● 尽きることない霊泉が、巫女姫の永久の眠りに護るはずだった。 長い歳月の中、玄室いっぱいに満たされたその量が徐々に減り、巫女姫の姿が水の中から姿を現す。 目が醒めると、回りは屍だらけだった。 屍は、無言で起き上がり私に向かって手を伸ばす。 祓っても、祓っても、死人は私目指してやってくる。 助けて。私は穢れてはいけないの。 ● 「E・アンデッドとは、エリューション化した死体をさす」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、リベリスタの基礎知識を口にする。 「今回のアンデッド、識別名「柊姫」はE・アンデッドだけど、E・アンデッドが大嫌い。自分の周りに発生しているアンデッドを片っ端から攻撃している」 それは、また。どういった状況のなせる技でしょう。 「年代は古い。古墳時代と類推される。一緒にたくさんの人が副葬品として埋められているから、埴輪発生以前。おそらく巫女の類。穢れを祓い清めていた存在がアンデッドとして復活するなんて、運命は時に皮肉なことをする」 高貴な人が死んだとき、あの世でもお世話するように一緒に仕えていた者達も埋められた。 埴輪は生きている人間の代わりだ。 「埋葬時の処置か保存状態がよかったのか、彼女の肉体は恐ろしいほど劣化を免れている。まだ自分が死んだと認識していない。寝て起きただけだと思ってる。じきに自分が玄室の中にいるってことに気がつくだろうけどね」 形は鍵穴のような前方後円墳。 「先行隊が、入り口を見つけた。今掘り返してる。みんなが行く頃には突入可能。中には墓荒らしを防ぐための兵士とか巫女とかいっぱい。力は弱いけどね。わっさわっさといる。物量。それをちぎっては投げちぎっては投げした後、柊姫がいる玄室へ」 モニターに表示された古墳の模式図にこう入って、こう。と線をひくイヴ。 半分くらいはまっすぐだが、そこから先はとんでもない急勾配。 駆け上がったら、アキレス腱切りそうだ。 「ここから先は、いろいろトラップもあるから、気をつけてね」 それは、ダンジョン的あれですか。壁の中とかいやですよ!? 「まあ、多少の心身の異常は覚悟の上……」 目をそらすな、こっちを見ろ、『リンク・カレイド』ぉ!? 「『柊姫』は、ホーリーメイガスとマグメイガス両方の術を使うね。自分の回りにアンデッドがいなくなるまで戦闘を続ける。動くものはみんな撃つから、みんなも巻き添え」 モニターに明朝体で「可及的速やかに」と表示される。 「『柊姫』を筆頭に古墳内のE・アンデッド全ての討伐。本人、まだ死んでることに気がついてないから。ついでに古代日本語だから、言葉通じない」 訳も分からず短すぎる第二の生が終わることになるだろう。とイヴ。 「なにも知らない方が幸せかもって考えもあるだろうけど……。その辺は皆に任せる」 生前、誰よりも清らかで穢れを退けてきた彼女に、あなた自体が世界の穢れだと告げなくてはならない。 「つらくなると思うけど――」 イヴは無表情。 言葉にしない思いは、リベリスタが受け止めた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2011年12月15日(木)22:56 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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● 十二月の割りに暖かい。 山の斜面をかきわけ、どうみても自然石を動かすと、そこに石垣があった。 別働班が注意深く入り口をふさぐ地返しの石を取り除くのを、リベリスタは待っている。 「遺跡や墓にゾンビや怪物がいるのはお約束だが、実際に入る事になるとはな……」 『侠気の盾』祭 義弘(BNE000763)は、 安全靴の紐を締めなおした。 「数も多いし、罠もありそうだ。気を引き締めていくぞ」 建国数百年のアメリカ人にとっては、東洋の神秘だ。 