●ブリーフィング 「やぁ諸君。先日の争奪戦ではご苦労だった。……が、残念なことに次の仕事だ。休む暇も無いな」 『ただの詐欺師』睦蔵・八雲(nBNE000203)が苦笑と共に言葉を紡ぐ。 「諸君らが手に入れてくれた賢者の石によって万華鏡が強化された。その結果バロックナイツが狙っている“大穴”を開けるために必要な“特異点”の場所が分かったよ」 特異点。ここ最近の日本を騒がせていた崩壊加速の理由がソレだ。 本来ならばバロックナイツと言えど容易に開くことの出来ない大穴だが、特異点と賢者の石を使った儀式を用いるのならば可能らしい。ジャック達はずっとそのタイミングを狙っていたのだろう。 「大規模崩壊が起きる際に発現する“バロックナイト”を起こさせる訳にはいかん。君たちにはジャックが儀式を行う現場に向かってもらい、何が何でも儀式を妨害してもらう。蝮原やセバスチャン達も南門から陽動を行ってもらうことになっており、まぁ、事実上の決戦と思ってもらっても構わんだろう」 「分かった、それで現場は?」 「神奈川県横浜市にある――三ッ池公園だ」 広げる地図は件の三ッ池公園の見取り図だ。八雲は中央付近にある“丘の上広場”を指差し、説明を続ける。 「三ッ池公園の丘の上広場にジャックは存在し、彼を守るように防衛線をフィクサード達が張っている。ここに集まった諸君らにやってほしいのは、その防衛線の突破だ」 「付近の住民は……大丈夫なのか?」 「ああその点については安心したまえ。既に適当な理由を付けて近くは封鎖状態、住民も避難済みだ。存分にその力を振るいたまえよ」 と、そこまで言って八雲は一旦言葉を区切る。 集まったリベリスタ達、彼らを見回すように視線を巡らせながら、 「聞き及んでいる者もいるだろうが……アシュレイからジャックの暗殺を持ちかけられている。あの女が何を目的にし、何を狙っているのかは未だによく分からん。だが奴の持ってきた情報を信じるならば――この儀式は始めた以上、中止が出来ないらしい。そしてその間、ジャックは弱体化する」 つまり、 「これは千載一遇のチャンスだ。ジャックを討つのは、今しかない。穴も塞ぐとすればアシュレイの“無限回廊”をも自力で突破する必要があるのだが……いずれにせよ防衛線を突破していなければどうにもならん」 八雲の言うとおりだ。防衛線を突破しなければそもそもジャックの元に辿り着くことすら出来ない。様々な思惑が渦巻く戦場だが、リベリスタ達のやることは実にごく単純なのだ。それは、 「行って、勝って来たまえよ諸君。君達にやってもらうことはアシュレイ特製の陣を突破することでも、ジャックを討つ事でもない。……故に重要なのだ。ただジャックを討てば良いものではない。“全ての戦場の結果が決戦に影響を及ぼす”のだから」 まさしく決戦だ。今回の戦いは成功しても失敗しても、何かしら節目というべき事態になるだろう。穴は開くのか、アシュレイの目論見はどうなるのか。今はまだ、何が起こるかすら分からないが―― 「では諸君らの戦場を紹介しよう。三ッ池公園北部、野球場の近くにある――休憩所付近が君達の戦場だ」 ●赤い月 異様な雰囲気だった。 周囲の者達の戦意は高い。元々、バロックナイツに心酔しているフィクサードがここに集まっているのだ。そのバロックナイツメンバーの一人であるジャックがとうとう動くとなれば、否応にでも士気が上がる話は分からないでもない。が、 「どいつもこいつも……気持ち悪い事この上ないな」 休憩所付近の防衛線の一角を担当している荒井・風香が、誰に告げるわけでもなく口を開く。 気持ち悪い。なんだこいつらは。何故あんなモノに付き従うのだ。お前ら正気か――と。 「まぁ恐ろしいという理由で従っている私も私だが……」 どうしたものだろうか。 前回の争奪戦。