●雪夜の惨劇 終電を降りると、駅のホームには既に雪がちらついていた。 今晩は冷えると聞いていたが、確かに寒い。改札を出た後、男は襟元のマフラーを直し、鞄から折りたたみ傘を取り出す。 このまま降り続ければ、朝にはそれなりに積もるだろう。幼い娘の喜ぶ顔が目に浮かぶようだが、自分に課せられる除雪の苦労を思うと溜め息をつきたくなる。この北国で、雪を見て喜ぶのは子供くらいだ――と、彼は思う。 駅前の通りは、しんと静まりかえっていた。駅といっても、ここは小さな無人駅に過ぎない。終電の時間となると、自分の他に降りる者はいない、ということも珍しくなかった。 路地を抜け、妻と娘が待つ我が家へと急ぐ。頼りない街灯しかない薄暗い道だが、今は白い雪に照らされてほのかに明るい。雪が降って良かったと思う、数少ないことの一つだ。 ふと、男は足を止めた。この時間、普段は人通りのないはずの道に、女の子が立っている。年の頃は愛娘と同じくらいだろうか。雪が降っているというのに上着もなく、裸足で佇んでいる。明らかにただ事ではない。放っておくわけにもいかず、男は女の子に駆け寄った。 「どうしたんだい、こんな時間にこんな所で」 傘を差し出し、肩に積もった雪を払ってやる。こんな小さな子を、夜中に一人で出歩かせるなんて、親は一体何をやってやがるんだ――そんな悪態が男の胸をよぎった。 「おじさん……わたしといっしょに、いてくれる?」 俯いたまま、小さな手でコートの袖を掴む女の子に、男が頷きを返す。 「ああ。心配しなくていい、きっとお家に帰してやるからな」 「ずっといっしょに、いてくれる?」 頭を撫でる男に、念を押すような女の子の声。 「途中で放り出したりはしないよ。まずは警察に……いや、服と靴が先かな……」 「――いっしょに、いる? わたしと、ずっと」 執拗に同じ言葉を繰り返す女の子に対し、男が初めて訝るような表情を浮かべた。 「? だからそう言って……っ!?」 傍らにしゃがみこみ、女の子の顔を覗き込む。瞬間、男の背筋が凍った。 女の子の顔――瞳があるべきそこには、ただ黒々とした闇がぽっかりと穴を開けている。それだけではない。女の子の形をしたソレは、瞳が無いにもかかわらず、明らかに『自分を視ている』。 「ひっ……、ば、ばけ……」 言葉にならない声を上げ、男が数歩後ずさる。明らかに怯えの色を見せた男に対し、女の子の形をした何かは眼窩に闇をたたえたまま、軽く首をかしげた。 「……ばけものって、いった?」 返答の代わりに、男が手にした傘を投げつける。彼に出来る抵抗は、そこまでだった。 「だいきらい。しんじゃえ」 言葉が刃と化し、男の全身を瞬時に切り刻む。断末魔の絶叫すら上げる間もなく、男は血飛沫の中で絶命した。 ●北の街へ 「街を徘徊し、人を殺害するノーフェイスが現れました。このまま放置すれば、数日後に男性が一人、命を落とすでしょう」 アーク本部のブリーフィングルーム。そこに集ったリベリスタたちに向けて、『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は開口一番にそう言った。手慣れた様子で端末を操作し、必要な情報を提示していく。 「ノーフェイスの元になったのは5歳前後の少女です。両親は彼女によって既に殺害。その後、街を歩いて手頃な人間に声をかけては、殺して回っているようです」 何のために? というリベリスタの問いに、和泉は努めて冷静に言葉を返す。 「――自分を愛してくれる者を……正確には『愛してくれる親』を探すためです」 アークが調べたところによると、少女は両親に虐待を受けていたらしい。そしてエリューションに革醒し、自分を虐待した両親を殺して自由を得た。しかし、ノーフェイスと化しても少女の孤独は癒されることはなく――人の愛情を求めるあまりに、街を彷徨いだしたというのだ。 「しかし、少女の姿はもう人からは外れてしまっています。彼女が人に受け入れられることはありません。拒絶された相手に対し、少女がどういう行動に出るかは語るまでもないでしょう」 愛を与えてくれない者は全て敵。