「……でも古墳が立てられると言うことはエライ人だったのかお? ひょっとしてここってみる人がみると歴史的に価値のある物ばっかりだったりするのかお? ……あんまり戦闘で傷つけないように気をつけるお」 『おっ♪おっ♪お~♪』ガッツリ・モウケール(BNE003224)は、遠くを見通し、見透す目で古墳をじっくりと観察する。 (トラップとかの場所は外からの方が分かりやすい気がするお) そして、そのイメージを克明にイメージし続ける。『フロントオペレイター』マリス・S・キュアローブ(BNE003129) によって、仲間全体に行き渡らせるためだ。 「目が覚めたら周りがゾンビだらけってかなりのホラーだよねー」 神代 凪(BNE001401)は、状況を想像してみた。 「知ってる者が居なくなった未来で一人復活とか悲しいのじゃ」 『白面黒毛』神喰 しぐれ(BNE001394)は表情を曇らせる。 「悲しいですね。穢れずに清く綺麗なまま眠っていたのに」 マリスも応じて、頷く。 「自分の事まで気が回らなくても当然かも……」 凪は、恐慌状態の柊姫に思いをはせる。 「よし! わらわがお友達になるのじゃー!」 しぐれは、オーッと、こぶしを空につきあげた。 が、へにょっとすぐにおろした。 「でも倒さないといけないのじゃー……」 悪気はなくとも、柊姫はE・アンデッドだ。 世界のために滅せられなくてはならない。 「けど、辛い事を言ってやったり、してやったりするのも友達なのじゃー! 安らかに眠らせてあげたいのじゃ!」 しぐれの「友達」、凪も、頷いた。 「悪い人じゃないみたいだし、きちんと送ってあげたいね」 ● 別働班が対比し、リベリスタは入り口から踊りこむ。 『ナイトビジョン』秋月・瞳(BNE001876)が、全員の背に小さな羽根を形成した。 『ソリッドガール』アンナ・クロストン(BNE001816) の全身から溢れる光がリベリスタの背後から差し込む。 闖入者に反応した衛視「ヨモツイクサ」と侍女「ヨモツシコメ」が大挙として襲いかかってくる。 青白い、赤い血の代わりに水が流れているような、やけにみずみずしい肌をした死人共が青銅の剣や指の先につけた円錐形の付け爪を振りかざして、リベリスタに向けて雪崩のように押し寄せてくる。 眼球がふやけて、黒目の部分も白濁している。 先頭に立った義弘は、自分の体を盾にして、古墳の中に体をねじ込ませる。 目の前の死人に金属の盾をつきつけ、無骨な棍棒で打ち据える。 ユーフォリア・エアリテーゼ(BNE002672)は、自らの翼を広げて敷石を蹴った。 死人の波に複数のユーフォリアが襲いかかる。 凪も魔力を温存するため、拳を振るう。 倒れた死人を踏み越えて、リベリスタが通路に入る。 「ここはもう、バァーってやるしかないのじゃ、バァーって!」 しぐれが叫んで、符を撒く。 降り注ぐ、氷の雨。 ひんやりとした通路が、にわかに氷の針の独壇場と化す。 きらきらと氷の粒が、しぐれの懐中電灯の光に照らし出され、束の間、辺りが白く輝く。 通路の中ほどまで肌の上を滴る霊泉を凍てつかせた死人達が、ばたばたと倒れていった。 「きっと、彼らもなりたくてアンデットになったわけじゃないのじゃ! ゆっくり眠らせてやるのが、今を生きるわらわたちの役目!」 その死人を踏み越え、新たな死人が押し寄せてくる。 リベリスタに足を止める暇はない。 「ヨモツイクサ」の体は、異常にもろい。 しかし、それは「攻撃力がない」とイコールではない。 肉を断ち割り、骨を叩き折ることを目的とした剣が、義弘の体を壁に叩きつける。 わずかに宙に浮くリベリスタの足に、何人もの『ヨモツシコメ』が群がり、その手足を爪で引き裂き、牙をつきたてた。 しぐれの氷雨の後を追いかけて、アンナの放つ邪気払いの光も放たれる。 雨がっぱにゴーグルを身に着けたガッツリとマリスが後に続く。 ガッツリが先を見通し、それをマリスが前を行くリベリスタに視覚情報として送る。 わずか30m。 しかし、死人で埋め尽くされたそれを進むのは容易ではなかった。 