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黄泉の狭間で我が子を求め

●ただ一つの願い
 男は、我が子が生まれるのを本当に心待ちにしていた。
 もともと子供好きであった彼は、結婚してからずっと子供が欲しかった。その願いに反して、なかなか子宝には恵まれなかったが――結婚8年目にして、妻からとうとう妊娠を告げられたのだった。
 その時の男の喜びようといったら、近所迷惑だからやめなさいと妻が彼を叱りつけるほどで。それでも、男は待ち望んでいた報せに、ずっと笑みを崩さなかった。
 生まれてくる日を指折り数え、子供の名付けに頭を悩ませ、保険はどうする学費はどうすると、妻が呆れるぐらいの浮かれようだったという。

 そんな男が亡くなったのは、臨月を間近に控えたある日のこと。
 仕事帰りにひき逃げに遭った男は、我が子の顔を見ることなく呆気なく逝った。
 ひき逃げの犯人はすぐに捕まったが、失ったものはあまりに大きすぎた。
 夫を失い悲嘆に暮れた妻は、後日、男の子を産んだ。彼女自身、まだ最愛の夫の死から立ち直ってはいなかったのだが……夫があれほど待ち望んでいた子供を産み、健やかに育てることが、彼の供養になると信じていた。
 そして、緩やかに時は流れる。

 街灯の頼りない光の下、かつて男だったものが我が家への道を歩く。
 己の死も、人としての理性も、今の彼にとっては忘却の彼方にあった。
 残されたのはただ一つ。我が子に会いたいという、切なる願い。それを邪魔するものは、誰であろうと何だろうと、許しはしない。 
 ――俺の子。俺の子はどこだ。家にいるのか。会いたい。会いに行く。待っていろ。
 その願いが取り返しのつかない悲劇を生むことすら、今の男にはわからなかった。

●人を失いし人型のもの
「今回の任務はエリューションフォースの殲滅。フェーズは2、戦士級です」
 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)が、アーク本部のブリーフィングルームに集まったリベリスタ達に向けて口を開く。彼女は手早く端末を操作し、必要な情報をスクリーンに映した。
「このエリューションフォースは、数ヶ月前に亡くなった30代男性の思念が元になっているようです。外見も、その男性の面影を残しています」
 特定の個人の思念であるからには、何か行動指針はあるのかと問うリベリスタに、和泉は頷きを返す。
「エリューションフォースは、かつての自分が住んでいた家に向かおうとしています。彼の妻子……正確には、生まれたばかりの子供に会うことだけを目的としているようです」
 妻と子でなく、子だけなのか。和泉はまたも頷き、言葉を続けた。
「この男性は、子供が生まれる直前に事故に遭い亡くなりました。子供をその手に抱くことを、何より楽しみにしていたそうです」
 その無念が、革醒してエリューションフォースと化したというのか。
「しかし――エリューションフォースに、人としての理性はありません。行く手を阻むものは、誰であろうと容赦しないでしょう。それが、かつての妻であったとしても」
 かつての自宅にエリューションフォースが辿り着けば、死んだはずの夫の姿に、妻は激しく動揺することだろう。その手に易々と我が子を抱かせるなどとは考えにくい。結果、どうなるかは火を見るより明らかだ。場合によっては、子供すら巻き込まれるだろう。
「男性の妻子がエリューションフォースに害される前に、これを殲滅してください」
 今ならば、まだ食い止めることが出来る。和泉はスクリーンに地図を表示させ、戦闘場所の指定を行う。かつて男が事故に遭い、死亡した道路――そこに向かえば、エリューションフォースと遭遇することは容易いだろう。
「エリューションフォースは人の形をとり、電撃を纏う拳で攻撃してきます。地面を踏みしめることで重力波を発生させたり、咆哮で動きを封じることも可能ですので、くれぐれも注意してください」
 敵は一体。その分、個体としては強力な部類ということだ。
「――以上です。皆様には至急の対処を要請します」



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:宮橋輝  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年12月21日(水)23:21
 宮橋輝(みやはし・ひかる)と申します。

●成功条件
 E・フォースの撃破。

●敵
 30代男性の思念を元にしたE・フォース(フェーズ2)。
 思念体ですが、おぼろげに生前(がっしりした成人男性)の姿を留めています。
 人としての理性は既に失われていますが、我が子への愛情だけは残っているようです。
 我が子に会う事のみを目的としており、行く手を阻む者は全力で排除にかかるでしょう。

