● 物心ついたときから、常に願い続けていることがあった。 たった一つ。単純だけど、大切な願い。それを自分たちで叶えたくて、それが出来なかった。 だから、叶えて貰おうと思った。 一年に一度、子供達の欲しいものを与えてくれる、あの人に。 ――けれど、それを願い続けて数年。 あの人は、その間、ずっと僕たちの期待を裏切り続けていた。 だから、僕たちは決心したのだ。 「……ね、ねえ。本当にこれで大丈夫かな?」 まっくらな森の中。か細い男の子の声が、聞こえる。 「何言ってるんだよ。いっつもテストで百点取ってるコイツが考えたんだぜ、失敗するわけねーじゃん!」 返されたのは、堂々とした、けれどやはり幼げな少年の声だった。 ――今、僕たちは『わるいこと』をしようとしている。 自分の願いのために、人のための力を使う行為。それは『フィクサード』と言って、時には殺されてしまうこともあると言う。 気づいたときに手にしていた、この力の意味。それを教えてくれた『アーク』と言う組織の人たちは、今の僕たちを見て、何を思うのだろうか。 嘆くか、憤るか。どちらにしても良い反応ではないと思う。 けれど。 「は、早く始めよう? りべりすたの人たち、来ちゃうかも……」 「そうね。ねえ――――――、準備は出来てる?」 視線を向ける二人の女の子。 「……うん、大丈夫」 言って、僕はこくりと頷く。 僕たちの眼前にあるのは、一台の古ぼけた掃除機。 コンセントも差していないのに、スイッチを入れたそれは次の瞬間、虹色の光の粉をはき出しながら、その力を発動させる。 「じゃあ……行くよ」 僕の合図と共に、みんなが一斉に、叫んだ。 ――どうか、僕たちの願いを、叶えてください! ● 「……フィクサード達が『世界的善性エリューション』を捕らえようとする動きが見られた」 某日、ブリーフィングルーム内で『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の発した言葉は衝撃的だった。 世界的善性エリューション。その名は彼らにとって何ともなじみが深い。 この時期、代表的なところを挙げれば、一般にサンタクロースと呼ばれる彼らがそれに該当する。リベリスタはその行為に嫌悪感を抱きながらも、同時に納得もしていた。 一般的な敵性エリューションとは一線を画する『善性エリューション』。現在アークに於いてすらも一例を除いて確認されていない彼らを解明しようとする存在は、恐らくこの世界には五万と存在する。 アークとしても可能であれば話くらいは聞いてみたいものだが……かといって、そんな私欲で世界中に降り注ぐ一夜の夢を人々から奪う気はないし、奪わせる気も更々無い。 知らず、リベリスタ達は低い声音で言っていた。 「……敵は?」 「子供。小学六年生を主とした五人組」 眼光鋭く問うたリベリスタに、イヴはあっさりと答える。 ……空気が一瞬で温度を変えた。 「……いや、おい」 「だから、子供。彼らは自分たちの家の掃除機を改造して作ったアーティファクト『サンタ捕まえ太郎』を利用して、世界的善性エリューション……長いからサンタって呼ぶけど、彼らを捕まえようとする。 このアーティファクト、サンタクロースにしか効果を発揮しないんだけど、一度発動したら近隣10km範囲内にいるサンタクロースから一定時間、全ての能力を奪うって凶悪な性能を持ってる。発動確率は低いけどね」 「……具体的には?」 「一毛」 ダメじゃねえか。 九割九分九厘の更に下を行った確率にリベリスタらががくんと肩を落とすが、対するイヴの表情は未だ真剣である。 「安心する要素は何処にもない。このアーティファクト、性能を除けば見た目は只の掃除機そのものだもの。 仮に事が失敗に終わっても、子供達がそれを持ち帰ったとしたら、次にそれを使おうとする一般人がうっかり覚醒、なんて笑い事にならない事態にも成りかねないし――」 一瞬、言葉を切った彼女は、そこですっと自身に指を差した。 