風香も参加し、手に入れる直前まで辿り着いた――と言うのに、そこから彼女は失敗した挙句左目まで負傷した。なんたる無様な結末だろうか。 まぁそれはこの際もうどうでもいい。問題なのはこれからだ。ジャックに気に入られる策はもう潰れたと言って良いだろう。ならばもう近寄るのは止めだ。 「だからと言って逃げるのは悪手。しかしこのままこのポジションでは使い潰されるだけ。アークに行くのは論外……やれやれどうしたものか」 いっそのこと周囲の者達同様に狂っていれば良かったのだろうか。狂信出来るほどの何かと共に歩んでいけるなど、本人にとっては幸せであろう。あくまでも、本人には。 「私はあんな恐ろしいモノと和気藹々歩むのは御免だがね。ま、今はせめて生き残りたいものだ……」 包帯で覆い隠す左目を手で押さえながら空を見上げる。そこにあるのは月だった。赤い、赤い月―― |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:茶零四 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年12月21日(水)23:52 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●赤き空 朱が空を染め上げる。月は赤々と顕在し、大地を照らせば視界も朱色だ。 そして、そんな中の三ッ池公園野球場付近の休憩所――そこに陣を張るフィクサードの一団と、進行するリベリスタ達が交戦を始めていた。 しかし少々勝手が違う。基本、今回の戦場は相手を打ち破る形式だ。各地で防衛線を展開するフィクサード達を薙ぎ倒し、先に進む。それが基本であるのだがここでは、 「荒井さん! 聞いてくれ――俺達の方に、来ないか?!」 ――敵方である荒井・風香の説得が行われていた。 ●難航 荒井・風香は率直に言って、困惑していた。 ……なんだ何を言っている? 懐柔策か? 『まごころ暴走便』安西 郷(BNE002360)の熱烈なコールに、風香は思わず動きを止める。 防衛地点に侵入してきたリベリスタの第一声がまさかそのような類だとは想定していなかったのだろう。戯言だと頭の中で思考し、改めて敵を見据えれば。 「あらお久しぶりね。まだネガネガしてるのかしら貴方は」 聞いた事のある声だ。『自堕落教師』ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)――以前の争奪戦で遭遇した相手。同時、頭の中に前回の闘いの様子を思い起こせば、自然と顔が敵意の表情を作り出す。のだが、 『聞こえるかしら? まぁ落ち着いて、黙って聞きなさい』 風香の思考に言葉が送られてきた。 テレパスだ。それも相互会話が可能な上位版の。何事かと受信してみれば、送り主はソラであり、 『ねぇ貴方。もう少し考えてみたらどう? やる気が無い貴方にとってみればこの戦い、勝っても負けても得は無い。別に、アークに来いとは言わないけれど……この場だけでも協力しなさい。戦闘で評価を得ても、また別の戦場に駆り出されるだけよ?』 「……むぅ……」 唸る風香は、しかしリベリスタ達の狙いを理解した。味方に引き込もうとしているのだ。 悪くない手ではある。狂信者どもにはうんざりしていた風香だ。引き込む事は不可能ではないだろう。 とは言え、そう簡単に寝返るほど風香も単純ではない。敵の言葉を何の疑いも無く信じる程、警戒心の無い人間では無いのだ。 「荒井。あんまり余裕無いから、一言だけ言わせてもらうぜ」 と、フィクサード側の陣形に真正面から突っ込むのは『駆け出し冒険者』桜小路・静(BNE000915)だ。姿勢を低く保ち、地を滑る様に言葉と共に――駆ける。 「オレは、お前とは戦いたくない……それだけだ!」 