 E・フォースの攻撃方法は以下の通りです。

 『雷撃を纏う拳』→物近単・感電、ショック
 『重力波』→物近範・重圧
 『咆哮』→神遠全・呪縛

●戦場
 男性が事故に遭い、死亡した道路。
 彼の妻子が住む家から、ほどなく近い場所にあります。
 人や車の通りは多くありませんが、まったく皆無でもありません。

 皆様のご参加を心よりお待ちしております。

参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ナイトクリーク
犬束・うさぎ(BNE000189)
デュランダル
楠神 風斗(BNE001434)
クロスイージス
ステイシィ・M・ステイシス(BNE001651)
ナイトクリーク
御津代 鉅(BNE001657)
プロアデプト
レイチェル・ガーネット(BNE002439)
ソードミラージュ
ルカルカ・アンダーテイカー(BNE002495)
クロスイージス
神谷 要(BNE002861)
スターサジタリー
エルヴィン・グレイ(BNE003171)

●父として
 現場の道路は、しんと静まり返っていた。
 もともと人通りの多い場所ではないから、深夜のこの時間となれば尚更だろう。人ばかりか、街すらも眠りについてしまったかのような静寂。
 街灯の下で、いくつもの懐中電灯が白い光を放っている。ここに立ち、今夜戦うべき敵を待ち受けるリベリスタ達が持ち込んだものだ。
 コートのフードを目深に被り、黒猫の耳を隠した『シャドーストライカー』レイチェル・ガーネット(BNE002439)が、周囲に人払いの結界を張る。拘束力は弱いとはいえ、人の少ないこの時間であれば効果はあるだろう。力無き者が戦いに巻き込まれる事は、避けなくてはならない。
(わが子を抱くどころか、その顔すら見ることの叶わなかった父、か……)
 アーク経由で入手した写真を手に、『赤光の暴風』楠神 風斗(BNE001434)は子供が生まれる前に死んでしまった男の無念を思う。
 写真には、男の妻子が写っていた。数ヶ月前に夫を亡くした妻の表情にはまだ陰りが残っていたが、赤子は無垢な笑顔を見せている。
(できることなら、見せてやりたい。抱かせてやりたい。だが……っ)
 拳を強く握り締める様子を見て、『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)が声をかけた。
「ちょっと楠神さん力入りすぎですよ、子供でも産む心算ですか貴方」
 しかし、その軽口にも返事はない。自らの心を押し殺すのに精一杯で、聞こえてすらいないのだろう。これでは、緊張の解しようがない。
(無理もない、か。嫌な仕事です)
 それでも、やらなくてはいけなかった。それがリベリスタの仕事だから。
 道路の片隅に、半分以上しおれてしまった花束が置かれている。ここで事故に遭い、命を落とした男に供えられたものだろう。それを見つけた『シュレディンガーの羊』ルカルカ・アンダーテイカー(BNE002495)は、視線を上げて夜の街を眺めた。正確には、この道路の先にあるはずの、男の家の方を。
「こんな近い所で。あとすこしだったのにね」 
 あと少しで、子供に会えるはずだったのに。だが、男の命が失われ、人ならぬものに変じた今となっては到底叶えられない願いだった。その手は、届かせてはいけないのだ。
「思う所は色々とありますが――」
 『リピートキラー』ステイシィ・M・ステイシス(BNE001651)が、血と同じ色をした瞳を僅かに揺らす。己を人外たる身と認める彼女にとって、死してなお愛する者を求める男の姿には、どうしても考えさせられるものがあるのだが。
(――今は、考えない。考えていては、腕が鈍りますから)
 一方で、心の揺らぎを見せない者もいる。『燻る灰』御津代 鉅(BNE001657)は、それぞれに思いを抱えているだろう同行者達の様子を眺めながら、依頼の遂行をまず第一に考えていた。どういう事情であれ、所詮はエリューションフォースだ。個体として強力とはいえ、単体なら厳しい依頼というほどでもない。
(想いはどうあれ周りも乗り気のようだから、苦労もせんだろう)
 彼がここに立つ理由は、ただそれだけだ。
「……来たようですね」
 黒いコートを身に纏う『不屈』神谷 要(BNE002861)が、落ち着いた口調で敵の発見を告げる。顔の半分を覆うストレートロングの銀髪から、紅玉の瞳が真っ直ぐ敵へと向けられていた。
 中背ではあるが、がっしりとした体格の男だった。思念体だということを一瞬忘れそうになるほど、その姿は人の形をはっきりと留めている。
 それもまた、遺した想いの強さゆえなのか――。
 煙草を燻らせ、『硝煙の轍』エルヴィン・グレイ(BNE003171)が暗灰色の瞳を細める。娘の前では煙草は吸わないと決めている――彼もまた、一人の父親だった。
 だから、理解はできる。我が子を得る喜び。それは何物にも代えがたい、人生で最高の喜びとなるだろう。
「だが、お前は間違っているよ」
 エリューションと化したからではない。もっと、父親として根本的なことだ。
「俺も碌な父親じゃねえ……だが、お前さんも出来の悪い父親だ」
 御託はここまでと言わんばかりに、彼は銃を構える。エリューション化で理性を失った男が言葉を聞き入れることは決してあるまい。ならば、力ずくでも阻止するまで。
「……行くぞ。リベリスタとして、悪性エリューションを消去する」
 風斗が、己に言い聞かせるかのように強い口調で言う。
 直後、リベリスタ達は一斉に行動を開始した。

