●今日のオトメティック占い☆乙女座のアナタ ハプニングが起きちゃって超大変☆ でも大丈夫! アナタを助けてくれる人が現れるでしょう。 その人がアナタの運命の王子様かも☆ ●ある寒い日 ――大抵は三高平市に居るが、近郊の町に出かけるのも別段珍しい事でもない。 今日も今日とて寒い一日ですなァ、とあるリベリスタから貰ったマフラーに顔を埋めて思う。幻視で何とかマトモに見せているが、実際はノースリーブだし。 ポケットに突っ込んであるケータイから垂れたTHE☆Big首領のストラップがチャラリと鳴った。ふー、と白い息を吐いて――横断歩道の信号が青くなるのを待つ。 待っているのは自分と、イヤホンを耳に付けケータイを弄っている少女。何やら表情が緩んでいる……あぁ、占いサイト。いい結果だったんだろうか。 占いか。もしアークが無かったら自分はこの予言の力で占い師でもやってたのだろうか……なんて、あ、青信号――…… ――あ。 脳内に未来の電波、あ、これは、カレイドと接続してないからノイズが酷いけどこれは、間違いなく、 この少女が信号無視のバイクに撥ねられる……! 「危ないですぞッ!!」 ほぼ反射、咄嗟に手を伸ばして、肩を掴んで、引き寄せて、止めた。 「え」 イヤホンがポロリと外れる。少女の手からケータイが落っこちる。転がる。占いサイト。その少し前を通り過ぎて行く。猛スピードのバイク。 「……え」 少女が見上げる。 「あー良かった間に合った……」 お怪我はありませんか。 「………え」 少女が目をパチクリ。やがて、問う。何で、と。 人間ロボットは笑顔で答えた。 「女性は皆、お姫様ですから」 「…… !」 『今日のオトメティック占い☆乙女座のアナタ ハプニングが起きちゃって超大変☆ でも大丈夫! アナタを助けてくれる人が現れるでしょう。 その人がアナタの運命の王子様かも☆』 それは……偶然の悪戯か、必然の真理か。 お気を付けて。去ってゆくその背を真っ赤な頬で見送りながら。 ●それから 「……」 運命だ、と思う。いや運命、いや必然、これは定められた運命、逢うべくして逢ったんだ。必然という名の運命なんだ。あぁ、どうしよう、どうしましょう、私、今、恋してる。恋してるんだ、これが恋なのね。だってこんなに胸がドキドキドキドキドキドキドキドキ止まらない止められない止めたくないぐるぐるぐるぐる頭もポーッとふわふわきらきらこれが恋なのね必然運命の恋なのねどうしようどうしようお姫様だなんてそんなウフフフフ恥ずかしいなぁでも大胆なのは嫌いじゃないわ寧ろ好きよ好き好き好き好きドキドキドキドキ心がキュンと切ないわでも幸せ私とっても幸せだってこんなに恋してるドキドキしてるあぁあの人に会いたいあの人に会いたいお礼も言いそびれてしまったわ私ったらなんて人あの人ったらなんて人私の心を盗んでいったわ会いたい会いたい会いたい会いたいずっと傍にいてずっとずっとずっとずっとあの人を見ていたい見つめ合っていたい私だけのモノにしたい私だけの私だけの王子様うふふお姫様は王子様のもの王子様はお姫様のものだもの会いたい会い たい私の私だけの私だけの王子様会いたい会いたい会いたいなぁ。 かくして天使が舞い降りる。 「よぉし! その願いを叶えてあげようっ☆」 え。見上げた先にはハートの顔した天使様。 「合☆体」 「えっ……」 天使が少女の体と重なる――吸い込まれる様に。 閃光。 そして。 「今日から君は恋の魔法少女さ! 今の君は何でも出来る!」 ふりふりきらきら。 私は魔法少女になった。 ――何でも出来るんだァ…… ●そんで 「……」 機械フォーチュナ『歪曲芸師』名古屋・T・メルクリィ(nBNE000209)は両手で顔を覆って黙り込んでいた。 卓上には彼のケータイ。開かれたそこには受信フォルダ。 ズラーーーッと、同じアドレスからのメール。 『おはよう』 『好きです』 『今何してるの?』 『好きです』 『おやすみ』 『好きです』 『会いたいなぁ』 『好きです』 うわっ……。 