言い終わりと同時に、右脚を軸として身を起こした。さらに、右手に備えた鉄槌を上半身の動きに合わせて斜め上の軌道に振り抜けば、雷撃が走る。前衛を担っていた敵の一人に見事直撃した。 「君の気持ちは解るつもりだよ。ぼくだって、怖いが故に闘ってるんだ。お互い立場は逆だけどね」 自身の身体強化を行いつつ、『素兎』天月・光(BNE000490)は言葉を放つ。これもまた、敵陣後方の風香に直接向けられた物だ。彼女は続けてソラと同じく思念を送ろうと思ったのだが――残念ながらハイテレパスが不所持であったために実行に移せなかった。 「死にたくない。成程、しかしそれは此方も一緒の事ですわ」 「ああ、死にたかねぇよな誰だってよ」 続いて、『宵歌い』ロマネ・エレギナ(BNE002717)に『黒鋼』石黒 鋼児(BNE002630)の両名が言葉を紡いだ。双方ともに己が身の能力を高め、ロマネは敵デュランダルに対し頭部を抉らんと狙撃を。鋼児はそれに次いで炎を纏った一撃を腹部に飛ばす。 「この場に集う聖なる者よ、僕の声が聞こえたら応えて欲しい。 どうか、仲間に堅牢なる守りの加護を――神護聖歌!」 『七つ歌』桃谷 七瀬(BNE003125)の詠唱は五線譜のイメージと共に流れ出た。 防御の意を伴う結界は瞬く間に味方を覆い、彼らの支援となる。 「さて、しかしどうなる事かね……」 そして『ウィクトーリア』老神・綾香(BNE000022)は冷静に、戦場の推移を見据えながら気糸をフィクサード達へと放った。やる気のある連中から潰して行くつもりだ。無論、風香との交渉結果次第ではやる気がなかろうと撃ち込む事にはなるが、 ……交渉は、どうなっている……? 綾香は思考の先に、ソラを視る。今の所ソラだけが風香にハイテレパスを用いているからだ。どのような会話がされているか綾香には読めないが、一つだけ読めなくても理解する事が出来ていた。 それは、寝返りの交渉が思ったよりも――難航していると言う事だ。 ●Answer 『では、寝返りは認められないと?』 『ああ。まぁ、お前らの提案に乗るのも悪くは無いがね。しかし敵の言葉をそう簡単に信じるなど出来んな。こちらの兵が全滅した後、私に集中攻撃されたら逃げる間も無い』 ソラと風香のテレパスによる会話は今だ続行していた。 が、説得の状況は芳しくない。いくら忠誠もやる気も無いとは言え、アークと手を取り合う道を選ぶかはどうかはまた別の話だ。ならば、とソラは思念を送り、 『そう。なら、貴方が裏切るって偽情報を他の連中に誤送信したらどうなるかしらね?』 『脅しか? 善意で言ってやるが、無駄な事は止めておけ。そもそも兵隊共はテレパスの受信すらしないだろうさ。本来敵である私とこうやって通信出来ている事自体稀有だと思え。それに現段階においてこちらは人数で勝り、士気は負けず、奥の手がある。有利なのはこちらであり、不利なのはそちらだ。脅すなら、タイミングを絞るべきだったな』 奥の手、というのは風香の所有する恐怖絵図地獄門の事だろう。確かに彼女の言う通り、戦端が開かれて間もない今の状況ではフィクサード側が有利だ。そんな状況下での脅しは無意味に近い上に、脅しの内容も有用では無かった。そもそも話す気の無い者は、テレパスによる会話そのものを望まず――最初から拒絶できるからだ。 しかし裏を返せばそれは、風香はまだ会話を望んでいると言う事であり、 「……まだ挽回は出来るかしらね」 ソラは小さな声でそう呟けば、思考を働かせる。 どうすればいい。どうすれば説得できるだろうか。決め手となる材料が後一つくらいあれば良かったのだが。 「だがよぉ。今は目の前の事にも力を注がねぇと――な!」 鋼児が近場の敵に対し、左脚を跳ね上げた。 距離が僅かにあり、蹴りとしては届かない。