●砕かれた想い
 誰よりも速く動いたルカルカが、男の姿をしたエリューションフォースの前に立ち塞がる。波打つピンク色の髪からのぞくのは、渦巻き状に伸びた羊の角。華奢な少女の腕が、巨大なコンクリートの塊に鉄パイプを突き刺しただけの無骨なハンマーを易々と振るう。
 速度を活かし、一瞬の集中の後に放たれた一撃は男の胴体へと叩き込まれ――衝撃で動きを封じる。思念体といえど、触れることが可能な以上は物理攻撃も充分有効だ。
 彼女の後に続いて前に出た鉅が、エリューションフォースの進路を塞ぎながら捨て目を利かせる。彼の役目は、攻撃よりも敵を前へ踏み込ませないこと、そして敵の動きを『視る』ことにあった。衝撃により麻痺に陥っているなら好都合、その間にこちらが態勢を整えるまで。
 残り二人の前衛が、さらに男を囲むように動いた。
「すみませんが此処は通せません。生憎、生と死は一方通行らしいんです」
 言葉とともに、うさぎが半円のヘッドレスタンブリンに似た愛用の武器を振るう。涙滴型をした11枚の刃が男を切り裂き、猛毒とともに激しい苦痛を刻んだ。直後、男の絶叫が響く。
『どこだ――俺の子はどこだッ! 家、家だ家だ、家にいるんだ……俺のッ』
 狂熱を帯びた男の目が、ゆっくりと前に立つリベリスタへと向けられる。理性も、人としての判断力も失った彼にわかるのはただ一つ。眼前の奴らが、自分を阻もうとしていることだけだ。
「……ここから先は、一歩も通さん」
 全身に闘気を漲らせ、風斗がなおも言い放つ。もはや言葉は通じないと充分過ぎるほどにわかっていたが――今の男はもう、妻や子を傷つける存在でしかないから。
 男から距離を取り、自らの能力で脳の伝達処理を向上させたレイチェルが、男の動きをつぶさに観察する。正気を失った思念体といえ、行動のベースはヒトのそれであるはず。思考を読み、行動の全てを把握し、制御下に置く。それこそが彼女の狙い。
(とても不幸で、悲しくて……でも、もう終わってしまった事)
 我が子への愛情ゆえに、この世に留まってしまった男の想い。しかし、結局のところ、ソレはただの思念体に過ぎない。
 残された家族のために、何より亡くなった本人のために。
「速やかに、排除させていただきます」
「……神秘と関わりの無い方に被害が出る前に、止めるしかないですね」
 最後方から僅かに踏み込み、仲間全員を射程内に収めた要が、十字の加護を与えて仲間達の意志力を高める。回復支援を第一に担当する彼女もまた、男から視線を外していない。支援のもう一翼を担うステイシィも、前衛に回復が届く位置まで前進した。
 回復役二人の動きを確認し、エルヴィンが動く。銃の射程ギリギリを計算するとともに、集中から射撃手としての感覚を研ぎ澄ませていく。
「お前さんの望みは、親ならば誰もが願う事だろうよ。だがな、お前さんのは逸脱してもはや妄執だ」
 かつて、男が願ったこと。
 我が子を腕に抱くこと。生まれてくる子が、幸せであること。
「それを手前はぶち壊そうとしているんだ。……解るか?」 
 解らない。今の男に解るはずがない。それでも――許すわけにはいかなかった。絶対に。
 麻痺から回復し動き出した男に、再びルカルカが迫る。
「こどもが生まれるのを、ひとつ、ふたつ、みっつ数えて、あと少しで消えてなくなった。なんて理不尽」
 詠うような口調から振り下ろされるハンマーが男を打つ。が、今度は僅かに浅い。
『邪魔を……するなッ!!』
 男が地面を踏みしめ、彼を中心に強い重力波を発生させた。激しい衝撃が前衛の四人を打ち、のしかかる重圧が彼らの動きに枷をする。ただ一撃でこの威力、やはり侮れる相手ではない。
 ――理不尽が形をなしたせかいには、手を伸ばす鬼が生まれる。ああ、不条理なせかい。
 羊の角持つ少女の金瞳が、男を見つめる。