そして一番新しいメールが、 『会いに行くね』 うわぁっ……。 「……経緯は先程お話した通りなんですが。 いや、ただの……ヤンデレさんなら、まぁ、アレだったんですけど」 ようやっと顔を上げるメルクリィ。まさかこの顔面凶器のパッと見893が、なぁ。複雑っちゃあ複雑な気持ちだ。 モヤモヤした気持ちを胸に、フォーチュナが操作したモニターを見遣る。頭部がハートのキューピット、的な異形。 「アザーバイド『天使様』。ザックリ言うとエリューションを除く生命体に取り憑く能力を持っとりまして。 代わりに取り憑いた対象を物理的・神秘的に超強化するのですが……ずっと取り憑かれとりますと、やがて憑依された者は天使様に魂と精神をすっかり喰われてしまいます。 これが件の少女――篠田・莉央子(しのだ・りおこ)に取り憑いてしまいまして。お陰で私のアドレスや大方の所在地を知られてしまってこの有様なんですが……」 言いながら映し出したのは魔法少女、魔法少女だ。魔法のステッキを箒にして空を飛んでいる。 「彼女のこのコスチュームや魔法のステッキ。これこそが天使様です。まだ取り憑いて日が浅いので莉央子様を助ける事が出来ますぞ。 彼女のダメージは全てこのコスチュームとかに通るので、このコスチュームが破壊されない限りは……天使様を討伐するまでは思いっ切り攻撃しても大丈夫ですぞ。 しかし侮る勿れ! 彼女、結構強敵です。色々トンでますし。 魔法の力はどれもズガーンとド派手で破壊力マシマシです。身体能力も高められてますし割と何でもありですぞ。お気を付け下さいね!」 では場所について、と映し出したのは廃墟となったパーキングエリア。ガランと人気はなく、広い。 「皆々様が到着して幾許か経った頃に莉央子様が箒に乗ってこの上を通過するでしょう。 スルーしたらそのまま通り過ぎてしまうでしょう。が、何かしらアクションを起こせばこちらに気付く筈」 その辺は皆々様にお任せしますが。メルクリィがモニターからリベリスタへ視線を戻した。それから、と続ける。 「天使様の討伐後……莉央子様のアフターケアですが」 溜息。 「神秘秘匿の事もありますし悪い夢だったんだよと言いくるめるなり何なり……ホンットお願いしますマジ頼みますぞ冗談抜きで頑張って下さいね全力で応援しとりますぞ任せましたぞ私には皆々様が頼りなんですからァア!!」 機械ハンドで肩を掴まれユッサユッサ。 やれやれだぜ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ガンマ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年12月22日(木)22:59 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●マジカルヤンデレ 「メル~ちょっと笑って。いいから、笑って」 「はい? ……。はい」 ぱしゃっ。 フラッシュ網膜。ぱぱっと写真現像。「さすがアーク、印刷速度が違うね」等が少し前の話。 複数用意したメルクリィの笑顔写真。作戦で使うんだろうなと悟ったフォーチュナは幻視を使って化けやがったが、まぁ何とか使えるか。『K2』小雪・綺沙羅(BNE003284)はそんな事を思いながら双眼鏡で上空を偵察していた。 双眼鏡のレンズいっぱいにカラリと乾いた冬の空。遥かに高い白い雲。辺りは廃墟。 「名古屋さんも、恋人が出来たら少しは言動が普通に……」 …………。 ………。 ……。 「ならないですね」 あの空みたいな爽やかさ、『のんびりや』イスタルテ・セイジ(BNE002937)はニッコリ断言。 「想像したら、あの笑顔と言動のままで篠田莉央子さんとキャッキャウフフしてる光景が浮かんだとか、そんな事ないですよ?」 説得用に準備したオトメティック占いの載っている本を手遊びにパラパラと。 「少し性急だが、こんなにも突き進めるって素敵な事だよ。