つまりは、そういうことか。 「これまでの被害を防げなかったことは遺憾ですが……これから起こる事件については、まだ時間の猶予があります。それまでにノーフェイスを殲滅できれば、これ以上の犠牲は防ぐことができるでしょう」 どこに向かえば良い、という声に、和泉は北にある小さな街の名を告げる。ノーフェイスは、今ならその郊外に位置する廃屋に潜んでいるとのことだ。 「少女のノーフェイスは『言葉』を自在に操り、攻撃を行います。愛情を求めて対象の心を乱したり、泣き声で動きを封じる能力もあるようです。さらに、戦闘になれば2体のエリューションビーストが現れ、攻撃を仕掛けてくるでしょう」 元になったのは猫、フェーズは1。それほど強力ではないが、一応は頭に入れておく必要があるだろう。 「以上です。皆様には至急の対処を要請します」 和泉はそう言うと、手元のファイルを閉じた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:宮橋輝 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年12月14日(水)21:50 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●其は偽りと誰もが知る 陽が陰り始めた空の下、その廃墟は静寂の中でひっそりと建っていた。元は小奇麗な一軒家だったのだろうが、今は見る影もない。遠目からでも、庭が荒れ果てているのがわかる。窓ガラスは所々割れており、屋根や壁はボロボロに傷んでいた。 「求めれば求めるほど、欲しいものは手に入らない。不憫ですね」 廃墟の少し手前に停められた一台の軽トラック。その陰に立ち、『畝の後ろを歩くもの』セルマ・グリーン(BNE002556)が呟く。あの廃墟には今、ノーフェイスと化した一人の少女が棲んでいる。自分を虐待した親を自らの手で殺害してなお、家族の愛を求める少女が。 「ずっと奪われてきたんだろうよ。当たり前の事だ、家族に愛されたいなんてよ……」 セルマに答える『復讐者』雪白 凍夜(BNE000889)の声は苦い。任務を遂行するにあたり、“家族ごっこ”で少女の信頼を得ることを提案したのは彼だった。 「感傷だって笑うか? 良いぜ、笑ってくれよ」 自嘲を込めた彼の言葉。それを笑える者は、この場にいない。 しばしの沈黙の後、『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)が、静かに口を開いた。 「余分な感傷かもしれませんが……」 その感傷が、あの孤独な少女に一時でもぬくもりを感じさせる事が出来るのなら――。 アラストールの言葉を受けて、『消えない火』鳳 朱子(BNE000136)は思う。 (何かが違えば、私とこの子の立場は逆だったかもしれない) 少女を助けることは出来ない。きっと幸せな結末なんてない。 だから――せめて一日、嘘を吐くのを許して欲しい。少女をこれ以上、悪に染まらせないために。 それは、言葉は違えどこの場の全員が共有する想い。 その願いが自分たちのエゴに過ぎないことも、皆知っていた。 一方、廃墟のすぐ傍には別働隊の四人が控えていた。 「儚くも一時の夢を見せてあげるのが良い事なのか、夢を見せた挙句、奈落の底に突き落とすのが良い事なのか……私には分からないわ」 『鋼脚のマスケティア』ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)が、声を潜めて独りごちる。せめて、少女が幸せな眠りについている間に全てが終る事を願うしかない。そのためには、悪役でも何でも演じてみせる。 「ありもしないものを求めて人前にまろびでるより、隠れてフェーズ上昇を待てば良かったのに」 バッカだなぁ、と軽い口調で言い捨てる『K2』小雪・綺沙羅(BNE003284)に、山川 夏海(BNE002852)が思わず彼女の顔を見た。幼くも端麗な容姿の内側で何を考えているのか、夏海には容易に読み取る事が出来ない。 (一撃で仕留められなきゃ残酷なだけ。反吐がでるの) “家族ごっこ”を茶番と評した綺沙羅の心の闇は、どこまでも深い。 翳った空から、一つ、また一つと雪が舞い降り始める。それを見上げた『下策士』門真 螢衣(BNE001036)は、雪降る街を彷徨う少女の姿をそこに重ねた。少女に同情はする。だが、このまま放置すれば、彼女のために親を奪われる子供を増やしてしまうだろう。 「――行きましょう」 凛とした声が、同行する三人の耳に届いた。 ●失いかけたその名を 廃墟の扉が開け放たれ、玄関の淀んだ空気に冷たい風が混ざる。薄暗い廊下を迷わず進んだ四人は、辿り着いた居間で床に蹲る少女を難なく発見した。 懐中電灯の光に照らされ、少女が黒い穴と化した眼窩をこちらに向ける。ミュゼーヌが、努めて冷酷に口を開いた。 「ご機嫌よう……おねんねの時間よ」 「見つけたよ、化け物。キサ達が殺してあげる♪」 無骨な暗視ゴーグルの下から、綺沙羅が陽気とすら思える口調で少女を嘲る。その言葉と敵意に反応したか、少女は弾かれるように立ち上がった。同時に、居間の奥から二匹の猫――エリューションビーストも姿を表す。 「……ばけものって、いった」 憎悪の視線が綺沙羅を捉え、拒絶の言葉が毒塗りの刃と化して彼女の全身を襲う。舌打ちする綺沙羅の傍らで、夏海が両手に装着したフィンガーバレットを構えた。 「……排除する。ただそれだけ」 彼女は誇りを胸に運命を引き寄せ、自らを強化する。ミュゼーヌがマスケット銃を模した特注の中折れ式リボルバーを携え、前に出ると同時にエリューションビーストの一体を打ち据えた。 螢衣が傷ついた綺沙羅に駆け寄り、癒しの符で傷を塞ぐ。印を結び、防御結界を展開する綺沙羅は、不快極まりないといった表情で少女を見ていた。 ぼろぼろに擦り切れた、いかにも寒そうな薄着。乱れた髪に、痩せて血色の悪い肌。おそらく、満足に食事も摂っていないに違いない。 (ああ、うざっ。昔のキサ見てるみたいじゃん……) 心中で吐き捨て、彼女はエリューションビーストへと視線を移す。本来の役目は、雑魚をここで潰すことだ。 「わたしは大多数の人間にとって危険なモノを処理に来ました。あなた方を狩らせていただきます」 処刑宣告とともに、螢衣が少女のもとに一歩踏み出す。直後、そこまでだ、という声が響いた。 「――それは今、叶わぬと知ると善い」 剣を構えたアラストールが、少女に相対する者達を睨む。居間に乱入した四人は、素早く少女と襲撃者達の間へと割り込んでいった。 「やめなさい! こんな小さな子をよってたかって!」 少女を己の背に庇うようにして、セルマが襲撃者達を咎める。思いもよらぬ横槍に、さも不本意といった表情でミュゼーヌが口を開いた。 「何、貴方達。私達の邪魔をしないで頂けるかしら」 護る者と襲う者。相反する二派の衝突を演じながら、襲撃者達はガードの厚い少女を後回しに、猫のエリューションビーストに集中して狙いを定める。少女を護る四人は巧みに立ち位置を計算し、血腥い戦闘から少女を庇うようにして彼女の視界を塞いだ。 「あなたのことを助けに来たよ」 少女に駆け寄った朱子が、真っ直ぐな声で言う。瞳を持たないはずの目が、驚いたように開かれ、彼女に向けられた。 「今追い払うからよ、少しだけ待っててくれよ」 ぽんと頭を叩く凍夜を、少女はただ黙って見上げていた。 彼の言葉のとおり、戦いはそう長くは続かなかった。夏海が神速のスピードで猫の首を背後から掻き切った時、少女を護る四人は完全に襲撃者たちに狙いを定めており、これ以上の攻撃を許さなかった。エリューションビーストが二体とも倒れたことを確認して、螢衣が潮時ですか、と呟く。 「くっ、想定外ね……撤退よ……!」 「今日はこれまでにしたげる♪」 ミュゼーヌの悔しげな声と、まだ余裕を残したような綺沙羅の声。四人の襲撃者達が逃げ去る足音が、その後に続いた。 「もう大丈夫、怖い人たちは追い払いましたよ」 少女の傍らに膝をつき、セルマが優しく声をかける。猫ちゃんは残念ですが、と言葉を続けると、少女は無言のまま俯いた。 