「例え0.01%なんて確率でも、奇跡なんて代物、この世界にはその辺に転がっている。 私も、みんなも含めて、ね」 これには流石に、リベリスタらも苦笑を浮かべざるを得ない。 「……それじゃあ、俺たちの仕事は?」 「少年達を止めること。と言っても、彼らには絶対に攻撃しないで。 彼らのポテンシャルは、アーク内の新人よりも更に下を行くレベルで、フェイトも無いと行って等しいほど。手加減するつもりで頭をこつんと叩いたら死にましたなんて事に成りかねない」 「じゃあ、説得か?」 「……それも、難しい」 そこで、少女は初めて眉間にしわを寄せる。 「件の子供達は、ただ一つの願いを叶えて貰うためにサンタを自分たちの手で捕まえようとしている。 それは自分たちが物心ついた時から常に、祈り続けた願い。そして、永遠に叶えられなかった願い」 ――おとうさん、おかあさんにあいたい。と言う、それだけの。 「……そいつらの両親は」 「彼らの家は、時村財閥……と言うより、アークが財政的にバックアップしている孤児院。 生まれて直ぐ、『十二年前に突如発生した大災害』で両親を失った彼らは、以来ずっとそこで生活してきた」 語る少女は、気づけば目を閉じていた。 ゆるりと振った首に、銀髪の残滓が絡み付く。 「……今の生活に不満があるというわけじゃない。只一言、彼らは思い思いに言いたいことがあるだけ。 『僕たちは元気だよ』『お父さん達は、天国にいるの?』『これからも、私たちを見守っててね』……そんな、言葉」 ――只の子供ならば、それは諦めることが出来た。 死んだ人に会うなんて夢物語、人は到底、叶えることは出来ないのだと。 だが、子供達は知ってしまった。自らの身を以て。 この世界には知り得ざる神秘があること。そしてその神秘は時に奇跡すら起こしうることを。 「……方法は、任せる。 けど、出来ることなら、この悲しい願いの結末を、少しでも暖かいものにしてくれたらとも、そう思う」 イヴは、沈黙したリベリスタを見て、そこでくすりと笑った。 「私も、今年は頑張ってみようと思う。 いつもは恥ずかしくて言えないけれど、その日一日くらい、『お父さん、有難う、大好き』って、勇気を出すくらいには――」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田辺正彦 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年01月04日(水)21:30 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 静かな森が、やや近い。 年の暮れに吹き抜ける寒さに身を震わせながら、集まった八人のリベリスタ達は、そこに僅か、漏れ出る虹色の光を見て、少しだけ苦しげに、顔をゆがめた。 「サンタを信じなくなったのっていつだったスかねぇ。 革醒するよりもだいぶ前、ブランクが開いてた気がするっす」 その中、気を紛らわすように、何処かくすぐったそうな顔で笑う 『のらりくらりと適当に』三上 伸之(BNE001089)。 そう語る彼の服装は、裾や襟、ボタンなどに白色をちりばめた赤地の服。誰が考えるまでもなく、サンタが着るそれであった。 その姿は、彼一人ではない。子供たちの前で見習いサンタを装うためにこの服装を見繕ってきた彼らは、子供たちを止めるために個々の思いを振り返る。 「死んだ親に会いたい……ああ、僕だってそうだ。何度も願った」 ――けれども、叶わなかった、望みだった。 「家族を失うって辛いよね。願いを叶えてあげたいけど、それが無理なら、少しでも心を、暖めてあげたいな」 『高校生イケメン覇界闘士』御厨・夏栖斗(BNE000004)の声に、『気紛れな暴風』白刃 悟(BNE003017)が頷き、応える。 白と黒、相反する容貌に対して抱く心はひとつ。それが少しばかり、可笑しいようで、嬉しいようで。 