だから喰い甲斐が有るのか?」 王子との恋を応援する為にも悪者はやっつけてしまわないとね。『一葉』三改木・朽葉(BNE003208)の視線の先には『不機嫌な振り子時計』柚木 キリエ(BNE002649)、その手に握られたメルクリィの携帯電話。身長差的に画面が見えないので背伸び背伸び。 「これで良いかな」 「あ、最後に『P.A.跡地で待ってる。』と」 「うん、了解」 キリエの横で共にメール文を見ているのは『夢見る乙女』樅山 多美(BNE003276)、『送信しました』という画面を見届けてから息を吐き天を仰ぐ。ミニスカのマジカル少女っぽい服がキラリと揺れる。 分かります。分かりますよ莉央子さん。 メルクリィさんは命の恩人、あなたの王子様ですものね。 「彼の大きな手で抱きしめられたい、ずっと一緒にいたいって気持ち……大切にしてあげたいの」 指組み祈る。彼女が来るのを待ちながら。 「優しくするのは簡単さ。相手を知らなければ、それで済む」 めりくりも、誰彼かまわずお姫様とか言ってるからこういう事になる。咥え煙草の『人間失格』紅涙・りりす(BNE001018)は常の虚ろな目に双眼鏡を翳し、冬の蒼穹と立ち上る紫煙を視界に映した。 「僕にいわせりゃ『優しさ』なんてモノは、知った後でも、それを貫ける「強さ』だと思うけど」 物陰に隠れ、準備は万端。さて、そんじゃお仕事とイきましょう。 下ろす双眼鏡、鮫の赤い目の先に一つの影。集中開始。高める身体のギア。さぁ、いつでも。 「リベリスタ・メイクアーップ!」 天に手を『突撃だぜ子ちゃん』ラヴィアン・リファール(BNE002787)の身体が幻想纏いから溢れた光に包まれる。それと同時にフリフリで可愛い魔法少女衣装へ、両手にはキュートなマジックガントレット。 「魔法少女マジカル☆ラヴィアン参上だぜ!」 衣装の理由?対抗意識だ!カッコイイポーズ、視線の先には高度を落として接近してくる魔法少女。 こっちを見ている。病んだ目線。莉央子。 守護結界の印を切りつつ綺沙羅はそんな彼女へ皮肉たっぷりテレパシー。 『ちょっとそこのおばさん! 年甲斐も無く似合わない魔女っこコスプレしてるそこのあんた! あんたがキサ達のメルをストーキングしてるストーカーでしょ! いい加減にしてよね、メルはキサ達のものなんだから!!』 いかにも自分達の方が親しいんだとばかりに捲し立てる。 『私おばさんじゃないわよ、オチビさん。ストーカーとかも失礼しちゃう。 メール、見たわ。何であの人はいないの? 何で貴方達が居るの? 何で貴方達はあの人の名前を気安く呼ぶの? しかもあだ名で』 返って来たテレパシー、それは綺沙羅だけでなく全員へ。 「え、と……親衛隊としては、今の君を彼に会わせられないよ。危険だから」 一歩前へ、超集中状態のキリエ。その背に、皆の背に、朽葉の翼の加護が授けられる。 「障害の有る恋って燃えるだろ? ふふ、王子に会わせなんかあーげない」 立ち塞がり、妖艶に笑い、体内魔力を活性化させる詠唱を紡ぐ。 更に仁王立つのは多美の逞しい脚、構える刃と楯。目には闘志。 「メルクリィさんに会いに来て下さったのですね。騙すような事をしてすみません。 でもまだ、彼に会わせる訳にはいかないんです」 何故ならば―― 「私たち、メルクリィ親衛隊! 彼に会いたかったら、先ず私たちを倒して行きなさい!」 ビシィッ。マジカル☆ポーズ! 『親衛隊……? あぁ、アハハ。でも親衛隊は親衛隊……あの人にとっちゃランク外でしょ? でも許さない許せないあの人は優しいからきっと貴方達にも優しくしちゃったんだねそれを勘違いして貴方達ってば可哀想なあの人私が助けてあげなくっちゃ』 可愛らしい衣装にそぐわぬ歪んだ笑み、莉央子が降りてくる。 そこへ。 「その服装センス壊滅的」 集中に集中を重ねた綺沙羅が符術の鴉を放った。『穿て』――主の命令に従い、黒い鳥が降下してきた魔法少女に直撃する! 「っ!? 