「怪我はありませんか?」 アラストールが、薄着の少女にマフラーを巻いてやる。自分を気遣う言葉に、少女は心底戸惑っている様子だった。どうしてこの人たちは自分を化け物と呼んだりしないのかと、そう顔に書いてある。 「名前を教えてくれる?」 朱子の問う声に、少女はしばらく無言だった。考えこむような仕草のあと、少女はようやく「……ゆきな」と口を開く。 「でもね……パパもママも、わたしのこと、『あんた』とか『おまえ』とか、よんでた」 名は、呼ぶ者がいて始めて意味を成す。あともう少し時が過ぎていたら、この少女は自分の名前すら忘れていたかもしれない。朱子は「ゆきなちゃん」と、少女の名を優しく呼んだ。 凍夜が立ち上がり、倒れた猫の死骸を抱き上げる。 「――友達だったんだろ、埋めてやろうぜ」 その言葉に、少女は小さく「うん」と答えた。 ●たとえ、一夜の夢であっても 猫の埋葬を済ませた後、四人はまず廃屋を片付けることにした。すっかり日が落ちて暗くなった居間にランプを置き、手分けして居間と寝室を片付ける。 中は、まったく酷い有様だった。壁や床の痛み具合からして、放置されていたのは一年や二年の歳月ではないだろう。どの部屋にも少女が家族と暮らしていた痕跡は見当たらなかったので、ここは少女が両親と暮らした家ではなく、放浪の末に辿り着いた住処であることが窺える。 四人が床のゴミを拾ったり、邪魔な物を外に運び出したりする様子を、少女はただじっと眺めていた。 「――この手と羽、気になる?」 朱子に声をかけられ、ちょうど彼女を見ていた少女がびくりと体を震わせる。 「ただの個性だよ、ゆきなちゃんと同じ」 続く言葉に、少女は機械化した朱子の両腕と、羽のような突起を生やした背中をもう一度見つめた。ややあって、うん、という小さな声が少女の唇から漏れる。 「お風呂、入りませんか」 居間に戻ってきたアラストールが、少女を風呂に誘う。家の外に、石とドラム缶で作られた簡易的な風呂が設置されており、白い湯気を立てていた。立ち尽くす少女の手をアラストールが取り、風呂に入れてやる。体の汚れを拭き、髪を洗い、二人一緒にドラム缶の湯船で温まった。 「……わたしといっしょに、いてくれる?」 湯に身を沈めて、少女がぽつりと問う。それに、アラストールは大きく頷いた。 「ええ、ずっと一緒に」 彼女の望む形は、決して叶わないだろうけど――でも。 風呂上りには、凍夜が少女の髪を櫛で梳かし、リボンを結んでやった。 「ほら綺麗になった。皆に見せてやりな」 少し恥ずかしそうに、少女が晴れ姿を披露する。皆に褒められて、彼女も満更ではないようだ。笑うことに慣れていないのか、口元がわずかに笑みの形に歪む。 「さあ、ご飯にしましょう」 セルマが、床に広げたレジャーシートの上に料理を並べながら皆を呼んだ。パンにハム、サラダ……全て自家製、無農薬有機栽培による自慢の品々だ。予め彼女が用意し、軽トラックに積んで持参したものである。寸胴鍋いっぱいのシチューが、カセットコンロの上でコトコトと温められていた。 「沢山作りましたから、たんと食べてくださいね?」 並べられたご馳走を見て、少女が目を丸くする。一体いつから、この少女はまともに食べていないのだろう。どれから食べようか迷いながら、少女はパンやシチューを小さな体に収めていった。 食事が済んだら、四人はままごとやトランプで少女と遊んだ。相変わらず少女は言葉少なではあったが、纏う雰囲気は幾分か穏やかなものになっている。自分の娘に対するように少女を抱き上げるセルマに、嬉しそうな表情を見せることもあった。徐々に警戒を解きつつあるのだろう。 その証拠に、少女はアラストールに自分の宝物を手渡した。きらきらと光る、小さな石。少女が見つけて、ずっと大切にしていたものだという。丁重に礼を述べるアラストールに、少女は大きく頷いた。 そして――夜は更けて、子供の寝る時間がやってきた。 寝床を整えてやった凍夜が、朱子に伴われて寝室に来た少女の頭を、すれ違いざまに撫でる。 「おやすみ。