●その手の先は
 戦いは長期戦の様相を呈していた。専任の回復役を二名割き、前衛がそれを守る形で敵を抑えるという形を取ったがために、守りは厚いが攻撃の手数がやや足りない。うさぎは錬気を頼りに大技を連発し、浅からぬ傷を穿っていくが、それでも男が倒れる気配すら見えなかった。時折、レイチェルがオーラの糸で男の動きを封じてはいたが、彼女の速さをもってしても先手を取れるかは五分。完璧に捕縛し続けることは難しいだろう。
 オーラの糸から逃れた男が、再び前に進もうと動く。
「通さないと、言ったはずだ……っ」
 風斗が構える“デュランダル”の刀身に刻まれた赤いラインが、主のオーラに呼応して強く輝く。オーラを纏う斬撃が、不退転の覚悟とともに振り下ろされた。男もまた、障害を打ち砕かんと雷撃を纏う拳を放つ。
(今のところ、近接攻撃の誘発は成功しているか)
 攻撃から身を防ぎつつ、鉅が冷静に現況を分析する。しかし、まだまだ油断は禁物だ。彼の視線の先、頷いた要が敵の射程外に下がりつつ全身の力を活性化させる。前衛の回復に備えて射程ギリギリに残るステイシィが、ハンドガード付きの小型チェーンソーを携え、男の姿を血色の眼に映す。命尽きてなお、愛する者を求め歩き続ける死者を。
 願うことは一つ。ただ会いたい、それだけ。
 エルヴィンの銃から放たれた弾丸が、付与された魔力によって男の身を貫く。
「お前さんがやるべき事は、あの子の幸せを祈る事じゃないのか? それを、それを壊してどうするんだ!」
 声は届かぬと知っている。その言葉が己のエゴとも知っている。それでも、黙ってはいられない。娘を得た“父親”の一人として、言わねば気が済まない。
『……俺の子、どこだ。どこにいる……ッ』
 空ろな目を虚空に向け、男が口を大きく開ける。
 鉅が、素早く全員に警告を飛ばした。
「来るぞ!」
 今回、リベリスタ達が最も恐れる攻撃である呪いの咆哮。それを阻止すべく、レイチェルが咄嗟に聖なる光を放つ。狙いを乱すことができれば、あるいは――。
『そこを、そこを……どけぇえええええええッ!!』
 響き渡る咆哮。充分に備えていてもなお、全てを防ぎ切ることは不可能だった。リベリスタ達の半数が動きを封じられたが、逆に考えれば、そこまで被害を抑えられたともいえる。
 まさにこの時のため備えていた要とステイシィが、立て続けに光を放って仲間全員の呪縛を解く。自由を取り戻したうさぎが、ルカルカが、武器を手に回りこんだ。
「ルカは墓守なの。だから死人がよみがえるのなんて吐き気がしちゃう」
 幻影を纏う攻撃が男を翻弄し、鬼の銘を持つ刃が仮初の皮膚を切り裂く。
『ずっと子供が欲しかった……ずっと、ずっと!』
 生前の姿、生前の声で、男の形をしたエリューションフォースは叫ぶ。阻まれても阻まれても、あがき続ける。自らの想いを訴え続ける。
 だが、と鉅は思う。中途半端に理性が残り問答が可能な状態よりは、まだ今回はやりやすい。なまじ言葉が通じる相手であれば、動きが鈍る者が出る可能性もあったろうから。
 敵の攻撃がひときわ激しさを増す中、レイチェルが聖なる福音を響かせ、仲間の傷を癒す。前衛は皆、よく敵の攻撃に耐えていた。男の前進を食い止める壁に、まだ綻びはない。
 いざという時には前に出て戦うという覚悟を胸に、要が戦況を見守る。彼女が前線で攻撃に加わるとすれば、それはリベリスタ達が窮地に追い込まれた時だ。仮にそうなったとしても、最後の最後まであがくしかない。
(――私達の後ろには、救われるべき方がいるのですから)
 同様に前衛の交代要員として控えるステイシィが、男に向けて口を開いた。
「さて……お気持ちは痛いほどに分かりますよう」
 前衛を打つエリューションフォースの攻撃は重い。男の無念が、死してなお尽きぬ渇望が、そのまま威力として表れたかのように。
 でも、だからこそ。この先に行かせるわけにいかないのだ、決して。
「……拳を振り回すのも、地団太踏むのも、喚き立てるのも当然です。そりゃ悔しいでしょう悲しいでしょう……酷い話ですものね」
 一通りの攻撃を喰らって、なお前線に立つうさぎが、男に声をかける。本当に酷い話だと思うし、嫌な仕事だとも思う。
「でも駄目です。どうぞ恨んで下さい。憎んで下さい」
 ――その代わり、死んで下さい。
 最後の言葉と同時に、うさぎが間合いを詰めた。男をもう一度の死へと導く刻印が、一つ、二つと刻まれていく。その刻印を貫くようにして、エルヴィンが弾丸を放った。
「仕舞にしようぜ。もう、苦しむのもよ」
 絶好の間合いに滑り込んだルカルカが、無骨な鉄槌を澱みなく振り上げる。
「灰もなにも残さずに、けしさってあげるわ」
 振り下ろされる渾身の一撃、そして二撃目。それが、止めとなった。
 断末魔の絶叫とともに、男の姿をした思念が薄れていく。風斗が駆け寄り、持って来ていた写真を消え逝く男へと示した。彼の妻と、あれほどに待ち焦がれた我が子の姿を。
「子供は、元気で育っているぞ。名前は――」
 その名前を告げた瞬間、男の絶叫が止まった。
『……それ、は』
 崩れゆく目元から零れたのは、思念の残滓か、涙か。
『俺、が……考えた、名前……だ』
 ゆっくりと、男は写真を掴もうと手を伸ばし――そして、消滅した。