何よ、オチビさん」 「これから伸びんのよ、バーカ」 「あっそ。死んじゃえば……!?」 毒々しい殺気、巨大鉄槌になる魔法ステッキ、それを的確に気糸で穿ち仰け反らせたのはキリエだった。ほんの僅か、莉央子のバランスが崩れる――それで十分、死角から一直線に接近したりりすの愛憎殺戮エゴイズムが鈍く煌めき、揺れ、残像を残し、音速を超える超連撃を放つ。硬直させる。 「ぐっ!」 怯む莉央子、その視界に放射状に布陣したリベリスタとその中に居る魔法少女の勇姿が映る。ラヴィアンだ。 「お前みたいな物騒な魔法少女がいるもんかっ。偽魔法少女! それに名古屋はもっとおしとやかなほうが好みだぜ!!」 活性化させた体内魔力、詠唱によって構築された魔法陣。放たれる四光。 「おんなじ言葉、返してあげる!」 しかし寸前の所で麻痺を振り払った莉央子が飛び退きラヴィアンの魔曲を回避した。同時に鉄槌を天に翳せば空に巨大な魔法陣が浮かび上がり――降り注ぐ火の矢がリベリスタ達に襲い掛かる! 「ッ……!」 成程戦闘慣れしていない莉央子の動きはたどたどしいが、それをカバーする恐るべき火力。耐久力。魔法の爆撃に『シトラス・ヴァンピール』日野宮 ななせ(BNE001084)が彼方に吹っ飛ばされた。 硝煙――イスタルテの歌に包まれながらキリエは莉央子のステッキへ気糸の集中攻撃を浴びせる。浴びせながら莉央子から眼を離さず、問うた。 「ねえ、彼をどうして好きになったの?」 「好きだから、好きなの。占いも言ってたわ。運命なのよ」 りりすの猛攻に鉄槌で応戦し、時には後衛陣へ大砲をぶっ放しながら。 傍を掠めて行ったマジカルアハトアハトの衝撃と爆風にキリエが一瞬目を細める。それでも言葉は止めない。 「……で、その占い、今まで当たってた?」 「っ、今までが当たってなかったからって、未来永劫当たらない訳ないじゃない」 莉央子の痛い個所を吐くキリエの言葉。八つ当たりの様に振り回す鉄槌で綺沙羅の鴉とラヴィアンの魔法を掻き消し、りりす・多美を牽制する。 「じゃあ次。彼のどこが好きなのか、具体的に教えてもらえる?」 「全部よ!」 莉央子の鉄槌に魔法陣が浮かび上がった。そのまま地面に叩き付ければ5m程の要塞が召喚される。魔弾をばら撒き始める。 しかしそれについては既に対策済みだ。朽葉とイスタルテが目を合わせる。 「イスタルテさんは回復をお願い」 「了解です、お任せ下さい!」 朽葉は魔法杖を掲げた。イスタルテは仲間が倒されぬ事を最優先に清らかな祝詞を唱え始めた。 刹那、歌が、閃光が、戦場を包む。塔を、莉央子を、彼女が降らせた爆撃すらも焼き払う。或いはリベリスタ達の傷を癒す。 立て続けにラヴィアンの魔曲が塔を攻撃し、多美の剣の切っ先から放たれた十字の光が塔を射抜いた。沈黙する。ならばと莉央子はもう一度塔を召還しようとしたが――リベリスタの策通り、塔は『戦闘不能』になっただけなので再召喚は出来ない。歯噛み。 「王子様はやって来てくれないね。運命の人ではないって事じゃない?」 その眼前、真正面、第六感を研ぎ澄ませたりりすの紅睨。あるいは、愛憎の捩じくれ刃。 観察を続けた鮫は結論を出す。確かに莉央子は生物としてのスペックは高いし、技の見た目も派手で威力も高い。馬鹿みたいに高い。 だが……どこか素人くさくもある。動きも鈍いし狙いも雑、未だ自分には小さな掠り傷程度しかない。それに莉央子は簡単なフェイントにも十中八九引っかかった。 こんな風にね。 「いくよ」 狙う刃は顔面へ、 「ッ!?」 咄嗟に目を閉じる。ね、簡単でしょ。 「足元がお留守ですよ――なんて、ね」 そのまま素早く足払い、きゃあっと悲鳴を上げて派手に転ぶ莉央子。その隙をキリエは逃さず、すかさず放つピンポイントで鉄槌を穿った。ヒビだらけのそれを彼方へ弾き飛ばした。 「あ――」 見遣る。前、立つ脚、仁王立ち、見上げる、高く高く掲げられた多美の剣。 「莉央子さん、あなたの愛――試させて頂きます!」 