尽きることない死人の山を文字通り踏み越え、玄室まで続く回廊を抜け、リベリスタは水の滑り落ちる坂道に到達する。 ● 急がなければならなかった。 出血を止めるので手一杯。 身に刻まれた傷もそのままリベリスタは、坂に挑んでいく。 「下り坂だと思ってたお……」 ガッツリはぼそりと呟いた。 用意したワイヤーは必要なさそうだ。 「トラップ見つかりませんかねぇ……」 マリスは、到達点が見えない急な上り坂を見上げる。 「なんか見えるといいんだぉ~……」 ガッツリが目を凝らす。 壁の石組みには隙間はなく、見たこともない様式の壁画が刻まれている。 透視しても、毒の壺や隠し弓や吊り天井があるようにも見えない。 「迷っている時間が惜しい。発動させて、癒しながら進むとしよう」 一行は、翼の加護のおかげで、急な流れに足をとられることも、ヨモツイクサの肉弾攻撃におびえることもなく、順調に坂を上がっていく。 ユーフォリアがチャクラムを投げ、着実にヨモツイクサをほふっていった。 もしも、チームの中にマグメイガスがいたら、ひょっとしたらもっと早く気がついたかもしれない。 壁に展開された壁画の途中に銃眼のようにちりばめられた模様の様式が、とある術式を起動させる文様と似通っていることを。 「おい、その辺、なんか危ない気が――」 ただならぬ気配を感じ取った義弘が声を上げた刹那。 カトリ・エルヴァスティ(BNE002962)を四色の光が穿つ。 当たった所がどす黒く腫れ上がり、毛穴からにじむ血が止まらない。指先まで痺れた状態では、オートマチックの引き金を引けそうにもなかった。 義弘の声に振り返っていなければ、急所に当たっていただろう。 いまだ神秘の器として未熟なカトリが一撃で落ちるほどの威力が逢った。 アンナは急ぎ凶事祓いの光を放つ。 瞳が手早く体の傷の治療を施した。 「――んな気合とか入れなくてもよくね?」 小さく呟いた言葉に、歴戦のリベリスタは苦笑する。 気合を入れなくては、死ぬのだ。 彼女も体で学ぶことになるだろう。 ● 玄室の扉を前に、瞳は一同を集めると、改めて細かな傷を癒した。 ガッツリは、透視した内容を再びマリスに贈り、マリスが皆にその映像を発信した。 中から、少女の叫び声が聞こえる。 ぼんやりと照らし出された石の扉を、リベリスタ全員で押し開けた。 広い空間。 中央には、ピラミッド上の祭壇。 その上に、石の棺があり、そこから上半身を起こした少女が溢れ返る『ヨモツシコメ』に向かって、呪文を放つ。 まだあどけない、幼げな少女。 しぐれや凪より幼く見える。 ヨモツシコメと同じ色、同じ質感の頬。 死んでいる。 E・アンデッドだ。 倒すべき対象だ。 自分に守備強固の加護を再びかけると、義弘が「ヨモツシコメ」をひきつけるため派手に踊りこむ。 凪がヨモツイクサから挟撃されないように、最後尾で警戒している。 ガッツリはフルアクセルで、銃弾を周囲にばら撒いた。 『子煩悩パパ』高木・京一(BNE003179)は、鴉を飛ばし、「ヨモツシコメ」の怒りを掻き立てる。 (それは兎も角「柊姫」も大変な状況で目が覚めたようで、嘗ての臣下とも知らずに恐怖していまする。世の中には知らぬが仏、なんて言葉もありますが、さてさて) 柊姫に倒された分と、触れれば倒れる「ヨモツシコメ」のもろさも幸いし、リベリスタ達は程なく柊姫の棺にたどり着いた。 しかしながら、満身創痍だ。 柊姫の繰り出す雷の鎖が容赦なくリベリスタとヨモツシコメを襲った。 力尽きたカトリは、壁際に寄せられている。 正気でいるのか、狂気に墜ちたか、近づいて見なければ分からない。 ユーフォリアが前に進む瞳の背を護る。 (いい加減~、分身は疲れました~) そろそろ魔力も尽きる、足がもつれそうだ。 「元がリベリスタかフィクサードか解らんが――」 瞳が、そう呟いた。 (明日は我が身かも知らんがな。いや、すでに大概化け物か……) 瞳にとっては、望んだ革醒ではない。 それどころか、悪夢に等しい状況だ。 そして、柊姫にとっても。 「すでに、貴女は死んでいる。こうなっては、終わりだ」 瞳は、柊姫に一切の美辞麗句を省いて、ただ事実だけを伝えた。 