「親代わり……とはいかないですが、出来る限りちゃんと話をしてあげないとですね」 子供たちの想いを是と受け止め、きゅ、と拳を握り締める羽柴・美鳥 (BNE003191)。 夏栖斗、悟と言った少年たちより幾許か年上の彼女をして、誰かを助けたいと言う心は歪まない、歪めることが、出来ない。 愚直と言えばそうでもある。それを笑うものも、人には居るだろうが……少なくとも、今この場に於いて、そうする者は一人とて居ない。 リベリスタ。世界を守護するために、時には非道にすら手を染める異能者達。 その彼らの想いが、今、ひとつの方向だけに向けられている証左――なのだろう。 「……そろそろ行きましょう。あまり時間をかけるとまずいんでしょ?」 再度の沈黙に入ろうとした彼らに、そっけない声をかけたのは『あかはなおおかみ』石蕗 温子(BNE003168)。 口調こそ平静を取り繕ってはいるものの、何時もと違った自分の容姿において、ぴこぴこと嬉しそうに動く耳や、目が少しばかり輝いているのはきっと気のせいではないだろう。 子供達までの距離は、最早そう遠くはない。 一歩、また一歩と近づく彼らに対して、一番最初に気付いた子供は、リベリスタ達を指さして、言った。 「……サンタさん?」 ● 十を超えるか、否かと言った者達の集団。 寒さに震える矮躯を、しかし毅然として立つように見えても、瞳の中に頼りなげな感情が見え隠れするのを見て、改めて、リベリスタ達は相手が唯の『子供』で有ることを再認識する。 だが、其処でリベリスタ達が甘さを見せるようなことは、少なくとも今はしない。 「あんた達、人のお仕事邪魔しちゃダメなのよ!」 くしゅん、くしゅんとくしゃみを連発させる温子とて、こうして子供達を説教しようという意気は健在である。 怯える子供達の中、それでも勇気を出して前に出たのは、赤みがかった黒髪の少年である。 「お兄さんたちが、サンタなのかよ!」 堂々とした態度で、リベリスタ達に声を掛けるその目には、ほんの少しばかり、涙を湛えているように見えて。 「お願いだよ、俺たちの父さんを、母さんを呼んで欲しいんだ! 今日だけで良い、一度だけで良いから……!」 夜遅くの、誰も居ない森の中では、少年の声はうるさいくらいによく響く。 だが、一同はそれに表情ひとつ変えない。――彼らサンタたちも。 「わかる、わかるの。 サンタさん(わたしたち)をしんじたい気持ち、つたえたい想い」 ようやく、口を開いたのは、『すーぱーわんだふるさぽーたー』テテロ ミ-ノ(BNE000011)。 ぎゅっと、握ったこぶしを胸の辺りに当てて、俯いた顔は、悲しそうで、辛そうな。 「でもでも……ちょっと違うの。自分のきもちだけをおしつけちゃだめなの。 幸せはほしいひととあげたいひとがいて、はじめてかたちになるんだよっ」 「……わたしたちの、言葉、お母さんたちは、欲しくないの?」 それに、詰まった声でぼそぼそと聞くのは、三つ編み姿の少女だった。 大勢の大人たちに囲まれて、怒られることにびくびくと怯えながらも、その目だけはサンタたちから絶対に逃げたりしない。 「お父さんも、お母さんも、私たちのこと、嫌いなの?」 「……そうではない」 静かに。そう返すのは、子供達とそう大差ない外見の『嘘つきピーターパン』冷泉・咲夜(BNE003164)。 「じゃが……それを使うのがどれだけ大変な事か、わかっておるのか? もしそれに触れた者がエリューション化し、幸運を得られなかった場合。 その者の命は奪われるのじゃぞ? ……そなた達が原因で、人が死ぬかもしれないのじゃ」 ――そんな『悪い子』で有る限り、親たちは決して、姿を現そうとは思わないだろう。 ……当然、彼らとて、自らの行いが正しいと思っていたわけではない。 それを超えた、願い。過ちを犯してでも叶えたいと思うそれを、しかし叶えるわけにはいかないのが、どうしても、リベリスタ達には辛かった。 偽物のサンタ服が、妙に重く感じられる。