲み物を持っていく。 「お疲れ様です。少し休まれてはどうですか?」 「ありがとうございます。丁度のどが渇いてたんですよ。さて最後まで歌い続けますよー」 一度止まった音楽に、ニニギアのお腹がくぅと鳴った。 「あったかいところで、休みましょうか。おなかすいたし寒いし、シチュー食べたいな!」 「そうだな、ニニも良く頑張ったぞ。少し腹も空いたしあの辺りなら暖かそうだしあそこで休むか? ああ、焦らなくてシチューは逃げないからほら、待てってば」 ランディが手を引かれるままに、その後を笑いながら付いていく。 その様子を眺めて、ジェイドは少し目を細めた。 「――笑っちまうくらい平和だな。 こういう時間や笑顔を守れってアークの奴らは言うんだろう? そうだな……もう少し、頑張らねえとな」 「できたー!!」 梅子の嬉しそうな声が雪に覆われた周囲に響く。 ツリーは、どことなく嬉しそうにも見える様子で――いつしか、三高平市郊外への低速移動をやめ、リベリスタたちのされるがままになっていた――わずかに揺れる。 伸暁がツリーを見上げ、歌い古されたクリスマスソングを口ずさむ。 「長く歌われ続けてきたメロディには、それだけソウルがパッケージされているってことさ」 片方の眉を上げ、ロックバンドの歌い手はそう嘯いた。 「Merry Christmas!」 普段のやる気のなさそうな表情とはまるで違う笑顔で翔太が声を上げ、釣られたように皆、同じ言葉を口にした。 その頃(略) <了> |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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