棒としていた柊姫の目に、理性が浮かび上がってくるのを瞳は見て取った。 『――ナルホド。ココは玄室カ。デハ、コレラハ私ニ仕エテイタ者ノ成レノ果テカ。アシキユメニモ、ホドガアルナ』 意味のみが分かる。したがって、口調が瞳のものにどこか似かよる。 「現実だ」 瞳が革醒により顔を失ったのも、柊姫に仮初の命が宿ったのも、現実だ。 「その上で、アンデッドを倒すまで共闘することを提案する」 タワーオブバビロンによって、意味だけは明確に柊姫に伝わる。 『ソナタノイウコトガ正しイノハヨクワカル。私モ自分ノ内ヨリ沸きアガル穢れヲ感じルカラナ。オゾマシイモノダ』 柊姫は苦笑する。 『シカシ、オマエノ言ウトオリニシヨウトイウ気ガオコラナイ。オマエ、私ヲ蔑ンデイルダロウ? ソナタノ言葉ハ、私ノ心ニ響カナイ』 柊姫の笑みは深くなり、頬に涙が伝う。 冷たい涙だ。 熱を持たない死人の涙は冷たい。 『嘲リ笑ウコトヲ許ソウ。ヨカロウ、ソナタガゴトキノ手ニカカルハ、死セル後モ、私ニ仕エテクレタ者達ガ不憫。私ガ、狂乱ノ内ニデハナク、私ノ意志ニヨッテ引導ヲ渡ソウ』 柊姫は、長い詠唱に入った。 『皆、ナガラクヨウ仕エテクレタ。ヨミノ川ヲ渡ルガヨイ』 玄室の壁が光った。 リベリスタに相対していた「ヨモツシコメ」は灰と化し、霊泉に溶けて消えていった。 柊姫は、顔をあげる。 『サテ、理ノミヲ説ク巫、ソナタト共ニ来タ者達ニ伝エヨ。コレヨリ、私ハ手向カイヲスルゾ』 冷水に、柊姫の涙が混じった。 『ソウダナ、祖霊ノ祟リトデモイウガヨイ』 くくく。と柊姫は、喉を鳴らして笑う。 「秋月……。姫、なんて言ってるの?」 瞳の横で敵意がないことを示すため、マイナスイオンを振りまいて、ニコニコ笑っていた凪がただならぬ気配に瞳に通訳を求める。 瞳の短い伝言に、凪は持ってきた洋菓子を半分に割った。 目の前で食べてみせ、毒は入っていないと示し、柊姫に差し出した。 凪の横にしぐれが寄ってきて、こちらはそっと和菓子を差し出す。 敵意はないのだと。 出来うる限り安らかに送りたいのだと。 マリスが用意していた神酒を捧げ、辺りに振りまいた。 (気休めかもしれません、どう受け取られるかわかりません、でもお神酒使って祓い清めます) 『ナルホド。介錯シタイトイウコトダナ』 二人の意を汲んで、柊姫はわずかに笑んで、涙をぬぐい、立ち上がる。 『デハ、精々腕ヲ振ルエ。ソノ武ヲ示シ、私ノ死出ノ誉レトセヨ』 ● (――不幸だとは思う。悲しいとも思うが、だからこそきっちりと仕留めなければ) 義弘は肉薄し、柊姫の細く薄い体を激しく剣で打ち据えた。 ユーフォリアが、天井を蹴って柊姫に全力で切りかかる。 ガッツリも、スローイングダガーを出来うる限り投げつけた。 柊姫は、それら全てを甘んじて受けた。 血は流れない。 清らかな霊泉を体から溢れさせながら、柊姫は今一度棺の中に倒れこむ。 次の瞬間には霧散して、柊姫はもうどこにもいなくなった。 「お友達になりたかったのじゃ。その後倒さなくてはいけないが、お友達になりたかったのじゃ」 「今度はちゃんと眠れるといいな。ね?」 泣き出すしぐれを、棺に向かって手を合わせ終えた凪がぎゅっと抱きしめた。 よしよしと背中をぽんぽん叩く。 しぐれは柊姫を攻撃することは出来なかった。 せめて、仲間を護るため、柊姫が仲間を傷つけたりできないようにと結界を張った。 凪も手は出さなかった。 アンナは、足元をほんのわずかひたす霊泉を採取した。 ここを出たら、研究班に持ち込むのだ。 「アンナさん……」 「……最初っから終わっていた話、とは言われるかもしれないけどね。意地でも何かに繋げてやる。私は往生際が悪いんだ」 古墳は再封印され、その存在は秘匿される。 願わくば、二度とその眠りを妨げるものが現れぬことを。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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