それを想いながらも、『サーチライト』大月・望美(BNE003225)は弱気を見せない。 「……いずれにしても。 仮にもサンタさんを捕まえようとする悪い子達には、お仕置きが必要ですよね?」 くすりと笑い、目線を定めた。 驚いた子供達に対して、更にミーノが、夏栖斗がたたみかける。 「さぁおにごっこのはじまり、なのっ!」 「捕まえるぞ! 嫌ならにげろー!」 俄に騒がしく成りつつある森の中、『それ』に気付いたのは伸之だった。 混乱し始めた子供達の中に於いて、未だ平静を失わない二人の少年少女。それが抱く疑惑という感情の視線を。 (もうちょっとだけ、付き合ってもらっていいっすか) 思念を介する技を用いて、彼は小さく、少年達に詫びの姿勢を取る。 二人は最初、それに驚きもしたものの。 その後に見えた苦笑いは、きっと、了承の印と取って良いのだろうか。 聖夜。少年達とサンタ達が、暗く、静かな森の中で、その影を交差させるときが来た。 ● 「どうすんだよっ、――――――!」 「……うん、どうしよう、かな?」 掛けられた声に、少年が小さく苦笑を返す。 サンタたちによるの追いかけっこは、既に開始されていた。 全体に指示を出す少年と、勘の良い少女の姉を除いた三名は必死に、そうでない二人も、慣れ親しんだ木々の間をひょいひょいと跳ね回り、或いは枝の上を飛び移って、サンタたちの手からするりと身体を抜け出していく。 現状でこそ視界の悪さと乱立する木々がサンタたちの邪魔をしているものの、それに慣れるまでは時間の問題だとはこの少年にも解る。 それに対しても、少年は明確な判断を下さず、唯言葉を濁すのみ。 ブレインの停止によって統制にバラつきが出来てしまっていた子供達と、元より強固なチームワークが確立されているサンタたちのどちらに分があるかなどは自明である。 (まあ、流石に、こればっかりは、ね……) 実際の所、少年はここで大人しく彼らに捕まるつもりであった。 伸之のテレパスと、アーティファクトによる能力収奪の効果を受けていない動きからして、彼らはリベリスタと見て間違いないというのは既に解っていた。 その彼らを相手取って、強引に勝利を取りに行くというのは現実的でない上――それによって相手方が本気を出す可能性を考えると、大人しく降参する以外の方法は子供達には残っていなかったのだ。 願いを、叶えたかったと言う思いは、嘘ではないにしろ。 その為に、自分以外の『たいせつなもの』を捨てる覚悟が土壇場で出来なかったことが、今の自分の行動を答えとしている。して、しまっている。 (……ごめん) 共に木々を疾る仲間達に、少年はそう、胸中で詫びた。 せめてもの救いは、相対した彼らサンタたち――サンタを装ったリベリスタ達が、此方の意図をある程度読んだ上で、自分たちに諦めをつかせようとしていることだろうか。 「……っ、と」 動き回りながら飛び乗った木の枝が、ぎりりと撓んで少年のバランスを崩した。 そのまま、落下。 地面に叩きつけられる衝撃を堪える為に、ぎゅっと目を閉じた少年が、やがて目を開いた先には。 「……捕まっちゃった?」 「ええ。捕まえました」 黒髪の女性――美鳥が、微笑みながら少年の身体を抱き留めていた。 「…………つーかまえたっ」 「うわあぁっ!?」 ミーノが後ろからそっと、もう一人の少年を抱きしめる。 頓狂な声を上げた少年は、次いで顔を真っ赤にしながら、じたばたと暴れ出した。 「は、離せよっ!」 「だめ、ぜったいにはなさないの~っ!」 女の子相手に暴力を振るうのは躊躇われたのか、とにかくその腕を必死に引きはがそうとする少年と、頬を膨らませながらぎゅっと腕に力を込めるミーノの二人は、端から見ている者達にとってはほほえましい光景にも映る。 「なあ、もう泣くなって……」 対して、子供達の誰よりも必死に逃げ回っていた男の子をすんでの所で捕まえた夏栖斗は、その後に堰を切ったように泣き出した子供に対し、参ったなと軽く頭を掻いた。 