また明日な」 こくりと頷いて、少女は寝床に潜り込んだ。温かい寝床があって、自分のそばに優しい人がいる――こういう状況には、まったく慣れていないのだろう。どこか落ち着かない様子の少女を両腕で抱きしめ、朱子が語りかける。 「大丈夫だよ。もう怖い人はいないから。明日も明後日も、ずっと私たちが一緒にいるよ」 ゆきなちゃんの事、朝までずっと抱きしめててあげるから――安心して、眠っていいんだよ。 その声に頷き、少女は朱子のぬくもりの中で眠りに落ちた。 ●家族の在り方を想う 夕方から降り出した雪は、一向に止む気配がなかった。 肩に積もる雪を払うこともなく、ミュゼーヌはただ静かに廃墟を見つめていた。万が一の時には、すぐにでも突入しなくてはならない。そのために、四人は寒空の下で待機を続けているのだ。 「親、かぁ……本当の親はともかく、ちゃんと育ててくれたお父さんがいただけ私の方がマシだったのかな……」 明かりのついた窓を眺めて、夏海が呟く。彼女は実の両親の顔はもちろん、自分の本当の名前や、正確な誕生日すら知らない。考えるまいと思っても、どうしても少女の境遇と自らのそれを重ねてしまう。 「って、ダメだね、こんなこと考えてちゃしくじっちゃう」 夏海の言葉を聞き、螢衣も少女のことを思う。同情はしても迷いはしない――彼女の中では、既に結論は出ていた。そして、そういう気持ちに慣れつつある自分こそ、一歩ずつノーフェイスに近づいているのではないか。決して認めたくはないことだが。 室内から聞こえる楽しげな声。“家族ごっこ”が順調に進んでいる証拠だ。それを聞き、綺沙羅が不快げに眉を動かす。嫌でも思い出すのは、自分の両親のこと。まともに世話もしなかった癖に、娘に金を生み出す才能があると知った途端、両親は見事に掌を返したのだ。 (嘘吐きは嫌い。だいっきらい) 憎しみを込めた罵りは、一体誰に向けられたものだったか――。 どれだけ時間が過ぎただろうか。 やがて、待機する四人の『幻想纏い』が合流の合図を告げる。 終りの時は、すぐそこまで近付いていた。 ●そして、眠りの中で 仲間の手引きで室内に入った四人は、寝室で眠る少女の姿を見た。安心しきった表情で、よく眠っているようだ。顔を見合わせ、少女の傍らにいる朱子を除いた七人のリベリスタ達が集中を開始する。 一撃で仕留められなければ、全ては水泡に帰す。殺気を悟られぬように、しかし指先が鈍らぬように。ミュゼーヌの、そして夏海の銃口が、少女へと向けられる。 (今のあの子は別物。似て非なるもの) 惑って狙いを外さないよう、夏海はそう自分に言い聞かせる。一分、二分、三分――実際には五分半ほどでしかない時間が、今は永遠とも感じられた。 そして、極限まで高められた七人の力が、ほぼ同時に少女を撃ち貫く。小さな体が大きくはねて、細い腕が何かを求めるように宙を舞った。 (ごめんね、痛いよね、辛いよね。せめて私は最後まで離さないでいてあげる――手を繋いでてあげるから) 朱子の祈りは、果たして少女に届いたのかどうか。彼女が繋いだ手は、そのまま力を失った。命尽きた少女を、もう一度朱子が両腕で抱きしめる。 望み通り、その死顔は安らかだった。 「救えなくて、ごめんな」 言葉とともに、凍夜は少女の名を決して忘れまいと脳裏に刻む。セルマもまた、少女に優しく語りかけた。 「おやすみなさい……次は、優しい親の下に生まれていらっしゃい」 アラストールが、掌の中に小さな石を握り締める。それを、彼女が居た証として持ち帰るつもりだった。ずっと一緒だと、そう約束したのだから。 一方、綺沙羅はその様子を冷ややかに見つめていた。施す側は、施される側の気持ちなんて分からないと、そう思う。 アーク本部への連絡を終えた螢衣が、皆に撤収を促した。帰り際、夏海は一瞬だけ足を止めて振り返り、少女が眠る廃墟を見る。 雪は、まだ降り続けていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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