落とす、豪撃。魔落の鉄槌。転んだままの莉央子の身体がくの字に折れた。衝撃に地面が陥没した。 「ぐ、何なのよ何なのよ何なのよぉぉおっっ……!」 アザーバイドの装甲のお陰で痛みは感じないらしい。莉央子は咄嗟に飛び退き、攻撃しても攻撃しても協力してすぐ回復してしまうリベリスタ達を涙目で睨みつける。所詮は少女、子供なのだ。 それでも未だ闘志、イスタルテの閃光を耐えた莉央子が多美の背後に回り込みその胴を掴む。持ち上げる――視界に、ヒラヒラ上空、綺沙羅が用意したメルクリィの写真。気が逸れる、力が弱まる―― 「まだよ! 私だって王子様を見つけるまでは、倒れる訳には……いかない!」 その隙に多美は莉央子を振り解き、魔落の鉄槌を。 (おぉ……謎の必殺に効果があるとは) 結果的にナイス判断だったらしい。綺沙羅は感心しながらも指先に術鴉を留まらせた。 「うぅ、……」 莉央子の魔法少女服がボロボロになってきている――見逃す者はいなかった。それにキリエの戦法で武器も失っている。 さぁ、終わらせよう。降り注ぐ魔法を杖で防ぎながら朽葉は癒しの福音を響かせた。響かせながら莉央子へ声を――ペルソナを被って。 「目を覚ませ! 君が出会ったあの天使様は味方でもキューピッドでもない! ソイツはいずれ君の心を食い潰す! そうしてお姫様の体を乗っ取って、自分が王子とラヴラヴになろうと企む悪い魔女なんだ! だから王子もこの場に来れないし、私達が剥がそうとしてるんだ!」 ヤンデレ心を刺激するような完璧な嘘。完全な演技。ハッとする莉央子の表情。更に仕上げと畳みかける。 「好きな人のシェアリングなんて嫌だろ? お前がハグされる時、服だが天使様もぎゅってされてるんだぞ? 私なら御免だ。君だって『ふざけんな離れろ』ってなるだろう!?」 「……!」 明らかに鈍くなる莉央子の動き。その隙にりりすが音速の刃を叩き込み、その動きを縛った。キリエの気糸が穿った。多美の剣が切り裂いた。綺沙羅の鴉が啄ばんだ。 真っ正面、ラヴィアンも魔法陣を傍らに声を張り上げる。 「そんな詐欺天使に騙されるから、鈍器装備の物理型筋肉魔法少女にされちゃうのさ! 偽者の力で変身したって、誰も振り向いてくれない。 名古屋だったら、ありのままのアンタのほうが良いって言うに決まってるぜ。そう思わないか?」 莉央子が目を閉じる。うぅ、と呻く。尚も攻撃を受けながら。 沈黙を答えとし、突撃魔法少女は続けた。 「そう思えるなら、さっさとそんな力を捨てて名古屋に会いに行けよ。 思えないなら……お前は名古屋の事をぜんぜん分かってない。そんなんで恋なんて言うな!」 莉央子が涙に濡れた目を開けた。首を振って、叫んだ。 「だって、だって……!」 続きが、肝心の続きが出てこない。気が付いているのを否定しているのだろう。葛藤。 ならばそれを終わらせてみせよう。 見せてやる。 「これが本当の魔法だぜ!」 指差した。飛んで行った。四つの光は一直線、マジカルカルテット。4色の綺麗な魔法。 それは莉央子を撃ち抜き――その魔法装束を、天子様の断末魔と共に葬り去った。 「――天誅!」 最後はやっぱり、魔法少女らしく決めポーズ。 ●マジカル終劇 硝煙が収まったそこには『ただの少女』が呆然と蹲っていた。 「ほら、」 そんな莉央子へ手を差し出したのは、普段着に戻ったラヴィアン。 「……え、あれ?」 さっきまでの服は、と瞠目する彼女へ、ニッコリ。 「はは、そんな服なんて着てないだろ?」 悪い夢だったのさ、と続けるラヴィアンの言葉に莉央子は己の掌を見る。あんなに攻撃を受けた筈だった。のに、傷一つない。何だか現実感が無くって。 「本当に夢だったのかしら……?」 何だか曖昧になってきた。さっきまでが突拍子も無さ過ぎる『非常識』だったせいか、非常識を嫌う一種の防衛本能的な『常識』の力らが働いたのか。 「夢でも良い経験をしたね」 顔を覗き込み、朽葉が微笑む。夢。もう一度だけ呟き……莉央子は辺りを見渡した。