残る、二人の少女も同じ、姉は悟が、妹の方は望美が捕まえ、およそ数分程度の、しかし精一杯の追いかけっこは、結果としてリベリスタ達の完全勝利に終わった。 「……ねえ、お兄さん達、リベリスタでしょ?」 全員の息が漸く整って、子供達も漸く抵抗を止めて、しばしの静寂が流れていた時、聞こえたのは、少女の姉の声。 「……気付いてたんだ?」 「何となく、だけど」 悟の声に相づちだけを打った少女は、数秒、間を取った後に、落ち着いた声で問いかける。 「何かを犠牲にして叶えたい願いって、やっぱり、ダメなんだ?」 最初に、その言葉に応えたのは、望美。 「わたしは親の記憶がなくて説得力ないかもしれませんが……同じように叶えて欲しい願いを持つ子がいるなら、サンタを捕まえて他の子の願いを奪えません」 「……そうだね。サンタの力を奪っちゃうと、クリスマスを楽しみにしてる子供が悲しんじゃうんだ。だから、皆の幸せを奪わないで」 悟が、その言葉を継ぐように、台詞を続ける。 万人の幸せは、そうであるからこそこの夜を聖夜と言わしめているのだ。 ただ数人の喜びのために、多くの人の幸福はなくなってはならない。 「……それに、今回のことは、まだたいした事は無いけど……もしこれで本当にサンタさんを捕まえられたら……あなた達は次も「願い」があったらまた力を使ってしまうかもしれないよね? そして次も……その次も……ずっとくり返してしまうかもしれない」 「それは……」 美鳥の言葉に反論しようとした、気の強い男の子が、だが、其処で黙らされた。 多くのリベリスタ達が抱いていた、その意見を――しかし、少女は緩やかに首を振って、応える。 「ん、ううん。そうじゃないかな。解ってるの。サンタさんを捕まえたら、私たちの願いは叶うけど、それ以外の沢山の人が困っちゃう。私たちも、『ふぃくさーど』になって、沢山の人に迷惑を掛ける人になっちゃう。だから、そんな無理を押しつけちゃ、いけないって。 でも、私たちは何年も前から、ずっと、お願いし続けてたの。お父さんに会わせて、お母さんに会わせて、って」 ――だけど、聖夜の使者は何も、答えを返してはくれなかった。 叶えられないなら、そう答えて欲しかった。 ひょっとしたら、今年はダメだっただけなのかも知れない。来年なら、叶えてもらえるかも知れない――。そんな余計な希望ばかりが募り、今という結果を為してしまった事は、果たして、子供達自身の責任になってしまうのだろうか。 「……答えが欲しかったんだと思う。私たちは」 木の葉ばかりが邪魔をする空に、少女は手を伸ばす。 表情は変わらない。無表情そのもの。 だからこそ、その頬に伝う涙が、リベリスタ達には余計に鮮明に思えて。 「……ああ、でも、だけど、やっぱり、私たちは、それも許して貰えなかった、なあ……」 悟の腕に包まれている彼女の小さな身体が、ひく、ひっくと僅かに震える。 冷たい静寂が、重苦しい沈黙になる。 言葉を言いかけて、それを呑んで。そればかりが続いた時間を打ち破ったのは、夏栖斗。 「僕もさ、母ちゃんフィクサードに殺されたんだ、お前らくらいの年の頃に」 ――子供たちの目が、一瞬で見開かれる。 記憶すら覚束ないころに失われた親と、今という時に失われた親。どちらが重く心に残るのかは、言うまでもなく、そしてそれを子供達も理解したから。 「どうにか会いたいって思う気持ち、わかるよ。だけど、失われた命はドレだけ頑張っても還ってはこない。帰ってきちゃ、ダメなんだ。 ……世界が、壊れる。そうなると、君たちと同じような目に合う子がふえるんだ」 目を伏せた子供達に、たたみかけるように、木にもたれかかっていた温子は、ぽつぽつと言葉を紡ぐ。 「フェイト。世界に愛された証の、あったかいもの。 誰でも得られる物じゃないけど、あなた達は気付いたら持ってた」 「……」 「じゃあわたしはこう思う。覚醒した皆を助けたいってご両親の想いが奇跡を起こしたんだって 紡ぐべき物語がある。