だが、それは只の蹴撃ではない。蹴りあげた先で大気を切り裂くカマイタチが発生し――直撃する。 「ぐぅ、クソッ! リベリスタめがぁ……!」 「ジャック様の所には行かせんぞ! 貴様らはここで止める!」 士気の高い兵隊達の叫びが戦場に響き渡った。 前衛向きの職が多いフィクサードらはリベリスタ達を包み込むように陣形を広げて行く。――数に任せて押し潰すつもりだ。狂信と言える熱狂を伴って、彼らの攻撃がリベリスタ達に降り注ぐ。が、 「背中は僕に任せて! 僕は祈る。僕は歌う。 眼前に傷付いた仲間がいる限り癒しの旋律をのせて――優癒祈歌!」 七瀬は紡ぐ。先程のは守護の意を持つ詠唱だったが、今度の詠唱は治癒の意を持つ技だ。 狂信の攻撃を耐えた先に紡がれた歌が味方の傷を癒していけば、まだ闘える。まだ踏ん張れる。 「とは言え、このままでは戦力の潰し合いとなりますわね……!」 敵のデュランダルに狙いを付け、引き金を絞り上げたロマネは現在の状況をそう推察していた。 今の所一進一退の攻防が続いていると言っていい。だが風香が気がかりだ。彼女は今交渉に乗っているが故に本格参戦はしていない。と言う事はもし交渉が決裂し、風香が本気を出してくる事になれば、 ……まぁ不利になるよなそりゃ……! 静は鉄槌を横殴りに相手に叩き付ける。全身のエネルギーを武器に集中させた一撃は相手の陣を乱し、空白地点を作り出した。 しかし敵もまた直ぐに押し寄せてくる。黙したまま、突き出された刃を柄で受け流せば静は体勢を立て直した。 「まだか……? まだ、話は付かないか?」 後方。綾香はソラの様子を見ながら交渉の結果を今か今かと待っていた。 説得が成功したか失敗したかで後の対処に違いが出てくる。故、いつ返事が来ても大丈夫なように注意しながら、彼女は敵前衛に対して気糸を射出していたのだ。 されど、良い返事が来ない。このままではいずれ会話を打ち切られ敵対が確定してしまうだろう。風香の心はジャック達の方には無い為、何か後もう一つ切っ掛けの様な物があれば良いのだが―― と、その時だった。 「なぁ荒井さん、こっちに来なよ! 一緒にジャックを倒す側に回らねぇか!? 恐怖が近くにあるよりも、恐怖を打ち倒した方が良いに決まってるだろ?」 郷だ。後方の風香に届く様にと声を張り上げている。 「一理あるな。だがあの恐怖を打ち倒せる程アークは強くあるまい。そちらに付くなど論外だよ」 が、バッサリと言葉は切り捨てられた。 恐怖。それが荒井・風香の根底にあるモノであり彼女がジャック達に付き従って居る理由だ。それが取り除かれない限り、あるいは取り除ける見込みが無い限り完全な味方に成る事はあり得ない。 故に駄目だと。あっさり風香は言い捨てて、 「なら――俺につかねぇか! 俺が、お前を護ってやるよ!」 「……はっ?」 言い捨てて――呆気に取られた。 二度目である。まさかこの短時間に二度も動きを止める事に成るとは思っても居なかったが、郷は気にせず己の言葉を続ける。 「お前の望みは何だ! そこらの連中みたいに、ジャックに付き従って行く事じゃなくて、生きる事だろ! だったら――」 一息。 「俺と一緒に生きろ! そして、いずれ来る災害を俺と一緒に打ち倒そう! 降りかかる災厄を打ち払い、幸せにならないか!?」 「…………」 瞬間、風香の心中に渦巻いた者は何だったか。 呆れか。それもある。何せアークが度々敗北した原因である災害を倒す、と言っているのだ。今まで一度も出来なかっただろうと、一笑しようかとも思ったが、目を伏せて口を数秒だけ口を噤めば、 「……なんと言われようが貴様らの味方など――出来んよ」 拒絶の意思を、露わとした。 リベリスタ側にとってこれは痛手と言える。何せ、回復手が敵として明確に参戦するのだ。面倒な事に成るのは間違いない。 