『彼』を探して。確かにあの天使の事は何か悪い夢だったのかも。それでも、彼が恩人なのは事実なのだ。 それを察して、綺沙羅は業とらしく溜息を吐くやさっきの写真を拾い上げ、莉央子に突き付ける。 「あのさー、本当にメルが好きなわけ? こんな顔だよ?」 「アイドルの人みたいな顔じゃなきゃ好意を持っちゃ駄目なんて法律は無いわ」 「物好きだねぇ……」 半ば呆れた様に。蓼食う虫も好き好き、という話らしい。 「でも……今は、本当に『あの人』が好きなのか……よく分かんない」 そうくるだろうな、と思っていたラヴィアンは既にメルクリィへ携帯電話で連絡をつけていた。 「やっぱり、名古屋が話さないと駄目だ。電話でもいいからさ、きちんと対応しろって。男だろ?」 と。 そして繋がったままの携帯電話を莉央子へ。 「……もしもし?」 『ドーモですぞ』 「あ、」 『私はあの時貴方を助けた事を後悔しておりません。 よくよく考えて、自分の気持ちとしっかり向き合って、大人になっても未だ私を慕って下さっているのなら……その時にまた、私に会いに来て下さいね?』 「……、」 『さぁ、もうお家にお帰りなさい。お父様やお母様が心配してらっしゃいますよ、きっと』 「……はい。」 さようなら。さようなら。通話終了。ツー、ツー、ツー。 莉央子は黙ったまま携帯電話をラヴィアンに返した。そして――ぶわっと大号泣。朽葉はそんな彼女の頭を優しく撫でてあげた。 「よしよし、いつかまた逢えた時の為に沢山勉強して、今度は自分自身で勝負しないとね。 そのパワーを学業に向けてればいい男にも巡り合えるさ」 恋心のみ温存、その力を他に活かせるように。 ヤレヤレ。見守るキリエは溜息を吐いた。 もしもの場合は此方側に迎え入れる気だったが、その必要はなさそうだ。 「私の母が言ってたよ。誰にでも優しい男は、家族を幸せにしないって……。 君だけをちゃんと見てくれる、君だけの王子様を探すといい。今度は自分の目でね」 それから、とキリエは付け加える。「今日の事は君と私達だけの秘密にしててね」と。 「携帯サイトの占いで運命感じるとか安いよ。どうせならちゃんとしたとこで占った方がいいよ。ここ、お勧め」 「『アナタに新たな運命の方との出会いが☆命短し恋せよ、OTOME!運命のアイテムは眼帯やメガネ♪』……と、この雑誌の今日のオトメティック占い☆の乙女座の欄に書いてありますよ」 綺沙羅は当たると評判な占いの店を紹介を、イスタルテは幻影を被せた雑誌のページを。 「名古屋さんには眼帯も眼鏡もありませんからね。そういえばそこの紅涙・りりすさんが眼帯をつけておられますね」 なんて、イスタルテはさり気無く誘導。見た目に反して案外外道。 しかし莉央子は涙を拭って――それでも笑った。きっぱり言った。 「私、もう占いなんて信じないわ。……自分の事は、自分で決める」 もう大丈夫だろう。きっと、きっと。 「莉央子さん、良く頑張りましたね」 多美は心からの笑顔で莉央子を送るキリエの4WDを見送った。 ●マジカル終劇2 最後に。綺沙羅はAFでメルクリィへ。ヤンデレさんのメールよろしく、あたかもヤンデレ女がAFを拾って連絡をしてきたかのように。 だがそのAFをシュパッと取ったのは多美、キラキラ笑顔で王子様へとご連絡。 「さあ、今から会いに行きます! 待ってて下さいね王子様~!」 例え彼が逃げても、どこまでも。 そんな様を見――りりすは紫煙をふーっと吐いた。呟いた。 「ちなみに三高平に来て、僕が好きになった子は4人。全員死んだがな。しかも3人は自殺だったが。 ……僕もヤんでれっていうのかしら?」 吸い込む煙に、答えは無い。 りりすの瞳に、光は無い。 兎にも角にも一件落着。 『了』 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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