●遺されたもの
 エリューションフォースの消滅を見届けた後、鉅はサングラスを直して煙草に火を点けた。
(渋るのがいるようなら止めを刺そうかとも思ったが、いらん心配だったか)
 ともあれ、依頼は無事に果たした。同行者の中には、複雑な想いを抱える者も多いだろうが。
「……畜生」
 うさぎが、喉の奥から声を絞り出す。泣くのは、終わった後と決めていた。自分達はやるべき仕事をした、それは確かな事なのだけれど。
「会いたい人に会えないっていうのは、辛いな……」
 隣に立つ風斗が、そう呟いて、男の妻子が写った写真を仕舞う。
 彼が、死してなお求めたもの――。
 死んでも、会いたい。だから、会いたいと想う気持ちが形を取る。取ってしまう。
(人外たる身としては、そこに意味を見出したくなりますが……)
 ステイシィは、そう思う。為すべき事は、一つしか無いのだとしても。

 道路の片隅に置かれた花束。その隣に、エルヴィンが花を手向ける。
「ルカは墓守だから、貴方のもう一度の死は悼んであげる」
 ルカルカが言い、隣にいたレイチェルも短く黙祷を捧げる。要もそれに倣った後、彼女は男の家があるはずの方角を見た。今頃は、母子揃って寝息を立てていることだろう。
「――あの子の事、見守っててやってくれよ」
 立ち去り際、エルヴィンが供えた花に向け、そっと囁いた。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 なかなかに後味の良くない話だったと思います。
 何が正解かは私にもわかりませんが、皆様のプレイングに込められた想いは、全力で受け止め、リプレイに描写させていただきました。何か心に残るものがありましたら幸いです。

 戦闘については、攻撃手の不足が長期戦に繋がったものの、厚い回復支援のおかげで大事に至りませんでした。時間制限がある戦いであれば別ですが、こういった場合は堅実な作戦が一番ですね。
 当シナリオにご参加いただきまして、ありがとうございました。