そう、確かに間違いないのだ。この後に風香が言葉を、 『だが、』 “続けて”いなければ。 テレパスを繋げるソラの思考に、“だが”という一言から風香の言葉が流れ出る。 『そちらの意思は理解した。故に……“敵対”はしない。それが最大の譲歩だ』 『それは……貴方はこの闘いにおいていないも同然の立場を取ると言う事?』 頷く風香の様子に、ソラは相手の思惑を悟った。 敵対も、味方もしない。つまりそれは傍観だ。リベリスタ側にとってみればこの交渉は最善の結果では無かったと言える。しかし、敵対という最悪の結果でも無かった。 『なら、念の為に貴方の心を読ませてもらってもいいかしら? こちらも不安はあるのよ』 『ああ、したいなら勝手にするがいい。精々頑張る事だな……』 その言葉を最後に、テレパスが拒絶された。 先程の言葉が本当なら、これで風香の問題は一応クリアされた事となる。ソラは続けざまにリーディングを持つロマネへと思念を送り、確認の作業へと移る。 急がねばならない。いくら風香が敵対しないと言っても敵はまだ健在。先程告げられた“頑張る事だな”の意味はそう言う事だ。幾ら風香が敵対しないと言っても――配下に負ければ、それまでなのだから。 ●激突 「ようやく、心配事は無くなったと言っても良いでしょうかね……!」 ソラより合図を受け取ったロマネはすぐさま風香の本心を確認した。 一時は本気で敵対を覚悟したが、なんとかなりそうだ。確認を済ませたロマネは綾香に視線を向け、 「“確認”は済みました――大丈夫の様ですわ!」 声を発した。本来ならばテレパスで詳しく伝えたかった所だが、不所持だったので仕方ない。なるべくフィクサード側には分からないようにして、味方に伝える。 「――分かった。なら後は連中を殲滅するだけだな」 意図が伝わったのか、綾香は風香では無く、リベリスタ達を半包囲しようとしているフィクサード達に目を向ける。 熱狂に身を任せて突っ込んできている連中。その内の一人に対して気糸を展開。絡み取る様な動きを伴って、その動きを阻害しようと言うのだ。 「はああぁッ――!」 そして、間髪入れずに飛びこむのは静だ。鉄槌を構え、全身の力を利用し、綾香の技で動きが遅くなった者を狙い――穿つ。 雄叫び一閃。リベリスタ達は風香への懸念が無くなった事によって、その全力を兵隊に注いでいた。フィクサード達の中にも、ちらほらと倒れる者が出てくる。 「ええい、舐めるなよリベリスタがぁ!」 されど狂信の兵隊はそう簡単に倒れず。なんとしてでもジャックの儀式を完遂させんと文字通り、死兵となってリベリスタへと襲いかかってくる。 「怖いって気持ち――本当によく分かるんだよ? 兎は恐怖を知るが故に臆病だから」 と、迫るフィクサード達の凶刃を潜り抜けて光は駆け抜けた。 速度を上げ、巨大な人参を模した刃を手首のスナップを利用して、振るう。幻影をも生み出すその一撃は見事に決まり、体力を即座に削って行った。 「おのれぇ……!」 叫んだのはフィクサードのマグメイガスだろうか。何か唱えたと思ったその瞬間――回復手として癒し続けていた七瀬に、漆黒の大鎌が襲いかかった。 躱わせない。直感し、身構えた七瀬だがその眼前に割り込んで来た者が居た。 ――鋼児だ。 「俺のダチに……手ぇ出してんじゃねえよ!」 大鎌が鋼児に直撃する。袈裟切りの形で肩から斜めに切り裂かれ、大量の血が舞うものの――倒れない。ここは耐える場面だと、両足で踏ん張り、無理やりに体勢を整えて。 「ッ、鋼児君!」 庇われた事に気付いた七瀬はその眼に、先程の大鎌を撃ったマグメイガスを捉えた。 二弾目が来てはいけない。故に紡ぐ言葉は魔術の矢を発生させた。 「光集。聖なる光は一矢に集約される。 突貫。悪しき存在を根源から破壊する。聖性の光歌――閃光聖矢!」 