大切に育てて、いつか芽吹かせて――音は無くても、そう言ってる」 両親の手を離そうとした過去、それを思い出す彼女の瞳には僅かに影が宿る。 「……お父さんも、お母さんも」 そうして、声を上げたのは、夏栖斗に抱えられる、涙を湛えた男の子。 「僕たちに、プレゼント、残してくれた、の……?」 「……そう、ッスね」 伸之が、子供達全員を見渡す。 泣き惑う子がいた。心苦しげに俯く子が居た。皆が皆、幼らしい純粋な感情をむき出しにして、リベリスタ達を見つめていた。 それを、尊いと思う。美しいと思う。 ふ、と。小さく笑顔を浮かべた彼と同様、咲夜もそれに頷く。 かつて、救えなかった子らを、閉じた瞼の裏に思い出しながら、彼は、言った。 「世界で一番、素晴らしいプレゼントじゃ」 ……三度の沈黙が、続いた。 今までのどれよりも長く、しかし重くはない時間を過ごして、聞こえた言葉は、 ――ごめんなさい。 「………………」 ――ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい――! 子供達の、少しばかり遅れた、懺悔の言葉だった。 ● 「はい、これ」 言って、子供達は件の掃除機型アーティファクトをリベリスタ達に差し出した。 先生達に何て言い訳しよう、などと言葉を交わす彼らを笑いながら見つめた夏栖斗は、そのまま言う。 「だけど、お前らすげえな、うっかりサンタ捕まえる破界器つくっちゃうんだもんな」 「……正直、僕もそれが一番びっくりした」 周囲に聞こえないよう、小声で言い返す頭の良い男の子に、夏栖斗が小首をかしげる。 「あの設計図、殆ど出鱈目で作ったものだったから……本当に効果を発揮するようになるなんて、思っても見なかったんだ」 一瞬の拍を置いた後に、再びリベリスタ達はそれに笑い出す。 既に一同は互いの蟠りを解いて、深夜のパーティを始めていた。 ココアにハンバーガー、マシュマロをはじめとしたお菓子に、マフラー、ニットキャップ、ポンチョや手袋を貰った子供達は、はしゃぎながらも自分たちのバッグの中に持参していたお菓子や飲み物を取り出して、全員で少しばかりの談笑をする。 「……でも、何時か、本当のサンタさんとお話ししたいな」 すこしばかり恥ずかしそうに呟く、気の弱い女の子の独り言を、しかし聞き逃さなかった咲夜が、悪戯気な笑顔で返す。 「ならば、もうこんな事はしてはならんぞ。いい子にはきっと素敵なプレゼントがあるのじゃよ?」 「わわ……」 頭を撫でられた少女が、更に顔を真っ赤にする。 「でも、そう簡単に諦められるものじゃあないしね。 止める側が言うのもアレだけど、何度でも暴走すればいいのよ。ゆっくり折り合い付ければいいの」 言って、じっと気の強い男の子を眺める温子の視線は、当人にとって居心地が悪く感じられたであろうことは間違いない。 「お父さん達は姿が見えなくても、きっと君達のことを見守ってくれてる。 君達は、皆で力を合わせるってことをもう知ってるんだね」 「お前らとの鬼ごっこ楽しかったぞ。なんだかんだでリベリスタの才能あるのかもな。 リベリスタになって同じような気持を味わう子が少しでも減ると、いいと思わない?」 互いに目を合わせた子供達が、次の瞬間くすりと笑って。 「……それじゃあ、次に会えたら、私たちの友達になって、くれる?」 少女の姉が笑いながら尋ねた問いを、彼らが断るわけもなかった。 ――宴はあっという間に過ぎる。日付が変わるまで、残り数十秒。 それに気付いたミーノが、それじゃあ最後にと、こほん、咳払いをして。 「みんなのおもいがつたわりますように……」 ――メリークリスマス! ……遠く遠く、鈴の音を響かせて、「有難うございました」と言う声が聞こえた、気がした。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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