山なりの軌道で飛ぶ非物質の矢は遠方にいる敵に見事命中し、その身を衝撃で穿った。 呻く敵を視界の隅に、七瀬は鋼児へと駆けよれば。 「ああクソッタレだ……怖ぇよなぁ。あの赤い月も、不気味すぎて怖ぇんだよ……! 覚醒してリベリスタに成る決意したけどよ……中身まで変わらねぇよな。まだ中学生なんだぜ――俺?」 吐血しながらも鋼児は健在だった。 肩で息をしているが、まだなんとか闘える様だ。 「でもそんな俺でもよ。恐る恐るだろうが前へ進んでくんだ。歩みは、止めねえ……! それが俺なりの――恐怖との付き合い方だ……!」 言葉は一体誰に向けられた物か。風香か、それとも―― 「チィ、ならば後方から……!」 しかし敵は考える暇も与えてはくれない。 このままでは不利と感じたのか、まずは支援系の後衛を潰す事にした様だ。前衛の壁を掻い潜り、クロスイージスの刃が迫る。その、目標は、 「ぐッ――だが、まだまだこんな程度では倒れてやれんよ……!」 綾香の様だ。刃が腹部の肉を削り、その身に刃の傷跡を残す。 綾香は膝をつきそうになる痛みを無視し、お返しとばかりに近距離でフィクサードの頭部に気糸を炸裂させた。敵が顔を押さえ、悶える。どうやらクリーンヒットしたようで、 「今まで苦渋を舐め続けてきたのだ……全力を尽くさせてもらうぞ!」 「うく、ぐ、ぐ……! くそ、支援はどうした!? 風香ぁ!」 たまらずフィクサードの一人が風香に対して叫んだ。――が、当の風香は反応しない。腕を組み、戦場の後方で様子を窺っているだけだった。 事ここに至るともはや趨勢は決している。回復手がおり、バランスが良いリベリスタと支援の受けれない疲労のフィクサード達。風香が健在で恐怖絵図地獄門を使えたならあるいはまだ逆転できたかもしれないが―― 「さぁて、それじゃあそろそろ覚悟してもらおうか!」 「悪いけど、貴方達所詮前座なのよ。ジャック達が本命だからね……そろそろ終わりましょう」 光が人参大剣を構え、ソラは激しく放電する雷の射出しようとしている。 気付いてみれば、いつの間にやら半包囲していたフィクサード達はリベリスタ達に逆半包囲されていた。ゆっくりとその距離を狭めてくる様子に、自然とフィクサード達の足は後退していて、 「受けてみやがれ……俺の、ソニックキィィィィック――!」 そして、郷が飛びだしたと同時――残存のフィクサード達はリベリスタの総攻撃に晒され、壊滅した。 ●終局 「……終わったな」 その様子を後方で眺めていた風香は身を翻す。 どうやってここから脱出した物か。そう思案していると、 「お帰りなら、あちらからどうぞ。公園外に出られますよ」 背後、ロマネより声を掛けられた。思わず振り返ってみれば、 「なぁ、怖がりならもう戦うなよ。それが一番安全だろ? 足、洗った方がいいんじゃないか?」 静からも声を掛けられた。返事をするかどうか迷ったが、吐息一つで口を開いて。 「……私は私の目的がある。今回はただ、あんな化け物が怖かったからだよ」 化け物。バロックナイツのジャック。アークにとっての完全な敵。 たった二人で日本を掻きまわした稀代の化け物集団。風香はとにもかくにも彼らが怖かったのだ。故に、従い続けた。 「目の恨みもあるが、今回は知らん。あの化け物相手に……次も、精々頑張る事だな」 飛ぶ。フライエンジェの特性を生かして、飛行したのだ。そのまま林の影を利用して、いずこかへと去っていく。 決着はついた。三ッ池公園の休憩所の一つにおける防衛線は突破し――ジャックらの道が、また一つ開いた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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